アイリーナとアイリーネの双子が挑む第4試合… 双子の前に姿を現したのが… 「…げっ!こいつらかよ!?」 「…あーあ、貧乏クジ引いてもたわ〜…」 エローカとユイヤン…『美勇団』の二人だった… 流石にエローカ達も双子の噂は知ってるらしく、顔合わせした瞬間に発した言葉が全てを物語っている…と言っていいだろう… 「…せやけど、やるからには本気でやらんと、リーダーに叱られてまうからなぁ…」 「…棄権したらダメなのかな…?」 そう言って、二人が今来た通路を振り返ると、まるで、般若のような形相をしたリカサークが腕組みしてつっ立っていた… 「…ダメみたい…」 「…ホンマ、鬼やであの人…」 と、愚痴をこぼす二人に、ツカツカと双子が歩み寄る… そして、 「「…お姉さん達、ごめんなさい…」」 と、いきなり双子が謝りだした… 正直、双子と接点がなかった二人にしてみれば、双子に謝られるようなことがないので、キョトンとしていた… すると、双子が続ける… 「…今日のワタシ達は、手加減出来ないと思う…」 「…だから、ケガする前に、謝っておきます…」 第4試合を始める前に、エローカ、ユイヤンに、 「…今日のワタシ達は、手加減出来ないと思う…」 「…だから、ケガする前に、謝っておきます…」 と謝りだした双子… この言葉を聞いたエローカ、ユイヤンは、背筋が凍る思いがした… 『…手加減出来ない…』 これが力の無いものが言うと、只のハッタリに過ぎないが、天才魔術師の双子が言うだけに、その本気度合いに重みが増す… エローカ達はふぅ…とため息をついた… そして、意を決して、 「…しゃあないなぁ…ホンマは面倒くさいんやけど…やるからには、手加減せえへんで!」 「…コッチもそれなりの本気を出させてもらうよ!…恨まないでね!」 と、啖呵を切った… 双子は黙って頷く… そして、両チームのやりとりを見届けたヤススが号令をかける…! 「…準備はいい?…それでは…始め!」 「準備はいい?…それでは…始め!」 審判、ヤススの号令とともに、両チームが飛び出そうとする…が、闘技場の環境が変化する! 決勝トーナメントでは、ランダムに変化するのだ… しばらくすると、闘技場は無人の荒野と化した… 『水の魔法』を得意とする双子には、過酷すぎる環境だ… エローカ達が、双子の表情を覗き見る… すっぽりとフードを被っていて、表情を窺い知ることは出来ないが、全く動じていない様子だ… (…ちょっとでも動揺してくれたらしめたモンだったんだけどねぇ…) 双子の反応にガックリするエローカ達… だが、それを割り引いても、この荒野の環境は、エローカ達にとって好都合だった… 「…さぁ、ほな、ボチボチ行こか?」 と言うなり、ユイヤンが得物の『ジャンボタコヤキ』を思いっ切り頭上でブン回す… 鉄球の風切り音が…捲き上がる土煙が、凄まじい… それが対戦者の恐怖をより一層と煽り立てる… 負けじと、エローカも得物の『三処責め』を頭上で振り回す… 同じく、吸い寄せられるように、土煙が捲き起こり始める… これがエローカ達の、『地の利』だった… 闘技場の環境が荒野と化したことで、『地の利』を活かし始めるエローカとユイヤン… 二人して、手にした得物を振り回すことで、あっという間に闘技場を土煙で一杯にした… 土煙で狭まる視界… その中で、エローカ達が双子に攻撃を仕掛ける! 「…うおぉぉぉー!」 ユイヤンの左腕から、巨大鉄球『ジャンボタコヤキ』が放たれ、それが双子に襲い掛かる! 「…!」 土煙の中に、ユイヤンの鉄球を見つけた双子がすんでのところで回避する… それでも双子が動じている様子はない… エローカ達も深追いせず、様子を窺っている… あれぐらいの攻撃では、双子の能力を持ってすれば、いとも簡単に躱せるとは思っていた… 真の目的は別にあった… しばらくすると、闘技場内に、ポツポツと頭上から水滴が滴り落ちてくる… 雨だ… 双子は、雨を呼び込んだのだ! 劣悪な環境を力ずくで変えてしまうだけの魔力… それが『天才』と言われる所以である… だが、この雨をエローカ達は待っていた… 乾燥した荒野…という闘技場内の環境を、雨を呼び込み、力ずくで変えてしまったアイリーナとアイリーネ… 雨を呼び込めば、得意とする『水の魔法』が使いやすくなるためだ… だが…実は、この雨をエローカ達も待っていた! 雨が降り始めたことで、土煙による視界の悪さから、雨粒による視界の悪さに変化した… 双子にとっては、雨粒による視界の悪さは慣れっこだ… 加えて、雨音によって、足音を消すことも出来る… そして、ゆっくりと、双子が二手に分かれてエローカ達に接近しようと、移動を開始したときに、『罠』が発動した! 降りしきる雨… その視覚を遮る雨粒と、聴覚を惑わす雨音に紛れ、エローカ達を狙う双子… だが、双子がエローカ達に向かってゆっくりと移動を開始したときに、『罠』が発動した! 「…!」 足が重い! 突然の異変に動揺する双子… 「…かかったようやな!」 そう言い放つと、降りしきる雨の中、当初、双子が居た位置まで、ゆっくりと、慎重に歩を進めるエローカ達… 一方、双子には、エローカ達の行動がハッキリと視えていた… 手探り状態ながら、徐々に双子の方へと接近してくる… 双子にとっては幸いなことに、ちょうど二手に分かれて行動を開始したため、二人同時に見つかることはなさそうだ… だが、足が重たくなって、移動が困難な、最悪の状況には違いない… 早く、足が重たくなった『謎』を解かなくてはエローカ達に身動きの取れぬまま、攻撃を受けてしまう! 二人の攻撃力は一撃で致命傷に成りかねない… 普段は沈着冷静な双子に焦りが生じる… そして、それがピークに達した時、遂に双子が動いた! いつもは沈着冷静な双子に、焦りが生じる… それがピークに達した時、遂に双子が動いた! 突然、エローカ達を水撃が襲う! 「…痛っ!」 「…うっ!」 予想外のところからの一撃に、悶絶するエローカ達… だが、流石の天才の魔法でも、二人の重装備には威力を半減させられた… 双子にとっての誤算は、二人を一撃で仕留められなかったことと… 実は、攻撃したのは一人だけだったことだ! (…しまった!) 勝ち気にはやるアイリーナが、焦りから水撃を放ってしまったのだ… 双子の、『磐石のコンビネーション』のリズムが狂った… 一転して、迎えるピンチ… 水撃の放たれた方向から、双子の居どころを特定するエローカ達… 苦悶の表情を浮かべながら、双子が居ると思しき方向へ、ユイヤンが巨大鉄球をブン投げる! アイリーナの顔前に巨大鉄球が猛スピードで迫ってくる! バシャッ! …辛うじて、巨大鉄球の直撃を避けたアイリーナ… だが、その代わり、倒れ込んでしまい、そのことで大きな水音を立ててしまった! 立ち上がって逃げようにも、身体が『粘りつく泥』によって、上手く立ち上がれない! 『粘りつく泥』によって、無様に地面に這いつくばるアイリーナ… その場から逃れようにも、身体中に付着した『泥』で動けない! そうこうしてるうちに、エローカ達がアイリーナの傍まで迫ってきた… そして…遂にご対面と相成った… 「…おー!大きなネズミがかかっとるわー!」 「…ここまで見事に引っ掛かるなんて、ね!」 試合中にも関わらず、思わず顔がにやけてしまうエローカ達… それも当然だろう… 『優勝候補』の一組として名を連ねた『双子の天才魔術師』を『罠』に嵌め、大番狂わせを演じようとしてるからだ… 「…どうやら、『勝負あり!』のようやな!」 「…悪いことは言わないから、早くこと降参した方がいいわよ!」 と、屈辱的な言葉を投げかけるエローカ達… そんな二人をアイリーナは、キッ!と睨み付ける… 「…まぁ、そんなに睨まんでもええやねん!」 と、言いながらも、 「…『謎』が解けんで悔しそうやな〜!」 と、アイリーナを挑発するユイヤン… アイリーナを前に、 「…『謎』が解けんで、悔しそうやな〜!」 と、挑発するユイヤン… それに対し、無言を貫くアイリーナ… 「…ま、相方も動けんやろし、種明かしでもしよか!?」 と、余裕たっぷりに話し出すユイヤン… 「…自分らの動きが鈍なったんは、『コイツ』のせいや!」 と、懐からおもむろに『袋』を取り出す… 「…?」 袋の中身の検討がつかないアイリーナに、 「…これは、ウチが特別に調合した、『超・強力小麦粉』や!」 と、ご丁寧に伝授するユイヤン… 「…知っての通り、小麦粉は粘り気が出るねん。それを空中にバラ撒いた…っちゅうワケや! ウチの『ジャンボタコヤキ』の中に入れて、思いっ切りブン回したら、めっちゃ粉が飛んでいくで!」 と、誇らしげに語るユイヤン… 「…で、アタシが槍を回したのは、アタシ達の周りには小麦粉が飛ばないように…ってワケね」 と、エローカも付け加える… 成る程、土煙の中であれば小麦粉は目立たない… もし、吸い込んだとしても、人体の影響は軽微だろう… 「…ウチのレシピは気に入ってもらえたかな?」 地面に這いつくばるアイリーナを見て、すっかり勝ち誇るエローカとユイヤン… アイリーナの誤算は、まさか二人が頭脳プレーを使うとは考えてなかったことだ… 己の迂闊さを恥じているのか、無言を貫くアイリーナ… 「…さぁ、種明かしも終わったところで、『ショー』はおしまいや!」 と、威圧するユイヤン… 「…2対1じゃ、勝ち目がないから、降参した方がいいよ…」 と、諭すエローカ… だが、アイリーナの返事は… バシュッ!! 二人に向かって、不意討ちの水撃を放ったのだ! しかし、真正面から不自然な体勢から放ったため、あっさりと避けられてしまう… 「…残念やったなぁ…」 「…最後の悪あがきも、これで終わりね…」 そう言うと、エローカとユイヤンが得物を構えた! その刹那! 「…うぎゃっ!!」 エローカが絶叫とともに、前のめりに倒れた! 「…うぎゃっ!!」 突然、絶叫とともに、エローカが前のめりに倒れた! 「…エロやん!?」 ユイヤンがエローカに目をやった瞬間、今度はアイリーナが真正面から水撃で打ち抜いた! 「…ぐぇっ!!」 ユイヤンが大きく後ろに仰け反って倒れた! あっという間に形勢が逆転した…! 先程まで、地面に這いつくばっているアイリーナを笑っていたエローカ達が、今度は自分達も這いつくばっていた… 最初の不意討ちの時には、自分達を守ってくれた重装備も、今では立ち上がる際の邪魔にしかならない… トレードマークの緑のフードを脱いで、何とか立ち上がったアイリーナ… まず、ユイヤンの元まで近づいていく… そして、ユイヤンの懐をまさぐり出す… 「…ちょっと、アンタ何すんの!?」 と、驚くユイヤンなどお構い無しにまさぐり、懐から『袋』を取り出した… 「…あーっ!」 そう…ユイヤン特製の『超・強力小麦粉』だ… ユイヤンの身体をまさぐり、懐から『袋』を取り出したアイリーナ… もちろん、『袋』の中身はユイヤン特製の『超・強力小麦粉』だ… 『袋』を手にしたアイリーナがニヤリと不敵な笑みを浮かべる… アイリーナの次の行動が読めたエローカ達は、背中にイヤな汗をかき始めていた… おもむろに『袋』の封を開け、中身をエローカ達の周りにバラ撒き始める… 「…わ!…ま、待て!…や、止めろ!」 「…あ、アカン!…ちょい待ち!」 エローカ達の言うことに耳を傾けず、アイリーナは『小麦粉』を惜しみなくバラ撒いた… しばらくして… エローカ達は全くと言っていい程、動けなくなっていた… それを見下ろすように見つめるアイリーナ… 降りしきる雨の中… 頭脳プレーでアイリーナを嵌めたエローカ達だったが、最後の詰めを誤り、土壇場で逆転される… 『策士、策に溺れる』といったところか… 動けない二人を見下ろすアイリーナ… そして、遂に口を開く… 「…お姉さん達…降参しなよ…」 その一言を聞いた途端、萎えかけていた、二人の闘志に再び火が点いた! 「…けっこう言うやないの?…毛も生えてないガキンチョが…!」 「…躾のなってない娘は…お仕置きしなきゃ…ね!」 だが、這いつくばった体勢のままでは、ただの強がりに過ぎない… それが、ただの強がりではないことが明らかになる… 「…じゃあ…さよなら!」 そう言うと、杖を二人の目の前にかざす… ところが… 突然、アイリーナの足元に異変が起きた! 降りしきる雨… 這いつくばっているエローカ達に止めを刺そうとするアイリーナ… 「…じゃあ…さよなら!」そう言って杖を二人の目の前にかざす… だが、アイリーナの足元に異変が起きた! パキパキパキパキ…!! 何やら、足元が冷たい… (…しまった!) 「…アタシ達だけ動けないのは悔しいからね!…凍らせてもらったよ!」 そう言ったのはエローカ… 初めは足元だけだったが、凍り付く部位が、徐々にアイリーナの身体を溯っていく…! 「…どう?身体が徐々に凍り付いていく気分は?」 エローカの投げかけた言葉に、今度はアイリーナが背中にイヤな汗をかき始める… 全身が雨に濡れているだけに凍り易い… (…フードがあれば…) 内心、臍を噛む思いのアイリーナ… では、術を止めるまで! 二人にかざした杖を、エローカに向けたアイリーナ… そして、水撃を発射! だが、ここでもアクシデントが! エローカの秘策・『氷の魔法』によって、徐々に身体が凍り付いていくアイリーナ… なら、術を止めるまで!と思い、エローカに向けて、水撃を発射! だが、ここでもアクシデントが! アイリーナの発射した水撃は、全く見当違いのところへ飛んでいった… 「…へへっ!ウチを忘れてもらったら困るで…!」 ユイヤンが誇らしげに言う… 「…ちょっと手元が狂うように、『地震』を起こさせてもろたで!」 見てみると、アイリーナが地震で、尻もちをついてしまってる… 瞬間的にすごい揺れだったのだろう… だが、転んだことで凍り付くスピードが早まってしまった! 全身にまで凍り付き出して、いよいよ焦るアイリーナ… 一方のエローカ達は、というと、泥を凍らせて粘着力を無くし、立ち上がろうとしている! アイリーナが先か…、それとも…? エローカ達に止めを刺そうとしたが、足元を掬われ、失敗してしまうアイリーナ… 逆に、エローカの『凍結魔法』で、身体の自由を奪われそうになるピンチに! 一方のエローカ達は、粘着力のある『泥』を凍らせて、立ち上がろうとしている… 先に立ち上がるのは、アイリーナか?…それとも…? 「…残念やったなぁ!…ウチらの勝ちやな!」 「…今回は油断しないよ…覚悟はいい?」 先に立ち上がったのは、エローカ達だった… しかも、アイリーナは凍結部位が進行していて、まだ満足に動けないでいる… 「…さぁ、降参しなさい!」 そう言って、エローカ達が得物を構えた瞬間! 突如、アイリーナの真下から勢いよく噴水が飛び出した! 全く予想外の出来事に、ポカーンとしているエローカ達… 「…ちょっとユイヤン!また、何かやらかしたの!?」 「…知らん知らん!ウチと違うで!」 二人が言葉を交わしていると、噴水が止んだ… だが、その場所にはアイリーナの姿はなかった… 突如、アイリーナの真下から噴水が吹き出した! そして、噴水が止んだ後に、アイリーナの姿が消えてしまった! 摩訶不思議な現象に、エローカ達は自分達の目を疑った… 辺りをキョロキョロ見回してみるが、やはりアイリーナの姿は…ない… 「…どこや?どこおんねん双子!?」 と、叫ぶユイヤン… すると、ユイヤンの背後から声が聞こえてきた… 「…ケーッ!」 恐る恐る振り返るエローカ達… そこには… 何のことはない…緑のフードを着たアイリーナが立っていた… 「…なんや…そんなとこおったんか!?」 と言って、アイリーナの肩口を掴んだユイヤン… だが、アイリーナのフードがヌメヌメしていて掴めない! しかも、よく見ると、頭のてっぺんには、フードではなく、何か皿みたいなものがのっかっていた… ユイヤンは感じた… (…コイツ、アイリーナちゃうやん!?…誰やねんコイツ…!?) そして、よくよく顔を見てみると…アイリーナでもなければ、人間でもなかった! 姿をくらましていたアイリーナが、いつの間にかユイヤンの背後に立っていた… だが、それはアイリーナではなかった…! 「…逝け!おカッパ様!」 その号令とともに、『おカッパ様』はユイヤンに攻撃を開始する! 『おカッパ様』の手が、呆気にとられているユイヤンに襲いかかる! (疾い!) ユイヤンも防御を試みるが、ユイヤンの反応よりも疾く、『おカッパ様』の手がユイヤンに伸びていた! ムニュ!! 「…い、いやぁぁぁー!いやぁぁぁー!」 闘技場内に、ユイヤンの絶叫がこだまする! …そう、『おカッパ様』の攻撃は、ユイヤンのたわわな“果実”を掴んでいた! 古来より、『エロガッパ』という蔑称がある通り、『カッパ』という『生物』はスケベなのだ… このことにより、緊迫した戦いが、別の意味で緊迫することになった… 「…いややぁ!離してぇ!このスケベ!エロ!」 ユイヤンが罵倒するも、離す気配が一切なさそうだ… 業を煮やしたユイヤンが力ずくで『おカッパ様』を振りほどこうとする! アイリーナの代わりに現れた『おカッパ様』… そのことで戦局が、違った意味で大きく変わった… 「…こら!離さんかい、ボケェ!」 ユイヤンが『おカッパ様』のセクハラ攻撃に耐え兼ねて、力ずくで振りほどこうとする! しかし… 次の瞬間、ユイヤンの視界は、ぐるぐると回っていた…そして… 「…ぐぇっ!」 ヒキガエルを押し潰したような悲鳴を上げた… そう…ユイヤンは『おカッパ様』にぶん投げられた…のだ! 古来、『カッパ』は『相撲』が得意…とされている… 『相撲』が得意な『カッパ』なら、ユイヤンの超・質感ボディーを軽々とぶん投げたとしても、何ら不思議ではない… そして、倒れたユイヤンの方をめがけて、『おカッパ様』は、大きく両手を天にかざし、その両手を振り下ろす仕草をする! すると、ユイヤンの真下から、突如、噴水がものすごい勢いで飛び出した! 「…あーれー!」 ユイヤンの超・質感ボディーが、まるで羽根が生えたかのように、高く宙を舞った…! 超・質感ボディーのユイヤンを派手にぶん投げ、噴水で華麗に吹き飛ばした『おカッパ様』… その常識はずれの戦いにしばし、唖然とするエローカ… そして、現実に戻った時、エローカは身の危険を感じた… (…いやぁぁぁー!) ユイヤンを葬った『おカッパ様』が、次の『標的』…エローカに目を向けた… そして、『標的』を捕捉した『おカッパ様』が、エローカに向かって疾走する! 「ケーッケッケッ!」 奇妙な笑い声とともに、迫り来る『おカッパ様』! 「…いやぁぁぁー!」 躊躇うことなく逃げ出すエローカ… しかし、無情にも、降りしきる雨に足をとられそうになるエローカと違って、まるで滑るように疾走する『おカッパ様』… そして、遂に追い付かれてしまった… 「…いやぁぁぁー!離してぇー!離してぇー!」 喚き叫ぶエローカの声も聞かず、やっぱりぶん投げる『おカッパ様』! 「…うわぁぁぁー!」 ユイヤン同様、華麗に宙を舞うエローカ… もちろん、お次にくるのは…この技! 「…逝け!『カッパワー・ゲイザァァァー!』」 ユイヤン同様、エローカをぶん投げ、止めに入る『おカッパ様』! 「…逝け!『カッパワー・ゲイザァァァー!』」 エローカの真下から、巨大な噴水…いや、『間欠泉(ゲイザー)』が噴き出す! 「…あーれー!」 やはり、エローカもユイヤンの後を追って、華麗に宙を舞った… …そして、雨が止んだ… 視界が晴れて、そこにあったのは… 地面に倒れているエローカとユイヤン…と、何故かアイリーナ… それと、自分の足でしっかり立っているアイリーネ… その状況を冷静に判断した審判のヤススが結果を告げる… 「…そこまで!…勝負あり!…勝者・アイリーナ、アイリーネ組!」 宣告の後、場内に大歓声が上がった! 「…やったぁ!」 闘技場の通路の出口付近で見守っていたりしゃこ達も、喜びを爆発させる… 審判のヤススの宣告を受けて、アイリーネが勝ち誇る…かと思いきや、アイリーナの元へ駆けつけた… (…あぁ、やっぱり相方が心配なんだなぁ…) と思っていると、どうも様子が変だ… いきなりアイリーネがアイリーナの胸ぐらを掴んで揺する… しばらくして、アイリーナも揺すられたことで目覚めたようだ… ただ、その顔つきが、明らかに怯えているのだ… すると、いきなりアイリーネがアイリーナの首根っこを捕まえ、ズルズルと引きずり始めた… 先程までの大歓声が、まるでウソのように静かになった… そして、少し遅れて、闘技場に駆け込む人影が… 『美勇団』・リーダーのリカサークだ… 先程のアイリーネよろしく、エローカ達を揺さ振って起こし、引きずって闘技場を退場した… その、まるっきりアイリーネの行動のリプレイを見てるようで、大観衆からは大爆笑が起きた! よく見ると、リカサークの肩がプルプルと小刻みに震えている… (…あーあ、可哀想に…) 二人の運命を気の毒に思うりしゃこ達だった… 闘技場から戻ってきたアイリーネ…と、引き摺られて戻ってきたアイリーナ… アイリーネの、いつものほんわかした顔つきが、鬼の形相になっている… そして、控え室に入っていった… 胸騒ぎがして、後を追うりしゃこ達… 控え室に入ると、 「…もお!何でまた、あんなことしたのっ!?…ナマイキちゃんなんて…大ッ嫌いッ!!」 と、激しくエキサイトしているアイリーネ… そして、 「…ゴメンね〜!…だってボケちゃんしか動けなかったから〜…」 と、アイリーネを必死になだめているアイリーナの姿が… 「…まぁまぁ二人とも…何があったの!?」 と、仲裁に入るメーグル… 「「…実は…」」 「…成る程ね…。ピンチを脱出するために、ナマイキちゃんはボケちゃんに、『おカッパ様』を憑依させた訳ね…」 「…『ナマイキちゃん』言うな!」 「…『ボケちゃん』言うな!」 「…まぁ、いいわ…。要はアイリーネはアイリーナが取った行動を恨んでる訳ね…」 「…そうだよ…!」 「…でも、ああしなきゃ、負けてたかも知れないのよ…」 「…」 「…アイリーナを、許してあげなさい…」 またもや、アイリーナが『おカッパ様』をアイリーネに憑依させたことでケンカが起きていた… それを、メーグルが仲裁に入る… 「…アイリーナを許してあげなさい…。もし、あのままだったら、二人とも、負けてたかも知れないのよ…」 優しく諭すメーグルに、アイリーネはまだ、返事を躊躇っていた… すると、 「…ホントにゴメンなさい!」 と、いつもの生意気ぶりとは打って変わってしおらしいアイリーナ… ホントに反省しているように見えたのか、 「…うん…わかったよ…」 と、ちょっとわだかまりがありながらも、アイリーナを許してあげることにしたアイリーネ… その途端に、 「…うわぁぁぁーん!ボケちゃんゴメンね、ゴメンね!」 と、アイリーネに抱きつき、キスの嵐をお見舞いするアイリーナ… あまりの仲良しぶりに、すっかり引き気味のりしゃこ達… そのりしゃこ達の存在に気付いた双子が、 「…見てんじゃねーよ!」 と、一喝する… そこまでは、和やかだったが、レーダーに反応したのか、『奴』が現れた! すっかり仲直りしたアイリーナとアイリーネ… あまりの仲良しぶりに、りしゃこ達が引いてしまうくらいだ… しかし、和やかムードだった控え室に、『奴』が現れた! 「…何やってんの…」 控え室に入ってきたのは、『背徳の白百合』…カンニャだった… 突然の乱入に驚くりしゃこ達を無視して、双子に向かってツカツカと歩いていく… そして、睨みを利かせて 「…二人とも!ワタシに何か…隠し事…してるでしょ!?」 と、詰問する… 双子が同時に揃って首を横に振る… こんな時も、流石に双子、息ピッタリだ… だが… 「…キスマーク…ついてるわよ…」 とのカンニャのツッコミに、つい、アイリーネが顔に手をやってしまった… カンニャは、その瞬間を見逃さなかった! 「…やっぱり…ね…」 途端に双子の顔色が変わる…! 何事か!?と、緊張が走る! するとカンニャが、 「…ひどい!…ひどいわ!…ワタシだけ…仲間ハズレなんて…!」 と、ハラハラと涙を流すカンニャ… それを見て、オロオロする双子… いきなり修羅場がやってきた! 仲間ハズレにされたことで、泣き出してしまったカンニャ… それを見て、オロオロする双子… このままでは、修羅場になりかねない勢いだ… 「…あ、あの…ゴメンね…」 「…べ、別に、ナイショにしてたワケじゃ…」 「…ナイショにしてたじゃない!?」 双子の弁明をあっさり一蹴するカンニャ!…その追及ぶりはさながら地獄の閻魔様のようだ… 「…ハイ…」 「…すみましぇん…」 カンニャの前に、すっかり小さくなってしまった双子… 「…許してあげないことも…ないわ…」 カンニャが呟く… 「…で、アタシ達は…」 「…何をすれば…?」 すっかり観念した様子の双子に、無言のまま、唇を突き出すカンニャ… 何を意味するかは、その場にいた全員がピンときた… そして、武士の情けか、それとも気まずさからか、 「…あ、ワタシ達…用事があったわ…」 「…あ、ウチも…!」 「…アタシも…」 ぞろぞろと、控え室から出ていくりしゃこ達… そして、密閉された控え室から、シクシクとすすり泣く声が聞こえてきた… (…ゴメン!) と、心の中で双子に詫びるりしゃこ達だった… 一方、別の控え室では… 「…さあ、『反省会』を始めるわよ!」 「「…はぁーい…」」 「…返事が小さい!」 「「…ハイ!(…この野郎…!)」」 美勇団による『反省会』が開かれようとしていた… そこに、 「…Yo!何やってるんだい!?」 と、『輝く女神』のリーダー・ヨッシーノがやってきた… 「…何って…?『反省会』に決まってるじゃない!?」 と、素っ気なく答えるリカサークに対し、 「…あんまり部下を締め付けちゃダメだよ!」 と、優しく忠告するヨッシーノ… 「…わかったわ…」 と、素直に『反省会』を中止するリカサーク… 「…やっぱりリカちゃんは笑顔が似合ってるYo!」 と、褒めたヨッシーノ… これで、万事がうまく収まった…かと思いきや… 「…でも、リカちゃんて、『ドロンジョ様』みたいだなぁ…」 と、うっかり口を滑らせてしまったヨッシーノ… みるみるうちに、リカサークの表情が、鬼の形相へと変化する…! 結局、その後『反省会』は2時間に及んでしまった…