翌日― 


「さ、行こか?」 
「うん!」 
闘技場の控え室に集まったりしゃこ達8人が、最後の打ち合わせに入っていた 

「ねえ、二人とも、緊張してない?」 
「うーん・・・どこまでやれるか、ちょっと心配だけど」 
「大丈夫だよ!昨日シミュレーションした通り、弱点もある程度わかったし・・・」 
「そだね!ウチらが身体を張って収集したデータがあるもんね!」 
「・・・負けちゃったんだけどね」 
「マイハ、そんなこと言っちゃダメだとゆいたい」 
「ま、ここまで来たら、あとは思いっきりやるだけだから!・・・頑張るんだぞ!」 
「うん♪」 


そして、同時刻― 

ミキ帝達のアジトでは、ミキ帝達が手ぐすねを引いて待っていた 

「さ、そろそろオババ様のお出ましだね!」 
「ウチらとあのババアでどれだけ実力差があるか・・・楽しみだね!」 
「誰にも気兼ねなくフルボッコに出来るチャンスってそうそうないもんね!」 
「さあ、一丁やってやりますかぁ〜!?」 


だが、同時刻・ミキ帝達のアジト周辺で待機していた殴り込みメンバーに、ある“非常事態”が発生していた 






「ねえ、まだなの!?」 
「・・・ハイ、まだ来てません」 
「どういうこと!?・・・まさか、女王様の身に何かが!?」 
「ちょっと止めてよ!縁起でもないこと言わないで頂戴!」 
「でもボス・・・予定時刻が迫って来てますし」 
「そうです!ミキ帝達のいない今がチャンスなんですよ!なのに・・・」 
「わかってる・・・だからこそ女王様を待つべきよ」 

そう・・・ユーコ達はミキ帝達のアジトに襲撃をかける予定だった 
ところが、肝心の指揮官・ユーコが待てど暮らせど姿を見せないのだ 
ユーコはしっかりとした性格のため、約束の時刻に遅れるどころか、その10分前には約束の場所に居ることが多い 
しかし、現実にはその姿が見えない 
何かトラブルが・・・?とメンバー達が勘ぐってしまうのも無理はない 

刻一刻と時は過ぎていく 
そして、約束の時刻が訪れた時、一つの人影が姿を現した 



集合場所に待機しているメンバーの前に現われた人影・・・ 

「女王・・・様?」 
「みんなご苦労さん!」 
「・・・アッちゃん!?」 

人影はユーコではなく、その“お庭番”のアツコだった 
「実はユーちゃんから伝言があってな・・・」 

同時刻、ミキ帝達のアジトでは・・・ 

「・・・来ないね」 
「・・・そうだね」 
「アイツら、何やってんだ!?せっかくミキ様がわざわざ待ってあげてるのに!」 
「まあまあミキたん落ち着いて!向こうだってウチらが相手だから慎重になってるだけじゃない?」 
「そう・・・だよね?ウチらが強過ぎるから躊躇ってるんだ!」 


ミキ帝達のアジトへの襲撃が真近に迫る中、りしゃことミヤビは闘技場の舞台に立っていた 
目の前に対峙しているのは、歴代『暁の乙女』の中でも“最強”と名高いアベナッチとゴトーの二人だ 
緊張してないと言えば嘘になるが、二人はみんなから預かった『護神石』を握り締め、祈りを込めた 



昨日の壮絶な戦いに胸を熱くした観衆が押し寄せ、闘技場は超満員となっていた 

「いい、りしゃこ?昨日シミュレーションした通りにやれば、きっとうまくいくから・・・自信もって!」 
「うん!・・・みんなもついてるし」 
そう言って、りしゃこはみんなから預かった“護神石”を愛しく見つめる 

「ホラ、二人とも!準備はいい?」 
審判のヤススに促され、所定の位置まで進んでゆく 
その際、ヤススがこっそり耳打ちをした 
(・・・頑張るんだぞ、二人とも!) 
そして、ニコッと微笑んでみせた 

こんな近くに自分達を後押ししてくれる“仲間”がいる・・・ 
緊張が高まっていた二人にとって、ヤススの一言が気持ちを落ち着けたのは言うまでもなかった 


そして・・・ 
ヤススから試合開始を告げる号令が下された 
「それでは、始めっ!」 

その号令と同時に闘技場が変貌を遂げ、やがて、一面は瓦礫の廃墟となった 

試合が始まったのだが、アベナッチ、ゴトーは微動だにしない 
そこへ先手必勝とばかりにりしゃこ達が動いた 
「行くよ、りしゃこ!」 
「うん!」 



先に動いたりしゃことミヤビは作戦通り、二手に分かれて行動を開始した 

それにはメーグルの助言があった 
(いいこと?二人には二手に分かれて戦って欲しいの・・・ 
りしゃこ、あなたはアベさんをお願いね 
まず始めは、アベさんを遠くから魔法で攻撃するの 
無理して上位魔法を使う必要はないわ 
ポイントは、あなたの魔法に反応してアベさんがすぐ反撃してくるかどうか・・・ 
それと、あなたのすべて真似してくるかどうかを確かめて欲しいの 
もし、それが二つとも確認出来たら、“秘策”があるわ 
・・・あと、ミヤビはゴトーさんをお願いね 
彼女は知っての通り、『暁の乙女』時代は凄腕の剣士として名を馳せていたわ 
裏を返せば、接近戦は得意でも、遠距離戦は苦手だと思うの 
だとすれば、ミヤビ、あなたにとって与し易い相手、ってコトね・・・ 
だけど、油断は禁物よ。こっちもなるべくサポートするけど、あとはあなた達次第なのは忘れないでね! 
・・・武運を祈るわ) 



メーグルの助言通り、二人は動いた 

(まずはこっちに気を引かないと!) 
ゴトー側に回り込んだミヤビが挨拶代わりの火球を打ち込む 
が、火球が目の前まで飛んできても、やはりゴトーは微動だにしない 

(気付いてないの!?) 
“威嚇射撃”とはいえ、魔法だから当たればそれ相応のダメージは受ける 
それを目前まで迫ってきても避ける動作すらしないゴトー・・・ 

しかし、その“謎”はほんの数秒後にまざまざと思い知らされることになった 

ヒュンッ!! ボッ!! 

「!!」 
ミヤビは声を失った 
いや、ミヤビだけでなく、その光景を目撃した殆んどが動揺に声を失った 

「魔法を・・・切った?」 
目の前まで迫ってきた火球を、ゴトーは一太刀で斬り捨てたのだ 
“物質”ならともかく、“魔法”を斬るなんて芸当は誰もがお目にかかったことがない 

しばらくの静寂の後、“神業”を目撃した観衆から歓声があがった 
「おい・・・マジかよ・・・」 
「やっぱ、流石は元・『暁の乙女』のエースだよな!」 

浮かれている観衆とは違って、ミヤビは愕然としていた 
(この人・・・とんでもない化け物じゃん・・・) 



ゴトーに向けて放った魔法をいとも簡単に斬り捨てられて、愕然とするミヤビ 

しかし、幸か不幸か、火球を放ったことで、ゴトーの視界にミヤビが入った 
一瞥をくれた後、一歩、また一歩とミヤビの方へと歩を進めてきた 

(ここまではメーグルの計画通りだけど・・・どうしよう・・・あんな化け物相手にどうやって攻めれば・・・?) 
闘技場内にいるであろうメーグルの姿を探すべく、外に目を向けたミヤビ 

その刹那、ゴトーが動いた! 

ヒュンッ!! 

ほんの僅かな隙をついて、ゴトーが早業の一撃をミヤビに食らわせた! 

「うっ!?」 
肩口に走る激痛に、思わず悶絶するミヤビ 
痛む箇所に手をやると、生ぬるい感触がした 
血だ・・・ 
見てみると、鋭利な刃物で切られたような綺麗な傷痕だった 

(まさか、あんな遠くから!?) 
ミヤビが驚くのも無理はない 
現時点での二人の間合いは20〜30mはあろうか、という距離だ 
見たところ、ゴトーの得物は手にした金属片ただひとつ 
物理的には攻撃を届かせるのは不可能だ 
だが、事実、ミヤビは傷を負った・・・ 

(やっぱり、化け物なの!?) 



慌てふためくミヤビを嘲笑うかのように、ゴトーは少しずつ距離を縮めていく 
そしてまた、手にした金属片を振るう 

ヒュンッ!! 

「痛っ!」 
鋭い痛みがミヤビの大腿に走る 
手をやると、先程と同じく鋭利な刃物で切られた傷痕が・・・ 

「こ、来ないでっ!」 
恐れのあまり、後退りを始めるミヤビ 
すると、ゆっくりとした歩調のゴトーが少しずつ歩を早めてきた 

「いやぁーっ!」 
堪らずミヤビは火球をゴトーに放つが、その抵抗も虚しくゴトーの一振りによって掻き消されてしまう 

(どうすれば・・・どうすればいいの!?) 


一方、アベナッチと対峙しているりしゃこは・・・ 

「えいっ!」 
「・・・ステキダナ」 

ボンッ!! 

「また相討ち、だもん・・・」 
りしゃこの放つ魔法の数々がアベナッチの魔法に次々と相殺されていく 
「こんなこと続けてても意味がないんだもん・・・メーグルは何を考えているんだもん!?」 
同じことの繰り返しに、りしゃこは徐々に苛立ちを覚え始める・・・ 

「ええいっ!・・・このっ!」 
苛立ちが頂点に達した時、りしゃこはアベナッチに向けて今までの倍の魔力を込めた魔法をぶっ放した! 



苛立つ感情に任せて放った炎の魔法は勢いよくアベナッチに襲いかかる! 

「いけぇーっ!」 
会心の手応えに思わずりしゃこも叫んでしまう 
燃え盛る炎はみるみるうちにアベナッチを包み込んでゆく 

「やったもん!」 
予想以上の結果にりしゃこは大喜びする 
が、その喜びはやがて驚愕へと変化する 

「・・・ステキダナ」 
アベナッチを包み込んでいた炎は勢いが弱めたかと思うと、アベナッチの両手に納まっていった 
そしてその炎をそっくりそのままりしゃこへとお返しした 

「えっ!?」 
りしゃこの放ったそれよりも激しく燃え盛る炎がりしゃこに襲いかかった 
「きゃあああーっ!」 


そして、ハロモニア城・某所― 

りしゃこ達が苦戦する様に満足気な笑みを浮かべる者がいた 
「うん!完璧ですぅ! 
あとはあの二人の心さえ折れてしまえば・・・」 
アベナッチとゴトーを操る者・コンは計画通りに事態が進行してることに満足していた 
その後の自分の運命も知らずに・・・ 



「でも、呆気ないですねぇ〜♪私達の”世界征服計画”もこんなに簡単に達成しちゃうなんて♪」 
「そうだな・・・ホント、呆気ないなぁ〜」 
「!?」 
「やっと尻尾を捕まえたよ、]](ダブルクロス)・・・いや、コンちゃん!」 
「!!」 


まさかの女王・ユーコ自らの登場に、図星を突かれたコンは言葉を失った 

「コンちゃん・・・『何で!?』って顔しとるけど、ウチにはあんたらの計画ぐらいはお見通しや!」 
「!!」 
すぐに言葉が出て来ないコンを尻目に、ユーコは言葉を続ける 

「昨日もウチらのミーティングに上手く潜り込んたつもりやったみたいやけど、バレバレやでホンマ」 
「・・・女王様、いつ頃からお気付きになってたんですか・・・?」 
動揺する気持ちを抑えながら、コンはユーコに問いただした 

「そんなんあんたらがアジトの偵察から帰ってきた時からや! 
うまく“変装”したつもりやろけど、生憎ウチはもう何年も女王やっとるんや 
あんたがサトタとすり替わったことくらいすぐわかるよ」 
「・・・そうでしたか・・・滑稽ですよね、ワタシ・・・」 



「コンちゃん、あんたがミキ帝達とつるんで何を企んでるか、ウチにはわかる・・・」 
「・・・」 
「せやけど、アホなことはやめとき!“アレ”はあんたらの手に負える代物とちゃう! 
下手したら、この世界さえ破滅させる“パンドラの箱”や! 
悪いこと言わへんから・・・考え直すんや!」 
押し黙るコンに、ユーコが諭す 

だが・・・ 
「ごめんなさいっ!・・・もうワタシ、後戻りできないんですっ!」 
そう言うや否や、コンはユーコの隙を突いて“物見の塔”の小部屋から出ていった 
(逃げなきゃ・・・早く逃げなきゃ!) 
城の中心部へと繋がる階段を足早に駆け降りていくコン 
息を切らせてもつれる足に喝を入れながら、ただひたすら長い階段を駆け降りていった 

そして、ちょうど連絡通路に差し掛かった時だ 
「待ってたよ、コンコン・・・」 
「アイちゃん・・・ガキさん・・・!?どうして、ここに!?」 
コンの視界に飛び込んできたのはかつての同期・アイオーラとガキシャン・・・そして、後輩の『暁の乙女』のメンバー 

コンを目の前にして、哀しげな表情をしながらアイオーラとガキシャンはコンに“宣告”した 
「女王様の命令・・・」 
「“謀反人”・コンを捕縛せよ・・・」 



かつての同期であり、旧友であるアイオーラ・ガキシャンとの邂逅・・・ 
ただ、それは非情なる再会となった・・・ 

カチャリ・・・ 

無言のまま、腰に帯びた剣を抜くアイオーラとガキシャン 
そして、その剣を目の前にいるコンに向けて、スッと突き出す 
『抵抗すれば、斬る』 
二人の無言の意思表示だ 
その二人に倣って、他のメンバーも次々と得物を手にとってコンに差し向けた 


「アイちゃん・・・ガキさん・・・みんな・・・」 
ユーコを振り切って逃げ延びた、と思っていた矢先だけに、コンの精神的ショックは大きかった 

全身の力が弛緩したようにその場にへたり込み、終には観念したのか、床に両手をついたまま固まってしまった・・・ 

「“謀反人”・コン・・・確保っ!」 
せめてもの情けか、コンの捕縛には、隊長・副隊長自らが行うこととなった 


静けさの漂う場内で、コンの捕縛が粛々と行われている・・・ 
聞こえるのは、縄と衣の擦れ合う音と、作業を行っている二人の息遣い・・・ 
時折、洟を啜るような音が入り交じるくらいだ 

しかし、その静けさが突如、打ち破られてしまった 



「・・・ううう」 
何の前触れもなく、突然、コンが唸り始めた 

「?」 
「・・・ヴヴヴ」 
「!?」 
徐々にその唸り声が人間のそれでないことにアイオーラ、ガキシャンは気付き始める 

「・・・ヴヴヴオォォォーッ!!・・・グアァァァァーッ!!」 
そして遂に、コンが人間ではない“何者か”に変貌したことを二人は確信した 
「!!・・・不味いっ!みんな散ってっ!」 

ブチッ!! ブチブチブチッ!! 

「全体っ!構えっ!」 
まるで妖気すら漂う“コン”に対しての包囲網を解かないアイオーラ達 
しかし、その厳重なハズの包囲網を嘲笑うかのように、“コン”は目にも留まらぬ超スピードで易々と潜り抜けてしまった・・・ 

「あっ!?」 
「アイヤーッ!?」 
完全に虚を突かれた格好のメンバー達 

「しまったっ!みんな、追って!・・・急いでっ!」 
「「ハ、ハイッ!」」 
頭がパニックになりそうな中、アイオーラは号令をかけることで、辛うじて平静さを保つことができた 

「くそっ・・・!」 
「アイちゃん・・・気を落とさないで・・・ 
アタシ達も早く追っかけよう?」 
「う、うん・・・」 



一方、闘技場では・・・ 


「きゃあっ!」 
「いやぁ!」 

「・・・」 
「・・・」 

りしゃこ達はメーグルの作戦通りに動いてはいるものの、想像以上の戦闘能力にてこずっていた 

(強い・・・強すぎるわ!) 
(どうすれば・・・どうすればいいんだもん?) 

ミヤビはゴトーの“間合いの謎”を、りしゃこはアベナッチの“魔法の倍返し”を攻略出来ずに躓いてる 
このまま打開策が見つからないと、敗北するのは日の目を見るより明らかだ 

((・・・どうしよう!?)) 
二人は思わず天を仰いだ 

すると、奇跡が起きた・・・! 
(ミヤビ・・・ゴトーさんの“間合い”なんてただのまやかしよ! 
あの剣で斬れないような、飛びっきりの魔法をぶち込んでやんなさい! 
りしゃこ!・・・アベさんは相手の魔法を反射的に使うのは得意だわ 
でも、それが墓穴を掘る原因になる! 
あなただけの魔法・・・今こそ使う時よ!) 
二人の頭の中に、声が響く 

((ありがとう・・・神様!)) 
(バカッ!ワタシよ!メ・ー・グ・ル・よっ!) 



((なーんだ、メーグルか・・・)) 
神様からの啓示、という思惑が外れてガッカリするりしゃこ達 
そのあからさまなガッカリ感に、メーグルは 
(なんですって!?ムキーッ!・・・後で呼び出しだから!) 
と、拗ねてしまう 

(あ、やばっ!・・・拗ねちゃった?) 
(あちゃー・・・) 
メーグルが拗ねたのが声色から感じとったりしゃこ達は、メーグルをヨイショし始めた 
(あ、ゴメン!ウソウソ!) 
(そ、そうだもん!メーグルの指示を待ってたんだもん!) 

すると、メーグルも人の子、 
(・・・んもう!わかってるじゃない♪) 
と、急に機嫌が直った 
(やれやれ・・・) 

メーグルの機嫌が直ったところで、改めて指示が下った 
(ミヤビ・・・まずはサキの“石”の力を借りて、水の防御壁を作りなさい 
ワタシの予想だと、ゴトーさんの“遠距離攻撃”では、この壁は破れないわ 
だから、ゴトーさんはきっと間合いを詰めてくる・・・そこへ強力な魔法をぶち込んでやるのよ、いい?) 
(わかったわ!) 
(りしゃこの場合は、みんなの“石”の力を借りて、次々に魔法を変えていく・・・ 
そして最後に取って置きの、誰にも真似出来ない魔法をぶち込んでやるのよ!わかった?) 
(うん!) 



ハロモニア城内・物見の塔― 

そこには女王・ユーコとメーグルが黒い『水晶玉』を前にして会話のやりとりをしていた 

「ふう・・・何とか間に合いました・・・」 
「そっか・・・お疲れやったな!」 
「ええ、あのままだったらコンさんの“思うつぼ”、でしたから・・・ 
でも、女王様、まだ厄介な仕事が残ってますよ?」 
「そやな。早いとこ何とかせんと、りしゃこ達がやられてしまうからな!」 
「急ぎましょう!」 
「・・・メーグル」 
「ハ、ハイッ!」 

「あんたが仕切るな!」 
「ス、スミマセン・・・」 


そして、闘技場では・・・ 
りしゃこ達がメーグルの助言通りに反撃に打って出ようとしていた 

(サキ・・・力を貸してね・・・) 
今までの怖れや不安といった“雑念”を消して、ミヤビは集中力を高めていく 
いつも傍にいたサキの魔法を思い描きながら・・・ 

ただ、この一見無防備な状態を見逃す程、ゴトーは甘くなかった 
ツカツカと歩を進めながら手にした金属片を振り抜いた! 

ヒュンッ!! 

ゴトーの斬撃はミヤビへと届いた 
が、しかし、ミヤビを傷つけることはなかった 



(防げた・・・!?) 

ゴトーの斬撃より早く、ミヤビは水の防御壁を完成させていた 
ただ、なにぶん急拵えなので、サキの立派なそれとは程遠い、お粗末なものであった 
しかし、それでもゴトーの斬撃は防げたのだ 

(どうしてこんなので防げたんだろ・・・?) 
ミヤビは首をかしげ、作り出した防御壁を見てみる 
と、そこにゴトーの“謎の斬撃”の正体を発見した 

「何、これ・・・?」 
ミヤビの視線の先には、幾つかの小さな金属片が散らばっていた 
そして、それらのひとつひとつが魚の鱗のような形状の鋭い刃となっていたのだ 

(これが謎の斬撃の正体・・・) 
突然、遠い間合いから斬りつけられた時はパニック状態に陥っていたが、謎が解ければ何てことはない 
すっかり自信を取り戻したミヤビは前方のゴトーをしっかりと見据える 
一方のゴトーは、というと、今までの余裕の態度を捨て去り、一気にカタをつけるべくミヤビな急接近し始めた 

(さっきはまんまと騙されたけど、今度はこっちの番だよ!) 
目をカッと見開いたミヤビは二つの“石”を握りしめ、強く念じ始めた 



(サキ、モモ!力を借りるよ!) 
急速に接近してくるゴトーを見据えて、ミヤビは“間合い”を待った 

(5・・・4・・・3・・・今だっ!) 
目前に迫ったゴトーに向けて、ミヤビは“煙”を放った 
「!」 
ある程度の抵抗を予測していたとはいえ、急に視界を奪われたゴトーは一瞬、たじろいでしまう 
初めてみせる隙だらけのゴトーの姿・・・ 


ところ変わって控え室― 

「「いっけぇ〜っ!」」 
無防備なゴトーに襲いかかれ、と言わんばかりにサキ、モモが絶叫した 

しかし、中継用の水晶玉に映し出されたのは、何もせずに距離をとったミヤビの姿 

「ん〜もうっ!何やってんのっ!?・・・絶好のチャンスだったのに〜!」 
ミヤビが何もしなかったことで悔しがるモモ 
その様子をはた目で見ていたマイハが 
「あれで、良かったと思うの・・・」 
と、ポツリと呟く 
「何?それってどーゆうコトッ!?」 
興奮してるため、語気が荒くなっているモモに、マイハが諭すように語りかけた 

「だって、ミヤビは次の魔法への“溜め”が十分じゃなかったから・・・ 
だから、“溜め”を作るために離れたと思うの・・・」 
「ふぅーん。でさ、マイハ・・・ひょっとして、“溜め”と“ため”をかけてるの?」 
「!」 



(まだだ・・・まだ、“溜めが足りないっ!”) 

火と水の力を組み合わせた“水蒸気”で目眩ましをしたミヤビは、次の布石を打つべくゴトーから少しずつ遠ざかっていった 

(次は・・・何とかして“罠”を仕掛けないと・・・) 
ゴトーに気取られないよう、ゆっくりと移動してゆく 
が、しかし 

ヒュォンッ!! 

突如、水煙の中から金属片がミヤビの頬をかすめた! 
「きゃあ!」 
まさかの一撃にミヤビは声をあげてしまう 
すると、水煙の中から金属片に続いてゴトーがゆっくりと姿を現した 

(何故っ!?何故アタシの居場所が・・・!?) 
自分の居場所を正確に察知したゴトーをミヤビは不思議に思った 
そして、ゴトーの姿を改めて見直した時、ミヤビは思わず息を呑んでしまった 

(な、何なのっ!?) 
ミヤビが驚愕するのも無理はない 
ゴトーは己が目を閉じていたのだ 

古来より武術の達人は、五感を遮断し、神経を研ぎ澄ませることにより、相手の気配を察知することがある・・・ 
とミヤビも以前、どこかで聞いたことがあったが、それを目の前でやられるとは思ってもみなかった 



目を閉じたまま、ゴトーはミヤビに近づいていく 

『暁の乙女』きっての剣士に接近されることは、即、“死”を意味する 
そこで、ミヤビが取った行動は・・・ 

(くっ!・・・お願いっ!近寄らないでっ!) 

ブゥンッ!! 

「!?」 

手にした“真紅の杖”を水平に薙ぎ払った 

ミヤビが接近戦用に準備していた炎の剣の魔法『キラーソー』 
術者の意思に従ってその形状を変える、謂わば実体のない“魔法の剣”・・・ 
ミヤビは接近するゴトーに向かって咄嗟に『キラーソー』を具現化し振るったのだが、 
その苦し紛れの行動に思いがけずゴトーはその場から飛び退いた 
そして距離を取りつつ、周囲を周りながら、ミヤビの隙を窺っている・・・ 

腕利きの剣士のゴトーにしては過剰なまでの警戒・・・その奇妙な行動に、ミヤビは訝しがる 
が、しかし、その疑問は再度“魔法の剣”を振るうことで解決した 

ブゥンッ!! 

ゴトーは“魔法の剣”を自らの金属片で受け止めることなく、大きく飛び退いて斬撃を回避したのだ 



二度に渡り、ミヤビの斬撃を大きく躱すゴトー・・・ 

(もしかして・・・!) 
何かを確信したミヤビは、今度は自ら近寄って『キラーソー』を薙ぎ払った 

「!」 
するとやはり、またも大きな動作でゴトーは避けた 
(やっぱりそうだ!) 
確信を得たミヤビの心に自信が漲る 

(ゴトーさんも、アタシの“魔法の剣”を斬るのは出来ないんだ!) 
だが、しかし、事態が好転した訳ではなかった 
(でも・・・これじゃあゴトーさんを近寄らせなくするので精一杯、だよね・・・ハァ・・・) 


そして一方のりしゃこ 

(アタシだけの魔法・・・!) 
メーグルの言ったその言葉の意味を考えながら、目の前の敵・アベナッチに次々と魔法を放っていく 
・・・が、いずれもいとも簡単にアベナッチにコピーされ、相殺されていく 

しかし、幾度かその行動を繰り返していくうちに、りしゃこは“あること”に気付いた 
それは、りしゃこが魔法の動作に入った際には、手にした戦輪(チャクラム)での攻撃を一切してこないのだ 
普通であれば、隙だらけの詠唱の状態を攻撃をするのが定石だ 
しかし、それをしてこない・・・ 
そこでりしゃこはある“作戦”を閃いた