ユリーナとチナリの不仲が続いて一週間… 

突然、ヤグーがりしゃこ達に指令を出す… 


「…あのさ〜、ちょっと気晴らしにオイラのお使いを頼まれてくんない?…全員で…」 

『全員で…』というのが少し引っ掛かるが、リーダーの指令ということで、 
「はい!わかりました!」とメンバーを代表してサキが答える 

「じゃあ、コレを持って…お城の北にある『二子山』の森の集落に行って欲しいんだ♪」 

そう言って、ヤグーがサキに、手紙と書物を手渡す… 
「馬車とか必要なものはメーグルが手配してるからよろしくね〜♪」 
と、だけ言って部屋から去っていくヤグー… 


その後、サキがみんなに向かって、 
「さぁ、久しぶりの外だよ〜!張り切っていこ〜!」と声をかける 

「オ〜〜〜♪」 
と返事するメンバー… 

ただ、ユリーナとチナリの元気がないのが気掛かりだった…



ヤグーの指令に従い、早速、馬車に乗り込み、街の北に位置する「双子山」に向けて出発する一行… 


本来であれば、気の置けないメンバー同士の旅なので、楽しいものになるハズだった… 

それが一週間前に、些細なスレ違いでユリーナとチナリがケンカをしてしまった… 
メンバーも二人に気をつかい過ぎて、どことなく一行全体がギクシャクしてる状態なのだ… 
お互い、ここしばらく口を聞いていない様子… 
そういった意味では、二人が仲直りする良い機会かも知れない… 


…そんな甘い考えはものの一時間で消え去ってしまった… 

みんなの会話が弾まないのである… 

いつもは饒舌なチナリがしゃべりまくって、それにつられてみんなが騒ぐ… 
というパターンが、チナリが黙ってしまっては、上手く機能しないのだ… 

馬車の中が重苦しい雰囲気に包まれる… 

そんな状態のまま、お昼過ぎぐらいに目的地周辺の「双子山」にたどり着いた…



「双子山」に何のトラブルもなく着いたは良いが、重苦しい馬車内はある意味地獄だった… 

これから「双子山」の狭間の集落に行く前に、サキが少し休憩時間をとる… 

本来ならば楽しいお昼ご飯なのだが、二人の不仲で重苦しい雰囲気での食事となる… 

(このままではマズイ…。みんなに悪影響が出る!) 
そう判断したキャプテンのサキが、ユリーナ、チナリ以外のメンバーを集める… 
「…みんなも思ってると思うんだけど…何とか、あの二人を仲直りさせよう!じゃないと、ウチらがダメになっちゃう!」 
「…そうだよね…」 
「…だったらさぁ、二人が大ピンチを力を合わせてくぐり抜けたら、また仲良くなるかも!」 
「…元からあまり仲良くない、とゆいたい…」 
「…うーん、でもさぁ、二人で困難を乗り越えて絆が深まるケースってあるよね!」 
「あるある!!」 
「…二人が同じ驚きや恐怖のドキドキを体験すると、恋愛のドキドキと勘違いする…『つり橋効果』ってやつだもん!!」 
「…へぇ〜…りしゃこ、よく知ってたね!」 
「えらい?もっとホメてほしいもん!!」 
「…じゃあ…やってみますかぁ!?」 
「うん!!」 

…初めて、この旅が楽しくなった瞬間だ…



みんなで和気あいあいとしているところに、モモの鋭いツッコミが… 
「…でもさ、この村まではほぼ、一本道じゃん?…で、馬車も通れる、ってメーグルから聞いたし…」 

しばらくして 
「あ〜〜〜〜っ!!」っと絶叫するサキ… 

みんなでヤグーから手渡された地図に目を落とす… 

…確かにモモの言う通りだ…。ほぼ一本道だ…。だが、丁度、目的地までのあと半分のところで道が二股に別れる… 

そこでモモが、 
「…じゃあ…わざと道に迷う、ってのはどう?」 
と提案する 
「…それでさ、二手に別れて探すことにして…二人っきりにするの!」 

「…でもさ、ずっと口きかないってことも…」 
「だ・か・ら…こっそりウチらが追っかけて、二人を驚かすの!」 

「へぇ〜…いいじゃん!それでいこ!」 
「賛成賛成!!」 

「…じゃあさ、偽物の地図を作っておくから、出来次第、出発、ってことで…」 
「お〜〜〜〜っ!!」 


かくして、メンバーによる『仲直り大作戦』が始まった…



みんなで和気あいあいとしているところに、モモの鋭いツッコミが… 
「…でもさ、この村まではほぼ、一本道じゃん?…で、馬車も通れる、ってメーグルから聞いたし…」 

しばらくして 
「あ〜〜〜〜っ!!」っと絶叫するサキ… 

みんなでヤグーから手渡された地図に目を落とす… 

…確かにモモの言う通りだ…。ほぼ一本道だ…。だが、丁度、目的地までのあと半分のところで道が二股に別れる… 

そこでモモが、 
「…じゃあ…わざと道に迷う、ってのはどう?」 
と提案する 
「…それでさ、二手に別れて探すことにして…二人っきりにするの!」 

「…でもさ、ずっと口きかないってことも…」 
「だ・か・ら…こっそりウチらが追っかけて、二人を驚かすの!」 

「へぇ〜…いいじゃん!それでいこ!」 
「賛成賛成!!」 

「…じゃあさ、偽物の地図を作っておくから、出来次第、出発、ってことで…」 
「お〜〜〜〜っ!!」 


かくして、メンバーによる『仲直り大作戦』が始まった…



道に迷ったフリをして、二手に分かれて道を進むサキ達とモモ達… 

サキ達は二人が道を引き返してもしばらく二人っきりになるように、馬車を茂みに隠し待機した… 
(モモ…上手くやれるかなぁ…)とサキはモモの成否を気にする… 


一方のモモは、二人を先導していた… 
二人とも無口なので、重苦しい重圧がモモ一人にのしかかってくる… 
(損な役回りを引き受けちゃったな…)と痛感するモモ… 

だが、これからはこっそりと『観察』することを思うと、少しウキウキしたりもする… 

丁度、道の先に小さな獣道があったので、 
「ちょっと待ってて!様子見てくる!」と言って、あっという間に姿を眩ますモモ… 

これで、下準備は完了した…



モモが姿を眩ましたことで二人っきりになってしまったユリーナとチナリ… 

いつもなら、チャンス!とばかりにチナリがちょっかいをかけるのだが、ケンカ中の二人にそんな素振りはない… 
ただ、待てども暮らせど戻ってこないモモに対してイライラを募らせるユリーナ… 
「…遅いね…」 

ケンカをして以来、チナリが初めてユリーナにしゃべりかけた… 
だが、ユリーナは無言のままだった… 
返事が返ってこなかったので、チナリもまた、黙ってしまう… 


一方のモモは獣道を分け入って、元いた道へ戻っていく… 
そして、ようやく分かれ道の入り口に戻ってきた… 

モモは打ち合わせ通りに待ち合わせ場所へと向かう…。そして、ようやく馬車を見つけ、 
「上手くいったわよ〜!」と、サキ達を呼ぶモモ… 

…だが、返事がない… 

異変に気付き、辺りを警戒しながら馬車の中を覗き込むモモ…。勿論、不測の事態に備えて、腰に帯びていた短刀を手にとる… 

そして、モモが目にしたものは… 

折り重なって横たわった4人の身体… 

それに驚いたモモが、思わず叫んだ!! 


「起きろ〜〜〜〜〜!!」



馬車の中には折り重なって爆睡している4人の姿が… 
「起きろ〜〜〜〜〜!!」と叫んで4人を起こすモモ… 
だが、緊張状態から解放された4人はそう簡単には起きようとしない… 
「…ふぅ…」と、ため息をついたモモは仕方なく、濡れタオルを4人の顔に被せるのだった… 

待つこと数秒… 
「…ん!むぐぐ…!…ぷはーっ!!」 
あれだけ爆睡していた4人が、次から次へと跳ね起きる… 

4人が目を覚ましたのを確認して、モモが、 
「…ちょっと!何やってんの!二人の様子を見に行くんでしょ!!」 
と、喝を入れる… 

明らかに寝足りない、という表情をしながらも、モモに従い、一度、馬車から降りて二人の後を追う…  


一方、取り残されたユリーナとチナリ 

待てども暮らせど戻ってこないモモに痺れを切らしたユリーナが、とうとう道をすたすたと歩き始める… 

焦ったのはチナリ…。 
「…ち、ちょっと待ってよユリー!!モモを置いてったらダメじゃん!?」と、必死にユリーナに呼び掛ける… 
が、チナリの呼び掛けを無視してユリーナは無言で早歩きをする… 

(…機嫌が悪い!!ヤバい!!) 

チナリは瞬時に悟った… 

(…早く止めないと!!)



ユリーナは機嫌が悪いと、すぐに態度や表情に出てしまうタイプだ… 
急に無口になったり、無表情になった時が危ない… 

案の定、今回も無言で歩き出してしまった… 

早く止めないと、暴走しかねない…そう判断したチナリがユリーナを止めようとする… 

「ユリー!ダメだって!みんなとはぐれちゃうじゃん!?」 
疎ましがられるのを覚悟でユリーナに再度、必死に呼び掛けるチナリ… 

「…もう!ウチにかまわないでよ!!」 
振り向き様にユリーナが、ケンカして以来、チナリに初めて話しかけた…だが、その言葉はあまりにも冷た過ぎた… 

そんなユリーナに天罰が下ったのか、振り向いた瞬間に足元への注意が薄れたため、言葉を発してすぐに足を踏み外してしまった!! 
「…え、わ、きゃあぁぁぁ〜〜〜!!」 

雑木林の方へ転がってしまうユリーナ! 
「あ、待って…!」 
慌ててそれを追うチナリ… 
そして…



足を踏み外して、雑木林を転がり落ちるユリーナと、それを必死に追いかけるチナリ… 

そして― 

ユリーナが目を覚ます… 

視界にすぐに飛び込んできたのは、心配そうに覗き込むチナリの顔だった… 

「…大丈夫!?」とチナリが言う… 
その問いかけで、何が起きたのか、ゆっくり思い出すユリーナ… 
何が起きたかを把握した後は、プイッとチナリの顔から目線を反らした… 

…チナリにはこのユリーナの行動が何を意味するのか、理解していた…。だから、無理に声をかけようとはしなかった… 

が、急に、ユリーナが顔をしかめる… 
「…痛っ!!」 
足首を押さえてしまう… 
触ってみると、左の足首が若干腫れているのがわかる… 
つい、心配で、再度 
「…ユリー…大丈夫!?」と、聞いてしまうチナリ… 
ユリーナの返事は 
「…ほっといてよ!!」 
だった… 
ケンカしてしまったせいか、つい、意地を張ってしまうユリーナ… 
そして、 
「…ゴメン…」と、寂しそうに謝るチナリ… 

本当は自分の不注意でケガをしたのに、何故か先にチナリが謝ってしまって、自分から素直に謝れないもどかしさ… 

ユリーナの感情が、また爆発してしまいそうだ… 

だが、その時―



自分の不注意でケガをしたユリーナ… 
だが、悪い訳でもないのに謝るチナリ… 

素直に謝れないもどかしさにイライラして、また感情が爆発してしまいそうだ… 

不運な時には不運が重なる… 
二人の周囲に突然、野犬の群れが現れた! 
だいたい2〜30頭ぐらい…。けっこうな数だ 
二人は咄嗟に武器を抜いて身構える… 

二人と野犬の群れとの間でにらみ合いが続く… 
不意にユリーナの左足首に激痛が走り、思わずしゃがみ込んでしまう… 
チナリの視線がユリーナに向いてしまう… 

その瞬間を狙って野犬達が一気に飛び掛かってきた! 
四方八方から襲いかかる牙… 
ユリーナが動けない分、チナリが手にしたブーメランでもって野犬達を殴打する… 
疾く、そして的確に… 

あっという間に4匹の野犬を撃退した…。二人に傷はない… 

「…大丈夫、ユリー!!」と、必死に呼び掛けるチナリ… 
まだ、素直になれず、無言のままのユリーナ… 

そんなことはお構い無しに野犬は次から次へと襲いかかる… 
それらを片っ端から打ちのめすチナリ…



痛む左足首のケガをおして何とか立ち上がるユリーナ… 
それでも非情にも、隙を見ては、次々と襲いかかる野犬達… 
足元がしっかりしない状態で斬りつけるので、なかなか思い通りに野犬を退治出来ず苦戦している… 

そこへチナリが急に背中をくっつけてきた! 

「…な、何すんの!」 
「…ウチの背中…ユリーに預けるから…だからユリーの背中も…ウチに預けて!!」 
強い意志のこもったチナリの言葉…。とても普段のチナリの姿からは想像できない…。だけど、いつになく頼もしい… 

チナリの心の強さに押されて、ユリーナも 
「…うん」と頷く… 

二人が背中を預け合うことでほぼ死角が無くなり、野犬を撃退するのも楽になった… 

もう半数以上打ちのめす頃だろうか…今まで二人に襲いかかってきた野犬の群れも、急に逃げ始めた… 

ホッと一息をつく二人… 
お互い顔を見てはいないが、きっと安堵の表情を浮かべている…と想像できる… 

しかし、まだ終わってはいなかった…



野犬の群れを撃退して、ホッと一息をつく二人… 

だが、まだ終わってはいなかった… 


不意に、茂みの向こうからガサッ!!と大きな物音がする…。大きな生き物が移動している音だ… 
普段、森で生活している二人にはわかる…。とても危険な存在…そんな悪い予感がする… 
さっきまでいた野犬達は、ひょっとしたら気付いていたのかも知れない…この森の『主』の接近を… 
身構えたまま、固唾を呑んで、『主』の姿が現れるのを待つ二人… 

だが、茂みの向こうから、いきなり『主』が二人に襲いかかってきた!! 

突然の襲撃を避け切れずに吹き飛ばされてしまうユリーナ…!! 
何とか瞬時に避けたチナリが『主』がユリーナに追い討ちをかける前にブーメランを投げつける!! 

鋭い“風の刃”と化したブーメランが『主』の背中に命中する!! 

グァァァァァ---!!と、悲鳴を上げる『主』だが、まるでダメージを受けた素振りが全くない… 

森の『主』がゆっくりと上体を起こす…。全身が灰色の毛に覆われた、3m超の化け物・グリズリー… 
それが森の『主』の正体だった!!



突然の森の『主』の襲撃でダメージを負ってしまったユリーナ… 

チナリが『主』に攻撃を仕掛けるも、ダメージを受けた素振りがない… 

このままでは、起き上がれないユリーナが『主』のエジキになってしまう!! 


そこで、自らが囮になって、ユリーナと『主』を引き離しにかかるチナリ… 
だが、少々のことではダメージを受けない『主』を相手に囮となることはあまりにもリスクが高過ぎる… 

しかし、チナリは迷わなかった…。例えリスクを犯してでも、守らなければならないものがあった… 
いつか、自分を救ってくれた『恩人』のためにも… 

そう思うと、不思議と気分が楽になった… 

『主』を牽制しつつ、襲撃を受けたユリーナの様子を見てみる… 
うずくまって腹部を押さえている…まだ、立ち上がれないようだ… 

(…ユリー…待ってて!もう少しの辛抱だから…) 

そしてチナリは巨大な『主』に一直線に向かっていく!!



巨大な灰色熊を相手に闘いを挑むチナリ… 
だが、先程のチナリの攻撃でもダメージを受けた素振りがない… 
と、なると、今は倒れているユリーナの回復を待って、二人で仕掛けるしか勝ち目がない… 

時間稼ぎ…今、チナリに出来る最善の策だ… 

早速、距離を取りながら、少しずつ魔法の風のつぶてをグリズリーに当てていくチナリ… 
巨体のため、グリズリーには面白いようにヒットする… 
一方、面白くないのはペチペチとイライラするような魔法を食らっているグリズリーの方だ… 
チナリの思惑通り、次第に怒りの矛先がチナリに向かってくるのがハッキリわかってくる… 

そうなれば、しめたものだ…。グリズリーを苛立たせるため、もっと風のつぶてのスピードをアップさせていく… 
チナリの視界に、ようやくユリーナが立ち上がったのが見えた! 

勝機!と見たチナリが手にしてたブーメランを放り投げ、手元のワイヤーをグリズリーの身体に巻き付けて身体の自由を奪った! 

そして、グリズリーの背後には、持てる力を振り絞ってユリーナがレイピアを突き立てる!! 
グリズリーの身体にレイピアが深く差し込まれたことを確認して、ありったけの力で 

「ピリリ!!」 
と叫ぶ!!



化け物グリズリーの身体にレイピアを突き立て、電撃魔法をぶち込むユリーナ! 
「ピリリ!!」 

さすがの化け物グリズリーも直接電撃を食らったらひとたまりもないだろう… 
その思惑通り、グリズリーの巨体が崩れ始めた…! 

…が、グリズリーも最後の力を振り絞って、暴れ始めた! 

グァァァァァ!!と咆哮を上げて大きく身体を震わせる!! 
その反動でグリズリーの身体を縛っていたワイヤー付きブーメランも、身体に刺さっていたレイピアも奪い取られてしまった!! 

手負いの野獣ほど恐ろしいものはない…。怒りの眼差しで二人ににじり寄るグリズリー…。威圧感に気圧されて、後退りする二人… 
そして、怒りのグリズリーが咆哮とともに大きく上体を起こし、二人に襲いかかってきた!! 
二人とも、振り落とされたダメージでまともに起き上がれない!! 

絶対絶命の大ピンチ!! 

だが、無情にも、グリズリーの手が勢いよく二人の頭上に振り下ろされた!!



手負いのグリズリーが、上体を起こし、渾身の一撃を加えるべくその手を振り下ろした!! 

ドサッ…!! 

グリズリーの振り下ろした手は… 

いや、グリズリーの身体は… 

地面に突っ伏していた… 

その背後には…小さな女の子が一人立っていた… 


「…ふぅ…間に合った〜〜!!」と、女の子が口を開く… 

最初の内は発言の意味がわからなかったが、よくみると、グリズリーの背中には電気痕があった… 
…どうやら、あの女の子がより強力な電撃を加えたのだろう… 

「…あなた達、ケガはない…?」と、尋ねる女の子 
「…ええ、多少…」と素直に答える二人 
「…じゃあ、じっとしてて!」と、女の子が二人に言うと、手を二人の前にかざした… 
すると、ケガを負っていた部位が少し熱くなったかと思うと、傷口が塞がっていった! 

今までに見たこともない力に驚く二人… 
みるみる内にケガが治っていくのだ… 
そこでチナリが、 
「アタシはもうへーきなんで、彼女の足を治してあげて下さい…お願いします!!」 
と、女の子に懇願するチナリ…



グリズリーを一撃の元に倒した女の子… 

そして、傷ついた二人のケガをみるみる内に治していく… 
そこでチナリが女の子に、ユリーナの足首のケガを治してもらえないか?と懇願する… 

いつになく真剣な眼差しのチナリ… 
それを見た女の子も 
「…わかった…やってみる!」と、言ってくれた… 

ユリーナの腫れた足首に手をかざす… 
初めは傷口が熱くなったせいか、苦悶の表情を浮かべるユリーナ…。だが、その表情も次第に和らいでいく… 

女の子が、 
「まだ、完全に治った訳じゃないから気を付けてね!!」と、忠告する… 
「ありがとう!」と、女の子にお礼を言うユリーナ…。そして、チナリにも小声で、「…ありがとう…」と言った… 

二人が、倒したグリズリーの後始末をしていると、女の子が、 
「…じゃあ、アタシはこの辺で…」と立ち去ろうとする… 
すぐに立ち上がる二人… 
「…あのー、ちょっと待って!」と呼び止める! 

と、同時に 

ぐぅぅぅぅ……… 

腹の虫が鳴いてしまった… 
白い目をして、 
「…何か食わせろってコト?」と言う女の子…



グリズリーを撃退してホッとしたのか、二人同時に腹の虫が鳴いてしまった… 

それを聞いた女の子が、 
「…何か食わせろってコト?」と冷ややかな眼差しで二人に尋ねる… 
思わず、(何て答えよう?)と、互いの顔を見合せてしまう二人… 
二人が返事に戸惑っていると、女の子が勝手に 
「…じゃあ、家においで!ちょっとしたものだったら食べさせてあげるから!」と、言ってくれた… 
「ありがとう!!」 
と、意図してないのに、何故か二人同時にお礼を言ってしまう… 
それを聞いた女の子が、 
「さっきから二人とも、息ピッタリね!」と、思いもかけない言葉を口にする… 
その時、ふと気付いた… 
さっきから二人はけっこう息ピッタリな動きをしてる… 
例えばグリズリーの時… 
アイ・コンタクトで攻撃のパターンを瞬時に理解し、行動出来たのは、確かに偶然じゃなかった… 
野犬の時もそうだった 
上手く立ち回りが出来たのも、お互いのことを理解していたからだ… 

そんなことを気づかされた一言だった



女の子の思いもかけない言葉にボーッとしてると、 
「ほら、早く!!もう少ししたら日が暮れ始めるよ!!」と、少し怒られてしまった… 

すたすたと歩き始める二人…。足をケガしたユリーナを気遣って、 
「…大丈夫?」と尋ねるチナリ 
「…うん、何とか大丈夫…」と答えるユリーナ 


女の子についていくこと約30分…。森の中にある集落にたどり着いた… 
そして、集落の入り口から奥の方のけっこう立派な建物に到着した 

「さぁ、入って!!」と、女の子に入るように促される二人… 
「…でも、勝手に入っていったら、お父さんとかお母さんに叱られたりしない?」と、二人同時に尋ねる… 
「…ハァ?何言ってんの!?ここはノノタンのお家なの!!」と、呆れた顔で女の子が返事する… 
(…ハァ…ここがノノタンのお家ですか…って!?) 
「あ〜〜〜〜っ!!」 
今度は思わず二人同時に叫んでしまった!! 
「何驚いてんの!?」と二人に尋ねる女の子… 
「…えっ?だって…あの…ひょっとして…」 
二人は女の子を指差し、小刻みに震えている… 

そんな二人の反応を見て、すっかりご満悦の女の子…



一方… 

ユリーナとチナリの二人を追いかけるサキ達… 
きっと待ちぼうけを食っているんだろうな…と思いながら、元いた場所にまで戻ってきた… 

だが、そこには二人の姿はなかった… 

こっそりと後を尾けるつもりだったのが置いていかれてしまった… 
慌てるサキ達…。今までの浮かれモードが一気に醒めてしまう… 

とりあえず、二組に分かれて周囲を探索する… 

だが、なかなか見つけることが出来ない… 
それでも、放っておくわけにはいかない…。懸命に探し回るサキ達… 

それから30分くらい経っただろうか… 

すると、モモが草むらに何か不審な跡を発見した…。何かが転げ落ちたような跡だ… 
すぐさま、みんなを呼び寄せるモモ… 

「…どうやら、ここから転げ落ちたみたいね…」 
みんなに説明するモモ…。だが、その先には二人の姿がない… 

「アタシが迂回路を探すから、みんなは馬車を持ってきて!」と急いで指示をする…



集落の村− 

二人が女の子の正体に気付き、驚きを隠せない… 
「…ようやく気がついた?まだまだアタシも有名人ってコトね!」と喜びを隠さない… 

それもそのはず、目の前にいるのが、元・『暁の乙女』の一人、ノノタンだったのだ… 
最年少で『暁の乙女』になったことで、当時のハロモニアが大いに賑わったのは有名な話だ… 

しかも、最近では『時空の歪み』の探索に出て以来、すっかり姿を消していたのだ…それが、今、二人の目の前にいる… 

「…まぁ気になることはいろいろあると思うけど、それは食事が済んでからね♪」と、言って二人を食堂に案内するノノタン… 

食堂で待つ二人… 
食事を待つ間、少し沈黙が続いた後、ユリーナが切り出す… 
「あの…ごめんなさい!!」そう言って、チナリに頭を下げた… 
いつもチナリにやや高圧的な態度のユリーナが頭を下げるなんて初めてだろう… 
だが、チナリの反応は 
「…やだ!!」



今までケンカをしてきた二人…。お互い、なかなか仲直りすることが出来なかった… 
そして、二人が一緒にピンチを切り抜けたことで今までの対立関係が雪解けに向かっていった… 

…ハズなのだが、チナリの発した言葉は… 
「やだ!!」 

ユリーナは自分の耳を疑う…。もうチナリは、謝っただけでは許してくれないのか… 
そう思っていると、 
「…やだ!!そんなのユリーじゃない!!」とも言い出す 
チナリの発言に目が点になるユリーナ…。 

「…いつもつれなくて、でも、たまに優しくて…ウチはそんなユリーが好きなの!!弱気のユリーはやだ!!」 
…あまりにぶっ飛んだワガママ発言に、呆れて笑ってしまうユリーナ… 
そんな笑顔のユリーナを見て、一緒に笑うチナリ… 

「…じゃあ、許してくれるの?」と、勇気を出して聞いてみる… 
「許す♪」とあっさり言ってのけたチナリ… 

「…ありがとう!!」 
そう言うと、喜びのあまりチナリに抱きつくユリーナ… 
だが、「…ただし!」と付け加えるチナリ… 
その一言にイヤな予感を感じるユリーナ… 
予想通り、唇を突き出すチナリ… 
そして、これまた予想通り、チナリの頭にチョップを叩き込んだユリーナであった…