チームの勝利の余韻に浸っているりしゃこ達… 

「…ねぇねぇねぇねぇ!…見てた?アタシの大活躍!…カッコよかったでしょ!?…でさー…」 
興奮醒めやらないチナリのマシンガントークにも、 
(…やれやれ…) 
といった感じで今日だけは目をつぶってあげた… 

それから15分後… 

しばらく経っても大会運営スタッフが呼びに来ない…どうやら、今回は出番はないようだ… 

「…せっかくだから、まーったりしようよ!」 
と主張するお気楽なチナリの意見を退け、りしゃこ達は控え室にある、通信用の水晶玉で、第3試合を観戦することにした… 

「…えーっ!?ひまだよー!つまんなーい!」 
とボヤくチナリをよそに、早速、水晶玉に映る試合に集中するりしゃこ達… 

だが、りしゃこ達の目に飛び込んできた光景はあまりにもショッキングなものだった…



通信用の水晶玉を通じて、第3試合を観戦しようとしたりしゃこ達に、ショッキングな光景が飛び込んできた… 


闘技場内の4つの人影が映し出されたが、ほぼ、一方的なのである… 

一方的に攻めているのが、黒装束の方で、一方的に攻められているのが、なんと!『暁の乙女』のアイオーラとガキシャン! 

りしゃこ達は目を疑った… 
あの二人が防戦一方なのである… 
りしゃこ達は、以前にハロモニアの街に『ゴーレム』が出現した時、『ゴーレム』達を見事な連続技で葬ったのを目の当たりにしている… 

その時に、二人の『暁の乙女』の『親衛隊長・副隊長』の肩書きは伊達じゃない…と感じた訳だが、 
それだけに、二人が目の前で一方的に攻められているのが信じられなかった… 

そして、ふと、よく見てみると、二人の様子がおかしい… 
何かを叫びながら、涙を流しながら戦っているのだ! 
そのことがすごく気になった… 

りしゃこ達は沈黙した…そして、しばらくして誰からともなく闘技場へと向かって走っていた…



黒装束の二人組に防戦一方のアイオーラとガキシャン… 
それも、涙を流しながら戦っている… 

その姿を見て…りしゃこ達は沈黙し、そして、誰からともなく闘技場へと向かった… 


闘技場に到着して真っ先に見た光景が、アイオーラの、ガキシャンの魂の叫びだった… 

「…何故!?何故、あなた達は…私達の前に立ちはだかるですか!?」 
アイオーラの声が明らかに震えている… 
それは、怒りではなく…悲しみ… 

「…私の…私の中の『暁の乙女』は…いなくなって…しまったのだ…」 
言葉が途切れ途切れで、聞く側までもが切なくなるような、ガキシャンの独白… 
その眼前に立ちはだかっているのが…あの二人だった… 

『暁の乙女』の伝説(レジェンド)…



『暁の乙女』親衛隊長・副隊長のアイオーラ・ガキシャンの慟哭… 

それは、目の前に立ちはだかる伝説(レジェンド)の存在… 

そう…歴代『暁の乙女』の中でも、最もカリスマ性に溢れた二人のエース… 

アベナッチ=スティール 
ゴトー=ダ=ポー 

二人は、ハロモニア世界の崩壊をもたらす『時空の歪み』の調査に出発して以来、行方不明だった… 
だが、突然こうして、かつての『妹達』の目の前に立っている… 
ただ、それは、『仲間』として、でなく、殺意を持った『敵』として… 

二人はまるで、死んだ魚のような虚ろな目をして、『妹達』に襲い掛かる… 
恐ろしいまでに、機械的に…冷酷に… 

それに対して、アイオーラ、ガキシャンは、かつての『姉達』を攻撃することが出来なかった…傷つけられなかった… 
幼い頃の『憧れ』を、『偶像』を、壊すことが出来なかった… 
ただ、為す術なくされるがままだった… 

『…お願い!…目を覚まして!…悪夢(ゆめ)から醒めて!』 
二人は神様に祈った… 
だが、そんな二人の切なる願いも虚しく、叶わなかった… 

『伝説』の二人は無慈悲にも、攻撃の手を緩めることはなかった… 
そして…二人は無抵抗のまま、『伝説』の二人に蹂躙され、無念のまま、散っていった…



目の前で起きた惨劇…信じられない悪夢… 

現役の、『暁の乙女』の親衛隊長・副隊長が為す術もなく、敗北してしまった… 
そして、大観衆の目の前にいるのは、かつての『暁の乙女』のエース・アベナッチとゴトーの、二人のカリスマ… 

本来ならば、大観衆も『英雄』の帰還に大歓声で応えるハズなのだが、あまりにも一方的な暴力に、声を失っていた… 

それはりしゃこ達も同じだった… 
アイオーラ、ガキシャンが一方的にやられていく様に、思わず目を背けてしまった… 

途中から正体を現した、かつての仲間のあまりの変貌ぶりに、審判のヤススもどうしていいのか戸惑うばかり… 

勝ち名乗りもそこそこに、無言のまま闘技場を後にする伝説の二人… 

そして、その後、担架に乗せられて退場するアイ・ガキ… 
その退場する間、人目を憚らず嗚咽した…それが途切れることはなかった… 

りしゃこ達は、側を通り過ぎる二人をただ眺めることしか出来なかった… 
だが、心中には、熱い決意があった… 

(…きっと、あなた達の無念は晴らして見せます…)と…



驚愕の結果となった第3試合… 

その結果の凄惨さに、りしゃこ達は闘技場の通路で、しばらく立ち尽くしていた… 

すると、通路の向こう側から、次の競技者がやってきた… 

お揃いの緑のフード…お揃いの髪型…見覚えのある姿… 
アイリーナとアイリーネ…双子の天才魔術師だ… 

ただ、いつもならりしゃこ達を見かければ軽口を叩くのだが… 
この時はフードを頭からすっぽり被って、何も言わずにりしゃこ達の傍を通りすぎただけだった… 

しばらく双子の立ち去る姿を見送っていたが、気持ちを押さえ切れず、 
「…お願い…勝ってー!約束だからねー!」 
と、叫んだりしゃこ… 

あまりの大声に、傍にいたミヤビが耳を塞ぐほどだった… 

闘技場へと歩みを進めていた双子だったが、りしゃこの叫び声に気付き、歩みを止め、後ろを振り返り、何も言わずに頷いてみせた… 
沈黙を貫いたまま、アイリーナとアイリーネは闘技場に降り立った…