すっかり姿を変えた闘技場・・・ 


四人の目の前に、月明かりに照らされた寂れた教会が出現した 

その教会を目の当たりにして、ヨッシーノ、ミキ帝が独りごちる 

「・・・教会か。中に入れば人目につかないな。決着をつけるにはちょうどいいな」 
「教会、ねえ・・・アタシに“贖罪”でもさせるつもりなのかねえ・・・」 

そして、四人は誰からともなく、吸い込まれるように教会の中へと消えていった・・・ 


そして、教会の中― 

薄暗い室内を、窓から入ってくる月明かりと蝋燭が照らしている 

「どうやら、役者は揃ったようだな!」 
「そうね・・・じゃあ、盛大にパーティーでも始めようか!」 

ヨッシーノとミキ帝の掛け声を合図に、再び両チームが動き出した 

「ここでくたばってもらうよ!」 
ミキ帝がヨッシーノに飛びかかると同時に、トンファー・ブレードによる連打を繰り出した 

ヒュン!ヒュン!ブゥン! 


ヨッシーノの顔のすぐ側をトンファー・ブレードがかすめる 

「ヒュウ〜♪やるじゃん!流石は元・親衛隊長!」 
「ハン!誉めたって何も出ないよ!それよか、全力でこないと秒殺しちゃうよ!」 
「・・・わかったよ。お望みとあらば、いかせてもらうよ!」 



「オレもそう易々とやられるワケにはいかないんでね! 
ちょっくら本気を出させてもらうYo!」 

殺る気マンマンのミキ帝の連撃を紙一重で躱し、一瞬の隙をついて距離を取ることに成功した 

「待てぇ!」 
後を追おうとするミキ帝 

が、その直後、 

ヒュォォン!! パシィィィン!! 

ミキ帝の足元で風切り音と衝撃音がした 


「悪いけど、ヨッちゃんには近寄らせないわ!」 
音の正体は、リカサークの鞭による一撃だった 


「・・・チッ!この出しゃばり女!」 
「何とでも言って頂戴!アタシは勝つためだったら何だってするわ! 
・・・それが例え、かつての“仲間”でもね!」 
リカサークの顔つきからは笑顔が消え、思い詰めた表情になっていた 

いつもは見せないリカサークの裏の顔に、ミキ帝の顔つきも真剣そのものになっていた 

そんな逸る気持ちを抑えられないミキ帝をアヤヤが諫める 
「ミキたん、ちょっと先走りすぎだよ?」 
「アハハ・・・ゴメン。ついムキになっちゃったか・・・」 
「もう!しっかりしなよ!」 



「ふーん、ずいぶんと余裕なのね・・・でも、これでも余裕でいられるかしら?」 
「!?」 

リカサークの声に気付き、ミキ帝とアヤヤが視線を移すと、その先にはヨッシーノが呼吸を整え始めていた 
「ふぅぅぅー!・・・はぁぁぁー!」 


「・・・ねえ、ミキたん?何よアレ?」 
「わっかんない・・・アタシも初めて見る・・・キモッ!」 

最初のうちはヨッシーノの様子を不気味がる二人だったが、そのうち考えが変わった 

「でもさ、これってメチャクチャ隙だらけじゃん?」 
「んじゃ・・・殺っとく?」 
「賛成♪」 

アイ・コンタクトを交わした二人は無防備なヨッシーノに向けて、一直線に駆け出した! 

「ホラ、ボサッとしてるんじゃないよ!」 
「ずいぶん余裕だな・・・ナメてんのかー!?あーっ!?」 

あっという間に間合いを詰めた“狂犬”と“狂猿”がヨッシーノに飛びかかった! 

・・・が、飛びかかった瞬間、二人はある種の“違和感”を感じたのだった 

絶対的不利な状態にも拘らず、微動だにしないヨッシーノと、全く手出しをしなかったリカサークに・・・ 
数秒後、その“違和感”の正体がわかった時には、二人は地面を這いつくばっていた 



ビターン!! 


「はべらっ!?」 
「ぶべらっ!?」 

ヨッシーノに向かって一足飛びに跳躍した二人だったが、 
目に見えない、“不自然な引力”によって地面に身体が吸い寄せられ、その後、地面に身体を強かに打ち付けた 


「・・・痛っ〜!」 
「・・・ちょ、何なのよ!?」 

何が起きたかわからなかった二人は、状況判断をするべく素早く辺りを見回した 

「!?」 

月明かりと蝋燭の光だけの、薄暗い室内をよく目を凝らして見てみると、 
二人の足元には、いつの間にか二本の“線”が伸びていることに気付いた 
そして同時に、それが“不自然な引力”の正体とも気付いた 


「ねえ、アヤちゃん・・・コレ・・・」 
「・・・あのクソアマ!一丁前に、このアタシに“罠”を仕掛けやがって!」 

二人の足元に絡み付いていたのは、植物の蔓・・・そう、リカサークが仕込んでいたものだった! 

「あら、気に入ってくれたかしら?アタシからのプ・レ・ゼ・ン・ト♪」 
“罠”にかかった二人の神経を逆撫でするように、リカサークはおどけてみせた 

・・・が、 
「・・・キモッ!」 
「・・・オエッ!」 

二人の心ない言葉に、心の傷を負ってしまった・・・ 



「うう・・・ひどい・・・ひどいわっ!」 

二人の心ない言葉に傷ついたリカサークはその場に崩れ落ち、呻いてしまう・・・ 

彼女の実力は一流なのだが、そのナイーブな性格が災いして、時折“詰めの甘さ”が顔を出すことが少なくない 
そして今回は、せっかくの追撃チャンスをみすみす逃してしまう・・・という“失態”をしてしまった 


「あら?リカちゃん落ち込んでる・・・ミキたんが『キモッ!』って言ったからだよ!」 
「ちょっとぉ〜!アヤちゃんアタシのせいにしないでよ〜! 
でも、あんなことでいちいち傷ついてるなんてバッカじゃない!?」 

ミキ帝のさらに心ない言葉が、リカサークの胸に激しく、容赦なく突き刺さる! 

「あれ?・・・あの娘とうとう泣いちゃったわよ・・・」 
「別にいいじゃん?勝手に泣けば・・・」 
「うわーっ!ミキ帝エグーイ!ホント、“鬼”だね!」 
「何よアヤちゃん!?アタシだけ悪者にしないでよ?」 
リカサークを泣かせた罪の擦り付け合いをする二人だったが、 
その表情はすっかりにやけており、罪悪感の欠片はこれっぽっちもない様子だ 


「ま、遊びはこれまでにして・・・」 
「ウチらも本気を出しましょうか♪」 



精神的に弱っているリカサークをどう料理しようかと品定めをしながら、ミキ帝達は少しずつ、且つ慎重に近づいていく・・・ 
さながら、狩りをする肉食獣のように・・・ 


一足飛びでも襲いかかれる間合いに差し掛かった途端、獰猛な肉食獣は牙を剥き出しにして、 
か弱き子羊・・・ならぬウサギちゃんに飛びかかった! 

「へっ!ざまぁないね!」 
「その首・・・もらったぁー!」 


跳躍した瞬間、二人は前回の二の轍を踏まぬよう周囲を確認してみた 

すると、標的のリカサークは二人の襲撃に気付き、ようやく我に返ったようだが、防御するには時間がなさすぎる 

(・・・いける!) 
ミキ帝は内心、ほくそ笑んだ 
実のところ、直線的なヨッシーノより、状況に応じて戦闘スタイルを変えてくるリカサークの方が厄介だったからだ 
その不安要素の芽を早めに摘む絶好の機会に胸が踊らない訳がない 

しかし、 

「・・・ウプッ!?」 
「・・・フガッ!?」 

飛びかかった二人の視界が急に真っ暗になり、バランスを崩し、尻餅をついてしまった! 

転倒によるダメージが消えぬ間に、次は二人の頭部に衝撃が走った! 



「バカヤローッ!」 

バチコーン!! 

「はべらっ!?」 
「ぶべらっ!?」 

ミキ帝達に突如、襲いかかった衝撃の正体・・・それは、ヨッシーノの只の平手打ちによる一撃だった 

が、その只の平手打ちが、ミキ帝達を数メートル後方に吹き飛ばしたのだ! 


「バカモン!ウチの嫁に手を出すとはいい度胸だな!」 
仁王立ちになってミキ帝達を見据えるヨッシーノ 

「・・・ヨッちゃん!?」 
ピンチを救ってもらった安堵感からリカサークがヨッシーノの元へ駆け寄る 
それに気付いたヨッシーノも、腕を大きく開いてリカサークが飛び込んでくるのを待ち構えている 

「ヨッちゃ〜ん!・・・アタシ、怖かったぁ〜!」 
腕を開いたヨッシーノの胸に飛び込むリカサーク 
待っていたのは、ガッチリと逞しいヨッシーノの腕による熱い抱擁・・・ 

ではなく、 
「バカヤロー!」 

バチコーン!! 

「まいぷりんっ!?」 

・・・ヨッシーノによる熱い平手打ちだった! 



「・・・痛っ〜!・・・ったく何なのよ!?」 

横っ面を張られて吹っ飛んだミキ帝が辺りを見回す 

すると、ミキ帝の隣には、顔に布が被さったアヤヤが転がっていて、 
ミキ帝の目の前には、リカサークに罵声を浴びせる何者かがいた・・・ 


「こ・の・バ・カ・ヤ・ロ・ウ!何チョーシぶっこいてるんだ!」 
「ゴメン、ヨッちゃん!乱暴はやめてっ!」 
「バカモンッ!ワシは『ヨッちゃん』じゃない!『イッテツ』じゃ!」 

リカサークの胸ぐらを掴んで揺さ振る人物・・・ 
実はそれこそがヨッシーノの別人格・『イッテツ』だったのだ! 


「・・・んもう!うるさいわねっ!」 
『イッテツ』とリカサークの一悶着の騒々しさにアヤヤが目を覚ました 

「あっ、アヤちゃん・・・大丈夫!?」 
「痛っ〜!・・・あまり大丈夫じゃない・・・」 
平手打ちを受けた横っ面を押さえながらアヤヤが返事をするが、ミキ帝同様、目の前の不可思議な光景に呆然とする 

「・・・ねえ、ミキたん?アレ・・・ヨッちゃんなの!?」 
「そう、みたい・・・ね」 
「・・・どうする?」 
「・・・どうもこうもないっすよ・・・」 



試合中に突然、豹変したヨッシーノ 

そのハプニングにミキ帝達は、事の成り行きを見守るしかなかった・・・ 
が、しかし、世の中そんなに甘くない 


「嫌ぁ〜っ!」 
「あっ!コラ、待て!トメコ〜ッ!」 

一瞬の隙をついて、リカサークがヨッシーノ改め『イッテツ』さんの手を振りほどき、脱兎の如く逃げ出した! 
・・・だが、その逃げ先は・・・ 


「嫌ぁ〜っ!助けてぇ〜っ!」 

「あっ!バカッ!こっち来んなっ!」 
「えっ!?ちょっと、ヤダッ!」 

リカサークはよりによって敵であるミキ帝達の方へ逃げ込もうとしてるのだ! 

得体の知れない“謎の人物”に追いかけ回されるのはまっぴら、とミキ帝達はリカサークを追っ払おうとする・・・ 
しかし、悲しいかな、ミキ帝の得物はトンファー、アヤヤの得物は棍と、遠距離用ではないため易々とリカサークの接近を許してしまった・・・ 

互いに顔を見合せる二人・・・これといって良策がない二人に残された手段は・・・ 


「逃げるよミキたん!」 
「あっ!ちょっと待ってよ〜!」 
逃げ出すしかなかった・・・ 



みんなで逃げ回り始めて約5分・・・ 

逃げるリカサーク、ミキ帝、アヤヤはすっかり息が上がってしまっていた 
しかし、追いかける『イッテツ』さんはというと・・・ 

「トメコォ〜!もう逃がさんぞぉ〜!」 
全く息が上がっておらず、驚異のタフネスぶりを発揮していた 


それに対して、リカサークとミキ帝達との間で口論が始まった 
「・・・ね、ねえ、どうしよう!?」 
「どうもこうもねえよ!このバカ女!」 
「ううっ・・・ひ、ひどい・・・」 
「ひどいのはリカちゃん、あんたじゃないの!? 
あんな得物の知れない変態を連れて来て!」 

「“変態”じゃないわよ!・・・あれは、ヨッちゃんの“別人格”なの・・・」「・・・何だって!?」 

リカサークがこぼした“別人格”という言葉にミキ帝達が食い付いた 

「おいっ!リカちゃん、どういうこと!?」 
「・・・アタシにも詳しいことはわかんないけど 
・・・ヨッちゃん、厳格なお父様の影響であの“別人格”が生まれた、って言ってたわ・・・」 
「・・・要はアレはヨッちゃんであって、ヨッちゃんじゃないんだろ!?」 
「・・・うん」 




「ハァ、ハァ・・・ねえ、ちょっといい?」 

三人が『イッテツ』から逃げ回っていたずらに体力を消耗している中、アヤヤがリカサーク、ミキ帝の二人に呼びかけた 

「何?アヤちゃん?」 
「このままだと、アタシら自滅しそうな気がしなくない?」 

呼びかけられたリカサーク、ミキ帝ともに 
「・・・うん」 
と頷く 

二人の同意を見てとったアヤヤが突拍子もないことを口走った 
「だったらさ、ここは“一時休戦”にしない?」 
「「!!」」 

まさかのアヤヤの思わぬ“休戦協定”に二人は耳を疑った 
しかし、発言者のアヤヤに目をやると、とても冗談ではなく、本気の表情をしていた 

しかし、 
「アタシヤダよ!こんなキモい女と組むなんて!」 
「何よっ!?アタシだって嫌なんだからっ!」 
「まあまあ二人とも止しなよ!」 

互いに嫌い合うリカサークとミキ帝は反対する 

だが、いくら考えても他に良策が思いつく訳でもなく、待っていても『イッテツ』の“脅威”が消える訳でもない 
むしろ、体力同様、時間も浪費するだけだ 

「チッ!・・・わかったよ」 
「仕方ない、か・・・」 

リカサークとミキ帝、結局、妥協と打算で手を組むことになった 



妥協と打算で手を組んだ三人 

「アタシに考えがあるの」 
手を組んで早々、リカサークが提案をする 

「何?」 
「二人の武器はほぼ近距離用よね?」 
「ああ・・・それが?」 
「二人がヨッちゃんを迎撃するとしたら多少なりと攻撃を受けるリスクを背負うことになるわ」 
「そりゃ当然だろ!?」 
「・・・しかし、今のヨッちゃんは恐らく通常時の1,5〜2倍はパワーアップしてるわ」 
「・・・」 

「そこで・・・アタシがヨッちゃんの動きを封じ込めるから、二人がヨッちゃんの頭部に強い衝撃を与えて元に戻して!」 
「・・・!」 
「それ・・・イイ(・∀・)!!」 


『三人寄らば文珠の知恵』という古の諺や、『三本の矢』という故事がある 
今回は敵味方の三人が役割分担をすることで共通の目標・『ストップ・ザ・イッテツ』が成されようとしていた 

「作戦は決まった・・・じゃあ、リカちゃん、頼んだよ!」 
「OK!」