『えっ?何でユイヤンに勝ったのか?って?』 『まぁ、理由は二つ・・・一つはフットワークの勝利、かな? 素早い動きで相手を撹乱してヒット&アウェイ どんな強力な攻撃も当たんなきゃ意味がないからね!』 『で、もう一つは・・・』 フラッシュバックする記憶を辿っていく・・・ (あの戦車がユイヤンさんだとして、ウチらがヨッシーノさんのように戦えば・・・ でも、りしゃこのケガじゃフットワークは使えない、か・・・) さらに記憶を溯っていく 『で、もう一つは・・・』 それを思い出した瞬間、ミヤビの顔つきが変わった (これなら・・・!) そして、眼前の戦車を睨み付け、闘志を露にする (もう、これで終わりにするよ!) 迷いの吹っ切れたミヤビが呪文の詠唱を始めると、それに呼応するかのように、戦車も動き始めた 『で、もう一つの勝因は・・・ま、相手が自滅しちゃったんだけど・・・ 重装備の重みに耐えかねて転倒してくれてラッキーだったYo! ・・・にしても、鎧の重さで地面に穴がボコッ!って開いちゃうモンなんかねぇ・・・』 アベ、ゴトーを乗せた戦車がまさに突進を開始しようとした瞬間、ミヤビは両手を天にかざし、魔法を解き放った 「みんな、力を貸してっ!『エアリアル・レイジ』ッ!」 ミヤビが呪文を発したその途端、上空に広がっていた雨雲からスコールが降り出した 「・・・!」 動き出そうとした戦車だが、突然の大雨に視界を阻まれ、突進を躊躇ってしまった ―控え室 ミヤビのまさかの行動に、メンバーは騒然とする 「ちょっとお〜!?ミーやんたら何やってんのよ!?」 「ホントよ!あんな大雨降らせたら炎の魔法の威力なんか落ちちゃうじゃない!?」 「ほら、キャプテンもモモも落ち着いてっ!」 「これが落ち着いていられますかっての!」 サキやモモが指摘する通り、雨天の中での炎の魔法はコントロールが難しく、かつ威力も弱まってしまう 炎の魔法を得意とするミヤビが、自らその状況を作り出したことはほぼ自殺行為に等しい訳だ しかし、狼狽えるサキやモモを尻目に、マイハはポツリと呟いた 「でも、悪くないかも・・・」 大雨の降りしきる中、ミヤビはりしゃこを抱き抱えたまま戦車の出方を伺っていた 「りしゃこ・・・勝とうね・・・」 ミヤビはぐったりとしたりしゃこを気遣い声をかける すると、 「勝とうね・・・絶対!」 「りしゃこ!?」 気絶していたハズのりしゃこがうっすらと目を開け、ミヤビに返事をした 「大丈夫なの!?」 「・・・うん!」 ケガが痛まないワケがないのに気丈に振る舞っているりしゃこをミヤビはギュッと抱き締め、そして 「今から言う通りに動いて欲しいの・・・」 と耳打ちをする と、その時、今まで動きを止めていた戦車が遂に動き出した 「準備はいい?」 「うん!」 迫りくる戦車をしっかりと見定めながら二人は頷き合った ガラガラガラッ・・・!! 大雨でぬかるんだ足元もお構いなしに勢いよく戦車は急接近してくる しかし、りしゃこ達はその場を動こうとしない いや、むしろ『待ち構え』ているようにすら見える やがて、りしゃこ達と戦車の距離が、あとわずか10数メートルになった時、二人は動いた (戦車の最大の“武器”はどんな攻撃も寄せ付けない重厚な装甲と、突進による圧倒的な破壊力・・・ だけど・・・それは諸刃の剣!) 間近に迫った戦車を前に、ミヤビは地面に手をつき、りしゃこも手を添えて魔法を発動させた 「飲み込んじゃえ!『アビス・ホール』ッ!」 ガコッ!! 大きな震動とともに、何かが崩れる音がした・・・ そして、続けて聞こえてきたのが耳をつんざくような、金属片が軋んで壊れる音・・・ グワッシャァァァ!! 「・・・やった!」 安堵の表情を浮かべた後、ふとミヤビはりしゃこの顔を見つめた 「・・・うん!」 傷口が傷まないハズはないのに、微笑み返すりしゃこ 「・・・この“石”のおかげだね。ありがとう、サキ・・・マァ・・・」 二人の両手に握りしめられてたのは、水を司る“青色の石”と、土を司る“黄色の石”・・・ そう、ミヤビが己の魔法を棄ててまで大雨を降らせた狙いは、地面を過剰な水分で脆くさせ、 その弱った地面に重厚な戦車を通過させることで、地崩れを引き起こさせることだった そして思惑通り、戦車は自らの重みにより、落とし穴へと転落していった・・・ 地崩れによって発生した落とし穴へと転落していった戦車・・・ その直後、大きな金属音が場内に響き渡ったので、戦車が壊れたことはほぼ確実だ もちろん、中に乗り込んでいたアベ、ゴトーのダメージは言わずもがな、である 「ふぅ・・・」 “一仕事”を終えて、束の間の休息を取る二人 あとは審判・ヤススの声が発せられるのを待つのみ だが、落とし穴を覗き込んだヤススの口からは、試合終了の言葉が発せられなかったどころか、唖然としているようにも見えた 「まさか・・・!?」 すぐさま二人は落とし穴へと向かい、中を覗き込んだ その刹那、 シュババババッ!! 穴から何かが一斉に発射された! 「わっ!?」 二人は咄嗟に傍につっ立っていたヤススの陰に隠れた 「わっわっ!?・・・な、何すんのよっ!?」 迫りくる弾幕に対してヤススは慌てて防御壁の魔法を発動させてやり過ごした パラパラパラ・・・ 防御壁に阻まれて地面に落ちたのは小さな金属片の数々 あの二人も最後の最後まで試合を棄てていなかったのだ ヤススを“盾”にして何とか弾幕を避けた二人 しかし、その二人に弾幕の第二波がすかさず襲いかかる シュババババッ!! 「うわっ!?」 「いやっ!?」 ドスドスドスッ!! 「うぅ・・・」 最初こそヤススという“盾”で金属片の散弾を回避できたが、第二波を身体中の至るところにモロに浴びてしまった・・・ バシャッ・・・!! 降りしきる大雨の中、二人は水溜まりにつっ臥してしまった そして、陥没した落とし穴からアベ、ゴトーの二人が這い上がってきた 「くっ・・・!」 立ち上がって迎撃体勢を取ったミヤビに対し、ゴトーがそのどてっ腹を思い切り蹴り上げる ドスッ!! 「・・・っ!」 強烈な痛みが腹部を襲い、ミヤビはもんどりうって悶絶しだした 「ぐえっ!」 ダメージが深く、地面に這いつくばっていたりしゃこをアベナッチが踏みつける 苦しがるりしゃこ達だが、ゴトー達はお構い無しに二人をいたぶり続けた ゴトー達のいたぶりに対し、耐え忍ぶりしゃこ達・・・ その一方的とも言える暴力の非道さに観客は言葉を失い、場内は静まり返っていた だが、その静けさが一瞬にして悲鳴に変わった カチャリ・・・!! 今までりしゃこ達をいたぶっていたゴトー達が手にした得物を頭上高く掲げたのだ “処刑”の合図・・・そう直感した観客の悲鳴がこだまし、場内を埋め尽くす その中には泣き出す子供もいた程だ あとは二人が手にした得物が振り下ろされるのを待つのみ・・・ そんな中、期せずして場内からりしゃこ達に檄が飛んだ 「「コラーッ!二人とも何やってんのよっ!」」 観客が声のした方を振り向くと、そこには大会でりしゃこ達と死闘を繰り広げたアイリーナとアイリーネの姿が・・・ そして、また別の方からも檄が飛んだ 「ねえ、夢を叶えるんでしょ!?こんなところで負けちゃダメだよ!? ほら、早く立って!立ち上がってっ!」 「お姉ちゃん、頑張れー!」 「負けるなー!」 同じく、死闘を繰り広げたコハと弟妹達の姿が・・・ そして、 「最後まで諦めるんじゃないぜ!起きろりしゃこーっ!」 「お姉ちゃーん!」 チッサー&アッスーのオ=カール姉妹の姿も・・・ 誰もがりしゃこ達の勝利を諦めかけていたところへ飛び込んできた親友達の“エール”・・・ その“エール”がそれまで悲鳴で埋め尽くされた会場内の雰囲気を一変させた 「おい、お嬢ちゃん達、頑張れーっ!」 「立てーっ!」 「ほら、しっかりしろーっ!」 やがて、俄かに沸き起こった声援は大きなうねりへと変わっていった 「「り・しゃ・こ!り・しゃ・こ!」」 「「ミ・ヤ・ビ!ミ・ヤ・ビ!」」 耳をつんざくような大声援に、苦しみ、もがいていたりしゃこ達の目に再び力が宿り出した その光景を見て、アベ、ゴトーの二人は戸惑いの表情を見せる そして・・・ 「!?・・・・・・ぐっ!・・・ぐうぅっ!」 今までポーカーフェイスだったアベ、ゴトーの二人が突如、苦しみ始めた 「ううう・・・うわぁぁぁーっ!」 頭上高く掲げた得物を手放し、頭を抱え悶絶する その尋常ではない苦しみ様に起き上がり始めたりしゃこ達は戸惑う そこへ、りしゃこ達の頭の中に声が響いた (ほら!今がチャンスよ!) 「だ、誰なんだもんっ!?」 りしゃこは語りかける声の主に問いかけた (あんたねえ・・・!) 「バカッ!メーグルに決まってるじゃない!?」 「あ・・・」 (・・・あとで呼び出してお説教するからねっ!) りしゃこ達とメーグルとの掛け合いに割って入る声が・・・ (コラーッ!あんた何やっとんねん!?早く伝言せんかいっ!!) (ハッ、ハイッ!女王様っ!) 「「女王様っ!?」」 いきなり割って入った女王・ユーコにりしゃこ達も硬直してしまう が、ユーコは二人に喝を入れる (二人ともっ!ほら、ぼーっとしてるヒマなんかないで! ウチが動きを止めてる今がチャンスなんや!早よトドメ刺さんかいっ!!) 「「ハッ!ハヒーッ!」」 ユーコの喝に後押しされるかのように、りしゃこ達はユニゾンで魔法の詠唱を始める (もう少し・・・あと少し・・・!) しかし、アベ、ゴトーも二人の周りで発生してる膨大な魔力に気付き、苦痛を堪えながらもりしゃこ達へと突進していく 「魚ぉぉぉーっ!」 (今だっ!いくよ!) (うん!・・・勝つんだもん!・・・絶対、絶対っ!) お互いの膨大な魔力がほぼ同時に解き放たれた! 「「逝っけえーっ!!」」 二人の祈るような絶叫に呼応して紅蓮の不死鳥はゴトー達に向かって力強く、一直線に突き進んでいく 「・・・!?」 合体魔法・『Do it now』で全ての魔力を使い果たしたゴトー達に、最早りしゃこ達の魔法を食い止める術はなかった・・・ まばゆい光を放ちながら向かってくる不死鳥を前に自らの敗北を悟ったゴトー達は身動ぎもせず、 あるがままを受け入れるかのように紅蓮の炎に包まれていった・・・ 「・・・見事だ」 の一言を残して・・・ そして・・・ 紅蓮の不死鳥がその役目を終えて姿を消し去った後には、力尽き倒れたゴトー達の姿があった ピクリとも動かなくなった二人の姿に、会場内の誰もが戦闘不能と確信した そして遂に、長きに渡る戦いに審判が下された 「・・・そこまでっ!勝者、りしゃこ・ミヤビ!」 その瞬間、会場からは万雷の拍手と大歓声が巻き起こり、二人を祝福した みんなの歓びの声が疲れ切った身体に心地良い 緊張を解いたりしゃことミヤビはその場に座り込み、お互いの顔を見合わせて、そして満面の笑みを浮かべた― 戦いを終えた二人の元へ、サキ達が駆け付けた 「おめでとーっ!」 「よくやった!えらいっ!」 皆、りしゃこ達の勝利に表情を綻ばせている 「ふぅ・・・」 「疲れたもん・・・」 喜んで駆け寄ってくるメンバーにりしゃこ達も笑顔で応えた だが、激しい戦いの代償は大きかった・・・ バタッ・・・ 「りしゃこっ!?ミヤビっ!?」 サキが叫ぶ 緊張の糸が切れたのか、それとも力尽きたのか、ゴトー達に続いてりしゃこ達もその身を地面に横たえたのだ 「ちょっと?どうしたの!? ・・・スタッフゥー!担架っ!担架っ!ほら、急いでっ!早く早くっ!」 ゴトー達の容体を診ていたヤススが慌ててりしゃこ達の元へ駆け付け、大会スタッフに担架を促した やがて担架が到着し、載せられて退場していく四人・・・ どうやら生命に別状はないことをヤススが観客にアピールし、会場内から安堵の声が洩れた そして、力の限りを尽くして戦ったその四人に、改めて会場内からより暖かい拍手と歓声が沸き起こった・・・ そこでふと、ヤススが四人の顔を覗き込んだ すると、ヤススの顔が思わず綻んだ 「あら、この娘たち・・・」 四人の顔は、皆、一様に満足気な表情を浮かべていたのだ そして試合終了の同時刻― 「・・・うそ?」 「マジでっ!?」 アジトにてゴトー達の試合を水晶玉にて“監視”していたミキ帝とアヤヤが絶句した 「負け・・・ちゃったの・・・?」 「そうみたい・・・信じたくないけど・・・」 動揺が納まらない二人は口々にそう言い合った ミキ帝、アヤヤの二人は自分達より弱い者は例えそれが先輩であろうとも見下し、蔑む・・・ といった傲慢なところがあったが、ことアベナッチ、ゴトーの二人には流石に一目を置いていた 昔、ミキ帝達は力試しに二人に挑んだことがある 二人が『暁の乙女』の歴代エースに相応しい力量の持ち主かどうか、純粋に試してみたかったのだ 当時、ミキ帝もアヤヤも頭角を現し、二人を追い抜かんか、という勢いだった 若さ故の・・・というのもあったのかも知れない しかして、結果は惨敗・・・ 傍から見れば善戦したかのように見えただろうが、力の差は歴然だった それを肌で実感し、痛感させられた そのことがあって以降、ミキ帝達は表に出すことこそしなかったが、ずっと、二人を“目標”として追いかけていたのだ・・・ だから時が経ち、再びゴトー達に勝負を挑んで勝利した時は二人して抱き合って喜んだ それだけ“高い壁”だったのだ― ミキ帝達にとって“高い壁”であったゴトー達・・・しかし、その二人が敗北したのだ それも、まだ幼さの残る二人の少女に・・・ その驚愕の事実を受け止め切れずに、二人はしばし茫然自失としていた しかし、二人はやがて現実に引き戻されてしまう 「アヤちゃん!?早くあの二人を“回収”しに行かなきゃ!」 「・・・あっ!」 そう、ゴトー達はりしゃこ達との激闘によるショックで、コンの“秘術”の“支配”から解放されてるかも知れないのだ それにもし、術が解けてなかったにせよ、ユーコによって“秘術”を“解除”されることも十分あり得る せっかく手に入れた“持ち駒”を手放したくない・・・その想いから二人は準備もそこそこに得物を手にして表へと飛び出していった・・・ しかし、数秒後・・・ ガラガラガシャーン!! ドスッ!! ドスドスッ!! チュドーン!! ボカーン!! 「・・・ケホッ!ケホッ!」 「罠仕掛けてたの・・・忘れてた・・・」 「それ、先に思い出してよ・・・!」 ・・・気を取り直して再度表へと飛び出した二人 だが、その前には“障壁”が立ちはだかっていた 「悪いけど、ここから先は通行止めやわ!」