「くっ・・・!」 「あんたたち・・・」 ミキ帝達の目の前には女王のお庭番・アツコをリーダーに『輝く女神』のメンバー達が陣取っていた 「大方ゴッちん達を連れ戻しに行くつもりだろうけど、そうはさせないよ!」 とサイトーさんが言えば 「それに、ウチのリーダーにケガさせた借りも返さなアカンし!」 とユイヤンも腕をさする 「ハンッ!そんだけの頭数でアタシらを止められると思ってんの!?」 「じゃあ、オレ達が・・・」 「助太刀しますわよ!」 「!?」 『輝く女神』のメンバーとミキ帝達のにらみ合いに、マイミン、エリカンが割って入った 「この二人がここでやろうってんなら待ち伏せしてる意味なんてないからな」 「その通りですわ。アタシもまだるっこしいのは嫌いですし」 「オレ達もこないだいいようにコキ使われた恨み・・・今、ここで晴らさせてもらうぜ!」 そう言い終えるとマイミン達は素早く臨戦体勢に移った 「ちぃ・・・!」 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ怒りを抑え切れないミキ帝・・・ そのミキ帝の肩に、アヤヤが手を置いた 「アヤちゃん・・・」 「ミキたん・・・落ち着いて」 予想外の事態に歯噛みするミキ帝・・・ 思い通りにいかない焦りと苛立ちから怒りに任せて飛びかかろうとした時、アヤヤがそれを制した 「ミキたん、ここは退こう・・・歩が悪すぎる」 既に腰に下げていた得物を抜き放つところまできていたミキ帝も、珍しく慎重なアヤヤの言動に行動を思いとどまった 「わかった・・・でも、どうするの?」 少し呼吸を置いた後、アヤヤが切り出した 「忘れたの?アタシらには“人質”がいるじゃない?」 「あっ!」 アヤヤの口から出た“人質”という言葉にピンときたミキ帝は思わず嬌声をあげ、ニヤリと微笑んだ そして、改めて正面に向き直ったミキ帝はアツコ達に、 「ちょっとあんた達!」 と呼び掛ける ミキ帝に『あんた』呼ばわりされてムッときたアツコが 「ちょっとアンタ!なんや!目上の人にそんな口のきき方はないやろ!?」 と憤慨するが、それでもお構い無しにミキ帝は一気にまくし立てた 「ちょっとあんた達、重要なこと忘れてるんじゃない? ・・・例えば、大事な“仲間”のこととか?」 「「!!」」 ミキ帝に言われて、アツコ達は改めて気付かされた ヤグーやサトタが、まだミキ帝達の手の内にあることを・・・ 予想外の事態に歯噛みするミキ帝・・・ 思い通りにいかない焦りと苛立ちから怒りに任せて飛びかかろうとした時、アヤヤがそれを制した 「ミキたん、いい?ここは冷静になって・・・」 既に腰に下げていた得物を抜き放つところまできていたミキ帝も、珍しく慎重なアヤヤの言動に行動を思いとどまった 「わかった・・・でも、どうするの?」 少し呼吸を置いた後、アヤヤが切り出した 「忘れたの?アタシらには“人質”がいるじゃない?」 「あっ!」 アヤヤの口から出た“人質”という言葉にピンときたミキ帝は思わず嬌声をあげ、ニヤリと微笑んだ そして、改めて正面に向き直ったミキ帝はアツコ達に、 「ちょっとあんた達!」 と呼び掛ける ミキ帝に『あんた』呼ばわりされてムッときたアツコが 「ちょっとアンタ!なんや!目上の人にそんな口のきき方はないやろ!?」 と憤慨するが、それでもお構い無しにミキ帝は一気にまくし立てた 「ちょっとあんた達、重要なこと忘れてるんじゃない? ・・・例えば、大事な“仲間”のこととか?」 「「!!」」 ミキ帝に言われて、アツコ達は改めて気付かされた ヤグーやサトタが、まだミキ帝達の手の内にあることを・・・ 「気付いたようね・・・“立場の違い”ってやつを!」 「くっ!」 まさかの立場の逆転に、今度はアツコが思わず歯噛みした 実のところ、血気にはやるミキ帝達を挑発し、アジトから引き離し、 混戦のどさくさに紛れてヤグー達を連れ出すのがアツコ達の“真の狙い”だったのだ しかし、その目論見が脆くも崩れ去った上、弱みを握られてしまった・・・ 「どうする、アヤちゃん・・・♪」 「そうねえ・・・!?」 「?・・・どしたのアヤちゃん?」 ミキ帝は何か名案を思いついたような様子のアヤヤを見つめる 「いいこと思いついた!!」 見つめるミキ帝にアヤヤは微笑んでみせた そして、アツコ達の方へ向き直ると、とんでもないことを口走った 「アタシ達は、あなた達に、アベナッチ、ゴトー両名の身柄の引き渡しを要求する!!」 「「!!」」 アヤヤの一言に敵のアツコ達はおろか、仲間であるミキ帝でさえも絶句した しばしの間、沈黙が続いた後、ようやくアツコが口を開いた 「ちょっとアンタ!自分何言ってんのかわかってんの!?」 罵声にも似たアツコの問いかけにもアヤヤは涼しい顔で答えた 「モチロン♪・・・そしてあなた達はアタシの要求に応えなきゃならなくなるのよ・・・!」 誰もがアヤヤの発言に何か引っ掛かるものを感じていた・・・ だが、それがスッと出てこないもどかしさ それがアヤヤの次の一言で解決した 「別にいいのよ、あの二人がどうなったって・・・ 最初から“仲間”なんかじゃないし・・・ でも、困るのはそっちじゃないの?・・・本当の“仲間”だからね まさか放っておけないでしょ?」 「アヤちゃん・・・」 アヤヤの冷酷な発言に、味方であるミキ帝が一番動揺した 「それ・・・本気なの!?」 「うん、本気よ・・・」 ミキ帝の問いかけに対し、アヤヤは振り向くことなく答えた 「でも、それって冷たすぎや・・・」 「ミキたん!」 「!」 ミキ帝の言葉を遮り、アヤヤは言葉を続けた 「いい?ミキたん・・・ アタシ達は自分達の“意思”で戦ってる・・・わかるよね?」 「・・・うん」 「でも、あの二人は決して自分達の“意思”でこの計画に参加してるワケじゃないよね?・・・」 「・・・!?」 「そう、コンちゃんの“傀儡の術”で一時的に操られて“駒”として協力してもらってるだけ・・・ だから、もし“術”が解けたら、きっとアタシ達の前に“敵”として立ちはだかるわ!」 「・・・!!」 「わかって?・・・アタシ達の“仲間”はアタシとミキたん、そしてコンちゃんしかいないのよ」 「そうだったね・・・忘れてたよ・・・」 アヤヤの言葉に、ミキ帝は少し寂し気に呟いた アベナッチとゴトー・・・ 長い間、行動を共にしてきたことでミキ帝は二人が“仲間”だという錯覚に陥っていた しかし、二人はアヤヤとは違い、志を同じくする“仲間”ではない ただミキ帝がその力を利用しているだけの“持ち駒”・・・ その“持ち駒”に何の感情が必要だろうか? 落ち着きを取り戻したミキ帝はアヤヤの言葉をもう一度反芻した後、アツコ達にこう告げた 「アタシの“仲間”はアヤちゃんだけ・・・ いいよ、別にあの二人がどうなったって構わないよ・・・ もう“仲間”じゃないから・・・」 毅然としたミキ帝の態度にアツコは歯ぎしりをする その様子を見て、ミキ帝は満足気な笑みを浮かべ、さらに追い討ちをかけるように言葉を続けた 「でも、そっちは平気なの? ヤグーもサトタも大事な“”なんじゃないの?」 「くっ・・・!」 冷静になったミキ帝に痛いところを突かれ、アツコ以下メンバーは返す言葉なく悔しさを滲ませる だが・・・ 「やれるモンならやってみたらどうやねん?」 「「・・・!!」」 その場にいた全員が声のする方を振り向いた その先には、城で待機してたハズの女王・ユーコの姿が・・・ 「ユーちゃん・・・!」 「アッちゃん、お待たせ・・・」 まさに疲労困憊、といった様子のユーコ しかし、その表情は明るかった 「うまくいったの!?」 「はぁ?ウチを誰やと思てんの!?『女王』やで、『女・王』!」 「じゃあ・・・!」 「ああ、バッチリや!」 ユーコの一言に、アツコ達は歓声で沸き返り、ミキ帝達はそのはしゃぎように唖然としていた しかし、しばらくして状況を把握し始めたミキ帝が口を開く 「『バッチリ』って・・・まさかっ!?」 「そう、そのまさかや! さすがにプロテクトが厳重やったから“解呪”するのに手間取ったけどな!」 「くっ・・・!」 まさかの結果に苦虫を噛み潰した顔になるミキ帝とアヤヤ アドバンテージが無くなり、いつしか表情には余裕がすっかり消えていた そして、さらに追い討ちをかけるようにユーコが合図した 「みんな!早くこっちに連れて来ぃや!」 ユーコの一声を合図に、数人の人影が背後から現われた 「・・・!!」 その数人の姿にアツコ達は歓喜し、ミキ帝達は茫然自失となった 「コンちゃん・・・!?」 それもそのはず、人影の中に捕縛されたコンの姿が・・・ 「女王様・・・『反逆者』・コン、ここに捕えましたっ!」 『暁の乙女』を代表して、隊長・アイオーラが女王への報告事務的に行った その口調や振舞いは、実に淡々としたものだった しかし、ユーコは気付いていた 淡々と報告を行ったアイオーラではあったが、その心中は決して穏やかではなかったことを・・・ かつての“同期”・コンの王国への裏切り行為・・・そして、罪を犯したコンを自らの手で捕縛しなくてはならなかったことへの無念の思い・・・ アイオーラがユーコへ行った事務的な報告は、隊長としての威厳を保つため、 己の感情を押し殺しての精一杯の振舞いだったのだろう・・・ そんなアイオーラの辛い心中を察し、ユーコは労いの言葉をかけた 「ごめんなアイちゃん、嫌な役回りさせてもて・・・」 しかし、アイオーラは気丈にも 「いえ・・・罪を犯した者を捕えるのもワタシ達の仕事です それがたとえ親兄弟であっても“同期”であっても、です」 と答えた 「そっか・・・おおきにアイちゃん」 そう言うと、ユーコはアイオーラの肩をポンと叩いた そして、改めてミキ帝達に向かって叫んだ 「あんたら!あんたらの“仲間”・コンは捕まえた!」 まさかの逆転劇にミキ帝達は悔しさのあまり、言葉に詰まってしまった だが、次のユーコの発言に、今度はアツコ達も言葉を失った 「コンちゃんはそっちに帰したる・・・」 「ハァ!?どーいうつもりだぁ!?」 ユーコの意外な言葉にミキ帝も思わず聞き返した 「言うたやろ?・・・コンちゃんはそっちに帰したる、って ・・・但し!」 「但し〜?」 「その見返りとして、サトタとヤグを返してもらおうか!」 「!!」 突然、ユーコから持ちかけられた“取り引き”にミキ帝達は戸惑ってしまう そして、互いの顔を見合せて『作戦会議』が始まった 「アヤちゃん、どうする?」 「・・・不味いよね」 「畜生!・・・あと一歩ってとこだったのに!」 ユーコからの“提案”、いや、“要求”に対し、答えに窮する二人 交渉の主導権を握ったユーコはさらに畳み掛ける 「ホラ、コンちゃん!・・・もう戻ってもええよ」 なんと、縛られているコンの背中をポンと押して、ミキ帝達の元へ行くように仕向けてるではないか 背中を押されたコンは一瞬驚いた表情をしてユーコの顔を少し見つめた後、俯き加減でゆっくりとミキ帝達の方へと歩き始めた 一歩、また一歩・・・ どこか躊躇いがちに・・・ きっと自分の失態に対する後ろめたさを感じているのだろう・・・それが痛い程窺い知れた 片や、その様子を眺めていたミキ帝達・・・ 「・・・」 「どうする・・・?」 なかなか決心のつかないミキ帝に、しびれを切らしたアヤヤが問いかけた しかし、それでも決心のつかないミキ帝 アヤヤの問いかけからしばし沈黙が続いた 「ミキたん!?」 業を煮やしたアヤヤが強く問うた 「・・・わかったよ」 沈黙を守っていたミキ帝がようやく口を開いた そして、ミキ帝の口から出てきた言葉は、ある種意外なものだった 「・・・返してやるよ。但し、サトタだけだ!」 ユーコからの“要求”に全面的にではないにせよ、ミキ帝がすんなりと応じたのだ 「ミキたん・・・」 ユーコの“要求”に潔く応じたミキ帝の姿勢にアヤヤも驚く しかし、内心“要求”に応じるのでは、とアヤヤも考えてはいた 何故なら、今までの計画・作戦を一手に担ってきたのは他ならぬコンだったからだ そして、その都度、多少の誤差はあれどミキ帝達の求める結果を出してきたのだ それだけコンの“頭脳”としての役割は重要であり、これからもミキ帝達の参謀役として働くのは ミキ帝達の“目的”が成就するまで変わることはないであろう 最早、それほどまでにミキ帝達の中でのコンの占める役割は大きくなっていたのだ アベナッチ、ゴトーの“呪縛”が解けた今、ミキ帝達の最重要項目は『コンの奪還』、そのことに変わっていった だから、ミキ帝はユーコとの交渉に応じる気になったのだ しかし、人質の解放の“条件”にはミキ帝も譲れないものがあった 『ヤグーを返さない』・・・この点である ヤグーはミキ帝達の計画に乗っておきながらも土壇場で裏切った“裏切り者” 加えて、人質の2対1の交換はあまりにもムシが良すぎるし、最後の切り札として、人質を一人は確保しておきたかったからだ そんな“思惑”があって、ミキ帝はヤグーの解放だけは断固として応じないつもりだった 「ほう・・・あくまでもヤグは返さへん、っちゅうワケやな?」 ヤグーの解放を拒んだミキ帝にユーコがドスの利いた声で凄む 「呑めるワケねーじゃん!?何で2対1で交換なんだよ!?数が合わねーじゃん!?」 ユーコの威圧に怯まずミキ帝も我を通す 「いや、ヤグも返してもらうで! そっちにとって、コンちゃんは大事な司令塔やからな!・・・それぐらいの価値はあるやろ?」 「そうだったとしても! 2対1は欲張り過ぎだろババア!」 「・・・なんやて?このくそガキ!何やったら今ここでやったるぞゴルァ!」 「ユ、ユーちゃんアカンて!・・・ほら、落ち着いて落ち着いて!」 ミキ帝の挑発に熱くなったユーコをアツコがなんとか制止する 対するミキ帝の方は血気盛んなミキ帝をアヤヤが引き留めていた しばらくして・・・ 落ち着きを取り戻した両者の間にアヤヤとアツコが入って交渉を進めていった 結局、ユーコのヤグーの引き渡し要求は通らず、サトタのみがユーコ達の元へ戻ってくる格好となった 「女王様・・・スミマセンでしたっ!」 「ええよ・・・済んだことはしゃあない それよかアンタが無事戻ってきたことの方が大事やから・・・」 人質に取られたことを恥じ、申し訳なさげに戻ってきたサトタにユーコは優しく労いの言葉をかけた・・・ かのように見えたが、実はユーコは密かにサトタに耳打ちをしていた (どやった?うまくいった?) それに対し、サトタは (ええ・・・なんとか・・・) と返答した その返答にユーコは (そっか!ようやってくれた!) と、思わず口角を弛ませた が、それも束の間、すぐに顔を引き締め真剣な表情に戻った そして、一言呟いた 「あとは頼んだで、メーグル・・・」 そして、一方のミキ帝達は・・・ 「スミマセンでした・・・」 サトタ同様、俯き加減でコンは二人に“帰還報告”を行った その姿にはいつもの暢気なコンらしさが微塵も感じられなかった 二人は落胆した様子のコンをしばし無言で見つめ、そして一度深呼吸をして、ただ一言だけ言った 「・・・帰ろう」 「!!」 ミキ帝達は叱責することなくコンを迎え入れたのだ それまでずっと俯き加減だったコンが、今度はその場に崩れ落ち激しく嗚咽し出した 「・・・ごめんなさいっ・・・ごめんなさいっ!」 か細い声で呻くコンを、二人がそっと優しく手を差し伸べた 「もういいよ・・・帰ろう」 「済んだことは仕方ないじゃん・・・ほら、立って!」 「・・・ハイ」 二人に抱き抱えられる格好で、コンはようやく立ち上がり、ミキ帝達と連れ立ってアジトへと戻っていった・・・ 女王達とミキ帝達の主導権を巡る激しい駆け引きが終わり、やがて夜を迎えた そしてミキ帝達のアジトでは― コンコン・・・ 「コンちゃん、入るよ?」 ガチャ・・・ ガチャガチャ!! コンコン!! コンコン!! 「コンちゃん!?」 「何してんのアヤちゃん?」 「あ・・・ミキたん」 コンの部屋の前で狼狽えているアヤヤを見かけてミキ帝が声をかけた 「あのさ、コンちゃん元気なかったじゃん? だから、アタシ様子見にきたの」 「見ればわかるよ ・・・でも今はそっとしておこう」 「ミキたん・・・」 「それにアタシらも自分の心配をしなきゃならないからね 正直、構ってるヒマはないよ」 「うん・・・」 「じゃあ行くよ!」 コンを巡っての重苦しい雰囲気から逃れるようにミキ帝はアヤヤをコンの部屋の前から引き剥がした ・・・今、コンの部屋の中で、ある『計画』が渦巻いていることも知らずに・・・ 一方、ハロモニア城内 ガチャ・・・ 「どう、ケイちゃん?」 「あ、ユーちゃん?」 ユーコが訪れたのはハロモニア城内の医務室 その室内でアベナッチ、ゴトー両名の看病してたヤススに二人の容体を尋ねた 「どう?」 「うん、まぁとりあえず大丈夫ってトコかな? あとは二人の体力と回復力次第ね・・・」 「ケイちゃんホンマおおきにな 審判役から医務までやってもろて・・・」 「いいのよ。ユーちゃんのためならお安い御用だから!」 献身的なヤススの看病にユーコが礼を言う そして、そんなやりとりがあった後、ユーコが“あること”を口にした 「・・・せやけどあの二人、あれだけの魔法をモロに食らってよう軽症で済んだなぁ・・・ ホンマ、“アレ”のおかげやろなぁ」 「あっ!アタシもそう思った! 多分“アレ”のおかげで軽症で済んだんだろな、って」 ヤススもユーコの“憶測”に同意する 「でも、今回不幸中の幸いやったんはミキ帝らが“アレ”のこと全然気付いてへんかったことやな! ・・・もし、“アレ”に気付いとったらウチら負けてたかもな・・・」 ユーコとヤススが“アレ”についての憶測を交わしているところに、急に背後のベッドから声がした 「んあ・・・?」 「!?」 その声に反応して二人が振り向くと、今まで眠りについていたゴトーが目を覚ましていた 「「ゴッちんっ!?」」 そう叫ぶや、嬉しさのあまり二人はすぐさまベッドに駆け寄りゴトーに抱きついた 「あっ・・・!」 起き抜けで思考が働かないゴトーは二人の突然の抱擁に戸惑ってしまう 「え?・・・あ・・・何・・・?」 ゴトーが状況が把握できてないのを察知したユーコは 「あ、ああ、そやったな・・・ まだ目ぇ覚めたばっかりで何もわからへんもんな・・・」 と気遣った後、改めてゴトーが元に戻ったことを心から喜んだ 「・・・おかえりゴッちん!」 ヤススも少し涙を浮かべながら 「ホント・・・おかえりゴッちん!」 と祝福する その二人の喜びようにゴトーも状況が飲み込めてはなかったが幸福感に満たされつい泣き顔になってしまった 「うん・・・ただいま!」 しばらくの間、三人が喜びを分かち合い嗚咽する中、また声が聞こえてきた 「・・・んん・・・もう・・・うるさいなぁ〜・・・」 三人にとっては懐かしい、朴訥で温かみのある声・・・ 三人が揃って声のする方へ振り向いた 「「ナッチ!!」」 「・・・ん?・・・あっ!!」 起き抜けの目に飛び込んできた懐かしい顔ぶれにアベナッチは思わず驚嘆の声をあげた そして、程なく驚嘆の声は嗚咽へと変わっていった 「うぅ・・・ユーちゃん・・・ケイちゃん・・・う・・・うわぁぁぁーっ!!」 「・・・ナッチ・・・もう大丈夫・・・大丈夫だから・・・」 「うぅ・・・えぐっ・・・ひっく・・・」 必死にしがみついて泣きじゃくるアベナッチを、ユーコは何も言わずにそっと温かく包み込んだ アベナッチの慟哭が意味するもの、それは、長い間、閉ざされた闇の中に囚われ続けていた孤独と苦痛、 そして、闇からの解放による安堵・・・ そういった複雑な感情の爆発の現れなのだろう しばし四人が再会の喜びを噛みしめている中、それまで静かだった医務室が急に騒がしくなったことで駆けつけた者達がいた ドンドンッ!! ガチャッ!! 「女王様!何事ですかっ!?」 突然の騒ぎに隣の部屋で待機していた『暁の乙女』アイオーラ、ガキシャンの二人が急ぎ駆けつけた 「あ、ああ・・・大丈夫大丈夫・・・うるさかった?ゴメンな、起こしてしもて・・・」 女王という体裁もあって、ユーコは普段の表情に戻して二人に答えた 「あ、いえ・・・私達なら平気です。てっきり女王様の身に何かあったのかと・・・」 「相変わらず生真面目なんだね」 アイオーラが恭しくユーコに話しかけているところへ割って入る声が その懐かしい声のする方へ二人が振り向く そして声の主を見た二人は硬直し、絶句した 「・・・ア、アベさん・・・!」 「ゴトーさん・・・!」 感極まった二人は顔をくしゃくしゃにして泣き出した 「うわぁぁぁーっ!」 そして二人の“姉達”の胸に飛び込んでいった 「うぅ・・・うぅ・・・」 顔を埋め、泣きじゃくる“妹達”を“姉達”は抱き止め、優しく包み込んだ (ナッチもゴッちんもすっかりお姉さんやな・・・) 二人のお姉さんぶりにユーコも目を細める