ところかわって… ハロモニア城・闘技場控え室― 「…はぁ…ねぇ…どうしよ…?」 「…あぁ…どうしよ…?」 二人して、ヒソヒソ話をしてるのは、キャメイとサユミン… 何せ、これまでに『暁の乙女』のメンバーがトーナメントで全敗…という異常事態が発生しているからだ… もし、キャメイ・サユミンが負けてしまうようなことがあれば、『ハロモニアの守護神』の名折れだ… 『負けられない』という重圧が、二人に重くのしかかる… 先程から狼狽えて、ため息をついていたのは、そういった事情からくるものだ… 出来れば、『大会』が、何かの原因で中止にならないか?とさえ、本気で思っている… だが、『運命の女神』は時として非情だ… 突然、控え室の扉が開く…! 「…キャメイ選手!…サユミン選手!…出番です!…10分前ですので!」 キャメイとサユミンには、『死刑宣告』のような言葉が耳に飛び込んできた… また一つ、大きなため息をついたキャメイとサユミン… あとは、弱い相手と当たるのを祈るのみ…! 『暁の乙女』がトーナメントで全敗し、『負けられない』という重圧のかかる中、呼び出しを受けたキャメ・サユ… 気分も足取りも重く、闘技場へと向かっていく…後は、弱い相手が当たるのを祈るのみ…! だが、またしても、『運命の女神』は非情だった… 闘技場へ足を踏み入れたキャメ・サユが待っていると、向こう側に人影が見えた… ただ、不気味なことに、身体のラインがハッキリしない… 二人は嫌な予感がした… そして…的中した…! 残ったメンバーで、一番当たりたく相手…そう、黒装束の二人組が姿を現わした…! 「…えーっ!…そんなのあり得〜な〜い〜!ヤダヤダ〜!」 と、キャメイが不平を口にすれば、 「…イヤァ〜!…やなのやなの!サユミンやなの!」 と、パニック状態のサユミン… それも無理はない… 先に登場した『黒装束の二人組』の正体は、『暁の乙女』の二大エースと謳われた、アベナッチとゴトーの両名だったからだ… 当然、その仲間も、それ相応の実力者である可能性は極めて高い… (…中の人が弱い人でありますように…!) キャメ・サユは心の底から必死に祈った… 黒装束の二人組と試合をすることになったキャメ・サユ… 気になるのは、二人組の正体… 黒装束の4人組のうち、正体が判明したのは二人… しかも、アベナッチ、ゴトーと、歴代『暁の乙女』の二大エースだったのだ… 当然、残りの二人の正体も、それ相応の実力者である可能性は高い… 緊張した面持ちのキャメ・サユと、フードを被った黒装束の二人組が、闘技場中央で対峙する… すると、二人組のうち、一人がフードを取った…! …! 場内は水を打ったような静寂の後、一転して蜂の巣を突いたような大騒ぎになった… それも無理はない… 何故なら、その正体は前・『暁の乙女』親衛隊長・ミキその人だった… 黒装束の二人組のうち、一人がフードを取って、正体を明らかにした… その正体にどよめく場内…何故なら、前・『暁の乙女』親衛隊長・ミキその人だったからだ… だが… キャメイとサユミンは小首を傾げていた… (…何故みんな、こんなに大騒ぎしてるんだろ…?)と、いう感じに… 無理もない… キャメイとサユミンは、ミキのことをよく知らないのだ… 実は、ミキが『暁の乙女』を『追放』されたのと、キャメ・サユが『潜入』したのが、ちょうど入れ違いだったのである… …では、在籍時のミキはどうだったのか?というと… 一言で言えば、まさに、『暴君』だった… 確かに、戦闘能力は歴代エースと比べても遜色はないどころか、優秀な方である… しかし、乱暴で、噛み付くようなしゃべり方、威圧的な態度、好き勝手な立ち振舞い…そういった悪い面も目についた… 誰もミキを止めるものがいなかった… しかし、素行の悪さを見かねたハロモニア女王・ユーコが泣く泣くミキの『追放』を決定したのだ… そんないきさつがあったなんてことは、キャメ・サユは全く知らないのだ… いい意味で言えば、キャメ・サユは先入観無しにミキと戦うことが出来る… 過去のミキのことを知らないが故、歴代『暁の乙女』のエースを前に臆するところがないキャメ・サユ その様子が、ミキには気に入らなかったらしい… すぐさま、キャメ・サユのところに行って、 「…おい、お前ら!」 と、挨拶代わりに言い放った…ミキ得意の『威圧』だ… 「「…ハ、ハイ…!」」 ミキの目に見えない『プレッシャー』に、思わず声が裏返ってしまったキャメ・サユ… ミキのことを知らなくても、ただならぬ雰囲気に気圧されてしまった… その様子を見てとったミキが、さらに追い討ちをかける… 「…お前ら!…死にたくなかったら…棄権しろ…今すぐ!」 肉食獣のような目つきと、唸り声のような口調で迫った… これまたミキ得意の『ハッタリ』だ… 「「…ハ、ハイ…」」 すっかり、ミキの術中にハマってしまったキャメ・サユ… さながら、『蛇に睨まれた蛙』…というところか… 萎縮してしまって、たった1、2分の間に『暴君』ミキの言いなりになりそうなキャメ・サユ… だが… 『暴君』ミキの『威圧』によって、『蛇に睨まれた蛙』状態のキャメ・サユ… …だが、次の一言が、二人を変えた… 「…お前らも、さっきの親衛隊長みたいになりたくなかったら、とっととすっ込んでな!!」 「…!」 キャメ・サユの、心の中の“スイッチ”が入った…! 「…て言った…」 キャメイがうわごとのように呟く… 「…ああん!?」 ミキがすかさずカラミ出す…得意の『ゴネる』だ… 「…なさいよ…!」 今度はサユミンが呟く… 「…ああん!?…ハッキリしゃべれやゴルァ!!」 イライラしたミキがキレた…!! だが、今度はキャメ・サユもひるまない…! 「「…うるさい!…ゴチャゴチャ抜かしてると犯すぞ、このアマ!!」」 と、完全に逆ギレした! …伏線はあった キャメ・サユにとって、親衛隊長のアイオーラ、副隊長のガキシャンは、尊敬する『先輩』だ… 『裏切り者調査』のためにキャメ・サユの二人は『暁の乙女』に入った… …という事情があったとはいえ、そんな二人に、分け隔てなく接してくれたのがアイオーラとガキシャンだった… ミキの傲慢な台詞に、ついにキレたキャメ・サユ… 無理はない…僅か数ヶ月とはいえ、アイオーラとガキシャンは、二人にとって、心優しい『先輩』だったのだ… どこか抜けてるキャメイに対して、何かと世話を焼いてくれたガキシャン… ちょっとナルシスト気味なサユミンに対して、いつも笑顔で接してくれたアイオーラ… 『暴君』ミキにバカにされて、黙ってるワケにはいかなかった… ミキの暴言は、かえって、二人の潜在的なヤル気を引き出す結果となった… …しかし、 ミキは全然動じている素振りがない…むしろ、敵愾心を剥き出しにした二人に喜びを覚えているようである… ミキの『暴言』によって、珍しく闘志を全面に押し出しているキャメ・サユ… それに対して、二人のヤル気満々な姿に喜びさえ感じている『暴君』ミキ…と、依然として、フードを取らない黒装束の女… かくして、試合の準備は整った… 両チームにルールチェックをする審判のヤスス… 彼女も、ミキの突如の参戦に困惑している一人だ… 恐らく、ミキから聞きたいことは山ほどあるだろうが、自分の役割に専念することに決めたようだ… そして、いよいよ試合が始まる…! 「…それでは、始め!」 試合開始早々、またしてもステージに変化が起きた…! 闘技場内が揺れ動いて空間が変化していく… そして、それがようやく収まった時…闘技場内は、強風が吹き荒れ始めた… この吹きすさぶ風を上手に利用することが、試合を有利に進めることだろう… 場内が落ち着いた瞬間から、両チームが行動を開始した…! 風の吹きすさぶ闘技場で戦うことになった両チーム… まずは、お手並み拝見…といった感じで微動だにしない黒装束の女… そして、『暴君』ミキは、というと、やはり、すぐに動く気配はない… 向こうがヤル気がないのなら…一気にカタをつけるのみ…! そう考えたキャメ・サユは早速、合体魔法の準備に取り掛かった… (…その余裕が命取り…なのよ!) 二人の気持ちが昂ぶる… 結局、二人が呪文の詠唱を終えても、まだミキは動かなかった… 「…後悔させてあげる…!合体魔法・『シャボン玉』!」 ついにキャメ・サユが魔法を発動させる…! すると、地面から無数の泡が舞い上がった…! それが、風にあおられて周囲をあてもなく飛んでいく… 「…何だ?試合そっちのけでお遊びか?…なめんじゃねえ!」 予想通り、激昂したミキが突っ掛かってきた! 二人にとって、これが狙いだった…! キャメ・サユが繰り出した合体魔法・『シャボン玉』… 一見すれば、ただ試合そっちのけで、遊んでいるようにしか見えない… それに激昂した『暴君』ミキがキャメイ達に突っ掛かってきた! …それこそ、キャメイ達の思うツボだった…! 「…お前ら、ぶっ飛ばしてやらぁ!」 そう言うなり、ミキはキャメイ達に飛びかかろうとした…! …が、意外なことに、大量の『シャボン玉』がミキの視界と行く手を遮る… しかも、パチンパチンと弾けて、けっこうウザいし、液が目に入りそうになる… 充分、地の利を活かした攻撃だ… 「…お前ら!…こんな小細工なんか使うんじゃねぇ!…蹴り殺すぞ!」 と、更にヒートアップするミキ… 一旦、体勢を立て直すために、ミキが少し後退りすると、ミキは急に身体のバランスを崩し、尻もちをついてしまった…! シリアスな空気だった場内が爆笑の渦に包み込まれる… 「…っ!」 ふと、ミキが足元を見てみる… 『シャボン玉』によって視界と行く手を遮られ、後退りをした途端、何かに足を取られ、尻もちをついてしまったミキ… 「…っ!」 苛立ちを抑えながら、足元を調べてみた… 「…うえっ!」 鼻に衝く刺激臭を放つ液体…石油だ…! 恐らく、キャメ・サユは『シャボン玉』で視界を遮っておいて、足元には石油を撒いて足止めをしよう…という魂胆なのか…! 「…ケッ!…舐めたマネしてくれやがる…!お前ら、わかってんだろーな!」 と吠えるミキ…! そして、今まで行く手を阻んできた『シャボン玉』の嵐を強行突破し始めた! 「…行くぞオラー!」 と、『シャボン玉』が弾けるのもお構い無しに突き進んでいく… …が、しばらくして、ミキはあることに気が付いた… 始めのうちは、気のせいだと思ってたが、それが、少しずつ確信に変わっていく… 「…この『シャボン玉』…、まさか!?」 怒気を含んだ声で、ミキが叫んだ! 「…ぴんぽーん♪…予想通りです!」 「…では、ここでお別れですね?」 キャメ・サユの顔に、勝利を確信した笑みがこぼれた…! 行く手を遮っていた『シャボン玉』の嵐を強行突破し始めたミキ… だが、途中で異変に気付く… キャメ・サユは、ミキが異変に気付くのが遅すぎた様子に勝利を確信した…! 「…まさか、この『シャボン玉』…!?」 みるみるうちに、ミキの表情が強ばる… 「…それじゃあ、お別れですね?」 キャメイがそう言い放つと、腰から剣を抜き放つ… そして、地面に力一杯叩きつけた! この動作…傍から見ているだけでは無意味な行動にしか映らない… だが、今、闘技場で戦っている3人にとっては、勝敗を分かつ“一撃”だったのだ…! 「…や、やめろー!」 ミキが、まるで断末魔のような叫び声をあげる! …そして、しばらくして、闘技場中央、ちょうどミキの居た場所辺りが爆発した! 一瞬にして、煙に覆われる場内… 思わず叫び声をあげる大観衆… …やがて、煙が晴れてきた… 闘技場には、キャメ・サユが闘技場中央を見ながら立ち尽くしていた… 大観衆は、てっきり二人がミキの様子を気にしているのか?と思っていた… だが、違った… 『茫然と』立ち尽くしていたのだ…! キャメイが腰から抜き放った剣を、力一杯地面に叩きつけた… すると、ミキが居た場所辺りで爆発が起きた! やがて、爆煙が晴れていく… 大観衆はキャメ・サユの姿を発見するが、二人は『茫然と』立ち尽くしていた…! それも無理はない…何故なら… 「…ハン!…あんな程度の爆発で、このミキ様がやられるとでも思ってたのかよ!…舐められたモンだね…!」 …そこには、何事もなかったかのように、平然としているミキ様がいた…! 勝利を確信した二人にとっては、計算外…最悪の事態だ… 「…う、うそ!?」 「…どうしてなの!?」 すっかり意気消沈するキャメ・サユ… 「…狙いは良かったんだけどなぁ〜!」 と、余裕綽々のミキ様… 「…まさか、『シャボン玉』の中に、『ガス』が詰まってたなんて、思わなかったよ…正直、参ったよ…10点やるよ!」 ミキ様の、キャメ・サユの行動の『種明かし』が始まる… 「…そして、アタシの足元にあった石油…あれは、アタシを丸焼きにするつもり…って、ピンときたね! で、足元をみたら、お前らの方にまで伸びてやがる…!…『導火線』のつもりだろーな!って思ったよ!」 種明かしは続く… キャメ・サユの合体魔法を凌いだミキ様… 闘技場で起きた爆発について、種明かしをしていく… 「…『シャボン玉』に封じ込められたガス…足元の石油の導火線…最後にキャメイ、お前が剣で火花を起こせば大爆発…ってワケだ…!」 ミキ様の解説に図星をつかれて、返す言葉のなかった二人… しかし、ミキ様が大爆発の中でも平気だった『謎』は解けていない… 「…お前ら、何故、アタシが大爆発の中でも平気だったか?…わかんないみたいだな…じゃあ…種明かししてやるよ!」 と言うと、ミキ様は目を閉じ、集中する… すると、瞬く間にミキ様の目の前に巨大で透明な『壁』が現れた! 「…お前らの最大のミスは…アタシの『通り名』を知らなかったことだ…!」 そう言うと、ミキ様は天に向かって手を突き出す…! 「…!」 今まで、まだ晴れてはいた天気が、急に雲行きが怪しくなり…なんと!雪が降り始めた! 「…『メイドの土産』に教えてあげるよ…アタシの『通り名』を!」 と言って、大見得を切るミキ様… 「…人呼んで…『雪と氷の女王様・ミキ帝』!」 ミキ様が、遂に自らの『通り名』を明らかにした…! 「…人呼んで…『雪と氷の女王様・ミキ帝』!」 と言って、『俄然強め?』のポーズを取る… そして、 「…さて、お前らはアタシに恥かかせてくれたから…お仕置きの時間だよ!」 と、言うと、マントの下から、奇妙な形をした『棒』?を取り出した…! 真っ直ぐな棒に横から把手が出ている…『トンファー』だ…! 加えて、先端と側面には刃がついている…言うなれば、『トンファー・ブレード』とでも呼べばいいのか… 「…いくぞオラー!」 と、叫ぶと同時に、キャメ・サユに対して、一瞬にして間合いを詰めてしまったミキ帝… そして、挨拶代わりの一撃を二人にお見舞いする! 「…きゃあ!」 「…ぐほっ!」 トンファー・ブレードを腹部に打ち込まれ、身体を『く』の字に折り曲げるキャメ・サユ… 「…ホラホラー!…まだまだこんなモンじゃ済まないんだよー!」 と、言って二人をトンファー・ブレードでめった打ちにするミキ帝… ものの1分足らずで、二人をボロ雑巾のようにしてしまった…! ものの1分足らずで、二人をボロ雑巾のようにしてしまったミキ帝… 「…ミキはさ〜、弱いモノいじめは嫌いだからさぁ…今だったら、降参しても、いいよ?」 立っているのがやっとの二人に、最終通告をするミキ帝… しかし… 「…イヤ…ですよ?」 「…やなの…やなの…降参は…やなの…」 二人は降参しなかった…!それが二人の最後の意地なのだろう… 「…あ、そう…せっかく、ミキが許してあげようと思ったのにね…」 と言ったミキ帝… 「…ま、もっとも…謝っても許してあげないんだけどね…」 …やはり、ハナから許す気はなかったようだ… 「…じゃあ、最後は取って置きの技で…止めを刺してあ・げ・る!」 そう言うと、再度、天に向かって手をかざすミキ帝… 悪天候が、更に厳しさを増していく…! 時間が経つにつれて、どんどん雪が降り積もっていった…! それに満足したミキ帝は、目を閉じ、念じ出す… すると、積もっていた雪が凍り付き始めた…! 当然、雪に足を踏み入れていたキャメ・サユの足元も、完全に凍り付き、動けなくなってしまった…! いよいよ、最後の仕上げに入らんとするミキ帝…! 足元に降り積もった雪が凍り付き、完全に動きを封じられたキャメ・サユ… 二人のそんな姿に嬉しそうな笑みを浮かべるミキ帝…つい、鼻歌まで歌ってしまう… キャメ・サユは知らないのだが、これがミキ帝のクライマックスフォーム『ロマンティック・浮かれモード』なのだ…! 「…逝くよ!『暴走列車・BOOGIEーTRAIN』!」 手に持っていたトンファー・ブレードをなんと!足の裏に装着したミキ帝… …? しかし、考えてみれば、その行為は決しておかしくはない… 何故なら、凍り付いた地面は『スケートリンク』で、足の裏に装着したトンファー・ブレードは『スケートシューズ』なのだ! マントの下から、もう一対のトンファー・ブレードを取り出したミキ帝…!そして、 「…オラオラオラオラー!!」 闘技場=スケートリンクを滑走するミキ帝… そして充分に勢いがついたところで、キャメ・サユに一直線に向かっていく! 「…うおぉぉぉーっ!…必殺!『列車斬り』ぃぃぃー!!」 最高速度でキャメ・サユの間をすり抜けたミキ帝…! そして、キャメ・サユは力無く…地面に崩れ落ちた…