ゴトーが披露した『愛の装甲機神』の“秘技”の興奮が醒めやらぬ室内で、りしゃこ達とユーコ達の雑談はまだ続いていた

「あの・・・ちょっと気になったことが・・・」
「ん?どないしたん?」
ミヤビがユーコに前から感じていた疑問を直接ぶつけた
「あの、アタシ達の試合中に女王様の声が聞こえたんですけど・・・?
あと、お二人が試合中に突然、動きが止まったのは・・・?」

ミヤビの疑問にユーコが答える
「ああ、アレね・・・
あの時、ちょうどメーグルと一緒にナッチ達を操ってた“装置”の破壊作業をやってたんよ
で、二人の動きが止まったんは、ちょうど“装置”の心臓部分の『黒水晶』を破壊した直後やったんよ」
「へぇ・・・そうだったんですか!」
ユーコの“陰の苦労”にミヤビが感心したのを見て、ユーコはすっかり気をよくしたのか、
「そうなんよ!いやぁ、あの作業はホンマ骨が折れたわ!」
と、口が軽くなった
「そんなに、大変だったんですか・・・」
「まあ、ね
けっこう“核”の『黒水晶』はメチャクチャ硬いから壊すのが大変やったんよ・・・
せやけど、“コイツ”のおかげでうまくいったわ!」

そう言ってユーコがみんなの前に差し出したのは、一振の刀であった
「この霊験あらたかな神刀・『黄泉路(よみじ)』のおかげで悪い“縁”を“切る”ことが出来たわ!」
ユーコは誇らし気に語る
成る程、ユーコが自慢するだけあって、言われてみれば、刀身から“霊気”が出てるような気がする
しかし、りしゃこ達には『黄泉路』なんて言葉を知っているハズもなく―
「よもぎ!?」
「イボ痔!?」
と、見当外れの言葉ばかり出てくる
やや辟易するユーコ
その様子を見るに見兼ねたゴトーがりしゃこにそっと耳打ちする
すると、ゴトーから答えを教えてもらったりしゃこはニヤリと笑って大声で答えを言った

州*‘ o‘リ<みそじ!!

その瞬間、ユーコの表情が“鬼”の形相へと変わった・・・
「なんやて!?『三十路』やとーっ!?」
“正解”を教えたハズのゴトーはりしゃこの“暴発”に目を白黒させて困惑し、
自信満々で答えたりしゃこは、ユーコの“鬼”の形相にすっかり縮み上がっている
二人に悪気はなかったのだが、いかんせんタイミングが悪かった・・・
「『三十路』っちゅうたんはこの口かっ!?この口かっ!?」
そう叫ぶや否や、ユーコはりしゃこの頬っぺをがっちり掴んで思い切り引っ張り上げ、お仕置きをしたのだった


そんな騒々しいやりとりも一段落して―

「なぁ・・・自分ら・・・」
先程までの大荒れぶりとは打って変わり、ユーコはりしゃこ達を見つめて静かに語りかける
いつになく神妙なユーコの語りかけに、りしゃこ達にも緊張が走った
「ホンマ・・・ありがとうな!
このハロモニアを救うために、何も言わんとウチらに力貸してくれて・・・」
そう言うと、ユーコはりしゃこ達に突然頭を下げた
一国の女王が平民の少女達に頭を下げるなんてあり得ない出来事に、りしゃこ達は困惑した
「じょ、女王様っ!?頭を上げて下さいっ!」
「そ、そうですっ!アタシ達、自分達の意思でやってるんですからっ!」
そう言って頭を下げ続けるユーコに何とか頭を上げてもらおうとする
りしゃこ達の困惑を察知したアベナッチ、ゴトーが何とかユーコの上体を揺り起こしたが、それでもユーコの感謝の言葉は続いた
「ホンマのこと言うたら、ウチはいっぺんは諦めてたんや・・・」
「何を・・・ですか?」
「何を?この、ハロモニアの崩壊を阻止するんを、や」
ユーコの思いがけない言葉に、りしゃこ達は驚く
まさか女王自身が、一時的とはいえ、ハロモニア崩壊の阻止を諦めていたなんて思いもよらなかったからだ

唖然とするりしゃこ達に、ユーコは少し間を置いて、再び語り始めた

「まあ、それもしゃあないわな・・・
『マヤザック』の“封印”と引き換えに、英雄・トゥンク様も“異世界”に飛ばされてしもたんやし・・・
おまけに“封印”の“鍵”の“石”も効力を失くしてしもたからな」

((“石”!?))
ユーコの発した“石”という言葉に、りしゃこ達全員の脳裏に“あるもの”がよぎった
それはりしゃこ達の出会いが“偶然”などではなく、“必然”であったことを裏付けるもの―
それは・・・

「女王様・・・もしかして・・・!?」
「ああ、そのまさか、や!」
今まで淡々と語っていたユーコの顔が突然、綻んだ
「そう・・・それや!」
いつの間にかりしゃこ達がユーコの目の前に差し出していたもの・・・
七つの『護神石』と、『賢者の石』―

「これが・・・『邪神』の“封印”の“鍵”なんですか!?」
りしゃこ達を代表してサキが尋ねると、ユーコは黙って頷いた
しかし、りしゃこ達にはそのことがピンとこないらしく、
「でも・・・これのどこが“鍵”なんですか?」
と、ユーコに再度尋ねた

「その“石”は元々コイツに収まってたんや」
そう言って、ユーコは何かしら金属製の長い棒をりしゃこ達の目の前に差し出した
「これは・・・?」
目の前に差し出された長い棒を見て、ミヤビがユーコに尋ねる
「見ての通り、“鍵”や!」
「まんまかよっ!?」
確かに、金属製の長い棒は巨大化した“鍵”のように思えたが、
ユーコのそのまんまな言葉に、ついうっかりミヤビはツッコミを入れてしまった・・・

ズビシッ!!
「グエッ!!」
「・・・さ、続き続き!」
女王の逆鱗に触れて地獄突きを食らったミヤビを気の毒に思いながらも、一同はユーコの話に耳を傾ける

「元々りしゃこの持ってる“賢者の石”は、この“鍵”に嵌め込まれていたんよ
この“鍵”が“封印”としての役割を為すように、な・・・」
「そうだったんですか・・・」
「ところが、や!
この“鍵”で『マヤザック』を異次元に“封印”した際、“賢者の石”もどこか異次元に飛んでいってしもたんや!」
「・・・てことは?」
「そう・・・“鍵”の“封印”の力は不十分やった、ってことや
やから、『マヤザック』も“封印”の力が弱まってるのをいいことに、徐々にこの世界にも干渉し始めてる、っちゅうワケや!」

「じゃあ・・・“鍵”に“賢者の石”をもう一度嵌め込めば・・・!」
「そや!“封印の鍵”の復活や!」
ユーコの力強い言葉に、りしゃこ達も目を輝かせる
しかし、ユーコは浮かれるりしゃこ達を落ち着かせる
「まぁ待ちぃや!まだ話は終わってないで!
“封印の鍵”が復活するからって浮かれるのはまだ早いで!」
「え?・・・でも」
「さっきも言うたけど、“賢者の石”は異次元に飛ばされていったんやで!」
「それは・・・そうですけど・・・」
「実はな、“賢者の石”の効力が切れてるんや」
「「!!」」
ユーコの一言にりしゃこ達はハッと気が付いた
確かにりしゃこの持ってる“賢者の石”は本来の虹色ではなく、透き通った透明だった
何か気付いた様子のりしゃこ達にユーコが言った
「そういうこっちゃ
今の“賢者の石”からは力が無くなってる
せやけど、“護神石”を使ってもう一度力を注ぎ込めば元通りにはなるやろ」
ユーコに指摘されて、りしゃこ達は再度ハッと気付かされた
と、同時に表情も明るくなっていく
「じゃあ、アタシ達は何をしたらいいんですか?」
「ん?別に特別なことは何一つせんでええ
後で“護神石”を使って“賢者の石”に力を注ぎ込む作業を手伝ってもらうくらいやな」

「じゃあ早速アタシ達、“賢者の石”に力を注ぎ込みますっ!」
「おっ!そうしてくれるか?」
「「ハイッ!」」
早速“邪神”を“封印”する“鍵”を完成させるべく、りしゃこ達は“賢者の石”に力を注ぎ込む作業に乗り出す提案をし、
ユーコはそれを即座に了承した
「ほな、ウチがやり方を教えるたげるよ!」
「「お願いしますっ!」」
そう言ってユーコとりしゃこ達は部屋を後にした

「じゃあゴッちん、ウチらはどうしよっか?」
「そんじゃ“妹達”に稽古でもつけに行こっか?」
「いいね〜!じゃ、行こ♪」
「行こ行こ♪」
ユーコやりしゃこ達の後を追うように、アベナッチ、ゴトーの二人も部屋から退出した


そして迎えた昼―
「ふう・・・お、もうお昼や!みんなメシにしようや!」
「「ハイッ!」」
“賢者の石”に魔力を注ぎ込む作業を始めて約一時間、りしゃこ達も慣れない作業に神経をすり減らしたせいか、
ユーコの休憩の合図にふぅ・・・と大きく息をついた
そしてユーコに先導されて場内の食堂に到着する
「さ、みんな腹ペコやろから、何でも遠慮せんと食べや!」
「「いただきま〜す♪」」
“いただきます”の掛け声とともに、みんなが一斉に食事にありつく
そんな中、ちょっとした異変が起きていた

「あれ?りしゃこ、食べないの?」
みんなの食が進む中、なかなか食事に手をつけようとしないりしゃこに、サキが声をかけたのだ
その一言に一同の視線がりしゃこに集中する
見てみると、スプーンやフォークでお皿をかき回した跡はあるが、料理は減ってはいなかった

「明日が決勝戦で緊張してるのはわかるけど、ここはしっかり食べろ!とゆいたい」
と、マァがりしゃこに食べるように促す
しかし、それでもりしゃこは料理を口にしようとはしなかった

「ん?どないしたんや?ハラ減ってないんか?」
りしゃこの様子がおかしいことに気付いたユーコも心配そうに声をかける
りしゃこはユーコの問いかけに黙って首を横に振る
「ほな、どないしたんや?」
再度問いかけたユーコに、りしゃこはやや躊躇った後、静かに口を開いた
「あの・・・女王様」
いつもと違うやや弱々しい口調・・・
何か迷いがあるようにも見てとれる
そんなりしゃこがようやくユーコに問いかけた

「あの、女王様!
アタシのママは・・・
アタシのママは生きているんですか?」

りしゃこの一言に、その場が一瞬にして水を打ったように静かになった

「りしゃこ・・・」
りしゃこのその一言に籠められた気持ちが、ミヤビ達には痛い程伝わってきた
旅を始めてからずっと、片時も忘れたことなどないであろう“母親”の存在―
明日、大事な試合を控えている中で気持ちの整理を着けておきたかったのだろう・・・
それが痛い程伝わってきたのだ

ユーコをじっと見据えるりしゃこ
いつもと違う、真剣な眼差し
その姿に戸惑っていたユーコであったが、いよいよ意を決したのか、りしゃこの目を見つめながら言った

「りしゃこ・・・あんたのお母さんは・・・生きてるよ」
その一言に、りしゃこの顔がパアァァッと明るくなった
と、同時にミヤビ達も我が事のように喜びを爆発させる
しかし、ユーコの表情は喜びとは程遠く、むしろすぐれなかった
しばらくして、ユーコは喜ぶりしゃこ達の輪に割って入ってこう言った
「りしゃこ、確かにあんたのお母さんは生きとる
せやけどすぐには会われへんのや」
「「!!」」
ユーコの一言に、再び室内が水を打ったように静まりかえった

「どうして・・・ですか!?」
母親を無事を伝え聞いた時の明るい表情が一転、また元の暗い表情に戻ったりしゃこが、身体を小刻みに震わせながら言った
「結論言うとな・・・今、りしゃこのお母さんは『時空の歪み』の向こう側におるんや」
「えっ!?」
驚くりしゃこに、ユーコは言葉を続ける
「ウチもな、きっと決勝戦前やからお母さんのこと聞かれるとは思ってたんや
せやけど、こんな状態やからなかなか言い出せんかったんや」
「・・・・・・」
ユーコの言葉をりしゃこは俯いたまま、じっと聞いていた・・・
しかし、それは落胆ではなく、覚悟を決めるかのようであった

その様子を見てとったユーコが慰めの言葉を言わずに、りしゃこに面と向かってこう言い放った
「明日、絶対に勝とうな!!
明日優勝して、あの『マヤザック』の野郎をぶっ飛ばしてやろうや!!」
力強いユーコの言葉がりしゃこの迷いや憂いを吹き飛ばした
今までの暗い表情がみるみるうちに明るくなっていった
そのりしゃこの表情の変化に、ユーコは目を細めながら言った
「よし!じゃあお昼からはウチが特別に特訓つけたる!
・・・でも、その前にまずは腹ごしらえやな!
りしゃこ!食え!食わんかい!」
ユーコのおどけた口調に、りしゃこは腹を抱えて笑い、すっかり笑顔になった

一方、場内の地下室では―

「お待たせ。お腹空いたやろ?ハイ、お昼ご飯」
「・・・・・・」
「ほら、食べへんかったら元気出ぇへんよ!」
「・・・・・・」
「そっか・・・じゃあ、ここにご飯置いとくから早よ食べるんやで」

ギィ・・・ バタン

「よっ!アッちゃん!」
「あっ!ユーちゃん・・・」
「なぁ・・・コンちゃんの具合、どない?」
「アカンわ・・・元気ないんか食事に手ぇつけてないわ」
「・・・やっぱり、あの時のことがショックやったんやな」
「ああ、アイちゃんとおマメちゃんがコンちゃんを引っ捕らえた時のこと?」
「うん、やっぱ同期にだけは“犯罪者”っちゅうか“反逆者”として捕まりたくなかったんやろな」
「まぁでもしゃあないで。自業自得やもん。ユーちゃんもそこは割り切らんと・・・」
「わかっとるけど・・・
まさかコンちゃんが“内通者”やなんて思いたくなかったんや」
「そやな・・・なぁユーちゃん」
「何や?」
「まぁ今更ごちゃごちゃ言うてもしゃあないで!
とにかく頑張っていこうや!」
「・・・そやな!」

そしてすっかり日が暮れて―

「さ、みんな!そろそろ帰りますか?」
「「ハァーイ!」」
キャプテンのサキがハロモニア城からお暇しようとりしゃこ達に声をかけていた
が、そこをユーコに呼び止められてしまう
「いや、みんなには悪いけど、今日ばかりはこの城に泊まってもらうわ」
「「えっ!?」」
ユーコの提案にりしゃこ達は驚く
王族でもないりしゃこ達がお城に泊まるなんて畏れ多いからだ
しかし、ユーコは真剣だ
「明日は大事な決勝戦やからな
向こうが今晩のうちに妨害工作を行ってきてもおかしくないからな
それやったら、ウチらの目の届くところに居た方が安全やからな」
「そうですけど・・・
でも、あの人達がそんな卑怯な手を使ってこないと思うんですけど・・・」
「わかってる。あいつらがそんな卑怯な手を使ってこーへんとは思ってるよ
ただ、用心はせんと・・・な」
「でも・・・いいんですか?アタシ達なんかがお城に泊まっても」
「アホ言いなっ!あんたらはウチの“お客”や!堂々と泊まってったらええねん!」
「「ハイッ!喜んでっ!」」
身辺警護とはいえ、まさかの憧れのお城でのお泊まりに、りしゃこ達は喜びを爆発させた

そしてすっかり夜になって―

「じゃあ、そろそろ寝ますか?」
「「ハァーイ!」」
夕食を終え、くつろいでいたりしゃこ達だったが、キャプテンのサキの掛け声で早めの就寝につくことになった
「じゃあ、また明日!」
「うん!じゃあね!」
各々が割り振られた部屋へと向かっていき、部屋に残ったりしゃことミヤビも
「じゃあ・・・おやすみりしゃこ」
「うん・・・おやすみ」
と言って、すぐさまベッドに潜り込んだ
普通なら明日の決勝戦のこと、今までの旅の道のりをことを考えればなかなか寝付けないものだが、
今日一日の訓練や作業の疲れがドッと出たのか、二人はあっという間に深い眠りについた


それから時間が経ち、深夜になった―

ギィィィ・・・ バタン・・・

すっかり熟睡しているりしゃこ達の部屋に侵入する者がいた
しかし、うまく気配を殺しているのか、りしゃこ達は侵入者に気付かずにスヤスヤと寝息を立てている
そして侵入者はりしゃこ達が熟睡していることを確認すると、その枕元まで歩み寄る
そして、二人の無防備な胸元にスッと手を持っていった・・・