「えっ!?」 ナッキーの意外すぎる言葉にユリーナは唖然とした ユリーナの知るナッキーはか弱い可憐なメイドさんのイメージしかない そんなナッキーが闘う、と宣ったのだから驚かないワケがない 「ホントに・・・?」 冗談なのか本気なのか、その真意を確かめるべく、ユリーナは真剣な眼差しでナッキーに問いかける そんな真っ直ぐな視線から目を逸らすことなく、ナッキーは力強く 「本気よ!」 と、言い切ってみせた しかし、戦闘経験もないナッキーにあのハングリの相手が務まるワケが・・・ 心配そうなユリーナの心情を察知したナッキーは、いよいよ隠してきた姿を露にした 「アタシだってみんなと一緒に闘いたいから・・・一生懸命特訓したんだよ!」 そう言ってメイド服を脱ぎ捨てると、その下からは黒ずくめのタイトな衣服を身に纏った肢体が現れた 今までメイド服に隠れていて見ることはなかったが、長い四肢に程好くついた筋肉・・・ ナッキーの均整の取れた身体は戦士としての資質を持つものであるのは充分に感じ取れた 「・・・・・・」 意外なナッキーの“ナイスバディ”にユリーナが見とれていると、その熱い視線に気付いたのか、ナッキーは 「やだっ!?ジロジロ見ないでよ!ユリーのエッチ!変態!」 とその場にしゃがみ込んで恥ずかしがってしまった・・・ 「えっ?あっ・・・そういい・・・つもりじゃ・・・」 ナッキーにエッチと言われ、どぎまぎするユリーナ 「あの・・・その・・・」 モジモジして返答に困っていると、2人だけの空間をぶち壊すような罵声が飛んだ 「ちょっとなによ!?アタシがいないところでイチャイチャしちゃって!」 「「!!」」 声の主はかなりご立腹の様子である。2人がおそるおそる後ろを振り返ってみると、そこには腕組みして、仁王立ちしたチナリの姿が・・・ そして、2人と視線が合うと、途端に一喝した 「ユリー!」 「えっ!?」 「なにデレデレしちゃってるのよ!?もっとシャキッとしなさいよ!この女たらしっ!」 「ハ、ハイィッ!」 「ナッキー!」 「は・・・はぁ・・・」 「アタシの見てない隙にユリーに手を出してからに!この、泥棒猫!」 「きゃあっ!?」 「もう、全く・・・2人ともズルいじゃない!アタシを仲間ハズレにしてさ!?」 「「ご、ごめんなさい・・・」」 もの凄い剣幕でまくしたてるチナリの説教は迫力満点であった ひとしきり言いたい放題言うと、まだ体力が回復し切ってないのか、チナリはその場にへたり込んでしまう 「ハァ・・・ハァ・・・しんど・・・」 ようやく怒りが収まりつつある、と判断した2人はすかさずチナリの元へ駆け寄って謝り出す 「チー、ごめんね。ほったらかしにしちゃって・・・」 「ホントにごめんなさい・・・」 やはり“病み上がり”で怒鳴りつけたことで体力を消耗したのか、チナリはすっかり息を切らしていた そこへ、お詫びのつもりか、ナッキーが小瓶をおそるおそるチナリに差し出した 「これ、飲んで。疲れがぶっ飛ぶわ」 唐突に差し出しされた小瓶を訝しそうに見つめながら、チナリはナッキーに尋ねる 「何なの?これ?」 「・・・栄養満点、滋養強壮のお薬なの。さっきユリーにも飲ませたんだけど、すっごく効き目があるの!」 目を輝かせながら答えるナッキー。確かに、隣にいるユリーナがすっかりピンピンしているのをみると、そこそこ効き目はあるのだろう・・・ そう判断したチナリはナッキーから小瓶を受け取ると、中身を一気に喉へ流し込んだ すると、なんとも言えない摩訶不思議な味がチナリの口の中一杯に広がっていく 「うへぇ!?何よこれ?変な味〜!毒なんかじゃないの!?」 不味い薬を飲まされたとあって、チナリは再び不機嫌になりそうになる これは不味い、と思ったナッキーは薬の正体を明かしたのだった 「大丈夫よ!味は変かも知れないけど、その薬は霊験あらたかな『クマイ茸』のエキスを濃縮したスーパードリンクなのよ! どんな疲れにも一発で効くんだから!」 『クマイ茸』・・・皆さんは覚えているだろうか? ハロモニアの霊峰・クマイ岳にしか生えない、栄養満点・滋養強壮の効果抜群のキノコのことである かつてりしゃこ達は路銀目当てでこの霊峰キノコ狩りに繰り出した過去がある そして、その時の出来事が、ある“人物”にとっては、おぞましいまでのトラウマになっていることを、皆さんは覚えているだろうか― バタンッ!! チナリとナッキーの傍で、何かが倒れる音がした・・・ 心当たりのあるチナリは、その倒れたものの傍へあっという間に駆け寄った 「ユリー!しっかりして!ユリー!?」 そう、倒れたのはユリーナだった あの時、キノコまみれになった時のことが、すっかりトラウマになっていたのだ そしてユリーナはナッキーに飲まされた液体が、あの『クマイ茸』の濃縮エキスと知って、パニックになった挙げ句、失神したのだ・・・ 「きゃあっ!?」 そんな過去の事情を知らないナッキーは突然の不幸にただただ狼狽えるばかり 「ユリー!起きて!?しっかりして!」 チナリも懸命にユリーナに呼びかけるが、ぐったりしたまま動かない そんな様子を見かねたゴトー達も2人の元へ駆け寄ってくる 「おい?どうしたんだ?」 「あ!あの・・・実は、ユリーナが・・・」 チナリがそう話しかけようとした時、突如、ド派手な爆発音が起きた! 『ふぃ〜・・・やっとこのクソ寒ぃ棺桶から出れたぜ!』 爆発音は、ハングリによるものだった 既にゴトーやマイハが予見した通り、やはり、あの堅固な氷の壁を攻略してみせたのだ 『ケッ!よくもこんなモンでオレを閉じ込めてくれたな!』 悪態をつくと、ハングリは爆発の際にそこかしこに散らばった氷の破片を忌々しげに睨みつけ、その内の大きなものをマイハに向かって蹴りつけた 『さて・・・そろそろゲームを再開しようじゃねえか?死に損ないども・・・安心しな、オレがあの世へ送ってやるからよ!』 そう言うなり、ハングリはゴトー達を一網打尽にするつもりなのか、燃え盛る火球を錬成し始めた そのサイズは最初の時の比ではない。一回り、二回り、いや、二倍は大きいものだ もし、あんなものを撃ち込まれたらどうなることか?少なくとも逃げ遅れたらただでは済まないだろう 「不味い!」 ゴトーが叫んだ。そう、明らかに不味い。今、ここに失神して動けないユリーナがいるのだ もし、今、あれを撃ち込まれようものならユリーナはあえなく丸焦げの焼死体となることであろう それだけはなんとか避けねばならない。それは誰もが直感した だから皆がハングリが火球を撃つのを阻止すべく、一気に突撃をかけることを決意した しかし― 「うっ・・・!」 その中でまだ身体の負傷が痛むのか、チナリはその場にうずくまってしまう そんなチナリに、ナッキーが声をかける 「ごめんなさい、アタシのせいで・・・ユリーをお願いね!」 「ナッキー・・・」 「それじゃ・・・行ってくる!」 言葉少なに詫びると、ナッキーはあっという間にハングリに向かって飛び出していった (ユリーがああなっちゃったのは、アタシの責任だ・・・アレを、なんとかとめなきゃ!) 些細なミスからユリーナを再び気絶させてしまった自責の念からか、ナッキーは無我夢中で走り出した (よし・・・行くよ!『JUMP』!) 全身の神経を両の脚に集中させ、魔力を注ぎ込む 風の魔力を受けたナッキーの両脚はまるで羽根が生えたかのように軽やかになり、地面を飛ぶように駆けていく この走りこそが短時間の間に城と街外れのこの場所とを簡単に往き来出来た秘密なのだ 「アタシ、先行ってます!」 「あっ!」 ずっと前を走っていたハズのゴトー達をあっという間に追い抜かしてゆき、 遂にナッキーはハングリとの距離僅か10数mのところまで急接近した 『な・・・なんだてめえ!?』 火球の発射まであと少し、という瀬戸際での闖入者の乱入に、さすがのハングリもほんの一瞬だが動揺した その僅かに途切れた意識の隙間に、ナッキーは仕掛けた ハングリの気を逸らすべく不意に急接近から右横へと飛び退き、死角へと潜り込む そこでハングリは躊躇してしまった。闖入者は横へ飛び退いた。そして更に前方からは、遅れてゴトー達が接近してくる たった一人の闖入者から先に始末するべきか?それともゴトー達から始末するべきか・・・? その躊躇ったところへ、ナッキーが魔法を放つ! 「風の矢よ・・・敵を穿て!『ハーモニカ』!」 ナッキーは両手を前方へかざし、魔力を腕へと集中させる すると、ナッキーのイメージを具現化して広げた両手の間には、小さな風の矢がズラリと列を成した そして標的のハングリをしっかりとロック・オンしたところでナッキーは風の矢を、それこそ矢継ぎ早に発射した 「行っけぇーっ!」 シュババババババッ!! ナッキーが突き出した両手の間に並んだ風の矢が右から左へ、さながらナイアガラ花火のように音を立てて順序よく飛んでいく! 『うわっ!?』 面食らったのはハングリだ。いきなり無数の矢の集中砲火を浴びせかけられ、動きを止めてしまった そこへ次々と、風の矢がヒットしていく ドスドスドスドスドスッ!! 『ぎゃっ!?』 風の矢の勢いに押され、たまらずハングリは後ろに両手をついてしりもちをつく その直後、ハングリは思わず 『あっ!』 と声を洩らした せっかく両手を使って大きく錬成させた火球が、意識を途切れさせたことでみるみるうちに萎んでいき、消滅してしまったのだ 「よくやった!ナッキー!」 ナッキーの好プレーに、ゴトーが歓喜の声をあげる その声にナッキーは振り向いて控えめに頭を下げた後、更なる追撃をかけるべくしりもちをついたハングリに襲いかかる! 「大気の拳よ!敵を押し潰せ!『オランダパプリカ』!」 一足飛びで宙を舞ったナッキーは両手を上空へかざし、大気を両手に集中させる そうして出来上がった空気の塊を拳に変えて、ハングリめがけて振り下ろした! 「はああああーっ!」 “大気の拳”『オランダパプリカ』は風を纏ってハングリの頭上に落下していく その風圧たるや、ナッキーとハングリから10数m離れたところにいたゴトー達にもハッキリとわかるくらいであった 「いける!」 マァが叫ぶ このままいけばハングリは“大気の拳”によって押し潰されることだろう そうなればこの長い闘いにもようやく終止符が打たれる そして、“大気の拳”がいざハングリを押し潰す残りあと僅か、というところで辛うじてハングリは“大気の拳”を両の手で受け止めた 「あっ!惜しい!」 勝利まであと一歩、であっただけに思わずマイハも残念がる だが依然としてナッキーのチャンスであることには違いない ナッキーは上空に留まりながら、更にハングリに向かって“大気の拳”で押し潰しにかかる 「うーーーっ!」 必死に唸るナッキー。その力の籠めようは見ている側にも十分に伝わってくる程だった しかし、ハングリの様子がおかしい 今、まさに圧死せんかという瀬戸際だというのにその顔からは笑みがこぼれている 一体、どういうことなのか? 『惜しい・・・惜しいな!あと少しでオレを倒せたかもな・・・ だが、お前・・・お前には致命的な弱点がある!』 死の瀬戸際でのハングリの笑み・・・それはナッキーの弱点を見抜いたことであった 『正直お前のスピードと変な技には面食らったよ だが、それだけだ!』 未だハングリを押し潰さんと力むナッキーに向かってハングリはそう言った そしてハングリは、ついにナッキーの致命的な弱点を暴露した 『お前の技は軽い。こんなんじゃあオレは倒せない!』 そう言うや否や、ハングリは“大気の拳”を受け止めていた両手を勢いよく天に突き上げた すると“大気の拳”は軽々と上空に弾き飛ばされ、それに連れてナッキーも弾き飛ばされた 「きゃあああっ!」 「危ないっ!」 弾き飛ばされて上空から落ちてくるナッキーを、地面に激突する前にマァがキャッチする 「大丈夫か?」 ケガはないか、ゴトーが心配そうにナッキーに声をかける 「だ、大丈夫です!」 ナッキーは元気に答える。だが、ゴトーにはナッキーが恐怖心を押し隠して気丈に振る舞っているのがハッキリとわかった 目が、声が、身体が微かに震えている。動揺しているのだ 仕方のないことだ。自信を持って放った切り札が通用しなかったのだ それもいとも容易くはね除けられて― そんな精神状態のままでは闘えないかも知れない・・・ そう案じたゴトーがナッキーに戦線離脱を指示しようとしたその時、劣勢をはね除けたハングリが一気にゴトー達へ襲いかかった! 『お返しだよ・・・っと!』 そう言うや、ハングリは突如その場で構え、ゴトー達めがけて拳を振り抜いた 格好としてはちょうどボクシングのシャドー・・・といったところか そんな一見ふざけたような行動だったが、この時すでにハングリはゴトー達にダメージを与えていたのだ 「ぐっ・・・!」 「マァ!?」 マァがうめき声をあげたのに気付き、ゴトー達の視線がマァに集中した 見ると、腹部を押さえて苦痛に顔を歪めている 「気をつけろ・・・あれは“真空の拳”だ!」 激痛をこらえ、絞り出すような声でマァが全員に警告する 「えっ!?」 『おいおい・・・他所見すんじゃねえよ!』 マァに気をとられているゴトー達に、ハングリは容赦なく“真空の拳”を次々と撃ち込んでいく 「危ないっ!」 ガンガンガンガン!! 『チッ・・・!』 事前にマァが教えてくれていたおかげで、ハングリの第二波はマイハの氷壁で防ぐことは出来た しかし・・・ 『まだまだぁ!』 ゴトー達が反撃に打って出る前にまたもハングリが拳の雨を降らせる 「うわっ!?」 ガンガンガンガン!! 慌てて氷壁に隠れ、拳の雨を凌ぐゴトー達 確かにこのまま氷壁に身を隠せば拳の雨に当たることはない。だがその反面、ハングリに攻め込むことも出来ない とりあえずは好きなだけハングリに攻めさせておいて、疲れが来るのを待つか・・・ そう決断しようと思ったゴトー達だったが、ハングリはそれを許してはくれなかった ピシッ!! ピシッ!! なにやら嫌な音がする・・・ ガラスにヒビが入ったような音だ 「そんな・・・」 マイハの驚く声がした 見ると、今までゴトー達を護ってきていた氷壁に、ヒビ割れが生じてきたのだ 確かに無数の拳の雨を受け止めてきた氷壁だったが、かなりの厚みがあり、そう簡単に壊れるものではないハズ。なのに・・・ ゴトーが予想外の劣勢に頭を痛めていると、今度は傍から悲鳴が聞こえてきた 「ゴトーさん!アレ、見てくださいっ!」 ナッキーがやおら声を荒らげてゴトーの腕を引っ張り出す そのテンパった口調からただ事ではないと察知したゴトーはナッキーに言われるがまま指差す方を見た 「何よ・・・アレは・・・?」 ゴトーは絶句しそうになった ゴトーが見たもの、それはメラメラと燃え盛るハングリの両手であった ハングリはいつの間にか両手に炎を錬成していたのだ 拳の雨に熱した空気を籠めることで、氷壁の表面を脆くさせ、ヒビを入れた・・・これで氷壁にヒビが入った謎が解けた しかし、氷壁を壊すこと・・・それがハングリの狙いではない ハングリの真の狙い、それは拳の雨でゴトー達を完封した後、巨大な火球でトドメを刺す、ということなのだ それに気付いたゴトーは叫ぶ 「ヤバいっ!アイツは壁を壊して火球でトドメを刺すつもりだ!」 ゴトーの声に緊張が走る。ゴトー達にはハングリの攻め疲れを待つ持久戦という選択肢が無くなったのだ あるのは氷壁が壊れてしまう前にハングリに突撃をかける、ただそれのみ あの火球が発射されればゴトー達が窮地に陥るのは確実・・・ ここはリスクを冒してでも火球の発射を止めなければならない ただ、どうやって・・・? 皆の視線がゴトーに集まる。が、ゴトー自身、この窮地をどう打開するか決めかねていた (どうする・・・?) ゴトーから言葉が消えた。重苦しい沈黙が一気に皆にのしかかってくる (迂闊に攻め込めば拳の雨の餌食・・・かといって、今動かなければ丸焦げにされる・・・ くそっ!どうすればいいっ!?) リーダーとして、苦渋の決断を迫られているゴトーに、マァが声をかけた 「策は・・・あります!」 「えっ?ホントに!?」 「ハイ!」 マァの言葉に驚くゴトーの顔を見て、マァは力強く頷いてみせた 「作戦は至ってシンプル。ウチがこの氷壁をハングリにぶつけます すると必ずハングリに隙ができるから、そこへ皆で一斉に突撃をかけるんです!」 「なるほど・・・ね」 マァのシンプルすぎる作戦にゴトーは理解を示す が、気になる点もある 「でも、マァが氷壁をぶつける前にやられてしまう・・・ってこともあり得るだろ?」 確かにその通りである。氷壁をぶつける動作中にマァが拳の雨の集中砲火に遭うリスクもある もし、そうなった時点でこの作戦は水泡に帰してしまう だが、ゴトーの心配をよそにマァは自信たっぷりに言い切った 「その心配はありません。拳の雨を喰らわずに、氷壁をぶつけるやり方が・・・」 「じゃあ、どうやって?」 時は一刻を争う事態。ゴトーはマァの策の説明を待った だが、事態はそれを待ってはくれなかった ピシッ!! ピシピシピシッ!! 拳の雨の矢面にあった氷壁の亀裂が、みるみるうちに拡大いった もう氷壁が耐久力の限界を迎えているのだ このままでは、もってあと数秒・・・といったところか その時、マァが皆に大声で叫んだ 「ウチがこの壁を砕いた破片をアイツにぶつける! だからみんなはその隙に突撃して!」 「あっ!」 「そうか・・・!」 脆くなった氷壁を散弾代わりに利用し、ハングリが怯んだ瞬間を襲いかかる・・・ピンチを逆手に取った作戦である これには皆がすんなり納得した 後は粉砕するタイミングを待つのみ すると、にわかにハングリの拳の雨がまばらになり始めたではないか? 攻め疲れたのか、若しくはいよいよ火球の溜めに入ったのか・・・いずれにせよ、攻めるとすれば今しかない! マァが目で合図を送り、皆が頷く それを受けて、マァが手にした棍棒を力強く握りしめ、大きく後ろへ振りかぶり、そして氷壁を思いっ切り撃ち抜いた! ボゴォ!! 鈍い音とともに氷の破片がキラキラと宙を舞った それと同時にマァが撃ち抜いた氷壁の破片は予測通り前方のハングリめがけ飛んでいく! 「いくぞ!」 氷塵が未だ宙を舞う中、ゴトー達は怯んでいるであろうハングリに突撃をかけるべく一気に駆け出した しかし、そこでゴトー達が目にした光景は信じられないものであった・・・ 「・・・どこだ!?」 視界が開けたゴトー達が目にしたのは、何もなかった いや、正しく言い換えるならば、ゴトー達は視界が開けた先にハングリの姿を見つけられなかった・・・といったところか あの、一瞬攻め手が緩んだのはハングリが姿を隠すためだったのか? 「くっ・・・!みんな、ハングリを探せ!」 慌てて4人はゴトーを中心に固まって四方に素早く目を走らせる しかし、360°見回してみてもハングリの姿はどこにもない 一体、ハングリはどこへ消えたのか? 4人の焦燥感が募り出したその時、突然、空がまばゆく光った! 「なっ・・・!?」 4人は咄嗟に上空を見上げるが、眩しくて直視できないでいる すると、まばゆい光がみるみるうちにゴトー達に迫ってくるではないか? 「うわぁっ!?」 ドゴオオオオン!! 「ぎゃっ!?」 「ごほっ!?」 「・・・っ!?」 空から降ってきたまばゆい光、それはハングリが上空から放った巨大な火球であった そう・・・ハングリはゴトー達の目論見をいち早く察知していたのだ そこでゴトー達がカウンターを仕掛けてくるようにわざと攻め手を緩め、いざカウンターを仕掛けてきた時には宙を舞って難を逃れたのだ そして上空からゴトー達の姿を捉えると、そのまま宙を翻り火球をオーバーヘッドキックで叩き込んだのだ ハングリの狙いは正にドンピシャだった 上空への警戒が薄れていたゴトー達は逃げることも防ぐこともままならず、火球のエジキとなったのだ 「ううぅ・・・」 上空から巨大火球を見舞われたゴトー達は直撃を受けてしまい、地に這いつくばる しかし、そんな中で不幸中の幸いだったのが、すんでのところでゴトーが『愛の装甲機神』を発動、 加えてマイハが氷の障壁を張ったため、なんとかダメージを減らすことができた それでもしばらく動けないほどのダメージを受けてしまったのは事実 もし、今の状態でハングリの第二波が襲いかかれば今度こそ持ちこたえられないであろう 今、襲われる訳にはいかない・・・なんとか立ち上がらねば・・・ 4人は立ち上がろうと懸命に身体に力を入れる。渾身の力に応えて身体が少しずつ持ち上がっていく もうあと少し、その時だった。4人は無情の宣告を聞くこととなる 『ムダな努力、ご苦労さん・・・そのまま這いつくばってた方が楽だったのにな!』 「・・・ハングリ!」 4人の眼前には、ハングリが仁王立ちしていた。こともあろうか4人が必死になって立ち上がろうとする様をじっと見物していたのだ 今にも倒れそうな4人を蔑むような目でみつめるハングリは、静かに宣告した 『立ち上がってきたからにはトドメを刺さなきゃいけねぇなぁ・・・ 心配するな。ほんの一瞬だ。一瞬で楽にしてやる!』 「くっ・・・あと少しなのに・・・」 ゴトーがうめくように呟いた一言が、ゴトー達全員の悔しさを代弁していた もし、マァの奇襲が成功していたなら、今とはまた違った局面になっていたであろう だが、現実の世界に『たら、れば』を語るなど虚しいだけ それをわかっているだけに4人は唇を噛み締め、見苦しい泣き言ひとつ言わなかった 『ほう・・・どうやら観念したようだな。なら、せめてもの情けだ・・・最大級の技で葬ってやるよ』 今まで薄ら笑いを浮かべていたハングリが一転、戦士の顔つきへと変貌する それが全力を尽くして闘った戦士達への礼儀なのか 『ハアァァァァーーーッ!』 棒立ちの4人を前にハングリは火球を錬成し始める 真っ赤に燃え盛る火球がものの数秒で完成した その出来を確かめたハングリはいよいよ発射体勢に入る 火球を自分の足元へポーンと放り、それを大きくテイクバックした右足で思い切り蹴り込んだ! 『楽しかったぜ!あばよ!』 右足から放たれた火球は瞬く間にゴトー達の眼前に急接近する 避けようにも、立ち上がることに体力を使い果たした4人にはもう避ける気力すら残ってはいなかった 火球が眼前に迫ってくるにつれて、時間がスローモーに流れていく感覚に陥ってくる 皆、自分の最期を悟った。が、それでも諦め切れなかった・・・ その発露が、悲痛な叫び声となって辺りにこだました 「いやあぁぁぁーっ!」