動けないままのアベ・ゴトーに、満身創痍のユリーナが傍に近づき、おもむろに二人の頭を鷲掴みにする…! 
そして、ありったけの力を振り絞って、魔法を唱えた…! 
「…ピリリッ!!」 

ピクリとも動かなくなった二人を見て、後を追うように…ユリーナも…ゆっくりと…地に臥した… 

そこで、ユリーナの記憶が途絶えている… 


そして、ユリーナが目を覚ましたのは、ベッドの上… 
周りを見ると、みんなが心配そうに覗き込んでいた… 
「…ユリーナ…大丈夫か?とゆいたい…」 
「…ケガは…どうなの?」 
と、マァとマイハが尋ねた… 

「…うん…大丈夫…」 
と、言葉少なに話した… 
本当は、全身に鈍い痛みがあるのだが、みんなを心配させまい…と気丈に振る舞っているのだ… 

それより、ユリーナには気掛かりなことがあった… 
「…ねぇ、マァ…マイハ…チーは?…チーは無事なの!?」 

その質問に、マァとマイハはニッコリと笑って答えた… 
「…大丈夫だよ…」 
その答えに安堵の表情を浮かべるユリーナ…ただ、それでも落ち着かない様子だ… 
「…心配ない…ホラ、ここにいる…とゆいたい…」 
と言って、マァが指を差すと、隣のベッドにチナリが安らかな顔で寝息をたてていた…



激闘を終えたユリーナとチナリはベッドに横たわっていた… 
ケガは痛むが、大事はないらしい… 

そんな中、ユリーナには、気になることがあった… 
「…ねぇ、マァ、マイハ…試合…なんだけど…どうなったの?」 
勝敗の行方が気になったのだ… 

すると、先程の笑顔とはうって変わって、二人の顔が曇った… 
その表情で、ユリーナは悟った… 
「…そっか…」 

「…悔しいなぁ…」 
ポツリとユリーナがこぼした… 
そして、何か思うものがあったのだろう…ユリーナの目から、自然と涙がこぼれ落ちて、頬を伝っていった… 

その場にいた一同が、突然の出来事に、何て声をかけていいのかわからなかった… 
ただ、そんな中、 
「…アタシ…頑張る!…きっと…きっと優勝する!」 
と、声がした… 

声がした方を、一斉にみんなが振り返る… 

声の主は…もちろんりしゃこだった… 

ただ驚きだった…日頃、こんな発言をしないりしゃこが言ったからだ… 
きっと、ユリーナの悔し涙が、りしゃこの心の琴線に触れたのだろう… 

ユリーナの眼をまじまじと見つめるりしゃこ… 
ユリーナも、りしゃこの眼をじっと見つめた… 


そして…



試合での敗退を知り、悔し涙を流したユリーナ… 
そんなユリーナに、優勝を約束したりしゃこ… 
やがて、見つめ合う二人… 
そして… 


「…だあぁぁぁーめえぇぇぇー!」 
二人の間に割って入る、褐色の弾丸が… 

「…ダメダメダメダメ…ダメーッ!」 
隣のベッドで寝ていたハズのチナリが飛び起きたのだ… 
「…ちょっとぉ〜、りしゃこ!…ウチのユリーを狙おうったって、そうはさせないんだから〜!」 
と言って、ユリーナに抱きつく… 
「…痛っ!…ち、ちょっと、チー…痛いから…離して…」 
「…やだ!」 
「…あー!ズルイんだもん!」 
ユリーナを巡って、奪い合いが始まった… 

もちろん、戯れあってるのを知っている他のメンバーは、見ているだけで誰一人として二人を止めなかった… 

…が、その和やかな時間も急に終わりを迎えた… 

「…ミヤビ選手、りしゃこ選手…出番です!…あと15分ですので、よろしくお願いします!」 
大会運営スタッフの呼び出しだ… 
「…ほら、お開き、お開き!」 
手をパンパンと叩きながら、サキがりしゃことミヤビに準備を急かす… 

「…!…りしゃこ!」 
不意に、りしゃこを呼び止めたユリーナ… 
「…何だもん?」 
呼び止められた理由がわからず、キョトンとしているりしゃこ…



準備を急ぐりしゃこを呼び止めたユリーナ… 
「…何だもん?」 
呼び止められた理由がわからず、キョトンとしているりしゃこ… 


「…これ…」 
そう言って、スッと手を差し出し、何かを手渡した… 
「…これ…?」 
手渡されたものに戸惑うりしゃこ… 
「…アタシの代わりに持ってって…」 
「…でも…これって…?」 
「…アタシの分まで、戦って欲しいの…」 

ユリーナがりしゃこに手渡したものは、お守りの『護神石』…生命の次に大事なものなのだ… 
それを預ける…ということは、生命を預けることに等しい… 

それを渡すユリーナの気持ちを、りしゃこなりに理解してたのだ… 
しばらく考えた後、りしゃこはユリーナから『護神石』を大事に受け取った… 

「…あ、アタシも!」 
その様子を見ていたチナリも、りしゃこに『護神石』をサッと手渡す… 
「…りしゃこ、これを持ってけ…とゆいたい…」 
「…ハイ…これ…」 
「…アタシのも!」 
「…持ってけドロボー!」 
みんなが次々と、りしゃことミヤビに『護神石』を渡していく… 

それをしっかりと握りしめて、りしゃことミヤビは 
「…行ってきまーす!」 
と、元気よく控え室から飛び出していった…



闘技場へ向かうりしゃこを呼び止め、お守りの『護神石』を託したユリーナ… 
その様子を見ていたみんなが次々と、りしゃことミヤビに『護神石』を渡していく… 

『一緒にいるよ!』の気持ちを込めて… 

それをしっかりと握りしめたりしゃことミヤビは、元気よく控え室から飛び出していった… 


そして、二人がいなくなった控え室… 

「…あの二人…大丈夫かなぁ…」 
と、まるで母親のように心配するサキ… 
その姿を見て、 
「…大丈夫だって!…ホント心配性なんだからぁ〜!」 
と、モモがたしなめた… 

「…だったらいいけど…あと、残ってるチームが…ヨッシーノさんでしょ?あの双子でしょ?…あと…マイミン…!?」 
サキがマイミンの名前をふと口にした時、控え室にいたメンバーの口数が急に止まった… 

昨日から行方不明になった二人…サキ達は今日になってまだ、二人と直接顔を合わせていないのだ… 

「…大丈夫だって!…そのうち、けろっとした表情で戻ってくるわよ!」 
モモがサキの背中をバシバシ叩きながら元気づける… 
しかし、モモの表情も少し曇りがちだ…きっと、自分の心に、二人の無事を言い聞かせているのだろう… 
そんなモモを心配させまい、とサキも明るく振る舞ってみせた…



マイミン達の話題で湿っぽくなった雰囲気を、モモが明るく振る舞うことで空気を和ませた… 

そんな中、突然チナリが 
「…ハイ、ハイ!しつもん、しつもーん!」 
と、大声で騒ぎ出す… 

「…ちょ、ちょっと!どうしたの急に…」 
いきなりのことに戸惑うサキ… 
その様子を見ていた相棒のユリーナにはわかった… 
チナリは、わざと騒ぐことで、サキの気分を紛らわそうとしているのだ…と 
チナリなりに空気を読んだんだなぁ…と、ユリーナは感心した… 

…が、チナリの質問は、 
「…ねぇねぇねぇ!ウチらの最後ってどうだった?カッコよかった?」 
ユリーナは後悔した… 
無様に敗北したのに、それをわざわざ聞くなんて… 
チナリに空気を読め、と期待したのがバカだった…と 
今度はユリーナがすっかり落ち込んでしまった… 

そんな空気をサキが察知して、二人を慰めるように言った… 
「…けっこう惜しかったんだよ!…ユリーナが力尽きてから、ダウンカウントが始まったの… 
みんなが動けない中、ゴトーさんだけが何とか立ち上がったの!…そこで試合終了…!になったの…」 
モモが続けた… 
「…もしも、もうちょっと早く審判が試合を終了してたらユリーナ達の勝ちだったのにねぇ〜…」 
黙ってマァもマイハも頷く…



話題が、ユリーナ達が負けた試合の話になり、すっかり落ち込んでしまったユリーナ… 
そんなユリーナの気持ちを察して、サキ達がフォローする… 


「…え〜っ!けっこう惜しかったんだぁ〜!」 
いい線までいってた…と、みんなから誉められて、すっかり気分が良くなったユリーナ… 

こっそり後ろで、マァとマイハが 
(…すごく立ち直りが早いの…) 
(…単純すぎる…とゆいたい…) 
と、ひそひそ話をしていた… 

気分を良くしたユリーナが、 
「…でもさ、何でゴトーさんだけ立ち上がれたんだろ?…アベさんは気絶してたんでしょ?」 
と、首を傾げる… 

その問いに、 
「…電流を…地面に逃がしてたの…」 
と、すかさずマイハが答えた… 
「…アタシ見たの…ゴトーさんの金属片がね、地面に埋まってるのを…」 
…どうやら、ゴトーが咄嗟に金曜片をアース代わりにすることで、電流を地面に逃がしたのだろう… 
これにはユリーナも納得する… 

その会話中、思い出したかのように、 
「…あっ!忘れてた!」 
と言って、何かをごそごそと取り出したモモ… 

「…じゃ〜ん!…ハイ、これ!」 
と言って、取り出したものをユリーナに手渡すモモ… 
モモが手渡したもの…それは…



会話中、思い出したかのように、何かをごそごそと取り出したモモ… 
それをユリーナに手渡す… 
モモが手渡したもの…それは… 


「…こ、これは…?」 
ユリーナが驚きの表情を浮かべる… 
無理もない…モモから手渡されたものは、試合中に『戦車』に投げ込んで折れ曲がったハズの愛剣『ニョキニョキチャンピオン』… 
それが元通りになっているのだ… 

もう、元通りにはならないと思っていただけに、喜びもひとしお…ユリーナは愛剣を愛しく抱き締めた… 

と、同時に疑問も湧いてきた… 
「…ねぇ、モモ…これ、誰が直してくれたの…?」 
ユリーナが尋ねた… 
「…エヘヘ!モモが直しちゃいました〜!」 
と、モモが即答するも、 
「…ウソおっしゃい!」 
と、サキが即否定した… 

「…あ〜っ!サキひどぉ〜い!…せっかくモモがユリからごほうびのチューをもらうつもりだったのにぃ〜!」 
と、すねてしまったモモ… 
そんな邪なモモをスルーして、 
「…ねぇ、ホントは誰が直してくれたの?」 
と、サキに改めて尋ねるユリーナ… 

サキの口から出てきた答えは意外だった… 
「…ゴトーさんだよ」 

ユリーナだけでなく、傍にいたチナリも目を丸くして驚く… 
「…何で?…だって、あの人はアタシ達の『敵』じゃない!?」



試合中に折れ曲がったハズのユリーナの愛剣『ニョキニョキチャンピオン』… 
それを直してくれたのが、敵であるハズのゴトーだと知り、驚きを隠せないユリーナとチナリ… 


「…でも、何で〜!?何で何で何で〜!?」 
チナリが思わず疑問を口にする… 
「…知るワケないじゃん…!」 
ややぶっきらぼうにモモが答えた… 

答えなど、本人でなけりゃわかるハズがない…この場にいる誰もが思ったことだ… 

そんな中、不意に、 
「…そら、『敬意の表れ』やな、きっと…」 
と、背後から声がした… 
みんなが一斉に振り返ると、忍んでいない忍が二人… 
「…よっ!久しぶりやな!元気しとるか?」 
ハロモニア女王・ユーコの懐刀、アツコだった… 
そして、その脇から、さらに声が聞こえた… 
「…隊長!…レイニャも大会に出たかったニャ…」 
アツコの後ろでボヤいてたのが、『暁の乙女』・新メンバーのレイニャだ… 
どうやら、メンバー9人の中で仲間外れになったらしい… 

湿っぽい空気になりそうなことに気付いたユリーナが、 
「…あの〜、それって…どういうことです?」 
上手く話題を逸らした… 

すると、アツコが、 
「…きっと、お嬢ちゃんが頑張ったから、ごほうびに直してくれたんやろ?」 
と、言った…



りしゃこ達のいなくなった控え室にて、ゴトーの『謎の行為』について、議論をする面々… 
そんな中、ハロモニア王国・宮廷お庭番のアツコとレイニャがふらり…と入ってきた… 


「…ゴッちんがお嬢ちゃんの剣を直したんは、『敬意の表れ』、ちゅうか、頑張ったごほうびやったんやろな…」 
アツコがゴトーの『謎の行為』についての見解を示した… 
「…でも…あの人とアタシ達は敵同士…なんですよ!?」 
釈然としないユリーナが異論を唱えた… 

「…そこなんよ!アタシが言いたいんは!」 
アツコが急に、大声を張り上げた…! 
突然のことに、ビクっとしてしまった面々… 
特に、半獣人のレイニャなどは、大声に過剰反応して慌ててベッドの下に潜り込んでしまったくらいだ… 

「…もぉ〜隊長〜!ビックリさせないで欲しいニャ!」 
ベッドの下からレイニャボヤく… 
「…ああ、ゴメンゴメン!」 
と、レイニャに軽く誤ってから、再び話を本筋に戻すアツコ… 

「…みんなも気付いたと思うけど…あの二人、明らかにおかしいでしょ?」 
「…あの〜、あの二人って…」 
「…バカッ!…アベさんとゴトーさんのことじゃない!?」 
いまさらの質問をしたチナリをモモがたしなめた… 
「…そうよ。…アベちゃんとゴッちんのことなんだけど…」 
そう切り出したアツコが、次の瞬間口にした言葉に、面々は驚愕することになる…



「…みんなも気付いたと思うけど…あの二人、明らかにおかしいでしょ?」 
そう切り出したアツコが、次の瞬間口にした言葉に、面々は驚愕することになる… 

「…恐らく、あの二人は…操られてる…って思うねん!」 

しばらくの間、沈黙が続いた… 
誰もが心の中では、そうかも知れない…と、思ってはいたからだ… 

「…いや、ウチがな、そう確信したんはさっきのアレやねん」 
「…あの、剣を直しちゃったってこと…ですか?」 
アツコにサキが質問する… 
「…そや。ゴッちんは『金属』を変化させる魔法が得意なだけあって、刃物の収集が趣味でな…」 
なおもアツコは続ける… 
「…そんなゴッちんやから、珍しい剣に目が止まってもおかしくないし、壊れた剣を直しても不思議やないからなぁ〜」 

「…でも、そんなに刃物が好きなら…アタシの剣…奪っていったと思うんですけど…」 
もっともらしい矛盾をアツコにぶつけたユリーナ… 

「…もし…あの二人がホンマもんの悪やったら持ってったかも知らへんけど…自制心が働いたんやろうな〜!」 
そうアツコが締め括った… 
「…ま、要はみんなも気を付けたほうがええで!っちゅう話や!なるべく団体行動取らんと、操られてるかも知らへんで!…ホナ!」 
そう言って、アツコが立ち去っていった…



サキ達に忠告をすると、アツコ達は控え室を立ち去っていった… 
アツコが言った、ゴトーの『謎の行為』の推測… 
『操られてる』…その言葉が、しばらくの間、サキ達の頭から離れなかった… 





一方、別の控え室では… 

「…危なかったですぅ〜…後少しで『術』が解けるところでしたぁ〜…」 
「…えっ?そんなにヤバかったの、コンちゃん?」 
「…ヤバいどころか…『暴走』してもおかしくなかったんですよぉ〜! 
だって、試合後に剣なんか持ったときにはワタシでも抑えるのが大変だったんですからぁ〜!」 
「…それって…どうゆうこと?」 
「…二人の『自我』は、ワタシが制御してますけど、二人の深層心理に訴えかけるものがあった場合は、『自我』が制御できなくなるんですぅ〜」 
「…じゃあ、ゴッちんの場合は、大好きな『刀剣』に反応した…ってこと?」 
「…ええ…多分…」 
「…なるほどねぇ〜…けっこうコンちゃんの魔法もしんどいんだ〜…」 
「…そおなんですよぉ〜!だから、今度からもっとおやつを増やして下さい!」 
「…ハイハイ…わかりました!…それとコンちゃん、その二人の方も頼んだよ!」 
「…ええーっ!?一日二試合ですかぁー!?…そんなの死んじゃいますぅー…」