そしていよいよ決勝戦の時がきた

「それではただいまより、『魔導大会』決勝戦を行いますっ!」
司会者の声がコロシアムに高らかに響き渡る
「青コーナー・・・ミヤビ選手、りしゃこ選手の入場ですっ!」
「ほら!いってらっしゃいっ!」
「ハイッ!」
「うんっ!」
アベ、ゴトーに後押しされて、二人は入場ゲートをくぐった

すると、視界いっぱいに広がった光景は人で埋め尽くされたコロシアム・・・
その中には旗や横断幕まであった
そして、掛け声も聞こえてくる・・・
「りしゃこーっ!」
聞き覚えのある声に振り返ってみると、最前列に見覚えのある面子が陣取っていた
「絶対っ!優勝しろよ!」
チッサーとアッスー、ナッキーにカンニャ、富豪・アリ氏の姿が見える・・・
「「おねえちゃーん!がんばれー!」」
「りしゃこー♪絶対優勝だかんね♪」
コハと弟妹達の姿が・・・
「りしゃこー!ミヤビちゃーん!優勝しないと・・・」
「お仕置きだからねっ!」
惜しくも破れ去ったライバル・アイリーナとアイリーネの姿も・・・
そして・・・
「「りしゃこーっ!ミヤビーッ!」」
今まで支えてくれたサキ達の姿が・・・
万感の想いを胸に秘め、二人は闘技場に降り立った

万感の想いで舞台に立つりしゃこ達
しかし、至福の時間もつかの間、二人は気持ちを切り替え反対側の入場ゲートを凝視する
「続きまして・・・赤コーナー、アヤヤ選手、ミキ帝選手の入場ですっ!」

反対側の入場ゲートからはミキ帝、アヤヤの二人が姿を現した
闘技場からは数十m離れているというのに、凶々しいオーラにも似た重圧を激しく感じる
それでも気後れすまいとりしゃこ達が二人を睨み付けたその時―
「「・・・!!」」

全身に背筋が凍るような悪寒が走った
りしゃこ達は今までに幾度かミキ帝達と遭遇したことはあったが、こんな恐怖感を感じたのは初めてであった

恐怖感に全身を強ばらせたりしゃこ達を尻目に、ミキ帝達はゆっくりと闘技場に足を踏み入れた
そして、対峙したりしゃこ達を睨み付ける
「「ひっ!?」」
りしゃこ達は思わず声をあげてしまった
ただビビった訳ではない
二人を睨み付けたミキ帝達の目が、生者のものではなかったのだ
まとわりつくような視線に、まるで深淵の闇に引き摺り込まれそうな感覚に陥りそうになる・・・
だが、二人が恐怖に包まれる前に、檄が飛んだ

「ほら!しっかり集中してっ!」
りしゃこ達は背後から飛んできた檄にハッとして、我に返った
即座に振り返ると、入場ゲートにアベ、ゴトーの二人の姿が・・・
「二人ともっ!絶対プレッシャーに負けちゃダメだかんね!」
「二人ならミキちゃん達にもきっと勝てるべ!」

(アベさん・・・ゴトーさん・・・)
我が事のように応援してくれる二人の姿を見て、りしゃこ達の心の中にあった恐怖心は薄れていき、闘争心が宿り始めた
(みんなのために・・・絶対に・・・優勝する!)
誓いも新たに、りしゃこ達はミキ帝達の方へと歩を進め、いよいよ対峙する

「いいこと?今日は映えある決勝戦だから、決して反則行為のないように!」
審判役のヤススがいつになく厳しい口調で両チームに確認をする
それに対し、りしゃこ達もそしてミキ帝達も黙って頷く
両者に対する意思確認を行ったところで、再度ヤススから一言だけ忠告があった
「お互いいろいろ思うところがあるかも知れないけど、アタシは公平にジャッジするつもり・・・
だけど、もしも決勝戦に相応しくない行為があった場合は即、失格だからね」
再び、りしゃこ達もミキ帝達も頷く
そして、決勝戦が始まった―

「いい?今日の決勝戦では両チーム共にいつも通りの実力を発揮してもらうために、敢えて闘技場はそのままの状態にしておくわ
それでは・・・始めっ!」
ヤススの掛け声を合図に、ついに決勝戦が始まった

(りしゃこ!作戦通りいくよ!)
(うん!)
開始直後、アイコンタクトを交わしたりしゃことミヤビは突如、一目散に闘技場のある地点目指して走り出した

「お・・・おい・・・」
「な・・・なんだこりゃ?」
りしゃこ達がとった突然の怪行動に、観客からざわめきが洩れた
そして、観客のみならず・・・
「あーっ!二人とも何やってるんだべさっ!」
りしゃこ達の怪行動に、思わず入場ゲートで見守っているアベナッチも叫ぶ
「ちょっとナッチ・・・」
「な、何よゴッちん?」
ややいきり立つアベナッチをゴトーがたしなめる
「落ち着いて・・・あれはあの子達なりの作戦なんだよ」
「作戦・・・って?」
「まあ、見てなよ」
「?・・・あーっ!」
しばしキョトンとしていたアベナッチであったが、りしゃこ達が足を止めた地点を見て、初めて作戦の意図を理解した
ちょうどりしゃこ達が足を止めた地点・・・そこは広い円形状の闘技場の一番端っこ・・・

りしゃこ達が取った行動に、場内の観客のざわめきはやまない・・・
それもそのはず、闘技場の端っこを背にして位置することは、自ら逃げ場をなくす行為だ
『兵法』において川を背にする、ボクシングにおいてロープやコーナーを背にすることは不利にしかならないからだ
しかし、ゴトーやアベナッチの考えは違った

「なるほど・・・闘技場の端っこに位置することで背後から攻められないようにした・・・ってワケね」
観客席でりしゃこ達を見守っていたメーグルが呟いた
と、それを聞いたサキとモモが
「ええーっ!?そうなのぉ!?」
と大袈裟に驚く
「あんた達ねぇ・・・EX-ZYX時代にヤグーさんから習ったじゃない!?
『新米なら壁を背にして戦え』って!忘れたの?」
呆れたメーグルが二人に言ったもののサキはあっけらかんと
「忘れてた♪」
と答え、モモは
「アタシの逃げ足なら逃げ切れるモンね♪」
と答えた
「ハァ〜・・・左様ですか・・・」
二人に呆れ果てたメーグルは怒気を削がれてそう呟くのが精一杯だった

再び闘技場―
りしゃこ達の取った行動は、まさにメーグルの指摘通りだった
前方だけに集中して相手の攻撃を迎撃することだけに専念する体勢・・・
実戦経験の差を埋めるのと『時間稼ぎ』をするための作戦・・・

「りしゃこっ!二人はアタシがなんとか防ぐから、『アレ』を急いで!」
「うん!」
ミヤビが声をかけると、りしゃこはミヤビの背後にスッと回り、杖を水平に構え呪文の詠唱を始めた

「なるほどぉ〜!時間稼ぎかぁ〜!」
「よく考えた、とゆいたい」
観客席のユリーナもマァもりしゃこ達の行動に感心することしきりだった
と、そこへマイハが口を挟む
「でも・・・何かおかしいの・・・」
「え?何が?」
チナリが不思議そうに尋ねると、マイハはやや険しい顔をして答えた
「あの二人・・・全然攻撃する体勢を取ってないんだもん」
「「!?」」
マイハに言われてユリーナ達はハッと気付いた
ミキ帝達はその場から一歩も動いていないどころか、構えてすらいないのだ
ただじっと、りしゃこ達の行動を見守っている、いや、品定めをしているかのような目つきだ

「「!?」」
観客席のマイハに指摘された同時期に、りしゃこ達もミキ帝達の不可解な行動に気付いた
舐め回すような・・・蛇が全身を這いずり回るような視線に悪寒を感じた
(くっ!・・・どういうつもりなのっ!?)
(嫌だ・・・気持ち悪い・・・)

りしゃこ達の行動に対して、その様子をただじっと『観察』するミキ帝達・・・
ミキ帝達が仕掛けてこないのが不気味であったが、二人には迷っている『時間』はなかった
とにかく今は、いち早く『術』を完成させること・・・それのみに集中した

しばらくして―
二人はミキ帝達の不可解な行動に一抹の不安を感じながらも、『術』を完成させた
「変・身!」
掛け声とともに、りしゃこの身体がまばゆい閃光を放ち、光を纏っていく・・・
そう・・・『切り札』である『光の魔術師』へと変化したのだ
しかし・・・

「・・・?」
りしゃこが変身中もミキ帝達を見張っていたミヤビであったが、依然としてミキ帝達が動く気配がないのに驚く
相も変わらずりしゃこ達の行動をずっと『観察』しているのみ・・・
ミキ帝達もりしゃこの『変身』については知っているハズ・・・
言うなれば、ミヤビ一人しか動けない『今』がチャンスだったハズ・・・
だが、一切仕掛けてこなかった・・・
全く読めないミキ帝達の『真意』―
ここまでくると、不気味を通り越して底知れぬ『恐怖』を感じる・・・

そして―
その『恐怖』は『脅威』へと変わった

「どうしたの?かかってこないの!?」
微動だにしないミキ帝達に向かって挑発するミヤビ
りしゃこが『変身』を遂げたとはいえ、ミキ帝達との実力の差、経験の差は未だ歴然・・・
なので二人は当初の『迎撃』という作戦を代えるつもりはないのだ

(やっぱり、こんな挑発じゃ乗ってこないか・・・)ミヤビが挑発に乗ってこないミキ帝達に諦めかけた時―
突如、ミキ帝達が堰を切ったかのように襲いかかってきた!
何も恐れぬかの如く、りしゃこ達まで一直線に突き進んでくる
(ヤバッ!)
これには少し気を抜いてしまったミヤビも一瞬で肝を冷やした
最初に時間稼ぎのために幾分か距離を取っていたハズだが、それがあっという間に詰められてしまったのだ
「りしゃこっ!」
「うん!」
ミヤビはやや慌てながらもりしゃこに指示を送る
すると、背後のりしゃこは再度詠唱を始め、前衛のミヤビが真紅の杖を構え迎撃に備えた
もし、ミキ帝達がそのまま突撃して来ようものなら引き付けてからミヤビの『炎の剣』で一凪ぎする
・・・そんな腹積りだった
しかし、身構えたミヤビの腹部に突然、激痛が走った!

「ゔっ!?」
激痛のあまり、その場にしゃがみ込むミヤビ
そして、ミヤビがしゃがみ込んだことで前方の視界が開けたりしゃこが目撃したものは・・・

「!!」
距離にして十数mはあろうか・・・そこにアヤヤの姿があった
そして、りしゃこの僅か1m手前には棒状の先端が・・・
そう、アヤヤの得物の棍がミヤビの腹部を遠間から打ち抜いたのだ!
アヤヤにしてみれば、棍が伸びることを知らないミヤビを射抜くことは造作もないこと
逆にミヤビは警戒していたとはいえほぼ無防備の状態からのまさかの一撃に悶絶する

「ミヤッ!?」
りしゃこが慌ててしゃがみ込んだミヤビを介抱しようとした
途端、ミヤビが苦悶の表情を浮かべながらもりしゃこに必死に告げる
「りしゃこ・・・上!」
「!?」
りしゃこはすぐさま上空を見上げた
すると、何かが急降下してくるのがハッキリと見えた
(危ないっ!)
りしゃこは本能で咄嗟に手にした杖を頭上に掲げる
その直後、
ガッ!!
鈍い音とともに、りしゃこの両腕を強い衝撃が襲う
「くっ・・・!」
りしゃこは思わず呻き声を洩らした
防いだとはいえ、それほどまでにりしゃこを頭上から急襲したミキ帝の一撃は強く、重かったのだ

ミキ帝の頭上からの一撃をなんとか防いだりしゃこ
その時、りしゃこはミキ帝の表情を垣間見た
途端、りしゃこは一瞬ひるんでしまった
りしゃこが間近で見たミキ帝の顔、それは正気ではない狂気に満ちた眼をしていたのだった

そして次の瞬間、りしゃこの腹部を鈍い痛みが走る
身体をくの字に折り曲げたりしゃこの目に飛び込んできたのはミキ帝の足・・・
頭部への防御でガラ空きになったりしゃこの腹部を容赦なく蹴り飛ばしたのだ
りしゃこは痛みのあまり、手から杖を落とし、腹部に手をやってしまう

ここまで僅か1分くらいの小競り合い・・・
だが、りしゃこ達が比較的接近戦が苦手だとはいえ、両チームにこれほどまでに実力差があるとは思ってもみなかった・・・
衝撃的な光景を目の当たりにして、凍り付く観客
同様に、アベ、ゴトーの二人も驚きを隠せなかった
「あの二人・・・とても強くなってる・・・」
「ゴッちん・・・これってかなりまずくない?」
「うん・・・かなりまずい・・・」

りしゃこ達の予想外の苦戦に気を揉むアベ、ゴトーの二人
ところが、二人の思惑に反し、ミキ帝達はその後思いもかけない行動をとった

「!?」

ミキ帝達の取った行動に、会場内がざわめく・・・
それもそのはず、ミキ帝達は追い討ちをせずにりしゃこ達が立ち上がるのを待っているのだ
追い討ちをかければりしゃこ達を一気に仕留められていたかも知れない・・・だが、それをしなかった
あまりにも不可解なミキ帝達の行動に観客は首を傾げるばかり

しかし、そうこうしている内に、りしゃこ達もようやく立ち上がる
(くそっ!余裕綽々って感じね・・・絶対にギャフンと言わせてやるんだから!)
ミキ帝達に余裕を見せつけられたことでミヤビの闘争本能に火が点いた
だが、それ以上に闘争本能を剥き出しにしている者が・・・
(負けない・・・負けたくない!)
「り・・・りしゃこ!?」
りしゃこの“異変”に気付いたミヤビが視線を移すより早く、りしゃこはミキ帝達に突っ掛かっていった
「ちょ、ちょっと!?」

「でやぁぁぁぁ〜っ!」
手にした杖を構えながらりしゃこはミキ帝めがけ突進していく
それに対し、ミキ帝はただ悠然と構えて待つのみ
(その余裕・・・奪ってやるんだから!)
あっという間に間合いを詰めたりしゃこが上段から鋭く杖を振り下ろす!

カッ!!

「くっ・・・!」
上段から振り抜いたりしゃこの渾身の一撃はミキ帝のトンファーに阻まれてしまう
そして再びりしゃこの視界にミキ帝の表情が飛び込んできた
「!・・・このぉ・・・!」
相も変わらず余裕綽々の表情を浮かべるミキ帝にりしゃこは次第に苛立ちを覚え、そしてすぐさまミキ帝に連打を打ち込んでいく!
「ハッ!フッ!えいっ!」
がむしゃらで決して巧くはないが気迫のこもった攻めが続く
すると、りしゃこの気迫に気圧されたのか、ミキ帝が後退りを始めた

「おおっ!」
「いいぞねーちゃん!」
劣勢を覆しての攻勢に、判官贔屓の観客の間から歓声があがり始める
声援がりしゃこを後押しする・・・
その声援が力となってりしゃこの攻撃がますます激しくなっていく・・・
それはまさに、闘技場全体がりしゃこに地の利を与えているかのようであった

しかし―
「りしゃこっ!」
突如、ミヤビが叫ぶ
「ダメッ!深追いしちゃダメッ!」
闘技場全体の異様な雰囲気の中に、ミヤビは何かしら胸騒ぎを感じたのであろう
これはミキ帝の罠であり、思うつぼであると―

「りしゃこっ!落ち着いてっ!」
胸騒ぎがしてりしゃこを呼び止めようとするミヤビ
しかし、はやる気持ちと観客の熱気にりしゃこの心は自制心を失いつつあった
「待ちなさいっ!」
言って聞かないなら止めに入るまで―そう思ったミヤビはりしゃこの元へ駆け寄ろうとする・・・が

「!!」
ミヤビの行く手を遮るようにアヤヤが立ちはだかる
「くっ・・・!邪魔をするつもりね・・・」
りしゃこの暴走に気を取られてアヤヤの存在を忘れていた己を恥じながら、ミヤビは立ちはだかるアヤヤを排除しにかかった
「どいてっ!」
手にした真紅の杖を大きく水平に薙ぎ払う
その杖の軌道を後追いするように発生した炎の刃がアヤヤを捕らえようとした
(よしっ!いけるっ!)

だが・・・杖の軌道上にいたハズのアヤヤは忽然と姿を消していた
代わりに、アヤヤの元居た場所には垂直に立ったアヤヤの棍が・・・
(何処!?)
ミヤビは急いで見失ったアヤヤの姿を目で追った
しかし、闘技場内を見回してみても、交戦中のりしゃことミキ帝の姿は見えど、アヤヤの姿は見つからない・・・
(まさかっ!?)
もしや?と思い、ミヤビは慌ててアヤヤの棍の先を目で追いかけた
その視線の先、頭上高くにアヤヤは・・・いた!

ミヤビの頭上高く、棍に掴まり見下ろすアヤヤ

そして、ミヤビと目があった瞬間、急降下した!
(まずいっ!)
アヤヤの鋭い殺気を感じたミヤビは咄嗟にその場から飛び退く

ドスッ!!
着地音とともにアヤヤが地上に降り立った
明らかに飛び蹴りでミヤビを狙っていた
だが、ホッとする猶予もなく、アヤヤは得物の棍を構える!
(来るっ!)
ミヤビも素早く身構える
開始早々に不意討ちを貰っているだけに全身に緊張が走る

そして、アヤヤが動いた!
(!?)
素早い突きがミヤビの中心線を狙って連続で繰り出された
(速いっ!)
棍の先端が空気を切り裂く音がミヤビにも聞こえてくる
その素早い突きの連続を左側に回るようにステップし、なんとか回避した
・・・が、その後アヤヤは突然身を翻し、棍を勢いよくスイングした!
(しまったっ!)
まるで事前にミヤビが左側に逃げるのを予知していたかのように左回りに回転して棍を振り抜いたのだ
スイングの軌道上はちょうどミヤビの中断辺り・・・反応が遅れてこのままではアバラをやられてしまう!

その時だ

「えっ!?」
ミヤビの身体が、急に動いた!

ガッ!!
すっかりガードがガラ空きになったハズのミヤビのアバラには何も起きなかったが、代わりに杖を持つ両手に鈍い衝撃を感じた
杖を持つ両手に目をやる
すると、アヤヤの棍を杖がすんでのところで止めていたのだ
(ど、どういうことなの!?)
ミヤビは突然我が身に起きた不可解な現象に戸惑いを隠せなかった
もちろんアヤヤの攻撃を奇跡的に防御出来たのは喜ばしいことだが、
自分の身体がまるで“見えざる力”に操られているのが不気味で仕方なかった
一瞬ではあったが、ミヤビの思考がここで停止してしまう
だが、目の前のアヤヤは待ってはくれなかった
ミヤビの奇跡的な防御に一瞬たじろいだものの、再度構え直して攻撃を仕掛けてきた
今度は先程より間合いを詰めてミヤビに次から次へと棍による流れるような連撃を打ち込んでいく
鋭い突きを三連続で上中下と散らす
・・・が、ミヤビはその直線的な突きを円を描くようにステップし軽々と躱す
もちろんアヤヤも躱されることは承知、突きを躱されたところに今度は自らの身体を独楽のように回転させながら棍で打ち据えていく!
・・・が、ミヤビはそれをも杖でしっかりガードし、攻撃を弾いていく

(身体が・・・何故・・・!?)
流れるようなアヤヤの連続技・・・それを次々と防御して凌ぐミヤビ・・・
一見すれば普通のことのように見えるが、実は当のミヤビにとってはあり得ないことが我が身に起きているのだ

それは、奇跡的な超反応―
ずっとミヤビは魔法使いになることを強く志していた
そのため幼少から魔法の勉強にひたすら打ち込んできたため、格闘についてはズブの素人なのだ
そこで『魔導大会』に向けて格闘を特訓したとはいえ、到底素人に毛の生えた程度である
それが格闘術の達人であるアヤヤと渡り合っていること―それがあり得ない出来事なのだ

戸惑いながらもアヤヤの猛攻を凌いでいる内に、ミヤビはあることに気付いた
それは、神経を集中させると、ミヤビの全身に“何か”が纏わりついていることを・・・
それが、ミヤビの身体に“見えない力”を加えて突き動かしているのだ
それに気付いた時、ミヤビの脳裏を何かがよぎった
(もしかして・・・!)
アヤヤの攻撃を受け流しつつ、ミヤビは目で“二人”の姿を追った
闘技場の入場ゲートでりしゃこ達を応援しているアベナッチとゴトー・・・

超反応でアヤヤの攻撃を凌ぎつつアベナッチとゴトーの居る入場ゲートに目をやるミヤビ
しかし、視線を逸らしたその僅かな隙を突いて、アヤヤが大上段からミヤビの頭蓋骨をカチ割らんと棍を振り下ろした!
(しまった!?)
迂闊であった・・・
今まで“見えない力”でアヤヤの攻撃を防いできたミヤビはすっかり油断し切ってしまったのだ
そして、無情にもアヤヤの振り下ろした棍がミヤビの目前に迫ってくる・・・
(そんな・・・)
迫りくる“敗北”という現実を半ばミヤビは受け入れようとしていた
その時だ

「しっかりしろっ!」
背後から突如飛び込んできたゴトーの声にミヤビはすんでのところで正気に戻った
と、ゴトーの声に呼応するように、またしてもミヤビの身体が信じられないスピードでアヤヤの強撃に反応したのだ
そしてその僅かコンマ数秒後―

ガッ!!
「くぅっ!?」
アヤヤの棍を受け止めたミヤビの両腕に強い衝撃と痺れが全身を駆け巡った
鈍く骨に響く痛み・・・しかし、それはミヤビが未だ“生きている”証拠―
ミヤビは鈍い痛みに耐えながらも、つい笑みがこぼれた
(まだだ・・・まだまだやれるっ!)

アヤヤの重い一撃を間一髪で受け止めたミヤビは得物越しにアヤヤを睨み付ける
「今度はアタシから行くよっ!」
そうミヤビが言い放つや否や、手にした真紅の杖が一瞬にして燃え盛る紅蓮の炎を纏った

「!?」
突然勢いよく燃え上がった炎に驚いたか、アヤヤはすぐさまその場から飛び退くと、また再び棍を構え直した
アヤヤ同様ミヤビも杖を構え直し、いざアヤヤに向かって飛びかからんとした、その時だ
「ミヤビッ!アヤヤはいいから早くりしゃこを!」
背後の入場ゲートからゴトーの叫び声が飛んだ
「えっ!?」
戸惑いつつも、ゴトーの指示通り素早くりしゃこの姿を目で追った

すると、ミヤビの前に立ち塞がるアヤヤの向こう側にりしゃこの姿が見えた
りしゃこを見つけホッとするミヤビ・・・しかし、りしゃこの様子がおかしい・・・
アヤヤを目で牽制しつつ、りしゃこの様子を窺った
「りしゃこ・・・」
異変に気付いたミヤビは胸が締め付けられる感覚に陥った
肩で息をしながら立っているのがやっとのりしゃこ・・・その一方で息一つ切らすことなく仁王立ちしているミキ帝・・・
りしゃこが危ないのを一目で感じた

「りしゃこっ!今助けに行くからっ!」
ミヤビは精一杯の大声を張り上げた
アヤヤの向こう側にいるりしゃこを奮い立たせるように
そして眼前に立ちはだかるアヤヤに告げた
「悪いけど、退いてちょうだい!邪魔するなら、火傷するよ!」
手にした真紅の杖の炎が一段とその激しさを増した
りしゃこを救うためならたとえ対戦相手だろうと全て燃やし尽くす、という決意の表れであった
だが、アヤヤはミヤビの様に恐れるどころか、むしろ薄ら笑みさえ浮かべている
「何がおかしいのよっ!?」
アヤヤを激しく睨み付けるミヤビ
すると、今まで沈黙を守っていたアヤヤが突如、口を開いた
『ククッ・・・ずいぶん威勢がいい娘だな・・・』
「!!?」
アヤヤの口から洩れた、今までとは全く違う重く冷たい声にミヤビは一瞬にしてたじろいでしまった
そして薄ら笑みを浮かべたままアヤヤはミヤビに逆に告げた
『娘・・・退け、と言ったようだが、残念ながら・・・断るっ!
あの娘はワタシにとって大事な“器”だからね・・・
ワタシに相応しいか、試させてもらってる・・・無論、邪魔するならお前を消し炭にしてやる!』