魔導大会まで、あと半年となった… 極秘にヨッシーノとリカサークの下で特訓を重ねたサキ達… 「…みんな、強くなったよね…」とリカサークが言えば、 「…ホント、うかうかしてられないな…」と、ヨッシーノも相槌を打つ 二人の誉め言葉に対して、いつもであれば遠慮がちなサキ達なら 「…そんなことはないですよ…」と謙遜して答えるところだが、 「結構、強くなったでしょ!!」と胸を張って言った それだけ、ハロモニアに来てからの数ヶ月を有意義に過ごし、成長した自負があるからだ… サキは魔法のスキルアップを果たし、 モモはより一層、身のこなしと体術に磨きをかけ、 ユリーナは魔法と剣術を訓練し、 チナリは持ち前の素早さとトリッキーな動きを会得して、 マァは身体を鍛え上げた… 丁度、今日がヤグーのところへ潜入する日だ… いよいよ、ヤグーの下へ潜入するサキ達… ただ、今後半年は精神的にきつい日々を過ごすことになるだろう… 何せ、敵の『ど真ん中』に潜り込むのだ… もし、スパイということがばれたら、命を落とす可能性もあり得る… だが、サキ達の覚悟は決まっていた… 『運命』… きっと、このメンバーは、『偶然』の出逢いなんかではなく、『必然』… 一緒に過ごしてきた日々でそう感じたのだ… で、あれば、またりしゃこ達と一緒になれる『必然』が、きっと待っている… そう思うと、俄然、勇気が湧いてきた… 「そろそろ行くわよ!」 メーグルの声でヨッシーノの館を退出するサキ達… (頑張れYo!!)という意味を込めて、ヨッシーノとリカサークが敬礼する… サキ達も、(頑張ります!!)の意味を込めて、敬礼のポーズをして… 『投げでっこ』をした… メーグルに導かれて、ヤグーの館へと向かうサキ達… 王都・ハロモニアは、中央に城が位置し、その周囲を囲むように東西南北に8つのエリアに区切られている… それだけに、エリアの一つ一つがかなり広さの街なのだ… ヨッシーノの館は南東部にあったが、ヤグーの館はその真上の北東部にある… そこまでを、旅で馴れ親しんできた馬車で移動する… 約1時間経っただろうか…ようやくヤグーの館に到着した… やはり、ヨッシーノの館同様、かなりの広さだ…。正門を通り、中庭を抜けて、館の玄関にたどり着く… 玄関にたどり着いたところで、メーグルから再度、念を押される 「…いい?今回は『りしゃこを人質に取られて仕方なく…』というシチュエーションだからね…。上手くやってよ!」 その言葉に、サキ達は力強く、 「任せといて!!」 と、答えた… まずは、りしゃこ達奪還の第一関門だ… サキを中心に手を重ね合って、気合いを入れる メーグルに案内されて、遂にヤグーの館に到着したサキ達… 平常心を保とうとしても、どうしても緊張が高まる…。特にサキやモモなら尚更のことだ… そして、遂にヤグーが部屋に到着した!! 緊張が最大限にまで高まる!! だが、ヤグーは意に反して 「みんな、どうもお疲れちゃ〜ん♪よく来てくれたね〜♪あ、シミハムもピーチッチもいるじゃん♪元気〜?」 まるでマシンガンのようにしゃべりまくる… サキとモモ以外は、初めて聞く「シミハム」と「ピーチッチ」に、不覚にも大爆笑してしまった… 本来ならば、りしゃこ達の解放交渉の足掛かりにしたかったのだが、思わぬ形で見事に先手を取られてしまった… 更に、ヤグーは続ける… 「メーグルから色々と聞いてると思うけど…オイラの希望はりしゃこを今度の魔導大会に優勝させる手伝いだけでいい!そしたら解放する!」 と、ズバリ言い切った… しかも、それとなく、メーグルへの牽制も忘れない… 結局、交渉はほぼ一方的に成立してしまった… ヤグーのほぼ一方的な決定により、りしゃこの解放条件が決まった… ヤグーの腹積りはわからないが、乗らないことには前に進みそうにもない… 出来れば、もっと有利な条件を引き出したかったが、細かい制約のないヤグーの提案はサキ達にとって、却って好都合だ… みんなの気持ちは一つになった… 「…じゃあ、オイラ、忙しいからまた明日ね〜♪」 と言って、立ち去ろうとするヤグーに向かってサキが「ヤグー長官!りしゃこに…ミヤビに…会わせて下さい!」 と、嘆願する… すると、今まで饒舌だったヤグーが急に黙り込んだ… しばしの沈黙が、より緊張感を際立たせる… そして、ヤグーの口から出た答えは… 「…わかったよ。会ってきなよ♪」 と、いう返事だった… 思わず喜びを爆発させるサキ達…。二人の親代わりだったサキは、涙ぐんでしまった… ただ、ヤグーも 「しっかりと約束通り、仕事をしろよ!!」 と、釘を刺すことは忘れてなかった… 敵であるとは言え、ヤグーの粋な計らいに感謝するサキ達… 立ち去ろうとするヤグーの後ろ姿に、つい、昔を思い出して、 「…ヤグー長官…ありがとうございます!」 と、言ってしまうサキとモモ… ヤグーは照れくさかったのか、振り返らず、手をヒラヒラさせて、そのまま立ち去っていった… ヤグーの許可が下りたので、メーグルがりしゃこ達のいる部屋に案内する いよいよ、再び巡り合う時が来た りしゃこ達のいる部屋に着いたサキ達… もう、かれこれ4ヶ月ぐらいは会っていないのだ ヤグーの時と同様、どうしても緊張してしまう… サキ達が部屋に入ろうとすると、 「…いきなり入って、びっくりさせると良くないから…」 という理由で、事情説明のためにメーグルが部屋に入った その待っている時間がとても長く感じられるが、とても楽しみでもある… そして、部屋の中から 「準備できたわよ!」 とメーグルの合図がする… 我先に、と部屋に雪崩込むサキ達… その部屋の中には、ミヤビがいた… 「…サキ!」 と一言叫んで、サキの元へ駆け寄る… 「…もう、会えないかと思っていた…」とサキに抱きつくミヤビ… 「…バカ…。ウチはミヤの『お母さん』なのよ…。どんなに離れていても、向かえにいくよ…」と、サキもミヤビを抱き締める… …が、サキの表情が一変した… 「ちょっと、ミヤ!あなた胸が大きくなったんじゃない!?」 サキがミヤビの『身体の異変』に気がついた 「ミヤ!あなた胸が大きくなったんじゃない!?」 「…えっ!?」と、言って顔を赤らめるミヤビ… 「…けしからん!」と言いつつ、ミヤビの胸を鷲掴みにするサキ… 手には何か水風船みたいな感触がする… 『水風船…?』 (…以前にも、何か『水風船』で大騒ぎしたような記憶が…) それがなかなか思い出せず、もどかしい…。それでも記憶の糸をたぐり寄せる そして… 「あ〜〜〜〜っ!!」と、突然、大声で叫ぶサキ… 奇声に一同が驚く… サキが鷲掴みにしたミヤビの胸を思い切り握り潰す!!突然の奇声に続いて突然の奇行…。一同はただ見ているしかなかった… 「痛い!痛いっては!!」と叫ぶミヤビに容赦無く力を加え続けるサキ… やがて… パァン!! 破裂音がして、ミヤビの胸が無くなってしまった!! ミヤビの胸を握り潰したサキ… 胸を握り潰されてうずくまるミヤビ… その一部始終を見ていた一同は一瞬、言葉を失った… だが、サキの一言で、皆、我に返った… 「…アンタ、メーグルでしょ!?」 すると、部屋の奥にあった扉が開いて、二つの人影が飛び込んできた!! 見覚えのある姿… 本物のりしゃことミヤビだ!! 二人が思わずサキに抱きつく… 不意を突かれたサキは、バランスを崩して後ろに倒れてしまう… それでも二人がしがみついて離さない… 改めて二人の顔を見てみると、涙で目や鼻が真っ赤だ… そんな二人がいとおしくてたまらない… ずっと、3人は抱き合ったままだった… 一同は何も言わないで、見守っていた… すると、今度は入り口の方の扉から、マイミン、エリカンが入ってきた… 「なんだメーグル、ばれちまったのかよ?」「どうやら、リベンジ失敗ね…」 「…いいとこいってたんだけどね…。胸でばれちゃった!」 とサバサバしたものだ… その3人も、喜びを分かち合うりしゃこ達を見て、充実した笑顔を浮かべるのだった… 久方ぶりに再会を果たしたりしゃこ達とサキ… その様子を一同が温かく見守っていたが、サキ達全員が、ふと気付いたことがある… 「りしゃこ、何か背が伸びたね!」とサキが言う 「…でしょ?もうサキよりも背が10センチぐらい高いんだもん!!」と胸を張る… 「あれ?声も変わってない?」「しゃべり方も変わった、とゆいたい…」「胸もユリーより大っきい!」 「エヘヘ!そうかなぁ〜♪」と照れながらも喜んでいるりしゃこ… それに引き替え… 「背、伸びたっけ?」「胸、あんま変わってないね…」「いつものミヤビだとゆいたい」と言われて、軽く凹むミヤビ… 「おいミヤビ!あんまり凹んでいると、胸まで凹むぞ!」と冷やかすマイミン… 「何ですって!?」と室内で呪文を詠唱し始めるミヤビ… 「わ、わ、冗談だって!こんなところで魔法ぶっ放すと、とんでもねーことになるぞ!」と忠告するマイミンだったが、 「そんなの関係ねぇ!」とぶっ放す気マンマンのミヤビ… 結局、みんな総出でミヤビを止めたのだった… りしゃこ達が「いつもの日常」に戻った時… ハロモニア城では、『評議会』が開かれていた… 参加者は大臣のヤススをはじめとする元老院、新旧の『暁の乙女』のメンバーなどであった… 議題は『魔導大会』の件… 『評議会』は、いつも大会の半年前に開かれ、主に大会のルール見直しや参加者資格などが行われる… 今回で5回目を迎える大会なのだが、今までの『評議会』は、簡単なルール確認・変更ぐらいですぐ終わっていた… …が、今回は違った… 「参加者に年齢制限を設けるだと!?それはダメだ!!馬鹿げてる!!」 「2対2の勝負だと…!?今までのしきたりを破る気か!?」 「異議あり!古いものに拘っていては、何も新しいものは生まれません!」 「そうだ!新しいものにチャレンジするべきです!」 いつになく、評議会が熱くなっている… 保守的な元老院に対して、ヤグーを中心とする新旧の『暁の乙女』達が異論を唱えているのだ… いつもなら、1時間ぐらいで終わる評議会が、なんと、かれこれ3時間にも及んでいる… これには、議長をつとめる大臣のヤススも閉口する… 3時間以上にも及ぶ評議会… ヤグーを中心とする改革派は、ハロモニア世界を守るため、『暁の乙女』の増員を名目に、大会のルール変更を迫った… (…勿論、本当の理由はキャリアの浅いりしゃこを優勝させ易くするため…) 対して元老院側は、単に最近、幅をきかせているヤグーが気にくわないのだ… 互いの意地の張り合いだけだった だが、表向きには『大義』のある改革派が、遂に、元老院を押し切って、ルール変更を認めさせた… その日の夕方― ヤグーが帰ってきた… 館に入って開口一番、 「ねぇ!みんな!ちょっと集まってー!!」と言った りしゃこ達はその時、魔導大会へ向けての特訓を行っている最中だった ヤグーの『指令』を聞いて、りしゃこ達が集合する みんなが集まったところでヤグーが切り出す… 「みんなに伝えたいことがあるの…」 りしゃこ達を集合させたヤグーがみんなに伝令をする 「今回の『魔導大会』はペアで参加できることになったよ!!」 その発言を聞いて、みんなどよめく…。 「…それと、今回の大会参加者は25才以下の女性のみ…というルールも勝ち取りました〜!」 更にみんながどよめく… どんな手を使ったかは知らないが、俄然、りしゃこの優勝が近づいた… 「…てなワケで〜ライバルを蹴落とすために、オイラも参加することにしちゃった♪」と、ヤグーが言う… これには、どよめきどころではなかった… 「…ち、長官!大丈夫ですか!?」「…私、長官が闘ってるとこ、見たことないんですけど…」「オレ達任せだったし…」 と、元・EX-ZYXのメンバーは言うが… 「オイラだって裏口で『暁の乙女』に入ったワケじゃないんだよ♪まぁ、みんなオイラの実力にビックリするから♪」 と、意に介していない… 「…それにさ、みんな頑張ってんのに、オイラだけが何もしてないってワケにゃいかないからね…」と照れくさそうに笑う… 「…とりあえず、今からチーム分けするから♪」 『魔導大会』にはペアで参加できる…と言うことで、ヤグーがチーム分けを始める… 「まず、りしゃこだけど…オイラと!!」 一斉に静まりかえった… 「…冗談だって!りしゃこはミヤビとのコンビで!」それを聞いた途端、大喜びするミヤりしゃ 次々とヤグーがペアを決めていく… 「マイミンとエリカン!」「サキとモモ!」「ユリーナはチナリと!」「マァはマイハ!」「メーグルはオイラと!」 一通り発表が終わった後でメーグルからツッコミが入る… 「…長官!異論があります!」 「…そんなに、オイラとのコンビがイヤなの!?」 「…正直、それもありますが…」 「あるのかよっ!!」 「…ではなくて…『マイハ』は栗鼠型妖精なんですよ!」 「いいじゃん?マァが蹴散らしてくれるよ♪」 「…ではなくて、参加者は人間ですよね?」 … しばらくの沈黙の後、 「あ〜〜〜〜っ!!」と、絶叫するヤグー… そこまで考えが回ってなかったようだ… 魔導大会参加者のチーム分けで思わぬミスをしたヤグー… このままでは1チーム足りない… そこで、 「…だったら、ウチがマァと組む!」 そう言ったのはユリーナだった… それに対して、 「え〜〜〜〜っ!!何で何で何で!?」と動揺しまくりのチナリ… 「…だって…あんまり…ベタベタされるの…好きじゃない…」と、本音を洩らすユリーナ… その言葉を聞いて、いつもは明るくて饒舌なチナリが黙り込んで… 遂には無言で部屋を飛び出していった! (しまった!)と思ったユリーナが、その後を追いかける… 「…様子を見てくる、とゆいたい…」と言って、マァも後を追う… 早くもチーム戦に暗雲が立ちこめる… 「…長官、いいんですか?あの調子だと…あの二人は空中分解しますよ?」と、メーグルが進言するが、ヤグーは涼しい顔だ… 「オイラは、あの二人はいいコンビになると思うよ♪」と言う… 「…仲がいいからって、いいコンビとは限らないんだよ♪…最初の頃のあの二人そっくりだよ♪」と、少し遠い目をするヤグー… ユリーナの本音を聞いてしまい、辛くなって部屋から飛び出したチナリ… 自分の心ない言葉でチナリを傷つけてしまったことに気付き、その後を追うユリーナ… 二人のことが心配で、更に後を追うマァ… 勢いよく扉を開けて、中の鍵を閉めるチナリ… 僅かに遅れて部屋に着いたユリーナが、チナリの部屋の扉をドンドンドン!!と強く叩く… だが、チナリは扉を開けなかった… それでも諦めず、扉を叩き続けるユリーナ… チナリは布団を頭からすっぽり被って、ユリーナの声を聞かないようにしている… 遅れて、マァが部屋に着いた時だった… 突然、チナリが叫ぶ! 「…もう帰って!ユリーナの顔なんか見たくない!帰って!ユリーナなんて大っ嫌い!!」 自分の言葉で大きく傷つけたことを改めて知って、その場に力なくへたり込んでしまったユリーナ… 唐突な出来事に、何も出来なかったマァ… とてつもなく暗い静寂が、ユリーナ達に重くのしかかってきた… チナリの心と同様に重く閉ざされてしまった扉の前でへたり込み、茫然とするユリーナ… しばらくして、見兼ねたマァがユリーナを抱え起こして、 「…今はそっとしておこう…とゆいたい…」 と言った… 力なく頷くユリーナ… 立ち去る前に部屋の向こう側のチナリに向かって、 「…ごめんなさい…」 と、一言呟いた… それから、というものの、館で顔を合わせても、どちらからも声をかけることなく、気まずい雰囲気の二人… 二人の仲に、他のメンバーも気が気でならない… コンビを組んだ面々は、もう大会に向けてコンビネーションを中心とした特訓を開始しているというのに… このままでは、士気の低下にも繋がりかねない状況だ… けれど、誰もが二人の仲を静観していた… そして、一週間が経った時… ヤグーが全員に、ある指令を出す…