そして、一方その頃… りしゃこ達は、黙々と闘技場の通路を歩いていた… 控え室を出る前に、みんなから託された『護神石』をギュッと握りしめながら… 母親捜しの終着点…『魔導大会』… もう、一人だけの戦いじゃない… でも、一人っきりじゃない… 旅を通じて知り合った仲間が見守っている…そして、傍にはミヤビがいる… りしゃこはみんなと巡り合えた幸せを噛みしめながら、一歩、また一歩と通路を歩いていく… やがて、闘技場の入り口へと辿り着いた… 闘技場へ入場する前に、りしゃこは目を閉じて祈りを捧げた… そして… (…アタシは負けない!…絶対に…負けない!) と、自分に言い聞かせながら、入場していった… 闘技場に足を踏み入れると、大観衆から、熱い声援が待っていた… 昨日の戦いぶりを見た観衆の中からファンが出来たのだろう… そして、闘技場の観客席をふと見てみると、一角に一際目立つ横断幕が… 『がんばれ!りしゃこ!』 そう…昨日の対戦相手だったコハの弟・妹達が応援してくれているのだ…! 姉である、コハの叶えられなかった『魔導大会優勝』という“夢”を、弟・妹達はりしゃこに託しているのだ… 一人じゃない!…りしゃこの目頭は熱くなっていた… 闘技場でりしゃこ達を待ち受けていたのは、大観衆からの熱い声援… その中には、昨日の対戦相手・コハの弟・妹達もいる… こんなに沢山の人に応援してもらっている事実に、りしゃこの目頭が、いつしか熱くなっていった… だが、感傷に浸っている場合ではない…試合はこれからなのだ… そしてようやく、りしゃこ達の対戦相手が闘技場に姿を現した…! 「…こんなところで戦いたくはなかったな…」 「…決勝戦で戦いたかったな…」 「「…だけど、容赦はしないよ!…ウッドベル家の、名に姿かけて!」」 そう…りしゃこ達の対戦相手は、双子の天才魔法使い・アイリーナとアイリーネだったのだ…! 互いに相手の目を見つめ合う…ぶつかり合う視線… 試合にかける意気込みを、互いの目を見つめ合うことで確かめあった… アイリーナとアイリーネ…二人の不幸は『ライバルの不在』だった… 幼少期…天才魔法使いと呼ばれてはいたものの、競い合う相手がいなかった… だが、旅の途中で出会った気になる存在…ライバルの出現… 二人の心は高鳴った…!もう、退屈な日々とはおサラバだ…! 双子もまた、りしゃこ達と出会えたことを神様に感謝しながら、戦いの準備をすすめていった… りしゃことミヤビ…アイリーナとアイリーネ…この『魔導大会』で、遂に雌雄を決する時がきた… りしゃことミヤビには、旅で出会った人達の“想い”を背負っている、という責任感が二人を奮い立たせる… 一方の双子には、時期尚早かも知れないけれど、最高の舞台で最高のライバルと戦える喜びに満ち溢れていた… そんな“想い”と“想い”が最高潮まで高まりつつある… 審判のヤススがチェックを終え、号令をかける動作に入った… 「うおぉぉぉー!」 期せずして、観衆から歓声が沸き起こる…! それを合図にヤススが 「…それでは…始めっ!」 の号令を発した! 観衆の、歓声の勢いに押されるまま、ミヤビとアイリーナが飛び出した! 「…今日のアタシは最初からワライアッワスだよ…!いくよ…『キラーソー』!」 ミヤビが『真紅の杖』から炎の刃・『キラーソー』を出現させた…! ところが、アイリーナも同じ動作をとってみせた! 「…あなたに出来て、アタシに出来ないことはない…!出でよ…『クネクネ』!」 すると、アイリーナの手にした『蒼の杖』の杖から、波打った水流が飛び出した…! 「…!」 まさかの魔法に驚きを隠せないミヤビ… 「…まさか、同じ魔法で来るとは思わなかったみたいだね…!さぁ、いくよ!」 試合開始早々、先手必勝!とばかりに、ミヤビが炎の刃・『キラーソー』を出現させた…! ところが、アイリーナも同じ動作をとって水の刃・『クネクネ』を出現させる…! 「さぁ、いくよ!」 の掛け声とともに、アイリーナがアグレッシブに攻めてきた…! 先手をとったつもりが、逆手をとられてしまった格好だ… 「…ええーい!」 アイリーナが水の刃・『クネクネ』を振るう! ヒュン!! 刃がミヤビの長い髪を掠める…! 「…ええーい!…やぁーっ!」 続けざまに刃を振るうアイリーナ… それをミヤビはすんでのところで躱していく…! (…まさか…この娘…?) ミヤビはハッと気が付いた… アイリーナの繰り出す太刀筋は我流だと… ミヤビには、細身剣使いのユリーナや、ヨッシーノ達、騎士団と特訓したことがあるからわかった… アイリーナの太刀筋は、それと比べて明らかに不恰好… ただ、完璧主義者のアイリーナが格好をかなぐり捨ててミヤビに剣術で立ち向かっている… それは、正に気迫の現れだろう… と、同時に、不意に嫌な予感がした… (…この娘は…囮…!?) ミヤビがアイリーナのすぐ後ろに目をやると、やはりアイリーネが“何か”を狙っていた…! そして、ミヤビが背後に目をやると、りしゃこは“変身”の準備中だった! アイリーナが不慣れな剣術でミヤビに立ち向かっている… その不自然な行動に、ミヤビは不意に嫌な予感がした… (…まさか…この娘は…囮…!?) (…マズい!) 咄嗟にそう判断したミヤビはアイリーネの元へ近づこうとする…が、その行く手をアイリーナが遮る…! 「…お姉ちゃん…もっと遊んでって…よ!」 ドカッ!! 隙を見て、ミヤビを蹴り飛ばしたアイリーナ… そして、ミヤビを蹴飛ばしついでに 「…そっちはどう?」 と、アイリーネに声を飛ばしたアイリーナ… 「…こっちはOK!」 アイリーネがGOサインを出した… …ミヤビの嫌な予感は的中した…! 「…いくよ!…『封魔の術』!」 アイリーネが溜め込んだ魔力を球体に凝縮し、一気にりに向かって放出した…! ゴォォォォーッ!! 凄まじい勢いで飛んでいった球体はりしゃこに身動ぎする猶予を与えず、そのままりしゃこの身体を直撃した! 「…りしゃこぉ〜!」 思わず絶叫するミヤビ… だが… 魔法が直撃したハズのりしゃこは何事もなかったかのように、すっくと立ち上がった! よもや、もうこれで終わりか…と思い込んでいた観衆もいただけに、場内から拍手が起こった… ホッと胸を撫で下ろすミヤビ…しかし、双子は依然として、不敵な笑みを浮かべていた… アイリーネの放った魔法の球体がりしゃこの身体を直撃した!…が、何事もなかったかのように、りしゃこは立ち上がった… アイリーネの魔法は失敗したのか…?否…双子は不敵な笑みを浮かべていた… 「…りしゃこ?…大丈夫…?」 心配そうに声をかけたミヤビに、 「…ん!…平気平気!」 と無事をアピールしたりしゃこ… そして、りしゃこがいよいよ反撃に転じる! 「…じゃあ、今度はこっちの番だもん…!“変身・メタモルフォーゼ”!」 シーン… …何も起こらなかった… 意味ありげにポーズをとったりしゃこが滑稽で仕方がなかった… 試合中にも関わらず、双子は吹き出した挙げ句、腹を抱えて笑っている…! りしゃこは…というと、みるみるうちに顔を紅潮させて、恥ずかしがりながらしゃがみ込んでしまった… そして、ただ一人、所在無げに立ち尽くすミヤビ… と、突然、闘技場内に変化が起き始めた…! 審判のヤススが仕掛けを作動するのが遅れたのだろうか? 「…!」 徐々にではあるが、闘技場内が狭くなっていってる…! つまり、闘技場が狭まることで逃げ道が塞がれることになっているのだ…! このことが果たして、勝負の行方に、どう影響するのか…? 突然、アイリーネの魔法を食らったりしゃこの身体に、異変が起きた… 『変身』しようにも、『変身』が出来なくなってしまったのだ… その様子を見て、腹を抱えて笑う双子… 「…ちょっとあんた達!…りしゃこに何かしたでしょ!?」 ミヤビが双子に問い詰める… 「…うん!」 「…だって、『変身』されたら厄介だから…」 「「…しばらくの間、『封印』させていただきました〜!」」 「…何ですって!?」 思わずミヤビが叫んでしまった…! 恐らく、アイリーネがりしゃこに使った魔法は、『お河童さま』封印時に使ったものと同じだろう… これではりしゃこは『フェニックス』を憑依させて『変身』することが出来ない…ミヤビにとっては全くの予想外だ…! 呆然とするミヤビとりしゃこ… だが、双子は容赦しない… 「…これで後はミヤビちゃんだけだね!」 「…悪いけど…勝たせてもらうよ!」 そう言うなり、双子が次なる魔法を繰り出してきた…! すると、いつの間にか、双子の傍には、二匹の『蛇』が現れていた… 「…!」 ミヤビは直感した… 双子は、ミヤビの魔法までも研究しているのだと…! 「「…さぁ、行け!『蛟(ミズチ)』!」」 双子の声に反応して、二匹の『蛇』がミヤビに飛びかかった! りしゃこの『変身』を封印し、優位に立ったアイリーナとアイリーネ… そしてミヤビには、二匹の『蛇』を差し向けた…! 「…行け!…『蛟(ミズチ)』!」 水の蛇が双子の声に反応して、同時に飛びかかる…! 「…くっ!…出でよ!『ほのまら』!」 ミヤビも双子に対抗して、炎の蛇・『ほのまら』を喚び出す…! 勢いよく飛び出した『ほのまら』は二匹の『蛟』の侵攻を牽制する…が、多勢に無勢、二匹同時に相手することは出来なかった… なんとか一匹を抑えることは出来たが、取り逃がしたもう一匹は、そのまま術者のミヤビへと向かっていった…! 術を行使していて無防備なミヤビに『ミズチ』が容赦なく襲いかかる…! 「…危ないっ!」 何者かがミヤビを突き飛ばした! 「…きゃっ!」 バランスを崩し、横に吹っ飛ぶミヤビ… 「…ちょっと!…何すん…の…!?」 怒鳴りつけようとした言葉が、喉の奥に引っ掛かって出てこない… つい先程までミヤビの立っていた場所にはりしゃこがいて…そのりしゃこの身体には、『蛟』が絡み付いていたのだ! りしゃこが身を呈して、ミヤビを庇ったのだ…! 「…ミ…ヤ…!」 『蛟』に締め付けられ、苦悶の表情を浮かべるりしゃこ…! 一瞬の隙をついて、ミヤビに『蛟』が襲いかかった…!…が、りしゃこが身を呈して、ミヤビを庇った…! ミヤビの代わりに『蛟』に締め付けられ、苦悶の表情を浮かべるりしゃこ…! 「…ちぇっ!…邪魔されちゃったよ…」 残念がるアイリーナ… 「…でも、先にりしゃこを片付けてしまって、後のお楽しみ…でいいんじゃない…?」 能天気に言うアイリーネ… 「…それもそうだね!…ん…待って!」 何かを閃いた様子のアイリーナ… 「…どしたの?」 と、アイリーネが尋ねる… アイリーナがアイリーネに近寄って、こそっと耳打ちをする… 「…あっ!そっか!…じゃ、それで行こ!」 「…OK!」 双子の作戦会議が終了したようだ… 「…お待たせミヤビちゃん!」 「…これからミヤビちゃんに『究極の選択』をしていただきま〜す!」 双子が嬉しそうにミヤビに向かって言う… 「…な、何よ…!?」 ミヤビは『ほのまら』で応戦中で、とてもじゃないがまともに会話できる状態ではない… そんなミヤビの神経を逆撫でするように、 「…ほら!見て見て〜!」 と、りしゃこの方を指差す双子… その言葉通りミヤビがりしゃこの方を振り向くと、そこには… 突然、ミヤビに『究極の選択』をしてもらう…と、双子が言う… 「…ほら!見て見て〜!」 と、はしゃぎながら双子がりしゃこの方を指差すと… そこには、双子の操る水の蛇・『蛟』が、りしゃこのか細い首を締め付けていたのだ…! 「…りしゃこぉ〜!」 ミヤビは絶叫した…! …自分の不甲斐なさで危機を招き、りしゃこに苦しい思いをさせている自分に腹が立って咆哮した… だが、それは更なる危機を招いた…! 「…ミヤビちゃん…」 「…油断大敵…だぞ?」 (…しまった…!) りしゃこの姿を見て動揺したことで、ミヤビの術に乱れが生じた…! ミヤビの『ほのまら』の攻撃を掻い潜り、アイリーネの『蛟』がミヤビの元へ、あっという間に到達する! 『ほのまら』を防御に回らせようとしたものの、間に合わなかった…! 「…うぐっ!?」 アイリーネの『蛟』がミヤビにまとわりつき、それが全身を締め付けるのに、そんなに時は要さなかった…! 瞬く間に、ミヤビもりしゃこと同じ目に遭ってしまった…! 必死にもがくが、『蛟』の締め付けが緩む気配が全くない…それどころか、一段と締め付けが強さを増していく… 次第に、ミヤビの意識が遠退き始めた…! 『蛟』に締め付けられているりしゃこの姿を見て動揺したミヤビに隙が生じ、瞬く間に、ミヤビもりしゃこと同じ目に遭ってしまった…! 首を絞められ、次第にミヤビの意識が遠退き始めた…! 一方、控え室にてりしゃこ達の試合を、中継用の水晶玉で見ていたサキ達… 「…ち、ちょっと!これ、ヤバいって!」 りしゃこ達のピンチに、チナリが興奮して騒いでいる… 「…もぉ、わかってるわよぉ〜!」 チナリをたしなめるようにモモが言った… 「…でも…このままだったら…」 一番最初にりしゃこに『護神石』を託したユリーナが心配そうに呟く… 「…『フェニックス』を封印されたのが、最大の誤算だった…」 頭を抱えるサキ… 「…ねぇ!何とかならないの!?」 悲鳴にも似た声で、再度チナリが叫んだ… 「…喚いても仕方ないでしょ!?…静かにしてよ!」 モモが冷静さを失ったチナリを叱りつける… 「…ごめん…でも…」 「…わかってる、とゆいたい…みんな不安なのは一緒だとゆいたい…」 素直に詫びたチナリを優しくフォローするマァ… すると突然、 「…りしゃこぉ〜!…こんなところで負けていいの!?」 と、ユリーナが水晶玉の向こうに向かって叫んだ…! 「…ねぇ!何とかならないの!?」 誰もがりしゃこのピンチを傍観することしか出来なかった… すると突然、 「…りしゃこぉ〜!…こんなところで負けていいの!?」 と、ユリーナが水晶玉の向こうに向かって叫んだ…! 一方、闘技場では… りしゃこもミヤビ同様、意識が遠退き始めていた… しかし、なんとかそれを踏み留まらせているのは、精神力…としか言い様がない… だが、それも、もう限界に近づいてきた… すると突然、りしゃこの身体に、電撃が走るような痛みが駆け巡った! 「…!」 反射的に意識が戻った… その様子に気付いたアイリーナが、 「…しぶといわね!」 と、空いている片方の手からもう一匹『蛟』を喚び出した! 「…行け!…『蛟』!」 アイリーナの言葉に反応して、またも『蛟』が襲いかかった! 『蛟』に締め付けられて、意識が遠退き始めたりしゃこ… だが、突然、りしゃこの身体に、電撃が走るような痛みが駆け巡り、反射的に意識を取り戻した…! 「…くっ!」 その様子に気付いたアイリーナが、もう一匹『蛟』を喚び出し、襲いかからせた! 「…うぐっ…!…くっ…かはっ!」 『蛟』に二匹同時に締め付けられて、りしゃこはたまらず呻き声をあげてしまう…! 悶絶するりしゃこ…!だが、手足をばたつかせるも、その呪縛からは逃れられない… (もう、ダメか…) 誰もがそう思った時、奇跡が起きた! 突如、りしゃこの全身がまばゆく光り始めた…! …と、同時にアイリーナが悲鳴をあげる! 「…ぎゃっ!」 「…どしたの!?」 アイリーネが悲鳴に気付いてアイリーナの方へ目をやる… とても信じ難いことに、先程まで元気だったアイリーナが地面に這いつくばっていたのだ…! 「…ナマイキちゃん!?」 攻める手を休めてまで、相方の元へ駆け寄るアイリーネ… すると、そこで集中力が途切れたのか、りしゃことミヤビの身体に絡み付いていた『蛟』達が消滅した… 「…ねぇ!?…大丈夫!?…大丈夫!?」 今までにない取り乱し方のアイリーネ… 「…うっ!…油断した…!」 呻くように呟くアイリーナ… 悲鳴とともに、地面に這いつくばってしまったアイリーナ… すぐさま、攻め手を休めてまでアイリーナの元に駆け寄るアイリーネ… 「…うっ!…油断した…!」 アイリーナは呻くように呟いた… 「…ねぇ!?…どうしたの、一体…!?」 アイリーネの問いかけにアイリーナはりしゃこの方を指差した…! すると、りしゃこの全身が微かに光っている… その中でも、特に強く光っている部分が…! 「…げほっ!…げほっ!」 りしゃこもようやく呼吸を整えて、今の現状を把握し始めた… なにやら身体中がぼんやりと淡い光に包まれていることに気付いた… とりわけ、胸の辺りが強く光っている…りしゃこは光の源を探し出す…! 「…あっ!」 りしゃこが探り当てたもの…それは、試合前にみんながりしゃことミヤビに託した『護神石』… その中で、『紫の石』だけが光を放っている… (…こ、これは…?) 手で握りしめると、ピリリと痺れた… (…!…ユリーナのだ!) ようやくりしゃこは、何故、自分が呪縛から逃れられたのかを理解した… 『紫の石』が放電してりしゃこの身を守り、逆に『水の蛇』でりしゃこを締め付けていたアイリーナが感電したのだ! (…ありがとう…ユリー…!) 自分を守ってくれた『紫の石』を大事に握りしめて、りしゃこが一気に魔力を上昇させた! 『護神石』の力で、奇跡的に窮地を脱出したりしゃこ…! 手には『紫の石』を握りしめて… 「…う、ううっ…!」 『蛟』の呪縛から解放されたミヤビも、意識を取り戻し始めた… 「…はぁ…はぁ…」 大きく肩で息をしながら、徐々にではあるが呼吸を整える… だが、その間も警戒は怠らない…現状を把握すべく、周りを見回した… まず、すぐ傍にりしゃこがいることに気付く… 傍から見ても、魔力が漲っているのがわかる… (…あの二人は…?) りしゃこの無事を確認すると、次は双子の姿を目で追った… すると、双子の片割れがダウンして、もう片方が介抱しているのが目に入った…! (…しめた!) ミヤビは胸が踊った…!ここまで先手を取られてばかりだったところに主導権を奪い返す絶好の機会…! (…よし、行くよ!) 勢いよく立ち上がるミヤビ…!ところが、上手く立ち上がれない! (…くっ!…こんな時に…!) それは双子も同じだった… 「…ねぇ…立てる?」 アイリーネが心配して声をかけるも、 「…ダメ…痺れちゃって…しばらくムリみたい…」 と、半ば諦め顔のアイリーナ… そんな弱音を吐いたアイリーナに、突然、アイリーネが平手打ちをする! 「…バカッ!…こんなところで諦めていいの!?…二人で『優勝しよう』って、約束したじゃない…!?」 弱音を吐いたアイリーナにアイリーネが平手打ちをする! 「…バカッ!…こんなところで諦めていいの!?…二人で『優勝しよう』って、約束したじゃない…!?」 突然の出来事に、コロシアム内が静まり返った… 「…ねぇ!?…お父さんの『夢』を、二人で叶えるって言ったじゃない!?」 泣き出しそうな顔をして、アイリーナに訴えかけるアイリーネ… 「…そうだったね…ゴメンね…」 弱音を吐いたことを詫びたアイリーナ… 「…立てる?」 アイリーネがスッと肩を貸す… 「…ありがと…」 アイリーネの肩を借りて、ゆっくりとアイリーナが立ち上がる… 双子のやりとりに感動した大観衆から、拍手が沸き起こった…だが… 「…こ、こら〜っ!」 「…見せ物じゃないんだから〜!」 顔を真っ赤にして観衆に向かって怒り出す双子… しかしながら、そのツンデレぶりにますます場内から歓声が飛んだ…! 「…もぉ!…恥ずかしいったらありゃしない…!」 「…一生の不覚だよ…」 己の迂闊さを恥じる双子… …と、そこへ、ミヤビがやってきた… 「…ねぇ…何なの?…さっきの話は…?」 だが、双子は答えるどころか、 「…ミヤビちゃんには関係ないっ!」 「…ほっといてよ!」 と、明らかに敵意を剥き出しにしている…! 「…ちょっと、待ってよ!」 と、食い下がるミヤビに、双子が吐き捨てた言葉は 「「…パパの仇を…とってやるんだから!」」 双子が語ったパパの『夢』… 何故か胸騒ぎがして、話を聞きたがるミヤビに対して、双子が吐き捨てた言葉は、ミヤビの全く予期せぬ言葉だった…! 「「…パパの仇を…とってやるんだから!」」 「…パパの…仇…!?」 その言葉に呆然となるミヤビ… 「…知らない、なんて言わせないから!」 「…あなたのパパが、ウチのパパの『夢』を壊したのよ…!」 初耳のことに、全くついていけないミヤビ… 「…な、何よそれ…?…何の話なの!?」 ただ、ミヤビは双子に事情説明を求めるのみだった… 「…何も…知らないの!?」 ミヤビに呆れ果てた双子…そして、アイリーナがゆっくりと語り始めた… 「…あなたのパパと…ワタシ達のパパは…今から10年前、この闘技場で戦ったのよ…」 「…えっ!?」 アイリーナの言葉に、ミヤビは絶句した!…今までミヤビが知らなかった『父親』のことを、双子が知っていたのだ! アイリーネが続ける… 「…それも決勝戦の晴舞台…パパの『夢』は…『魔導大会』で優勝して、『世界一の魔法使い』の称号を手に入れることだった…」 双子が語る過去の因縁を、ミヤビはただ、黙って聞いているしかなかった… 「…でも…パパは負けてしまった…ミヤビちゃんのパパに…」 「…だから、ワタシ達はパパの『夢』を叶える!…だから、負けられない!」 いつしか双子の瞳には、力強い闘志の炎が宿っていた…! 「「…ミヤビちゃん!…覚悟!」」 「…ワタシ達はパパの『夢』を叶える!…だから、負けられない!」 いつしか双子の瞳には、力強い闘志の炎が宿っていた…! 「「…ミヤビちゃん!…覚悟!」」 そう言い放つと、二人同時に攻撃を仕掛ける双子… ダメージを負ったアイリーナの代わりに、アイリーネが前に出る…! 「…食らえっ!…『スプラッシュ』!」 アイリーネの杖から水飛沫がほとばしる…! 「…うわっ?」 「…やっ!?」 りしゃことミヤビの視界が遮られた… その隙に決定力のあるアイリーナが次なる魔法を準備していた…! 「…走れっ!『ラピッドストリーム』!」 すると、水流がまるで地を這う蛇のように、りしゃこ達の足元を駆け抜け、身体にまとわりつく… そして、推進力が渦のように働き…りしゃこ達の身体は錐揉みしながら吹っ飛んでしまった…! ドサッ!! 「…うわっ?」 「…い、痛ぁ〜!」 起き上がると、身体が捻れたかのような痛みが走る…! 「…まだまだぁ〜!」 勢いに乗った双子が攻め手を緩めない…! 「…今度は二人分だよ!」 アイリーナとアイリーネが同時に水流を放つ! 「…ま、負けたくない!」 りしゃこが強く念じる…! すると今度は、『青の石』が光り始めた…! りしゃこ達の身体にまとわりつかんとする水流… だが、それはりしゃこ達の身体に触れることなく、凍り付いてしまった…! 双子が放つ水流が、りしゃこ達を襲う…! すると今度は、『水色の石』が光り始め、水流はりしゃこ達の身体に触れることなく、凍り付いてしまった…! 「…ええーっ!?」 「…何?どうなってんの!?」 次々とりしゃこに働く『不思議な力』に、双子は驚きを隠せない… (…隙ありっ!) 双子が動揺しているところに、ミヤビがお返しの魔法を放つ! 「…噴き出せ!…『火走り』!」 双子が放った魔法が“地を這う水流”ならば、ミヤビの魔法は“地を這う火柱”…それが双子の跡を執拗に追尾し始めた…! 「…や、や〜!」 「…な、何なの!?何なの!?」 試合中にも関わらず、『見えない追跡者』から逃げ惑う双子… 一方のりしゃこは、凍り付いた水流と、微かに光っている『水色の石』を見ながら、何かを閃いた! 右手に『水色の石』、左手に『緑の石』を持ち、強く念じる…そして、イメージしたものを双子めがけてぶつけてみた…! 「…これでも食らうもん!…凍てつけ!『ブリザード』!」 すると、冷たい風が闘技場内に渦を巻いて駆け巡り、一陣の強風となって容赦なく双子に向かって吹き乱れた! 「…きゃあぁぁーっ!」 「…嫌ぁぁぁーっ!」 吹雪に晒されて、心身ともにダメージを受けた双子…! しかし、勝利への執念は捨てていなかった! (…負けるもんか!…負けるもんか!) りしゃこが『護神石』を上手く利用したことによって、ピンチを脱出したどころか、徐々に形勢が逆転しつつある両チーム… 「…これでも食らうもん!…凍てつけ!『ブリザード』!」 身を切るような寒さが双子をあっという間に飲み込んだ…! 寒さに震える双子の取った行動は… 「…くぅ〜!…このぉ〜!…消し飛べ!『ホットゲイザー』!」 アイリーネが地面に手をつけると、地面から双子の周囲を囲むように間欠泉が凄い勢いで吹き出した! 「…はぁ…はぁ…!…間一髪…」 熱い温泉が、吹雪の寒さを吹き飛ばしていく…! 「…くっ!そんな…!」 吹雪を温泉で相殺され、ミヤビが攻め切れないことに歯噛みする… だが、間欠泉が生み出したものは、ピンチ脱出の糸口だけではなかった… しばらくすると、闘技場内は温泉と吹雪が混ざり合って発生した湯煙ですっかり視界が悪くなってしまった…! …この状況では双子を見つけ出して攻撃するのは、非常に困難…と、言わざるを得ない… 「…ああっ!」 双子を仕留める好機を逸し、悔しがるミヤビ… りしゃこもミヤビ同様、悔しさを露にする… 仕方なく、二人は闘技場内湯煙が晴れるのを慎重に待った… やがて、視界が晴れていくと、そこには様変わりした双子の姿が… 「…もう、これで終わりにするよ…!」 「…全力で…いくよ!」 今まで羽織っていた緑のフードを脱ぎ捨てて、その下からは緑のショートのジャケットとスパッツ姿の双子が出てきた…