〜七の塔【pride】〜
ハロモニア城―ここはハロモニアの全国民にとっての繁栄と平和の象徴である
と、同時に、何人たりとも血で汚してはならぬ、謂わば“聖域”でもある
本来、限られた者しか入ることが許されぬこの不可侵の“聖域”に、土足で上がり込む怖いもの知らずの“不届き者”達がいた―

「ねぇ〜、ホントにいいの?勝手にお城の中に入っちゃってさ〜」
「いいの!いいの!この非常事態に良いも悪いも関係ないの!」
「でも・・・」
「あーもう!ホント、ボケちゃんは心配性なんだから!」
「なによ〜?ナマイキちゃんが図々しいだけじゃないのよ〜」
「何ですって!?」
「・・・何でもない」
許可もなく“聖域”に上がり込んでいたのは、アイリーナとアイリーネ、双子の天才魔術師だった
2人は『魔導大会』の決勝を見届けた後、周囲の大混乱のどさくさに紛れてまんまとこの“聖域”に潜り込んだのだ
では何故、2人はこの“聖域”に侵入したのか?
それには“理由”があった―
実は2人は目撃してしまったのだ
『魔導大会』の決勝後、突如現れた7人の邪神・『マヤザック』
その内の1人がここ、ハロモニア城の中にスーッと消えていくのを―
友・りしゃこやミヤビを、そしてハロモニアの人々を傷つけ、恐怖に陥れた卑劣なる邪神に怒りを感じた2人は、
邪神を討つべくこの“聖域”に侵入し、邪神の姿を追っているのだ



普段であれば厳重な警備によって入城もなかなかままならないハロモニア城であるが、
この大混乱の中で護衛兵もすっかり浮き足立ち、右往左往している有り様なのだ
その隙を抜け目なく掻い潜ったは良いものの、しかしハロモニア城は王城だけあって何しろ広大
おおよそ城本体だけで4〜5km四方はある
それだけに当然部屋も相当数あり、その一つ一つをしらみ潰しに調べていくとなると日が暮れてしまう
なので、2人はあらかじめある程度の“アタリ”をつけてから、城内を探索することにしたのだ
まず考えられるのが、玉座のある大広間
次いで秘密があるやも知れない女王・ユーコの部屋
あとは罪人が幽閉されている地下牢や、繁栄の象徴でもある尖閣の塔―
その中で2人はまず、大広間に向かって駆けていく
道中、マヤザックによって呼び出された魔物や化け物が居やしないか警戒しながら進んでいくも、
城内は城外の喧騒とは違って、恐ろしいほどの静寂だった
2人の耳に入ってくるのは2人の足音のみ
次第に2人は、本当にマヤザックはここに居るのか?と疑いたくなってきた
あれは幻?―ふと立ち止まっていた2人の耳に突如、つんざくような轟音が聞こえてきた



ドゴォォォォン!!
ガタガタガタガタ・・・
突如、耳が痛くなるくらいの爆音と震動が2人を襲った
「きゃっ!?」
「わわっ!?」
不意を突かれた2人は思わずその場にへたり込んでしまう
そして動揺が醒めやらない内に、また爆音と震動の第二波が襲いかかってきた
ドゴォォォォン!!
ガタガタガタガタ・・・
先程のより大きい。おそらく、その爆音と震動の先にはきっと誰かが居るハズ・・・
「ねぇ・・・ボケちゃん」
「・・・うん」
何も言わなくても双子の2人の考えは一致していた
互いの顔を見て頷くと、スックと立ち上がって急ぎ爆音のした方へと走り出した
多分、聞こえてきた場所は2人の予想していた大広間であろう
2人の現在地からはそんなに遠くはない
「はぁはぁ・・・」
「はぁはぁ・・・」
息を切らせて2人は駆けていく
広く長い廊下を疾走し、階段を駆け抜け、ようやく2人は大広間の前まで到達した
「えっ?」
「何?これ・・・」
2人は視界に飛び込んできた光景に絶句した
大広間の扉の前には、多数の人が横たわっているのだ
2人には、それがハロモニアが誇る、屈強な近衛兵達であることがすぐに理解できた
肉弾戦にかけては相当の腕を持つ彼らが無惨なまでに転がっている
と、いうことは・・・



「ここに・・・」
「居る!」
互いに顔を見合せながら、アイリーナとアイリーネは頷いた
間違いなく、奴―マヤザックはここにいる
こんな芸当が出来るのは、紛いなりにも神の力を持つ奴しかいない・・・
「・・・」
2人の顔つきがいつになく神妙になる
この城に足を踏み入れた時にいずれ奴と対峙する覚悟を決めたハズなのに、
そのあまりの強さの片鱗を見せつけられ、緊張が一気に高まる
途端に息苦しくなり、胸の鼓動が高鳴り心の臓が飛び出しそうになる
いざ、行くべきか?躊躇う2人の眼前に、人生で最も衝撃的な光景が飛び込んできた

「うぅ・・・」
目の前に転がっている屈強な近衛兵に混じって、2人にとって見覚えのある男が倒れていた
その男の姿を見た2人は胸が締め付けられる深い悲しみに襲われた
「「パパッ!?」」
そう、2人の目の前に倒れていたのは2人の父親にしてハロモニア屈指の実力を持つ宮廷魔術師・トールであった
「「パパッ!!」」
気がつけば、2人は本能的に父親の元へ駆け出していた
「パパッ!?大丈夫!?」
「ねぇ?起きてよ!?しっかりして!」
父親・トールの元にたどり着いた2人は父親の身体を揺さぶり、無事を確かめる



「パパッ!?」
「パパッ!?」
「うぅ・・・」
2人の愛娘の懸命な呼び掛けに、父・トールはようやく目を覚ます
「パパッ!」
「良かった・・・」
父が無事であった歓喜のあまり、2人はトールに折り重なるようにして抱きついていく
ドサッ!!
「ちょ!?ちょっと待て!苦しい・・・」
思いがけぬ愛娘の洗礼に、さしもの歴戦の強者も少々たじろいでしまう
そんな父の温もりを感じることで安堵した2人は父の胸に顔を埋め、泣きじゃくるのだった
(ここ最近、ずいぶん大人になったと思ったが・・・まだまだ子供だな)
トールは泣きじゃくる2人の頭を優しく撫でながら、2人が泣き止むのを待った

だが、今この場で起きている“事態”は、そんなつかの間の家族の触れ合いすら許してはくれなかった
ドゴォォォン!!
突如、3人の背後から大きな爆発音が聞こえてきた
「きゃっ!?」
「いやっ!?」
「うわっ!?」
耳をつんざく爆音に、3人は思わず身を強張らせる
そして程無く3人が後ろを振り返ると、そこには鎧兜が無残にも吹き飛んだ近衛兵達の姿があった
そう、3人はすっかり忘れていたが、ここは今、“戦場”なのである
吹き飛んだ近衛兵の姿は、ほんの数分前のトールの姿そのものだった
「そうだ!いかんっ!」
そのことに気付かされたトールは2人の愛娘を急に引き剥がし、立ち上がろうとした



しかし、
「うっ!?」
立ち上がろうとしたものの、身体中に激痛が走り、トールはその場にうずくまってしまう
「「パパッ!?」」
父の苦しむ姿に双子は血相を変え、心配そうに顔を覗き込む
「はぁ・・・はぁ・・・だ、大丈夫だ。もう大丈夫・・・」
2人の視線に気づいた父・トールは娘達に余計な心配をかけまい、と、身体に走る痛みをこらえ、平静を装ってみせた
「パパ・・・」
気丈に振る舞う父の姿に、2人はまた泣き出しそうになる
(弱ったな・・・)
トールは内心、そう感じていた
2人の愛娘がいなければ、地べたを這ってでもあの大広間へと向かうのに、今は2人をなんとかなだめなくてはならない
決して、“奴”には遭わせてはならぬ・・・
“奴”のいる、大広間へ行かせてはならぬ・・・
だが、そんな父の思いとは裏腹に2人は涙をこらえ、毅然とした態度へと変わった
「・・・行こう!」
「うんっ!」
双子は手に手を取り合って父をこんな酷い目に遭わせた“奴”を、“奴”のいる大広間へと行く決心をしたのだ
自分達2人よりも遥かに強い父を打ち負かしたのだから、“奴”がとてつもなく強いのは百も承知
だからといって、父を傷つけた“奴”を許す訳にはいかない
ましてや世界の崩壊を目論んでいる“奴”を―



悲壮なまでの決意を胸に秘めたアイリーナとアイリーネはスックと立ち上がり、父にしばしの別れを告げる
「パパ・・・アタシ達、行ってくるね」
「だからしばらくココで待っててね」
気丈な言葉の裏に秘められた“覚悟”を感じた父・トールは慌てて2人を呼び止める
「ま、待てっ!2人とも!」
そんな父の声は2人の耳にも当然届いてはいた。が、2人は決心が鈍らぬようにそのまま振り返って大広間まで駆け出す
「「パパっ!ごめんなさい!」」
「待てっ!待ちなさいっ!アイリーナ!アイリーネ!」
懸命に2人を呼び止める父・トール。だが、2人の姿はみるみると小さくなり、やがて大広間の中にスーッと吸い込まれていった
「アイリーナ・・・アイリーネ・・・!」
2人の愛娘を止められなかった父。自分が手負いでさえなければ、2人を力ずくでも大広間には行かせなかったのに・・・
悔しさ、不甲斐なさ、自責の念が複雑に入り混じった感情がトールの頭の中をぐるぐると渦巻き、
そしてトールは大理石の床をドン!と拳で打ちつけた
鈍い痛みが拳に走る。だが、トールの胸中の痛みはそれ以上であった
やりきれない思いから、トールはポツリ呟いた
「違うんだ・・・2人とも違うんだ・・・
アイツと戦ってはならない。アイツは・・・アイツは私達の“天敵”なんだ!」



父・トールの届かぬ叫びをよそに、アイリーナとアイリーネの2人は大広間の入り口付近へと到達する
いつもなら高さ約4〜5m、幅3〜4mほどの重厚な扉で閉じられている大広間ではあるが、
中で激しい攻防が繰り広げられているせいか、すでに開けっ放しになっていた
その開けっ放しの入り口の向こうから、時折つんざくような轟音と怒号が聞こえてくる
そのことで、“奴”が未だ何者かと激闘を続けていることが窺い知れた
しかし、それと同時に、2人にはある疑問が頭をもたげてきた
(まだ“アイツ”は誰かと・・・戦ってる?)
(一体・・・誰が!?)
2人の知る限り、“奴”とまとも渡り合える人間など今、この場にはいないハズであった
りしゃこやミヤビは『魔導大会』の決勝で負った傷の治療中
そのりしゃこの戦友達やハロモニアを守護する『暁の乙女』の面々は、邪神・マヤザックの完全復活を阻止すべく奔走中
ハロモニア城を警護する精鋭の近衛兵は大広間の外へと吹き飛ばされ、
ハロモニアきっての宮廷魔術師であるトールもやられてしまった
一体、何者が“奴”とやり合っているというのか?
―いや、今はそんなことを考えてる余裕はない
むしろ、“奴”と渡り合えるだけの実力のある人間が存在し、
その者に加勢すれば、“奴”に父の復讐をし、“奴”の野望を止められる絶好のチャンスではないか?



2人の決断は早かった
「行くよ」
「うん」
互いの顔を見合せ頷き、意志を確認した2人は腹を決めて中へと足を踏み入れた
そして、そこで2人が目にしたものは―
「えっ!?」
「何・・・これ?」
そこにはかつて荘厳な美しさを湛えていた大広間の無惨に変わり果てた姿
大理石の床はひび割れ、そこに兵士達のものと思われる武具やその破片が至るところに散乱していた
玉座へと続く赤い絨毯は大きくめくれ上がり、ボロ雑巾のように激しく傷んでいる
それだけではない
外壁に据え付けられていた飾り付けやランプはことごとく地面へと転がり落ち、それが兵士達と“奴”との激しい攻防を物語っている
さらに、辺りのそこかしこに負傷した兵士達のものと思われる血痕が飛び散っていたのだ
ほんの数時間前までは美しかったであろうこの王城が、“奴”の手によって汚されてしまったのだ
「許せない・・・」
「アタシも・・・」
“奴”の蛮行にアイリーナとアイリーネは激しい憤りを感じた
そんな中、2人の耳に激しくぶつかり合う金属音と怒号が聞こえてきた
素早く音のする方へ目を向ける
するとそこには、あの仇敵の姿と見慣れない姿とがあった



キィィィン!! ガキィィィン!! ギャリッ!! キュイン!!
喧しいほどの金属音が2人の耳を衝く
その音の正体は“奴”と何者かの得物が激しくぶつかり合って起きる衝突音だ
間断なく響く金属音。見ると、“奴”の周りには3人の見慣れぬ男が包囲し、“奴”を攻め立てていた
「うおりゃあああ!」
1人の男がVの字型の形状をした大きな戦斧を振り下ろす
『ふんっ!』
ガキィィィ!!
それを“奴”―マヤザックが得物の刀で斬撃を払い退ける
すると間髪入れずまた1人の男が手にした幅広の、切っ先のない鉈のような刃物を力任せに薙ぎ払ってみせた
「うおりゃっ!」
ブンッ!!
『ハッ!』
チュィィィン!!
男の一撃に気付いた“奴”は返す刀で薙ぎ払いを受け流し、そのままバックステップで間合いを取る
と、そこへ
「もらったぁぁぁっ!」
また別の男が両手に持った鉄鞭のようなもので“奴”の背後を襲ったのだ
ビシィィィッ!!
『うぐっ!?』
男の背後からの一撃はさしもの“奴”でも躱し切ることは出来なかった
もらった打撃の重さからか、今までに聞いたことのない呻き声をあげる
しかし、“奴”とて神のはしくれ、その次の瞬間には刀を振り回し、背後の男を掻っ斬らんとした
「うおっ!?」
ガキンッ!!
男もさるもの、“奴”の反撃を2本の鉄鞭を交差させて斬撃をうまく受け止めた



『ぬうぅぅぅ・・・邪魔だっ!』
刃を止められたものの、“奴”―マヤザックは力任せに押し切り、鉄鞭の男を切り刻まんとする
と、そこへ再び2人の男が窮地に陥った仲間の男を救わんとマヤザックの背後から同時に襲いかかる
「うおりゃっ!」
「せいっ!」
ブォン!!
ヒュゥン!!
戦斧と鉈がマヤザックを真っ二つにせんと唸りをあげて振り下ろされる
「!?・・・ちぃぃぃっ!!」
その気配に気付いたマヤザックは鉄鞭の男を切り刻むのを諦め、咄嗟に飛び退いた
直後、
ガキィィィッ!!
ガッ!!
つい先程までマヤザックがいた場所に巨大な刃が2つ、振り下ろされた
マヤザックの届くハズだった刃2つは虚しく空を斬り、代わりに大理石の床を大きく穿った
「くそっ!」
戦斧を握った、まるでライオンのたてがみのような長髪の男が討ち洩らしたことを悔しがる
そして一方、
「おい、大丈夫か?」
鉈を持った、刈り込まれた短髪に黒眼鏡の男が窮地に追い込まれていた鉄鞭の男を気遣う
「あぁ・・・なんとか・・・」
鉄鞭の男は短髪の男にそう答え、息を整える
その間マヤザックは3人から遠ざかり、同じく呼吸を整えていた
『はぁ・・・はぁ・・・』
さしもの化け物とはいえ、多勢に無勢、3人がかりでは相当分が悪いようだ
いつもの余裕綽々といった表情ではなく、苦しそうな表情になっていた



僅かばかりの距離を置いて睨み合う3人の男とマヤザック
得物をしっかと持ち、互いに隙を窺う両者
一触即発の緊迫した空気が、このだだっ広い大広間ですら浸食していく
そのえもいわれぬ空気の中に、先程この一室に侵入したばかりのアイリーナとアイリーネも呑み込まれていくのであった
2人も今までそれなりに修羅場に足を踏み入れたことはあるが、それでも息詰まり、身体が否が応にも硬直してしまう
今のこの局面こそが2人が体験したことのない、真の修羅場というものなのか・・・?
2人はただ、固唾を呑み、息を潜めて両者の再激突を待つばかりであった
と、そんな中、2人はあることにハタと気付く
(あれっ?)
(あの人、確か・・・)
2人は3人の男は初見だと思っていた。だが、その中に1人だけ見覚えのある顔があったのだ
二振りの鉄鞭を持った、キノコ頭の男・・・
一体、どこで見たのだろうか・・・?
頭をフル回転させ、過去の記憶を遡っていく
そしてようやく、2人は思い出した
((あーーーっ!?))
声にこそ出しはしなかったが、2人は互いに見合わせ、心の中で叫んだ
2人がキノコ頭の男を見たのは今から数日前、『魔導大会』の開会式の日
その時、あの男は確かに、居た



(えーと、確か名前は・・・?)
(何だっけ?)
見覚えはある。何せ、自分達の晴れ舞台である『魔導大会』で開会式の司会を行っていたのだから
だが、今この切羽詰まった状況の中では緊張のせいからか、うまく名前が出てこないでいた
(うーん・・・)
2人が難しい顔をして考え込んでいると、今まで睨み合いを続けていた双方が会話を始めたではないか?

『ファターケ、マコ、タイセイ・・・お前達、本気でこの儂を倒せるとでも思ってるのか?
儂の力は、この儂と共にハロモニアを創り上げてきたお前達自身が、十分よく解っているハズだ
いい加減、無駄な抵抗は止めたらどうだ?』
((あっ!?))
アイリーナとアイリーネはマヤザックの口からなかなか出て来なかったキノコ頭の男の名前を耳にして、
スッキリした解放感からか思わず声をあげて叫びそうになった
慌てて手で口元を押さえ、声を出さぬようにして互いの顔を見合わせる
そうだ、ようやく思い出した
あのキノコ頭の男の名は『マコ=ドゥオーニモ』であった
あの時のマコはにこやかな表情で観客に愛想を振り撒いていたが、
今、目の前でマヤザックと対峙しているマコは笑みが消え、鋭い眼光でマヤザックを睨みつけている
とても同一人物とは思えないような変わりっぷりだ



マヤザックの問いかけに険しい表情を崩すことなく、マコはマヤザックをじっと見据えたまま
静寂の時間が続き、張り詰めた空気が大広間全体をじわじわと支配していく
やがて、その張り詰めた空気は、マヤザックとマコ達3人のみならず、“部外者”すら呑み込んでいった
(・・・・・・)
大広間の入り口で両者のやり取りを遠巻きに見ていたアイリーナとアイリーネも、その空気の中に呑み込まれてしまった
当初、あわよくばマヤザックの寝首を掻こうとしていた2人でさえ、今のこの状況下ではただただ傍観する他なかった

静寂がしばらく続いた後、ようやくマコがゆっくりと、静かな口調でこう答えた
「マヤザックさん・・・いや、マヤザック!
この世界の創造主であるあなたの力は十分にわかってる・・・」
マコの声は明らかに以前『魔導大会』をしていた時の明るく弾んだ声ではなく、むしろある種の悲しみを帯びたものであった
そして、その悲しみを秘めた声が突如、激情へと変わる
「・・・でも!だからといって、あなたにこの世界を好き勝手にメチャクチャにされるのを見ている訳にはいかない!
あなたと私達・・・そして、多くの人々が長い年月と労力をかけて作り上げてきたこの世界を!壊す訳にはいかない!」
マコの激情迸る咆哮は、その様子を遠巻きに見ていたアイリーナとアイリーネにも痛いほど伝わってきた



続けてマヤザックに名指しで呼ばれた長髪の男・ファターケも吠えた
「そうだ!何が気に食わねぇか知らねぇが、手前勝手でこの世界を消されるのを指くわえて見てられるかよ!?」
そして、短髪に黒眼鏡の男・タイセイも振り絞るように絶叫した
「・・・あんたに、トゥンクが残そうとしたこの世界を・・・
一度この世界を見捨てたあんたに・・・壊す権利は、ない!」
タイセイは辛辣な言葉を吐き捨てると、再び武器を構え直し臨戦体勢に入る
それに続けとマコとファターケも同時に構えを取り、対峙する邪神・マヤザックを睨みつけた
しかし・・・
『フハハハ!実に愉快!実に滑稽だ!面白い!面白いじゃないか?』
マコ達3人の心痛な叫びをマヤザックはこともあろうか一笑に付したのだ
「おい、テメェ・・・何がおかしいんだっ!?」
マヤザックの嘲笑にカチン!ときたファターケが吠える
だが、マヤザックはお構い無しにせせら笑いを続けた
一触即発。殺るか殺られるか?―この切迫した場面で、何故、奴は笑って居られる?
一体、奴の余裕は何なのだ?奴には何か“切り札”が有るのか?
マヤザックの不遜な態度に、3人の感情は怒りと困惑が入り雑じり、掻き乱された