元・暁の乙女の一員・リカサークの意向もあって、ハロモニアへと急ぐ一同… 特に大きなトラブルも無く、旅は進んでいく… ただ、その道中でリカサークから聞かされた話はショッキングなものだった… ハロモニア女王の体力の低下とともに『時空の歪み』が現れ始めた… 勿論、王国としても、何も策を講じてなかったのではなく、実は、秘密裏に元・『暁の乙女』達を派遣していたのだ… その話はトールの耳には入って来なかった… それもそのはず、『時空の歪み』に立ち向かった者の多くが負傷し、傷つき、中には行方不明になったものまでいた、と言う… もし、それが国中に知れ渡ったら、パニックになる…。そう、考えて女王が箝口令を敷いたのだ… サキ達、トール達が事態の深刻さに何も言えない状態の時に、運悪く、遭遇してしまう… あの、『禁断の兵器』ゴーレムと… ハロモニアまであと一歩、というところで、再びゴーレムに道を阻まれてしまうサキ達… 今回はよりによって2体だ…。しかも、一回り大きいような気がする… 前回はサキ達に心の余裕がなかったからか、かなり手こずったが、今回は弱点や対策もバッチリだ ただ…問題はリカサーク達だ…。果たして、ゴーレム相手に立ち回れるかどうか、だ… だが、リカサークとその仲間は全く動じていない…と、いうよりサキ達以上に余裕だ… 「まずはお手並み拝見、と言ったところですわ!」「そちらもよろしく頼むよ!」と、互いのリーダーが武運を祈り合う… そして、戦いの火蓋が切って落とされた― まず、サキ達、トール達だが、重圧をかけながら進んでくるゴーレムに対して、前回同様、的を絞らせない作戦に打って出た サキ達チームが陽動を引き受け、トール達チームが再生能力を削ぎ落とし、とどめを刺す…という段取りだ… だが、隣のリカサークチームを見てみると、そこには信じられない光景が広がっていた― 隣のリカサークチームを見てみると、そこには信じられない光景が… エローカとユイヤンは見てるだけ…リーダーのリカサークが一人で相手していたのだ 「リーダー!頑張って〜!」「昼メシ分ぐらいは頑張ってや〜!」「…ちょっと、アンタ達!少しは手伝いなさい!!」 「…ウッ!…急に腹痛が…」「あー聞こえへんなー!」「…後で覚えてらっしゃい!!」 リカサークは呪文を詠唱しながら逃げ回っているが、けっこう大変そうだ… 「…なんか危なげだよね?」「ちょっと可哀想…」「助太刀に行くか?とゆいたい」 そういって、サキ、チナリ、マァの3人がリカサークの助けに入る… 「ありがとう!貴方達!」「なんとか足止めしますんで、後は頼みましたよ!」「任せて〜!」 「…実はさ、新しい魔法…考えついたの!」「え〜!ウソ〜!?」「…ここをこうして…これを…」「わぁースゴーい!!」 3人がゴーレム相手をにして、真正面から向き合った… 「ウチらの合体魔法、見せてやる!!とゆいたい」 ゴーレムに追いかけ回されるリカサークを尻目に呪文の詠唱を終えた3人… 「…よし!」「いくジャン!?」「任せんしゃい!とゆいたい!」 「行け!!合体魔法『ハクション大魔王』!!」 と言うと、マァが地面から石のつぶてを発生させ、それをチナリの魔法が拾い上げ前方に押し出し、サキが勢いと軌道修正をする… 前回の合体魔法が『砲弾』とすれば、今回のはまるで『ショットガン』だ― それがゴーレムのど真ん中に命中する!! 今まで、ちょっとした魔法では傷一つつかなかったゴーレムのボディに抉れた傷が残り深手を負わせた… 急に動きが悪くなるゴーレム… それとは対照的にリカサークチームはリカサークがやっと呪文を詠唱し終えたのだ… 「…3人とも足止めご苦労様!」とサキ達を労う一方、「…後でお説教よ!」と部下を睨み付けたリカサーク… そして、口元には勝利を確信したのか、笑みがこぼれている… 「…お待たせしました!…それじゃあ、いくわよ!」 「さぁ〜て…準備は整ったわよ…」 と、リカサークが走り回って息切れしながらも宣言する… 「…偶然にせよ、いいお膳立てもしてもらえたし…ね!」 「…それじゃあ、いくわよ!!ピンクイリュージョン!!」 そう言うなり、杖をゴーレムに向けて振りかざすと、その先端から無数の弾丸が発射され、穴だらけのゴーレムの身体を打ち抜く!! だが、ゴーレムの身体には傷が殆んどない… それでも、リカサークに慌てる素振りはなかった… 「貴方達!『水』の力を持ってるなら、雨を降らせて頂戴!」と、双子達に指示を出す 「言われなくても…」「やってますよぅ〜」と双子達も返事する… 「るてるて!!」「ずーぼ!!」 双子達得意の『水』の高等魔法の雨乞いだ… だが、何故それをリカサークがリクエストしたのか?がわからない… その理由が判明するのは、それから、ほんの数分後だった… 未だ決定的ダメージを与えられないゴーレムに対し、余裕のリカサーク… 先程使った魔法もゴーレムには効いてないのだ… だが、そのゴーレムに突如、異変が起きた!! 「グォォォォーー!!」 その場にいた全員の身体にまで振動が伝わるゴーレムの咆哮… 痛みを感じないハズの生命体が人間同様に苦しんでいるようだ… 「…やっと効果が出てきたわね!」と、笑みをこぼすリカサーク… ふと、ゴーレムを見てみると、全身が緑色に浸食されている!! 「…もうこれでお・わ・り・ね!」と、勝利のポーズまで決める有様… 「大丈夫なんですか!?敵に背を見せるなんて…」と、サキが忠告するが、 「大丈夫よ!もう、あの子の身体はコレに動きを封じられてるから!!」と言って、サキにあるものを見せる… 「…これが、あのゴーレムを封じ込めた『手品のタネ』よ!!」 リカサークの手のひらに乗っているものを見て、サキは言葉を失った… 「…これが、あのゴーレムを封じ込めた『手品のタネ』よ!!」 そう言って、リカサークがサキに見せたものは… 何やら、小さくて堅くて茶色いものだった… 「…あのー、これって…何ですか…?」 内心、答えはわかったのだが、お約束で聞いてみたサキ… 「えっ!?コレ!?何だと思う〜?…ジャーン!正解は『お花の種』でした!!」と、自慢気に言うリカサーク… その場にいた数名が、あまりの下らなさに殺意を覚えた…のは言うまでもない… さらに、追い打ちをかけるように、 「コレ、実は普通のお花のタネなのよ!…ワタシの手品には、タネも仕掛けも有りませ〜ん!!なんちゃって!テヘ!」 その場にいた全員が殺意を覚えた…確実に… そんな中、ユイヤンがリカサークに向かってダッシュし、 「そんなんで笑いが取れるか、ボケ!!」と、隊長であるハズのリカサークに対して、ラリアットで突っ込みを入れたのだった… ユイヤンのラリアットを食らって、ヨロヨロになりながらも立ち上がるリカサーク… 「…何よ!!みんなして!!ひどいじゃない!!」と、癇癪を起こしてしまった… それを見て(まずい!)と思ったエローカが、 「いや〜!!さすが隊長!!鮮やかな魔法です!!」とヨイショする… すると、 「やだ!もぉ〜!エロちゃんたら!わかってるジャーン!!」と、一転して、上機嫌になった… リカサークは、おだてると機嫌が良いのだが、拗ねると厄介、という人だと皆が理解した 上機嫌になってホッとするが、同時にため息もつくエローカ… さながら中間管理職の悲哀を感じさせる… そんなエローカに、何も言わず、ポン!と肩を叩いたのが、大所帯を切り盛りしているサキだった… しばらく見つめ合った後、二人で励まし合ってたのが印象的だ… 一方、上機嫌のリカサークはというと、動けないゴーレム相手にとどめを刺そうとしている… 「ワタシのマジックもこれが最後よ!!しっかり見てて頂戴!…咲き誇れ!!ブルーミング!!」 言い終えると同時に、指をパチン!と鳴らすリカサーク… すると、緑色に覆われたゴーレムの岩肌にピンク色の綺麗な花が咲き始めた… 「素敵ー!!」「綺麗…」思わずみんなが賞賛の言葉を口にする… 「あの寒いギャグが無ければええんやけどな〜」とユイヤンが、ぽつりと漏らす…。なんだかんだで実力は認めているのだ… だが、その独り言がリカサークに聞こえてしまい、哀れユイヤンの頬っぺたはブルドッグみたいになるのだった… さすが『隊長』と呼ばれるだけあって、その実力を遺憾なく発揮したリカサーク…。その腕前は正しく一級品だ… だけど、ギャグはからっきしだよ三級品… それと、被害妄想癖もあるような、ちょっとイタいキャラなのも困りものだ… サキ達は、リカサークが会わせたい…と言ってるまだ見ぬ『仲間』がまともな人でありますように…と心の底から祈った… 一方 王都・ハロモニアの某所― 「あーっ!またゴーレムがやられたー!せっかく一生懸命作ったのにー!!」 「…多分、デザインに問題がある!と思うのワタシだけ!?」 「…何ですって!?」 「何でもない何でもない…。でも、厄介ね…。まさかリカちゃんが“あっち”についちゃうなんて…」 「ホント、信じられない!!そんなに見栄張って嬉しいの?って言ってあげたいわ!!」 「…たん!ちょっと落ち着きなって!!」 「もー!!どうもこうもないっすよ!!」 「まぁ、いいじゃない?『お楽しみはこれから!』ってことで…」 「わかったわよ…」 心強い味方・リカサーク達を加えて、いよいよ、王都・ハロモニアに到着間近のサキ達… 一方、りしゃこ達は… 「…むむむ、逝け!『ぴーちゃん』!!」「何の!『ほのまら・改』!!」「であー!!」「じょあっ!!」「やったなー!!」 「ほら、りしゃこー!ミヤビー!お昼よー!!」 「わー!お腹ペコペコだもん!!」「ふぅ…疲れた…」 二人がメーグルの呼ぶ声に反応して、稽古部屋から出てきた… 「ねぇねぇ!今日のお昼、何、何?」「なんだもーん?」 「今日はミヤビの大好きなエビフライだよ!」 「やったー!エビフライー!」「エビー!」 「…もう!そんなにはしゃがないの!」 「へーい…」「わかったもん!」 二人を先導して、食堂へ向かうメーグル… その間、メーグルは考えを巡らせていた… (…二人がここに来て、二週間…。物凄く成長したわ…。ひょっとしたら…ううん、必ず…あのプロジェクトは成功させる…) りしゃことミヤビを食堂まで連れて行き、自分は専用の部屋に戻るメーグル… そして、ベットに身体をゴロンと投げ出す… (…今のところ、Xデーまでは順調に事は進んでいるわ…。…後はなんとか周囲に悟られないようにしないと…!) 思い詰めた表情のメーグル…。しばらく物思いに耽る… すると、突然、部屋の扉がガチャリと開いた 「おいおい、そんな辛気臭ぇ顔するなよ!?眉間に皺寄せてると、オバサンになるぜ!?」 「そうよ、一人で思い詰めても仕方ないじゃない!コレでも逝っとく?」 そんな軽口を叩いてメーグルの部屋に入ってきたのは… マイミンとエリカンだった… 二人はメーグルより先に、りしゃこ達に接近したのだ…。勿論、目的は王家の血筋を引く『りしゃこの捕獲』に他ならなかった… 「しかし、長官もとんでもないことを考えつくのな…」と、エリカンの持ってきた酒をあおるマイミン… 「…『傀儡政権』が目的だった…なんてね…」 エリカンもマイミン同様に酒をあおり始めた… 「…長官も昔は、あんなのじゃなかったのにね…」 メーグルもマイミン達に付き合って、酒をあおる… …その目は、どこか寂しそうだ… 3人の話は続く… 「…私はバカだから、よくわからねぇけど、長官がやりたいのは『時空の歪み』を利用して、この閉塞した世界を変えたいんだろ?」 「…そのようね」 「だから、りしゃこを使って、まずは『魔導大会』で優勝させる…」 「そうね…。優勝した際の願い事として女王の『魔力』をりしゃこに引き継がせる…と」 「女王の『魔力』を奪いされすれば、立ち向かえるものはいない…」 「後は長官の思い通り…ってワケね…」 「…その『器』として、あんな小さな子供を使うのは…私は反対だな!」 そう言うと、マイミンはまた、グイっと一気に酒を飲み干す… そんなマイミンの姿を見て「…だから、ワタシ達がその長官の野望を止める、ってワケじゃない?」 と、元気づけるようにエリカンが言う… そして、マイミンとメーグルの肩を掴んで抱き寄せる… 「…ワタシ達が組んだら、きっと出来る!…ワタシはそう思うの…」 少しの間、沈黙が続き、そして沈黙が途切れた瞬間、つい笑いがこぼれる… 「何、クサイ事言ってんの〜!?」「ったく恥ずかしい奴だなぁ…」「…もう!せっかく綺麗にまとめようとしたのに〜」 ただ、3人の顔にはいつの間にか笑みがこぼれていた… 酒を飲んで、少しほろ酔い気分のメーグル… あまり酒が飲めないのに、酒に付き合ってくれたマイミンとエリカンはたった2杯で酔い潰れている… 二人の気遣いに感謝しながら、りしゃこ達のいる食堂へ戻った… すると、食堂にはりしゃこ達の姿がなく、代わりにちっちゃい人がいた… 「メーグルちゃん!どう?順調に言ってる〜?」 「ええ、何とか…」 「そ〜う?良かったぁ〜!オイラ、もう心配で心配で…」 「…もう、これで今日3回目ですよ?聞くの…」 「…だってぇ〜仕方ないジャン!楽しみなんだから〜!!」 「わかってますよ…」 「…エヘヘ。じゃあ、頑張ってね〜ん!」 と、言うと、ヤグー長官は立ち去っていった… 立ち去るヤグー長官を見送るメーグル… ヤグーの計画は、今のハロモニアに『混乱』と『破壊』をもたらすだろう… 『創造』のための『破壊』であれば、まだいい… だが、今回の計画はあくまでも、ヤグーの、己の私利私欲によるものだ… 確かに、今までに受けた恩義はある… だからこそ、『道』を正さなければならない… …例え『裏切り者』と呼ばれたとしても… そう自分に言い聞かせ、メーグルはりしゃこ達のいる稽古部屋に向かう… 稽古部屋では飽きることなくりしゃことミヤビが手合わせを行っていた 「てやー!」「まだまだー!」「…!」「…!」 メーグルは純粋に魔法の特訓をしているりしゃこ達を見ていて、胸が締め付けられる思いだった… …大人のエゴで、こんな小さな子供達を巻き込んでしまったのだ… 特にりしゃこには、王家の血筋、というだけで女王の『魔力』を引き継ぐ…という重責と 引き継いだ後の、新しい女王としての生涯、という重責を、背負わせてしまうのだ… そう思うと、メーグルはりしゃこ達にはいつも自責の念にかられるのだった… メーグルが稽古部屋の入り口に立っていることに気付いたりしゃこ達が手を振る… (…もし、『王家の血筋』じゃなければ、この子達もきっと、普通の子供として暮らせたのにね…) そう思ったメーグルに、ふと、ある考えがよぎった… 「…よし、りしゃ!ミヤ!…今日の訓練はここまで!!」 メーグルの突然の行動に、びっくりするミヤりしゃ… 「えっ?どーしてー?」「もっと特訓とやらをやりたいもん!!」と、言い出すミヤりしゃに、 「あなた達はオーバーワークし過ぎよ!たまには休まなくちゃ!さ、街に遊びに行くわよ!!」 メーグルの提案に、 「え?いいの?」「ホントだもん?」と聞き返すミヤりしゃ 「…あら?遊びたくなけりゃ別にいいのよ…別に…」と、少し意地悪をするメーグル…。普段のメーグルならしない言動だ 「やだー!遊びたいもん!!」「やだやだ!遊ぶ遊ぶ!」とすかさず答えるミヤりしゃ…。やっぱり遊びたい盛りなのだ… そんな光景を見てると、まだまだ子供だな…と思うと同時に、安心したメーグルだった― 魔法の特訓を切り上げ、代わりに英気を養うことにしたりしゃこ達… そういえば、ハロモニアに来て以来、りしゃこ達は街を見たことがなかった 何しろ、マイミンとエリカンには、袋詰めにされてハロモニアに連行されたのだ… 加えて、二人に許された行動範囲は館の中だけ…窓越しでしか、王都を知ることが出来なかった ところが、りしゃこ達はそのことで不満を口にしたことは一度もない… ただ、『強くなりたい』とだけ言った…。謂わば、今のりしゃこ達は向上心の塊なのだ… 『魔導大会に優勝して、ママに会う』…その目標が見えているからこそ、魔法の特訓に明け暮れる日々を苦とも思わないのだ… メーグルとしては、今日ぐらいはそんなことを忘れて、子供らしく過ごして欲しくて街に連れ出す決断をした… 3人で連れ立って街を歩く… どうやら、お屋敷は王都の東に位置しているようだ…。そこからお城に向かってのんびりと歩いていく… 「どう?ハロモニアは?」と、メーグルが問いかけると、りしゃこ達は 「すっごーい!!」「…大きーい!!」とただ驚いている… 純朴な子供達の姿に、つい、メーグルの顔もほころんでしまう…