りしゃこがハロモニア城にて子供達と仲良く遊んでる頃・・・ 



―ミキ帝のアジト― 

キィィィン!! 
チュィィィン!! 
ガキィィィン!! 
・・・ 

地下の一室から金属と金属とが激しくぶつかり合う音が絶え間なく聞こえてくる 

もちろん、発生源はミキ帝とアヤヤだ 

「フーッ・・・ねぇ、もうこの辺で終わりにしよっか・・・?」 
「ハァハァ・・・そだね・・・明日もあるし」 

そう言うと、二人はその場にゴロンと寝そべった 
ひんやりとした石畳が火照った身体には心地良く、二人はしばらく石畳に身体を委ねていた 
やがて呼吸が整い出して落ち着くと、感慨深そうにミキ帝が呟いた 
「いよいよ明日かぁ・・・」 

「そうだね。あの二人との試合するのはホント久しぶりだよね・・・」 
アヤヤも少し遠い目をして答えた 

「ところでさ、アヤちゃん?」 
「なぁに?」 
「ウチらがあの二人と最後に試合したの、いつだっけ?」 
「うーん・・・いつだっだっけ?」 
「・・・ってコトは・・・思い出せないくらい昔かぁ」 
「うん。でもさ、まさか敵味方に分かれて戦うなんて、思ってもみなかったよね?」 
「そうだね・・・ずっと“仲間”でいられると思ってたのにね・・・」 



『ずっと“仲間”でいられると思ってたのにね・・・』 


そうポツリと呟いたミキ帝の表情がどことなく寂し気に見えた 

そして、どちらともなく少しため息をついた二人はそのまま言葉を交わすことなく、 
ただ、しばらく虚空をボーッと眺めていた 

漂う静寂・・・そして、 

「ゴメンねアヤちゃん・・・アタシの勝手な“復讐”に巻き込んじゃって・・・」 
ミキ帝が今まで仕舞い込んでいた胸の内を打ち明けた 

その時のアヤヤに話しかけているミキ帝の表情が、いつもの勝ち気な“暴君”のそれでなく、 
素の、一人の少女の顔つきに変わっていた 

「もお、何言ってんのよ!ミキたんらしくないっ!」 
アヤヤはミキ帝の頭に手をやると、いきなり髪をクシャクシャとやった 

「ちょ、もう!何すんのよ!」 
ミキ帝がその言葉を言い終えた途端、アヤヤは寝そべっているミキ帝に覆い被さった 
「きゃっ!?」 

そして、そのままミキ帝の耳元で囁いた 
「・・・もっと、甘えてもいいんだぞ・・・」 

ふとしたアヤヤの優しい一言に、ミキ帝は言葉が出て来なかった 
いや、胸が一杯になって言葉が出せなかったのだ 

代わりに一筋の涙がミキ帝の顔を伝っていた 



「もう〜!いつものミキたんらしくないぞ!」 


とは言いながらも、アヤヤはミキ帝の顔を伝う涙を、そっと優しく指先で拭った 

「アタシ・・・アヤちゃんに甘えてばかりだね・・・」 
つい、感極まったのか、ミキ帝の目は涙で潤み、鼻は赤くなっていた 

「ホント、甘えん坊なんだから・・・」 
普段は見せない、本当のミキ帝の姿にアヤヤは愛しさの感情を隠すことが出来なくなり、 
その整った顔立ちの頬にキスをした 


「ちょっと、ヤダ!アヤちゃん恥ずかしいってば!」 
怒りながらも照れて紅潮しているミキ帝がますます可愛くて、アヤヤはつい、二度、三度とキスを繰り返す 

「もお〜・・・」 
鼻にかかった甘ったるい声でミキ帝が怒ってみせる 


そんな甘い雰囲気の中、 

「お二人さーん!差し入れですよー!」 
と“邪魔”が入ってしまった 


「あれー?お二人さん風邪でもひいたんですかー?」 
「え!?大丈夫、大丈夫!」 
「えーっ!?だってお二人とも顔が真っ赤ですよおー」 

「だ、大丈夫だって!ね、ミキ帝!」 
「う、うん!アヤちゃん!」 



「ところでさ、何か変わったこととかない?」 


話題を逸らすためか、ミキ帝がコンに尋ねた 

「特にないですねぇー。ヤグーさんも何にも話してくれないし・・・」 


「そっか。ま、いいや!じゃあコンちゃんは・・・引き続き『禁断の書』の解読を進めてちょうだい」 
「わかりましたぁ〜!」 
「あ、それから!・・・あんまり根を詰めちゃダメだよ!」 

「・・・」 

「ん?どしたの?」 
「今日のミキさん、なんかヘンです・・・」 

「どこが?」 
「だって・・・気持ち悪いくらい優しいです」 
「ちょ!何よ!アタシだって優しい時くらいあるわよ!失礼ね!」 

「きゃあ〜!怖ぁ〜い♪」 
「・・・ったく、もう・・・」 


「やっぱ、怒ってた方がミキたんらしいや!」 
「もう!アヤちゃんまで!」 

コンに続いてアヤヤにまでからかわれて、ミキ帝はすっかりすねてしまう 






りしゃこ達、ヨッシーノ達、ミキ帝達・・・ 
それぞれに思惑を抱えながら、翌朝を迎えた 


チュンチュン・・・チュンチュン・・・ 

「ふあぁぁぁ〜っ・・・」 

小鳥達のさえずりを目覚まし代わりにヨッシーノは目を覚ました 

しかし、元来寝起きがよくないらしく、頭が働くまで、ボーッと窓の外の景色を眺めていた 
清々しく晴れ渡った蒼天が目に眩しい 

「そっか・・・今日、なんだよな・・・」 

誰もいない部屋でポツリと呟く 

ヨッシーノにとって、今日はかつての“仲間”、ミキ帝達との“決戦”の日である 
出来れば、永遠に迎えたくなかった日・・・ 

“チームの絆”を大切にするヨッシーノには、かつての“仲間”と戦うのはとても気の進むものではなかった 

だが、それでも、道を違えた“仲間”を正すためにも戦うしかない 
しかし、そう決心したつもりがいざとなると決心が鈍ってしまう 
だから昨夜、ヨッシーノはなかなか寝付けなかった 

(やるしかないか・・・) 
弱気になりそうな自分に喝を入れるべく、両手で頬をパァン!と引っ叩いた 



気合いの儀式を終えた直後、不意に部屋の扉が開いた 

もちろん、入ってきたのはリカサークだ 

「おはよ、ヨッちゃん!気分はどう?」 

憂鬱な朝だというのにリカサークはいつものリカサークだ 

「ん・・・ま、ボチボチかな?リカちゃんはどうなんだ?」 
「アタシ?・・・ま、ボチボチね♪」 
リカサークは悪戯っぽく笑ってみせるが、それが本当の笑顔でないことは長年の付き合いでわかっていた 

「あの二人とやるのは正直ヤだけど、そうも言ってられないよな・・・」 
「うん・・・だよね・・・」 

今日のことに話が及ぶと、言葉少なになってしまった二人 


が、その雰囲気が一変してしまう 

「ちょっと、ちょっと!大変だよ!」 
扉のノックもなしにズカズカと入ってくる者達が・・・ 

「ヨッちゃん、これ!」 
息を切らせて駆け込んできたのはサトタとア・ヤーカだった 
そして、サトタが手にしていたものは一通の手紙 

何故、そんなに慌てているのかわからないヨッシーノが訝し気に手紙を受け取り、差出人を調べてみる 

「・・・これは!?」 

「うん・・・アタシもびっくりしたわ!だって、玄関の扉に刺さってるんだもの!」 



ヨッシーノが手紙の差出人を調べだした 


・・・が、 

「・・・ハァ!?」 
思わず素っ頓狂な声をあげてしまう 

「どうしたのヨッちゃん?」 
リカサークがヨッシーノが手にした手紙を覗き込んでみると、差出人の名前はなく、 
代わりに得体の知れない絵が描いてあった 
どことなく動物のようにも見えるが、それが一体何なのかは、さっぱりわからなかった 

怪訝な表情を浮かべるヨッシーノ 
仕方なく、開封して差出人を探ろうとした 


・・・が、 

「・・・何じゃこりゃ!?」 
ヨッシーノの表情がさらに険しくなる 

「今度はどうしたのよ!?」 
開封前と全く同じリアクションをとったヨッシーノにリカサークが問いただす 

「見てくれよ・・・これ・・・」 

そういってヨッシーノが封筒から取り出したのは、動物の体毛とおぼしきものだ 
これにはリカサークも目が点になってしまった 
ア・ヤーカも首を傾げるばかり 


そんな中、サトタがとんでもないことを口走った 

「さすがリーダー♪動物からもファンレターがくるなんて!」 

その一言で、一同がズッコケたのは言うまでもない・・・ 



結局、ヨッシーノ達は手紙の差出人を特定できなかった 


変な図柄と動物らしき体毛が意味するものは? 
そして、一体誰が、何の目的で送り付けたのか・・・? 
そんな胸の内のモヤモヤが晴れないまま、ヨッシーノ達は試合を迎える 



「ヨッシーノさん、リカサークさん、出番です!」 

大会スタッフに促され、闘技場へと歩を進めていくが、その足取りは鈍かった 

「・・・ヨッちゃん、まだあの手紙のこと、気になってるの?」 
「・・・ああ、どうも胸騒ぎがして仕方ないや」 
「そうね・・・でも、今は集中しなきゃ!」 
「ああ!」 

リカサークからの忠告を受けて、ヨッシーノは両手で自分の頬をパァンと張った 
(あんまり考え過ぎても仕方ない!・・・絶対、アイツらの尻尾を掴んでやるYo!) 

決意も新たに、入場門を潜り抜けた 



ヨッシーノ達が入場門を潜り抜けると、大観衆による大歓声が待ち受けていた 


やはり、歴代の『暁の乙女』の隊長とエースということもあり、好意的な声援が自然と集まる 

ヨッシーノ達も謎の手紙の一件で気分は晴れないが、観衆の声援に手を振って応えてみせた 


二人が入場し終えた後、大観衆は対戦相手のミキ帝達の入場に注目が集まる 

しばらくして、大観衆が固唾を呑んで見守る中、ミキ帝達が姿を現した 

と、同時に会場の一部から凄まじい声援が巻き起こった! 

「「ミキ様ミキ様お仕置きキボンヌ!」」 

声の主はややむさ苦しい男連中だ 
・・・どうやら、ミキ帝の試合後の『お仕置きタイム』がお目当てらしい 


「ちょっとぉ〜!ミキたんが試合後にあんなことするから変なのが喜んでるじゃない!?」 
「・・・う、うん(笑)ゴメン、アヤちゃん・・・」 

いつもはすました表情のミキ帝も、男連中の声援にはさすがに苦笑せざるを得なかった 



会場内がヨッシーノ達への黄色い声援と、ミキ帝達へのどす黒い声援が入り混じる中、試合の準備が着々と進められていった 


「・・・いい?ちゃんとルールに則って試合をするのよ!? 
間違っても感情的になって“暴走”することのないように! 
わかった?」 

歴代の隊長とエースがぶつかり合えば、壮絶な戦いとなるのはほぼ確実であろう・・・ 
それを予見した審判・ヤススが再三に渡って両チームに注意を促し、釘を刺した 

「大丈夫だってケメちゃん!」 
「もう〜心配性なんだから〜♪」 

ヨッシーノ達はヤススに余計な心配をかけまいと、わざとからかって明るく振る舞ってみせた 

一方、からかわれたヤススは、 
「こら〜!『ケメ子』言うな〜!」 
と、審判に対して敬意を払わないヨッシーノ達を怒鳴り散らして追い掛け回す 

その三人の絶妙な掛け合いの様子を見た大観衆からはどっと笑いが起きる 


が、しかし、ヤススもまた、心配させまいと振る舞うヨッシーノ達の心中を察し、わざと怒った“フリ”をしてたのだ 



一方、試合開始の少し前 


「ねえ〜ミヤ〜!早くぅ〜!」 
「ち、ちょっとぉ〜?どうしたのよ〜?」 
昼食を採ってくつろいでいるミヤビの手をりしゃこが引っ張る 

「早く行かなきゃ!」 
「行かなきゃ・・・って、まさか・・・ヨッシーノさん達の試合!?」 
「うん!」 
「え〜っ?ダメじゃん!ヨッシーノさんが『来ちゃダメ!』って言ってたでしょ!?」 
「うん・・・でも・・・」 
「いい、りしゃこ?ヨッシーノさんはね、今日の試合はとても見せられる試合じゃないかも・・・って言ってたのよ 
だから、大人しくしてなきゃ!」 

ヨッシーノ達の応援に行きたがるりしゃこを、ヨッシーノの言い付け通りなだめるミヤビだった 

が、りしゃこは首を縦に振らない 

「見ていたいんだもん・・・」 
「どうして?怖くないの?すごくひどい試合になるかも知れないんだよ!?」 

「・・・わかんない。でも、見てなきゃきっとダメだと思うもん・・・」 

本当はミヤビも同じ気持ちだった 
ヨッシーノに止められていても、どんなに凄惨な結末が待っていたとしても、二人の“生き様”を見届けたいのだ 

ミヤビは少しため息をつき、呆れ顔をしてりしゃこに言った 
「わかった・・・行こう!」 



再び、舞台は闘技場へ― 


「じゃあ、そろそろ試合だから、両チームとも、所定の位置に着いて!」 

試合前のルールチェックを済ませたヤススが両チームを所定の位置まで引き離そうとする 

が、その離れ際、不意にミキ帝がヨッシーノに声をかけた 
「あの手紙、読んだよね?」 

「!?」 
ミキ帝の一言に、ヨッシーノの思考が停止した 
と、同時にピタリと固まってしまった 

そのヨッシーノの意外な様子にミキ帝は怒り出す 
「ちょっとぉ〜ヨッちゃん!?あれ、アタシからだってすぐわかるじゃん!?信じらんない!」 
「まぁまぁまぁ・・・ミキたん、落ち着きなよ!」 
すっかりご立腹のミキ帝をアヤヤがなんとかなだめて試合の準備に急がせた 


踵を返して立ち去っていくミキ帝達の背中をヨッシーノは呆然と見つめていた 
そのヨッシーノの肩をリカサークがポンポン!と叩く 
「ヨッちゃん!ボーッしてないで!ほら、アタシ達も準備するわよ!」 
そして、固まっているヨッシーノの手を引っ張って連れていく 


(ちょっと待てYo?・・・あの手紙、ミキ帝が送り主なんだろ!? 
じゃあ、あの中身はなんなんだ!?) 

胸の中のモヤモヤがスッキリしないまま、試合を迎えた 



ヨッシーノの胸のモヤモヤが晴れないまま、試合が始まる 


「それでは・・・試合始めっ!」 

「うおおお〜っ!」 
「いくぜぇぇぇーっ!」 

ヤススの号令が発せられた瞬間、二つの“影”が勢いよく飛び出した! 

二人のスピードの乗った飛び蹴りが闘技場中央で交錯した! 

ガシィィィン!! 

勢いよく激突した二つの“弾丸”は反発しあう磁石のように後方へ弾け飛んだ 


「細かいことは抜きだ!ミキ帝、かかってこい!」 
「言われなくても、そのつもりだよ!」 
血気盛んな二人が挑発しあい、再び、飛びかからんとする 
が、それを互いのパートナーが止めた 


「落ち着いてヨッちゃん。まだ、始まったばかりじゃない?それに・・・」 
「それに?」 

ヨッシーノがリカサークと会話していると、闘技場が姿を変え始めた 

「ああ、まだ戦いの場が決まってなかったっけ?」 
「そうよ。全く、慌てん坊さんなんだから!」 
「こんな時だけ嫁さん面するなYo!」 
「いいじゃん?どうせヨッちゃんの嫁さんがつとまるのは、アタシぐらいだから!」 
「・・・言ってろYo!」 


ヨッシーノとリカサークが言い合ってるうちに、闘技場が変化を終えた・・・