マイミンとエリカンの騒動も一段落して… 


『魔導大会』が始まって今日で3日経った 
1日目、2日目…と第一試合、準決勝とやったので、今日は試合がない、“フリーの日”だ 

朝食を終えたメンバーは、この休日を、自分のしたいことに時間を充てることにした 

「ワタシはマイミン達の“空白の二日間”を調べるため、ここに残るわ…行くわよ!二人とも!」 
メーグルが厳しい口調で二人に指示すると、 
「「へーい…」」 
と、力なく、二人の返事がした… 
メーグルの後をトボトボとついていく様は、まるで『ドナドナ』のようであり、りしゃこ達はいたたまれない気持ちになった 


ちょっと湿っぽい雰囲気に気付いたモモが、 
「じゃあ、アタシらはゆっくり身体を休めるとしますか!」 
と、提案する 

「「賛成!」」 
と、満場一致で決まるかと思われたが、 
「アタシ…ちょっと行きたいところがあるから…」 
と言い出すメンバーがいた… 

「ミヤ…どうしたの?あなた大ケガしてるのよ!?…じっと安静してないと…」 
ミヤビの体調を管理しているサキがドクターストップをかけた 

「…今はとにかくケガを治さないと…」 
「それなら十分時間はあるぜ!」 
と、サキの言葉を遮って、誰かが発言した 



突然割って入った声の主…それは、ヨッシーノだった 

「…『大会』の日程が決まったよ。オレ達は準決勝1日目で、りしゃこ達は2日目だYo! 
だから、りしゃこ達は今日から二日間は休めることになるYo」 

その知らせに、りしゃこ達の顔も綻ぶ 

「…じゃあ、行ってくるね!」 
そう言って、ミヤビが足早に館から立ち去ってしまった… 

「…ま、待って!」 
その後を慌ててりしゃこが追いかける 


「どこ行くんだろ?」 
「…さあ?」 
ミヤビの行動にモモとサキは首を傾げた 

そして、ヨッシーノは…というと、 
「マイミン達の回復を聞いたんで、飛んできた!…何があったか、今から事情聴取するつもりだYo」 
そう言うと、メーグルの部屋へ駆け上がっていった 


そして、残った6人は 
「じゃあ、ウチらは…」 
「…どうしよう?」 
と、相談を始めた 

「…とりあえず、アタシは身体を治すよ!」 
「そだね!」 
昨日のダメージが残っているユリーナとチナリは大人しく治療に専念することに決めたようだ… 


と、そこへ、またもや客が… 



ヤグーの館に現れた客とは… 


「入るでぇ!」 
と、勢いよく扉を開けて、ハロモニア女王・ユーコが突然訪ねてきたのだ 

これには一同が固まってしまった 

一体、何のために来たのかがさっぱりわからず、一同は困惑する 

そんな一同を尻目に、ユーコは 
「ヨッちゃんはどこおるんかなぁ?」 
と、みんなに向かって尋ねた 

「…多分、上の部屋だと思います…」 
と、強ばった顔のまま、サキが答えた 

「あっそ…わかったわ!おおきに!」 
そう言うと、サキの肩をポン!と叩いて、二階の部屋への階段を駆け登っていった… 


二階へと消えていく女王の後ろ姿を、一同は呆然と見届けるだけだった… 

そして、見届けた後に 
「…ねえ、何で女王様がこんなところまで…」 
「わかんないよ」 
と、噂した 


その女王・ユーコの狙いは… 

「邪魔するでぇ!」 
そう言うが早いか、扉を開け、メーグルの部屋に入っていった 

突然の女王来訪に、メーグル達はりしゃこ達以上に驚き、固まってしまう 


「…女王様!?…どうしてここに…!?」 



突然の来訪に驚きを隠せないヨッシーノ達に、ユーコは平然と言ってのけた 


「ヨッちゃん!なんか最近、ウチの預かり知らん所で物騒な“計画”があるらしいなぁ〜」 

その発言に、さらに驚く… 
ヨッシーノ達は、ユーコには余計な心配をかけないように、内密でヤグーやミキ帝達の“計画”を潰すつもりだった 
しかし、それをユーコに察知されてしまったのだ 

「どうして…それを…?」 
「何アホなこと言うてんの!?一国の女王が存亡の危機にボサッとしてるワケないやん!? 
…ウチもそれくらいは調査してるよ!」 

そして、急に、優しい口調でヨッシーノ達に語りかけた 
「ウチのこと…心配してくれてたんやね…ありがとう… 
でも、ウチにも『覚悟』は出来とるから、あんたらの知ってること…全部教えて欲しいねん!」 

真剣な眼差しで、ヨッシーノ達を見つめる 

しばらくの沈黙の後、ヨッシーノが口を開いた 
「…わかりました。アタシ達で知ってること…全部話します…」 
ヨッシーノの決意に、メーグル達も頷く 

そして、ヨッシーノの独白が始まった 



そして、数分後と経たない内に、部屋から叫び声が響いた 


「なんやて!?」 
絶句したのはユーコ 

今までのいきさつの中で、ヤグーが“失踪”したことを明らかにしたのだ 

それを告げたヨッシーノの顔も、苦渋に満ちていた 

ヤグーを溺愛していたユーコが、きっとこんな反応をすることは予測出来たから… 

「…アッちゃんからそんな報告なんて、聞いてなかったで…」 
肩を落としたユーコが呻くように呟いた 

女王のお庭番・アツコもユーコを気遣って事実を言わなかったのだろう… 


だが、それでもユーコは気丈に振る舞ってみせた 
そして、 
「…わかった…なぁ、他に重要なことを隠してないか?」 
と、ヨッシーノ達に語りかけた 

すると、メーグルが躊躇いながら、ユーコに重大報告を行った 

「女王様…実は、ヤグーさんと同時に、『禁断の書』も見当たりません…!」 

メーグルの一言に、その場の一同は声を失った… 
と、同時に、ヨッシーノ達の視線は発言者のメーグルからユーコに移った 

見ると、ユーコも今回の件にはさすがに動揺を隠し切れないでいる… 



『禁断の書』が消えた… 


「…ウソやろ!?」 
明らかに動揺した面持ちで、再度メーグルに尋ね返したユーコ 

だが、 
「…いえ、事実です…」 
と、振り絞るような声でメーグルは答えた 

その答えに、ユーコのみならず、一同が沈黙してしまう… 

そして、その衝撃の程は、直後にユーコが思わず頭を抱え込んでしまったことから容易に伺い知れた 


暗く、重たい空気が部屋中を支配する 

しかし、いつまでも続くと思われた沈黙がユーコの発言によって破られた 

「…わかったわ。メーグル!『禁断の書』を最後に見たのは何時や?」 
「…確か…ヤグーさんが居なくなる前です!」 

少し考えて、ユーコが推論を述べた 
「『禁断の書』を持ち出したんは多分…ヤグーやろな…」 

その答えに、一同は驚いた 
「…じゃあ…なんでヤグーさんは…?」 
力なくメーグルがユーコに尋ねた 
どうやら、いつもの頭の回転も、今回の件でうまく機能しないらしい 

「簡単なハナシや…何か『弱み』を握られたからに違いない!」 
「…『弱み』?」 

一同の声が思わず上ずった 



「そや…多分、ヤグは『弱み』を握られとったんやろな…『仲間』という『弱み』を…」 


「『仲間』、ですか…?」 
『弱み』の次は『仲間』…ヨッシーノ達の頭は混乱するばかり… 

まだわからない様子の一同に、ユーコが答えを解説し始めた 
「まぁ『仲間』っちゅうより『人質』やな。ヤグは『人質』を助けようとして、『禁断の書』を持ち出した… 
あわよくば、ミキ帝達を『禁呪』で撃退しようとしてたんやろ…でも、それが失敗した…」 

黙ってユーコの話を聞いていた一同だったが、ふと、メーグルが、 
「…あの、『人質』って?」 
と、ユーコに尋ねる 

ヨッシーノも、 
「…オレ達、誰一人『人質』を取られてないんですけど…」 
と、続けた 


「…確かに『あんたらの仲間』は人質に取られてないで…でも、ヨッシー…『ウチらの仲間』やったら?」 
「…『ウチらの仲間』…?」 
ユーコにそう言われて、ヨッシーノがハタと気付いた 
「…あっ!」 

「そう…そのまさか、や…」 
ユーコが静かにそう言った 



「…あの、ヨッシーさん…」 


答えに気付いたヨッシーノに、メーグルが答えを求めた 

「アベさんとゴッちんだよ…!」 
苦々しい表情でヨッシーノは返答した 

「アベさんとゴトーさん…ですか!?」 
傍観していたエリカンも会話に参加する 

「そや…あの二人や…」 
そう言ったユーコが、してやられた…という表情をしていた 



「…でも、これで大体のことがわかりましたね」 
ふと、メーグルが洩らした 
「…そやな」 
その発言にユーコも相槌を打った 

「どういうことですか?」 
やや、話の筋道が見えていないヨッシーノは率直に答えを求めた 


「…まず、アベさんとゴトーさんですが…あの二人は、何らかの理由でミキ帝達に操られています!」 

「…!!」 

ミキ帝達に操られていたマイミンとエリカンが反応する 

「…確か、マイミンの話だと、ミキ帝達のアジトでアベさん、ゴトーさんを見たんでしょ? 
…それも『匣』の中に入れられた…」 

「…ああ」 

メーグルの問いかけに、あの時のことを思い出しながらマイミンが返答した 

「…その『匣』でわかったの…二人が操られている、ってね」 



「…どうして、それがわかるの?」 
操られていた時の記憶がすっぽり抜け落ちているエリカンは不思議がる 


「…あの後、思い出したの。『禁断の書』の中に、『傀儡の術』があったのを…」 

「『傀儡の術』…!?」 

「そう…ある特殊な術を施して、『人形』…または『生き物』を操るものよ」 

聞き慣れない言葉に首を傾げるマイミンにメーグルが解説した 

「でも、その術と『匣』がどんな関係があるってんだYo?」 
また次の質問が今度はヨッシーノから飛び出した 

「『傀儡の術』の術には、かなりの精神力と集中力が必要です 
ですから、術を長時間使うのは無理です 
そして、もし、その操る対象が『生き物』だった場合、ちょっとした衝撃で術が解けるのを防ぐために、『匣』が作られたのよ 
外界から入ってくる様々な『感覚』を遮断するよう…ね」 


「…なるほど、ね」 
メーグルの解説に一同が納得する 


「…だとしたら、ヤグーさんはアベさんやゴトーさんが操られている、ってことを気付いて…」 
「多分、なかったでしょうね…そして、動揺してる隙に…」 
「…ミキ帝達に捕まってしまった…ってことか…」 
「…そうね」 



「…ちゅうことは、ヤグはミキ帝達の『人質』になっとるワケか…」 

「そうなりますね」 

「…じゃあ、『人質』を切り札にされたら、ウチらはあいつらに手も足も出ん…っちゅうワケやな」 

「…悔しいですが、そうなってしまいます」 


ユーコとメーグルが冷静にミキ帝達の今後の出方を分析する 

そして― 


「…よし!まずは『人質奪還』しかないな!」 
ユーコが決断を下した 

それに対し、一同が黙って頷く 

「じゃあ、することは決まったから、後は作戦やな!…まずは、ヨッシー!」 

「…ハイッ!」 

「準決勝やけど…出来れば試合中にミキ帝達に揺さぶりをかけて欲しいねん」 

「揺さぶり…ですか?」 

「そや。試合で勝つのに越したことはないけど、こっちは向こうの“狙い”がわからんから… 
それを、上手く誘導尋問して欲しいんよ…ヨッシーなら、出来るな?」 

「ハイッ!」 

「あと…ウチは可愛い“後輩”の手当てをしとくから、もし、何かあったら連絡するように!」 

「「ハイッ!」」 



ユーコが立ち去ったのを見届けたメーグル達は緊張から解放され、ホッと一息をついた 


だが、やらなきゃいけないことは山積みである 

とりわけ、急務なのがミキ帝達に囚われたヤグー、アベナッチ、ゴトーの解放 

人質をとられているとあってはりしゃこ達が『魔導大会』でミキ帝達相手に思い切り戦えるワケがない・・・ 


しばらく沈黙が続いた後、ようやくヨッシーノが切り出した 

「次の試合・・・オレは勝負を捨てる」 

部屋にいた誰もが唖然とした 
「ヨッシーノさん!そんなこと・・・」 
メーグルの言葉を遮り、ヨッシーノが続けた 
「オレなりの考えなんだ。もし、オレ達が勝って、りしゃこ達も勝ってしまったら・・・あいつら、何をすると思う?」 

「オレならやけくそになって大暴れ・・・!?」 
ヨッシーノの問いに答えたマイミンがハッと気付く 

「そう。自棄を起こされたら困るんだ。だから、油断させないとダメなんだ・・・あと少しで目標達成、だと」 

「でも、リスクが大きすぎます!」 
ヨッシーノの“決断”にメーグルが待ったをかけるが、ヨッシーノの決意は変わらなかった 



「確かに勝負を捨てるのは惜しいYo・・・ 
でも、人質を奪還するためなら喜んで捨てさせてもらう」 


その頑ななまでの決意に、メーグルが折れた 

「わかりました。では、ワタシはりしゃこ達に今回の作戦の件を伝えに行ってきます」 
そう言うと、メーグルはすぐさま部屋から出ていってしまった 

「なぁ?アイツりしゃこ達の行き先なんて知ってるのかよ?」 
「さーあ?」 



ところ変わってりしゃこ達は― 


「確かこの辺りなんだもん!」 
「あっ!あったあった!」 
「・・・けっこう、大きいね」 
「・・・うん」 


二人が訪れたのは双子のパパ・トールの邸宅 

「たのもー!」 
「バカッ!違うわよ!・・・『おはようございます』でしょ!?」 
「えっ?だってマイミンが『他所様にお邪魔するときはこう言うんだ』って・・・」 
「何言ってんの?それは『道場破り』に使う言葉よ!」 


「どうしたんだい、朝早くから?」 
「「わあっ!?」」 

玄関の前でのすったもんだを聞きつけたトール自らが姿を現した 



「えっ?・・・あ、あの・・・」 
まさかのトールの登場になかなか言葉が出てこないミヤビ 
それを尻目にりしゃこは 
「おはよーございます!」 
と挨拶してみせた 

「やあ、おはよう!」 
と、気さくに挨拶を返したトールが 
「だいたい要件は察しがつくよ。キミのパパの件だろ?」 
と、ミヤビの目的を言い当ててみせた 


「ええ・・・アタシ、あの時、咄嗟にパパの魔法が使えたんですけど・・・ 
でも、また使えるか、不安だったんで」 
「それで相談に来た・・・ってワケだね」 
「あっ!そうなんです!」 
「きっと相談に来ると思ってたから、待っていたんだよ。・・・ま、ここでは何だから、中へお入り」 

りしゃこ達はトールに進められるまま、邸宅の中へと入っていった 


中に通され、客間に案内された二人 

「じゃあ、ちょっと待ってて」 
と言われて、りしゃこ達はソファーに腰をかけ、トールを待つ 

しばらくして、トールが古ぼけた本を手にして戻ってきた 

「・・・あの、それは?」 
恐る恐る尋ねるミヤビに 
「これはね、炎の『魔法の書』だよ。 
キミのパパに負けた時、悔しくってリベンジしようと思って勉強してたんだ。 
・・・ちょっと使いそびれたけど」 



「あ、あの・・・パパの『魔法』のことなんですけど・・・質問しても、いいですか?」 


やや、遠慮がちにミヤビが尋ねた 

「・・・あのパパの『魔法』なんですけど、ホントはどんな『魔法』なんですか? 
アタシ、あの時、無我夢中で使えたんですけど、よくわからないんです・・・ 
また、使えるのか、心配なんです・・・」 

ミヤビはこれから迎える準決勝戦、決勝戦に向けての不安な胸中をトールの前で曝け出したのだ 


不安顔のミヤビに、トールは微笑みながら言った 
「やっぱり、血は争えないね。瓜二つだよ、キミの『魔法』は・・・キミのパパのと」 

「えっ?」 
トールの意外な答えにミヤビは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった 

「うん。あれがほぼ『完成形』だよ。キミはきっと天才だな」 
「いえ・・・そんな・・・」 
トールの誉め言葉に、つい、顔を少し赤らめ、照れてしまうミヤビ 

だが、トールは急に真剣な顔になって言った 
「でも、キミなら気付いてると思うけど、あの『魔法』には“欠点”がある 
それを何とかするのが課題だね」 

その言葉に、ミヤビも神妙な顔つきになって 
「ハイ」 
と、頷いた 



「ねーねーミヤー?“欠点”って?」 


ミヤビとトールの二人だけの会話に退屈したのか、りしゃこが割って入った 

「うん・・・」 

「そんなの、わかり切ってるじゃん?」 
「隙が大き過ぎるんだよね、隙が!」 

「!」 

言いにくそうにしていたミヤビに代わって、アイリーナとアイリーネの二人が答えた 

「おい、二人とも・・・大丈夫なのか?」 
「ん?もうへーきだよ、パパ!へーきへーき!」 
「あんなへなちょこ魔法なんて、すぐ治っちゃうもんねー!」 

『魔導大会』でりしゃこ達と“死闘”を終えたばかりだと言うのに、元気な姿をアピールしてみせた 


が・・・ 

「怪我人はおとなしく寝てるもん!」 
と、りしゃこに身体を突かれた途端、 

「「!・・・」」 

双子の憎まれ口も閉じてしまった 


「だから言わんこっちゃない・・・ほら、おとなしくベッドで寝てなさい!」 
と、トールにたしなめられながら、双子は部屋から“退場”していった 


「でも、あの二人の言う通りなんですよね」 
自嘲気味にミヤビがポツリと言った 

しかし、トールはミヤビの言葉を否定する 
「だからといって、そう悲観することはないよ」 



「えっ?・・・だって・・・」 

「いいかい?キミのパパが何故、ボクに勝ったのか、今から話すとしようか・・・」 

遠い目をしながら、トールがゆっくりと語り始めた 


「・・・あれはホント、してやられたよ。“若さゆえの過ち”って言うんだろうなきっと。 

それまで、予選、本戦を相手を真っ向勝負でネジ伏せてきたボクは、決勝戦でもキミのパパ・・・ 
『ヒイロ』を勢いに乗じて“秒殺”しようと思ってたんだ 

だけど、キミのパパはボクの考えを見透かすように、距離を取って戦ったんだよ・・・とても巧妙に、ね。 
当時、『魔力』があり余っていたボクは自分の“力”を見せつけたくて仕方がなかった・・・ 
だから、彼の攻撃に怯むことなく、一直線に、とにかく攻めに攻めまくった 

キミのパパは防戦一方だよ。それはボクとは違って、予選、本戦ともに僅差で勝った試合ばっかりだったからさ。 

・・・でも、それが『罠』だった 

肩で息をする彼を追い詰めたボクは最後の大技・『ウォーター・ハザード』で一気にケリをつけようとした・・・ 
でも、その瞬間、突然彼が“牙”を剥いた!その極限まで研ぎ澄ました“牙”を・・・!」 



「ボクが最後の大技の動作に入った瞬間、彼も攻勢に打って出たんだ。 
今まで防戦一方だったから、始めはやけくその玉砕戦法だと思っていた・・・でも、違った。 

彼はまず、ボクに追尾式の火炎弾を放ったんだ。 
それも、立て続けに、2発、3発と・・・ 
ボクの最後の大技には相当の“溜め”が必要だった。 
だから、それまでに、ボクは彼を十分に弱らせたつもりだったけど、それは“ブラフ”だった。 
執拗に迫ってくる火炎弾にリズムを崩され、結局、ボクは彼にとどめを刺すチャンスを失ってしまった。 

そんなボクとは全く正反対に、彼にはチャンスが訪れた・・・隙だらけのボクを仕留めるチャンスを。 

彼は火炎弾から逃れようとしているボクの前に立ちはだかって、さらに巨大な炎の剣で斬りつけてきた。 

恐らく決勝戦のために隠してきた“切り札”だったんだろう・・・ 
見たことのない技に不意を突かれたボクは、そのまま連続して彼の技を受けてしまった。 
そして、怯んだところを炎の鎖で動きを封じられて、最後は『スカーレット』でとどめを刺されてしまったよ。 
結局、ボクは、彼の思う通りに操られてしまったワケさ・・・」 



「あ、そっか!」 

ひとしきりトールの話を聞き終えたミヤビが急に叫んだ 

「隙がデカいなら、『逃げられない』ようにしてから当てればいいんだ!」 

「その通り!」 
答えがわかったミヤビにトールはニコッと笑った 


「相手の動きを封じ込めたら、いくら隙がデカくても当てることは出来る、ってことね!」 
「そう!・・・あとはキミのパパがボクにやったような手順で相手を追い込めばいいだけだよ」 

ミヤビの導き出した“答え”にトールも満足気だ 

「よかったね、ミヤ!」 
「うん!」 
悩み事が解決して、りしゃことミヤビの表情も、つい、綻んでしまう 



「ありがとうございました!」 
「いや、また、遊びにおいで!いつでも歓迎するよ!」 

トールに見送られながら、二人は邸宅を後にした 

「よし!悩み事も解決したことだし・・・りしゃこ、遊びに行こっか!」 
「うん!」 

悩み事も無事解決して、すっかり浮かれている二人の背後から突然、 
「・・・そうはいかなくてよ!」 
と、呼び止める声がした 

「メ、メーグル・・・!?」 



「お楽しみのところ申し訳ないけど・・・ミヤビ、今日はワタシに付き合って欲しいの・・・」 

いつになく、真剣な顔つきでメーグルが言った 


すると、 
「やだ〜っ!ダメ〜ッ!」 
突然、りしゃこが癇癪を起こした 


「ち、ちょっと!りしゃこ、落ち着いて!」 
いつものりしゃこらしくない様子にミヤビが慌ててなだめた 
「ま、待って!りしゃこ、そんなに怒んなくても・・・」 
予想外のりしゃこの抵抗にメーグルも狼狽える 

が・・・ 
「・・・ミヤとメグは二人っきりでイチャイチャするんだもん!?」 


りしゃこの言葉に、刻が止まった・・・ 

「あ、あのねえ・・・」 
脱力し切ったメーグルがため息をついて口を開いた 

「・・・いいこと?ワタシはミヤビとイチャイチャするつもりはないわよ! 
明後日の準決勝の打ち合わせに“付き合って”っていう意味だったのよ!」 


拍B*‘ o‘リ アバッ 

てっきり、“二人っきりの密会”だと思っていたりしゃこは、思わず驚きの声をあげてしまった 

「ホント、そそっかしいんだから・・・」 
「ゴメンね、メグ・・・」 
ミヤビにたしなめられて、申し訳なさそうに謝るりしゃこだった 



「ゴメンね、りしゃこ。とても大事なことだから、ミヤビを借りるけど、いい?」 
「・・・うん!」 

「じゃあ、ミヤビ、ちょっと場所を移すよ」 
「・・・ええ」 


メーグルに連れていかれる格好でミヤビはりしゃこと別行動することになったが、 
別れ際、ミヤビは、りしゃこがふと寂しそうな表情をしたのが気になった 



「・・・行っちゃった」 
独りぼっちになったりしゃこがポツリと呟く 
そして、行くあてもなく、街の大通りをトボトボと歩き出した 

行き交う人々が、家族や恋人同士でとても楽しそうにしているのを見てると、 
りしゃこは不意に切なさを感じた 


ハロモニアに来てからの忙しい日々の中で忘れていたが、『親捜しの旅』ということを思い出したのだ 


『魔導大会』が終われば、りしゃこ達の旅も終わる 
そうなったら、きっと、目的を果たしたみんなは、自分達の『家族』の元へ帰ることだろう 

でも、『家族』のいない自分には、帰る場所はあるのだろうか・・・ 

そう思うと、りしゃこは胸苦しさを覚えて、思わず泣き出しそうになった 



すると、突然、 
「あ、おねえちゃんだー!」 

人通りの多い中で、子供達の叫び声がした 

「あー!ホントだー!」 
「ホントだー!おねえちゃんだ!」 

きっと、仲の良い姉妹が久しぶりの再会を喜んでいるのだろう 
でも、自分には関係ない・・・と思い、りしゃこは気にも留めなかった 


・・・が、 
「おねえちゃ〜ん!」 

ドスッ!! 

直後、りしゃこの背中に鈍い痛みが走った 
バランスを崩し、思わず、前につんのめってしまう 

「痛〜い!」 

すると、そこへ、今度は急に背中が重くなっていくのを感じた 

「ぐえ・・・」 

のしかかる重力の前に、りしゃこはまるで潰れたカエルのような呻き声をあげ、その場から動けなくなってしまった 

何が起きたのか、さっぱり理解できてないりしゃこの耳に、今度は、 

「こら〜!」 
と、迫力のない怒鳴り声が聞こえてきた 

「何やってんのよ、あんた達!ダメじゃない、人様に迷惑かけちゃ!」 

(『何やってんのよ!?』はこっちのセリフだもん・・・) 
やさぐれてしまい、つい、心の中で悪態をついてしまったりしゃこ 

だが、怒鳴り声をあげた人物は意外なことを口走った 



「あ〜っ!りしゃこじゃ〜ん?おっぱよー♪」 

「・・・あいさつはいいから・・・弟妹を早くどけるもん・・・」 

「あっ!ゴッメ〜ン!・・・こら、あんた達!早くりしゃこからどきなさい!」 
「「ハ〜イ」」 


りしゃこが耳にした“声の主”はコハだった 
『魔導大会』の一回戦で戦って以来の再会になる 

「ふぅ・・・」 
“重力”から解放されて、すっかり疲れ切った声を洩らすりしゃこに、 

「準決勝進出、おめでとー!」 
と、言うや否や、弟妹達の代わりにコハが突然、抱きついた 

「ぐ、ぐるじいもん・・・」 
コハ達の波状攻撃に、先程まで元気だったりしゃこがぐったりとしてしまった 


「だ、大丈夫!?」 
「大丈夫じゃないもん・・・」 
「ゴメンね!つい、嬉しくって・・・」 
ぐったりとしたりしゃこを介抱しながら、コハが答えた 

「・・・ところで、コハはどこ行くつもりだもん?」弟妹達を大人数引き連れたコハに疑問を持ったりしゃこが尋ねた 

「うーんとね、みんなでお見舞いに行くんだよ!」 
「お見舞い!?」 

コハの言葉がりしゃこの好奇心に火を点けた