「ゴメンね・・・ヨッちゃん!」 ヒュンッ!! ヒュルルルル・・・パチンッ!! 「ぬわっ!?・・・コラ!何をするトメコォ〜!」 リカサークの放った鞭が見事に『イッテツ』を捕えた! 藻掻き足掻く『イッテツ』ではあったが、鞭の締め付けはきつく、ほどくことが出来ないでいる 「二人とも、今よっ!」 「わかってるよ!」 「さっきのお返しだ!食らえっ!」 標的に向けて、二人は大きく跳躍! ミキ帝はトンファーを振り回し、アヤヤは棍を頭上高く振り上げた! 「?」 跳躍した瞬間、二人は“既視感”に襲われた そういえば、さっきもこんなことがあったような・・・ 脳裏に嫌な予感がよぎる・・・ そして、その予感は・・・ 「バカヤローッ!」 バチコーンッ!! 「はべらっ!?」 「ぶべらっ!?」 まるでVTRで再現したかのように二人は吹っ飛んでしまった・・・ 「プッ!・・・プハーッ!・・・アッハハハハッ!」 甲高い笑い声が教会に響き渡る そして、ミキ帝の罵声が響き渡る 「てめえっ!ハメやがったなっ!?」 もちろん、甲高い笑い声の主はリカサーク 「まさか、こんなに簡単に引っ掛かっちゃうなんて!・・・ホント、バカね! でも、そんな単純なトコ、キライじゃないよ!」 「ハンッ!よくいけしゃあしゃあと・・・ それにね、あんたがスキでもこっちはキライだ!・・・それも大ッキライだ!」激昂するミキ帝 しかし、リカサークは涼しい顔だ 「ま、嫌われるのは慣れっこだし・・・ それよか、ミキちゃん、後ろ後ろ!」 「へっ!?」 リカサークの“忠告”にミキ帝が振り返る ヒュンッ!! パシィィィンッ!! 「ぎゃっ!?」 ミキ帝が後ろを振り返った瞬間、がら空きの背後をリカサークの鞭が襲いかかった! 「プッ!・・・ククッ・・・アッハハハハッ! また、引っ掛かっちゃってる!」 「てめえっ!・・・もう、許さねぇ! ・・・ウウウ・・・ウオオ・・・!」 突然、唸り声をあげ始めたミキ帝 それを見たアヤヤが血相を変えて駆け寄る 「ちょっとミキたん!?それはヤバいって!」 「いいのアヤちゃん・・・アイツをぶち殺さないと・・・アタシの気が済まないんだ!」 「ミキたん、落ち着いて!」 「ハァ・・・ハァ・・・着いた・・・!」 「ハァ・・・ハァ・・・もう、ダメ・・・」 「・・・間に合ったかな・・・?」 息を切らせて駆け込んできた二人―りしゃことミヤビが闘技場に目を向ける 「何、アレ?」 りしゃことミヤビには眼前に広がる光景に驚く 雲の隙間から零れる月明かりが照らす教会・・・ その幻想的な美しさに二人は息を呑んだ・・・ その内部では、死闘が繰り広げられているとは知らずに・・・ 「ねえ、ミヤー?ヨッシーさん達ってあの中で戦ってるのかなぁ?」 「そうみたい、ね」 「でも、これじゃあ何が起きてるかわかんないね」 「そだね・・・」 二人が言うのも至極当然である 雲の隙間から零れる月明かりだけでは教会の中がはっきりと見えず、 戦況を確認するには時折聞こえてくる物音だけが頼りだ りしゃことミヤビが何とか中の様子を伺おうと目を凝らしていると、突然、大きな唸り声が聞こえてきた とても人間の発するものとは思えない・・・ いや、むしろ、獣のそれに近いものがある・・・ そして不思議なことに、唸り声に呼応するかのように、先程まで月を覆っていた雲が晴れてゆき、満月が姿を現した ミキ帝の唸り声に呼応して晴れていく雲・・・ そして、姿を現わす満月・・・ その満月を見た途端、突然、ミキ帝は両手を地面に突き、四つん這いになり、苦しそうに呻き出す 「ちょっと!?ミキたん!ダメだって!」 何かを必死に制止しようとするアヤヤ だが、ミキ帝はそれを振りほどき、叫び声をあげた 「ウオォォォーンッ!!」 ・・・いや、叫び声というより、むしろ“遠吠え”と言った方が似つかわしいだろう その“遠吠え”を聞いたアヤヤは思わず天を仰いだ 「・・・バカ」 「ん?何だお前は・・・!?まるで犬みたいだな?」 今までのやりとりを静かに観察していた『イッテツ』がミキ帝に向かって言った その刹那! ドスッ!! 「ぐはっ!?」 目にも留まらぬ速攻だった・・・ 瞬時に『イッテツ』のすぐ側まで移動したミキ帝が、拳を『イッテツ』のドテッ腹にめり込ませていたのだ! 「ヨッちゃん!?」 心配したリカサークが『イッテツ』の元に駆け寄ろうとする ・・・が、それは叶わなかった ドスッ!! 「ごほっ!?」 『イッテツ』の時と同様にミキ帝の拳がリカサークのドテッ腹にめり込んだ “遠吠え”とともに豹変したミキ帝・・・ その疾風のようなスピードで『イッテツ』、リカサークに急接近、迅雷のような瞬撃で二人を地面にひれ伏させた 「ふざ・・・けるな・・・!・・・もう頭にきた!ワシを怒らせたな!」 『イッテツ』が怒りを露にするも、ミキ帝の姿には驚く 「な、何だお前・・・その格好!?」 『イッテツ』が目の当たりにしたのは獣人化したミキ帝・・・ 「ミキちゃん!?・・・あなた・・・『獣人』だったの!?」 「・・・だったら、何だってんだ?ああっ!?」 リカサークの発する言葉がいちいち癇に障るのか、ぶっきらぼうな物言いになるミキ帝 「・・・まるでアタシを憐れんでるみたいだな!・・・ますます気に食わねえ!」 ミキ帝が側で膝をついているリカサークに近付き、思い切り顔面を蹴飛ばす! ガツッ!! 「ぎゃっ!」 「いい声で鳴くねえ・・・ええ?リカちゃん!」 続けて、横たえた腹部を蹴り上げる! ドスッ!! 「ぐえっ!」 「ハハハッ!いいザマだねぇ!」 地面に這いつくばったリカサークを踏み躙り、優越感に浸るミキ帝 獣人化して、圧倒的戦闘力を引き出したミキ帝 「ほらほら・・・悔しかったら逃げ出してみなよ!」 痛みで動けないリカサークを踏み躙り、尚もいたぶり続ける 「待てよこの野郎!」 何とか呼吸を整えた『イッテツ』がミキ帝の前にに立ちはだかった が、ミキ帝は珍しく冷静な口調で話し掛けた 「・・・後ろ見なよ、オッサン」 「!?」 ガツッ!! 「ぐわっ!?」 ミキ帝に言われるがままに『イッテツ』が後ろを振り向くと、突然、頭上を鈍器で殴られたような衝撃に襲われた! 「ヨッちゃん!?」 「アタシのことを忘れてもらっちゃ困るわね!」 二人の注意がミキ帝にいってる隙に、アヤヤが『イッテツ』の背後に回り込んでいたのだ 強烈な一撃を浴びて昏倒した『イッテツ』を横目にミキ帝がリカサークに問いかけた 「そうだ!言い忘れてた・・・ あの手紙、何のことだか、わかった?」 「・・・わかんないわよ。あんな動物の毛なんかじゃ訳わかんない!」 「動物の毛?ハッ!あれが動物の毛だって? ・・・とんだ節穴だな!」 「節穴・・・ですって!?」 「ああ、そうだよ!節穴以外の何物でもないよ!」 “節穴の目”と言われ愕然とするリカサークに向かって、ミキ帝はキッパリと言い放った 「あれは、人の毛だ・・・あんた達に馴染み深い人物の!・・・あ、アタシもか?」 「!」 「ん?どうやら気付いたようだね・・・そう、ヤグーの毛だよ!」 「・・・そう、やっぱりあなた達がヤグっさんを拉致ってるのね」 努めて冷静に言うリカサーク 「でも、何故アタシ達にそんなこと教えるの!?」 ミキ帝の真意を図りかねたリカサークが駆け引きなしに尋ねた 「粛正だよ・・・“裏切り者”の、な!」 ミキ帝のその冷酷な言動にリカサークは一瞬にして背筋が凍る思いがした だが、真意をさらに探るため、それでもリカサークは質問を止めなかった 「・・・“裏切り者”、ですって!?」 「“計画”を放棄しようとしたんだよ!・・・ウチらのな!」 「“計画”?」 「・・・ったく、いちいちうるせえな!面倒くせえ!」 「何よ?ミキちゃんから話を振ったんじゃない?」 「・・・やかましいっ!」 ドスッ!! 「ぎゃっ!?」 リカサークの質問責めにうんざりしたのか、ミキ帝はリカサークを踏みつけ、憂さ晴らしをした 「いいわ・・・ここからはアタシが話してあげるわ」 ミキ帝を押し退け、アヤヤが前に出てきた 「アタシとミキ帝、そしてヤグーはね、“計画”をしてたのよ・・・ この世界を破壊する“計画”を、ね」 リカサークは何も言わず、ただ、黙って聞いていた アヤヤが続ける 「それが突然、ヤグーが“計画”を中止しよう、って言ってきたの 一番最初に“計画”を持ち掛けてきたのに それが気に食わないのよ」 「・・・だいたいわかったわ。何故ヤグっさんが“裏切り者”って言われてるかは・・・ でも、世界を破壊して、あなた達は何がしたいの!?」 「“復讐”・・・だろ!?」 「「!!」」 三人が声のする方を一斉に振り向く そこには額から血を流しながらも立っているヨッシーノの姿があった 「“復讐”って!?」 「ああ・・・女王への、な」 「どうして・・・それを・・・!」 動揺を隠せないミキ帝にヨッシーノがはっきりと答えた 「聞いたんだYo・・・女王から・・・」 「おいっ!?何を聞いたんだっ!?」 「恐らく・・・お前がこの世界を破壊しようと思った“理由”を・・・」 「ミキ帝・・・まだ、“あの時”のことを恨んでいるのか?」 「!?」 図星を突かれたのか、ミキ帝の表情が変わる 苦し紛れにミキ帝が、 「あの時”って・・・いつのことだよ!?」 と、言うも、ヨッシーノが答えた 「ミキ帝、お前が“時空の歪み”の調査から戻ってから女王に報告へ行った、その日だ!」 の言葉に沈黙してしまった 言葉を阻むものがなくなったことで、ヨッシーノが抑揚のない声でゆっくりと語り始める 「実は昨日、女王から話を聞いたんだ・・・ 『きっと、ミキ帝はアタシのことを恨んでる』と・・・ 確か・・・一年程前だっけ? オレ達『暁の乙女』のOGと、当時の隊長格が女王の命を受けて、“時空の歪み”を調査しに行ったのは・・・ あの時、オレとリカちゃんは何も発見出来なかった代わりに異常もなかった だけど、中には、身体に異常をきたした者、行方不明になった者・・・色々といた ・・・で、ミキ帝、お前は見つけた訳だ。いや、“出会った”って言った方がいいかな?」 「・・・」 「・・・黙れ」 「!?」 「・・・黙れってんだよっ!」 ヨッシーノの語りに沈黙していたハズのミキ帝が、突然、声を荒らげる しかし、 「いや、黙らない・・・」 と、ヨッシーノは毅然とした態度で言い切った 「ミキ帝・・・いや、ミキちゃん、女王を恨む気持ちはわかるYo ・・・せっかく出会えた“最愛の人”と別れろ!だなんて頭ごなしに言われたら、な」 「黙れってんだよっ!」 「ちょっと!?落ち着いてミキたん!?」 今にもヨッシーノに飛びかかりそうな勢いのミキ帝を、何とかアヤヤが押さえつけている そんないきり立つミキ帝を見ながら、神妙な顔つきでヨッシーノが言った 「ミキちゃん、辛いと思うけど、今から話すよ ・・・何故、あの時、女王が『別れろ!』って言ったのか・・・」 「聞きたくないっ!そんなのいまさら聞きたくないっ!」 まるで駄々っ子のように聞き分けがないミキ帝 「ほら!ミキたんしっかりしてっ! ヨッちゃん!あんたも何考えてんの!? ミキたんが嫌がってるのに!?」 「“真実”を受け入れるのは辛いと思うし、オレの言葉でミキちゃんを傷つけると思う・・・ でも、“真実”から目を逸らしちゃダメなんだ!」 「止めろーっ!」 アヤヤの制止を振り切り、悲痛な叫び声をあげてミキ帝がヨッシーノを殴りつけた! ガツッ!! ドサッ!! 「ハァ・・・ハァ・・・」 「・・・ミキたん」 ヨッシーノを殴ったくらいでは昂ぶる心が押さえ切れないミキ帝・・・ 何とか事態の収拾をつけようするアヤヤ・・・ ミキ帝に吹っ飛ばされながらもまだ、何かを伝えようとするヨッシーノ・・・ 三人の“想い”が交錯する中、リカサークはただ、じっと成り行きを見守っているしかなかった 嵐の後の静寂・・・ それも、すぐに終わりを告げた 「ミキちゃん!よく聞け! 女王は嫉妬で『別れろ!』って言ったんじゃない! ・・・あの時、お前の目の前に現れた“最愛の人”、いや、あの“男”は―」 「黙れーっ!」 ザシュッ!! 「ヨッちゃん!?」 ミキ帝の怒りの感情に任せた斬撃が、ヨッシーノの身体をものの見事に切り裂いた・・・ パアッ!と宙を舞い、飛び散る鮮血・・・ そして、教会内に響き渡るようにリカサークの絶叫がこだました 「嫌あぁぁぁ〜っ!」 目の前で繰り広げられた流血の惨劇・・・ あまりの凄惨さに絶叫したリカサークだけでなく、アヤヤまでもが声を失った・・・ 怒りに任せてヨッシーノを斬り捨てたミキ帝だったが、我に返った瞬間、 自分のしでかしたことに気付き、身体が震えた・・・ 我を忘れていたとはいえ、かつての“仲間”を殺そうしたのだ それが正気でいられる訳がない 全身から力がスーッと抜けていき、そのまま地面にしゃがみこんでしまった・・・ 茫然自失の三人・・・だが、一人だけ強い意思を示す者がいた 「・・・者だ・・・!」 「!?」 斬られて深手を負ったハズのヨッシーノがフラフラしながらも立っているではないか! 胸元を鮮血で真っ赤に染めながらも、うわごとのように何かを呟いている 「・・・者だ・・・!」 「ヨッちゃん!?何て言ってるの!?」 リカサークが励ますかのように叫んだ 「止めろ・・・止めろ・・・!」 正気に戻ったミキ帝もヨッシーノに向かって叫ぶ だが、ヨッシーノははっきりとした口調でこう答えた 「・・・あの“男”は、“魔物”だ・・・!」