一方その頃…ハロモニア城内― 


「…へぇ〜っくち!…う〜、…誰かがレイニャのことをウワサしてるニャ…」 

くしゃみをして独り言を言うレイニャ… 

レイニャはハロモニア王国の内部調査の仕事のため、『暁の乙女』に入団した訳だが、 
レイニャの敏捷性に惚れ込んだアツコが、レイニャを忍者にするべくスカウトしたのだ… 
そして、アツコの見込み通り、特訓に次ぐ特訓を重ねたレイニャは、立派な忍者へと変貌したのだ… 


…と、アツコとレイニャの間には、そんないきさつがあったのだ… 


以前から『裏切り者』がいる、と聞かされていた中、今日はアツコから、『物見の塔』で待機するように、と言われていた… 

ただ、堪え性がないレイニャにとって、『見回り』や『待機』は退屈であり、苦痛でしかなかった― 

―と、不意に、どこからか『猫笛』の音色が聞こえてきた! 
この『笛の音』が、レイニャの行動開始の合図であった… 

今までの退屈の鬱憤を晴らすべく、レイニャは現場へと急いだ―



ハロモニア城内を警備して回っていたレイニャの耳に、猫笛の合図が飛び込んできた! 

「…待ってたニャ!」 
そう言うと、レイニャは『物見の塔』まで全力疾走した! 
城内の廊下を駆け抜ける足音を反響させながら… 

そして塔の入り口に到着し、一気に螺旋階段を駆け登る… 
これがけっこうハードだ…それでも、使命感にかられて黙々と走り続ける… 


しばらくして後、『物見の塔』の最上階まで到着したレイニャ… 
まずは呼吸を静かに整える… 
と、同時に目を閉じて、精神を統一させる… 

(…よし!行くニャ!) 

集中し切ったレイニャが扉を開け、勢いよく中に飛び込む! 
「…よし!動くニャ!」 

だが、最上階の部屋には誰もいなかった… 
が、窓際の机の上に、なにやら書き置きらしきものがある… 
すかさず近寄って覗き込むレイニャ… 

その書き置きに書いてあったのが… 
『アホが見る ブタのケツ! m9(^Д^)プギャー!!』 

「…何ニャ?この書き置きは!?ムカつくニャー!」 
と、我を忘れて、つい大声で叫んでしまったレイニャ… 

すると、レイニャの後ろの入り口の扉が、急にバタン!と閉じた…



『裏切り者』がいるとおぼしき『物見の塔』へ駆け込んだレイニャ… 

だが、最上階の部屋には誰もいなかった… 
あったのは、一枚の書き置きのみ… 
しかも、その書き置きに気をとられている隙に、入り口の扉がバタン!と閉じた… 

(…しまったニャ!) 
そう本能で感じ取ったレイニャは、入り口の扉に向かって勢いよく体当たりをする! 

すると、予想外にも扉はあっさりと開き、むしろ、勢い余って壁に衝突してしまった… 

「…イタタ…」 
強く打った全身をさするレイニャ… 
そのレイニャの視界が突然、真っ暗になった… 

「…ウニャ!?ニャニャニャー!」 
思わず後退りをするレイニャ… 
そのレイニャの首筋に、突然、鈍い衝撃が襲った! 


そして、ゆっくりと、レイニャは意識を失った…






そして数分後… 


りしゃこ達が『物見の塔』の最上階の部屋に到着した頃には、レイニャは大の字にノビていた… 
頭にすっぽりと袋を被せられて… 

まず、アツコがレイニャの無事を確認する… 
「…おーい!レイニャー!起きろー!」 
と、言いながら、身体を揺さ振ってみる… 

すると、 
「…う、うーん…」 
と、レイニャが目を覚ます… 

が、次の瞬間、 
「…ニャ!?ニャニャニャニャニャー!」 
目を覚ましたレイニャが、袋を被ったまま、後退りを始めた! 

その様子にりしゃこ達一同は大爆笑! 
アツコに至っては、 
「おー!レイニャ!自分、なかなか面白いギャグ持ってるなー!」 
と、大喜びする始末… 

ようやく、騒ぎが収まったのは、見かねたユーコがレイニャの袋を取り除いてからだった… 


その後、改めて部屋の中に入っていく… 
中はかなり散乱していた… 
その中で状況を検分する



『裏切り者』確保のために動いたレイニャだったが、取り逃がしてしまう… 

そんな中で、犯人がいたと思われる、『物見の塔』の部屋に入っていく… 


部屋の中は意外に散乱していた 
きっと、犯人が慌てたからだろう…机の上にあったであろう書物や羊皮紙が、床の上に落ちていた… 
それらと一緒に紙袋も幾つか見受けられた… 

あとは、犯人を特定できる、それらしい遺留品はなかった… 


それらを見て、アツコが推理をする 

「…あんまり、手掛かりなるモンがないなぁ…」 
と、早速ボヤくアツコ… 
「…そらそうやろ!?別に殺人事件でもないんやから…」 
と、ユーコが突っ込む 

唯一、それらしいもの、といえば、紙袋くらいなのだが… 

「…この紙袋…なんか甘い匂いがするニャ…」 
と、レイニャが言った… 

その一言に、全員が一斉に振り向く 

「…どれどれ…」 
と、まず、アツコから匂いを嗅ぐ… 
そして、ユーコ、りしゃこ達…と回していく…



『裏切り者』の遺留品の紙袋から、甘い匂いがする…と聞いて、一同は匂いを嗅いでみる… 

そして、出た結論が、 
「…これって、お菓子の入ってた紙袋じゃないの?」となった… 
恐らく、『物見の塔』での偵察活動の合間、暇を持て余して間食をしてたのだろう… 

ついでに、他の紙袋の匂いを嗅いでみたが、どれもこれも、お菓子の匂いがする… 


「…わかったことは…犯人は無類の食いしん坊…ってことぐらいか…」 
と、アツコが言う… 

口には出さなかったが、誰もがそう思っていた… 

「…なぁ、ユーちゃん?…ちょっと、ユーちゃん!?」 
「…あ?…あぁ…どないしたん?」 
「…どないしたんやあらへんよ!」



「…なぁ、ユーちゃん!?…ちょっと、ユーちゃん!?」 

アツコに問いかけられても、うわの空だったユーコ… 

その時、ユーコの脳裏には、ふと、ある人物が頭をよぎった… 

(…まさか、コンちゃん…!?…あんたが…) 

…それだけは思いたくはなかった… 
内通者がいるとは考えたくなかった… 
ましてや、自分の可愛がっていた後輩が、だ… 


ただ、今は真相が明らかになるまでは、後輩を信じるしかない… 
ユーコの悲しみはいかばかりか… 


そんな雰囲気を察してか、アツコが、 
「…後はウチに任しとき!ユーちゃん、最近お疲れやからな!」 
と、努めて明るく振る舞う… 
しばらく考えたユーコだったが、アツコの意を汲んで、部屋に戻ることにした… 

そんなやりとりをみて、まだ若いりしゃこ達にも、ユーコのやりきれなさが伝わってきた…



ハロモニア城内の『裏切り者』をあと一歩のところで取り逃がしたアツコとレイニャ… 

その現場に残った遺留品を見て、急に元気がなくなったユーコ… 

どうやら、親しい『身内』だったに違いない 

ユーコを気遣って、部屋で休むように勧めたアツコ… 
このやりとりを見て、ユーコの辛さがりしゃこ達にも感じ取れた… 


ユーコが部屋に戻ってからは、りしゃこ達もハロモニア城から退出することにした… 
いろいろ教えてもらいたいこともあったが、とてもそんな雰囲気でないことを悟ったからだ… 


ただ、ハロモニア城から出る際に、 
「…ほら、みんなにこれやるわ!」 
と、アツコから、なにやらお札のようなものを渡された… 

「…これは?」 
みんなを代表して、サキがアツコに尋ねた 

「この、ハロモニア城の通行許可証や!…今日はいろいろあって、何もしてあげられんかったけど… 
またコーチしたるから、いつでも来てや!」






一方では… 

王都・ハロモニア某所― 

街の雑踏をくぐり抜け、慌てて駆け込んでくる人影が… 

ガチャ!! バタン!! 

「…あれ?コンちゃん?…すごい慌てて…どしたの?」 
「…ハァハァ…いやぁ、どうもこうもないっすよ! 
『物見の塔』で戦力分析してたら、いきなり駆け込んで来ちゃって…」 
「…ふーん…で?」 
「『ふーん』じゃないですよぉ!こっちは命からがら逃げ切ったのにぃ…」 
「…そんなの、見つかる方がバカじゃん?」 
「もぉ!なんてこと言うんですか!…ワタシ、みんなのために一生懸命やってるのにぃ…」 

「…ハイハイ、わかったわかった!ご苦労さん! 
ま、それはいいけど…まさか、バレてないよね?」 
「…完璧ですって!」 
「…ふーん…」 
「な、何ですか!?…ワタシのこと、疑って…」 
「…だってさ、コンちゃんの、いつも持ってるお菓子がないじゃん!? 
どっか置き忘れたんじゃ…」 
「…あ」 
「…あーあ、知らないんだぁー♪あの人が知ったら大変だろうなぁー♪」 
「…え?いや、ち、ちょっと!待ってください!」 
「…どうしよっかなぁー♪」






再び、舞台はハロモニアの街中― 


ハロモニア城を出たりしゃこ達は、居候をしてるヤグーの館に戻ることにした… 
だが、そこでもトラブルが… 

帰ってくるなり、けたたましい足音とともにメーグルがりしゃこ達に駆け寄ってきた… 
「…ねぇ!マイミン達、見なかった!?」 

いつも澄ました顔のメーグルが珍しく血相を変えている… 
裏を返せば、それだけ大事件なのだ… 

「…み、見なかったよ…」 
りしゃこ達は血相を変えたメーグルを前にして、そう答えるのが精一杯だった… 
「…そ、そう…」 
「…でさ、一体全体何があったの!?」 
モモが尋ね返す… 

「…ちょっと!見てよコレ!」 
そう言って、メーグルが一枚の紙切れをりしゃこ達の目の前に突き出す… 

…そこには、 
『メーグルへ― 

オレはこれから、究闘不敗・最終奥義を極めに修行の旅に出る… 
心配するな…。魔導大会までには帰ってくる。じゃあの。 

マイミン=バカッシュ』 
『心配なので、ついていきます。 

エリカン=エダマメ』



ヤグーの館に戻ってくるなり、トラブル発生… 

『魔導大会』まであと1ヶ月を切ったのに、マイミンの突然の失踪… 
書き置き通りであれば、何も問題はないのだが… 

「…マイミンのバカ!修行に行くなら行くって前もって言えばいいのに!」 
と、珍しくメーグルがおかんむりだ… 

りしゃこ達が『魔導大会』で優勝するためには、味方の数が少しでも減ると、正直キツい… 
かといって、連れ戻そうにも、どこに行ったかすらわからない… 
ただ、今は、期限前に戻ってくるのを祈るしかない… 

メーグルがようやく落ち着きを取り戻すと、 
「…あら?今日はどこへ行ってきたの?」 
と尋ねる… 
「…それがさ…ジャーン!」 
と、チナリの合図とともに、りしゃこ達全員が、アツコからもらった許可証を突き出す… 

「…ふーん…。で?」 
「…ちょっとぉ!『で?』って何よ!?『で?』って!?」 
「…だって、誰でももらえるのよ、それ…」 

メーグルの一言に、思わず脱力するりしゃこ達だった… 

(…あのオバサン、もったいぶりやがって!)






『魔導大会』まで、あと1ヶ月… 

ここ、『輝く女神』本部でも、『魔導大会』の緊急対策委員会が開かれていた 

今回の目的は、ヤグーのクーデターの阻止と現行犯確保… 
まず、ヤグーの計画は… 
@りしゃこが優勝し、 
Aハロモニア女王・ユーコからハロモニアを護る『魔力』を奪い、 
B『時空の歪み』を発生させやすくし、 
Cハロモニア世界と他世界の融合による破壊 
と、なっている― 

りしゃこがユーコの魔力を引き継ぐ瞬間…きっとヤグーが行動を起こす… 
その現場を作り出し、そして、押さえるのが、『輝く女神』の狙いだ… 

そのためには、りしゃこに『魔導大会』で優勝してもらわなくてはならない… 

だが、まさかの『暁の乙女』の参戦で不確定要素が発生した… 

その、不確定要素を排除するべく、『輝く女神』は、対『暁の乙女』用に布陣を敷いた… 

リーダーのヨッシーノとリカサークの旧・親衛隊長とエースのコンビ… 
リカサークの部下・『美勇団』のエローカとユイヤンのコンビ… 
リカサークの親友のシバチャンが率いる『女流怨鬼念火(めろんきねんび)』の面々… 

この強力な布陣で、りしゃこを護ることに決定した…






そして、いよいよ『魔導大会』まで、あと一週間となった― 

これまでりしゃこ達は、やるべきことはやってきたつもりだ… 

コンビネーション、タイミング合わせ、ポジショニング、サインなど… 
あらゆる項目をチェックし直した… 

後は、今、出来る事を最大限に反復練習をして、本番で、 
いかに速く正確にミスをせずに行動出来るか、だけである… 

とにかく、がむしゃらに、ひたむきに特訓に励んだ 

今ではすっかりミスをすることもなく、絶好の仕上がりとなっている 

修行に出ていったきり戻ってこないマイミン達は気掛かりだが… 


あと一週間…その後、ハロモニア世界の運命が決する―