窓越しに見える、みんなが訓練に励む姿… その熱気に心揺さ振られ、ミヤビの手を引っ張るりしゃこ… ノノタンとの激闘で、一番疲れているハズなのに… そう思うと、 (…もっと…強くならなきゃ…)と、ミヤビは気分を引き締めた そして、みんなのいる中庭へ… 起きてきたりしゃこが、元気な姿でみんなの元に駆け寄る… それまで熱心に訓練をしていたメンバーも、りしゃこに気付き、手を止めた 元気なりしゃこの姿を見て、サキ達は手を止めた… 「…もう、大丈夫なの!?」「…どこか痛いところとかない?」と、みんなが心配する 「…うん!もう、平気だもん!」と、ニッコリ笑うりしゃこ… りしゃこが姿を現わすまでは、みな一様に必死の形相で訓練していたが、りしゃこがきたことで、雰囲気が和む… 「…あの、よくわからないんだけど…卒業試験って、どうなったもん?」 りしゃこの言葉に、みんなが呆れたような顔をする…。その呆れ顔が、やがて笑顔に変わり、 「合格だったよ!りしゃこのおかげで!!」と、言うや否や、みんなでりしゃこを担ぎ上げ、胴上げを始めてしまう!! りしゃこの身体が宙に舞う…。1回、2回、3回… 胴上げの最中、サキが、「…ちょっとりしゃこ〜、あんた重いよ〜!」と、言い出すものだから みんなが大爆笑して、胴上げから手を離してしまい、見事な尻餅をついてしまうりしゃこ… それも、ドスン!!とハデな音がしたため、またも爆笑の渦が巻き起こる… 恥ずかしさのあまり、頬っぺたをプーッと膨らませ、プイッとあっちを向いて拗ねてみるりしゃこ… その仕草がとても可愛らしい… ていうか、どこで覚えたんだそんな仕草? りしゃこの登場で、みんなが和んでいるところに、 「…ホントに元気ね…」と、言う声がする… みんなが後ろを振り返ると、そこには身体中に包帯を巻いたノノタンがいた… 「…ホント、あれだけやり合ったのに、次の日から訓練だなんて…」と、肩を竦めてみせる… 「…でも、ウチら、殆んど秒殺だったんで…」と、暗い顔をするサキ達… 「…あ、そっか?ゴメンゴメン!」と、屈託のない笑顔でノノタンが謝るが、みんなの顔は沈んだままだ… そんな落ち込んでいる様子を見て、 「…大丈夫!今のみんなはアタシが初めて『暁の乙女』に入った時より、ずっと強いんだから、もっと自信を持って!!」と、励ます… みんなが半信半疑の眼差しで見ているが、 「…いや、ホントなんだってば!アタシ補欠合格ってウワサだったんだから!」と、言い張るノノタン… その必死に力説する顔が必死過ぎて、みんな吹き出してしまった… みんなが笑顔になったところで、 「…それよか、みんなのケガを診てあげるから早くきなさい!」と、指示を出すノノタン… 館に戻り、一人一人、ケガの具合を診てあげることにしたノノタン… いくら『試験』をした、とは言っても、ヤグーから預かった『お客さん』を傷物にしたまま返す訳にはいかない… 幸い、ノノタンには、回復魔法の心得があるので、その辺は心配ない… ただ、気掛かりな点が一つあった… そのために、みんなを呼んだのだ 一人ずつ、自分の部屋に招き入れるノノタン 「まずは、やられた順から!マァ!」 「屈辱だとゆいたい…」 「次!チナリ!」 「ハ〜イ!」 「次!ユリーナ!」 「ハイ!」 …と、いった具合に、診療が次から次へと進む…。幸い、みんな、ほぼ軽い打撲や擦り傷ぐらいで、目立ったケガはなかった… そして… 「次!りしゃこ!」 「ハイ!」 みんなケガを診察していく中、最後に、 「次!りしゃこ!」と呼び上げるノノタン 「ハイ!」とりしゃこも元気よく返事をする まず、向かい合って座り、りしゃこの身体を触っていくノノタン… 手、手首、下腕、肘、上腕、肩、首、胸… 「…あん♪…いやん♪お姉様のえっち…」 次の瞬間、ノノタンがりしゃこの脳天にチョップを浴びせた! 「…別に揉んでないよ!…この、おませさんが!」 「…読者サービスなんだもん…」 「…何言ってんの!?」 「…何でもないもん…」 胸の次は腹、腰、大腿、膝、脛、足首、足の甲、と触っていく… 「…お尻は触らなくていいんだもん?」 「…そんなに調子にのってると、『お尻ペンペン』するよ?」 「…ゴメンなさいだもん…これも読者サービスなんだもん…」 軽くスルーするノノタン… そして、診察の結果、ノノタンはりしゃこに言い放った… 「…特に外傷はないけど…りしゃこ、あなた隠してること、あるよね!?」 ノノタンに診察してもらっている中、 「りしゃこ、隠してること、あるよね!?」と聞かれ、ドキリとするりしゃこ… 「…別に、何も隠してないもん!!」と、声を少し荒らげて答えるりしゃこ… 「…嘘はダメよ!」と、言うや否や、りしゃこの服をあっという間に脱がしてしまったノノタン 白く透き通った綺麗な肌…だが、その肌に、ところどころ紅い模様が浮かび上がっている…! 「…思った通りだわ…いい、りしゃこ…あなたが忘れている『卒業試験の記憶』を伝えてあげるわ…」 そう言うと、ノノタンはりしゃこに、フェニックスと融合したこと、姿が変化したこと…などを伝えた… 最初の内は、なかなか思い出せなかったが、薄ぼんやりと、断片的な記憶が甦ってきた… 「…きっと、フェニックスとの融合が、思わぬ身体への負担になってる…と、思うから…。気をつけるねよ、いい?」 「…うん、わかったもん!!」 全員の身体を診察して、ノノタンが、 「診察の結果…みんな異常ナシ!」と、発表する すると、みんなが安堵の声をあげる… だが、次にノノタンから、衝撃の発表が行われた… 「…みんな、よく頑張ったね!…今日でもって、ノノタンの特訓は終了します」 その言葉に、みんなが、 「え〜〜〜っ!!」と、不満の声をあげる… それを諭すように、 「…ホント、みんなよくやったよ!多分、今のみんななら、今の『暁の乙女』のメンバーにも、きっと勝てると思うよ!」と言う… 「…だから、この時点で特訓を終了しても、いいと思ったの…。みんな…ホントによく頑張ったね…」と、しみじみ語るノノタン… ずっとこらえていたようだが、こらえ切れず、ノノタンの頬を涙がつたう… 「…ノノさん!!」 みんなが一斉に、ノノタンの元に集まってきた 今日でもって、終了が決まった『ノノタン塾』… わずか一週間ほどの付き合いだったが、りしゃこ達が初めて体験することばかりで、楽しかった… また、ノノタンものびのびとコーチしてくれた… そういう苦楽を共にしただけに、自然と、みんなの頬に涙がつたう… しばらくは嗚咽が止まなかった… 「…ホラ!…みんな…そんなに泣かないの!」 「…コーチだって、泣いてるじゃないですか…」 「…仕方ないじゃない!?…アタシはお子ちゃまなんだから!」 「…もう〜!いくつなんですか?いいトシしてからに…」 「何ですって!?」 先程まで、湿っぽかった雰囲気が、ガラリと明るくなっていく… 「…じゃあさ、最後にみんなにメッセージがあるから、さっきと同じように、一人ずつ、部屋に来てね!」 「「「ハイ!!」」」 ノノタンが、一人一人にメッセージを告げていく… 「マァから!」 「ハイ!」 「確かにあなたの身体は丈夫だけど、それに頼りきっちゃダメ!」 「ありがとうございます、とゆいたい…」 「次!ユリーナ!」 「ハイ!」 「あなたには、アタシの『合体魔法・ロボキッス』を受け継いでもらいたいの…だから、練習、頑張って!!」 「ハイ!頑張ります!!」 「次!チナリ!」 「ハイハーイ!」 「ユリーナを落とせよ…陰ながら応援してる!」 「わかりました!」 「次!モモ!」 「はぁ〜い!」 「…もう少し、目上の人を敬うように…」 「…スミマセン…気をつけます…」 ノノタンの呼び出しが続く… 「次!サキ!」 「ハイ!」 「サキはよくみんなをまとめてくれてる…。頑張り屋さんだね…」 「…えっ?…そんな…」 「…でさ、サキに頼みがあるの…」 「ふぉえ?何ですか?」 「…ちょっと、重荷かも知れないけど…これを託すわ。あなたなら使えると思うの!」 そう言われて、ノノタンから手渡されたのは、真っ白い、少し古びた魔術書だった… 「…これは…!?」 「…アタシが使ってた『白魔法の書』だよ!」 「!!…それって…?」 「そう!『暁の乙女』なら使える回復魔法の書よ!…これでみんなが傷ついた時、アタシの代わりにケガを治してあげて欲しいの」 「…でも、こんな大事なもの…」 「…大事だから渡すの!…特にりしゃこのために、ね…」 「…それって、どういうことなんですか?」 突然、ノノタンから『白魔法の書』を手渡され、戸惑うサキ… サキが気になったのは、『白魔法の書』が、「特にりしゃこにとって必要…」だという点… 「それって…どういうことなんですか?」と、ノノタンの言葉の真意を問う… 「…あなたにだけは伝えておくわ…」 そう言って、ノノタンはサキに、りしゃこがフェニックスと融合した、卒業試験での出来事を話した… 「…そんなことが…あったなんて…」と、サキは言葉を失う… 「…りしゃこは『王家の血筋』で間違いないわ!…でなきゃ、あんな芸当は出来っこないもの! …だけど、あの魔法は、身体への負担が大き過ぎる…。だから、あなたがりしゃこをケアしてあげて…」 ノノタンの気持ちを汲み取って、サキは 「…あたしが必ず、りしゃこを護ります…命にかえても…」と、約束した… 「…そうよ!あなたは『キャプテン』なんだから、頑張ってね!」と、ノノタンはサキを激励した… あと、残すは二人… 「次!ミヤビ!」 「…ハイ!」 「あなたは今まで通り、りしゃこの『お姉ちゃん』でいてあげて…」 「…ハイ!」 「あの子はとても、純真なところがある…だけど、綺麗なものほど、脆くて儚いものなの…」 「…ハイ…」 「だから、もし、あの子が道を誤りそうだったら、あなたが精神の支えになってあげて…」 「…ハイ…」 「次!りしゃこ!」 「ハイ!」 「…ホント、よく頑張ったね!」 「うん!ノノさんのおかげだもん!」 「魔法の修行は楽しかった?」 「うん!楽しかった!」 「…じゃあ、その『心』を、ずっと、ずっとずっと…忘れないでね!」 「うん!わかったもん!忘れないよ!」 「約束だよ…?」 「うん!約束する!!」 「…じゃあ、もう終わり!みんなのところへ行こっか?」 「…どしたの?」 「…もん。…寂しいもん…やだ…」 「…ちょっと、どうしたの、いきなり…」 「…お別れなんて…やだもん…」 「…そっか…。わかるんだ…。でもさ、また会えるから…きっと、また会えるから!」 「…じゃあ、約束して!また、会えるよね?」 「…うん!約束する!」 りしゃこを最後に、個別のメッセージを伝え終えたノノタン… 「みんな、明日の朝に出発…でいい?」と、ノノタンが尋ねると、みんなは、 「「「ハイ!」」」と、元気よく答える 「OK!じゃあ、あとは自由時間ってことで…」 「ハイ!」 ノノタンの号令で、みんなは外で遊び始める… ずっと、特訓ばかりだったから、集落の周りを散策してみると、意外に楽しいことに気付いた… 側を流れる小川、水車小屋、石畳の小径…どことなくのどかで、つい楽しくなって、鼻歌を歌ってしまう… 「♪10月の出会いは〜」「♪長く幸せ〜に〜な〜る〜と〜」 「♪本で!」 「♪見たの!」 「♪昔!」 「♪Do it!! Do it!!」 「♪英会話自体は〜」 「♪上手になら〜な〜かっ〜た〜」 「♪だけど」 「♪あなたに出会えた〜」「♪Hey!ダーリン!」 みんなが遊びに出ている頃、ノノタンは手紙を書いていた… 一つは報告書… もう一つは、ありったけの想いを込めて… みんなが集落の外から帰ってくる頃には、すっかり日も暮れていた… 何故かノノタンの館に着く前に、鼻腔をくすぐるいい匂いがする… 「♪カレーの匂いがする〜わ〜!」 「♪帰りの道の出・来・事〜!」 「♪あぁまた明日、会えるといい〜な〜!」 「♪いい〜な〜!」 「♪いい〜な〜!あぁ、憧れの人〜!」 館に戻ると、ノノタンがカレーを作って帰りを待っていた… 「…あんまり、料理は上手じゃないんだけど…一番上手く作れるカレーにしました!!」と、ちょっぴり照れながら言うノノタン… 「…じゃあ、いただきま〜す!」 みんなが一斉にカレーを食べ始める… すると、5分も経たないうちに、 「おかわり!」「ウチもおかわり!」「ウチも!」 という声が相次いだ… これには思わずノノタンから笑みがこぼれる… みんながカレーを食べ終わり、やがて床につく… 外は雲一つない、とても綺麗な満月だ… りしゃこはふと、胸騒ぎがして目が覚めた… 窓の外には、雲一つない綺麗な満月… だが、りしゃこはふと、胸騒ぎがして目が覚めた… そして、何故だかよくわからないけど、窓の外をぼんやりと眺めていた… すると、月の柔らかな光に照らされて、二つの人影が見える… 一つは小さな、もう一つはそれより少し大きめの人影だった… 目を凝らしてみると、その人影の正体が判明した… 小さな人影はノノタン…、もう一つの人影は男の人だった… どことなく、名残惜しそうに、館を見つめているノノタン… 男の人がノノタンをぎゅっと抱き寄せる…。よくわからないけど、ノノタンは泣いてるようだった… しばらく抱擁が続いた後、二人の傍に、何やら空気が歪んだようなものが見える… りしゃこは気付いた! それは、『時空の歪み』だと! 「待って!行っちゃダメだもん!!」 …そんなりしゃこの願いも二人には届かず、『時空の歪み』に消えていく… 「…うわぁ〜〜ん!!」 りしゃこは悲しさのあまり、泣き出してしまう… 『また、会おうね!』って、約束したのに… 枕に顔を押し付け、嗚咽する…。その内、泣き疲れて… りしゃこは眠った… 翌朝― 泣き疲れて、いつの間にか眠っていたりしゃこが、朝の眩しい日射しで目を覚ます… 寝ぼけ眼で周りを見てみると、みんながいない…。もう、起きてるようだ 昨日の夜のことを思い出して、みんなに早く伝えようと館の中を回っていく… 客間にみんなが集まっていた…。だが、その表情は曇っている… みんながりしゃこに気付き、サキが代表して話す… 「…りしゃこ…実は…」 「…うん…知ってる…ノノさん…いなくなっちゃった…」と、言うと、りしゃこの目から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちてしまう… 「…知ってたんだ…」 「…うん…見てたの…消えていくのを…」 「…そっか…」 つらそうなりしゃこを抱きしめ、慰めるサキ 客間に集まったみんなも同じ気持ちなのだろう…黙ったままでいる… そんな重い雰囲気を、なんとか変えようと考えるサキ… (…キャプテンのあたしがしっかりしなきゃ!…みんなを励まさなきゃ!) そう思って、 「…ねぇ!みんな!…ノノさんの手紙…読んでみよ!?」と、精一杯、明るく振る舞う… そんなキャプテンの気持ちが通じたのか、 「…うん、読もっか?」「読も読も!」「読んで読んで!」と、みんなもつらいのを我慢して、明るく振る舞う… サキがノノタンの置き手紙を取り出し、みんなで読んでみることにした… 『―親愛なるみんなへ― みんながこの手紙を読んでる頃には、アタシは『向こう側の世界』にいると思います… アタシの中で『最愛の人』と『向こう側の世界』で一緒に暮らしていくことに決めました… アタシはこの世界が大好きなんだけど、アタシと『あの人』が一緒に暮らすためには、 ヤグっさんの言うように、『二つの世界を融合』させることで可能だけど… でも、みんなの大好きな、この世界を壊してまで『あの人』と暮らすことはアタシには出来なかった… 悩んだ末、アタシが『向こう側の世界』に移り住むことに決めました… みんなに最後まで内緒にしてて、ごめんなさい…。でないと、きっと、決心が鈍ってしまうから… だから、何も言わずにお別れします…ホントにごめんね… アタシも『向こう側』の生活はホント不安だけど、みんなも頑張っているから、アタシも頑張ります… 最後に… みんな、愛してる!アタシにとって、みんなは血は繋がってないけど、可愛い妹だよ… きっと、また会おうね! ―ノノタン―』 ノノタンの手紙を読んでいるうちに、目に溜まった涙で文字が見えなくなってしまった… 誰からともなく、すすり泣く声が聞こえる… なんとか読み終えた頃には、みんな、人目を憚らず泣いた… 一生のうちで、『大切な出会い』というのは、そうそうあるものではない… でも、ノノタンとの出会いは、きっと、みんなにとって、『大切な出会い』だったことだろう… やがて一人、二人と泣き止んで、ようやくみんなが泣き止んだ… そこで、サキがみんなに号令をかける… 「…みんな!帰ろう!メーグル達が待ってるよ!」 その一言に反応して、みんなが荷物をまとめ始める… そして、30分後… 準備を終えて、出発体勢が整った… ただ、出発前に、りしゃこが何やらごそごそとやり始める… 「…りしゃこ?何やってんの?」と、ミヤビが尋ねると、 「…種を蒔いてるの!」と、返事するりしゃこ… 「きっと、ノノさんが帰ってきたら、びっくりすると思うの!」 …その言葉を聞いて、出発を遅らせ、みんなでお花の種を蒔き始める… 『…きっと、ノノさんが帰ってきますように…』