アヤヤと『女流怨鬼念火』の試合が終わり、程なくしてりしゃこ達の控え室に大会スタッフがやってきた… 「…ユリーナ選手、チナリ選手、出番です!…よろしくお願いします!」 次に呼ばれたのはユリ・チナのペア… 「…えーっ?…もうウチらの出番〜!?」 「…ちょっとぉ〜!早くない?」 ぶつぶつ不平不満を言いながら、試合の支度に取り掛かる二人… その二人の背後から、キャプテンのサキが声をかけた… 「…二人とも、大事な話があるの…」 そう言って、控え室の外まで引っ張っていく… 「…ちょっとぉ〜!何よ、急に〜!?」 二人が言うのも構わず、サキは控え室の外に連れ出し、そして、真顔で言った… 「…いい?二人とも…決して無茶はしないで…!」 「…へ?」 「…何を当たり前のことを…?」 「…ほぉえ!?」 「…ウチらはウチらのために頑張ってるんだから!…あまり、気にしない!」 そう言って、サキの肩を叩いて闘技場へと向かっていく… 闘技場の道中、二人は語り合う… 「…何でウチら…こんなことやってるのかなぁ…」 「…わかんない…多分…楽しいからじゃない!?」 「…アタシさ、人間のこと…キライだったのに…」 「…何だかさ、他人のような気がしないのよね…」 「…そう…だよね!」 闘技場へと向かう中、今までの旅の思い出を振り返るユリーナとチナリ… ひょんなことからりしゃこ達と出会い、楽しい旅を過ごしてきた… でも、この『魔導大会』が終われば、きっと別れがくるだろう… だから、今、二人の胸にあるのは…みんなで一緒に過ごしてきた『証』を残したい…その一心だけ… その想いを内に秘め、闘技場に足を踏み入れた… 闘技場に入ったユリーナとチナリを待っていたのは、大観衆による声援… 妖精や半獣人が少数派のハロモニアでは、人間以外の種族は好奇の目に晒されることが多い… その見る目が、この大会前のゴーレム襲来に対する防衛活動、大会でのユリーナ達の活躍で変わってきたのだ… この“歓迎”には、二人も驚きを隠せない… ただ、観衆の声援に応えるように、二人は照れくさそうに、手を振ってみせた… だが、その観衆の暖かい声援も、次第にどよめきに変わる… 何故なら、対戦相手としてアベナッチ、ゴトーの二人が姿を見せたからだ… 前回の対アイオーラ、ガキシャン戦では、無抵抗の二人を嫐り殺しにしてみせたアベナッチとゴトー… 在籍時にはなかった、その冷酷ぶりに、ハロモニアの人々の誰もが目を覆い、目を疑った… そんな二人の登場に、観衆はユリーナ達の無事を祈らずにいられなかった… ユリーナ達の対戦相手のアベナッチとゴトー… 前回の対アイオーラ、ガキシャン戦では、無抵抗の二人を嫐り殺しにしてみせた… その冷酷ぶりに、観衆はユリーナ達の無事を祈らずにはいられなかった… そして、試合前の準備が始まる… 試合前に、改めてユリーナ達はアベナッチ達を見据えるが、対峙して、不意に背筋がゾッとするような寒気を感じた… 何か…人間のようで人間でないような…そんな感覚が襲いかかってきた… 特に、生気の宿っていない、その虚ろな目が人間でない感じを抱かせる… 思わずアベナッチ達から目を逸らし、背を向けたユリーナとチナリ… 二人の心の中に、『恐怖心』という名の“魔物”が巣食い始めようとしていた! しかし、次の瞬間、そんな迷いを振り切るかのように、ユリーナ達は顔をパァン!と叩いて喝を入れた…! 「…よし!…行こっか!」 「…ウチらが組めば怖くない!」 自分に暗示をかけるように、ユリーナとチナリはアベナッチ達と再び向き合った… そして、いよいよ試合が始まる…! いよいよ試合が始まる… 審判・ヤススによるボディーチェックが済んで、試合開始となった… 「…それでは…始め!」 その掛け声とともに、闘技場内が変化していく… 変化が終了して、闘技場は殺風景なものになった… 鉄格子に囲まれた部屋…すなわち『牢屋』だ… 逃げ場のない、閉ざされた空間…その重苦しい空気が辺りを支配する… 先程まで、恐怖心に打ち克つために気合いをいれたユリ・チナだが、再び、恐怖心が心の中にもたげ出した… その隙を見逃すことなく、アベ・ゴトーの二人が先手を取って襲撃する! 突然、アベナッチの手から、巨大な輪っかがユリーナ達に向けて投げつけられた…! 風切り音をたてて迫りくる輪っかを、ユリ・チナはギリギリのところで二手に分かれて回避した… その分かれたところを先回りして、ゴトーがユリーナの背後に回って襲いかかる…! なにやら金属の棒状のものを手にして、ユリーナを斬りつけた! 「…くっ!」 背後を取られたことに気付き、素早く剣で受ける態勢をとったユリーナ… キュィィーン!! ユリーナには、剣でゴトーの金属製の何かを弾いた感触はあった… …が、次の瞬間、ユリーナの頭部に激しく鈍い痛みが襲った! 「…痛っ!」 凄まじい痛みに蹲るユリーナを、間髪入れずにゴトーが襲いかかる! 背後を取られたことに気付き、ゴトーの攻撃を剣で防御したユリーナだったが、次の瞬間、ユリーナの頭部に激しく鈍い痛みが襲った! 凄まじい痛みに蹲るユリーナを、間髪入れずにゴトーが襲いかかる! ユリーナの耳には、何かの風切り音が聞こえてきた…! 痛みに耐えて、次の攻撃を回避するため、素早く転がって逃げるユリーナ… ゴトーが連続して襲いかかってくると思っていたが、その気配がない…! 片膝をついた状態で辺りを伺うと、ゴトーはユリーナの傍には居なかった… 代わりに、チナリとゴトーが交戦中だったのだ…! (…そうか…!) ユリーナは気付いた…先程ユリーナの耳に聞こえた風切り音は、チナリのブーメランの音…! ユリーナのピンチにチナリがゴトーの気を引き付けてくれたのだ…! (…ありがとう、チー!) 痛みに耐えて、立ち上がろうとするユリーナ… その視界に、輪っかの投擲のチャンスを窺うアベナッチの姿が…! 「…危ない、チー!」 ユリーナが思わず叫んだ! 素早くその声に反応したチナリが、交戦中のゴトーから脱兎の如き勢いで離脱した…! すると、先程までチナリが居たと思しき場所に、アベナッチの放った輪っかが通過していた…! 「…ユリー、ありがとう!」 笑顔こそ作っているチナリだが、その顔は強張っている… アベナッチとゴトーに先手を取られてしまったユリ・チナ… なんとかピンチを凌いだ形だが、まだ、予断は許されない… (…ねぇ、どうする?) チナリの顔を見て、ユリーナが問いかけた… (…うーん…あまりいいアイディアがないや…) チナリにも、いい案が思い浮かばないらしい… だが、そうこうしている間に、攻撃の準備を整えたアベ・ゴトーが、再び襲いかかってきた…! 先程と同様、アベナッチがが輪っかを投げつけてきた…! (…同じ手には引っ掛からないよ…!) 今度は安易に二手に分かれることはせず、ゴトーの動きを目で追ってみた… 案の定、ゴトーはアベナッチの投擲と同時に、ユリ・チナの視界から消えるように遠回りをして接近していた…! 「…チー!そっちは頼むよ!…こっちはお返ししなきゃいけないから!」 そう言い残して、ユリーナはゴトーの行く先に向かった…! ゴトーもユリーナの接近に気付き、迎撃態勢に入った… 「…はあぁぁぁーっ!」 今度はユリーナが先手を取って、ゴトーに斬撃を浴びせる…! ゴトーは手にした得物で斬撃を弾く…! しかし、ユリーナも負けずに斬撃を放ち続ける…が、それらは悉くゴトーによって弾き返された… ユリーナの攻撃が一巡して、ゴトーの攻撃に移った時、悪夢が再び襲いかかってきた…! ユリーナが攻撃するも、悉くゴトーによって弾き返される… そして、ゴトーの攻撃に移った時、悪夢が再び襲いかかってきた…! 正面からゴトーが金属片による斬撃をユリーナに放つ…! 前回は背後をつかれて攻撃をもらってしまったが、今回は真正面…きちんと防御さえすれば、回避出来る自信がユリーナにはあった… …が、ユリーナの防御を嘲笑うように、斬撃はユリーナの剣をすり抜け、再びユリーナの頭部を痛撃した…! 「…!」 あまりの激痛に、ユリーナの悲鳴も声にならない… そこへ、さらに容赦なく、ゴトーは斬撃を加える! 「…!……!」 二度、三度とゴトーの攻撃が襲いかかるが、ユリーナは激痛に耐えるのが精一杯で、防御することすらままならない…! 「…ユリー!?」 ユリーナの劣勢に気付いたチナリが一瞬、気をとられてしまう…! そこへ、無情にもアベナッチの輪っかがチナリを直撃する…! 「…ぎゃっ!」 チナリが胸部に一撃を受けてしまい、もんどり打って倒れてしまう…! 「…痛っ!」 攻撃を受けた胸部に手をやると、愛用の胸当てがぱっくりと割れていた…! 「…!?」 そう…アベナッチの輪っかは只の輪っかでは無く、鋭利な刃物、『チャクラム』と呼ばれるものだったのだ…! アベナッチ、ゴトーの想像以上に洗練された攻めに対して、防戦一方のユリ・チナ… ユリーナはゴトーの斬撃による痛みに耐えながら、なんとか再度、攻撃を回避した… だが、それも束の間、再び間合いを詰めて、ゴトーが襲いかかる…! その姿は、さながら、獲物に食らい付いたら離さない、獰猛な鮫のようだ… またもや、ゴトーの斬撃がユリーナを襲う…!ここでユリーナはある一つの“賭け”に出た…! ゴトーの斬撃をもう一度、自分の剣で弾き返す…! キィィィン!! 鋭い金属音とともに、片膝をつく…ただ、今回はゴトーの方だった! (…せ、成功した…?) 一か八かの“賭け”にユリーナは成功したのだ…! (…これなら…逆転出来る!) ユリーナの身体に活力が湧いてきた…!先程まで、メッタ打ちにされた身体もアドレナリンが駆け巡り、痛みが和らぐ気がした…! 「…さあ!次はこっちの番だよ!」 何が起きたかわからない風なゴトーに対して、畳み掛けるようにユリーナが攻める…! 素早い突きの連打…そして斬撃…のコンビネーション… 躱しきれなくなったゴトーが、つい、金属片でガードしてしまう…! すると、次の瞬間、ゴトーの身体に電流が走るような痛みが駆け巡り、再び、片膝をついてしまう…! (…よし!…これなら!)ユリーナは確信づいた…! 今まで劣勢だったユリーナが、一転して優勢となった…! (…これなら…いける!) 再度、素早い突きと斬りつけによるコンビネーションでゴトーを追い詰め、ガードさせる… そして、ゴトーがユリーナの攻撃をガードすると、またしてもゴトーの身体に電流が走り、悶絶した…! そう…ユリーナは剣による斬撃がヒットした瞬間に、密かに電撃魔法『ピリリ』の電流を流し込んでいたのだ! 絶体絶命のピンチの中で閃いた妙技…ユリーナはこの試合、この新技と心中する決心をした… 一方、チャクラムによる強撃を受けたチナリもユリーナの攻勢を見て勇気づけられる…! (…ユリー…!) しかし、よそ見を見逃すほど、アベナッチは甘くない…チャクラムを再度、素早いモーションで投げつけてきた…! ゴトーはユリーナが受け持っている…背後をつかれる心配はない…チナリはチャクラムだけに集中した…! (…見えた!) ギリギリまで引き付けて、横っ飛びで躱す…! そして、標的を捕らえ損なったチャクラムは再び主の元へと戻っていく…! 戻ってきたチャクラムを手にしたアベナッチだが、次の瞬間には、苦痛で顔を歪めた…! 今まで劣勢だったユリーナが、一転して優勢となった…! (…これなら…いける!) 再度、素早い突きと斬りつけによるコンビネーションでゴトーを追い詰め、ガードさせる… そして、ゴトーがユリーナの攻撃をガードすると、またしてもゴトーの身体に電流が走り、悶絶した…! そう…ユリーナは剣による斬撃がヒットした瞬間に、密かに電撃魔法『ピリリ』の電流を流し込んでいたのだ! 絶体絶命のピンチの中で閃いた妙技…ユリーナはこの試合、この新技と心中する決心をした… 一方、チャクラムによる強撃を受けたチナリもユリーナの攻勢を見て勇気づけられる…! (…ユリー…!) しかし、よそ見を見逃すほど、アベナッチは甘くない…チャクラムを再度、素早いモーションで投げつけてきた…! ユリーナの攻勢に奮起するチナリ… アベナッチの放ったチャクラムをギリギリまで引き付けて躱した…! 標的を捕え損なったチャクラムは主の元へと戻っていくが、アベナッチがチャクラムを手にした直後、苦痛に顔を歪めた…! 「…引っ掛かったわね!」 チナリがアベナッチに向かって、得意気に言った… 片膝をついているアベナッチの傍にはチナリ愛用のブーメランが落ちていた… そう…チナリはチャクラムの戻るのに合わせてブーメランを投じていた… チャクラムの陰に隠すことで、アベナッチの目を欺くことが出来たのだ…! 勢いに乗るチナリ… 「…今度はこっちの番だよ!…てやぁぁぁーっ!…妖力…解放!」 チナリが妖力をブーメランに注ぎ込むと、ブーメランが二つに分裂した…! ユリーナの愛剣が伸びたり、ごつくなったりするのと同様の変化がチナリのブーメランにも現われたのだ…! 「…引っ掛かったわね!」 チナリがアベナッチに向かって、得意気に言い放った…! 片膝をついているアベナッチの傍にはチナリ愛用のブーメランが… そう…チナリはチャクラムが主の元へ戻るのに合わせてブーメランを投じていたのだ…! ブーメランをチャクラムの陰に隠すことで、アベナッチの目を欺くことが出来たのだ…! 勢いに乗るチナリ… 「…今度はこっちの番だよ!…てやぁぁぁーっ!…妖力…解放!」 チナリが妖力をブーメランに注ぎ込むと、ブーメランが二つに分裂した…! ユリーナの愛剣が伸びたり、ごつくなったりするのと同じ現象が、チナリのブーメランにも現われたのだ…! 「…いくよ!…『南風』!『北風』!」 チナリが手にした二つのブーメランを時間差でアベナッチに向かって投げつけた…! 一投目の『南風』はアベナッチに向かって一直線に突き進む!…が、アベナッチに最小限の動作で躱されてしまった…! そして二投目の『北風』は旋回しながらアベナッチめがけて飛んでいった!…が、しかし、アベナッチは容易に躱してしまう…! チナリの攻撃を躱したところでアベナッチが攻撃態勢に移ったが、その直後に異変が起きた…! チナリの放った、二つのブーメラン『南風』と『北風』…それがアベナッチに容易に回避されてしまった…! そして、隙が出来たチナリに向かって、アベナッチが攻撃態勢に入った時、異変が起きた…! 「…!?」 コロシアムの観衆の誰もが目を疑った…! 急に、アベナッチの身体が宙に浮いてしまったのだ! そのまま錐揉みしながら上昇し、空中に放り投げられたのだ…! ドサッ!! 大きな音をたてて地面に叩きつけられたアベナッチ…ピクリとも動かない…! そう…暖かい風の『南風』と、冷たい風の『北風』が混ざり合うことによって、上昇気流が発生したのだ! 「…やったぁー!」 思わず喜びを爆発させるチナリ…そして、相棒のユリーナの方を見てみると… …ユリーナもまた、優勢のまま、戦いを進めていた… ユリーナの電流を発する剣は、ガード不能の恐ろしい武器へと変貌していた…! ゴトーにも躱し続けるのに限界があるらしく、ところところでどうしても攻撃をガードしてしまう…!それが、“癖”、と言うものだ… そして、その度に電撃をもらい、ダメージを受ける…その繰り返しだ… ユリーナは内心、上手く行き過ぎている…とは思っていた…が、今はそんな雑念を捨てて、目の前のゴトーを撃破するのみ…! そして遂に、ユリーナは鉄格子の一番隅っこまでゴトーを追い詰めることに成功した…! もう、逃げ場は無い…!アベナッチもピクリとも動かない…!ユリーナとチナリ…二人の勝利は目前となった…! ユリーナ達とアベナッチ達が試合をしている同じ時間… 中継用の水晶玉を覗き込む面々が… 「…へぇ〜!あの娘達、頑張ってるじゃない!?」 「…けっこう押してるよ!…意っ外〜!」 見ていたのは、ヨッシーノ率いる『輝く女神』のメンバー… あのアベナッチとゴトーを向こうに回して互角以上に健闘しているのだ… だが、ユリーナがゴトーを鉄格子の隅っこまで追い詰めた時、ヨッシーノが思わず叫んだ! 「…危ないっ!…逃げろーっ!」 ―そして、闘技場… 大観衆は声を失っていた…目の前で起きた出来事に目を疑った…俄かにその事実を受け入れられなかったのだ…! 「…ユ、ユリーッ!?」 チナリの絶叫が闘技場にこだまする… 今、眼前に広がる光景は…『鋼鉄の獣』によって、胴体を咬みつかれたユリーナの姿…! 「…くそっ!…何故、あの二人に、『あの四人』の事を伝えなかったんだ…!」 …水晶玉の前で、後悔と苦悶に満ちた表情を浮かべるヨッシーノ… その姿に、他のメンバーも俯いて黙ってしまった…きっと、皆、同じ思いだったのだろう… そして、突如、ヨッシーノが何を思ったか、部屋の外へと飛び出した! 「…ち、ちょっと?ヨッシー!?」 ヨッシーノの後を追って、リカサークが駆け出す! 眼前で繰り広げられた、まさかの惨事… そして、突如、ヨッシーノが部屋の外へと飛び出した! その後を追って、リカサークも駆け出す! 「…待って!ヨッちゃん!…ダメだよ!」 「…いや!オレはあの試合を止める!」 「…でも、そんなことしたら…!」 「…わかってる!…あの娘達は失格…同じく乱入したオレ達も失格…ってな!…でもよ、人の生命が懸かってるんだ! …もし、ゴッちんがあのまま暴走したら…取り返しのつかないことになるんだ!…それくらい、わかるだろリカちゃん!?」 「…わかってるよ!…でも、そしたら誰がりしゃこちゃんを守ってあげるの?…アタシ達まで失格になったら、どうするの!?」 悲痛なリカサークの叫び声に、今まで走っていたヨッシーノの足が止まる… 「…アタシだって…ホントは止めたいの…でも、あの二人は言ったの… 『もし、ワタシ達が負けたら…りしゃこ達のこと…お願いします!』って! ヨッシー…あなたはアタシ達のリーダーなのよ!…あなた一人だけの問題じゃないの… 辛いけど…あの娘達の『覚悟』を…無駄にしないで…お願い!」 再び、リカサークの言葉がヨッシーノの心に、深く突き刺さる…! そして、ヨッシーノの出した結論は…? ゴトーの暴走に危機感を感じたヨッシーノが試合を止めようとする…! …が、リカサークは、リーダーの役目として、りしゃこ達の護衛に回るように諭す…! そして、ヨッシーノの出した結論は… 「…ゴメン、リカちゃん!」 再び、ヨッシーノは闘技場へと走り出した…! 「…ヨッちゃん!?…ゴメンね、許して…!」 走り去るヨッシーノの背中に向かって、リカサークが何かを打ち込む! 「…!?」 突然、ヨッシーノの足がもつれ始めた…そして次第に身体中の力が抜けていき…遂には倒れてしまった… リカサークが打ち込んだのは、麻酔薬だった… 「…ヨッちゃん…あなたは一人の人間である前に、みんなのリーダーなの…この後、どんなに怒られても、嫌われてもいい…」 サブリーダーのリカサークは個人を優先させる前に、チームを優先させたのだ… 「…リカちゃん!?…ヨッシーは!?」 二人を心配した『輝く女神』のメンバー達が、後を追ってきた… 「…試合に乱入しようとしたから、力ずくで止めたの…アタシ…間違ってるかなぁ…」 リカサークも自分のした行為が正しかったかどうかがわからないらしい… だが、メンバー達はリカサークの肩を叩いて 「…結果なんて…正しかったかどうかなんて、後になってみないとわかんないよ…でも、アタシ達は間違ってなかったと思うよ…」 と、慰めるのだった… そして、舞台は再び闘技場へ… 「…ユ、ユリーッ!?」 チナリの絶叫が闘技場にこだまする… 目の前に広がる光景は…『鋼鉄の獣』によって、胴体を咬みつかれたユリーナの姿…! 「…ぐあぁぁぁーっ!」 ユリーナの、その細身からは考えられない程の大声の悲鳴が闘技場に響いた…! 「…いやぁぁぁーっ!」 思わず背を背け、耳を塞いだチナリ…! ユリーナの悲鳴に、僅かながら、今まで無表情だったゴトーの口元が歪んだ…嗤っているのだ! 「…うっ…!」 『鋼鉄の獣』に胴体を咬みつかれ、その牙が、さらに深く食い込んでいく…! 「…ぎゃあぁぁぁーっ!」 再度、ユリーナの悲鳴が静まりかえった闘技場に響き渡る…! 大観衆は目を逸らし、耳を塞いだ…! そんな中、ユリーナの意識は徐々に薄れていく一方だった… (…油断…しちゃった…!あとちょっと…だったのに…悔しい…悔しいよぉ!…このまま…このままじゃやだよーっ!) …だが、身体は動かない…それどころか、力が抜けていくのを感じる… そしてやがて、ユリーナの意識が途絶えた…! 『鋼鉄の獣』に咬みつかれていたユリーナの身体がだらん…と弛緩した… 叫び声が止んで、ユリーナの方を向いたチナリが、眼前に広がる光景に、再度絶叫した…! そして、力なく膝をついてしまった… 一方のゴトーは、動かなくなったユリーナに飽きたのか、『鋼鉄の獣』が咬みついていたユリーナを地面に放り投げた… ドサッ!! ピクリとも動かないユリーナ… 「…ユ、ユリー!?」 必死になって、ユリーナの元へ駆け寄ろうとするチナリ…しかし、その行く手を阻むものが出てきた…! 「…そ、そんな…!」 チナリは愕然とした…!それも無理はない…何故なら、チナリが仕留めたハズのアベナッチが復活しているからだ…! 「…そこを…そこをどいて…!」 チナリが邪魔者のアベナッチを排除すべく、空気の塊の魔法『のにゅ!』を至近距離でぶっ放す! …が、アベナッチはいとも簡単に躱し、手にしたチャクラムでチナリを一撃する…! 「…きゃっ!」 不意に攻撃を受けてしまい、痛む箇所を押さえて蹲るチナリ… そんなチナリを見下ろすように立ちはだかるアベナッチが、信じられない行動を起こした…! 「…『ステキダナ』…!」 そう言い終えると、チナリの得意魔法『のにゅ!』をぶっ放すではないか!? チナリの前に立ちはだかるアベナッチが、俄かに信じ難い行動を起こした…! 「…『ステキダナ』…!」 そう言い終えると、チナリの得意魔法『のにゅ!』をぶっ放すではないか!? 「…いやぁぁぁーっ!」 自分の魔法の直撃を受けて吹っ飛ぶチナリ…その目には、明らかに動揺の色がみて取れた… 悪夢はまだ終わらない… 先程まで、ユリーナを嫐り続けていたゴトーが、チナリに向かって接近してきたのだ! 一方、闘技場内の控え室… アベナッチ達の戦いぶりを水晶玉で見ているミキ帝達がいた… 「…あちゃー…あの娘達、イイ線いってたんだけどねぇ…やっぱ相手が悪かったか…」 「…まぁ、大健闘…ってトコじゃない?…あの二人にあそこまでさせたんだから…ね」 「…でも、厄介だよな…あのアベさんの、『相手の魔法をコピーして盗む能力』は…」 「…でも、ゴッちんの、『金属を自在に変化させて操る能力』も厄介だよ!」 「…ま、何にせよ、仲間に出来てよかったよ…なぁ、コンちゃん…!」 「…えへへへへ…」 そして、再び闘技場では… いよいよ、最期の時を迎えようとしていた…! つい数分前までのユリ・チナの優勢をあっという間にひっくり返したアベ・ゴトーのペア… その、恐るべき戦闘能力に、大観衆は絶句した…! そして…いよいよ闘技場では、最期の瞬間を迎えようとしていた…! 戦意を喪失したチナリに、二人が不気味な沈黙を守りながら近づいていく… 「…いや!…いやぁ…!」 ただただ怯えるばかりのチナリに対して、二人はまるで、野うさぎを狩る猟犬の如く、目を光らせていた…! ついに、二人が動いた…! ゴトーが念を籠めると、ユリーナを屠った『鋼鉄の獣』が、何かに変化し始める…! と、同時にアベナッチがチャクラムを手渡す…! 目の前で起きる出来事に、チナリも、観衆も、ただ傍観するしかなかった… そして…出来上がったものを見て、人々はまたしても絶句した…! 『刃の車輪』をつけた、凶々しい容貌の『戦車』…! それまで、静寂に包まれていたコロシアムが、蜂の巣を突いたような大騒ぎになった! そう…コロシアムの観衆の誰もが瞬時に悟った… (…あの『戦車』で…チナリを轢き殺すつもりだ!) アベ・ゴトーの手によって闘技場に現われた、凶々しい容貌の『戦車』…! …コロシアムの観衆の誰もが瞬時に悟った… (…あの『戦車』で…チナリを轢き殺すつもりだ!) やがて、『戦車』にアベナッチが乗り込む… 一方のゴトーは…というと、『戦車』の背後につっ立っていた… そして、『戦車』の真後ろに、大きな『鋼鉄の壁』を作り出したのだ…! 始めはゴトーの行動に疑問を感じた観衆も、アベナッチが壁に相対したことで謎が解けた…! 「…『ステキダナ』!」 …そう魔法を唱えると、巨大な空気の塊が『鋼鉄の壁』を直撃!…その反発力・推進力でもって、『戦車』が動き始めた! 徐々に加速していく『戦車』…!チナリを捕らえるのも時間の問題だ…! 誰もが、惨事の瞬間に目を背けた…! しばらくして、闘技場に大きな衝撃音が響き渡った…! ガッシャァァァーン!! …見たくはない…と思いつつも、観衆は闘技場へと目を移す… そこに広がっていた光景は…チナリの無事な姿と、無様に転倒した『戦車』… コロシアム内から、安堵の声が洩れた… と、同時に観衆は何故、『戦車』が転倒したのか?を探り始めた… すると、『戦車』の傍らに一本の剣が落ちていた… 猛スピードでチナリに接近する『戦車』…! しばらくして、闘技場に大きな衝撃音が響き渡った…! そこに広がっていた光景は…チナリの無事な姿と、無様に転倒した『戦車』… そして、『戦車』の傍らには、一本の剣が落ちていた… そう…最後の力を振り絞って、『戦車』の車輪にユリーナが愛剣を投げ込んだのだ…! 車輪に剣が絡まり、ブレーキになって、バランスを崩して転倒したのだ…! 咄嗟にユリーナの姿を目で追うチナリ… すると、ユリーナはふらふらになりながらも立ち上がっていた…! きっと、そこにあるのは執念だけ…それが、重症のユリーナを突き動かしている… ユリーナの姿に勇気づけられたかのように、チナリも立ち上がった…! その両目には、先程までにはなかった、力強い意志が宿っていた… 立っているのがやっとのユリーナを無視して、アベ・ゴトーの二人がチナリに向かって突っ走ってきた…! (…アタシは…負けない…!) 仁王立ちになって、二人を迎撃する体勢を取る…目を閉じて、さらに深く精神を研ぎ澄ます…! (…負けたくない…勝ちたい!) チナリの気持ちに呼応するように、愛用のブーメランが、突如、さらなる進化を遂げた…! アベ・ゴトーの二人がチナリに向かって突っ走ってくるが、二人を迎撃する体勢を取るチナリ… (…負けたくない…勝ちたい!) その、チナリの気持ちに呼応するように、愛用のブーメランが、突如、さらなる進化を遂げた…! 「…!?…これって…!?」 チナリが驚いたのも無理はない…二つのブーメランがさらに二つに分かれたのだ…! 計四つのブーメラン… ただ、不思議なことに、チナリは思ったほど違和感を感じなかった… むしろ、懐かしい感じさえする… その新しい『相棒』を手に取り、声をかける… 「…いくよ!『エウロス』、『ノトス』、『ボレアス』、『ゼピュロス』!」 そして、チナリは次々と『相棒』達を投げつけた! 前方に四方に散らばって飛ぶブーメラン…! 真っ直ぐ飛ぶのもあれば、大きく弧を描いて飛ぶもの、高速のもの、低速のもの…極めて不規則で、回避し辛くなっている… だが、そのいずれもギリギリのところでアベ・ゴトーの二人は何とか躱していく…! 一つ、二つ、三つ…そして、最後の四つ… 完全に丸腰になったチナリに、無慈悲にも襲いかかるアベ・ゴトー…! 二人の凶刃が、チナリに牙を剥く! …だが、最後の瞬間、信じられないことに、チナリは笑っていた…それはまるで、勝者のように… 四つのブーメランを投げ尽くし、完全に丸腰になったチナリに、アベ・ゴトーの凶刃が、チナリに牙を剥く! …だが、最後の瞬間、信じられないことに、チナリは笑っていた…それはまるで、勝者のように… 観衆が、その笑顔の意味を知るのは、それから数分後のことであった… 「…チ、チー!!」 立っているのがやっとのユリーナが絶叫する! しかし、その叫び声にチナリは微笑んだ… そして、チナリは… アベナッチの、チャクラムによる一太刀、ゴトーの、刃に変化した金属片による一太刀を浴びてしまった! アベナッチの一撃を受けた胸当てが完全に壊れてしまった…!その破片がパラパラと、床に落ちてゆく… が、チナリは倒れなかった…!まだ、立っていたのだ! これには、アベ・ゴトーも呆然としている… その隙をチナリは見逃さなかった! すかさず、手元のワイヤーを手繰り寄せる… すると、二つのブーメランが、アベ・ゴトーの周りを旋回し出した…! 「…!?」 気付いたときには遅かった…!旋回するブーメランの端に付いたワイヤーが、アベ・ゴトーの身体に絡みつく…! そう、アベ・ゴトーともに、身体の自由をワイヤーによって奪われてしまったのだ! 「…後は、頼んだよ…ユリー…」 そして、チナリはワイヤーを握り締めたまま…ゆっくりと…地に臥した… アベ・ゴトーの一太刀を浴びたチナリ…しかし、倒れなかった…! そして、一瞬の隙をついて、アベ・ゴトーの身体の自由をワイヤーで奪ったのだ! チナリはワイヤーを握り締めたまま、後をユリーナに託し…ゆっくりと…地に臥した… 何とかワイヤーを解こうともがくアベ・ゴトー… だが、それは許されなかった! 主を失った残り二つのブーメラン『ノトス』『ボレアス』が時間差で二人の周りを旋回し始めた…! そう…先程アベナッチが吹き飛んだ竜巻の再現だ…! ゴトーが金属片を楔にして地面に踏み留まろうとするも、一手遅かった… 強風が吹き乱れる中、翻弄される木の葉の如く、宙を舞った…! 「…!」 強かに身体を地面に打ち付けて、しばらく動けないままのアベ・ゴトーに、忍び寄る影が…! それは、満身創痍のユリーナ…! アベ・ゴトーの傍に近づき、おもむろに二人の頭を鷲掴みにする…! 「…チー…仇は…取ったからね…!」 そう言い残すと、ありったけの力を振り絞って、魔法を唱えた…! 「…ピリリッ!!」 アベ・ゴトー、二人の身体中がビクビクと痙攣する! 実はその間、たった2、3秒の出来事だったが、その場にいた人々にとっては、それが永遠のように感じられた… ピクリとも動かなくなった二人を見て、後を追うように…ユリーナも…ゆっくりと…地に臥した…