室内には、名前を呼ばれなかったメンバー・・・アイオーラ、ガキシャン、エローカ、ユイヤン、そしてユーコとヤススだけになった

「さて・・・どうしたものかな・・・」
ユーコがポツリと呟いた
その呟きが、ヤススを除く他の四人には、ユーコどんな心境で呟いたのかがすぐにはわからなかった
少しきょとんとしているメンバーに、ユーコが切り出した
「この残りのメンバー・・・何故このメンバーが残ったか、わかる人はおるか?」
唐突なユーコの質問に、メンバー同士顔を見合せ狼狽える

しばらく沈黙が続き、そして―
「あの、どうして・・・ですか?」
質問を切り出したのはアイオーラであった
ユーコは質問したアイオーラを無言のまま、じっと見つめる
見つめられたアイオーラは、始めユーコを直視していたが、やがてふとその視線を逸らす
その様を見て、ようやくユーコが答えた
「ここに残ったメンバーにやってもらうことは・・・“裏切り者”を捕まえる任務をやってもらう!」
「「!!」」
ユーコのまさかの発言に、再び室内に衝撃が走った
コンの脱獄の報告ですら衝撃的だったのに、それを上回る“裏切り者”発言・・・
皆の動揺ぶりはひどいものであった

だが、皆の動揺ぶりとは対照的に、ユーコは落ち着いていた
いや、むしろ肚を括っていたと言うべきだろうか

ともかく、ユーコは落ち着き払った態度で皆に告げた
「その前に、きちんと状況説明しておくわ・・・
エローカ!ユイヤン!」
「「ハ、ハイッ!」」
ユーコに突然指名された二人は緊張のあまり、声が上ずってしまう
構わずユーコが続ける
「ここにいる皆に、昨日の出来事を話したげて」
「昨日の・・・こと、ですか?」
ユーコの言葉の意味が理解出来ていないユイヤンが聞き返す
もちろん、『昨日のこと』とは、『コンの脱獄』のことである
それはもう皆に説明済みだ
それをもう一度、繰り返し説明する・・・
時間のムダ以外のなにものでもない・・・
そうユイヤンは解釈したから聞き返したのだ
しかし、相方のエローカはユーコに言われるまま『昨日の出来事』をこと細かく話し始めた

「・・・ということです」
「ん・・・おおきに」
『昨日の出来事』を話し終えたエローカをユーコが労う
(でも、なんでやろ・・・?
おんなじ話したってしゃあないやん?)
ユーコの行為に疑問を抱いたユイヤンは知らず知らずの内に、腑に落ちない表情を浮かべていた

すると突然、
「ユイヤンッ!」
と、ユーコがユイヤンを名指しした
「ハ、ハイッ!」
慌ててユイヤンが返事をする
「事件の状況はだいたい合うてるな?」
「ハ、ハイッ!合うてますっ!」
「ん・・・じゃあ、もうええよ」
ユーコの質問に答え終えたユイヤンはホッと胸を撫で下ろす
まさか自分に質問の矛先が向けられるとは思ってもなかったからだ
しかし、喜びもつかの間、突如、ユイヤンの爪先に激痛が走った
激痛に耐えながら横を向くと、眉の吊り上がった相方の顔が・・・
(もう!何やってんの!)
とでも言いたげなエローカの表情に、ユイヤンは小さくなってしまう

そんなやりとりがあったが、ユーコはまた話を進めていく
「・・・で、ここからが本題やけど、この事件の犯人・・・ちゅうか“裏切り者”やな、それはもうわかってるねん」
ユーコの言葉に、皆が耳を疑った
そして、すぐに頭をよぎったのは
『何故、犯人がわかっていながら皆の前で発表しなかったのだろう?』
という疑問
皆、その場で考え出した
しかし、考えを巡らせてもなかなか答えが出てこない・・・
しばらくその様子を眺めていたユーコが再び口を開いた

「なぁ・・・もう、ええやろ」
ユーコの視線があるメンバーを捕えた
すぐさま皆がユーコの視線の先にある人物を追いかける
そして、その姿を捕えた瞬間、絶句する

「アイちゃん・・・」
激しいショックを受けたガキシャンはそう一言呟くのが精一杯だった
そしてそれはエローカ、ユイヤンとて同じだった
まさか自分達を襲撃したのが、こともあろうか『暁の乙女』の、それも隊長だとは思いもよらなかったからだ

依然、ユーコはアイオーラを凝視したまま視線を逸らさない
見つめられるアイオーラには全身に重圧が重く重くのしかかる・・・
射抜くような鋭い視線に、まるで全身が針に貫かれるような錯覚に陥る・・・
やがて、アイオーラはその重圧に負けて、か細い声で言った
「アタシが・・・やりました」

信じ難い、いや、聞きたくなかった言葉がアイオーラの口から洩れた
大きな衝撃がガキシャン、エローカ、ユイヤンを襲う

「うそ・・・!?」
アイオーラの言葉を聞いたガキシャンは、その場にへたり込んでしまった
エローカ、ユイヤンも呆然としている
三人の姿を見て、自分の犯した罪の重さを自覚したアイオーラはうなだれ、やがて、嗚咽しだした

泣き崩れるアイオーラにユーコが静かに語りかけた
「自分が犯した“罪”の重さ・・・わかってくれるな?」
アイオーラから返事はなかった
しかし、アイオーラの止まない嗚咽がアイオーラの悔恨を如実に現していた

やがてユーコは、泣きじゃくるアイオーラから床の上にへたり込んだガキシャンに目を移し、そして、“命”を下した
「ガキさん・・・アイちゃんを捕縛しなさい」
「!!」
ユーコの“命”に、放心状態だったガキシャンの身体がピクリと反応する
「女・・・女王様!?」
ガキシャンがユーコに聞き返す
今、ユーコが発した言葉が信じられなかったのではなく、自分の聞き違いであって欲しかったからだ
だが、無情にもユーコはガキシャンに“命”を繰り返した
「せめてもの情けや・・・ガキさん、アイちゃんを頼むわ」
やはり、ユーコの言葉は聞き違いなどではなかった
ただ、それでもガキシャンは同じ“仲間”として、ユーコにアイオーラの“恩赦”を訴えようと顔を上げた

だが、ガキシャンは何も言えなかった
顔を上げた瞬間、ガキシャンの目に入ってきたのは、今まで自分達が見たことのない、ユーコの辛い表情・・・
ガキシャンは悟った
他の誰より辛いのは、信じた者に裏切られたユーコであることを・・・
程なくして―ガキシャンはアイオーラを捕縛した

「では・・・今からアイオーラに罰する」
ガキシャンの手によって捕縛されたアイオーラを見据えながら、ユーコが厳かに言った
「『暁の乙女』隊長・アイオーラ、犯人隠匿及び逃走幇助の罪状により、禁固一週間に処す!」
ユーコの“審判”が下されると、堰を切ったかのようにアイオーラが号泣する
今にも崩れ落ちそうなアイオーラの脇をガキシャンが寄り添い支えた
「じゃあ・・・ガキシャン、地下牢まで連行するように」
「ハイ・・・」
「それと、エローカ!ユイヤン!」
「「ハイッ!」」
「地下牢でのアイちゃんの見張り、しっかり頼むよ」
「「ハイッ!」」
ユーコから“命”を下された三人はアイオーラの両脇を抱えるような格好で傍に立ち、部屋から退出していった

バタンッ・・・
「・・・・・・」
四人を見送った後、ユーコは無言で室内の椅子に深々と腰をかけ、大きくため息をつき、天を仰いだ
「ユーちゃん・・・」
辛そうなユーコを気遣い、ヤススが声をかける
「大丈夫や・・・」
ユーコはそう呟いた
そして、自分に言い聞かせるように言った
「もう・・・こんな辛い思いも今日で最後や
きっと・・・」



そして、しばらく時が過ぎ、決勝戦まであと30分となった―

闘技場の控え室―
「いよいよ・・・だね」
ミヤビがポツリと呟いた
りしゃこが
「うん・・・」
と、答えた
決勝戦を前に緊張しているのか、二人は言葉少なだった
しかし、そんな二人の緊張した雰囲気とは裏腹に、周囲の興奮は早くも最高潮に達しようとしていた
「さぁ、りしゃこ!ミヤビ!ガツンと逝っちゃえ!」
「優勝まであとちょっと!頑張れーっ!」
「気合いだっ!とゆいたい」
「頑張ってね・・・」
「ラストバトル、エンジョーイ!」
「ジャンジャカ魔法ぶっ放すんだよ!ジャンジャカ!」
サキ達がりしゃこ達を見てる方が恥ずかしいくらい一生懸命盛り立てる
「やだっ!サキってばーっ!恥ずかしいじゃん!」
はにかんだ笑顔を浮かべながらミヤビが喜ぶ
りしゃこもその雰囲気に合わせて笑顔を見せた

「ほら!あなた達!そんなにはしゃがないの!
・・・ったく、見てるコッチが恥ずかしいじゃない!」
「とか言って!メーグルも口元が緩んでるよ!」
「えっ!?」
「うっそぴょーん♪」
「もうっ!後で呼び出しですっ!」
「イヤ〜ン♪怖〜い♪」
すっかり“鬼教官”のメーグルまで浮かれてしまうくらいである
しかし、そんな空気を変える者が顔を出した

「どう?昨日はぐっすり眠れた?」
「あ・・・アベさん、ゴトーさん・・・」
はしゃいでいたメンバーが一転して緊張する
しかし、そんなメンバーの緊張をよそに二人はりしゃこ達に話しかける
「いよいよだね・・・緊張、してない?」
「はい。緊張してない、って言えばウソになりますけど、もう気持ちの整理はついてます!」
ゴトーの質問にミヤビは気負うことなく答える
そのミヤビのしっかりとした受け答えに、アベナッチも
「頼もしいねー!
もし緊張してたら二人で励まそう!ってゴッちんと話してたんだけど、その心配はなさそうだね!」
と、目を細めた

しかし、りしゃこに視線を送ったアベナッチがふと声をかけた
「あれ?りしゃこちゃん、どうしたんだべさ?」
不意に声をかけられたりしゃこは慌てて首をぶんぶんっ!と横に振り、
「そ、そんなことないもんっ!」
と強く否定する
しかし、アベナッチ同様ゴトーも
「ねえ?何か不安なことがあったら言ってごらん?」
と、優しく気遣う
すると、りしゃこは口籠もる
何か言い辛そうにしているのを感じ取った二人はりしゃこの頭に手をやり、
「みんなの前で話し辛かったら、お姉さんだけに話してごらん?」
と語りかけた

「うん・・・」
アベナッチ、ゴトーの語りかけにりしゃこは素直に頷く
「話しにくいなら、外に行こっか?」
ゴトーの問いにりしゃこは黙って頷く
「じゃあ、行こ!」
そう言って二人はりしゃこの手を引っ張り、部屋の外へと出ていった

「さ、話してごらん?」
ゴトーが微笑みながらりしゃこの目を見つめて話す
りしゃこは少し躊躇っていたが、やがてぽつりぽつりと話し出す
ただ、りしゃこの口から出てきた言葉は意外すぎて二人は驚きを隠せなかった
「あの人・・・ホントに悪い人なの?」

「あの・・・あの人って・・・」
「ミキちゃんのこと!?」
二人の質問にりしゃこは黙って頷いた
「どうして・・・そう感じたの?」
ゴトーが尋ねると、りしゃこから
「だって・・・あの人の目が、とっても寂しそうだったから・・・」
と、返ってきた
二人は心底驚いた
二人が気付いてなかったミキ帝のことを、自分より幼い少女が感じ取っていたからだ

「あたし・・・あの人と戦いたくない・・・」
りしゃこの発言に二人も困惑せざるを得なかった
決勝戦の土壇場で、りしゃこの心が揺れ動いている・・・
この心理状態で戦場に送り出していいものか・・・
二人は迷った

二人は迷った・・・
だが、無情にも時間は刻一刻と過ぎていく
決勝戦の時間が近づいてくる
そして、二人は決断した

「りしゃこちゃん・・・戦うか戦わないかは、りしゃこちゃんの自由だべさ・・・だけど」
「・・・?」
「りしゃこちゃんには、“譲れないもの”があるんじゃない?」
「!!」

二人に言われて、りしゃこは気付かされた
りしゃこには今、誰にも譲れない“夢”があることを・・・
戸惑うりしゃこに、二人が優しく問いかけた
「ねえ・・・りしゃこちゃんの“夢”はね、今はみんなの“夢”なんだよ」
「だからね・・・みんなの“夢”、叶えてあげなくっちゃね
それが、決勝戦に残ったりしゃこちゃんの“使命”だよ」
「みんなが、笑顔でいられるように・・・ね」

二人の優しい語りかけに、りしゃこは思い返した・・・今までの道のりを
そして思い出した・・・今までのいろんな出来事を
ひとりでの旅立ちのハズが、一人増え、二人増えしていく内に、いつの間にか“仲間の輪”が出来ていた・・・
そして、そんな“仲間”に助けられ、支えられてここまでこれた・・・
そんな“みんな”のために・・・りしゃこがしてあげられること・・・

「あたし・・・戦う!」
目を輝かせながらりしゃこは言った
「そっか・・・」
悩み抜いて決心をしたりしゃこの頭を、二人がそっと撫でる
「じゃあ、行こ!みんな心配してるよ!」
「・・・うん!」
二人に手を引かれる格好で、りしゃこは控え室へと戻っていった

「ただいま!」
元気良く三人が控え室の扉を開けると、みんながお行儀良く座っていた
「お・・・おかえり・・・」
その時、三人は気付いた
みんなの息が微妙に切れていることを・・・
よく見れば、一部うっすら汗をかいている者もいる
(ははーん・・・なるほどね)
三人には、みんなもりしゃこの様子が心配で、三人の会話を盗み聞きしていたことがすぐに察知できた
しかし、それがまた嬉しくもあった
三人の口元が自然と緩む
そして、みんなを前にして言った
「もう大丈夫だよ!ね?」
「うん!」

それから―
「「行ってきまーす!」」 
「「行ってらっしゃーい!」」
りしゃことミヤビはアベナッチ、ゴトーの二人に引率されて闘技場への通路を歩いていく
みんなはその後ろ姿を祈りながら見届けた