〜二の塔【Greed】〜

長い年月を経て、復活を果たした邪神・マヤザック
積年の恨みを晴らすため、人々に恐怖心を植え付け精神的支配を果たすため、王都・ハロモニアの街を破壊し尽くさんとした
街中はマヤザックの傀儡・“泥だんご”で溢れ返り、彼のもの達は美しいハロモニアの街を瓦礫の街へ化さんとしていた
そんな瓦礫の街にけたたましい怪鳥音が鳴り響く

「ホォ〜ッ!アターッ!」
「ハイッ!ハイッ!ハイッ!ホアターッ!」
その怪鳥音がこだまする度、“泥だんご”達がただの土塊へと還っていく
「フン!全然手応えないアルね!」
「ホント、準備運動にもならないアルよ!」
そう・・・街中に蔓延っていたゴーレムを次々と屠っているのは『暁の乙女』・ジュンジュンとリンリンの2人
腕試しの武者修行でハロモニアにやってきただけあって、息ひとつ乱れていなかった
そして、その2人の後を追う影が・・・
「ちょっとジュンジュン!リンリン!早いよ〜!」
「違うヨ!ミッツーが遅いだけアル!」
「そうアル!ミッツーが鈍臭いだけアル!もっと鍛えたらどうアルか?」
「ひどいよ!2人の体力がスゴすぎるだけなんだって!」
ジュンジュン・リンリンの後を追っていたのは、同じく『暁の乙女』・ミッツーであった


「そうか?アタシ達の故郷じゃこれくらい普通アル!な?リンリン?」
「そうアル!これくらいは朝飯前アルね!」
2人にいいように言われ、内心ムッとするミッツーであったが、その怒りをグッと噛み殺していた
その訳は・・・?
「それにしても、コハは一体何処ほっつき歩いてるアルか!?」
「そうだそうだ!リーダーがいないと困るアル!」
ミッツーが2人に強く言えない訳・・・それは、3人のチームリーダーであるコハが
お目付け役・ミッツーがいながら姿を消してしまったからだ
(・・・ったくセンパイったら!)
これまで先輩であるコハには散々振り回されてきた
そして今回もまた失踪・・・
ミッツーの堪忍袋はもはや切れる寸前になっていた
(今度こそ、ウンとお灸を据えてやります!)

では、一方のコハは・・・というと・・・
「アレ?おっかしいなぁ〜・・・みんな、どこ行ったんだろ?」
・・・道に迷っていた
「みんな足が早いから置いてきぼり食らっちゃったよ〜」
だが、その割には戸惑っている様子はなく、むしろ楽しんでいる向きすらあった
そんなコハの耳に叫び声が飛び込んできた


「このぉ!バケモノがっ!」
「・・・ったくしつこいですぅ!」
瓦礫の向こう側で、何者かがゴーレムと争っている様子だ
聞いた感じ、あまり戦況が芳しくない様子・・・
「これは・・・行かなくては!」
そう判断したコハはすぐさま声のした方へと急いだ
「こらーっ!待て待て待てーっ!」
路地を抜けて戦闘の真っ只中に駆けつけたコハ
「おおっ!?」
そこでコハが見たものは、3、4体のゴーレムを相手する2人組の少女であった・・・
一人は痩身で筋肉質、もう一人は対称的にややふっくらとした体型をしている
それぞれが魔法を駆使しながら戦ってはいるものの、見たところゴーレムにこれといった外傷が見当たらず、2人が苦戦してる様子が窺えた

(ここは加勢すべきよね!)
そう判断したコハは2人の間に割って入って、ゴーレム達に啖呵を切った
「おうおうおう!人ん家の庭で好き勝手してくれるじゃねぇかこのヤロー!」
「ちょ・・・あんた!?」
「な、なんですの?」
突然降ってわいたような闖入者のコハに2人組も目を白黒させる
しかしコハはそんなことはお構い無しに啖呵を切り続ける
「たとえ天が許しても、この美少女魔法使い・『ミラクル仮面☆キラリちゃん』が・・・!?」


それまで威勢よく啖呵を切っていたコハの口上が急にピタリと止んだ・・・
「!?」
謎の急停止に2人組は唖然となった
一体、何が起きたというのか?疑惑は高まる
集まる視線・・・重苦しい空気・・・
その雰囲気に耐えられず、2人組の細い方が
(おい!あんた!どうしたんだよ!)
とこっそり耳打ちをすると、コハは
「杖・・・預けたまんまだった・・・」
と、ぽつり呟いた
その声色と表情で、細い方も瞬時に今の状況が「ヤバい」ことに気付いた
(おい!どうするんだよ!)
大見得を切った割に役立たずなコハに細い方が厳しく突っ込む
「ふえぇぇぇ〜っ!そんなこと言ったって〜!」
自分の失敗は棚に上げてむくれるコハ
そこへ
「あの〜・・・どうしたんですか〜?」
と、ふくよかな方が暢気に尋ねるものだから場がさらに混乱してしまう
「バカッ!見たらわかるでしょ!見・た・ら!」
「え〜っ?わかんないです〜」
「あーん!ヤバいよー!助けてダーリンくらくらりん!」
もはやゴーレムそっちのけでやり合う3人に、なぜかゴーレムも動きが止まってしまった・・・
犬も食わないケンカ、ということか・・・?
と、そこへまたもや叫び声が!


「あ〜〜〜っ!コハセンパイ!」
「あ!ミッツー!」
コハを血眼になって捜していたミッツー達3人がようやくコハを見つけたのだ
「やっと見つけたアル!」
「ホント!今までどこほっつき歩いてたアルか!?」
行方知れずで散々捜し回ったジュンジュン・リンリンが怒り心頭でコハに文句をたれるが、コハはコハで
「えーっ!?ミッツー達がアタシを置いてきぼりにしたじゃん!?」
と言い返す
「いや、違うアル!コハが走るの遅いだけアル!」
「そうアル!日頃から功夫が足りないアルね!」
「だーかーらー!アタシが遅いんじゃなくってジュンジュンやリンリンが早いだけだよ!ねぇ、ミッツー?」
「えっ!?」
急にコハに話題を振られてしどろもどろになるミッツー
そこに畳みかけるようにジュン・リンが詰問する
「ミッツー!アタシ達とコハが言うこと、どっちが正しいアルか!?」
「さあ!早く答えるアル!」
「ねぇミッツー?ハッキリ答えチャイナ!」
3人から一斉に詰め寄られ、困り果てるミッツー
と、そこへいきなり拳が飛んできた
ドゴォォォォン!!
どうやらさすがにゴーレム達も待ちくたびれて痺れを切らしたようである


「アイヤーッ!」
「何するんだこのヤロー!」
“部外者”からの思わぬ横やりに、当然ながらジュン・リンやコハ達はカチン!ときた
「ジュンジュン!リンリン!先にコイツらをやっつけよ!」
「わかたアル!」
「アタシもコイツらにはムカついたアルね!」
先程までケンカしていた3人だったが、思惑が一致したのでひとまず休戦・・・となったようだ
(ふぅ〜・・・コハセンパイのムチャ振りにはまいったわ〜・・・)
3人の内輪揉めに振り回された格好のミッツーはとりあえず3人が結託したことで
これ以上余計なことに巻き込まれずに済んだ様子にホッと胸を撫で下ろす・・・にはまだ早かった
「コラ!ミッツー!何をボサッとしてるアルか!?」
「そうアル!グズグズするなアル!」
「ミッツー!何のんびりしてんのよ!チャッチャッとコイツらを片付けるのよ!」
(な・・・なんでやねん!?)
またしても3人から云われのない集中砲火を浴びるハメになり、やり場のない怒りを抱え込んでしまったミッツー
(あのバカども・・・好き勝手に言いやがって・・・!)
そして、ついにキレた・・・
「ウオォォォーッ!殺ってやる!殺ってやるぅー!」
そう叫ぶや、ミッツーはあっという間に単身でゴーレムの群れに突っ込んだ後、
積もりに積もった鬱憤をゴーレム相手に思う存分ぶつけましたとさ・・・


数分後―
「ぜはーっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「おおっ!ミッツーやるじゃん!」
単身でゴーレム数体を撃破したミッツーにコハが労いの言葉をかける
これでミッツーの鬱憤が多少晴れたかと思いきや、
「ちょっと!ミッツー!アタシの獲物を横取りしたな!」
「全く!せっかく楽しみにしてたのにね!」
ジュンジュン・リンリンの2人にはミッツーの行為が気に入らなかったらしく、ブツブツ言われてしまった・・・
(この野郎・・・!じゃあどないせいっちゅうねん!)
“仕事”をやってもやらなくても文句を言われて“仏”のミッツーもいよいよ我慢の限界に達しようとしていた
そのミッツーのイライラが爆発しそうなところに空気を読まずに声をかけてしまった気の毒な人が・・・

「あのぉ〜・・・」
「なんやぁ!?あ゙!?」
声をかけたのは、先程までゴーレム退治に手こずっていた2人組
おそらくお礼の一つでも言おうとしたのだろうが、虫の居どころが悪いミッツーに声をかけてしまったものだから
いきなりガンを飛ばされインネンをつけられてしまった・・・
「あ゙あ゙?なんやコラワレ!なんか用か?おぅ!?」
「い、いえ・・・」
「ス、スミマセン・・・」
後にミッツーが2人組がお礼を言おうとしてたことに気付くのはそれから数分後のことであった―


しばらくして―
「ごめんなさいっ!ホンットにごめんなさいっ!」
やがて怒りが冷めて我に返ったミッツーは例の2人組にいきなり怒鳴りちらした非礼を詫びていた
それに対し、2人組も
「もういいですよぅ〜。アタシ達そんなに気にしてませんから〜」
「そうそう。もう済んだことですし・・・」
と、大人の態度でミッツーを気遣い、水に流そうとしていた
だが、変なところで律儀、というか真面目なミッツーはなおも2人組に詫びようとするが、それをコハに制止されてしまう
「ホラホラ、もういいじゃん!みんな無事だったんだからさー!」
「センパイ!でも・・・」
「いいの!この2人が『もういいです』って言ってるんだからもういいじゃん?・・・そうでしょ、2人とも?」
「ええ、もう気にしてませんから」
「もちろんです。逆にウチらが助けてもらったから謝らなくちゃいけないくらいなのに」
コハと2人の言葉にミッツーもようやく詫びるのを止めた
「ホントにごめんなさい。アタシ、ミッツーです。よろしく」
「いえ、こちらこそ。ウチはサァヤ=ノエル=ポラリスって言います!で、こっちが・・・」
「キッカ=ベニハナと申します。よろしくです!」


「サァヤと、キッカね。アタシ、コハ!よろしくね!」
「アタシはジュンジュンアルね!」
「リンリンアル!よろしく!」
コハ達3人がミッツーに続いて2人組に自己紹介をすると、2人から思いがけない返事が返ってきた
「あ、アタシ知ってます!試合見てました!」
「ええ、ウチも!大会、スゴかったですよね!」
つい嬉しくなり、ついついコハが
「えっ!?・・・試合、見てたの?」
と聞いてみると
「ハイ!しっかり見てました!」
「ホント、白熱したスゴい試合でした!」
と2人は目を輝かせながら話す
しかし、その直後2人の表情がふと翳ったのをミッツーは見逃さなかった
「・・・どうしたの?」
「「えっ?」」
不意にミッツーに尋ねられ、2人はつい驚いた顔をしてしまう
それに気付いたサァヤは悟られまいと、すぐ表情を元に戻し、
「あ、なんでもないです!」
と振る舞うが、キッカの方は浮かない表情のままだった
(なにかあるな・・・)
そう感じた4人はキッカに問いかけてみた
「何かあったの?」
「いえ!別になにもないですっ!ホントホント!」
キッカが答える前にサァヤが必死に火消しに回ったが、しばらくして、キッカがぽつり口を開き始めた


「実はアタシ達・・・今日でココを離れるつもりだったんです」
と、少し自嘲気味に話すキッカ
「えっ?それって、どういうこと?」
「キッカ!」
余計なことを言うなとばかりにサァヤが割って入る
が、しかし、キッカは語るのを止めなかった
「アタシ達、この街に来たのは仕官するためだったんです
憧れの・・・『暁の乙女』に入るために」
キッカの目的が“自分達”だと知ったコハら4人は少し戸惑った
自分達が2人の憧れの存在であることを嬉しく思う一方、そのことで何故、2人が浮かない顔なのかが気にかかったからだ
「それで、アタシ達も『魔導大会』の予選会に出場したんです
もし、ここで活躍できたら入れるんじゃないか?と思って」
「そうだったんだ・・・」
予選することなくシードから本選に参加したコハ達が彼女達を見かけなくて当然だった
そして本選で2人を見かけなかったということは・・・?
コハ達には少しずつ彼女達の言わんとすることがわかりかけた気がした
「だけど、ダメでした・・・
“あの人達”に全く歯が立ちませんでした。それどころか秒殺でした」
“あの人達”とは、無論、予選会の黒マント、ミキ帝、アヤヤ、アベナッチ、ゴトーの“最凶の4人”である
予選会には出ていなかったものの、予選会で大暴れしていた4人組がいたのはコハ達も人づてに聞いていた
あの4人にキッカ達はなすすべもなく秒殺されたのだ


「・・・」
傷心のキッカ達の心境を慮ると、コハ達もつい無口になってしまう
「確かにアタシ達は秒殺されました・・・」
キッカに代わってサァヤが話し始めた
「だけど、『あれは油断しただけなんだ』って思い込みたくて、本選もずっと見てたんです
でも、本選を見たら逆に自信を無くしちゃいました・・・
みなさんの技術とか勝利への執念とか見てると・・・なんだか自分達とはレベルが違いすぎると思えてきちゃって・・・」
サァヤの言葉に傍に立つキッカも曇った表情で頷く
2人の寂し気な様子に、その場がしんみりとした雰囲気に包まれそうになる
しかし、そんな空気を吹き飛ばしたのはやはりコハだった
「そんなことないよ!」
落ち込む2人にキッパリと言い放つ
「アタシだって、ホントはそんなに強くなんかないよ。ただ・・・」
コハの発言にキッカ達は猛反発する
「そんなのウソです!だって、コハさんスゴい試合してたじゃないですかっ!?」
「そうですよ!ミッツーさんも、ジュンジュンさんもリンリンさんも!」
納得がいかないのか、キッカ達もついムキになってしまう・・・それをコハが優しく諭した


「いい?人間って強く願えば『なりたい自分』になれるんだよ!」
いつになく真面目な口調のコハ。その様に先程まで興奮気味だったキッカ達も口をつぐんだ
コハが続ける
「アタシがあの試合で頑張れたのは、『負けられない』『譲れない』理由があったから。
それとアタシと同じ“想い”を背負った、最高の相手がいたから。
だから自分でも信じられない『力』が出せた。
・・・試合には負けちゃったけど、アタシはあの試合で『強くなれる自分』を見つけたんだ!」
熱っぽく語るコハに同調して、他の3人も割って入った
「アタシも同感アル!アタシも大会前に隊長さんや副隊長さんに稽古をつけてもらったけど、コテンパンにやられたね
今まで練習したこと、少しも出せなくてスゴく落ち込んだね」
「だけど、大会で練習したこと思い出して一生懸命にやったら、全部できた
練習で流した汗は絶対!ウソつかないね!」
「つまりは・・・2人は今、自信が無いだけ
『自分を信じる心』が大事やで!
2人とも、コハセンパイ見たらわかるやろ?
ホンマは強くないけど『自分が一番!』って思い込んでるからメッチャ強いやん?」
最後を締めたミッツーの言葉にキッカ達のみならずジュンジュン、リンリンも大声で笑い出す


「ちょっとコラ!ミッツー!」
キツい目つきで睨みつけるコハにミッツーは慌ててキッカ達の後ろにヒョイと隠れる
だが、当のキッカ達が笑顔になったことでコハもやれやれ・・・といった顔つきになり笑みをこぼす

ようやく全員合流し、道中仲間になったキッカ達も元気になったことで、
いよいよコハ達はマヤザックの化身がいる塔に向けて歩を進めようとした、その時だ
パチパチパチパチ・・・
どこからか、拍手が聞こえてくる・・・
このあたりはゴーレムに手当たり次第破壊され、誰もが避難していなくなったハズなのに・・・?
薄気味悪さを覚えた6人はすぐさま周囲を見回した
すると、瓦礫の山の上に人影が見えた
「ん〜愉快ねぇ〜!実に愉快!一部始終拝見させてもらったわ!」
人を不愉快極まりない気分にさせる笑みを浮かべながら上から目線で見下ろす少女がいた
「「あっ!!」」
全員が一斉に驚嘆の声をあげる
誰もが見覚えのある顔・・・そして、コハの口から飛び出した言葉は?
「あの〜、どちら様でしたっけ?」
その一言に敵味方関係なくみな一斉にずっこけた・・・


「ちょっとセンパイ!」
コハのトンデモ発言に思わずミッツーがツッコミを入れる
「何言ってるんですか!この人ですよ!アタシ達が追っかけてるマヤザックの分身ですよ!」
「え?そ、そうだっけ?」
「そうだ!アタシこの人見たことあるアル!」
「えーと・・・なんて名前だったっけ?忘れたアル!」
4人が混乱する中、キッカとサァヤは少女の正体に気付く
「この人・・・コンさんですよ!」
「そうです!元『暁の乙女』の・・・」
正体に気付いた2人の言葉に少女は笑みを浮かべる
「ご名答!だけど、アタシはコンじゃないわ!」
少女の意外な発言に6人は目を白黒させる
コンなのに、コンではない・・・これは一体?
「アタシはコンの潜在意識の中にあるもう一人のコン・・・
アタシの名はミリバ!“強欲”のミリバ!」
「ミリ・・・バ?」
『ミリバ』と名乗る少女の名前を呆然と呟く6人
その6人に対してミリバが叫ぶ
「さて、自己紹介も済んだことだし、いかせてもらうわよ!・・・出でよ!“泥だんご”達!」
そう言って懐から取り出した袋の中身をぶち撒けると、それがやがて人型の傀儡となってあっという間に6人の周囲を取り囲んだ


「さぁ、お前達!アイツらをやっつけるんだよ!」
ミリバの命に従い、次々とコハ達に襲いかかる“泥だんご”達
ただ、ミリバの放った“泥だんご”が今までのそれとは異なる点があった
それは・・・“サイズ”
今までの“泥だんご”はゴーレムに代表される、破壊力はあるものの、動きが緩慢な巨人サイズであった
しかし、今回の“泥だんご”はそれとは真逆、破壊力こそないものの、俊敏な動きが出来るよう、人型サイズとなっていた
それが功を奏したのか、コハ達は意外と苦戦を強いられる
「えい!たぁー!」
「ハァー!ハイハイハイ!」
「フッ!ホッ!ハッ!」
的が小さくなった分、有効打が当てにくくなる・・・特に急所である“核”を破壊するのが極めて困難になったのだ
加えて、ゴーレムサイズには目立たなかった“自己再生能力”が際立つようになった
「あーもう!イライラするっ!」
思ったことをつい口にするクセのあるコハが不満をぶち撒ける
その様子にいやらしい笑みを隠さないミリバ
それを見たコハがミリバを罵倒する
「ちょっと何様よ?そんなところで高見の見物なんてしてるんじゃないわよ!」
だが、その僅か数秒後、コハは自分の吐いた言葉を後悔することになる―


「あら?いいの?今でもその子達に手こずってるのにアタシが入ったら・・・後悔するよ!」
いやらしい笑みから一転、狩人の目になったミリバが瓦礫の山からフワリと飛び降りた
その標的は無論、散々言いたい放題だったコハ!
高々と舞った跳躍の後、鋭く脚を突き出し、コハの身体を抉らんとする!
「わっ!?」
予想外に鋭い足刀蹴りにコハもやや大きめに躱す
着地してからもミリバの攻めは続く
「ハッ!ハッ!ハッ!」
コハの上段を狙った正拳突きのラッシュが待っていた
体術の心得があまりないコハはそれをバックステップで躱す他なかった
「わっ!?わっ!?ちょっとタンマ!」
ミリバから逃げ惑うコハ・・・だが、追う者と追われる者では勢いが違う
気付けば、コハはミッツー達からはぐれて泥だんごの群れの中に孤立していた・・・
そう、まんまとミリバに追い詰められたのだ
「ウソッ!?」
思わず叫んでしまったコハ・・・
だが、紛れもない現実である
「さてと・・・生意気な口を利いたお仕置きでもしようか?」
四方を囲まれたコハに、ミリバがゆっくりとにじり寄る
その様はまるで獲物を追い詰めた肉食動物のようですらあった


「ホラ!いくよ!」
ミリバの正拳突きがコハめがけて飛んでくる
その速さたるや、さながら限界まで引き絞った弓から放たれた矢のようですらある
それがコハに向かって真っ直ぐ向かってくる!
ドスッ!!
「・・・っ!」
反応すること能わず、ミリバの拳がコハの胸部にめり込んだ
胸部を瞬間的に圧迫されたコハは息が詰まって呼吸困難に陥ってしまう
会心の一撃を与えたミリバは満足気な笑みを浮かべつつも、早くも獲物の品定めをしていた
「フフ・・・さぁ、次はどこを狙おうかな?」
ミリバの反応できない速さの正拳突きに、さすがの強心臓のコハも狼狽える
声に出さなくても、表情に怯えの色が見て取れたのだ
「だから言ったじゃない?後悔するって。先輩の言いつけを聞かない子にはお仕置きが必要ね」
未だ呼吸が定まらないコハをミリバはジリジリと追い込んでいく
そして、ようやく呼吸が戻ったところにまたも鉄拳の雨を降らせる!
「ホラ!ホラ!ドララララーッ!」
足捌きで避けることもままならないコハはダメージを最小限に抑えようと体術の心得がないなりにガードをするが、
ミリバの重い拳の連打はコハの身体を、心を容赦なく削っていく


そして―
「ハイィィィーッ!」
ドスッ!!
防御していたコハのガードの隙間を掻い潜り、ミリバの強烈な中段足刀廻し蹴りが鈍い音を立ててコハの鳩尾にヒットする!
「かはっ・・・!」
ミリバの硬いブーツがコハの柔らかい急所にミシミシとめり込んでゆく・・・
急所に強烈な打撃をもらったコハは瞬時に激痛と呼吸困難に苛まされてしまう
しかも最悪なことに、強い衝撃を受けたコハは泥だんごの群れの中に吹っ飛んでしまったのだ
「!?」
朦朧とする意識の中、コハは周囲の気配から、自分が未だ孤立無援の状態であることを悟り、愕然とする
(ヤ、ヤバい・・・ヤバすぎる!)
強心臓のコハでもさすがに今の現状が絶体絶命というのはすぐにわかった
どう足掻こうにもミリバの打撃で身体中に蓄積されたダメージでは満足に動くことすらままならない
もし万一逃げ仰せたところでミリバに追いつかれてしまうのは明白・・・
一体、どうすれば・・・?
だが、そんなことを考える猶予すらミリバは与えてはくれなかった
「あら?さっきまでの威勢の良さはどこいったの?フフフ・・・」
ゆっくり、しかし、確実にコハに向かって歩を進める・・・


動けない・・・逃げ場もない・・・コハはもう“詰んで”しまったのか?
否!
「「ホアチャー!!」」
けたたましい怪鳥音とともに、コハの前を横切る影が・・・
「コハ!情けないアルね!」
「そうよ!カッコ悪いアルよ!」
突如乱入してきたのは、ジュンジュンとリンリンの2人
「ウソ!?」
驚いたのはミリバ
ミリバの中では泥だんご達による完璧な分断作戦が上手くいっている、と思っていたのだろう
そんな驚いた様子のミリバにジュンジュンとリンリンは平然と言い放つ
「さっきの泥人形はちっとも歯ごたえがなかったアルね!」
「そうそう!動きがワンパターンだからアクビが出そうになったアルよ!」
見ると、ジュンジュン、リンリンが出てきたところには粉々に砕け散った泥だんご達の残骸が・・・
2人の言葉にミリバは思いの外落ち込んでしまう
「そんな・・・完璧だったハズなのに・・・」
肩を落とすミリバ
そこで、ミリバを尻目にジュンジュンとリンリンは身も心も傷ついたコハに喝を入れた
「コハ!なんでもっと早く『助けて!』言わないアルか!?あと少しで大変なことになってたアルよ!」
「そうね!なんでもっとアタシ達を頼らないアルか!?アタシ達は“チーム”なんだよ!」


「!!」
ジュンジュンとリンリン、2人の言葉にコハは気付かされた
今、自分達はチームで戦っていることを・・・コハ一人で戦っている訳じゃないことを・・・
「コハの悪いところは周りがよく見えてないところアル!」
「そうアル!あと、なんでも一人でやってしまおうってするところアルね!」
コハには2人の言葉が耳に痛かった
が、不思議と不快な気分にはならなかった
それは、2人の言葉がコハのことを思ってこそ、の言葉だったから
それをコハ自身がよくわかっていたから・・・
「ありがとう!ジュンジュン、リンリン!」
「コハ!お礼はいいからさっさと変身するアル!」
「口より先に身体を動かすアルね!」
コハがジュンジュンとリンリンに礼を言うものの、2人は背を向けたまま、憎まれ口を叩く
もちろん、それが2人の照れ隠しであることはコハも気付いていた
「よし!いくよ!」
先程まで意気消沈していたコハの眼に再び生気が漲り、精神統一を始めた

無論、この様子を指をくわえて見ているミリバではない
「させるかぁー!」
立ち塞がるジュンジュン・リンリンにミリバが襲いかかる!