「や・・・やったわ・・・」
精も根も尽き果てたマイハが、うわごとのようにそう呟いた
あらゆる攻撃を防ぐハングリを相手に、ゴトー達は持てる力を使い果たした
その上での見事な大逆転勝利・・・誰もがその達成感と喜びを噛みしめていた
「やったな、ご苦労さん!」
明晰な頭脳をフル回転させてヘトヘトになったマイハの肩をポン!と叩いてゴトーがその労を労った
「え・・・いえ、そんな・・・」
ゴトーに褒められたのが照れくさかったのか、マイハは頬を赤らめ、はにかんだ笑顔を浮かべた
「はぁ・・・疲れた〜!」
「もう二度とやり合いたくない、とゆいたい」
チナリとマァは疲れ切った身体を地面に放り投げ、しばし大の字になって曇天を見上げる
皆がめいめい身体を休める中、ナッキーは想い人の元へ脇目も振らずに一直線に駆けていく
「ユリー!」
先程まで全身に光を湛えていたユリーナはあの一撃に全ての電力を使い果たしたのか、いつの間にかその姿は元通りになっていた
そしてナッキーの声で我に返った
「あ・・・あれ?」
棒立ちになっているユリーナに、喜びいっぱいのナッキーが飛び込んで行った
「やった!やったよ!」
「わ!?わ?わ?わ?」
不意を突かれたユリーナはナッキーの体当たりを受け止め切れず、しりもちをついて転んでしまう
そんなユリーナのことはお構い無しに、ナッキーは2人で勝利の喜びを分かち合うべく、ギュッとその身体に絡みついた
「ユリー・・・アタシ達、勝ったんだよ!」
そう言われたユリーナは全てを思い出し、胸に顔を埋めているナッキーをそっと抱きしめ、勝利の余韻に浸ったのであった


皆がハングリを撃破した達成感の余韻に浸っている中、異変は突如発生した
「?」
最初に異変に気付いたのはゴトーである
気絶したであろうハングリの元へ駆け寄ろうした、その時だった
ハングリの全身から黒い霧が立ち込め、それがやがて何かの姿を形取り、具現化していったのだ
そして遂には全身が肥大化した半豚半人の半獣人の姿へと変化した
これが“暴食”のハングリの真の姿なのか?

「これが・・・ハングリ?」
引き締まった体型のヨッシーノとは全く正反対の肥満体を見て、ゴトーはしばし呆然となった
そんなゴトーに半豚半人のハングリは猛り狂いながら突進する!
『てめぇ・・・せっかく手に入れた身体をメチャクチャにしやがって!』
「速い!?」
巨体に似合わぬ俊敏な動きにゴトーはたじろいでしまう
『オラァッ!』
その隙を突いて、ハングリがゴトーに体当たりをぶちかました!
ガッ!!
「ぐっ!?」
ドサッ・・・!!
弾力性溢れる身体によってゴトーは遥か後方へ大きく弾き飛ばされてしまった
「このヤロ!」
「よくも・・・」
ゴトーがやられたのを見たチナリとマァが素早くハングリの背後へ回り、得物での渾身の一撃を喰らわせる!
だが・・・
ボヨン!!
「へ?」
「何?」
ハングリの身体の脂肪が2人の攻撃を“吸収”してしまったのだ
『ブェッフェッフェッ!残念だったな!この“肉の壁”にはお前達の攻撃なんか効かねぇよ!』
そう言うとハングリは丸太のような太い腕を振り向き様に薙ぎ払い、チナリとマァをまとめて吹き飛ばしてしまった


ドサッ・・・!!
「あうっ!?」
「ぎゃっ!?」
「チー!?マァ!?」
吹き飛ばされたチナリとマァを心配したマイハが2人の元へ駆け寄ろうとする
・・・が、その行く手をハングリに遮られてしまう
『ブェッフェッフェッ!次はお前だよおチビちゃん!』
そう言ってハングリは丸太のような太い腕をマイハめがけ振り下ろす
「きゃっ!」
しかし小柄なマイハは辛うじてその太い腕を掻い潜り、うまく逃げおおせた
『チッ!ちょこまかと・・・』
苛つくハングリが次々と腕を振り下ろすも、その腕がマイハを捉えることはなかった
そんなピンチの連続の中、ハングリの攻撃の合間を突いてマイハが魔法を発射した
「凍てつけ!『ホワイトアウト』!」
瞬く間に凍りつくような冷気がハングリの身体を直撃し、真っ白に覆い尽くした
だが・・・
『おい、何だこれは?これっぽっちの寒気じゃ凍らねぇぞ!』
「え・・・?」
マイハの魔法は正確にヒットした。だがしかし、ハングリの身体を“完全に”凍りつかせることは出来なかった
またしてもハングリの身体の『脂肪』が、チナリとマァに続いてマイハの攻撃をも阻んだのだ!
『オラァッ!』
ショックで棒立ちになるマイハの横っ面をハングリの掌が捉え、哀れマイハは遥か遠くへ弾き飛ばされてしまった


「マイハ!?」
ハングリによって軽々と吹き飛ばされたマイハを見て、ユリーナが思わず悲鳴をあげる
「うう・・・」
地面に強かに身体を打ちつけたせいか、マイハはうめき声をあげたまま動けないでいる
「待ってて!すぐ行くから!」
マイハのピンチを直感したユリーナとナッキーの2人はすぐさまマイハの元へ駆け寄ろうとした
が、しかし、案の定・・・というべきか、2人の行く手をまたもハングリが遮ってしまう
『バカめ!お前らの考えなんざお見通しなんだよ!』
そう言うなりハングリは虚を突かれた2人をまとめて叩き潰さんと両腕を天に大きく振り上げる
そうしてそのまま堅く握った拳を振り下ろそうとしたその刹那―ユリーナが動いた!
「煌めけ!『ニョキニョキチャンピオン』!」
ユリーナがハングリの眼前に愛剣『ニョキニョキチャンピオン』をかざす
すると次の瞬間、その刀身からはまばゆい光が閃光となって辺りを激しく照らした
『うわっ!?』
激しい閃光をモロに直視してしまったハングリは堅く握った拳をほどいて思わず目を押さえた
完全に虚を突いたハズが、逆にユリーナに虚を突かれてしまった格好だ
「ナッキー!」
「うん!」
目を押さえているハングリのすぐ脇をナッキーが『風の加速』であっという間に駆けていき、マイハの元へとたどり着いた
と、同時にユリーナの背後にはいつの間にかゴトーが立っていた


「ユリーナ!借りるぞ!」
「え?あ、ちょっと!」
背後にいたゴトーがユリーナの手から『ニョキニョキチャンピオン』をひったくると、
閃光に目をやられもがき苦しんでいるハングリへ向かって駆け出した
駆ける合間に『ニョキニョキチャンピオン』を左手に持ち替え、残る右手で腰に帯びた自身の愛剣をスラリと抜くと、
そのままトップスピードに乗った状態でハングリの胸元へ鋭く斬り込んでいった
「終わりだ!最大奥義『スクランブル』!」
ゴトーが二本の剣を×字に構え、そのまま剣をハングリの胸板に突き立てた
『はうっ!?』
不意に襲ってきた激痛に、ハングリは苦悶のうめきをあげる
そんなハングリに構うことなくゴトーは突き立てた剣に体重をかけ、思い切り剣を振り抜いた
『ぎゃああああっ!!』
深々と突き刺さった二本の剣はハングリの脂肪を貫き、抉り、そして見事に切り裂いた
見事に×字に切り裂かれた傷口からはどす黒い血がドクドクと滴り落ちていく
『うぅぅぅ・・・うおおおおおーっ!』
断末魔の咆哮をあげるハングリであったがゴトーは容赦しない
その傷口めがけて次々と袈裟斬りを見舞っていく
その度にハングリのブヨブヨの表皮には×の字が刻み込まれていく
そうしてひとしきり切り刻んだゴトーはハングリに背を向けると、立ち居並んだユリーナ達に合図を送る
「いけ!でっかいのをぶちかましてやれ!」
「了解!」
全身に刀傷を負ったハングリはすでに息も絶え絶えである
そんなハングリに、ユリーナ達は正義の鉄槌を下すのだ


「古の巨人の血よ!今こそ目覚めよ!『ヘカトンケイル(百手巨人)』!」
「四方の風よ、一つになりて大いなる疾風の矢と化せ!『アイオロス(四風神)』!」
「暗き地獄の吹雪よ、吹き荒れよ!『フレスベルグ(氷鷲の羽ばたき)』!」
「猛き雷よ、轟き叫べ!『ゲイボルグ(雷の投擲)!』」
「「合体魔法!『流星暴威(流星ボーイ)』!」」
マァの放った魔法の石礫が風と雷と氷の魔力を纏い、さながら流星の如くハングリの身体を次々と撃ち抜いていく!
『ぐぎゃあああああーっ!!』
流星の弾丸に蜂の巣にされたハングリは、4人の合体魔法に耐え切れず、その巨躯を地面に擲った
そして全身から流れるどす黒い鮮血が泡立ち始めると、ハングリの身体はもうもうと黒い煙をあげ、やがて蒸発し消滅した
「ふぅ・・・」
ハングリが完全消滅したことで、それまで毅然とした態度を取っていたゴトーが力なくその場にしゃがみ込んだ
「ハァ・・・ホント、めんどくさい相手だったわ・・・」
そしてゴトーは自分の傍に横たわっているヨッシーノに向かって聞こえよがしに愚痴ってみせた
「アイツの打たれ強さとしぶとさはヨッシーそっくりだったわよ!もうイヤになっちゃう!」
すると、気絶しているハズのヨッシーノから声が漏れてきた
「オイオイ・・・第一声でそれはないよ。もうちょっと親友を労ってくれよ」
「あら?誰の不始末でこんなことになったと思ってんの?」
「ぐっ・・・」
そんな掛け合い漫才的なやり取りをしながらも、2人は勝利の喜びを噛みしめるのであった―


それからしばらくして―

「おーい!大丈夫かー?」
聞き慣れた声がした
「サイトーさん!?」
へたり込んでいるゴトー達の元へ、激闘を終えたばかりのサイトー=サン達がやってきたのだ
その中には、アングリと化していたリカサークの元気な姿もあった
「リカちゃん!?」
「ヨッシー!」
ヨッシーノの姿を見つけると、リカサークはその胸に飛び込んでいった
「よかった・・・無事だったのね・・・」
「そっちこそ・・・」
最良の相棒との再会を果たした2人は喜びを分かち合うべく、しばらく抱き合った
「ヒュー♪妬けるねお2人さん♪」
「コラッ!マサヲ!」
茶化すマサエをサイトー=サンが邪魔してやるな、とばかりにたしなめる
その様がおかしかったのか、皆からどっと笑いが洩れた
とりあえずの脅威が去った後の、戦士達の束の間の憩いの一幕であった

「ところでヨッちゃん・・・」
「ん?」
2人が再会してから5分、未だ抱き合っているヨッシーノに急にゴトーが問いかけ始めた
「2人はいつ『マヤザック』になったの?」
「あ、そうだ!アタシも気になってた!」
「マサヲ!」
確かにそうだ。『マヤザック』と化した7人の内、『マヤザック』と関わりのなかった2人が急に変化したのが何故だったのか―
「それは・・・」
2人が『マヤザック』と化した理由、それをヨッシーノがポツリポツリと語り出した


ヨッシーノが当時のことを思い出しながら語り始めた
「あれは・・・オレ達が大会の準決勝で大ケガをして寝込んでいた時だった
ある晩、突然オレ達の部屋に、急にあの2人が入ってきたんだ
ビックリしたよ。あの2人が一緒にいる訳ないのにさ・・・
それで、『ああ、これは夢なんだ!』と
オレはすっかり寝ぼけてるんだと思って2人をボーッと見ていたら、突然傍まできたかと思ったら目の前がパーッと明るくなって・・・」
「そこからの記憶がない、って訳ね」
「ビンゴ!」
「なるほど・・・ね」
ヨッシーノの言葉にリカサークも頷き、2人が準決勝のケガが癒えぬ間に『マヤザック』に“支配”された事実が明らかになった
・・・が、不明瞭な点もある
「ところでさ・・・その2人ってのは一体誰なんだい?」
やはり気になったのか、サイトー=サンが謎の2人についてヨッシーノに訊ねた
「あの2人?・・・ああ、アイちゃんとコンちゃんだよ」
「アイちゃんと・・・コンちゃん?」
首を傾げるサイトー=サンにリカサークが付け加えた
「そうそう!だって一緒にいるハズのない2人が目の前にいるもんだから驚いちゃって!」
そこで不意にムラターメが叫んだ
「あ!そうか!」
「え?」
何かに気付いたらしいムラターメに全員の視線が集中した
「あ、あ、ちょっと!?みんなあまりジロジロ見ないでよ・・・」
急に視線が集まったことでたじろぎつつも、やがてムラターメは一呼吸つくと持論を展開した


「つまりはこういうことなの?いい?
みんなも知っての通り、現在『マヤザック』は7人いる・・・
で、女王様以外は昨日の時点ですでに『マヤザック』に“支配”されていた可能性が高い・・・
だからアイちゃんとコンちゃんが一緒にいてもおかしくはない、ってこと」
「あ、そっか!」
言われてみればその通り、である
敵味方に分かれていたハズの2人ではあるが、事前に『マヤザック』に“支配”されていた、となると、2人が一緒にいても何らおかしくはない
そこから更にムラターメが持論を展開していく
「でもって、アイちゃんが牢獄に閉じ込められてたコンちゃんを救出して合流・・・
その足でヨッちゃん達を洗脳したんじゃないかな?」
「おおっ!?」
ムラターメのなんとなく辻褄の合う説明に、一同は思わずどよめいた
素晴らしい名推理に、一同のムラターメを見つめる視線が尊敬の眼差しへと変わっていった
「さっすが!ウチの頭脳労働担当!」
ムラターメに感心したマサエが思わず褒めそやす
「いやぁ・・・大したことないって!」
しきりに照れるムラターメ。そこでつい“本音”がポロリと洩れてしまった
「ヤススさんから上手く聞き出しちゃったもんで・・・」
「!!」
その一言で一同は硬直してしまった
やがて、ムラターメを見つめる視線が尊敬の眼差しから冷たい視線へと変わったことは言うまでもない―


「さ、行こか・・・」
「そうだね。早く城に戻らなきゃ・・・」
「あ、ちょっと!?みんな待ってよ!」
足早に立ち去っていく皆の後をムラターメが必死に追いかける

そして城へ戻る道中のこと―
「あ、そうだ!これ、返しとく」
ゴトーが隣を走るユリーナに何かを突き出した
「あ!」
ゴトーが突き出したのは、ユリーナの愛剣『ニョキニョキチャンピオン』であった
先の戦闘でゴトーが借りっ放しだったのを元の持ち主へ返そうとしたのだ
「どうも・・・」
返された愛剣を手に取ったユリーナだが、しばらくすると怪訝そうな顔になる
「ん?どうかしたの?」
「あ、この剣、アタシのじゃなさそうなんですが・・・」
どうやらゴトーが間違えて剣を渡したようである
「じゃあこっちか・・・ハイ!」
「あ・・・ハイ」
次に手渡された剣を手に取り、ユリーナはじっくりと確かめてみる
・・・確かに愛剣だ。ユリーナは手元に戻ってきた愛剣を鞘に納め、満足する

だがその直後、新たな違和感がユリーナの頭をよぎった
そして―
「ん?・・・あーっ!!」
突然、ユリーナがいつになく大声をあげて絶叫した
あまりの大声に、傍にいたゴトーやマァ達はおろか、前を走っていた『女流怨…』の面々やヨッシーノ達まで振り返ったほどである


「なんだなんだ?」
「おい?どうした?」
突然絶叫したユリーナに驚き、全員が何事かと、あっという間に集まった
「ユリー、どうしたの?ねぇ?」
傍にいたチナリが絶句して固まっているユリーナをゆさゆさと揺さぶってみる
すると我に返ったユリーナはゴトーの手にした剣を指差し、口をパクパクさせた
・・・どうやら、ゴトーの剣が絶叫した理由らしい
「これが、どうしたの?」
固まるユリーナを怪訝そうな顔で見つめながら、ゴトーは再度手に持った剣をユリーナの前に突き出した
その剣を受け取ると、ユリーナはもう片方の手に自身の愛剣を持っていき、2つを見比べた
「え・・・?」
なるほど、2つを並べてみると、実にそっくりである
すると、今度はチナリまでもが絶叫した
「あ〜っ!」
「何?何?」
「ちょっと!?どうしたのよ急に?」
驚くチナリを皆が落ち着かせようとする
「これ、アレだよ!アレ!」
チナリも事の重大さに気付いたらしい・・・が、気が動転しているのか、なかなかそれを言葉に出来ないでいた
そんな中、マイハがポツリと呟いた
「これは・・・『エクスガリバー』・・・」
その呟きを聞いたマァも何かを思い出したかのように呟いた
「そうだ・・・これは『エクスガリバー』に間違いない、とゆいたい」


「『エクスガリバー』?なんだそれ?」
マァ達が次々と口にする謎の単語にサイトー=サン達が割り込んできた
「ムラちゃん知ってる?」
「知らない。マサヲは?」
「知ってるワケないじゃん」
全然埒が開かないので、ヨッシーノがマイハに尋ねてみる
「なぁ?何なんだその『何とかガリバー』とやらは?」
「実は・・・『エクスガリバー』は、私達妖精族の至宝だったんです・・・」
「ふぅ〜ん・・・なるほどね」
マイハから満足のいく答えが聞けたヨッシーノはそこで満足する
・・・が、傍で聞いていたリカサークには何かが引っ掛かったようだ
「『至宝“だった”』・・・って言ったわよね?」
「ハイ・・・」
リカサークの質問にマイハは素直に答える
そのやりとりが気にかかったのか、ヨッシーノも再び会話に入ってきた
「おい、リカちゃん?どうしたんだYO?」
「ヨッちゃん?この子は『エクスガリバー』は妖精族の至宝“だった”・・・と答えたの
“今”じゃなくて、“過去”にはそうだった・・・てことは、どこかおかしいと思わない?」
「あ・・・そうか」
リカサークに指摘されて初めてヨッシーノも引っ掛かりに気付いた
そこで改めてリカサークがマイハに尋ねる
「ねぇ?なんであの子達があんなに大騒ぎしてるの?」
するとマイハが衝撃的な“事実”を語った
「あの『エクスガリバー』は、数年前に私達の村から、突如消えたんです・・・」


「き、消えたぁ〜!?」
“至宝”が“消えた”とあって、皆が一様にマイハの言葉に食いついた
「おい?どうしてそんなお宝が消えたんだ?」
「それは・・・」
マイハは何かを言いかけようとした。が、何故か急に口をつぐんでしまう
「それは・・・何?」
「おい、何なんだよ?」
「ちょっと!気になるじゃない?」
マイハが口をつぐんだことで話が途中で終わってしまい、顛末を知りたい皆は口々に不満を募らせる
それでもマイハは再びその口を開こうとしなかった
「ね〜え?教えてくれたっていいじゃない?」
「ちぇっ!つまんないの!」
皆がブーたれていると、やがてマァがマイハの代わりに口を開いた
「『エクスガリバー』が消えたのは・・・人間達に盗まれたから、だとゆいたい」
「えっ・・・?」
一同は絶句した。妖精族の至宝を、こともあろうか人間達が盗んでいってしまったとは・・・
「ね、ねぇ?それって・・・ホントなの?」
信じ難いマァの言葉を信じたくないリカサークが、傍にいたマイハに真実を問うてみる
しかし残酷なことに、マイハは沈痛な面持ちで、ただコクリと頷くのみ
そう、マイハが途中で口をつぐんだのは、人間達を悪く言いたくないがため―
そしてその至宝を持っていたゴトーを盗んだ“犯人”だと思いたくないがためのことであったのだ


マイハが頷いた後、重苦しい空気が辺りを支配した
まさか、ゴトーが『エクスガリバー』を盗んだのか・・・?
そんな疑念が皆の頭にあったからだ
しかし、ゴトーは痩せても渇れてもかつての『暁の乙女』のエースである
盗みなど働くような者ではない。そんなことはゴトーを間近で見てきている“仲間”のヨッシーノ達が一番よくわかっているハズだ。だけど―

「んあ?どうしたの?」
「「!?」」
その場の全員が固まっている中、ゴトーだけが事の重大さに気付いていなかった・・・
「あ、あの〜・・・」
「え?あ、エヘヘ・・・」
何も気付いていない様子のゴトーに全員戸惑っていた
まさか本人にズバリと『盗んだでしょ!?』なんて切り出すのは難しすぎる
だが、そんな雰囲気を察知したのか、ゴトーの方から『エクスガリバー』について口を開いたのだ
「ああ、この剣はアタシの弟から貰ったものなんだ。それがどうかしたの?」
「え・・・?」
ゴトーの口から出た『貰った』という言葉。これにより、ゴトーが『泥棒』ではないか?との疑念はすっかり晴れた
しかし、それより今回の一件をもっと難解なものにしてしまう言葉が出てきてしまった―


「弟・・・?」
「ですって〜!?」
ヨッシーノとリカサークが思わず叫んでしまった
「ん?アタシに弟がいるのはヨッちゃん達なら知ってるでしょ?」
「ん・・・まぁ、そうだけど・・・」
ゴトーの返事にヨッシーノ達は明らかに動揺している様子であった
2人には、何か思い当たるフシがあるらしい。しかし、それを皆の前、特にゴトーの前で言うのを躊躇っているようである
「うーん、もうじれったいわねー・・・」
なかなか煮え切らない様子のヨッシーノ達を見て、短気なサイトー=サンがイライラし始める
そしてイライラのピークに達した時、サイトー=サンは遂に直球勝負に出た
「ねぇヨッちゃん!思ってることがあったらズバッ!と言いなよ!ズバッ!と!」
その言葉を受けてもヨッシーノ達はしばらく躊躇っていたものの、遂に決心したのか、ようやく口を開き始めた
「わかったYO・・・でもその前に、みんなに聞いておきたいことがある」
そう言って、ヨッシーノは視線をマイハ達に向けた
「あ・・・ハイ」
「なぁ?その『エクスガリバー』を盗んだ“犯人”の名前ってわかるかな?」
いつになく険しい表情で質問するヨッシーノ。それは半ば“犯人”が誰なのか?を確信しているかのようであった
それを受けて、マイハが静かに答えた
「犯人は・・・『飛翔の旅団』です・・・」


「ひ、『飛翔の旅団』だぁ〜!?」
マイハから発せられた言葉を聞いて、サイトー=サン達『女流怨…』の面々等は皆、一様に驚いた
そんな中、ゴトーはあまりピンときてないらしく、
「なんなの、それ?」
と、リカサークに回答を求める始末
「あ、そっか。ゴッちんは1年前は行方不明だったもんね」
そう言ってリカサークは事情を知らないゴトーに『飛翔の旅団』について語り出した
「『飛翔の旅団』っていうのは、ここ1〜2年間の間に暗躍し始めた“盗賊団”のことよ
その活動範囲は広く、とんでもない僻地から、栄えてる街まで至るところに現れるの。まさしく神出鬼没だわ」
「そうそう!今から半年前には、ここハロモニアの城下町にも出没してかなりの被害が出たんだよ!
その時警備に当たっていたウチらが取り押さえられなくて、女王様に『しっかりせんかい!』と、こっぴどく叱られたっけ・・・」
リカサークの解説に、サイトー=サンが当時の苦い経験を付け加えた
「その手口があまりにも迅速で、あっという間に高跳びするからいつしか『飛翔の旅団』って呼ばれるようになったの」
リカサークがそう言った後、ヨッシーノが驚くべき衝撃発言をした
「その後の調べで解ったんだが、『飛翔の旅団』の頭領、そいつの名前は『ユーキ』・・・
つまり・・・ゴッちゃんの弟さん、て訳だ」


「「えぇ〜〜〜っ!?」」
ヨッシーノから飛び出した衝撃の事実に、皆が声を失った
身内が実は犯罪者だった・・・今まで多少のことには動じかなかったゴトーもさすがに今回ばかりは絶句してしまった
それから―
誰もが一言も喋らないまま、刻々と時間だけが過ぎていく。それは何故なのか?
皆、どうゴトーに声をかければいいのか、また、どうやってこの重苦しい沈黙の中で発言すればいいのか量りかねていたのだ
ただ、重苦しい沈黙の空気が漂い続けるだけ・・・
と、そんな中、ようやく気持ちの整理がついたのか、ゴトーが口を開いた
「わかった。ユーキの奴が盗賊団の頭領だってことだね
だったら、今回の一件が終わったらすぐにアイツを取っ捕まえにいくよ!」
そう言うゴトーの表情は、迷いが晴れたようであった
そして、ユリーナ達の方を向き直り、深々と頭を下げる
「弟の不始末で迷惑をかけて申し訳ない。この通りだ」
「いえ・・・ゴトーさんが悪いワケじゃないですから・・・」
「ゴトーさん!?頭を上げてください!」
あまりにもゴトーが深々と謝るもので、被害者であるユリーナ達も戸惑ってしまう
やがて頭を上げたゴトーは至宝『エクスガリバー』を手に取り、4人に向かってこう懇願した
「この剣は返す。だけど、この戦いが終わるその時まで・・・しばらく待ってくれないか?」
強い意志と決意を帯びた視線でユリーナ達4人を見つめる
4人はゴトーの手を取ると、しっかりと握りしめこう言った
「是非もないです。一緒に・・・この戦いを終わらせましょう!それからです!」


ゴトーとユリーナ達との間の思わぬ“遺恨”が収束し、皆がホッと胸を撫で下ろす
心の支えが取れたのは、ゴトーも、ユリーナ達も同様であろう
今回の一件で改めてわかったのは、今、ここにいる皆が数々の苦難を乗り越え、いつしか固い心の絆で結びついている事実であった

そして―
「じゃあ・・・ウチらはこのまま街の巡回にあたるから、ヨッちゃん達は先に城へ帰還して!」
「わかりました。じゃあ、ご無事で!」
「そっちこそ、アイツをぶっ飛ばしてやって!」
途中街の警護の役目を抜けてきていた『女流怨…』の面々とヨッシーノ達は、ここでしばしのお別れとなった
次また会う時は、笑顔であることを信じて―
そして、振り向くことなくお互いの“道”を進んで行く―
ヨッシーノ達がそんな感傷に浸っていると、ずいぶんと賑やかな会話が聞こえてきた
「ねぇナッキー?あなた一足早くお城へ戻って報告に行ったら?」
「お断りです!チーはアタシがいない間にユリーとイチャイチャするつもりなんでしょ?」
「うっ・・・」
「ほーら図星だ♪残念、その手には乗りませんよーだ♪」
「あーもう!いいじゃない!アタシがユリーと少しぐらいイチャイチャしちゃって!」
「ちょ、ちょっと待ってよ2人とも・・・」
「・・・」
せっかくの感動的な雰囲気が台無しである
ヨッシーノ達お姉さん組は苦笑いする他なかった
だが、その賑やかなやりとりがしんみりとした空気を変えてくれたのも事実―
「こらーっ!イチャイチャしてないでキビキビ走る!」
「「ハ、ハイッ!」」
いつでもこんな他愛のないことで笑い合える世界を取り戻すため・・・皆は一歩一歩、自分達の運命へと駆け出していく―