黒魔術師りしゃこの大冒険 これは魔法の国・ハロモニアにまつわる、ある一人の少女の物語― とてものどかな街・ベリーフィールズの片隅で、一人の少女が魔法の練習をしている 「うーん…ムムム…、『ファイア!!』」 ボッ!! 「…やった!!ついにせいこうしたもん!!きっとミヤビもびっくりするもん!!」 魔法の練習に成功して大はしゃぎの少女―彼女の名前はりしゃこ… 彼女には夢がある… 『小さな頃に別れたお母さんに会うこと』 でも、生まれて間もない頃に教会の前に捨てられてたりしゃこには母親の記憶が全くない― たった一つの手掛かりは、彼女が身につけていた珍しい色をしたペンダント― きっと会える日を信じて…今日も魔法の練習に励んでいる そんなりしゃこだったが、母親を捜す唯一の希望― それは 『女王様に願い事を叶えてもらう』 ここハロモニアでは10年に一度、『天下一魔導大会』が開かれ、優勝者にはご褒美があるという― と、一年前、同じ孤児院のミヤビお姉ちゃんから教えてもらった それ以来、孤児院のシスター・サキの目を盗んでは魔法の練習に明け暮れていた そして一年後の今、子供ながらりしゃこはある決心をしていた― 『旅に出よう!』 ハロモニアの女王が開く『魔導大会』が一年後に迫っていたから、だ 確かに今のりしゃこは弱い…だけど気持ちが抑えられなかった。もし、今回のチャンスを逃すと、また10年待たなくてはいけない… それにもし、優勝出来なくても、女王様に会えれば、もしかしたらお母さんを捜してもらえるかもしれない… そう幼心に思っていた… この一年前から心の奥の扉にしまいこんでいた気持ちを打ち明ける日がきた― 丁度りしゃこが決心した日は奇しくもりしゃこの10才の誕生日だった― 朝一番に目を覚ます。もうお姉ちゃんのミヤビはどうやら朝御飯の支度で食堂へ行ったようだ… 食堂へ着くと、もう朝御飯の準備は終えていた 「おはよう、りしゃこ」と台所から声が聞こえてくる ミヤビだ。孤児院での、りしゃこにとってのお姉ちゃんだ。 「お誕生日、おめでとう」と屈託のない笑顔で声をかける だが、嬉しいはずの誕生日なのに、りしゃこの顔は曇っていた― 『お母さんを捜す旅にでる』ということは、ずっと物心ついたときから一緒に暮らしていたミヤビとの『別れ』でもある 何かを得るには、大事な何かを失うこと― 幼いりしゃこには重たすぎる現実― でも、10年間想い続けた気持ちは抑え切れない… とうとう、りしゃこはミヤビに旅に出ることを告げようとした だけど言葉が出てこない… どうしてもミヤビを目の前にすると、旅立つ決心が揺らいでしまう… この10年間のミヤビとの楽しかった思い出が次々にりしゃこの頭の中をぐるぐる回り出す… やがて何も言えなくなり… りしゃこは泣き出してしまった… 「…ち、ちょっとどうしたのりしゃこ!」 急にりしゃこが泣き出したのに驚くミヤビ 「シスター!りしゃこが大変!!」 今までのりしゃこに無かった出来事にシスター・サキに助けを求めるミヤビ。その間、泣きじゃくるりしゃこをぎゅっと抱きしめ「…大丈夫、大丈夫だから…」と一生懸命落ち着かせようとする… 「どうしたのミヤビ!?」 物静かなミヤビが大声を出すので、すっ飛んでくるシスター・サキ シスターの目の前には泣きじゃくるりしゃこと慰めるミヤビ… りしゃこの誕生日のケーキを焼く作業もそこそこに、二人に何があったのか、優しく問いかける― 泣いたままのりしゃこをあやして、なんとか話が出来るようになった 本当の母親に会いたいこと、女王様の魔導大会に優勝すれば願い事が叶えてもらえること、そのためにミヤビから魔法を教わっていたこと…ゆっくりとりしゃこは話し出す ミヤビは正直ショックだった…今までりしゃこは自分には何でも相談したり、話してくれたりしてたのに… でも、それ以上にショックだったのはりしゃこが母親を恋しがる気持ちの強さ… 『なんとかしてあげたい!でも…』 現実問題、ミヤビがりしゃこより魔法が上手いとはいえ、超一流の魔術師にはまだまだであった… そして、ずっと黙ってりしゃこの話を聞いていたシスターが口を開く― 沈黙を破ってシスターが言った言葉は意外なものだった― 「行ってきなさい」 りしゃこは自分の耳を疑った…てっきり止められるものだと思っていたのに、シスターからあっさりとOKが出てしまった… 思わず喜ぶりしゃこ 「…但し!」 シスターは言葉を続ける 喜びもつかの間、一瞬にしてりしゃこの表情が曇ってゆく… だが、さらに意外な言葉がシスターから告げられる 「保護者の同伴は必要ね」 一人で旅に出るつもりだったりしゃこにとって二重の喜び― 一方で、あまりの話のスピードにミヤビはついていけなかった― 「シスターありがとう…」 シスターの胸に抱きつき、また泣き出してしまうりしゃこ そんな二人と違って不安で一杯なミヤビ 「…ちょっと待ってシスター!旅に出るのはいいけど、この教会はどうするつもり!?」 とシスターに問いかける 「ふぉえ!?教会?いーのいーの大丈夫!」 … 唖然となるミヤビ。それ以前にシスターの様子が変だ…。いつものシスターはもっとおしとやかだったはずなのに、急にさばけた感じになった…。 またまたシスターからとんでもない発言が… 「だってウチ、シスターじゃないし」 !! 今までのりしゃことミヤビの人生が根底から覆されるショッキングな発言だった…。 「じゃあ、一体…シスターじゃない、て言うなら何なの!?」眩暈しながらもミヤビが尋ねる 今はシスターではないサキが事も無げに言う… 「ウチは元々ハロモニアの兵士なのよ」 !! 目を白黒させるりしゃことミヤビ…。 『シスターが…、シスターじゃないなんて!!』 ショックのあまりミヤビは気を失いそうになる… 構わずサキが続ける 「…実はね、りしゃこはハロモニアのある重要人物の娘で、ウチはその護衛役ってこと」 サキは話を続ける… 要約すると… ・りしゃこはハロモニアの重要人物の娘 ・サキはりしゃこのお目付け役兼護衛役 ・サキはハロモニアの兵士、厳密には考古学・歴史学者になる ・りしゃこが成長して時期がきたらハロモニアに連れて行く約束 など… 「ねーシスター?りしゃこのママはどんな人なんだもん!?」 今までの泣き顔がすっかり笑顔のりしゃこがわくわくしながらサキに質問する だがサキもりしゃこの母親が誰かは知らない、と言う。女王の指令でりしゃこを守ることのみを伝えられたのだ― がっかりするりしゃこだったが、思わぬ幸運とママに会える希望に胸がときめいていた― だが、ここで憮然としている者が一人… 「…待ってよ!何なの!?訳分かんない!!」 話に置いてきぼりのミヤビ 「じゃあ、私は…」 りしゃこが『ハロモニアの重要人物の娘』と聞き、同じ孤児院で育てられた自分は何物なのか…ミヤビは事情を知ってるであろうサキに質問する ミヤビからの質問に、目を閉じて、しばらくの間考えた後、サキが切り出す 「覚悟は出来てる?」 その一言にミヤビは動揺した… まるで、りしゃこ同様かそれ以上に、今までの自分が根底から覆されるかも知れないのだ… でも、知りたい… 意を決してミヤビはサキに向かって「知りたい…」と伝えた― ミヤビの決意の言葉を聞いたサキは少しためらった素振りをした後、静かに口を開いた― 「…驚かないでね。実はあなたは…」 口にしかけたところでまたサキが少しためらう 固唾を呑んでサキの言葉を待つミヤビ 「…あなたはりしゃこの実のお姉さんなの…」 サキ「リl|*´∀`l|<でも嘘なんだよ」 繁ノl#∂Д∂'ル プッ 州*‘ ー‘リ …このあと、ミヤビが炎の魔法でりしゃことサキを丸焼きにしたのは言うまでもない― お肉が焼ける香ばしい匂いが充満する食堂の中、ミヤビがサキに問い詰める― 「…ねぇ、ホントはどうなの!!」 『実はあなたは、私の実の妹』とボケようと思っていたサキだが、次こそは本当に火炙りの刑にされる!と感じ、素直に答えることにした― 「ミヤビの両親はエリート魔術師なの」 「…ホントに?…」 完全に疑ってかかるミヤビ 「悲しいケド、これって本当なのよね…」 どこかで聞いたようなセリフをのたまうサキ 「…ミヤビがお姉ちゃんじゃなくてさみしいもん」 りしゃこはちょっとがっかりする 自分の両親がエリート魔術師なのを聞いて思わず嬉しくなるミヤビ。りしゃこと違って平凡なのが気にくわないが… 取り敢えず旅立つ目的と決心は出来た あとは、あと一年後に迫った魔導大会に優勝してりしゃこの母親に会うこと― そのためには準備と計画が必要だ 今までノープランで挑む強者は掃いて捨てる程いたが、その多くは冒険の途中で命を落とす羽目となった… 「…ねぇ、シスター?」 「もうシスターじゃないよ!?」 「じゃあ何て呼べばいいもん!?」 「そうねー、『キャプテン』がいい☆カナ?」 すっかりキャラが180゜変わってしまったサキに呆れ果てるミヤビ… シスター・サキ改めキャプテン・サキがりしゃことミヤビに今後のことを告げる まず、三日間の内に旅の支度を済ませる ここ、ベリーフィールズはハロモニアの南東部の端にあるため、中央に位置する王都・ハロモニアキャッスルにたどり着くには『迷いの森』や『霊峰』やら『死の大地』といった難所をくぐり抜けていかねばならないから、万端の準備が必要だ。 そして、三日後― 思い出深いベリーフィールズの街を後にする時が来た 街の人々がわざわざ見送りに来てくれた 孤児院のりしゃことミヤビは街の人々にとってはちょっとしたアイドルだったからだ 三人にとっては長く住み慣れた街。りしゃことミヤビはどうしても溢れる涙が止まらない 街の人々の見送りを背に、馬車に乗った三人はようやく旅立つ 「それじゃ出発進行〜♪」 キャプテン・サキの掛け声高らかに街の門をくぐり抜けてハロモニアへ進み始めた それにしても、この女、ノリノリである… ようやく旅に出たりしゃこ一行。まずは道なりに草原を進んで隣の街・ベリーナイスまで向かう 隣町・ベリーナイスはベリーフィールズと違って様々な地域へ向かう際の交通拠点のため、非常に賑やかなところだ― これからの長旅には必要な…例えば、ベリーフィールズで準備出来なかったものを購入したり、酒場にある『ギルド』で仲間を募ったり出来るチャンスだ ただ、それでも隣町とはいえ、最短で5日はかかる― 旅に出ること自体初めてのりしゃことミヤビは期待と不安が入り交じっていた りしゃこ一行はあと一年に迫った魔導大会に間に合うため、旅路を急ぐ …素振りは無く、むしろ目的地に向かいながら、世界を見てまわったり、仲間を集めたり、といったことを同時進行させるつもりのようだ ベリーナイスへの道は比較的平坦であまり変わらない風景が続けていた ヒマすぎて仕方ないのか、はじめははしゃいでいたりしゃことミヤビもいつしかうとうと居眠りしだした… だが、急に馬のいななきと共に馬車が止まって二人は目を覚ます― 「…何!?」 すぐさま飛び起きるミヤビ 「…うーん…もうバナナは食べれないもーん…」 寝ぼけているりしゃこ りしゃこを放っておいてミヤビは馬車を動かしているサキの元に行った 「どうしたの!?」 「それがね…」 サキが前方を指差す 少女が一人、道のど真ん中で倒れている― 「どーしよっか?」 「大変だよ!助けないと…」 もっともらしいことを言うミヤビ 「でもねー、こういうシチュエーションの時ってさ、助けた人が『殺人鬼』って場合もあるじゃん?だからここはスルーしようかと」 「!!」 「どしたのミヤビ?」 「何か、あの子が動いたような気が…」 しばらく考えこむサキ なかなか助けにいかないのかが不思議で仕方ないミヤビ 「もう面倒くさいから、もーいいや。放っておこう」 サキの発言にミヤビ思わずのけぞる。ここ数日の変貌ぶりにはついていけてない様子だ そして、道のど真ん中で倒れている少女もサキの発言を聞いてか、突然苦しみ出す 「…ううう、もう動けないですよぅ…」 顔を見合せるサキとミヤビ 「…何か…助けなきゃいけないシチュエーションに、なっちゃったよね…?」 「…そうだよね…」 それでもまだ、あまりのタイミングの良さと不自然さにためらっているサキとミヤビ しばらくすると、先ほどより聞こえるような大きめの声で「…ううううう…もう!動けないですよぅぅ…」と催促するかのように助けを求める少女― うめき声をあげて助けを求める少女― サキとミヤビは― …無視することに決めた よくよく考えると倒れ方からうめき声まで全部怪しい…怪し過ぎる… 馬に鞭をくれて先へ進む馬車― 丁度、馬車が少女を通り過ぎようとした時、 「…も〜う〜動〜け〜な〜い〜助〜け〜て〜…」 とうめき声が一層大きくなった! 「!!」 ここまでくると『怪しい』ってレベルではない サキは黙って馬にもうひとつ鞭をくれて逃げる決意をした… 馬が歩調を早足から駆け足に変え始めた しばらくして後ろを振り返ると、倒れてた少女の姿は見えなくなっていた… ほっとするサキ しかし! 「ぎゃあ〜〜〜〜〜!!」 マンドラゴラかと思ってしまうような金切り声が聞こえてきた! すぐさま馬を止めて後ろを振り替える― 繁ノl#∂Д∂'ルつ 思い切り顔面を強ばらせているミヤビの姿が目に飛び込んできた― 強ばった表情のミヤビの傍には、どこかで見たような… それもごく最近、 いや、そんなもんじゃない… 今、さっき! 確か仏恥義理で放ったらかしにしたハズの…! ル*’-’リ<もぉ〜!置いていっちゃヤですよぉ〜ウフフ …あの少女がいた…!! サキは思わず卒倒してしまった… ミヤビはボー然としている… りしゃこは寝ぼけたまま… 時が止まってしまった― ここ数分間の間に起きた怪奇現象に固まりまくりのミヤビ だが、ふと我にかえっておそるおそる少女に向かって尋ねた 「…あなた一体、何者なの!?」 だが、少女はその質問に答えることはなかった― ルヽ´-`リ<…あぁ…もぉ…だめぇ……… バタン!! 少女がいきなり倒れてしまった もう何がなんだかわからないミヤビ それでも取り敢えずわかったのは、この少女、幽霊の類ではないらしい 心配なのだが慎重に少女に近寄るミヤビ ルヽ´-`リ<…おなかペコペコで…もぉだめですぅ…… 開いたアゴ…もとい、開いた口がふさがらないミヤビ 『おなかペコペコ』の言葉に過剰反応して急に目を覚ますりしゃこ と倒れたハズのサキ… …そういえば出発してからまともに食事をしてないことに気がつく一行 少女にも聞きたいことがてんこ盛りなので、馬車を停めて、見晴らしのいい場所で昼食をとることにした― 袋から食料を出してちょっとしたピクニック気分での昼食。ミヤビには新鮮だった (外で食べるご飯ってと〜ってもおいし〜い!) そんなほのぼのした空気を台無しにしたのが… 「ミヤビー、おかわりー」「りしゃこもおかわりするもん」 「とってもおいしいですぅウフフ。おかわりお願いしまーす!」 育ち盛り食べ盛り 底なしの胃袋の三人衆 またしてもミヤビの開いたアゴ…もとい開いた口がふさがらなかった… 昼食を終えて一服したあと、サキは謎の少女に― 『…いきがかり上、助けてあげたケド、あなた一体何者なの?』 と質問する前に 「モモでぇ〜す!ヨロシクお願いしま〜す(はぁと)」 …聞かれてもないのに一人でしゃべってしまう少女―モモ 「ハロモニアからあちこちを旅してたんですけどぉ、お金が無くなっちゃってぇ、仕方ないから馬車に乗らずに歩いて行こうと思ったんですけどぉ…」 「…行き倒れになったわけね…」 あまりに一人でしゃべっているのでイライラきたのか言葉を遮るサキ 「そぉ〜なんですよぅ!!ホントたいへんだったですぅウフフ」 嬉々としてしゃべり続けるモモ その様子を見てミヤビは(きっとウザがられてたんだろうな…)と気の毒に思った― モモと、モモにうっかり話しかけた人に… それからまた30分くらいは一人でしゃべりまくったモモ… 目を覚ましたりしゃこはまたうとうと居眠りを始めるミヤビもこっそり欠伸をする サキは呆れ果てる モモについてわかったことは… ・ハロモニアから来た旅人・お金が無い 結局、それくらいしか聞き出せなかった… また、困ったことに『一飯一宿の恩は働いて返す』と、りしゃこ一行について行く、と言いだした… 頑なに断ったキャプテン・サキだったが、『モモ憲法・第69条に一飯一宿の恩は働いて返せ』と言い張るモモに根負けして、仲間に加えることにした… キングボ〇ビー・モモの誕生である― モモを仲間に加えて?ベリーナイスへと進んでゆく一行 道中、トラブルらしいトラブルは無く(モモの仲間入り以外は)、予定より早くベリーナイスに到着した 道のりとしては、現在のベリーズ地域からキュート地域を抜けてハロモニアへと向かう予定だ すんなり行けば1ヶ月から2ヶ月でハロモニアに到着し、魔導大会の準備やりしゃこやミヤビの母親捜しの時間も十分出来る― ただ、次の目的地・キュート地域の最大都市・キューティアまでは難所が待ち構えている その前に、ここベリーズ地域最大都市・ベリーナイスで万端の準備をする必要がある 頼れる仲間の補充、アイテムや食料の補充、路銀稼ぎの仕事の請け合いなど…大事なことは沢山ある 特に扶養家族(モモ)が増えた今、キャプテン・サキはギルドでの仕事の請け合いを優先させるため、予定より長く、ベリーナイスに滞在することを決心した―