(じゃあ、これならどうだもん?) 幾度となく放った魔法のすべてを相殺されたりしゃこが“賭け”に出た 手にした杖を水平に突き出して構え、目を閉じて呪文の詠唱を始める 傍からみれば、まるで無防備すぎる姿・・・ にも関わらず、アベナッチは隙だらけのりしゃこを攻撃するどころか、りしゃこと同じ行動を取り始めた (やっぱり・・・思った通りだもん!) りしゃこは内心ほくそ笑んだ 密かに仕掛けた一か八かの“賭け”の第一段階に成功したのだ あとは今、詠唱中の“魔法”をアベナッチに真似されないかどうかだけ・・・ そして、りしゃこは最後の“賭け”の賽を振った・・・ 「行くよっ!合体魔法・『フェニックス』!」 りしゃこは手にした杖を構え直して、全身で“気”を受け入れる体勢を取る すると、まばゆいばかりの光がりしゃこの身体を包み込んでいき、やがて、光のローブを身に纏った魔術師へと“変身”した・・・ (これなら、きっと真似出来ないんだもん!) ところが・・・ そう思っていたりしゃこにとって、目の前で信じ難い出来事が起きていた 「ステキダナ・・・」 謎の呪咀を呟いたアベナッチも、りしゃこ同様、まばゆいばかりの光が包み込んだ そして、形状こそ違えど光のローブを身に纏ったのだ 「う、うそ・・・!?」 焦ったのはりしゃこの方 アベナッチにプレッシャーを与えるつもりでやった“変身”だったが、容易に“コピー”されてしまったのだ 動揺してしまい、言葉が途切れた瞬間、今までカウンターばかり繰り返していたアベナッチが、いよいよ牙を剥き出しにした 「・・・」 無言のまま手にした戦輪を水平に構え、りしゃこに向かって投擲した! ビュンッ!! シュルルル・・・ 風切り音を立てて、戦輪がりしゃこに襲いかかった 「わっ!?」 不意を突かれたりしゃこは咄嗟にその場を飛び退き、戦輪の直撃を避けた (危なかったもん・・・) 気を取り直してりしゃこはアベナッチの方へと向き直った が、アベナッチの様子が先程とは違うことに気付いた シュルルル・・・ 「!?」 背後から迫る風切り音に気付き、りしゃこは咄嗟に身を伏せた ブォンッ!! りしゃこの頭上に、やはり風切り音が・・・ そう、りしゃこが一投目を避けた時には、アベナッチは次の二投目を投擲していたのだ 「た、助かった・・・」 アベナッチの二段構えの攻撃を避けたことで、りしゃこは安堵する しかし、それも束の間、さらなる攻撃がりしゃこに襲いかかってきた 「ステキダナ・・・」 アベナッチがりしゃこを指差す すると、 ドオォォォン!! りしゃこのすぐ傍に雷が落ちた! 「うわっ!?」 直撃は免れたものの、その衝撃の威力でりしゃこは吹っ飛ぶ 「げほっ、げほっ!」 強かに身体を地面に打ちつけたりしゃこは咳込む だが、容赦なくアベナッチの攻撃は続いた 「ステキダナ・・・」 ビュォンッ!! 突風がまるで空気の弾丸のように、りしゃこに向けて一直線に放たれた! ドカッ!! 「・・・かはっ!?」 アベナッチの見事なまでの波状攻撃を避けきれず、ついにりしゃこは直撃を受けてしまった 「うっ・・・けほっ、けほっ!」 あまりのダメージにのたうち回るりしゃこ それを冷静な、いやむしろ無機質な目で見つめるアベナッチ そして、りしゃこがしばらくの間動けないであろうと確信したアベナッチは、頭上に得物の戦輪を掲げ、いよいよとどめの準備に入った (う、動けないもん・・・) 痛む部位を押さえながらも、りしゃこはなんとか立ち上がろうとするが、身体に力が入らない 「りしゃこっ!?」 相棒の“異変”に気付いたミヤビがりしゃこの元に駆け寄ろうとした が、しかし、当然ながらミヤビの前にゴトーが立ちはだかった 「お願い・・・どいてっ!」 必死の思いを込めて、眼前のゴトーめがけて“炎の剣”を薙ぎ払った “炎の剣”を受け止められないゴトーは避けるしかない・・・ミヤビはそう踏んでいた が、しかし、ミヤビの予測とは反対に、眼前のゴトーは立ちはだかったままだった ただ、違っていたのはゴトーの手にしていた金属片がミヤビの肩口を貫いていたことだ 「うっ!」 激痛に耐え兼ね、ミヤビはうずくまる 薙ぎ払ったつもりの“炎の剣”は燃え盛ることなく、地面に落ちていた そう、ゴトーはミヤビが剣を振り抜く瞬間に金属片を伸ばし、ミヤビの肩口を貫くことによって、攻撃を未然に防ぐことができたのだ 迂闊だった・・・ ゴトーが飛遠距離からミヤビに小さな金属片を飛ばしていたのは、 手にした得物が実際に遠い間合いからでも攻撃できることをカモフラージュするためだったのだ 激痛に耐え兼ね、のたうち回るミヤビを冷ややかな視線で見つめるゴトー・・・ そして、ゆっくりと得物の金属片を頭上に掲げ、振り下ろす動作に入った りしゃこもミヤビも大ダメージを受けた直後とあって動くことすらままならない状態・・・ いよいよ、アベナッチとゴトー、二人による“処刑”の時を迎えようとしていた・・・ 「ねえ!?チョーヤバいって!」 「わかってるわよ、そんなの!」 控え室に怒号が響き渡る りしゃこ達の絶体絶命のピンチに、サキ達も苛立ちと焦りを隠せなかった 「ねえねえ、どーにかなんないの!?」 「もお!チーうるさいって!」 「何よ!そんな言い方しなくってもいいジャン!?」 「ほらほら!チーもギャーギャー騒いだってどうしようもないでしょ!?」 「・・・ちょっとお!?サキ、あんたも何そんなに冷たいこと言ってんの!?」 「チー!もうよしなって!」 控え室内のメンバーの苛立ちが頂点に達しようとした時・・・ 「・・・みんな!静かにするのっ!」 叫んだのはマイハだった 日頃から物静かなマイハが激しい感情を露にしたことで、その場が静まり返った 「・・・今、大事なのは、このピンチを切り抜けること・・・」 「でも、どうやって・・・?」 「考えがあるの・・・マァ、ユリー、ちょっと力を貸して」 「えっ?い、いいけど・・・」 「何か名案があるのか?とゆいたい」 「ちょっと・・・ね。多分、うまくいくの」 そう言うと、マイハは中継用の水晶玉に手を置き、その向こうのりしゃこに呼びかけた 「りしゃこ?聞こえる?」 しばらくして、りしゃこが答えた 「聞こえる・・・でも・・・」 「諦めちゃダメッ!まだ手はあるよ」 「・・・あるの?」 「うん・・・いい、りしゃこ?今から“紫色の石”と“黄色の石”をしっかり握りしめて!」 「うん」 「次は・・・大変だけど、なんとか立ち上がってちょうだい」 「わかった・・・もん」 闘技場では、ふらふらになりながらも立ち上がったりしゃこに対してどよめきが起きていた だが、同時に、観衆の大半がアベ、ゴトー組の勝利を確信していた・・・ 「ねえ、ユリー?“アレ”を使って!」 「わかった!」 「あと、マァは“アレ”をお願い・・・」 「任せろ、とゆいたい」 マイハがいつもの物怖じする性格はどこへやら、的確な指示を二人に出し、二人はそれを即座に理解する 「ねえ、チー?あの二人、大丈夫なの?マイハとの意思の疎通はうまくいってんの?」 「んー?大丈夫なんじゃなーい?」 「あんたねぇ・・・」 「ウチらダテに長い付き合いしてないから心配ないって♪」 「ねぇねぇ、それよりうまくいくの!?マイハの“秘策”って・・・」 「わかんなーい♪でも、あんな自信たっぷりなマイハを見るのは久し振りだから大丈夫だよ、きっと♪」 そして闘技場では・・・ りしゃこが立ち上がってきたことにアベナッチが一瞬動きを止めたくらいで、得物を振り下ろす動作は止めてはいなかった アベとゴトーが得物を頂上まで振り上げたその時だ 「今よ、りしゃこ!一緒に叫んでっ!『ピリリ』っ!」 「『ピリリ』っ!」 りしゃこが頭上を指差し、呪文を唱えた すると、驚くことに、アベナッチも条件反射で魔法を唱えていた 「・・・ステキダナ」 「『ピリリ』っ!」 「・・・ステキダナ」 りしゃことアベナッチ、二人の呪文が交錯する そして、時を置かずして、天から閃光が二つ、降り注いだ ドゴォォォンッ!! ドゴォォォンッ!! ひとつの閃光はアベナッチへ・・・そして、もうひとつの閃光はりしゃこではなく、ゴトーへと落ちた・・・ 闘技場内の観衆は目を疑った りしゃことアベナッチの呪文が交錯したなら、りしゃこが魔法を食らうハズ・・・ それは控え室にいたサキやモモも同様だった が、二人は“カラクリ”を間近に見ていたので、“タネ”がすぐに理解出来た 「りしゃこに雷が落ちなかったのは、マァのおかげね」 「・・・うん」 「うまくいった、とゆいたい」 そう、りしゃこに雷が落ちなかったのは、アベとゴトーの二人がりしゃこより背が高かったこと・・・ 同時に金属製の武器を頭上高く振りかざしていたこと・・・ そして、マァによって雷を回避する魔法がりしゃこの全身を覆っていたのだ 「へぇ〜、マイハやるじゃん!」 「でも・・・あれくらいのダメージなら、あの二人は直に立ち上がってくる・・・ 今のうちに、有利にしないと・・・」 「『有利に』って・・・?でもどうやって!?」 訝しがるサキが疑問を投げかけた 「『地の利』を活かすのよ・・・」 「ねぇマイハ、それってどーいう意味なの?」 「うん、武器の扱いは明らかに向こうの方が有利だよね・・・」 「そう、だけど・・・」 「でも、もし、その武器を封じ込めることができたら・・・」 「あっ、そーか!」 「うん、これならいい勝負になると思うの!」 「あのー・・・もしもーし!」 「ん?どうかしたのモモ?」 「『どうかしたの?』じゃないの!一体全体、何がどうなってるのか教えてよ!」 「ハーイ!賛成賛成!」 マイハとサキに置いてきぼりを食った格好のモモとチナリが質問する 「・・・今から闘技場内を悪天候に変えるの」 マイハは静かに答えた 「悪天候にする、って?」 「うん・・・さっきは準備不足だったからあの程度の雷だったけど、雨雲を作ることが出来れば威力はもっとパワーアップするし、 何よりあの二人は、落雷を恐れて迂闊に武器は使えなくなるわ」 「!・・・なるほど、ね!」 「へぇ〜、そ〜なんだ〜!」 二人が理解したところで、マイハは次の指示を出した 「ミヤビ、傷が痛むと思うけど、もうちょっとの間、辛抱してね」 「・・・うん」 「あのね、お願いがあるの・・・ ミヤビがさっきゴトーさんに目眩ましに使った水蒸気・・・あれをいっぱい作って欲しいの ・・・大至急」 「え?あれを?・・・でも、どうして?」 「後で説明するの・・・とにかく、あの二人が回復するまでに・・・早く!」 「・・・わかったわ」 マイハに促されるまま、ミヤビは手にした“青色の石”と“桃色の石”を使って辺り一面を水蒸気で覆い尽くした 「りしゃこ、あなたはアタシの“水色の石”と“緑色の石”を使って竜巻を起こして欲しいの」 「え?・・・でも・・・」 「・・・わかってる。でも、りしゃこなら出来るはず、きっと・・・ もっと、自分を信じて!」 「・・・うん!わかったもん!」 りしゃこもマイハの言うに任せて、竜巻をイメージし呪文の詠唱を始めた すると、少しずつ冷たい風が巻き起こり、それがやがて渦巻き始め、水蒸気を取り込みながら小さな竜巻となった だが、せっかくミヤビが作り出した水蒸気は遥か上空へと吹き飛んでしまった・・・ 「ね、ねぇマイハ・・・これじゃ水蒸気作った意味ないジャン!?」 呆れるチナリにマイハは言った 「・・・いいの、これで」 やがて、落雷を受けて倒れていたアベナッチとゴトーがゆっくりと立ち上がり出した まだ足取りはおぼつかないものの、深刻なダメージを受けてないのは見てとれた 「ね、ね!?あの二人、起きてきたよ!?どーしよどーしよ!?」 「ちょっとぉーサキ!慌てたって仕方ないじゃん!?」 「そうだ。落ち着けとゆいたい」 「マァ!あんたは落ち着きすぎよっ!何暢気にお菓子なんか食ってんのよっ!?」 「・・・もう大丈夫だよ、ほら・・・」 ひとりパニックになって騒いでいるサキを引っ張って、マイハは中継用の水晶玉の前まで連れていく すると、そこにはいつの間にか天気が崩れて、雨雲が上空を覆っていた 「ふぉえ!?」 「作ったのよ、雨雲を・・・」 「えっ?・・・じゃあ・・・」 「うん。さっきまでのは雨雲を作るための準備だったの・・・」 「もー!早くそれを言ってよー!」 「・・・だって、時間がなかったから・・・」 「そうだそうだ!キチンと説明する義務はあるぞーっ!」 「・・・チー、あんたもわかってなかったの・・・?」 「えっ?・・・いやぁ!・・・ハハハ・・・」 闘技場内を覆い尽くすような雨雲の出現に、観衆はおろか、アベ、ゴトーの二人も驚きの表情を見せた しかし、りしゃこ達の“意図”に気付きはじめた観衆が現れ、観客席がにわかに騒めき出す・・・ そんな周囲の声をよそに、りしゃこ達はアベ、ゴトーの二人にのみ集中していた ゆっくりと起き上がるアベ、ゴトー・・・ それなりにダメージを受けてるように見えるが、まだその足取りはしっかりしていて、倒すまでには至らなかったようだ そんな二人に対して、りしゃこが容赦なく“雷の雨”を浴びせかけた (・・・ごめんなさいっ!) 轟音とともに幾条もの雷が闘技場へと降り注がれる 「「・・・!?」」 上空から降ってくる“雷の雨”をアベ、ゴトーの二人は逃げ回ることで回避しようとした・・・ が、予測不能の雷を避けることはできず、再度、電流をその身に浴びてしまった・・・ バタッ・・・ 前のめりに倒れる二人・・・ (お願い・・・もう立たないで・・・) 戦いたくて戦ってる訳でない二人をもうこれ以上傷つけたくない・・・ そんな思いから、りしゃこは目を閉じて、必死に願った・・・ だが、悲しいかな、その“願い”は叶わなかった 「・・・」 無言のまま、ゆらりと立ち上がるアベとゴトー 二度も雷撃を受けたせいか、その足取りはおぼつかなくなっていた それでも戦うことを止めずにふらふらになりながらも立ち上がってくるその姿が、かえって見ている者達には痛々しく映った どよめきに気付き、りしゃこは目を見開くと、またも眼前には二人が立っている・・・ 「・・・やだ・・・もう、やだ・・・!」 深い悲しみと底知れぬ恐怖に襲われたりしゃこは冷静さを失い、今まで以上の魔力をその両手に集中させ始めた 「・・・りしゃこ!」 りしゃこの異変に気付いたミヤビがりしゃこの“暴走”を止めに入ろうとする しかし、それよりも早く、りしゃこの両手から再び“雷の雨”が放たれた ドゴォォォンッ!! ドゴォォォンッ!! ドゴォォォンッ!! 闘技場へと降り注がれる“雷の雨”・・・ しかし、それは一所に集中して降り注がれていた 「・・・何よ、あれ・・・!?」 ミヤビが目撃したもの・・・それは、りしゃこが放った“雷の雨”が、“あるもの”に向かって まるで見えない磁力に吸い寄せられるように降り注いでいたのだ 控え室― 「あっ!?マズいっ!」 中継用の水晶玉で試合の様子を見ていたユリーナが突如、叫んだ ユリーナの声に気付いたマァも 「やられた・・・とゆいたい」 と悔しそうに呟いた 「えっ?何が何が〜!?」 二人の落胆する様を不思議がるモモは二人に尋ねてみた 「知ってるよね?雷ってのは“高いもの”に落ちる特性があるのよ」 「へぇ〜!そうなんだ〜!」 「もしかして・・・知らなかった?」 「うん!知らなかった♪」 あっけらかんとするモモに、ユリーナとマァは閉口してしまう が、すぐに気を取り直し、二人は話を続ける 「ゴトーさんはあの金属片を自分の背よりもずっと高く伸ばして雷を防ぐ“盾”にしたんだ・・・とゆいたい」 マァの話に何か閃いたモモが思ったことを口にした 「あっ!・・・じゃあさじゃあさ、もし、雷が落ちてきたら、アタシはユリーの傍に行けばOK、ってこと?」 「そうそう!ウチがモモの代わりに雷を受けて真っ黒こげになっちゃう・・・って、コラーッ!」 しまった・・・と思ったモモは逃げ出す体勢に入った・・・が、 ユリーナの両腕はモモの身体をがっしりと掴んで離さなかった 数秒後、モモの頬っぺたが真っ赤になっていたのはいうまでもない・・・ 再び闘技場― 無数の“雷の雨”がゴトーの作り上げた細長い金属片に吸い寄せられていく様を、りしゃこ達は唖然として眺めていた と、その直後、 トスッ!! ドサッ・・・!! ミヤビの耳に、何かが突き刺さる音と何かが倒れる音が聞こえた・・・ すぐさま音のした方を向くと、ミヤビの視界にうつ伏せに倒れたりしゃこの姿が飛び込んできた 「りしゃこっ!?」 頭で考えるより先に身体が動いていた ぐったりとしたりしゃこの身体を調べてみると、背中に細長い棒状の金属片が深々と突き刺さっていた 「まさか・・・!?」 ミヤビがりしゃこに気を取られて無防備になったその刹那、 ヒュンッ!! 「・・・!」 ミヤビの頬を何かがかすめていった・・・ ひりつく頬に手を当ててみると、ヌルッとした感触と鉄の匂いが・・・ (ゴトーさんが!?) 素早く視線をアベ、ゴトーに戻してみるが、そこに二人の姿はなかった・・・ しかし、代わりにあの忌まわしき“戦車”が姿を表していた・・・ 目の前にあるのは凶々しい“鉄の塊”・・・ 前回、ユリーナとチナリを轢き殺そうとしたあの戦車だ 凄まじいまでの突進力に、観戦していたミヤビも身震いがした代物・・・ いずれ、二人と試合をすれば遭遇すると思っていたが、出来れば遭遇したくはなかった しかし、運命の悪戯か、よりによってりしゃこが戦闘不能、という最悪の事態に出現したのだ・・・ あの“鉄の塊”に自分の炎魔法など通用するのか? 力なく横たわるりしゃこを抱きながら、ミヤビは絶望的な状況に思わず天を仰いだ だが、その時、ミヤビとりしゃこの両手から仄かな光が灯った・・・ 「!?」 光っていたのはみんなから託されたあの“石”だった (みんな・・・!) ふと、ミヤビの頭にみんなの顔が思い浮かんだ “石”から洩れてくる仄かな光が、自分達への無言のエールのように見えてきた (・・・!) 目を閉じ、深呼吸して、ミヤビはカッ!と目を見開いた 負ける訳にはいかない・・・逃げる訳にはいかない・・・みんなが応援してくれている・・・! そう思うと、不思議と勇気と力が湧いてきた (あの二人だって、さっきまでふらふらだったから、きっと苦しいハズ・・・!) 目の前の戦車を凝視しながら、ミヤビは強く念じ始めた (冷静に・・・あの戦車の弱点を考えなきゃ・・・) 目の前の戦車を観察しながらミヤビは頭をフル回転させる 重厚で頑強そうな装甲には物理的魔法は全く通用しそうにもない さながら、甲冑を身に纏った騎士・・・といったところか 「・・・!?」 そんなイメージを抱いた時、ふとミヤビの頭にある日の出来事が思い浮かんだのだ ―あれは今から一ヶ月ほど前・・・ ミヤビとりしゃこが『輝く女神』のメンバーと合同で最終特訓に励んでいた時のこと ヨッシーノとヨッシーノ一派の中でも随一の重装備を誇るユイヤンとの練習試合 自慢の盾と鎧に身を固めたユイヤンに対し、ヨッシーノはプロテクターはおろか、着のみ着のままの格好で試合に挑んだのだ あまり武術、体術の心得のないミヤビは、装備の差からヨッシーノの敗北を予想していた だが、予想に反し試合に勝利したのはヨッシーノの方であった その記憶が甦った瞬間、ミヤビは閃いた