同時刻― りしゃこ達の寝泊まりしているヤグー邸では、 りしゃこ達、ヨッシーノ達、帰還したマイミンが、ミキ帝のアジト襲撃の準備中だった… 食堂にて、最終チェックが進められている 「…いい?…今回の参加者は、アタシとヨッちゃん、『輝く女神』のみんな…それとマイミンで行くわよ! 悪いけど…りしゃこ達は、まだ『大会』が残ってるから、そっちに専念してちょうだい! みんな…OK?」 「「「…OK!」」」 いよいよエリカン奪還に向けて、ヨッシーノ達が出発する前だった… りしゃこ達も作戦に参加しないが、みんなの見送りで玄関前に集合していた… すると、 ガチャ…!! 何の前触れもなく、玄関の扉が開いた… そこからゆらり…と現れた人影… その姿に、一同は驚きのあまり声を失い、しかし、それが次の瞬間には、歓喜の叫び声へと変わっていった… 「…エリィィィー!」 誰よりも早く、マイミンが人影に向かって駆け出し、そして、強く、抱き締めた… 「…エリー…!…ゴメン!…オレが、オレがバカだったよ…やっぱり、エリー無しでは、生きていけない…」 ヤグー邸に突然、ふらりと帰ってきたエリカン… 誰よりも真っ先に駆けつけ、エリカンを愛しく抱き締めたマイミン… その光景に、誰もが目を細め、二人を祝福する… だが、目を覆いたくなるような惨劇が待っていた… 「…かはっ!?」 エリカンを抱き締めていたマイミンの背中に、突然、真っ赤な斑点が浮かび上がった…! その斑点が、みるみるうちに大きくなっていく… みんなが、その真っ赤な斑点が“血”だと気付くのに、そう時間はかからなかった… 「…きゃあぁぁーっ!」 絶叫が玄関ホールに響く… 「…エ、エリィ…!」 口から鮮血を滴らせながらも、愛しい人の名前を呼ぶマイミン… だが、程なくして、マイミンの腕がエリカンから離れていき、 やがて、エリカンに縋りつくように崩れ落ちた… …エリカンの手には、氷の刃が…これが、マイミンを貫いたに違いない… 愛し合っていたハズの二人の間に起きた惨劇… 一同は絶句した… 静かにその場に佇むエリカン…鮮血を流して倒れたままのマイミン… 誰もが硬直してしまい、その場を動けずにいた… しかし… 「…エリカン!…あなた…何てことを!?」 何者かがエリカンとマイミンの間に割って入った… エリカンとマイミンの間に割って入ったのは、メーグルだった 「…エリカン!…あなた、何てことを!?…正気なの!?」 真正面からエリカンを睨み付け、強く非難する… が、エリカンの返答は… ヒュン!! 手にした氷の刃でメーグルを斬りつけた! エリカンの行為に唖然とするメーグル… 「…!?」 顔に痛みが走った… ヒリヒリとする箇所に触れてみる… ヌメッとした生温い感触と鉄の匂い… 「…エリカン…あなた…」 突然、メーグルはエリカンに向かって魔法をぶっ放した! 大きく後方へ吹っ飛ぶエリカンに、さらに追い討ちをかけようとするメーグル 「ちょっと待って、メーグル…!」 サキとモモが必死に止めに入る… 傍から見れば、メーグルがエリカンを襲った風にしか見えないからだ… 「みんな気をつけて!…エリカンは…正気じゃないわ!」 メーグルの言葉に騒然とする… 「…それって、どういうこと!?」 「わかんない!…ただ、エリカンは正気じゃないわ!…みんなで抑えなきゃ!」 「…わかった…!おい、みんな!エリカンを取り囲め!」 エリカンを警戒しながら、一同は散開した… 正気を失ったエリカンを抑えるために、一同は散開した… 「…まいったわね… リカサークが呟く 「ああ、相手が身内なだけに、迂闊に手は出せないしな…」 ヨッシーノも、どうしたものか…と悩んでいるようだ だが、マイハが呟くように言った一言に、みんなが気付かされた 「…あの出血…早くなんとかしないと…大変なことになるの…」 見ると、マイミンの衣服は出血で真っ赤に染まっていた…! そのおびただしい出血量に、みんなの顔が青ざめていく… このままでは、マイミンが死んでしまう…! なんとしてもマイミンを救出し、手当てをしなければ…! そこで全員が互いの顔を見てみる… すると、メーグルが全員の顔を見て、アイ・コンタクトをした… どうやら、メーグルが切り込む決心をしたようだ… それにみんなが頷いた… サキもモモも、メーグルを掴んでいた手をそっと離す… その手が離れた瞬間に、メーグルが一足飛びにエリカンに向かっていった! 「…ゴメン、エリカン!…ちょっと痛いと思うけど…」 メーグルが密かに詠唱していた魔法を一気に解き放つ! 「…ゴメン、エリカン!…ちょっと痛いけど…」 エリカンに一足飛びで急接近したメーグルが、至近距離で魔法をぶっ放した! ドウッ!! 高圧力の水球が、エリカンの腹部にめり込み、その身体を大きく後方へ吹き飛ばした! しかし、メーグルもその反動に耐え切れずに、後方へと吹っ飛ぶ… 「…メーグルッ!」 すぐさま、サキ、モモの二人が駆け寄るが、メーグルは 「…ワタシのことはいいから!…早くマイミンを!」 と、指示を出す… 二人は 「…ゴメン、メーグル…」 と、言い残し、マイミンの元へ駆け寄った 「…マイミン!?…しっかりして!」 凶刃に倒れたマイミンを介抱するサキとモモ… 「…うぐっ!?…サ、サキか…」 「…マイミン!」 どうやら、意識はある…だが、よく見ると、手足が小刻みに震えている… あまり楽観は出来ない状況だ… 「…そっと…そっと運ぶわよ!」 「…わかってる…」 エリカンが動けない内に、少しずつ、マイミンを連れ戻すサキとモモ… だが… 後方へと吹き飛ばされたエリカンがゆらり…と立ち上がった…! そして、ゆっくりと、マイミンを抱き抱えているサキとモモに向かって、魔法を放つ準備をしている…! 魔法を放つ準備をしているエリカンの手に、冷気が集まり、氷の刃が出来上がる…! それを、前方…すなわち、サキ達に向けて発射した! バシュッ!! 発射音とともにサキ達を貫かんと迫る氷の刃…! しかし、その刃が三人にまで届くことはなかった パキィィィン!! ガラスの砕けたような音が玄関ホールに響いた… 「…間に合った!…ここはワタシが防ぐの…!」 刃が到達する寸前に、マイハが氷の壁を創って防いだのだ…! 「…助かった…!」 目の前まで迫ってきた刃が消滅して安堵するサキ達… 飛び道具を防がれたのを見たエリカンは、今度は接近戦で挑もうとする…が、 「…おっと!…ここから先は近付けさせないよ!」 「…悪いけど、そういうコト♪」 エローカ、ユイヤンら『輝く女神』の面々が壁となって、エリカンの前に立ちはだかる… 「…ほら!…ここまで来れば大丈夫!」 ヨッシーノとリカサークが手招きして玄関ホールの隅っこに三人を誘導した 「…いい?…ウチらがあの娘をここまで近付けさせないから、だから、みんなは治療に専念して!…わかった?」 りしゃこ達の返事も聞かずに二人はメンバーの手助けに向かった… 仲間のサポートに向かうヨッシーノ達… マイミンの治療を託されたりしゃこ達がすべきことはただ一つ…いち早く、マイミンの容体を良くすること… 直接、交わりのないマイミンやエリカンのために身体を張ってくれているヨッシーノ達のためにも… 「…かなりムチャクチャだけど、なんとかするからね!」 モモがマイミンに呼び掛ける モモの呼び掛けにも、意識が朦朧としてるのか、マイミンは頷くのが精一杯だった モモが応急措置を始める まずは傷口を診てみた 「…マズいわねぇ…」 モモが診ても、状態はあまりよくないらしい そこでしばらく考えたモモは、 「マイハ!」 と、マイハを呼び寄せた 「…どうしたの?」 唐突にモモに呼ばれて不思議がるマイハに、モモはとんでもない指示を出した 「マイハ!…マイミンの、この傷口を凍らせて!」 「…えっ!?…な、何…?」 「いいから…早く!」 躊躇っているマイハを、モモが急かす 「早く出血を止めないとマズいのよ!…手っ取り早く止血するのはそれが一番なの!」 「…わかった…やってみるの…」 モモのもっともらしい説明に、マイハはマイミンに術を施した マイミンの傷口を、なんと、凍らせることで止血したモモ… かなりムチャクチャなことかと思われたが、思いの外、出血は止まったようだ だが、これはあくまでも応急措置…傷を治すには、いち早く治療しなければならない 「サキ!…特訓の成果をよろしくね!」 「…わかってる!」 モモにハッパをかけられたサキは、マイミンの傷口に手をかざし、覚えたての白魔法を施した… ポウッ…とサキの掌が、淡く白く光る… 手をかざされた部位は、淡い光に包まれて、徐々に傷口が塞がっていくようにも見える… サキの額から、沸々と、玉のような汗が浮かび上がる… 一見、何気なく術を施しているようでも、相当の精神力を消耗しているだろう… サキの“静かな戦い”が、このまま何事もなく続くと思われた…しかし、 「うわあぁぁっ!」 マイミンの治療をしているりしゃこ達の傍に、ヨッシーノが飛び込んできた! 「…やべぇ!…“暴走”しちゃったみたいだYo!」 りしゃこ達が、ふと、エリカンに目を向けると、そこには、巨大な『氷の華』が出現していた… りしゃこ達の視線の先にあったのは、巨大な『氷の華』… りしゃこ達はこんな光景を、以前にも見たことがある… そう、『魔導大会』でのマイハがそうだった… 術者が、発動させた魔法を制御出来ない、もっとも危険な状態だ このままでは、術を発動させているエリカンへの負荷がかかり過ぎて、身体がボロボロになってしまう… しかも、治療のため動けないマイミンが襲いかかられたら、今度こそ生死に関わる致命傷になるだろう… りしゃこ達の決断は早かった 「…サキ、モモ、そしてりしゃこ!…マイミンを頼んだわよ!」 メーグルがそう言うと、ミヤビ、ユリーナ、チナリ、マァ、マイハが立ち上がった… 「…ウチらが引き付けておくから、サキ、モモ、後はお願い…!」 ミヤビがそう言い残して、その場を離れようとしたが、りしゃこが 「…ミヤ!…アタシも行く!」 と、言い出した ミヤビは振り返ることなく言った… 「りしゃこ…マイミンを治してあげるんだよ」 「…でも…アタシ、白魔法なんて…」 ミヤビの言葉の意図することがわからず戸惑うりしゃこに、 「いいのよ、使えなくたって…りしゃこはりしゃこの魔法を使えばいいじゃない?」 と、ミヤビは優しく語りかけた 「…アタシの…魔法…?」 ミヤビの残していった“謎かけ”に、りしゃこは首を傾げるばかり… 悩んでいるりしゃこに、 「…ねぇ…」 と、声がした 誰かに呼ばれた気がして、りしゃこは声のする方を振り向いた そこには、マイミンの治療に当たっているサキがいた 「…アタシの治療…手伝って欲しいの…」 ミヤビに続き、サキまでもがりしゃこを惑わすことを言い出した 「…でも…」 躊躇うりしゃこに、 「りしゃこに賭けるしかないの…」 と、サキは静かに語りかける… 「…りしゃこの“光の魔法”…もし、魔法の力を増幅する特徴があるのなら…」 「…!」 りしゃこも気付いたようだ… 「…手伝う!」 すぐさまサキの傍に行き、マイミンの傷口にかざしているサキの手に、自分の手を添えた すると、今まで淡く白い光が、強く、明るく光り出した! その光の強さに伴って、マイミンの傷口もみるみるうちに塞がっていく… 「…全く…ムチャしてくれる…」 治療を受けている間、沈黙していたマイミンが口を開いた 「…エリカンは?」 暴走している相方・エリカンの心配をするマイミン 「…まだ、暴走してるわよ」 モモの言葉に、マイミンの目が大きく見開いた…! エリカンの“暴走”の報に、マイミンの目が大きく見開いた… 突然、 「…オレが行く!」 と、マイミンが言い出した 「…ちょっと!…あなたひどいケガをしてるのよ!…もし、ケガが悪化したら、取り返しのつかないことになるのよ!」 と、ケガを心配してのモモの忠告に、 「…わかってるよ…だけど、あいつの“暴走”は…オレじゃないと止められない…そんな気がする…」 と、言い返したマイミン そしてりしゃこに、 「…悪ぃ、りしゃこ…ちょっと手を貸してくれ」 と言って、魔法を施しているりしゃこの手を引っ張り込む 「…あっ!?」 手を引っ張られて慌てるりしゃこに 「…大丈夫だ…そのままでいい…」 と、優しく言うマイミン 少し間を置いて、マイミンは静かに目を閉じ、瞑想する… すると、マイミンの全身が淡い光に包まれていった…! ちょうど、サキやりしゃこの手が光っているのと同じ現象が、マイミンの全身で起きているのだ 驚くりしゃこ達とは対照的に、慌てることなく、マイミンはただ、呼吸を整え、瞑想を続けた… やがて、全身の光が力強いものへと変化していった! 瞑想を始めたマイミンの身体が、淡い光に包まれ、やがて、その光はまばゆい光へと変化…いや、進化していった…! マイミンの身体に起きた怪奇現象に、りしゃこ達が呆然とする中、瞑想をしていたマイミンの目が、ゆっくりと開いた… 光輝くマイミンを恐る恐る見ているりしゃこ達に、マイミンが語りかけた 「…もう大丈夫だ!…ありがとう…!」 そう告げると、あっという間にエリカンの元へと疾走した 「…ねぇ…何、あれ…?」 理解不能の現象に、モモはサキに答えを求めた 「…わかんないわよ…!ウチが聞きたいくらい……?……あっ!」 『わからない』と答えようとしたサキが、何かを思い出したようだ… 「ねぇねぇねぇ!…何?何?」 すかさず食い付いたモモに、サキが答えた 「…あれが、マイミンの『魔法』なのよ…きっと…」 「『魔法』!?…あれが!?」 さっぱりわからない様子のモモに、サキがさらに答えた 「…モモも知ってるでしょ?…マイミンのケガの治りが早いのは…」 「…ええ」 「…マイミンの『炎の魔法』は、『活力の炎』なのよ…」 「…『活力の炎』…?」 サキが言った言葉がわからずに聞き直すモモ 「…モモ、あなたもEXーZYX時代のマイミンは魔法が全く使えなかったの、覚えてる?」 「…うん、覚えてるよ!…それがどしたの?」 「…実際はね、マイミンはアタシ達が知らないところで使ってたのよ!」 「…いつ?…どこで?」 「…ケガしたり、病気した時よ…本人が自覚してるかわかんないけど、あの回復力は異常だわ!」 「…それにさ、魔法の資質のテストをした時だって、マイミンは『赤』の反応が出たでしょ?」 「…そりゃそうだけど…」 どうやら、マイミンの『超回復』の正体は、『炎の魔法』の力、ということで落ち着きそうだ… 「…そうとわかれば、早くみんなの加勢に行かなきゃ!」 「…やばっ!忘れてた!…ほら!りしゃこも…!」 「…う、うん!」 サキ、モモ、りしゃこの三人は、遅らばせながらみんなの加勢に向かった…