感動的な邂逅を終えた翌朝― 


「いい?くれぐれも粗相のないようにね」 
「これからあなた達の大先輩に挨拶しに行くから、しっかり頼むわよ!」 
「「「ハイッ!!」」」 

昨晩、長きに渡る“闇の呪縛”から解放されたアベナッチ、ゴトー達への挨拶に行くため、『暁の乙女』の現メンバーが医務室前に集合していた 
まだ加入したばかりの現メンバーにとって、アベナッチやゴトーは雲の上のような存在・・・ 
なので、メンバーの雰囲気もいつもの和気あいあいとしたものではなく、緊張したものとなっていた 

「いい?開けるわよ?」 
隊長のアイオーラの合図に新メンバーが黙ってコクリと頷く 
それを確認した副隊長のガキシャンが扉の把手に手をかけた 
緊張の瞬間が迫ってきたことで固唾を呑む一同 

だが、ガキシャンは次の瞬間、何を思ったのか、 
「たのもーっ!!」 
の掛け声一閃、勢いよく扉を開け放った 

目が点になる一同・・・ 
後ろを振り返り、誇らし気に親指を立てるガキシャン 
どうやら後輩達に度胸の良さをアピールしたかったようだ 

だが、ガキシャンも含め、一同は扉の向こう側から飛び込んできた光景に更に目が点になってしまった・・・ 



ガキシャンが勢いよく開け放った扉の先に待っていた光景は・・・ 

(# `.∀´)y-~~ <ア〜ラいらっしゃい・・・ 
着替え中を堂々と覗くなんていい度胸してるわね・・・! 

なんと、ヤススの裸体であった・・・ 
大先輩の裸を目撃したとあって、メンバー一同は思考停止状態に陥り、硬直してしまう 
そんな中、扉を開け放った張本人のガキシャンが大事だと気付き、 
「ス、スミマセンッ!」 
と言い残し、慌てて扉を閉めた・・・ 

まさかのハプニングに動揺を隠せない一同・・・ 
特にガキシャンは閉めた扉の前で 

    _, ._ 
ノlc|;・e・)|ly-~~ <これはマズイことになったのだ・・・ 

と、神妙な顔つきで呻くばかり・・・ 
メンバーは落胆するガキシャンをただただ眺める他なかった 


と、そこへ、突然ゆっくりとガキシャンの背後の扉が開き出し、腕が伸びてきた・・・ 
驚きの表情を浮かべるメンバーと、そのメンバーの表情を見てハッとなり、後ろを振り向くガキシャン 

「!!」 
迫りくる腕から逃れようと飛び退く動作をするガキシャンだったが、時、既に遅し・・・ 
「捕まえた♪」 
その言葉とともに、ガキシャンは扉の向こう側へと消えていった・・・ 



「ぎゃあああ〜っ!」 

扉の向こう側からガキシャンの断末魔の叫び声が響き渡る・・・ 
密室で起きている想像もつかない惨劇に、新メンバー達はガクガク(((;゚Д゚)))ブルブルとなっていた・・・ 

そして3分後― 
永遠に続くかと思われたガキシャンの絶叫が突然途切れた 
誰もが“異変”に敏感に反応し、扉に耳をあて、部屋の様子を窺おうとした 
その途端、扉がガチャリと開いてしまった! 

ドサドサドサッ!! 

扉が開いた拍子に、隊長のアイオーラをはじめ、メンバー全員がヤススの部屋へと雪崩込んでしまった・・・ 
すかさずアイオーラが部屋の中を見回すと、仁王立ちになったヤススが見下ろす格好で 

(# `.∀´)y-~~ <ア〜ラいらっしゃい・・・ 
今度は全員で覗くなんて、とてもいい度胸してるじゃない? 

と、言い放った 

動揺の収まらないメンバー達・・・ 
と、突然そこへ、新メンバーのキャメイが叫び声をあげ、絶句した 

ただ、口をパクパクさせ、ヤススを指差すキャメイの不審な様子を見て、残りのメンバーはキャメイの指差す先を見てみた 

「!!」 

他のメンバーもキャメイ同様、絶句した 
それもそのはず、ヤススの傍らには、虚ろな目をした、全身キスマークだらけのガキシャンがいたのだから・・・ 



もはや廃人と化したガキシャンを見て、一同はヤススの恐ろしさに愕然とした・・・ 

“標的”を発見したヤススが舌なめずりをしながら一同に接近する・・・ 
その様に、一同はまるでヘビに睨まれたカエルのように金縛りにあって動けなくなってしまった・・・ 

まさに絶体絶命のピンチ・・・ 
しかしそこへ、“救いの女神”がやっと現れた 
「あれぇ〜ケイちゃん?何やってるんだべさ?」 

少し訛ってるが、温かみのある声・・・その声のする方を一同が一斉に振り返った 
「あら、あんた達・・・?」 
一同の背後にはキョトンとした表情のアベナッチとゴトーが突っ立っていた 
二人にしてみれば、何故、朝早くからこんなに大勢が部屋の前に集合しているのか、さっぱりわからない様子であった 

二人の姿を確認した途端、全員が慌てて起立し、直立不動の体勢で敬礼をした 
「アベさん、ゴトーさん!・・・この度、新しく入隊しました新メンバーの紹介で伺いましたっ!」 
隊長・アイオーラの発声の後、一同が“伝説”の二人に挨拶をした 
「「「アベさん、ゴトーさん!はじめましてっ! 
私達、お二人の“妹”ですっ! 
今度とも、よろしくお願いしますっ!」」」 



「んあ?・・・あ、ああ、よろしく・・・」 
朝に弱いのか、やや気の抜けた返事のゴトー 
それとは対照的に、 
「あら〜!みんな元気だね〜っ!あ、アタシはナッチ!みんなよろしくね〜♪」 
と、アベナッチはとても嬉しそうに“妹達”を笑顔で迎え入れた 

((よかった〜!)) 
大はしゃぎするアベナッチの様子に、新メンバーは失礼なく挨拶ができたことにホッとし、胸を撫で下ろした 
和気あいあいとした雰囲気に包まれる医務室・・・ 
しかし、茫然自失としていたガキシャンが目を覚ましたことで、またもや騒々しくなってしまう 

「う、う・・・アベさん・・・うわぁぁぁーん!」 
いきなり飛び起きたかと思うと脇目も振らずにアベナッチに突進していき、おもむろにアベナッチの胸に顔を埋めると、 
「アベさぁ〜ん!ヤススさんがひどいんですよぉ〜!」 
と、普段の副隊長としての凛々しい姿とはかけ離れた猫なで声で、アベナッチに甘えるではないか! 

「ちょっとぉ〜・・・ガキさんみんなが見てるよ! 
ホラ、泣かない泣かない♪」 
日頃からガキシャンを妹のように可愛がっているアベナッチではあったが、この甘えん坊ぶりには辟易してたしなめてしまう 



「ちょっとぉ〜ガキさん!何やってるんですかぁ〜!」 
誰もがドン引きするアベナッチとガキシャンのアツアツぶりに割って入る者が現れた 

「あ、キャメ・・・」 
「『あ』じゃないですよ、もお!アタシというものがいながら何イチャイチャしてるんですかあ!」 
新メンバーとして加入して以来、ガキシャンに可愛がられてきたキャメイがいてもたってもいられずに癇癪を起こしてしまったのだ 

すっかり膨れっ面のキャメイ・・・誰の目から見てもご立腹なのは明らかだ 
普段は飄々としているだけに機嫌を損ねると質の悪いタイプなだけに、ガキシャンも 
    _, ._ 
ノlc|;・e・)|ly-~~ <こ、これはマズイことになったのだ・・・ 

と、神妙な顔つきで呻くばかり・・・ 

だが、神妙なガキシャンとは対照的にアベナッチはニコニコとしている 
そんな様子が癇に障ったのか、 
「ちょっとぉ!?あなたも何笑ってるんですかあ!?」 
と、キツイ口調でキャメイが食ってかかる 

(((あちゃ〜・・・))) 
せっかくのいい雰囲気が、ガキシャン、キャメイの二人によって台無しになろうとしていた 
誰もが先輩であるアベナッチがキャメイに激怒するものだと思っていた 
ところが・・・ 



「あ!あんたが噂のキャメちゃんかぁ〜!なまらめんこいべさ〜♪」 

周囲の予想とは逆に、キャメイの登場に大はしゃぎのアベナッチ 
そして小走りでキャメイに近づくや否や、突然抱擁する 

「え!?あ、ちょっと・・・」 
アベナッチの突然の抱擁に唖然とするキャメイ 
唖然としたのはその場にいた一同も同じであった 
言うなれば、血で血を洗う修羅場になってもおかしくない場面で、無防備に相手に突っ込むなんて常識では考えられないからだ 
しかし、それをアベナッチは容易くやってのけたのだ 

「信じらんない・・・」 
目の前で起きている不思議な光景をポカーンと眺めている新メンバーに、ゴトーがおもむろに語り出した 
「あれがね、ナッチのもう一つの“魔法”・・・」 
「もう一つの・・・“魔法”・・・!?」 

「ガキさんから聞いてたのよ!『可愛い後輩が入ってきてとっても嬉しい』って! 
だからナッチもねぇ、とっても楽しみにしてたのよ!どんな可愛い“妹達”なんだろう?って・・・」 
「は、はぁ・・・」 
喜びを爆発させて興奮気味に語るアベナッチに対して、キャメイは怒気を削がれた格好になっていた 



「ナッチのもう一つの“魔法”はね・・・『人の心を盗んじゃう魔法』なんだ・・・」 
ゴトーがポツリと呟く 
その言葉を耳にした新メンバーは、改めて目の前の二人のやりとりを凝視した 

「・・・でさ、ガキさんがね、いっつも『キャメ』『キャメ』って言っててねぇ〜! 
だから、ナッチも『キャメ』ちゃんがどんな娘なのかな〜?って会えるの楽しみにしてたのよ!」 
いつ途切れるとも知れぬアベナッチの喜びのマシンガントークに、 
キャメイは怒りを通り越して呆れる他なかった 
しかし、そんなキャメイの頑なな心もやがて緩やかに氷解していく・・・ 

「・・・あ、あの、アベさん・・・」 
「あ、ゴメンね・・・ナッチついつい嬉しくってさ・・・ 
キャメちゃん、これからもねガキさんのこと、お願いね!」 
感極まったのか、涙ぐみながら語り続けるアベナッチ 
傍から見れば他愛のない言葉のやりとりだったかも知れない 
しかし、アベナッチの、ガキさんの喜びを我がことのように喜ぶ姿、 
自分の気持ちを拙いながらも必死にそれを伝えようする姿が胸を打ったのだろう・・・ 
やがて、いつしかキャメイの目にも光るものが・・・ 



「あ、あのっアベさん・・・!」 
アベナッチのマシンガントークが途切れた直後、ずっと聞き役に回っていたキャメイが口を開いた 
そして、思いの丈を打ち明けた 
「・・・ゴメンなさい。アタシ、イヤな子ですよね・・・」 
俯き加減で、か細い声でそう呟くように言った 
天真爛漫なアベナッチに対して、嫉妬を妬いていた自分を恥じたのだろう、そう言うのが精一杯だった 

しかし、アベナッチは予想外の反応をする 
「・・・何が?どしたのキャメちゃん、急に改まって〜!?」 

その反応に、一同は思わずずっこけそうになった 
だが、アベナッチと付き合いの長いゴトーやヤススはコクコクと頷きながら、 
「さすがナッチだわ!やっぱ天然だね」 
「あそこまで鈍感なのがナッチだよね」 
と、感心する 

「ハ、ハハッ・・・」 
二人のアベナッチの性格分析に、一同は妙に納得しながら力なく相槌を打った 

アベナッチの何気ない言葉に、ポロポロと涙をこぼすキャメイ 
そんなキャメイをアベナッチは優しく頭を撫でて、 
「ホラ、笑って!せっかくのめんこい顔が台無しだべさ!」 
と、言った 
その後、キャメイは堰を切ったかのようにポロポロと大粒の涙をこぼしながら、アベナッチの胸で泣きじゃくった 



しばらくして― 

キャメイが泣き止み、医務室が和やかな雰囲気に包まれた 
そんな中、ふと、隊長のアイオーラが 
「あの、お二人はどうして早朝から部屋に居なかったんですか?」 
と、疑問を投げ掛けた 
他のメンバーもアイオーラの問いかけに頷いた 
激闘の翌日だというのに朝早くから外出していたのは一体・・・? 
そんな素朴な疑問が頭の中に浮かんでいたのだ 

その問いかけに、二人は恥ずかしそうに答える 
「うん・・・ちょっとトレーニングを、ね」 
「そうそう、身体が鈍ってないか、気になっちゃって・・・ね」 

二人の意外な言葉に、一同は驚きを隠せなかった 
激闘後だというのに、その翌日にはもうトレーニングを再開するタフネスぶり・・・ 
と、同時にその意識の高さに深く感銘を受けたのだった 

「それにね・・・」 
ポツリとゴトーがこぼした 
「早く“あの子達”をサポートしてあげないとね!」 
「“あの子達”って?」 
「うん・・・りしゃこちゃん、って言ったっけ? 
アタシ達のせいで、この世界が危機に陥ってるんだがら」 
「あの・・・“アタシ達のせい”って・・・!?」 



ガチャリ・・・ 
「ういぃぃぃ〜・・・邪魔するでぇ〜」 

「「女王様っ!」」 
突如、何の前触れもなく女王・ユーコがふらりと部屋に入ってきた 

「いや、守衛に聞いたらみんながこの部屋に集まってるってな・・・ 
で、みんながおるからこの際、新しくわかったことを報告しようと思ってな」 
そう語るユーコの顔は曇っていた 

「それで・・・報告、というのは?」 
「ああ、そのことやけど・・・ナッチ、ゴッちん、みんなに説明したってくれるか?」 
「うん・・・」 
「いいよ・・・」 


「じゃあ・・・アベさんとゴトーさんは・・・」 
「そう・・・『時空の歪み』に巻き込まれてしまったの・・・」 
「そして、気を失っているところをミキ帝とアヤヤに拾われた・・・っていうワケなの・・・」 
「そう・・・だったんですか・・・」 
アベナッチ、ゴトーの二人が語る“事実”に、『暁の乙女』のメンバーは驚きながらもしっかりと受け止めていた 
しかし、ユーコから次に語られた“事実”には思わず耳を疑ってしまった 

「そして、最悪なことに“古の邪神”が目醒めてしもたんや・・・!」 



「な、何なんですか!?・・・その、『古の邪神』って・・・?」 
耳慣れない言葉に、ガキシャンが思わず聞き返した 
そして、周りもガキシャン同様、耳慣れない言葉にキョトンとしていた 

「う〜ん・・・」 
最初はあまり言いたくなさそうなユーコだったが、やがて、面倒くさそうに頭をポリポリと掻きながら、ぽつりぽつりと“真実”を打ち明けていった 

「ん〜・・・何から話したらええかな・・・ 
みんなも昔話で『ハロマゲドン』て聞いたことあるやろ? 
ハロモニア最大の危機、と言われた・・・」 
「はい・・・確か英雄・トゥンク様が敵対する悪魔を封印したことで幕を閉じたんですよね?」 
ユーコの語りかけに年少のミッツーが答えた 
ミッツーより年長のメンバーは知ってますよ、と言わんばかりにうんうん、と頷いてみせた 

皆が『ハロマゲドン』のことを知っているのを確認したユーコは、ふう、と大きく息をついて、意を決して再び語り始めた 
「みんなが知ってる『ハロマゲドン』は真実やないんや・・・ 
英雄・トゥンク様が封印したのは・・・」 
言うのを躊躇っているユーコの姿に全員に緊張が走る 
固唾を呑んで全員がユーコを見つめる中、ついにユーコが重い口を開いた 



「英雄・トゥンク様が封印したのは・・・ 
全知全能の神・・・」 
ユーコが全てを語る前に、誰もが驚愕した 

「そして唯一神・・・『マヤザック』・・・」 
「「「!!!」」」 
ユーコが最後に口にした言葉に、誰もが言葉を失ってしまった 

静まりかえる医務室 
無理もない・・・自分達の『神』が『悪しき邪神』であったとは・・・ 
しかも、封印されているとは到底信じられるワケがないのだ・・・ 

「それって・・・ホントなんですか・・・?」 
沈黙を破って、隊長のアイオーラがか細い声でユーコに問い質した 
ユーコは黙ってコクリと頷くのみ・・・ 

「そんな・・・」 
誰彼ともなく落胆の声を洩らした 
しかし、皆が落胆しているところへユーコが突然、服を脱ぎ始めた 
「じょ、女王様っ!?」 
ユーコの突然の行動に、一同は戸惑うが、やがてユーコの“意図”がわかると、静かにユーコの裸身を凝視した 

「これが、その証拠や」 
露になったユーコの裸身には、どす黒い紋様が全身を覆い尽くしていた 
そして、その中心部にあるものに、一同の視線が集中した 



ユーコの裸身の中心部にあるものを凝視した一同に動揺が走った 

「こ、これは・・・?」 
『マヤザック』様の・・・紋様!?」 
上ずった声をあげる一同にユーコは黙って頷く 
そして、強い口調で皆に告げた 
「そう・・・この『呪印』がウチの身体を“侵食”してるんや・・・」 

「「『呪印』!?」」 
「ああ、一口に言えば『呪い』やな・・・」 
聞き慣れぬ言葉に戸惑う一同に、ユーコは説明する 
その上で、今の深刻な事態を告げた 
「そしてこの『呪印』が現れたのが一年前・・・ 
コイツがウチがトゥンク様から継承した『光の魔法力』を奪い取っているんや・・・」 

ユーコの言葉に医務室は静まりかえる 
聞きたくなかった『真実』― 
皆、一様に俯き、黙り込んでしまった 

押し黙る一同を見ながらも、ユーコはまた、言葉を続ける 
「ウチもみんながショック受けると思たからずっと黙っとったんやけど・・・ 
でも、それも限界や・・・ 
やから、ウチはみんなに今まで隠してた“真実”を知らせたかったし、この深刻な“現実”を解って欲しかったんや」 



今までハロモニアを護ってきたユーコの『魔力』の源が、『邪神・マヤザック』によって日に日に奪われている・・・ 
という信じ難い、しかし、受け入れなければいけない“真実”に、一同は放心状態になってしまった 
この厳し過ぎる“真実”を受け入れるのに、気持ちの整理に時間が要るのだろう・・・ 
みんなが気持ちの整理を着けいる様子を、ユーコはただゆっくりと見守っていた 

そしてしばらくして― 
気持ちの整理が着いたのか、『暁の乙女』のメンバーから口々に質問が飛び出した 
「あの女王様・・・」 
「ん?」 
「どうして、こんな大事なことを、もっと早くおっしゃって下さらなかったのですか?」 
「そやな、もっと早よ言っとくべきやったんやけど・・・ 
この『呪印』が急に進行したのが三ヶ月前・・・それまで気付かんかったのもあるし・・・ 
丁度、あの『時空の歪み』による被害が多発してた時期やから、その対処に追われてそれどころやなかったからなぁ・・・」 
「そうだったんですか・・・」 
「あ、あのっ!」 
「何?」 
「その・・・『呪印』って何とかして消せないんですか?」 
「ウチも色々試したんやけど・・・アカンかったわ。ごめんな」 



『暁の乙女』の一同の疑問に対して、女王・ユーコはひとつひとつはっきりと答えていく 
そんな中、不意に隊長・アイオーラの口から今回の“危機”の核心に触れる質問が飛び出した 
「あの・・・もし『邪神』が復活したら・・・このハロモニアは一体はどうなるんですか?」 

一同の誰もが聞きたい、しかし、女王に面と向かって聞き辛かった“質問”・・・ 
その質問にユーコはしばらく沈黙し考えた後、ゆっくりと口を開いた 
「正直、どうなるかはウチにもわからん・・・ 
ただひとつ言えるんは・・・もし、『マヤザック』が復活したら、まず、また『ハロマゲドン』は起きるやろな 
そんで、あちこちで『時空の歪み』が発生して、この世界はメチャクチャになるやろ・・・」 
ユーコの言葉に一同は息を呑んだ 
ある程度は覚悟はしていたとはいえ、予想以上の結末が待っていることに愕然とした 

しかし、一同が沈黙している中、ユーコは言葉を続けていく 
「そんで自我を失くしてしもた人等は、やがて『マヤザック』に精神を支配されてしもて『傀儡』になるっちゅうワケや・・・」 
淡々と語るユーコとは対照的に、『暁の乙女』一同は明らかに動揺していた 
特に、質問を切り出したアイオーラは誰よりもその動揺はひどかった 



「アイちゃん・・・顔色悪いよ?大丈夫?」 
「!?」 

不意に隣にいたガキシャンから声を掛けられ、アイオーラはビクッとしてしまう・・・ 
しかし、他の目を気にしてか、すぐに冷静さを取り戻した後、 
「あ・・・うん、大丈夫、大丈夫!」 
と言って、心配するガキシャンに向かってややぎこちない笑顔を作ってみせる 
「?・・・だったら別にいいんだけど・・・」 
心配したガキシャンもアイオーラの振る舞いにそれ以上の追及はしなかった 

・・・が、しかし、いつものアイオーラらしくない言動をユーコは見逃さなかった 
(多分・・・何か隠してるな・・・?) 
様子にこそ気付いたものの、ユーコはそれをおくびにも出さずに話を続けていった 

「みんなえらい湿っぽいけどな、まだハロモニアがダメになるって決まったワケやないから! 
・・・ウチかて何の策も用意してないワケやないんや!」 
「「えっ!?」」 
ユーコの力強い一言に、一同の顔に今まで失せていた生気が戻っていく 
そして、誰彼ともなく 
「ホントですか!?」 
「大丈夫なんですか!?」 
と、ユーコに向かって目を輝かせながら口走った 



「ああ!大丈夫や!」 
ユーコはみんなの前で力強く言い切った 

すると、一同から口々に 
「やったぁ!」 
「よかった〜!」 
と、安堵の声が洩れた 

皆がホッとするのは当然である・・・ 
何せ一同は、今朝、突然ユーコの口から初めて『ハロモニアの危機』を打ち明けられたのだから・・・ 
全く心の準備が出来ていない中での『衝撃の告白』を受けただけに、動揺は大きかったであろうし、 
また、まだ『望み』があることに喜びを隠せなかったのも至極当たり前である 

数分後― 
安堵の喜びが冷めていくと、一同の関心やがてはユーコの言う『打開策』へと移っていく 
お互いが何かを言いたげにチラチラと顔を見合せている 
そんな様子を見たユーコは、一同に尋ねられる前に『打開策』について自ら切り出していった 

「ちょっとええか?」 
ユーコの一言に全員の視線が即座にユーコに集まり、静寂が室内を支配した 
その静けさの中でユーコが話し始める 
「みんなが気になってる『打開策』のことやけど・・・」 
みんなが固唾を呑んでユーコの発する言葉を待つ 
しかし、一同の思惑とは裏切る格好で、ユーコは 
「それは明日改めてゆっくり話すわ」 
と言った 



「「えーっ!?」」 
ユーコの“お預け”に、『打開策』の発表を心待ちにしていた者達から残念がる声が洩れた 
だが、それでもユーコの考えは変わらなかったし、同時にユーコが“お預け”をしたのには実はある“意図”が隠されてあった 
―その“意図”は後ほど判明するワケだが・・・ 


「じゃあ、ウチはこれで・・・」 
ひとしきり言いたいことだけ伝えた様子のユーコはそそくさと部屋を退出していく 
その後、部屋内ではおしゃべりが始まった 
「ふう〜・・・何かすごいことになっちゃったねー・・・」 
「そうですよね・・・アタシ達、どうなるんだろ・・・」 
「女王様、『打開策』のこと話してくれなかったけど・・・ホント大丈夫なのかなぁ〜・・・」 
ユーコの「肩透かし」に誰もがガッカリしてため息を洩らす中、一人だけ精力的に動く者がいた 

「あのー、アベさんゴトーさん!・・・女王様の言う『打開策』について何か聞いてないですか?」 
「あーゴメンねアイちゃん!実はね、ナッチも何も教えてもらってないんだー!」 
「ゴトーさんは・・・?」 
「アタシも・・・教えてもらってないよ・・・」 
「そう・・・ですか・・・」 



精力的に動き回ったのは、隊長のアイオーラであった 
『隊長』という責任のある立場がそうさせるのか、それとも、別の“意図”があったのか・・・ 

そんなアイオーラの頑張りを不憫に思ったのか、その様子を傍から見ていたヤススがこっそりとアイオーラに声をかけた 
「アイちゃん・・・」 
「ハ、ハイッ!」 
「あのね・・・アタシ、ユーちゃんから口止めされてるんけど、そんなに“あのこと”が気になるんだったら・・・ 
チョットぐらいなら教えてあげてもいいわよ」 

まさかのヤススの一言に思わずアイオーラは 
「えっ!?ホントですか!?」 
と叫んでしまう 
それに慌てたヤススがアイオーラの口を咄嗟に手で塞ぎ、 
(しーーーーっ!静かに!) 
と少したしなめる 
その後、アイオーラにこっそり 
(・・・じゃあ、今晩九時にアタシの部屋にいらっしゃい♪) 
と耳打ちして立ち去っていった 

二人のやりとりがあった後も、室内はユーコの発言に噂しあっていた 
・・・どうやらアイオーラとヤススのやりとりは誰の目にも不自然に写っておらず、気に留める者もいなかったようだ 



「じゃあ、そろそろアタシも失礼するわ!」 
そう言うと、ユーコに続いてヤススもそそくさと部屋から退出していった 
すると、ヤススが出ていったのをきっかけにアベナッチ、ゴトーの両名も 
「ナッつぁん、そろそろウチらも行こか?」 
「そだね!」 
と、言い残し、部屋から退出してしまった・・・ 

主の居なくなった部屋に残されてしまった『暁の乙女』達・・・ 
「・・・どうします?」 
手持ち無沙汰になったキャメイが隊長のアイオーラに尋ねる 
それに対し、アイオーラは少し考えて 
「もう用事がなくなったし・・・行こっか!」 
と、答えた 
その返事に、敬愛する“先輩”との再会に興奮醒めやらないガキシャンが 
「そうしよ!じゃあ、アタシ達もアベさん達に負けらんないからこれから朝練ね!」 
と、張り切って答えた 
まったりモードだった周囲からは当然、ブーイングがあがる 
「「えーーーっ!?やだーっ!!」」 
しかし・・・ 
「コラーーーッ!!たるんでる!たるんでるのだ! 
あのアベさんだってケガしてて痛いハズなのに、それをおして朝から訓練してるんだから! 
アタシ達はもっと頑張んないと!ホラ、立って立って!」 
「ガ、ガキさん・・・」 
「こ、怖い・・・」