【EXTRA ROUND 〜最終決戦〜】 7人の『マヤザック』が姿を消した後― ハロモニア市街地のあちこちで起きた突然の爆発により、街は混乱の渦に巻き込まれてしまった・・・ 『魔導大会』という国民行事を祝うように晴れ渡っていた蒼天も、いつしか禍々しい黒い雲に覆われ、人々の心を不安にさせた 更に追い討ちをかけるかの如く、『魔導兵器』ゴーレムの大量発生で人々の恐怖心はピークに達しようとしていた 「きゃああああーっ!」 「た、助けてくれーっ!」人々がゴーレムの襲撃に怯え、悲鳴をあげて街のそこかしこをあてもなく逃げ惑う 『グオォォォォーッ!!』 唸り声をあげ、ゴーレムは街路樹や建物を薙ぎ倒しながら我が物顔で街を破壊し尽くさんとする だが― 「待てっ!この野郎っ!」 掛け声も勇ましく、数人の人影がゴーレムの前に立ち塞がった 「オウオウオウ!好き勝手にウチらのシマを荒らすったぁいい度胸だなぁ若ぇの!」 「だけどその向こう見ずが命取りだぜ!」 「地獄で後悔するん・・・フゴッ!?」 「コラッ!あんた達!真面目にやんなっ!」 「「ボ・・・ボスゥ〜・・・」」 ゴーレムの前に立ち塞がった人影は恐るべき『魔導兵器』を前にして怯むことはなかった いや、むしろ楽しんでいるとさえ言えるだろう その猛者達は得物を手に取り啖呵を切った 「天知る地知る人ぞ知る!この世に悪の栄えた例無し! 正義の味方、『女流怨鬼念火』・・・推参っ!」 「行くよっ!みんな!」 「「おうっ!」」 掛け声も勇ましく女流怨鬼念火の4人は瞬く間にゴーレムの四方を包囲する 「いい?一気にキメるよ!」 「「ラジャ!」」 “ボス”サイトー=サンの合図をきっかけにまるで狩りをする肉食動物のようにゴーレムに襲いかかった! 「どうする?」「どうする?」「どうする?」「どうする?」 シバチャンの槍が、ムラターメの薙刀が、マサエの大鎌が、サイトー=サンの戦斧がゴーレムの身体を切り刻んでいく そして・・・ 「3!」「2!」「1!」「Come on!」 鮮やかな連続技で見事、ゴーレムを元の土塊に還したのだ 「さて、と・・・これで8体目か」 「うん、8体目だね」 「動きが鈍くて楽勝なのはいいけど・・・こう、キリがないとね」 市街地に大量発生したゴーレムを狩るのに、さすがの歴戦の猛者達も些か辟易して、つい、愚痴が口をついてしまう 「やれやれ・・・だね」 メンバーのそんな様子にボスのサイトー=サンも致し方なし・・・といった表情を浮かべ、肩をすくめる と、そこへ、シバチャンが叫び声をあげた 「ちょ!?ボス!アレ見てよ!」 「え?どしたの?」 シバチャンの言われるまま指差す方を見てみると、そこには4〜5体のゴーレムが群れ成している光景が・・・ 「?」 本来、意思を持たぬハズのゴーレムが群れを成している・・・という奇妙な光景にボスもただただ小首を傾げるばかり だが、その様子を注意深く観察すると、ある事実に気付いた 「ねぇ、ちょっと!」 事実に気付いたボスが即座に3人に注意を促す 「何?何?」 3人もボスの言葉に耳を傾ける 「あそこは教会じゃない!?」 「あっ!!」 そう、ゴーレムは無目的で群れている訳ではなかったのだ 街にある教会を破壊しようとしてただけなのだ しかし奇妙なのが、教会以外の周囲の建物はものの見事にゴーレム達によって破壊されているのだ もちろんボス達もこの教会のことはよく知っている 何の変哲もない、年期の入った石造りの教会だ 周りの建物と特に違いはないハズだ では、何故? その疑問がボス達の好奇心を駆り立てた 「よし、行くぞ!」 「「おう!!」」 掛け声も勇ましく、4人はゴーレムの群れへと突入していった 「我ら、これより修羅に入る!」 「「うおおおぉぉぉーっ!!」」 女流怨鬼念火の面々は雄叫びも勇ましく、ゴーレムの群れへと猛スピードで突っ込んでいく そして、接触まであと数m・・・というところだった 「!?」 目眩とともに、激しい頭痛がメンバー達を襲ったのだ 耳鳴りがし、平衡感覚が狂い、その場に立っていられなくなる・・・そんな不快感を感じてメンバー達は失速し、しゃがみ込んでしまう 「な・・・何これ!?」 「わ、わかんない・・・」 今まで体験したことのない不可思議な現象に、百戦錬磨のメンバー達もさすがに狼狽してしまう だが、不快感はさらに続き、いよいよ耐え難くなってきた 「あーっ!もうダメッ!」 メンバーの一人、ムラターメが耐えきれずに頭を抱え、耳を塞いで蹲ってしまった・・・ ところが・・・ 「!!」 しばらく蹲っていたムラターメが頭をもたげてきた しかもキョトンとした表情を浮かべている どうやら一人だけ、あの不可思議な頭痛から解放された様子なのだ 「ム、ムラちゃん・・・どうして平気なの?」 頭痛に耐えながらサイトー=サンが必死に尋ねる しかし、耳を塞いでいるムラターメにはその言葉が聞こえる訳もなく、まだキョトンとした表情を浮かべたままだ 「こ・・・この野郎・・・!」 耳を塞いだまま、涼しい顔をしてるムラターメにサイトー=サンは殺意すら覚えた だが、同時にある“仮説”が不意に頭をよぎった (もしかして・・・?) 耐え難い頭痛に苦しみながらも、サイトー=サンは頭によぎった“仮説”の立証を試みた なんてことはない、ただ「耳を塞ぐ」・・・それだけなのだが そして、サイトー=サンの“仮説”の読みは・・・ズバリ的中した! 「シバちゃん!マサヲ!今すぐ耳を塞いで!」 頭痛に苦しむ2人に大声で指示を出すサイトー=サン それを受けてシバチャンもマサエも急いで耳を手で塞いだ すると、今まで苦しんでいた頭痛がウソのようにパッタリと止んだ 「これは・・・?」 頭痛から解放されたマサエはその理由に気付かずしばし呆然としていたが、少しすると答えに気付いた 「そうか・・・」 マサエの隣のシバチャンを見ると、同じく答えに気付いたようだった 全員が謎に気付いたところで4人は互いにアイコンタクトを取り、“危険区域”から少しずつ遠ざかっていく すると、僅か2〜3m遠ざかっただけで手を放しても原因不明の頭痛が襲ってこなくなった そう・・・実は4人を苦しめていた謎の正体は“音”だったのである 恐らくは超音波のような不聴音が教会の周囲に発生しているのだろう だとすれば、教会の中には生存者がいることになる しかし、教会に近付けば“音”にやられてしまうし、耳を塞いだままだと武器が持てない・・・ 4人は考えた 「ねぇ、どうするよ?」 「どうするったって・・・やるっきゃないんでしょ?」 「まぁ、そうなんだけど・・・どうやってアイツらを攻略するか、よ!」 「わかってるよボス!でもアイツらに近寄れないんだよね・・・」 「困った・・・」 4人して考え込んだが妙案が思い浮かばず、ただいたずらに時間だけが過ぎていく そして運の悪いことに、4人の作戦タイムが突如、時間切れを迎えてしまった バキバキバキ・・・!! “音の結界”に護られていた教会がゴーレムの圧力によって外壁に大きな亀裂が走ったのだ 「まずい!」 4人は瞬時にそう判断した 予断は許さない・・・もってあと2、3分というところか? 「仕方ない!・・・みんな!突撃するよ!」 ボスのサイトー=サンがメンバーに合図を送る もちろん3人も即座に頷く・・・肚は決まった 4人は手に手に得物を取り、標的をしっかと睨み付ける 「行くぞ!」 サイトー=サンが気合いの号令をかけた、その時だった 「稲葉流忍法秘奥義・・・『日輪爆裂破』!!」 ボムッ!! 凄まじい爆発音とともに、外壁に群がっていたゴーレムの内の1体が粉微塵に消し飛んでしまったのだ 4人はすぐさま後ろを振り返る するとそこには4人の予想通り、頼もしい仲間が立っていた 「ちょっと!自分ら何やってんの!?」 「アッちゃん!」 4人の視線の先には、討伐チームの指揮官・アツコがいた 「一体どないしたんよ?」 アツコには、ゴーレムを目の前にして攻撃を躊躇っている4人の姿が奇異に映ったようだ 「いや・・・あそこの教会に近づいたら耳鳴りがして迂闊に近寄られないのよ・・・」 「多分、“音の結界”か何かだと思うんだけど・・・」 「ふーん・・・確かにシバちゃんらは肉弾戦の方が得意やもんなぁ・・・それやったら・・・」 アツコは4人の“証言”を聞くと、不意に指をパチン!と鳴らした 「聞いた?自分らの出番やで!」 「ハ〜イ!待ってましたぁ〜!」 気の抜けた返事とともに姿を現したのは、キャメイ、サユミン、レイニャの3人であった・・・ だが、なにやら様子がおかしい・・・ 「イヤだニャー!もうやらないニャー!」 「ホラ!駄々をこねちゃダメなの!」 「そうですよ?覚悟を決めなきゃ!」 嫌がっているレイニャをキャメイとサユミンの2人が引き摺っているのだ (な、なんだ・・・?) ある種、異様なその光景に『女流怨…』の4人もキョトンとしてしまう 一体、何がレイニャをそうさせるのか・・・? 「さぁ!It's show time!ですよ?」 そう言うと、キャメイとサユミンは細長い板と円筒を取り出し、ゴソゴソと作業を始めた そして完成したものを見て、女流怨…のメンバーはポカーンとしてしまう 「ちょっと、あんた達!?何なのよそれは?」 女流怨…のメンバーの心境を代弁してマサエがキャメイに問い質す するとキャメイはあっけらかんと 「あれ?コレご存じないですかぁ〜?『シーソー』ですよ『シーソー』!」 とハッキリ答えた 「わかってるわよそれくらい!アタシが言いたいのは、何故シーソーなんか用意したの?ってコト!」 キャメイのごく当たり前の回答にマサエはやや苛立ってしまう ・・・が、キャメイは再び涼しい顔で答えた 「まぁまぁ♪アタシ達の新兵器の威力、見てて下さい♪」 「ま、あの子達のお手並み拝見・・・といこうじゃないか!」 憤懣やるかたないマサエではあったが、ボス・サイトー=サンに宥められ、3人の様子を見守ることにした まずキャメイがシーソーの向きをゴーレムの方にセットした その間サユミンは、というと・・・ 「ちょっと!痛いニャ!もっと優しく巻いてニャ!」 「ほらほら我慢するなの!しっかり巻かないと成功しないの!」 レイニャの身体に何かをぐるぐる巻きつけている ますます異様な光景ではあったが、本人達は至って真剣そのものだった そして・・・ 「よし♪準備完了♪」 「じゃあ、さっそく逝ってみよう〜♪」 準備が整ったことでいよいよ“新兵器”のお披露目と相成った 「わ!わ!ちょっとタンマだニャ!」 心の準備が整ってないレイニャが待ったをかけるもキャメイとサユミンは問答無用で作戦を決行した 「「いざ、羽ばたけ!合体魔法『Ambitious』!!」」 嫌がるレイニャを羽交い締めにしたサユミンが引き摺ってシーソーの片側にスタンバイする と、そこへ跳躍したキャメイがシーソーのもう片側めがけて急降下した 「秘技・『パンプアップボディ』!」 ボムッ!! 魔法で外気の水分を取り込み、体積と重量を増したキャメイがシーソーを踏みつけ、レイニャとサユミンを軽々と上空へ弾き飛ばした! 「ニ゙ャーッ!!」 「ほら!しっかりするの!・・・お次はサユの番、『ロックフォール』!」 ゴゴゴゴ・・・!! キャメイ同様、全身を岩石の塊へと変化させたサユミンは重力に逆らうことなく地上へと急降下していった ではレイニャは、というと・・・ 「ニ゙ャニ゙ャニ゙ャーッ!」 なんと、高速錐揉み回転しているではないか? そう、レイニャの身体に巻きつけていたのは鎖であり、 その鎖をサユミンが勢いよく引っ張ることによって『独楽の原理』高速錐揉み回転が生まれたのだ 「シーソーでいつもの2倍のジャンプ!」 「コマ回しでいつもの3倍の回転!」 「そしてレイニャの両手にはめた鉤爪でいつもの2倍の攻撃力!」 「「これで敵は木っ端微塵!レイニャ!行っけぇ〜っ!」」 「ニ゙ャニ゙ャニ゙ャニ゙ャニ゙ャーッ!!」 女流怨…の面々は唖然となった キャメイ達の理屈でいくと、今、弾丸と化したレイニャにはきっと凄まじい破壊力が宿っていることであろう そして、その破壊力ならきっとあのゴーレムの群れですら容易く撃破することであろう だが・・・レイニャがあまりにも不憫すぎる・・・ (レイニャ・・・骨は拾ってやるぞ・・・) 4人はそう深く同情した そして・・・ チュドーーーン!! 『人間大砲』と化したレイニャが見事、ゴーレムの群れを木っ端微塵に撃破したのだ 「よしっ!」 「やったーっ!」 見事すぎる大勝利にキャメイとサユミンは手と手を取り合って大はしゃぎする と、そこへアツコがやってきて 「コラッ!2人とも!大事なの忘れてるやろ!?」 と浮かれている2人をたしなめたのだった 「あ、忘れてたっ!」 「ヤバっ!」 慌てて最大の殊勲者・レイニャの元へ駆け寄る2人 その様子を見て、女流怨…の面々はレイニャに同情を禁じ得なかったのであった それから後― 「レイニャー!大丈夫ー?」 「しっかりするの!まだ傷は浅いの!」 『人間大砲』となって敵を撃破した功労者・レイニャの元に、キャメイとサユミンが駆け寄っていく 「コ、コラ・・・縁起でもないニャ・・・!」 身体がボロボロになりながらもレイニャは2人に毒づいた 無論、本心ではないのだが・・・ 「おーい!大丈夫かー!」 キャメイとサユミンより遅れてアツコと女流怨…の4人も駆けつけてきた 「だ、平気ニャ!これぐらい大丈夫ニャ!」 師匠や先輩達に心配かけまいと気丈に振る舞ってみせるレイニャ だが、女流怨…の4人の『大丈夫か?』という呼び掛けはレイニャの身体を気遣ったものとは少し異なるものだった 「いや、耳の方は大丈夫か?」 女流怨…のよくわからない質問にキョトンとするレイニャ・・・ 「へ?・・・別に、耳は大丈夫ニャ!ほら、ちゃんと二つついてるニャ!」 「じゃなくて!・・・耳鳴りとかしねぇか?って聞いてるんだよ!」 レイニャのすっとぼけたような答えにやや苛立ちながらサイトー=サンが聞き返す 「?・・・何もないニャ?それがどうしたんですかニャ?」 「おかしいな・・・」 サイトー=サンが呟く それを聞いた3人も、同調して頷いた 話の展開が読めないレイニャは困惑して狼狽える 「あの、何か変なこと言いましたニャ?」 「いや、ちょっと・・・な」 そう言いながら4人はレイニャの方へと慎重に歩を進めた そして、ようやくレイニャの傍までたどり着いた時、改めて“環境の変化”を確信した 「止んでる・・・」 「ホントだ・・・」 驚く4人に対し、状況が飲み込めないレイニャは改めてサイトー=サンに尋ねた 「何が止んでるんですニャ?」 「耳鳴りだよ、実はあの教会から・・・?」 レイニャに答えを言いかけようとしたその時、サイトー=サンはある事を思い出した 「あ、シバちゃん!ムラっち!マサエ!教会!教会!」 「「あ!」」 サイトー=サンの叫び声に気付いた3人は急いで教会の扉の前まで走っていく 今の今まで苦しめられた耳鳴りが止んだ・・・ということは、その発生源である教会の中で何か変化が起きたに違いない それを確かめに行ったのだ ドンドンドン!! 「おーい!開けてくれー!」 「誰かいるのかー!もしもーし!」 「もう大丈夫だ!開けて!」 ガコン・・・ ギギィィィーー・・・ 教会の扉が軋む音を立ててゆっくりと開いた そして、扉の向こう側から出てきたのは今にも泣き出しそうな顔をした、小さな子供達であった 「もう、大丈夫だ・・・だから安心しな!」 泣き出しそうな子供達を安心させようとサイトー=サンが優しく声をかける だが、子供達の顔は浮かぬままであった 「ホラ!どうしたのよ?」 「お姉さんたちはバケモノじゃないから大丈夫だよ〜♪」 「コラッ!」 「「・・・」」 子供達の前で明るくおどけてみたものの、その表情が変わることはなかった いや、むしろますます泣き出しそうになった、と言ってもいい やがて、子供達の内の一人が突如、泣き崩れたではないか? 「ちょっと!どうしたのよ!?」 シバチャンが慌てて子供をなだめる すると、一人がようやく口を開いた 「お姉ちゃんが・・・お姉ちゃんが・・・」 泣きじゃくって、言葉が声にならないでいる 「わかった!じゃ、中に入るよ!」 そう言ってサイトー=サンやアツコ達5人は教会内に雪崩れ込んでいった 教会の中は静けさで満ちていた その中で聞こえてくるのは子供達のすすり泣く声のみ・・・ 「急ぐで!」 アツコのかけ声の元、5人は人影の見える方へ駆け出した 「みんな!もう大丈夫やで!」 子供達の人だかりに向かって、アツコは明るく呼び掛けた すると子供達は一斉にアツコ達の方へ振り返る みな一様に目に涙を浮かべ、ひどく沈んだ顔をしていた 「ちょっと!どないしたんや?」 屈託のない笑顔を浮かべ、アツコが尋ねてみるものの、子供達の泣き顔が笑顔にはならなかった 「お姉ちゃんが・・・お姉ちゃんが・・・」 「うわぁぁぁーん!」 見ると子供達の傍らにひとりの少女が倒れていた まだ幼さの残る、清楚な感じの少女だ しかし、少女の顔に生気がなく、顔が蒼白くなっている・・・ 「ゴメン!ちょっと退いてや!」 子供達を掻き分け、少女の傍に行くアツコ達 素早く少女の呼吸、脈、体温などをチェックしてみる・・・ 呼吸は、ある・・・脈もあるし、体温も正常だ どうやら、ただ気を失っているだけのようだ それにホッとしたアツコ達は少女を心配そうに見守る子供に向かって言った 「みんな大丈夫や!お姉ちゃんは気ぃ失ってるだけやったわ!」 「よかったな、みんな!」 アツコ達の言葉を聞いた子供達は始めは戸惑いながらもやがて喜びを爆発させた 「やったー!」 「お姉ちゃん、生きてるって!」 “お姉ちゃん”の無事を聞いた途端、泣きべそをかいていた子供達もいつしか笑顔に変わっていた 何物にも代え難い子供達の純粋な笑顔に、アツコ達の疲労もすっかり癒された 「よかったな、お姉ちゃんが無事で!」 「うん!」 嬉しそうな子供達一人一人の頭を優しく撫でながら、5人は改めてこの子達の笑顔を守るため、“打倒・マヤザック”の誓いを新たにした と、そこへ、気絶していた少女が目を覚まそうとしていた 「・・・ん!・・・うぅん!」 目を覚まそうとする少女に5人が呼び掛けた 「おい、起きろ!」 「大丈夫か?しっかりしろ!」 その呼び掛けにつられるように、少女は目を覚ました 「・・・んっ!」 寝ぼけ眼を擦りながら、少女は覗き込んでいる5人の顔をしばし見つめた 「きゃああああーっ!」 耳をつんざくような甲高い悲鳴が教会中にこだました その清楚な顔立ちに似合わぬ大声に子供達はおろか、百戦錬磨の猛者であるアツコも女流怨…のメンバーもさすがに肝を冷やしたのであった 「あ、あの・・・どなた様で?」 目覚めたばかりで状況の呑み込めないでいる少女に、5人はあれこれと先程までの出来事をを説明した 「そうなんですか・・・助かりました!ホント、ありがとうございました! ワタシ・・・この教会のシスター見習いで、マノ=ピアノフォルテと申します!」 恭しく礼をするシスター・マノに、5人は気恥ずかしくてつい、照れてしまう 「いやぁ・・・それほどでもないよ!」 「そ、そ!ウチらは当たり前のことをしたまでだし!」 「いえ、そんな・・・皆様方はワタシ達の恩人です!」 そんなやりとりの中で、5人にはとても気にかかっていたことがひとつあった 「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど・・・」 「ハイ?」 「知っての通り、ウチらは教会の周りを取り囲んどったバケモノ達を退治してこの教会に何とか入ってきたんや!わかる?」 「ハイ・・・」 「でな、ウチらが聞きたいのはな・・・この教会の周りに足を踏み入れた途端、突然耳鳴りに襲われたんや! マノちゃん・・・何か思いあたるフシはあるか?」 いつになく真剣なサイトー=サンすると、シスター・マノは目を輝かせて答えた 「あ!あれはワタシが結界を張ってたんです!」 「やっぱり・・・な」 シスター・マノの答えに“被害者”女流怨…の面々は納得顔で頷く しかし、それでも5人が奇妙に思ったのは、一体、どうやって数体のゴーレムごときではピクリともしない結界を張ることが出来たのか?である 「なぁ?どうやってあれだけの結界を張れたんだ?」 単刀直入にサイトー=サンがシスター・マノに尋ねてみた 「実は、アレを使ったんです」 そう言ってシスター・マノが指差したのは・・・ 「「えっ!?」」 一同は目を疑った 何故なら、シスター・マノが差し示したのは教会の奥に鎮座する巨大なパイプオルガンだったからだ 「マジかよ・・・」 「ええ!」 たじろぐ面々を裏腹にシスターはニッコリと微笑んだ 「ワタシ、子供の頃からずっと、このオルガンを弾くことが夢だったんです・・・」 シスターが言葉を続ける 「そして今日も礼拝にきた子供達と一緒に讃美歌を練習してたんです そしたら、突然バケモノが教会に近付いてきて・・・」 「なるほど・・・ね」 「ハイ・・・ワタシ、バケモノがきた時には内心『もうダメだ!』って思ったんです ・・・でも、ここには子供達も・・・そしてなによりこのオルガンがあったから逃げられなくて・・・」 「それで、祈るような気持ちでオルガンを弾いていたらバケモノが近寄らないことに気付いた・・・ってワケね」 「ハイッ!乙女の祈りは絶対なんですっ!」 はにかんだ笑顔を浮かべながら、シスターは嬉しそうに話す だが、そんな彼女の話を5人は渋い顔で聞いていた 「あの・・・どうかされました?」 5人の曇った顔つきに気付き、シスターが尋ねた そして、チームリーダーのアツコから返ってきた答えはシスターに厳しい現実を突きつけるものだった 「マノちゃん、今から早よココから避難しよ!」 「えっ・・・!?」 アツコの、ややもすると冷たい言葉にシスター・マノは目を見開いてしまった 「でも・・・」 「わかっとるよ、このオルガンが大事や、ってこと でも、忘れてへん?今は非常時なんやで」 「・・・」 そう・・・今は束の間の平穏であって、ここにいる全員が置かれている環境そのものは敵軍の真っ只中にいる、と言っても過言ではない 今まではシスターがオルガンを奏でることで“音の結界”を張って敵の侵入を防いできていたが、それがいつまでも続けられるとは限らない 「・・・でも」 アツコの言わんとすることはシスターだってわからない訳ではない・・・ もちろんアツコもシスターの想いがわからない訳ではない・・・ だが、今は二つの内の一つを棄てなければならない時なのだ 答えが出せぬまま、時間だけが刻々と過ぎていく・・・ そして 「あの・・・ワタシ!」 遂に、シスター・マノが答えを言おうとした、その時だっあ 「師匠〜!大変ニャ!大変だニャ!」 アツコの弟子・レイニャが息を切らして駆け込んできた 「大群だニャ!ゴーレム達の大群が押し寄せてきたニャ!」 「ちょ!?」 「マジ!?」 レイニャの報告を受け、アツコ以下5人とシスター・マノが急ぎ外に出た ガチャ・・・ ギィィィィ・・・ 「!!」 扉を開けて視界に飛び込んできた光景に、6人は一瞬己の目を疑った 「何よ・・・これ?」 6人が見たもの、それは先程の二倍から三倍のゴーレムの群れであった 「なんでこんな時に・・・!」 アツコは歯噛みする 今から避難しようと決断した矢先の出来事 偶然とはいえ、奴らに隙を突かれてしまった格好だ 「敵はこれだけ?」 レイニャ同様外に居たキャメイとサユミンに状況を聞いてみる 「いえ・・・横からも後ろからも来てます」 「くっ・・・!」 アツコは素早く周囲を見渡す やはり、左右後方からも同程度の群れが押し寄せてきているではないか・・・ アツコ達はもはや退路を断たれてしまった、と言ってもいいだろう ・・・となれば、やるべき事はただひとつだけ 「みんな!ここをなんとか死守するで! 正面はウチとレイニャ!後方をキャメイとサユミン!側面は女流怨!」 「「おう!!」」 「あと、マノちゃん・・・悪いけどウチらのバックアップ引き受けてくれへん?」 「ハイッ!」 「ええか?絶対に守り抜くで!!」