「…はぁ〜〜〜!!やっと着いた〜〜〜!!」 
「ホントみんな、お疲れ様〜!!」 
「やっとお家に帰れる〜」「だよね?だよね!」 
「クゥーン…」 

王都・ハロモニアの正門前で、喜びを爆発させるのはサキ達、トール親子、リカサーク達、総勢11名と一匹だ… 

りしゃこ達が旅を始めて、はや2ヶ月… 
思えばいろんな苦労もあれば、喜びも…また、出逢いも別れもあった… 
そう思うと、サキはつい、涙腺が緩んでしまった… 
だが、それは、サキと一緒に旅した4人と一匹にしても同じだった…。思わず涙ぐんでいる者もいる… 

そんな様子を見てたリカサークが、 
「ホラ!あなた達!まだまだやることはこれから、い〜〜〜っぱいあるからね!!」とサキ達の肩を抱き寄せる 
「…ん!そうですよね!…まずはりしゃこ達を返してもらわなきゃ!」 
「…メーグルにも話を聞かないといけないしね!」 
「どうせだったら、魔導大会にも出場してみよっかな?」 
「…あーっ!やること一杯!!」 
「でも…その割には嬉しそうじゃないのサキ!」 
「エヘヘ、わかる?」 
ハロモニアに到着したことで、サキ達のテンションはますます上がるのだった―




着いて早々、やることが一杯なサキ達… 

まずはりしゃこ達の探索と、誘拐したメーグルへの接触だ… 
りしゃこ達の安否が気になるし、メーグルの意味深なメッセージも気になる… 

少し深刻そうな顔をしてたサキを見てリカサークが 
「…ま、やらなきゃいけないことは多いけど、『急がば回れ』―まずはワタシ達のアジトへ案内するわ!」と申し出る… 

確かにその通りだ…やや、ことが上手く運び過ぎているのは気掛かりだが… 
だが、ここまで来て、手段をあれもこれもとチョイスしている時間はない… 
まずはリカサークの申し出に乗っかり、今、出来る最善を尽くすことだ… 

そういうこともあって、サキにリカサークの厚意を受けることにした―



サキ達一行はリカサークに案内されるまま、王都の南東部に位置するアジトに向かった 

お城からは遠いが、あまり目立たないため、こっそり活動するには却って好都合だった 


そして、アジトに到着したが、一行はその建物に驚く… 

「…本当に、この家なのかい?」と、トールが念を押すようにリカサークに尋ねる… 
「…ええ。さすがにトール様もこの建物はご存知でしたか?」と、リカサークが答えると 
「…ああ。だけど、この館の主が『協力者』だとすれば、キミ達の『組織』は信用するに値するな…」と、トールが肩を竦めて言った… 

サキには二人のやりとりが少しもわからなかった… 
それはトール以外の全員がそうだっただろう… 
ただ、なんとなく、『大物』じゃないか…という感じはした… 
と言うのも、この館、庭がやたらとバカでかい… 
例えて言うなら、野球やサッカーが出来るくらい、広いのだ…。館の主の趣味なのか? 

ちょっと中に入るのが躊躇われるような立派な館に、勝手に門を開けて、ツカツカと進んでいくリカサーク… 
一行もその後をついて行く…



大きな中庭を横切り、館の門にたどり着く一行… 
ここでもリカサークは扉をノックせずにツカツカと中に入っていく… 

呆気にとられる一行だが、仕方なくリカサークについて行く… 

大広間を抜けて階段を上がり、突き当たりの奥の部屋に向かう… 
そして、館の主の部屋にきたところで、リカサークが「ちょっと待ってて…」 
と言って、一人で部屋に入っていく… 

すると、リカサークと館の主の会話が聞こえてくる… 

「…ホラ!起きて!」 
「…んあ?…よう…リカちゃん…zzz…」 
「ちょっとぉ!起きてよ!お客さんを連れてきたの!早く起きて!」 
「…ん〜。眠いんだよ…後にしてくんない?」 
「ダ〜メ!」 
「…んもう…。うるさいなぁ…」 
「!!ち、ちょっと!何すんの!!」 

パシーン!! 

「…痛ってぇ!何すんだYo!!」 
「もう!何どさくさに紛れてエッチなことするのよ!!変態!!」 
「別にいつもやってることじゃねーかYo!!」 
「…そ、それはそうだけど…、タイミングってものがあるじゃない!」 
「へいへい…わかりました…っと!」



ちょっとヒワイな会話が途切れた後、リカサークの急かす声がずっと続く… 

そして…館の主がやっと姿を現した… 
パッと見はイケメンだが、どこかしら、中性的な感じもする…。大きい目とスリムな体形が印象的な人だ… 

リカサークが改めて、みんなに『協力者』を紹介する… 

「みんなに紹介するわ!彼女は元・暁の乙女の4代目親衛隊長、ヨッシーノ!よろしくね!」 
「やぁ、みんな!よろしくだ・Yo!!…でも、仲間なんだから、『ヨッちゃん』って、気さくに呼んでくれYo!!」 

見た目とのギャップがあり過ぎる人物だ… 
だが、肩書きとしては女王親衛隊の隊長だった訳だから、実力は期待しても良さそうだ… 

「やはりキミだったか!」と、トールがヨッシーノに近づく 
ヨッシーノもトールのことは知ってたらしく、 
「トールさんも協力してくれるんですか!?」と、いたく喜んでいる… 

聞けば、トールが『時空の歪み』問題を女王に報告した際、真っ先に反応したのが、ヨッシーノだったのだ… 
ヨッシーノが女王に『時空の歪み』の調査を進言したものの、通らなかった… 
が、ハロモニアの未来を憂う同志を募ることには成功したのだった… 

二人にはそんな縁があった…



ハロモニアの守護神である『暁の乙女』を退いて、背負うものがなくなったヨッシーノは、『時空の歪み』の発生原因の究明に奔走していた… 
また、女王の後釜となる人材の発見にも力を注いでいた… 

そんな中、王家の血筋を引く人間がいた―という情報を受けて、りしゃこをスカウトしようとした訳だが、ヤグーに先を越されてしまった… 
先を越された、とわかったときのヨッシーノの悔しがり方は相当だったという… 
実際、ヨッシーノはヤグーのことを快く思っていなかった… 
実は、二人は『暁の乙女』の先輩・後輩の間柄であり、かつ、ヤグーは3代目の親衛隊長だったのだ… 
その大事な責務を不祥事絡みで自分勝手に辞めてしまったのだ… 
その後をまとめるのにヨッシーノは陰で相当苦労した、という… 
ヤグーはそんな苦労があったなんて知る由もなく、ヨッシーノに普通に接してくるが、ヨッシーノは腸が煮えくりかえる思いだった… 
そんな遺恨が二人にはあった…



ヤグーが『暁の乙女』の親衛隊長の座を降りて謹慎中のときに、ちょうど初めて『時空の歪み』の発生が確認された 
また、女王の体力が低下し始めたのもこのくらいの時期だ… 
女王がヤグーを寵愛していたため、ヤグーの脱退と謹慎がこたえたのだろう… 

初めて『時空の歪み』が発生してから、その規模と数は急拡大していった… 
中には『時空の歪み』による被害を受けるものも出始めた… 

そのため、王国内の有識者が集まり、『時空の歪み』の研究・検証も始まり、女王へ調査を進言する者も出てきた… 

そして、女王は遂に、『時空の歪み』の調査に乗り出した 
それは、奇しくも、ヤグーの謹慎が明けてからだった… 

その結果… 

『時空の歪み』によって、多くの精鋭達が被害を受けてしまった…! 
怪我してなんとか帰ってきた者、『時空の歪み』に巻き込まれて、そのまま帰ってこなかった者もいる… 

ただ、ヤグーの動きに合わせたかのように事が起きていったので、『ヤグー=黒幕』説がまことしやかに囁かれ始めた…



ヤグーの動きに合わせたかのように発生した『時空の歪み』… 
止めるためには、『ヤグー=黒幕』を立証しなければならないし、また、解決法を聞き出さなくてはならない… 


ヨッシーノはそこで、密通者を潜りこませ、尻尾を掴むように指示しているという…



今回の件は、ハロモニア世界の『破壊』を望んでいるヤグーと、『維持』を願っているヨッシーノ達の対立なのだ… 
その『鍵』を握る存在として、りしゃこが巻き込まれている… 

サキ達の選択肢は言うまでもない… 

『ハロモニア世界の崩壊を防ぐためにも、りしゃこを奪回する!!』 
これだけだ… 

ただ、難題もある… 

例えば、女王の体力低下で『世界』が維持出来ないのであれば、その『魔力』をりしゃこに継承させる必要があるし、 
同時に、『ヤグー=黒幕』も証明しなくてはならない… 


そこで、ヨッシーノとリカサークが考えた案が、 
@魔導大会にりしゃこを優勝させる 
Aりしゃこに女王からの『魔力』を継承させる 
Bりしゃこを奪還 
Cヤグー退治 
D『時空の歪み』を無くして世界を守る 
というシナリオだ… 

さすがのヤグーも『器』を土壇場で奪われれば世界の『破壊』を諦めるかも知れない… 
それに、ヤグー退治に今、動くとすると、真実が『闇の中』に葬られるだろう… 
魔導大会まで、あと10ヶ月… 
それまでの辛抱だ…



サキ達の腹の内は、ヨッシーノ達に協力して、りしゃこ達の奪還と、ハロモニア世界を維持することで決まってはいた… 

だが、一方で、ハロモニアで落ち合うことになってたメーグルのことも気になる… 
サキ同様、以前にEX-ZYXのメンバーとして、ヤグーには世話になってたからだ…。敵対するヤグーの部下、ということもあり得る… 

『救い』を求めてきた『親友』と反目して闘う…これほど辛いことはない… 

だから、サキはヨッシーノに、 
「…もう少しだけ、待ってもらえませんか…」 
と返事をした 


その返事をした途端、部屋の扉が不意にガチャリと開き 
「…只今、戻りました!」という声が聞こえた 

みんなが一斉に扉の方へ振り向いた… 
だけど、サキとモモだけは振り向かなかった…、というより、振り向けなかった… 
懐かしい声… 

二人の目には涙が浮かんでいて、とても恥ずかしくて後ろを振り向けなかった… 
ただ一言、 
「…遅かったじゃない!」と毒づくことしか出来なかった… 

声の主も、いつしか涙声に変わって、 
「…ありがとう」 
としか言えなかった…



ヨッシーノが送り込んだ密通者…それは嬉しいことにメーグルだった… 

同じ仲間として、再び闘うことが出来るのだ… 
その喜びはいかばかりだろうか… 

感動の再会は、それだけでは終わらなかった… 

「只今!!」「戻りました!!」 

またしても聞き覚えのある声がする… 
予想通り、声の主はマイミンとエリカンだった 

喜びを分かち合っていた3人の輪が、5人の輪になる… 

はたから見ても、とても素晴らしい光景だった 

一段落したところで、ヨッシーノが再度、その場にいた面々に、メーグル達が何故、仲間になったのか?といういきさつを話した… 

元・暁の乙女による『時空の歪み』の調査は、大きな痛手を伴って、大失敗に終わった… 
ただ、逆にその失敗が危機感に繋がり、協力者が増えたのだ… 
ヨッシーノを中心とした、世界を守る組織… 

その名も『輝く女神』…



『時空の歪み』に危機感を抱いた人間達が集まり、『暁の乙女』に倣って組織したのが『輝く女神』… 

その集まりに参加し、メーグルら3人は感化され、世界を守るべく『輝く女神』に入った… 

だが、その後、ヤグーからも世界の破壊を持ち掛けられたのだ… 
ヤグーは3人からすれば恩人なのだが、まさか、世界の破壊を目論んでいるとは思わなかった… 
そこで、リーダーのヨッシーノに相談し、ヤグーの動向を監視していたのだ 

『りしゃこ達の誘拐』もヤグーからの指示だった… 
出来ればりしゃこ達を悪用されないためにヨッシーノらが保護しておきたかったが、一歩遅かった… 
それでも、メーグル達が逐一観察と報告をしてくれていたので不安はなかった 


サキ達がその話を聞いて、「りしゃこ達に会いたい!!」と言い出す… 
特にサキがそうだ 

だが、ヤグーからりしゃこ達を奪還するのは今はまずい… 

そこでリカサークが名案を思いついた! 
それをメンバーに耳打ちする… 

「…それは名案だ!」「なかなかやるじゃないかYo!!」「…いけるカモ!」「それでいこう!」 

みんなが同意した 

果たして「名案」とは?



リカサークのいう「名案」とは? 

「りしゃこ達を奪還するのがダメならのりこめば?」 
「はぁ!?」 
一同が困惑する… 

「ホラ!メーグルに手引きしてもらって、ヤグーの仲間になったフリをするの!!」 

「アーッ!!」 
一同から嘆息が漏れた… 

「…成る程、その手があったか!」と、トールも納得する… 

「でも、ウチらが今、入り込んだら怪しまれるんじゃない?」とサキが提言する… 
「アラ?それなら大丈夫!潜り込める理由はあるわ…だって、あなた達は大事な『人質』を取られているのよ!」 

「あ、そっかぁ?」 
とサキは納得する… 

「…どんな待遇が待ってるかわからないけど、やるしかない…か…」 
と、モモが決意めいた発言をする 

サキ達は決意した… 
ヤグーの計画に乗ってやる…と 
その上で、りしゃこ達を取り戻し、 
世界を破壊させない…と






ハロモニア王都・某所― 


「よ!久しぶり!!」 
「…ええ。お久しぶりです!」 
「でさ、あの、例の計画だけどさぁ〜、ホンット〜に大丈夫?オイラ、心配で心配でさぁ〜」 
「大丈夫です大丈夫です!ワタシ、こう見えても『暁の乙女』一の秀才だったんですから!」 
「いや〜!わかってる!わかってるよ!…でもさぁ〜、世の中何が起きるかわっかんないじゃん!?」 
「まぁまぁ…落ち着いて…。ヤグーさんの反対勢力の炙り出しはうまくいってますし…、スパイ活動もバッチリです!」 
「…だったらいいんだけど…」 
「もう!ヤグーさんたら心配性なんだから!」 
「アンタがノー天気過ぎるのよ…」 
「ふぇ〜ん…。そんなに言わなくても〜」 
「わ、わ、わかった!オイラが悪かったからぁ〜!泣き止んで!ね!ね!」 
「…わかればいいんです!…わかれば!」 
「嘘泣きかよっ!!」



サキ達がりしゃこ達の奪還のため、ヤグーに合流することを決めた訳だが、細かい詳細を決めておく必要があった… 

ヤグーだってバカではあるまい…。ヨッシーノやリカサークのように、反対勢力がいることはわかっているだろう… 
こちら側が、『輝く女神』のスパイであることを悟られないためにも、なるべく、接点がないように装う必要性がある… 

そこで、当面の間は普通の宿屋を仮住居にして、りしゃこ達を探すフリをし、その後、メーグルが自然な形でスカウトする…という作戦にした… 

また、今回の件は『トップシークレット』扱いにして、この場にいた人間だけの秘密にした… 

「じゃあ、僕達はこの辺で…」と言って、トール達親子が退席する… 
「みんな頑張ってね♪」「応援してるよ♪」と双子達もサキ達にお別れの挨拶をする… 

トール達親子を見送った後、ヨッシーノが、 
「宿屋はオレが手配しておくYo!!でも、今日はウチに泊まっていきなYo!!」と提案する 
「…そうね。歓迎会もしたいし…」とリカサークも同調する… 

サキ達はその提案を受け入れることにした…



ヨッシーノとリカサークの提案で歓迎会が催された 

気の置けない仲間たちによる楽しいひととき… 
いつしか、あっという間に時が過ぎて夜になった… 

みんなが寝静まった頃、サキはなかなか寝付けないでいた… 
少し夜風に当たろうとバルコニーに向かった 
お酒を飲んだせいか、火照った身体に涼しい風がとても心地いい… 
そして、バルコニーから夜のハロモニアの街を眺めてみる… 
すっかり灯りは落ちているが、月に照らされた街がとても綺麗だ… 

ふと、背後に気配を感じる… 
そこにはモモがいた… 

言葉を交わすことなく、サキの横に立ったモモ… 
ただ、サキ同様にボーッと街の姿を眺めていた… 

そして、ふと、 
「…綺麗だよね…」 
と、呟く… 
「…うん、そうだね…」 
とサキが返事をする… 

「…あのさ、変な話だけどさ…、アタシ…この旅が終わったら…みんなと…みんなと一緒に、暮らしたいな…」 
「…そうだよね…きっと楽しそうだよね…」 
「…だからさ…、今回の計画…、絶対…成功させようね…」 
「…うん…。けど…上手くいくかなぁ…」 
「…大丈夫!きっと上手くいくよ!だって…モモがいるんだよ!」 

二人の間でしばらく他愛のない話が続き、 

朝を迎えた…






翌朝― 

サキ達5人は早速、特訓に励み出した 
最終的にりしゃこ達を奪還する際、ヤグーの思わぬ抵抗に会うかも知れないことを想定して… 
また、考えたくはないが、もし、りしゃこ達がヤグーに洗脳されていた場合、それを止めるためだ… 
だから、魔法の特訓だけでなく、剣術、体術などの特訓も精力的にこなした… 

それが済んだら知識の習得に努めた…。自分達で『時空の歪み』が消滅させることは出来ないか?と、専門外ながら頑張った… 


ふと、気が付けば一月、二月と過ぎ… 

魔導大会まで、あと半年、となった…