そして、運命の朝を迎えた― 普段は、あまり朝に強くないりしゃこだが、何故か今日は、ミヤビに起こしてもらうことなく目が覚めた 一方のミヤビは、というと、ぐっすりと睡眠中だった… いつもはなかなか起きないりしゃこを、ミヤビは今まで叩いたり、揺すったり、つねったりして、荒っぽく起こしていた… 今日は、全く逆のシチュエーションだ… りしゃこの頭の中に、復讐心と好奇心が芽生える… 「…ん…」 不意に、色っぽい声を出すミヤビ… 「…ん!…やんっ!…」 ため息と少しくぐもった声が洩れる… 「…ちょ、や、やだー!」 そう言って、ベッドから跳ね起きたミヤビ… そして、『異変』の元である布団を捲り上げた! 「…あ。ミヤ!おはよー!」 屈託のない笑顔でミヤビにおはようのあいさつをするりしゃこ… 「…ちょっと…!『おはよー!』じゃないわよ!…ヘンなとこ、触んないでよ!」 「…触っても減るもんじゃないもん?」 次の瞬間、りしゃこの頭にげんこつが落ちたのは言うまでもない… 支度を整えたりしゃことミヤビが食堂に着くと、既にみんなが集合していた 全員、落ち着きのある、リラックスした良い顔をしている… 「…あ!おはよー!りしゃこ!」 「…おはよう!ミヤー!」 「…みんな、おはよー!」 ひとしきり朝のあいさつを交わすと、サキが 「…これで全員、揃った☆カナ?」 と、確認する… すると、マイミン・エリカンが、 「…まだ、メーグルが来てない…」 「…ヤグーさんも!」 と答える… その直後、メーグルが食堂へやってきた… だが、その表情が険しい… 「…どうしたの、メーグル?」 不安に思ったモモが尋ねてみる… 「…ヤグーさんが…まだ、帰ってないの…」 メーグルの返事に、一同が動揺する… 「…そして、これを見て欲しいの…」 そう言って、メーグルがみんなの前に、一通の手紙を差し出す… そこには… メーグルが、ヤグーからの手紙をみんなの前に差し出す… 『メーグルへ― 頼み事があります。 オイラは、ある“決着”をつけに行きます。 必ず、帰ってきます。 ただ、オイラがもし、帰ってこれなかったら、オイラの代わりにみんなを指揮して下さい。 ヤグー』 手紙の内容に、みんなの顔色が一度に変化した… …これではまるで、『遺言』ではないか?と、すら思える… みんなが沈黙したその時、メーグルが声を張り上げた! 「…みんな、聞いて!…私達は、今、目の前のやるべきことをやるだけ…それだけに集中して! …みんな、心配してると思うけど…ヤグーさんなら…ヤグーさんなら、きっと大丈夫だから!」 …まるで、不安で仕方がない自分自身に言い聞かせるように… いつもと違う、メーグルの力強い言葉にみんなも落ち着きを取り戻す… そして、カンパチ…いや、間髪入れずに 「…じゃ、よろしく頼むよ、リーダー!」 と、モモが合いの手を入れる… 「…よろしく!」 「…よろしくね!」 と、みんなも呼応して、“暫定リーダー”メーグルを受け入れた… “暫定リーダー”メーグルの引率で、『魔導大会』の出場登録に向かうりしゃこ達… 本来のリーダー・ヤグーがいないことに一抹の不安を感じてはいるが、今は、目の前のことに集中するしかない… 決意も新たに、決戦の場・ハロモニア城を目指して… そして、15分後…りしゃこ達は出場者登録の場である、ハロモニア城門前に到着する… けっこう早くに来たつもりだったが、すでに、かなりの人だかりが出来ていた ざっと見たところ、100人くらいはいるだろうか… それだけ特別なイベントであることが伺える… りしゃこ達はまず、辺りを見回してみる…ひょっとしたら知った顔がいるかも知れない、と思ったからだ… が、思惑と違って、辺りは知らない顔ばかり… だが、かえって、そっちの方が気分が楽である… りしゃこ達は適度の緊張感を保ちながら、受付が始まるのを待っていた… “暫定リーダー”メーグルの引率で、『魔導大会』の出場登録に向かうりしゃこ達… 本来のリーダー・ヤグーがいないことに一抹の不安を感じてはいるが、今は、目の前のことに集中するしかない… 決意も新たに、決戦の場・ハロモニア城を目指して… そして、15分後…りしゃこ達は出場者登録の場である、ハロモニア城門前に到着する… けっこう早くに来たつもりだったが、すでに、かなりの人だかりが出来ていた ざっと見たところ、100人くらいはいるだろうか… それだけ特別なイベントであることが伺える… りしゃこ達はまず、辺りを見回してみる…ひょっとしたら知った顔がいるかも知れない、と思ったからだ… が、思惑と違って、辺りは知らない顔ばかり… だが、かえって、そっちの方が気分が楽である… りしゃこ達は適度の緊張感を保ちながら、受付が始まるのを待っていた… 1時間後… 先程まで100人程度の人だかりが、あっという間にその5倍の500人には膨れ上がっていた… 今回の『大会参加者』の条件が、100人中1人の割合しかいない『魔法使い(資質者)』、 加えて、20代までの女性…ということを考えれば、かなりすごい人数だ… 綺麗に列を成して並んでいると、突然、 「おーい!」 という声がする… りしゃこ達が振り返ると、オレンジ色のお揃いのユニフォーム…というか装束に身を包んだご一行が… もちろん見覚えがある… ハロモニアの平和維持のために戦う同志・『輝く女神』のリーダー・ヨッシーノだ… 「…ちょっと、キミ達…並ぶのが早すぎるYo!」 と、たしなめられてしまった… と、同時に、 「…あれ?ヤグーさんはいないの?」 と、ズバリ聞かれてしまう… りしゃこ達が大会参加者の登録待ちをしていると、ヨッシーノ率いる『輝く女神』のメンバーと遭遇した… りしゃこ達の引率でヤグーがいないことを確認したヨッシーノが、ヤグーの所在を尋ねる… りしゃこ達が互いに顔を見合せる中、みんなを代表してメーグルが、 「…いません」 と、毅然とした態度で答えた… その顔つきにヨッシーノがハッと気付く… そして、次第に苦虫を噛み潰したような渋い表情になる… サブリーダーのリカサークがヨッシーノの表情の変化に驚き、 「…どうしたの?ヨッちゃん?」 と、恐る恐る尋ねる… 「…不味いな…!」 「…何が…どう不味いの?…教えてよ!」 「…『第3勢力』だYo…」 「…『第3勢力』!?」 「…ヤグーさん以外にも、ハロモニア世界の崩壊を狙う勢力がいるってこった…。…もしかしたら、ヤグーさんが…」 「…まさか〜!ヨッちゃんも、ヤグっさんの実力はよく知ってるじゃない!?」 ヨッシーノがヤグーの不在を気に掛ける… もしかしたら…『第3勢力』がヤグーを“消そう”としてるのでは… 「…メーグル…ちょっと来てくれYo!」 と言って、メーグルを傍に引き寄せる… 「…なぁ?…何があったんだYo?…オレにも教えてくれ!…ここ数日間の、おかしなこと全部!」 あまりの勢いに気圧されて、メーグルがヨッシーノにここ最近の変な出来事を語り出す… 昨日から突然いなくなった件、書き置きの内容がおかしかった件、そして、遠出の際に『傀儡』に襲われた件… それを、ぽつりぽつりと話していく… ますますもって、ヨッシーノの表情が険しくなっていく… 「…サトやん!アヤちゃん!…ちょっとええか?」 「…ハーイ!」 「…どしたのヨッちゃん?」 呼ばれたのは、『輝く女神』のメンバー、ヘキ=サトタ(愛称・サトやん)とヨッシーノの友人、ア・ヤーカ(愛称・アヤちゃん)の二人… その二人に、いつにない真面目な顔つきで、 「…悪いけど…新しい仕事が出来た…頼まれてくれる?」 と言う… 「…わかったわ!」 「…任せといて!」 メーグルから聞いた、ここ最近のおかしな出来事の数々… それはヤグーの生命が狙われていることを予感する内容だった… ヨッシーノは悩んだ結果、友人のサトやんとアヤちゃんに仕事を依頼する… 仕事の内容は…ヤグーの居どころを探し当てることと、場合によっては救出… ヤグーのやろうとしている『ハロモニア世界の崩壊』は、確かに見過ごすわけにはいかない… 何せ、重大な国家反逆罪だ… だが、その罪は法によって裁かれるべきであって、死を以て償うべきではないハズだ… そのためにも、いち早く、ヤグーの身柄を拘束しなくてはならない… そう判断したヨッシーノは、その重要な役目を二人に託した… 後は、ハロモニア元老院と連携して『第3勢力』を突き止め、壊滅させるのみ…! 「…『魔導大会』、一緒に出たかったけど…ゴメンね!」 「…いいのよ!国家の一大事じゃない!」 「…気にしない、気にしない!…もし、上手くいったら、ウチらが一躍ヒロインになれるじゃん!?」 「…そうだね!じゃあ、頼むよ、二人とも!」 「任せて!」 「ちょーだい!」 ヤグーの安否が気になるヨッシーノ… 国家反逆罪を犯しているとはいえ、かつての仲間だ…せめて、自分達の手で法の裁きを受けさせたい… そのためにも、身柄を拘束しなくては… ヨッシーノの嫌な予感は当たっていた… 遡ること、昨晩… 王都・ハロモニア某所― 静まりかえった街中の路地裏に小さな影が一つ消えていく… 「…コンちゃん…いるんでしょ!?」 「…はぁい…どうしたんですか!?」 「…コンちゃん!…今から言う質問に答えて!」 「…どうしたんですか、急に…」 「…いいから答えて!」 「…コンちゃん…あなた、オイラの生命を狙ったでしょ!?」 「…えっ!?」 「…いいから答えて!」 「…や、やだなぁ…ワタシがヤグっさんの生命を狙うワケ、ないじゃないですか!?…大事なセンパイなんですから〜」 「…おべんちゃらはいいの!…答えは二つに一つ!…『ハイ』か『イイエ』か…どっちなの!?」 「…」 「…ねぇ!…どっちなの!?」 「…ねぇ!…どっちなの!?」 「…ヤグっさん…じゃあ、もし…ワタシがやったとしたら…『証拠』はあるんですか!?」 「…!」 「…『証拠』ですよ…『ショ・ウ・コ』!…まさか、証拠もないのにワタシを疑ってるんですかぁ?」 「…」 「…ないんですね!…だったら、『疑わしきは罰せず』ということで…」 「…コンちゃん…」 「…あら?ヤグっさん?…ど〜したんですか!?…大の大人が泣いちゃって…?」 「…オイラ…悲しいよ!…大事な仲間だと思ってたコンちゃんが…オイラの生命を狙ってたなんて…!」 「…だ〜か〜ら〜!…『証拠』はないんでしょ!?『『証拠』はぁ!?」 「…これ…見覚えあるでしょ?」 「…!」 「…覚えてるよね…オイラが初めて『暁の乙女』の親衛隊長になった時に、みんなにプレゼントした、メンバーのイニシャル入りペンダント… …これが、昨日、『ある場所』に落ちてたの… オイラはごく一部の仲間にしか、行き先は告げてないし…部外者で行き先を知っていたのは…コンちゃんだけだよ…」 「…」 「…」 「…どうなの、コンちゃん!」 「…」 「…ねぇ!…どっちなの!?…答えてよ!…ねぇ?」 「…ククク…」 「…コンちゃん…?」 「…あ〜あ…バレちゃいましたかぁ〜。…ワタシもまだまだですねぇ〜」 「…コンちゃん!…あなた…!」 「…ええ。…ワタシがヤグっさんの生命を狙いました。…ワタシ達の『計画』にとって邪魔なんで…ね」 「…ちょっと!…『ワタシ達』って、どういうこと!?」 「…ヤグっさんには知る必要はないですわ…だって…ヤグっさんにはここで… …消えてもらいますから!!」 「…コンちゃん!?」 「…ヤグっさんもバカですねぇ〜!…一人で敵地に乗り込むなんて…」 「…オイラの大事な『妹達』を巻き込むワケにはいかないからね! …そして、この問題は…オイラ自身でケリをつける!」 「…それはそれは。…でも、もう『チェックメイト』ですよ?」 「…何ですって!?」 「…!…ム、ムグー!…ウー!…」 「…静かにしてく・だ・さ・い!」 ドカッ!! 再び― いよいよ、『魔導大会』の受付が始まった… 結局、参加者は1000人ぐらいは集まっただろうか… 「…ヒュー!すげぇ〜!…以前とは、比べものにならねぇYo!」 と、すっかり興奮しているヨッシーノ… すかさず、 「…あの、前回はどれくらい集まったんですか?」 と、サキが尋ねる… 「…そうね…ざっと500人ぐらいだって聞いたわ…」 と、ヨッシーノの代わりにリカサークが答える… その場にいた一同が、へぇ〜!と驚く… 「…でも、これだけの人数だとすると、『足切り』があるだろうな…」 と、ヨッシーノが呟く… 「…『足切り』って、何だもん?」 と、不思議そうに聞くりしゃこ… 「…『足切り』ってのは、妖怪・『足切り』と言って…」 と、あたかもそれっぽく語り始めるマイミンに、 「…ウソ教えんな!」 と、ツッコミを入れるモモ… 「…いい?『足切り』ってのは、…りしゃこには難しいか!」 と、説明しようとしたが、諦めたミヤビ… 「…えー!やだー!」 と、ふくれるりしゃこ… ハロモニア城門前の受付にはざっと1000人ぐらいの参加希望者が押し寄せた… これには大会運営スタッフの元老院も慌てふためくばかり… そこで、急遽、元老院側が『足切り』を用意してきたのだ… 『魔術師の館』にある、『魔力の振り子』… 魔力の測定をするための道具だ… ある一定条件の魔力を持つものでしか参加できない…という『縛り』を設けないと、予選だけで大会予定の一週間はゆうに過ぎてしまう… 加えて、本当に、『資質』を持っているかどうかのチェック… 実力の開きのある者がぶつかれば、タダでは済まないことも考えられる… 「…ま、これが、至極当然の流れだな…」 「…悲しいけど、これって現実なのよね…『憧れ』だけではやってけないの…」 ヨッシーノとリカサークがしみじみと語る… そして、『足切り』が始まり、数少ない者が『狭き門』をくぐり抜け、数多くのものが『狭き門』に阻まれ、涙した… そして、りしゃこ達は… 大会運営スタッフが用意した『足切り』の道具・『魔力の振り子』… これにより、数少ない者が『狭き門』をくぐり抜け、数多くの者が『狭き門』に阻まれ、涙した… そして、りしゃこ達は… 当然ながらクリアーした… りしゃこやミヤビのようにあっさりクリアーした者がいれば、マイミンのようにギリギリでクリアーした者もいた… もちろん、ヨッシーノ率いる『輝く女神』のメンバーも、しっかりとクリアーしていた… 「…ま、Yo裕だYo!Yo裕!…っしゃー!!」 「…ヨッちゃん!騒がない、騒がない!…もう!恥ずかしいじゃない!」 粛々と『足切り』が進む中、一際大きな歓声が上がった… 『魔力の振り子』が振り切れてしまったのだ… 振り切った張本人は、黒いフードを被った4人組… 正体不明の怪しい4人組… 「…なんだ、ありゃ?」 思わず4人組を指差すマイミン… 「…ダメよ!指差しちゃ!ダメ!」 と、エリカンが注意する… 黒いフードがそうさせるのか、まるで、禍々しいオーラを纏っているようにも見える… 嫌な予感がする… 予選会場に現れた、禍々しいオーラを纏った黒いフードを被った4人組… 不気味な上、魔力測定の『振り子』を振り切ったことからりしゃこ達やヨッシーノ達は警戒を強める… その一方で、『足切り』による選別は終了した… 結果、1000人ぐらいの参加希望者の内、『狭き門』をくぐり抜けたのは、その10分の1、100人ぐらいにふるい分けされた… 「…けっこう、辛いよね…みんな『夢』見て、参加しようとしたのに…」 サキがポツリと呟く… だが、勝利の余韻や感傷に浸ってる暇はなかった… 「…今から30分後に、『予選会』を始めます!…それまでは休憩をとって下さい!…あと、時間厳守です!」 大会運営スタッフから『予選会』の通達があった… 「…一体、どんな『予選』なんだろ?」 「…わぁー!…なんだかドキドキしてきたー!」 と、ユリーナとチナリが騒いでいるのとは対象的に、メーグルはずっと、沈黙を保っていた… 『予選会』にみんながドキドキしている中で、メーグルはずっと、沈黙を保っていた… だが、その沈黙は、『予選会』の直前で途切れた… 「…みんな、ゴメン!…私、ヤグーさんを捜しにいく!」 と、言い残し、みんなの元から走り去った… 「…ち、ちょっと待ってよ…!」 と、みんながうろたえている内にハロモニア城内に消えていった… あっけにとられるりしゃこ達…だが、ここで後を追って、『予選会』に出場出来なくなっては、元も子もない… 「…ね、ね!…どーしよ!?どーしよ!?」 と面白いくらい慌てているサキに当て身を食らわせ、静かにさせた後、モモが 「…大丈夫よ!…メーグルはしっかり者だから!」 と、みんなを落ち着かせる… そして、 「…今は、目の前のことに集中しよう!とゆいたい!」 と、マァが綺麗にまとめた… …ハズだった… …だが、マァの手には、 『ハロモニア名物・ベビーカステラ』の袋が… せっかくのいい台詞が台無しになった… そして、『予選会』の集合点呼が始まった… メーグル、という、ある種の頭脳的存在を欠くことによって、焦燥感を募らせるりしゃこ達… だが、その状態でも、予選を勝ち抜かなくてはならない… そして、大会運営スタッフに誘導されて、ハロモニア城の中庭に案内される… 実は、ハロモニア城は特殊な造りで、中庭を少し進むと、すり鉢状に窪んだ巨大広場がある… そう、『コロシアム』… ある時は戦いの場として、またある時は国民の憩いの場として使われる広場… 今回の予選、決勝トーナメントもここで行うのだ… そこに、『足切り』による『狭き門』をくぐり抜けたもの達が集まった… 大会運営スタッフから、『予選』に関する発表が行われた… 現在、総勢108名残っている参加者を、12チーム・24名までに絞り込む…ということだ… そして、選別方法は…バトルロワイヤル!! ルールはシンプル…。リングから相手を突き落としていき、最後の12チーム・24名まで生き残った時点で終了だ… また、ギブアップも認められている… 生き残りを賭けて、りしゃこ達がリングに登る…