【三賢者、立つ】 


ゴトー達がハングリ&アングリを撃破してしばらく経った後―ハロモニアの街中 

「ふぃぃ〜・・・ようやくこの辺も片付いたようやなぁ・・・」 
ハロモニアの街を我が物顔で街を徘徊するゴーレム達を一掃し終えて、アツコはそうひとりごちた 
そのアツコの傍らでは、レイニャとサユミンがしゃがみ込んでぶつくさと愚痴っていた 
「ハァ〜・・・しんどかったニャ・・・」 
「もううんざりなの・・・」 
2人が愚痴をこぼしたくなるのも無理はない。何せもうかれこれ100体近くはゴーレム共を土塊に還したからだ 
「泥人形なんかより、マヤザックとやらをぶっ飛ばしたかったですよ・・・」 
レイニャ、サユミンに続いてキャメイもつい愚痴をこぼしてしまう 
そんな愚痴を耳にしたアツコは、3人を叱りつける 
「コラッ!あんた達!」 
「「ハ、ハイッ!」」 
「マヤザックをやっつけるのも大事やけど、街の人を護るのも大事な任務やろ!?」 
“ハロモニアの守護神”として果たさねばならない義務をアツコに突きつけられた3人はすっかりトーンダウンしてしまう 
もちろん、アツコとて3人の陰働きの辛さがわからない訳でもないのだが、 
3人には『暁の乙女』としての自覚を持ってもらいたいが為、ついきつく当たってしまうのだ 
なんだかどんよりとした雰囲気に包まれる中、不意に4人の耳に明るい声が聞こえてきた 
「おーい、アッちゃーん!」 
4人が声のする方を振り向くと、そこにはこちらに向かって駆けてくる4人の人影があった 
その4人とは、一時的に戦線を離脱していた『女流怨…』の面々であった 



「おっ!みんな無事やったんか〜?」 
アツコがそう声をかけると、4人は誇らし気にピースサインをしてニッコリと笑顔を浮かべてみせた 
そのまぶしいばかりの笑顔は、4人の勝利を雄弁に物語っていた 
「そっか!ホンマにご苦労さん!」 
「ふぃ〜・・・ホント疲れたわ・・・」 
アツコに労いの言葉をかけられ、ため息まじりにシバチャンが到着するなり地べたにへたり込む 
「ホントホント!参ったわアレは・・・」 
「アイツらとやるのはもうカンベン!」 
シバチャンに続く格好で『女流怨…』の面々も口々に愚痴りながら地べたに寝っ転がっていく 
しかし、4人の表情は口を突く言葉とは裏腹に実に心地よさそうである 
(・・・・・・) 
そんな4人を、レイニャ達3人はじっと恨めしそうな目で見つめていた 
それは何故か?レイニャ達3人にとっては『女流怨…』の4人が羨ましくて羨ましくて仕方がなかったのだ 
レイニャ達にも『暁の乙女』として入ったからには、人並みかそれ以上に野心や功名心はある 
しかし、レイニャ達には『マヤザック』とやり合うチャンスが与えられず、その役目はりしゃこ達や同じ『暁の乙女』の仲間、 
そして目の前で寝っ転がっている『女流怨…』の4人に与えられたのだ 
アツコの命令があったからとはいえ、せっかくのチャンスを与えてくれなかったアツコに不満を持っていたのだ 



「ん?どうかしたの?」 
恨めしそうな4人の視線に気付いたのか、急にシバチャンがレイニャ達3人の方を向き直り、そう声をかけた 
「えっ・・・?」 
3人は内心ギクリとした。まさか自分達が4人を恨めしそうに見ていることを気付かれてしまうとは思ってもいなかったからだ 
「あ・・・いえ・・・」 
「な、何でもないです・・・ハハ・・・」 
そう言ってレイニャ達は愛想笑いを浮かべるものの、その笑顔は傍から見ればどことなくぎこちなかったに違いない 
そんな些細な表情の変化を見逃すほど“師匠”は鈍感ではなかった 
「自分ら、どないしたんや?えらいテンション低いやん?」 
「えっ!?」 
図星を突かれた3人は明らかに動揺する 
そこをさらに師匠のアツコは3人を問い質していく 
「なあ?何かあったんか?なんか、様子が変やで!?」 
「あ・・・いえ・・・」 
師匠に問い詰められ、3人は答えに窮してしまう。『羨ましい』なんてはしたないことを言える訳がない 
答えられずに3人が黙り込んでいると、まるで3人の心を読み取ったのかのように、アツコが諭すように言ってみせたのだ 
「悪いな。自分らかて『マヤザック』とやりたかったとは思う。それはホンマにゴメンな 
せやけど、あの人選がベストやった・・・とウチは思てるねん」 
済まなさそうに語りかけるアツコに、3人はまた言葉を出せずにいた 



「じゃあさ、今から最後の一人を倒しに行けば?」 
重苦しい空気の中、突如とんでもない発言が飛び出してきた 
「マサヲ!?」 
「だってあと1人残ってるんでしょ?」 
唖然とする一同に対し、マサエは実にあっけらかんと言い放つ 
「よく考えてみてよ。『マヤザック』は7人いるんだよ?でも、ウチらは6つの組に分かれて討伐に行った・・・ 
てことは、あと1人残ってる計算になるから、そいつの討伐をその子達に任せてあげればいいじゃん?」 
「あ・・・」 
マサエに言われて一同はハタと気付いた。確かに1組少ない・・・であれば、その1枠をレイニャ達に与えれば・・・ 
マサエの推論に、レイニャ達3人の表情に明るみが射す 
しかし、マサエの言葉にアツコは首を横に振った 
「それが・・・もう枠は埋まってるんよ・・・」 
「へっ!?」 
妙案と思われたマサエの発言があっさりと否定され、一同は面食らってしまう 
「えっ!?じゃ、じゃあ・・・誰が討伐に行ってるってのさ!?」 
発言を否定されたマサエがアツコに突っかかっていく 
すると、アツコの口から思いがけない言葉が飛び出してきた 
「7人目・・・最後の『マヤザック』には、『三賢者』の皆さんが行ってもらってる・・・」 
「さ、『三賢者』・・・!?」 
聞き慣れぬ言葉にレイニャ達3人は戸惑う 
だが、レイニャ達以上に『女流怨…』の4人はその言葉に戸惑っていた 
果たして、『三賢者』とは一体何者なのか・・・?