エリカンの暴走にてこずるヨッシーノ達 


そこへ、全快したマイミンが合流した! 
「…スミマセン!お待たせしました!」 

しかし、ヨッシーノ達は元気になったマイミンを見て、ただただ驚くばかり… 
「えっー!?」 
「うそーっ!?」 
「…マジかよ…?」 
「…化けモンだ…」 

そんな声が聞かれる中、 
「…自分の不始末は自分でケジメをつけます…今まで…ありがとうございました!」 
と、マイミンはみんなに礼を言って、エリカンに向かっていった! 


「…はあぁぁぁぁーっ!」 
わき目もふらずに、エリカンに一直線、最短距離で突き進んでいったマイミン 

当然ながら、エリカンはマイミンを寄せ付けまいと、攻撃を仕掛けてくる…が、 
『氷の種子』を発射してみるも、マイミンに紙一重であっさりと躱されてしまう… 
ならば…と今度は、『氷の華』の本体から伸びた『氷の蔓』で、マイミンの身体を串刺しにせんとする…! 

その時、マイミンの目が光った! 
(…この瞬間を…待っていた!) 

『氷の蔓』が、マイミンの目の前まで迫ってきた! 
だが、マイミンは一転してその場から微動だにせず、『氷の蔓』を待ち構えた! 



『氷の華』の本体から伸びた『氷の蔓』が、マイミンを貫こうとする…! 

そして、眼前まで迫ったその時…! 


「…奥義・『ゴォォォッド・フィンガァァァーッ』!!」 
伸びてきた『氷の蔓』に、己の拳をヒットさせた! 


パリパリパリ…!! 

『氷の蔓』を通じて、マイミンの『炎の闘気』が伝導していき、それが通った『氷の蔓』は次々と脆く、壊れていった…! 
正に、『破竹』の勢い… 


それが、瞬く間に『氷の華』本体まで届いた! 

すると、 


パリィィィィィーン!! 

玄関ホール一帯に響く大きな音がした… 
そして、妖しく咲き誇っていた『氷の華』も、儚く散った… 

まるで、導火線に火が点いた爆弾が爆発したかのようだった… 

粉々に砕け散った『氷の華』は、細雪のように宙を舞い、 
それが玄関ホールを照らすシャンデリアの光を浴びて、キラキラと輝きながら消えていった… 


己が身を護っていた『氷の華』が消えたことで、支えを失ったエリカンは、ふらり…と、倒れた… 

「エリカンッ!?」 
すぐさまエリカンの傍に駆け寄り、介抱するマイミン… 
マイミンに抱えられたエリカンは… 



すぐさま傍に駆け寄ったマイミンに抱えられたエリカンは… 


「…おい!…しっかりしろ!…おい!」 
ぐったりとしたエリカンを揺すって起こそうとするマイミンだったが、 
エリカンは、ただ虚ろな目で虚空を見つめるばかり… 
さながら、魂の脱け殻だ… 

遅れて、メーグルが、そしてりしゃこ達、ヨッシーノ達も駆けつけた 

「…どうしたの…?」 
心配そうに、マイミンとエリカンの顔を覗き込むメーグル… 
メーグルがエリカンの顔を見た途端、顔色が変わった… 

「…マズいわ…心を閉ざしてしまってるわ!」 

その一言に、その場にいた全員の表情が曇った… 

「…心を…閉ざしてる…って!?」 
モモがみんなの疑問を代弁して尋ねた 

「…ええ…心の中の『闇』に囚われてしまってる状態だわ…」 
メーグルがそう答えたものの、みんなはよくわかっていない様子だった 

「…じゃあ、今は危険なの?どうなの?」 
ふと、リカサークが口を開いた…確かに、再び暴走されたりしたら厄介だから、だ 

「…“身体的”には大丈夫です…ただ、“精神的”には、とても危険です…」 



エリカンの“症状”を冷静に語るメーグル 


すると、今まで沈黙していたマイミンが、口を開いた… 
「…なぁ、メーグル…」 

何の前触れもなく、マイミンが話しかけてきたのでメーグルは少し驚いたが、気を取り直し、 
「…何?」 
と、マイミンに返事した 

「…エリカンは…元に戻るのか?」 
マイミンの尋ねた質問に、みんなの注目が集まった 

メーグルは少し躊躇ったが、ゆっくりと、静かに答えた… 
「…可能性は限りなくゼロだわ…」 

その答えに、マイミンは落胆し、そして、行き場のない怒りをメーグルにぶつけた 
「…手前ぇ!よくそんなこと淡々と言えるなぁ!」 

熱くなるあまり、マイミンの手はいつの間にか、メーグルの胸ぐらを掴んでいた 
玄関ホールに緊張が走る! 

だが、メーグルは冷静だった 
胸ぐらを掴んでいるマイミンの手をしっかりと握りしめ、諭すように言った… 

「…『可能性は限りなくゼロ』とは言ったけど、『ゼロ』とは言ってないわ」 

その言葉に、マイミンの動きが止まる 
「…どういう…ことだ?」 
メーグルが言葉を続けた 
「…『ゼロ』じゃない…のは、過去に助かった例があるからよ…」 



メーグルの一言一言に、マイミンをはじめ、みんなが静かに耳を傾けた… 


「…心の中の『闇』に囚われて、戻ってこれたのは、ワタシが知る限りではたった一人の少女… 
でも、その少女は『闇の世界』から戻ってこれた… 


…その少女は小さな頃からとても好奇心が旺盛で、とにかく、勉強が大好きだった… 
取り分け、昔話や物語の本を好んで読み漁り、少女はいつしか村一番の天才少女になったわ… 
やがて、その噂がここ、ハロモニア王国のお偉いさんの耳にも入って、 
お偉いさんのお眼鏡にも適い、ハロモニアでエリート文官の道を歩み始めた… 

少女の人生は全てが上手くいってた…“あの日”が来るまでは… 


ある日、少女は、上官に書斎の掃除と整理を頼まれて、“あるもの”を見つけてしまったの… 
それが…この世界の創造の歴史からの出来事を綴った書物と、“禁断の書”…」 

「…“禁断の…書”!?」 
サキが尋ねた 

「…ええ…この世界において封印した数々の“禁呪”と、“邪神”の存在…」 

そこまで語ると、メーグルの呼吸が少し、乱れてきた…心なしか、苦しそうに見える… 
それでも、気を取り直して、メーグルは語り続けた 



「…“禁断の書”を見た少女は、この世界の全てを知りたくなって、つい、その“書”を開いてしまったの… 
すると、その途端、少女は深遠の『闇の世界』に引きずりこまれてしまったわ… 
その『闇の世界』にあったのは…全ての“負”の感情が入り混じったもの…“絶望”… 
そんな“負”の感情に耐え切れず、少女はまるで魂の脱け殻みたいになってしまった…」 

メーグルの話にみんなが重たくなっていたが、 
「…で、その少女とやらはどうなったんだ…?」 
と、覚悟を決めた口調で、マイミンが尋ねた… 

「…助かった…というのはマイミンにも言ったと思うけど、少女を助けたのは、少女の上官だったの… 
彼女の献身的な努力と、少女を救いたい…という純粋な気持ちが、少女を再び“光”…すなわち、この世界に呼び戻したのね…きっと… 
もっとも、上官の不手際で事件が起こった…とも言えるんだけどね… 
」 
メーグルはやや遠い目をして、しみじみと語った… 


「…じゃあ…オレは…どうしたら…?」 
「…今はとにかく、エリカンを信じて待つこと… 
今のあなたが出来るのはそれだけだわ…」 



メーグルの話を聞き終えたマイミンは、エリカンを抱え上げ、ゆっくりと歩き始めた… 


「…おい?マイミン!?」 
ヨッシーノがマイミンを呼び止めたが、マイミンは一言、 
「…これはオレの問題です…必ず…必ずエリカンをこの世界に連れ戻します…」 
と、言い残して、自分の部屋へと戻っていった… 

エリカンを必ずこの世界に連れ戻す、というマイミンの決意の前に、誰もが声をかけることが出来なかった… 



ガチャリ… 

自分の部屋に戻ったマイミンは、抱えたエリカンを自分のベッドの上に優しく寝かした 

改めてエリカンの顔を覗き込む 
目は見開いたままで、虚ろな視線は宙を漂ったままだ… 

そのエリカンの顔を見て、マイミンは…泣いた… 

いろんな不幸なことが重なったけど、エリカンをここまで追い詰めたのは、エリカンを護ってやれなかったのは…自分のせいだ… 

そう思うと、悔しくて、涙が出てきた… 
ぽろぽろと、大粒の涙がマイミンの瞳から零れ落ちる… 
そして、堪え切れず、嗚咽した…慟哭した… 
声にならない声を張り上げた… 

「…うわあぁぁぁーっ!…うっ…うっ…うう…!」 

悲しい泣き声が部屋の中に溢れた… 



悲しい泣き声が部屋中に響く… 


「…ゴメン…エリカン…」 
虚ろに開いた目をそっと閉じさせた… 
すると、幾分かはその顔が穏やかに見えた… 
いつも傍にいて、他愛のないことで笑い合ってた、あの頃の笑顔のような… 

たった二日間ほどで、運命の歯車は大きく狂ってしまった… 
二人を繋いでいた運命の糸も、まるでプッツリと切れてしまったようだ… 

あの頃が懐かしい… 
そして…あの頃に戻りたい… 
もし、神様が赦してくれるのなら… 


ふと、気付けば、、マイミンはいつの間にか、エリカンに話しかけていた 
心の『闇』に囚われたエリカンが返事をしないのはわかっていた… 
だけど、無性に話がしたかった… 

「…エリー…覚えている?…初めて、このハロモニア城で出会った日のこと… 
もう、あれから…随分経ったね… 

…そう言えばさ、初めての訓練の時…オレ、油断してエリーに負けちゃって…拗ねてたこともあったよね… 
ヤグーさんのしごきが厳しくって、挫けそうにもなったっけ… 
今だから言える…エリーがいたから…エリーに出会えたから…オレは、ここまで来れたんだね… 

ありがとう、エリー…」 



静かにベッドに身体を横たえているエリカンに、ありったけの感謝の気持ちを伝えるマイミン… 


しかし、何も言わないエリカンに、不安が募る… 

ランプの灯り一つの部屋は仄暗く、その闇が人の気持ちを、心を素直にさせる… 
暗い室内で、マイミンがポツリと呟いた… 
「…やっぱり…オレ…エリーがいなきゃ…ダメだ…ダメなんだ…」 


「…なぁ、エリー…」 
エリカンの手をギュッと握りしめながら、マイミンは静かに目を閉じた… 
それは、まるで神に祈りを捧げてるようでもあった… 

…閉ざされた心に、僅かでもいい…自分の素直な気持ちを伝えたい… 

そんな願いを込めた祈り… 

目を閉じたまま、マイミンは思いを巡らせた… 
(…エリー…オレ、諦めない!…ずっと、毎日祈るよ!…この想いが届くまでは…) 

そして、朝を迎えた… 











そして、朝を迎えた… 


部屋のカーテンの隙間からこぼれた朝日が眩しくて、マイミンは目を覚ました… 
「…んっ!?」 

目覚めたマイミンは、異変に気付いた… 

(…なっ!?) 
昨晩までは、ベッドの縁でエリカンの手を握りしめていたハズなのに、いつの間にか、ベッドで寝ていたのだ… 

(…オレ…確か…ベッドの側だったよな?) 
マイミンには、自分がベッドに潜り込んだ記憶がないのだ 

加えて、もう一つおかしな点が… 

ベッドで寝ているマイミンの側にはエリカンが横たわっているのだが、マイミンの今いる位置は、ベッドの壁ぎわ側… 
つまり、マイミンが今の位置に移動したとするなら、マイミンはエリカンを跨いで壁ぎわ側へ移動したことになる… 

マイミンは頭をフル回転させた…しかし、ベッドに潜り込んだ記憶は全く思い出せなかった… 

ますます混乱し、呆然としているマイミンの耳に、声が聞こえた… 


「…おはよ、マイミン…」 
マイミンは辺りを見回す… 
…気のせいか?…いや、確かに聞こえた… 


すると、声が、もう一度、聞こえた… 

「…おはよう、マイミン…」 



マイミンを呼ぶ声が、二度、聞こえた 


空耳なんかじゃない… 
自分を呼ぶ方へ、振り向いた… 

そこには、エリカンがいた…それも、『魂の脱け殻』なんかじゃない、いつものエリカンがいた… 


「…エリ…むぐっ!?」 
思わず叫び出しそうになったマイミンの唇をエリカンが塞いだ… 


しばらくしてから、エリカンが悪戯っぽく笑いながら言った… 
「…ダメよ!こんな朝早くに叫んじゃ!」 

その言動に、マイミンはどう反応すればいいのかわからずに、呆然としていた… 
そんなマイミンを、エリカンは愛しくてたまらなくて思わずギュッと抱きしめた… 
不意に抱きつかれたマイミンは照れ臭そうに引きつった笑顔を浮かべていた 


ひとときの幸せを噛みしめる二人…そんな中、ふと、マイミンが尋ねた 
「…なぁエリー…どうやって元に戻れたんだ?」 

思ってもみなかった質問に少し考えた後、エリカンが答えた 
「…それが…よく覚えてないのよね… 
だけど、たった一つだけ覚えてるのは…マイミンの手の温もり…」 

そう言い終えると、エリカンもちょっぴり照れ臭そうに笑った 



「…でもさ…」 

突然、エリカンが切り出した 

「…実はね、聞こえていたの…マイミンの声が」 

「…声?」 
マイミンは怪訝そうな顔をして尋ねた 

「…うん…マイミンのね、昔話とか…弱音を吐いてるところとか…♪」 

まさかの出来事だった… 
号泣してるところ、弱音を吐いてるところをエリカンに聞かれていたのだ…! 


「…ちょ、ちょ…!」 
マイミンは慌てふためくが、後の祭りだった… 

「…やっ〜ぱり、マイミンはアタシがいなきゃダメなのよね〜!」 
と、勝ち誇るエリカンに 
「…あ、あのなっ!」 
と、マイミンは強がってみせるが、 
眼光鋭いエリカンに 
「…返事は?」 
と、聞かれ、弱々しく、 
「…ハイ…」 
とだけ答えた… 

殊勝なマイミンの態度に気を良くしたエリカンは 
「…素直でよろしい♪」 
と、言うとともに、 
「…じゃあ、もう浮気はしないわよね?…しないわよね!?」 
と、念を押した… 

もうダメだ…と観念したマイミンは、弱々しく、 
「…ハイ…」 
と言うのが精一杯だった 



弱々しく返事をしたマイミンは、やや不貞腐れた感じで、エリカンに背を向けて寝っ転がった… 


(…ちょっと…やりすぎたかな?) 
そう思ったエリカンは、マイミンの背中に、そっと抱きついた 
そして一言、 
「…ゴメンね…意地悪して…」 
と、甘えるような声で言った 

「…な、何?」 
急に背中に抱きつかれ、マイミンはドキッとした… 

その問いかけに、エリカンは何も答えなかった…ただマイミンの背中を優しく抱き続けた… 

エリカンの暖かい温もりが、マイミンの背中越しに伝わってくる… 
…それと、マイミンの“本能”を刺激する、柔らかい膨らみも… 


たった二日間だったが、マイミンはエリカンの“温もり”に飢えていた… 

今、欲望を縛り付けるものは何もない… 


「エリィィィー!!」 
突然、後ろを振り返り、マイミンはそのままエリカンに覆い被さった 

「…や、やだぁ〜…みんなに聞こえるわよっ!」 
ついさっきまで、主導権を握っていたエリカンが“逃げ”に回ったことで、ますますマイミンの欲情が燃えさかった… 

「…さっきのお返しだ!…オレ無しでは生きていけない身体にしてやる! 
…必っ殺!『ゴールデンフィンガァァァー!…エリカン昇天拳!』」 

「…ああぁぁぁーっ!!」 



「…何やってんのアンタ達…!」 


「「…!?」」 

突然、後ろから声が聞こえてきたので振り返ると、そこには顔を引きつらせたメーグルが仁王立ちしていた… 

「…あ、いや…これは…」 
「…ア、アハハ…」 

気まずい雰囲気を取り繕うかのように、愛想笑いをしたマイミンとエリカン… 

しかし、メーグルの冷ややかな眼差しが変わることはなく、 
「…不潔…!」 
と、言い残して帰っていった… 


バタンッ!!と扉が閉まると、二人して苦笑いを浮かべていることに気付いた 

そして、苦笑いが照れ笑いへと変わり、 
「…ちょっと…やりすぎたかな…?」 
と、頭をポリポリと掻くマイミン… 

「…だから言ったでしょ?誰かに聞こえるって…」 
エリカンがマイミンにお説教を始めた 

「…だいたいマイミンは…むぐっ…!?…ぷはっ!」 
お説教が面倒くさいと思ったのか、マイミンがエリカンの唇を強引に塞いだ 

「…いいじゃねーか!…こうなりゃメーグルに見せつけてやろうぜ!」 
そう言って、再び、マイミンはエリカンを求め始めた… 
エリカンもそれを拒むことなく、マイミンの全てを受け入れた… 


一時間後、メーグルに正座させられることを知らずに… 





それから― 


目を覚ましたりしゃこ達は、朝食を摂るため食堂に向かった 

そして、入っていきなり異様な光景を目撃する 


マイミンとエリカンが正座をさせられた挙げ句、メーグルから朝食ではなく説教を食らってるではないか! 

りしゃこ達はエリカンの復活を喜びたいが、とてもそんな雰囲気ではないことを察知した 

が、かといって、見過ごす訳にはいかず、結局、サキが割って入ることになった 

「メーグル!?一体どうしたのよ!?」 

「どうもこうもないわよ!二人して朝っぱらから…や……なんて…不潔…」 
メーグルの返答は、最後の方にいくに従って、小声になっていった 

きっと、言いにくいことだろう…と察したサキも、敢えてツッコミを入れなかった 

「でも、もういいじゃない、その辺で…せっかくエリカンも元に戻ったんだし」 
サキの提案に、大分怒り疲れたメーグルも渋々同意する 

「わかったわ…いい?今度からは気を付けてよね!」 
「「ハーイ…」」 

これにて、ひとまずマイミン・エリカンの失踪騒動は幕を閉じることとなった