無情に鳴り響く絶叫、それは断末魔の叫びなのか・・・ 否! キィィィィィン!! 「・・・っ!」 不意に4人の耳につんざくような不快音が聞こえてきた と、思った次の瞬間、4人の目の前が突然、眩しく光った そして聞こえてくる爆発音― ボムッ!! 「きゃあっ!?」 爆発音とともに襲いかかってきた爆風をモロに喰らって4人は派手に吹き飛ばされた ドサッ・・・!! 受け身ひとつ満足に取れず不恰好なしりもちをついてしまった しかし、不思議なことに、全身に襲いかかってくるハズの業火の焼け尽くような痛みは全く感じられなかった 生きている・・・一体、何が・・・? 必死の思いで身を起こし、辺りを見渡してみる ゴトー達、全員が無事であった 安堵したい気持ちを抑えつつ、ハングリの姿を目で追った 遥か前方に、ハングリの姿はあった だが、心無しか先程よりも遠ざかったような気がするのは気のせいか・・・ いや、気のせいではなかった よくよく見ると、ハングリの足元の先には何かが引き摺られたような痕跡があった おそらくハングリも爆風によって後方へ吹き飛ばされたのであろう では、一体、何故爆発が起きたのあろうか? ハングリが火球を撃ち損じて暴発させてしまった?いや、それはあり得ない だとすれば、第三者が火球を撃ち落としたというのか? それが出来るのは、ゴトー達以外にはあの2人しかいないのだが・・・ 「まさかっ!?」 もしや?と思った4人はすぐさま背後を振り返り、その遠くに目をやった するとそこにはこちらを向いて立っている2人の人影が・・・ 「・・・ユリーナ?」 4人がほぼ同時に口走った 剣を手に、仁王立ちしているユリーナの姿がそこにあった そしてその脇には、チナリの姿もあった 戦線離脱していた2人が、帰ってきたのだ! 一体全体どうやってハングリの火球を消滅させたかまではわからないが、あの2人がやったであろうことはほぼ確実 窮地に追い込まれていた4人に再び希望が宿り始めた だが、なにやら様子がおかしい・・・ 2人がこちらへと向かって来るのだが、チナリが何かを呼びかけているのに対して、ユリーナはそれを無視してゆっくりと歩を進めている 2人が近づくにつれ、チナリの言葉が漏れ聞こえてくるのだが、その言葉にはチナリの戸惑いが伝わってきた 「ねぇ?どうしたのよ!?何か答えてよ!」 どうやらユリーナはチナリを無視して突き進んでいるようなのである さらに近づくにつれ、4人にも、ユリーナの“異変”に気付き始めた 目は虚ろで焦点が定まっておらず、足取りはお世辞にもしっかりとしているとは言い難い 喩えるなら、ちょうど夢遊病者のようである 心、ここに在らず・・・といったところか それよりなにより一番の“異変”は、身体中がパチパチと音を立てて、微かにぼんやりと光っているのだ 「ねぇ・・・大丈夫、だった?」 ユリーナを気絶させてしまった張本人のナッキーがユリーナを気遣い、声をかける ・・・が、その言葉が耳に入ってないのか、それともあの一件を根に持っているのか、ユリーナは沈黙したままである 「あの・・・ゴメンなさいつ!アタシ、ユリーがキノコ苦手だなんて知らなかったから・・・」 申し訳なさそうにナッキーが詫びる ・・・が、その声すらもユリーナの耳には入っていないようだ 「そんなぁ・・・」 返事をしないユリーナの態度にひどく落胆するナッキー そんなつれない態度を見て怒りを感じたのか、急にマァがユリーナの肩口を掴む 「ユリー!?」 バチィッ!! 「ぐあっ!?」 マァがユリーナの肩口に手をかけた直後、突然触れた箇所が光を放ち、マァが膝をついた 「マァ!?」 膝をついたマァに、チナリとマイハが駆け寄る 何が起きたのかわからないナッキーはその場にただ呆然と立ち尽くすのみ そんな中、ゴトーは何かに気付いたらしく、一言呟いた 「“放電現象”・・・か。これは迂闊に近づくと危険だな」 「“放電”・・・ですか?」 耳慣れぬ言葉に、ナッキーが聞き返す 「ああ。今、ユリーナは身体中から電気を発してる状態だよ 身体では収まり切らずに外を放射している・・・そんな状態だ」 ユリーナの身体に起きた劇的変化と無反応には5人もどう扱っていいものか、と、ただ戸惑うばかり 元に戻せばよいのだが、その方法もわからず終い おまけにまだハングリとの戦闘中とあって放っておくわけにもいかない・・・ そう5人が頭を悩ませている内に、タイミング悪くハングリが起き上がってきたではないか? 『チキショー・・・あとちょっと!あとちょっとだったのに・・・てめえ!何しやがんだ!?』 トドメを邪魔された怒りからか、ハングリの激憤は尋常ではなかった 10数m離れていた間合いをあっという間に駆け抜け、放心状態のユリーナに全力の怒りの鉄拳を見舞わんとした! しかし、ハングリが闘争心剥き出しにも関わらず、ユリーナは迎撃体勢を取ろうとしない 「おい!ユリーナ!逃げろ!おいっ!?」 回避するように呼びかけても今まで通り、全くの無反応だ このままでは不味い、と判断したゴトー達であったが、痛む身体のせいでフォローに動けないでいる そして、最悪なことに、ユリーナの前にはまだナッキーがいるではないか? ナッキーも先程の攻撃を受けて満足に動けないハズ このままでは、ユリーナもろともハングリの拳のエジキになってしまう・・・ 『オラァ!』 ハングリの拳が放たれたその時、恐怖からナッキーが絶叫した 「いやあぁぁぁーっ!」 「ナッキー!?」 ゴトーが痛む身体でなんとか両者の間へ割って入ろうとするが、僅かに間に合わなかった そんなゴトーが最後に見たのはハングリの拳がナッキーにヒットする瞬間・・・ではなく、ハングリの顔面に拳がヒットした瞬間であった ゴッ!! 『ぶっ!?』 予期せぬ一発をもらったハングリは思わずよろけてしまう そこへさらに追い討ちで長い脚がハングリのどてっ腹に突き刺さった! 『おぶっ!?』 ドサッ・・・ 強烈な一撃でハングリははるか後方へ吹き飛んでいった この短い間に起きた出来事に、ゴトー達は呆気にとられた 今までうんともすんとも言わなかったユリーナが、ハングリが襲いかかった途端に反撃したのだ これも、無意識の内の自己防衛本能の為せる業か? 「ユリー・・・」 身を挺して護ってくれたユリーナに、ナッキーは安堵し顔をほころばせた が、当のユリーナはそれに応えることなく、ただ一点を見つめていた その先には、ナッキーに危害を加えようとしていたハングリの姿があった 思わぬところで恥をかかされ、その顔は憤怒の形相と化している 『もうキレた・・・お前だけはボッコボコにしてやんよ!』 ハングリがそう叫べば、今まで口を開かなかったユリーナが初めて言葉を漏らした 「ナッキーを虐めるヤツは許さない・・・」 そう呟くと、今までの緩慢な動きからは信じられないくらいのスピードでハングリに襲いかかっていった ユリーナは腰に帯びた剣をスラリと抜き放ち、ハングリを真っ二つにせんと斬りかかっていった 「うおおおおーっ!」 一方のハングリも一発かましてやる、とばかりに突っ込んでくるユリーナを迎撃する構えを取った 「はあああーっ!せいっ!たあっ!やあっ!」 『うおりゃ!うりゃ!たあっ!とおっ!』 カンッ!! キィン!! キィン!!・・・ 剣と拳が交わる音が幾度も聞こえてくる 互いに譲らず、次第に金属音のスピードが早まっていく 「もらったあ!」 ヒュン!! 『甘いっ!』 ガスッ!! 「痛っ・・・」 現状ではユリーナが長いリーチと手数で押してはいるものの、要所はハングリが『ゴッドハンド』で完全防御して決定打を許さない その戦況が今一つなのを、ゴトーは渋い顔をして見つめていた いいところまで攻めてはいても、いつも肝心なところでハングリの『ゴッドハンド』に逆転される もし、ハングリに『ゴッドハンド』がなかったなら、今頃は数的優位で勝っていたのではないか?とすら思えてしまう では、もし、ハングリが『ゴッドハンド』を使えなくなったら・・・? そんな考えがゴトーの頭をよぎった しかし、その考えがあまりにも荒唐無稽すぎて、ゴトーは自分の馬鹿さ加減に呆れてしまった そもそも『ゴッドハンド』は“籠手”である 剣や杖や弓、その他諸々の武器とは違って手元が狂って落とす、といった可能性は極めて0%に近い そんな武器を、どうやって使えなくさせることが出来ようか!? なんとかして、あの厄介な『ゴッドハンド』を封じ込めねば勝利はない。しかし、どうすればよいものか・・・? 体力回復を待つ間、ゴトーは『ゴッドハンド』封じ込めの策を幾度となく頭をフル回転させ、考えを巡らせてみた (アレを奪い取ったり叩き落とすのは、まず不可能。じゃあ、“使えなくさせる”ってのは・・・?) “使用不可能”という言葉が頭をよぎったその時、ゴトーの思考回路が急回転を始めた (確か『ゴッドハンド』の効力が発揮されるのは“前方”のみのハズ・・・ であれば、両手の自由を奪えば『ゴッドハンド』の効力発揮は不可能になる!) ここにきてゴトーが『ゴッドハンド』攻略の活路を見出だすことが出来た ただ問題は、どうやってハングリの両手の自由を奪うのか? せっかく妙案を思いついたというのに、ゴトーはまたも頭の痛い難題に直面してしまう どうすればいい?・・・そう思い悩んでいるゴトーに、マァ達が 「あの、ゴトーさん・・・どうしたんですか?」 と心配そうに声をかけた (!?) 思い悩んでいたゴトーであったが、マァ達に声をかけられ、ハタと気付いた (そうだった・・・この子達の力なら・・・!) そう思い立ったゴトーはマァ達に自身の考えを率直にぶちまけた 「ねぇ、みんなの力でハングリの両手の自由を奪うことは出来ないかな?」 “ハングリの両手の自由を奪うことは出来ないか?” ゴトーの突拍子もない問いかけに、マァ達は一瞬戸惑いを見せた (ハングリの両手の自由を奪うヒマがあったら、さっさと一撃で倒してしまった方が早いのに・・・) 何故、そんな回りくどいことをしようとするのか?マァ達はゴトーの考えを図りかねていた そうしてマァ達が答えを躊躇っていると、再びゴトーが尋ねてきた 「時間がないわ。ねぇ、出来るの?出来ないの?」 ゴトーに急かされ、マァ達はあれこれ考えるのを一旦止め、ゴトーの質問の答えだけを模索し始めた そして、僅か数秒後― 「あっ!そうだ!」 突然チナリが声を張り上げた 「こうすれば・・・なんとか出来るかも!」 「おっ?ねぇねぇ、どんな作戦なの?」 思いがけないチナリの喜び様に、ゴトーも若干色めき立つ するとチナリは自身の愛用のワイヤー付きブーメランを、ゴトーの目の前に差し出した 「あの・・・アタシのこのブーメランを使ってアイツをワイヤーでぐるぐる巻きにすればうまくいくと思うんです!」 「なるほど・・・ね。他には?」 チナリのアイディアに一応の満足を示したゴトーは残りの3人に目をやった 熱い眼差しで見つめるゴトーに刺激され、ナッキーも思い切って自分の考えを口にした 「あの・・・アタシの風の魔法で旋風を起こせば多少なりと身体の自由を奪えるかも・・・」 「へぇ・・・わかったわ。じゃあ試してみよう!」 この切羽詰まった状況下、次々とアイディアを絞り出すマァ達に、ゴトーは心の中で感謝した (アタシ一人じゃどうしようもなかったけど、これでなんとかなりそうだわ・・・ありがとう、みんな) 味方の“手札”を確認したゴトーはハングリの『ゴッドハンド』を封じるべく、いよいよ作戦実行に取りかかった 「いい?あの『ゴッドハンド』さえ無力化すれば、アタシ達の勝利は確定する まず、チナリとナッキーはハングリに気取られないよう準備して!」 「「ハイッ!」」 「マァとマイハはアタシと一緒に2人の仕掛けを邪魔されないようディフェンスに回るように!」 「「了解です!」」 一方 ユリーナとハングリの一進一退の攻防は未だ続いていた そんな中、ゴトー達は息を潜め、静かに反撃の牙を研いでいた (これで・・・これでケリをつける!) 乾坤一擲のその瞬間のために、全神経をハングリの一挙手一投足に注ぐ しかし、そんなゴトー達を嘲笑うかのような“邪魔者”が現れた。それは― ポツ・・・ ポツ・・・ ポツポツポツポツ・・・ 神の悪戯か、曇天から小雨が降り始めてきた (チッ・・・不味い!止んでくれ!) ゴトーは、小雨を降らせる曇天を恨むしそうに見上げた にわかに降り注ぐ小雨は、ゴトー達の集中力を否が応にも殺ぎ取っていくからだ それだけではない 集中力を殺がれるのは、一進一退の攻防を繰り広げているユリーナとハングリも同様だ ユリーナだけならまだいい。問題はハングリの集中力が殺がれることだ ハングリの集中力が逸れてしまうと、せっかく息を潜めていたゴトー達の存在に気付いてしまうだろう そうなれば、全てが水泡に帰してしまう。それだけはなんとしても避けねばならない― だが、そんなゴトーの願いも虚しく、小雨が止む気配は一向にない 灰色の空からは尚も小雨が降りそぼっている 「止んでくれよ・・・」 ゴトーは恨めしそうに曇天を見上げながらポツリと呟いた ゴトーもこの呟きがただの気休めにしかならないことは重々わかってはいた だが、呟かずにはいられなかった ハロモニアの存亡がかかった決闘、絶対負けるワケにはいかない ゴトーの呟きは、そんな切なる願いをこめた心境の発露であった 果たして、奇跡は起きるのであろうか― するとその十数秒後、降りそぼっていた小雨の雨脚が不意にまばらになった そして代わりに、曇り空からは違うもの降り出した 「・・・?」 ゴトーの頬に、ひんやりと冷たい感触があった 小雨よりも、もっと冷たい何か・・・ 「!?」 もしや、と思いゴトーは再び天を見上げた するとそこには、ふわふわと白いものがゆっくりと上空を漂っていた 「・・・雪?」 ゴトーは唖然となった この時期、この場所で降るハズのない雪が天から降ってきたのだ これは・・・奇跡なのか?神の思し召しなのか、それとも悪魔の悪戯なのか? ゴトーは天から降り注ぐ雪を、ただ呆然と眺めている他なかった そんな中、ゴトーの耳にマイハの呟きが聞こえてきた 「これなら・・・これだけの雪があればアイツを封じることが出来る!」 (まさか・・・?) そう、そのまさかであった 小雨を恨んでいるゴトーを横目に、マイハは魔法の力で小雨を雪へと変えてみせたのだ しかし、一体全体マイハはこの雪を使って、どうハングリを封じようというのだ? 「チー、ナッキー、2人にやってもらいたいことがあるの」 マイハが不意に傍らにいるチナリとナッキーに声をかけた 「えっ?」 「何、何?」 「2人の力を合わせて、ハングリをつむじ風の渦の中に入れて欲しいの」 「へ?なんで?」 「出来なくはないと思うけど・・・ねぇ、一体どういうことなの?」 訝しがる2人にマイハは事情を話そうとした。が、そうは言ってはいられなくなった 『オラァ!』 「・・・っ!」 今まで五分と五分の争いをしていたハングリとユリーナであったが、ここにきてハングリが少しずつユリーナを圧倒し始めたのだ このままでは不味い、そう察知したマイハは2人を急かす 「事情は後で話すわ!とにかくアイツを止めて!」 「あ・・・うん!」 「わ、わ、わかった!」 いつになく強い口調のマイハに気圧され、チナリとナッキーは魔法の詠唱に取りかかる (急がなきゃ・・・) 2人が詠唱に入るのを見て、マイハも静かに目を閉じ精神統一して準備に取りかかった そして― 「いい?チャンスは一回きり。アタシの合図で一気に魔法を解放するの」 「わかった!」 「いいよ」 ハングリとユリーナが未だ攻防を繰り広げている中、準備を終えた3人が、ハングリを捕える乾坤一擲のその時を待っていた 『どっせい!』 ドガッ!! 「・・・っ!?」 ハングリの諸手突きがユリーナの胸部を痛打し、その勢いでユリーナは遥か後方へと大きく弾き飛ばされた その瞬間、マイハが叫んだ 「チー、ナッキー!今よ!」 「うん!」 「わかった!」 マイハの号令に呼応し、チナリとナッキーが密かに研いでいた“牙”をハングリに突きつける時がやってきた 「四風よ!疾風となりて駆け巡れ!行け行け!『風の舞い(ウィンディダンス)・万罪(ばんざい)』!」 「吹けよ風!呼べよ嵐!呑み込め!『風枢渦(ブースカ)』!」 チナリとナッキー、2人が放った風は疾風となってハングリに襲いかかる! ユリーナを突き放してホッと一息ついていたハングリにとっては、まさに虚を突かれた格好となった 『うわっぷ!?な、なんだ!?』 ハングリを呑み込んだ疾風はそのまま渦を巻いて、ハングリをすっぽりと覆ってしまう 『わ、わ、わ、わ、わぁ〜っ!』 為す術もなく、疾風に翻弄されるハングリ。そのハングリの身体に、劇的な変化が現れ始めた 『うわっ!?』 空気の渦に包まれたことで、ハングリの両腕が上に持ち上げられてしまったのだ! その姿は、まるで強制的にバンザイさせられているかのようですらあった それだけではない 『う、う、う、う・・・』 見ると、ハングリの全身がうっすらと白くなっていくのが見てとれた 「どういう・・・ことなの?」 目の前で次々に起こる怪現象に、ゴトーは目を白黒させる 「凍らせてるんですよ、ハングリを・・・」 怪現象を呆然と見つめているゴトーの傍で、マイハがポツリと言った 「凍らせてるって?・・・あっ!」 マイハの一言を聞いたゴトーがしばし考えた後、何かに気付いて思わず叫んだ ハングリの身体が白くなっているのは、マイハの降らせた雪がハングリに少しずつ付着していったから そして、その雪を付着させたのは他でもない、チナリとナッキーの空気の渦だ 空気の渦はハングリに『ゴッドハンド』を使用する隙を与えなかった いや、たとえハングリが『ゴッドハンド』を使用したところで身体に激しく吹きつける冷気までは完封出来ないであろう 冷気はハングリの身体から体温を奪い、体力、思考能力、そして気力すらも根こそぎ奪い取っていく 今まで付け入る隙がなかった『ゴッドハンド』を、マイハの頭脳が攻略してみせたのだ 「よしっ!勝てる!」 勝利を確信したゴトーも昂る気持ちを抑え切れず、思わず叫んでしまった だが、ハングリとて意地がある こんな絶望的な状況にありながら、尚も抵抗して見せたのだ 『クソがあぁぁぁーっ!』 ハングリが咆哮すると、僅かにではあるが、『ゴッドハンド』に小さな炎が灯り出した ハングリは薄れゆく意識の中で、最後のあがきをしているのであろう もし、ハングリの灯した炎がこのまま大きくなっていけば、せっかくの策も台無しになってしまうかも知れない しかしながら、大きな旋風がハングリを取り巻いている以上、迂闊に近寄ることも出来ない ハングリを封じ込めるハズの“風の渦”が、マイハ達の攻撃の手立てを封じ込めてしまったのだ 「どうしよう・・・」 ハングリのまさかの抵抗によって計算を狂わされてしまったマイハは、決断を余儀なくされた このままハングリを凍死まで追いやってしまうのか、それとも一度“風の渦”を解除して、その直後に一斉攻撃をかけるのか? 早く決断せねば、ハングリは復活してしまうだろう 「マイハ!」 躊躇しているマイハにゴトーが決断を促す しかし、ここにきてマイハの気弱な部分が顔を覗かせる 「どうしよう・・・」 再びうわごとのように呟くマイハ 「おい!しっかりしろ!」 ゴトーが再度決断を促すも、それでもマイハは決断しかねていた 「・・・」 まさかの連発にゴトーも唖然となる どうする・・・?そうゴトーが頭をフル回転させようとした、その時だ 「?」 ハングリの脇に、何やら光る人影が見えた 「ユリー!」 ハングリに吹き飛ばされた、ユリーナが再び起き上がっていたのだ ゆらりと立つユリーナの手に握られた剣からは、まばゆいばかりの光が迸っていた 「そうだ!」 フル回転していたゴトーの頭に何かが閃いた (あの光は雷・・・だったら、“風の渦”に邪魔されることなくハングリを斬れる!) そう答えを導き出したゴトーはユリーナに向かって叫ぶ 「ユリーナ!そいつを斬るんだ!」 この場面、もはやユリーナに賭けるしかない・・・そんな想いをこめたゴトーの絶叫が辺りに響き渡る ところが、ユリーナはゆらゆらと立ち尽くすのみ 剣を構えることすらしようとしない 「おい!ユリーナ!何やってんだ?早くそいつを斬るんだ!」 声が小さくて聞こえなかったのか?そう思ったゴトーはさっきより大声を張り上げてありったけの力で絶叫する ・・・が、ユリーナは依然ゆらゆら揺れるばかり 「・・・なんなんだよ」 この絶好機に動こうとしないユリーナに落胆するゴトー と、そのゴトーの傍で誰かが叫んだ 「ユリー!なぎ払え!」 すると、ユリーナは突然剣を構え、標的のハングリに狙いをつけるではないか? 「あ・・・」 ゴトーはうっかり忘れていた。今のユリーナの耳にはナッキーの声しか入らないことを・・・ そうしてナッキーの声によってハングリに狙いをつけたユリーナの構えた剣からは、より一段とまばゆい光が迸り出す その眩しさたるや、離れた場所にいるゴトー達でさえも直視し辛いくらいであった そして十分すぎるくらいの光を湛えた剣を、ユリーナは咆哮するや一気に水平に振り抜いた! 「唸れ!『カラドボルグ(雷の一撃)』!」 刀身に湛えられていた雷は瞬く間に長大な刃と化し、ハングリの身体を切り裂かんと襲いかかる! 行く手を阻む“風の渦”などお構い無しに一陣の閃光となって駆け抜けていく! 『うぎゃあああああっ!?』 雷の刃にその身を切り裂かれたハングリは今までにない苦悶の声をあげた その断末魔の叫びは十数秒は続いたであろうか?その後、絶叫が途切れると、ハングリは力尽きてその身を地面に横たえた―