「せいっ!」
ミリバ渾身の足刀が立ち塞がるジュンジュン・リンリンの壁を突き破らんとする!
ジュンジュンとリンリンの機先を制した一撃、これにはミリバも多少なりとも手応えを感じていた
(もらった!)
ミリバは内心そう思った・・・が、しかし、それはすぐに失望へと変わっていった
トン・・・
ミリバの中では今、己の足刀がジュンジュンかリンリンかの身体を撃ち抜いているハズだった
しかし、現実にはミリバの足には何の感触もない・・・
そして、次の瞬間に待っていたのは胸を突き刺すような激しい痛み・・・
ドゥ・・・!!
気付けばミリバは吹き飛んで尻餅をついていた
「な、何・・・!?」
何が起きたか全く理解出来ていないミリバは明らかに狼狽える

「えっ!?何?何?」
ジュンジュン・リンリンに視界を遮られていたコハも、何が起きたかわからずパニックに陥っている
では、一体何が起きたのか・・・?
「ヒュー♪リンリン流石アル!技のキレが全然衰えてないアルね!」
「デショ♪我ながら上手くいったアルね!」
ミリバが受けたもの・・・それは足刀を受け流したリンリンによるカウンターの肘打ちだったのだ


「ホラホラーッ!他所見してるヒマはないアルねー!」
リンリンの肘打ちで尻餅をついてしまったミリバに、お次はジュンジュンが一気呵成に攻め込まんとする
(くっ・・・マズい!)
己の状況の不利を察知したミリバは素早く立ち上がり迎撃体勢を取るべく呼吸を整えようとする
(落ち着け・・・まずは呼吸を整えろ!)
自身の動揺を落ち着かせるべく、ミリバはその場から大きく後退した
攻めかかるジュンジュンとの間合いは約5m・・・といったところか。
当座の呼吸をつけるほどの距離を充分すぎるほど取った
(よし!これで一呼吸置ける!)
ジュンジュンとの間合いを開けて、ミリバが内心ホッとした、その時だった
「ハアァァァーッ!『絶招歩法』!」
ジュンジュンの身体が、まるで弓に弾かれた矢のように急加速してミリバに接近した!
「えっ!?」
目を白黒させるミリバ。だが、それも致し方ないだろう
約5mほどの間合いを一気に詰める・・・という常人にはまず不可能なことをジュンジュンがやってのけたのだから
「ハッ!」
「ちいぃぃぃっ!」
ジュンジュンの飛ばした初手をミリバはなんとか防いだものの、不意をつかれて大きく体勢を崩してしまう
そこへジュンジュンの神速のラッシュが待っていた!


体勢を崩したミリバに対してジュンジュンは鋭くさらにその内側へと潜り込む
「セイッ!『裡門頂肘』!」
「うっ!?」
がら空きになったミリバの鳩尾を強烈な痛みが走る
たまらずミリバは自分の意思とは関係なく身体をくの字に折り曲げてしまった
そこへさらにジュンジュンがミリバの懐へと潜り込む!
だが、あまりにも突っ込みすぎて、ミリバとの間合いがほぼ0になってしまった・・・
これではまともな打撃を放てないではないか!?
一体、ジュンジュンはこの0の間合いで何をやろうというのか?
すると、ジュンジュンはまずより一段と強く、大地を踏みしめた
その踏み込みの強さたるや、遠くにいても、“ドンッ!!”という音が聞こえてきそうなくらいである
その強く踏み込んだ脚でもって、今度はミリバの脚を崩しにかかる
バランスを崩されたミリバは踏ん張ること能わず、防御が疎かになってしまった
そこへ踏み込みの力を充分に蓄えた上半身が撃鉄のようにミリバの身体を弾き飛ばす!
「喰らえっ!『鉄山靠』!」
ドゥ!!
「はうあっ!」
なんと!密着した状態からミリバの身体が大きく吹っ飛んだではないか!?
「『崩撼突撃』・・・山をも崩すアタシの『八極拳』、その身体に刻み込むアルね!」


ジュンジュンの凄まじい攻撃を受け、なかなか立ち上がれないでいるミリバ
だが無情にも、地面にいつまでも這いつくばってはいられなかった
「ホァーッ!」
「!!」
怪鳥音とともに、何かが急降下しているのにミリバは気付いた
脅威・・・ミリバの格闘家としての本能がそう訴えた
(ヤバいっ!)
そう判断したミリバは外見など気にせずその場を横転して逃げた
ドンッ!!
震動とともに土煙が舞う
横目に見たミリバの視界に入ってきたのは誰かの両足!
「チッ!逃すか!」
宙から舞い降りたのはリンリン!
獲物を捕らえ損なった両足は休む間もなくミリバを狩りにいく!
「ハッ!ハッ!」
横転したミリバをすかさず踏みつけにいくリンリン
ミリバはそれを辛うじて横転し続けることで回避していった
「このぉ!」
やられっ放しで苛立っていたミリバは地面を刈るように水面蹴りを放つ
しかし、その蹴りは獲物を捕らえることなく空を切ってしまう
「ハイッ!」
ミリバの足払いを躱したリンリンは牽制の前蹴りを放つ
「くっ・・・!」
機先を制され、やむなく守勢に回るミリバにリンリンは波状攻撃を仕掛けた
「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!・・・」
凄まじく回転の早い突きの連打・・・そしてミリバのガードを弾いたところで膝で突き上げる!
「喰らえっ!『連環金鶏独立』!」


ドゴッ!!
リンリンの天に向かって高く突き上げた膝と鉤手はミリバの身体を撃ち抜き、宙高く舞わせた
「勝機!」
中空に浮いて身動きが取れないミリバに向かってリンリン自身も身体を捻りを加えながら空高く跳躍し、頂上にてミリバを脚で撃ち抜いた!
「必殺!『旋風脚』!」
バキィィィ!!
「ごふっ!」
リンリンの蹴撃はミリバの身体に深くめり込んだ後、その身体をはるか後方へと大きく弾き飛ばした
地面に強く打ちつけられたミリバは何度も地面をバウンドし転げていく
あまりにも見事なやられっぷりに敵であるコハも思わず気の毒に思ってしまう程だ
受けたダメージは相当のもの・・・ミリバはこのまま沈黙するものと思われた

しかし―
「よくも・・・よくもやってくれたわね・・・」
ヨロヨロになりながらもミリバは立ち上がる
そのタフネスさには打ち負かしたハズのジュンジュン・リンリンも舌を巻いた
「この死に損ないめ・・・まだやられ足りないアルか?」
「お望みなら、今度こそ引導を渡してやるアルよ!」
そう口では言いながらも、ジュンジュン・リンリンはミリバの底知れぬ不気味さを感じていた
そして、その予感は現実となる―


「さぁ!息の根を止めてやるアル!」
「覚悟するアル!」
ヨロヨロのミリバを見てチャンスと判断したジュンジュンとリンリンはこの機を逃すまい、とばかりに飛び出していった
しかし、次の瞬間、ミリバの不可思議な行動を取った
なにやらゆらりゆらり・・・と踊りなのか酔っ払いなのかわからない動作を始める
「フン!やっぱりもうダメみたいアルな!」
「楽にしてあげるから安心するアル!」
ミリバの動作を“ダメージ”と判断した2人は突進を止めない
そしてあと1〜2mくらいになった時、それまでの緩慢な動作から一転、ミリバは目をカッ!と見開き、妙なポーズを取った
「秘技・『融影守衛(ゆうえすえい)』!」
右向きになったミリバが右脚を軸にして右腕を斜めに突き上げ、左脚を少しあげる構えをすると、
突然、ミリバの身体がうっすらと消え始めるではないか!?
「「!?」」
目前で起きた奇妙な出来事に、逸るジュンジュンとリンリンもさすがに足を止めた
無論、この様子を離れて見守っていたコハも何が起きたのか、さっぱりわからないようであった
そして遂には、ミリバは完全にその姿を消してしまう・・・


「おい!どこだ?どこに行ったアルね?」
「早く出てきていざ尋常に勝負するアルよ!」
姿を消したミリバにジュンジュンとリンリンの2人が吠える
だが、そんな2人を嘲笑うかのような言葉がどこからか聞こえてくる
「どうやらアタシの居場所がわからないようね・・・いい気味だわ
さっきやられた分、倍返しにしてあげるわ!」
“倍返し”と聞いて、2人も黙っていられない
「ハン!そんなボロボロの身体で何が出来るというアルか?」
ジュンジュンが挑発してみる
挑発すれば、ミリバが何らかの行動を起こすと思ったからだ
だが、ミリバからは何の反応もない
ただ、周囲の泥だんご達がじわじわとジュンジュン・リンリンの2人ににじり寄ってくるだけ
「フン!ただ時間稼ぎしたいだけアルか?そんな小細工したってムダなくらいフラフラなのは自分がよくわかっているだろ!」
ジュンジュンが執拗に挑発する・・・が、返事は帰ってこない
その態度に苛立ちを隠せないジュンジュンはいよいよ“実力行使”に打って出た
「おらーっ!どこに隠れたーっ!出てこい!」
そう叫びながら周囲を取り囲みつつある泥だんご達を片っ端から破壊していく


「うおぉぉぉーっ!」
ドガッ!!
バキッ!!
ジュンジュンの重い打撃が泥だんご達の急所にヒットし、次々と土塊へと還していく
「ジュンジュン!落ち着くアル!」
ジュンジュンの強引なやり口に相方のリンリンがブレーキをかけようとした
確かに虱潰しに敵を捜し出すジュンジュンの行為そのものは悪くないのだが、あまりにも無計画で闇雲すぎる・・・
そのことをリンリンは危惧したのだ
そしてその危惧は現実のものとなってしまった

ジュンジュンが順調に泥だんご達を壊している最中だった
ドスッ!!
なんと、一体の泥だんごの放った突きがジュンジュンにヒットしたではないか!?
今の今まで泥だんご達に遅れをとることのなかったジュンジュンが一撃をもらってしまったのだ
まさに“油断”と言うべきなのか・・・?
「・・・っ!このぉ!」
“格下”の泥だんごに一撃をもらってジュンジュンは当然の如く怒り狂う
だが・・・
「!!?」
突然、ジュンジュンが膝から崩れ落ちてしまった・・・
その様子を形容するなら『糸が切れたように、力無く・・・』が相応しいかも知れない
泥だんごからもらったたったの一撃が、とんでもないことになってしまった


「ジュ・・・ジュンジュン!」
異変の起きたジュンジュンに向かってリンリンが叫ぶ
するとジュンジュンは苦悶の表情を浮かべ絞り出すような声で
「う、動けないアル・・・!」
と、言った
「じょ・・・冗談でしょ!?」
その一言にジュンジュンをよく識るリンリンが慌てた
「ちょっと、リンリン!落ち着いて!」
先程の冷静沈着ぶりが一転、慌てふためく様に待機中のコハが必死に宥める
もちろんコハだって内心では相当慌てていた
何しろ恵まれた体格、そして実戦での打たれ強さを目の当たりにしてきたジュンジュンが何の変哲もない一突きで崩れ落ちたのだから・・・
だが、それらの事実を反芻したコハに、あるひとつの“疑念”が生まれた
(も、もしかして・・・?)

「ジュンジュン!しっかりするね!」
コハが推測している間にも、リンリンはジュンジュンの元へ慌ただしく駆け寄っていく
余程ジュンジュンのことが気がかりなのか、いつものリンリンらしからぬ軽率な行動であった
そのらしからぬ行動を見て、コハの頭に得体の知れぬ、不吉な予感がよぎった
「リンリン!危ないっ!」


リンリンに身の危険を伝えようとコハは必死に叫ぶ
しかし、あと一歩及ばなかった
ドスッ!!
「・・・うっ!」
ジュンジュンの元へといち早くたどり着きたいがあまりに無防備になっていたリンリンを、
背後から忍び寄った一体の泥だんごが不意討ちをお見舞いしたのだ
「くっ!・・・このぉ!」
不意討ちを食らったリンリンではあったが、体勢を立て直し泥だんごに反撃を試みた
「あぁぁぁーっ!『閃通背』!」
振り向き様に見舞ったリンリン渾身の掌底・・・だが、こともあろうか泥だんごはその一撃を容易く躱したではないか!?
渾身の一撃を躱されたリンリンはバランスを崩してそのまま転倒し、地べたに這いつくばってしまう
その地べたに這いつくばっているリンリンを泥だんごが得意気に踏みつける
そしてあり得ないことに、人語を発しないハズの泥だんごが話し始めた
「フフン♪ずいぶんとチョロいもんね♪」
「!・・・キサマ!」
「今頃気付いたってもう遅いわよ!あなたは地面に這いつくばったままなのよ!」
そう、姿を消したと思われたミリバは周囲の泥だんご達の中にその身を隠し、2人の隙を虎視眈々と待っていたのだ


「こらっ!離せ!離せっ!」
踏みつけられ、地べたに這いつくばったままのリンリンがミリバに向かって吠える
無論ミリバはリンリンの言葉に耳を傾けない
いや、むしろその叫びがまるで小鳥のさえずりかのように心地よさそうに聞いていた
そしてリンリンに向かってイヤミたっぷりに吐き捨てた
「イヤよ。あなたにはアタシが味わった以上の苦痛を味わってもらうんだから!」
吐き捨てた後、ミリバはうつ伏せに倒れているリンリンを背中を憎々し気に踏みにじる
ギュッ!!
「カハッ・・・!」
激痛に身悶えるリンリン。それを見てミリバは満足そうな笑みを浮かべる
そしてゆっくりとしゃがみ込み、不意にリンリンの背中のある一点を人差し指で突いた
その途端、リンリンが絶叫する!
「ぎゃあぁぁぁーっ!」
いつものリンリンでは考えられない大絶叫、“断末魔の叫び”が辺り一帯に響き渡る
それから僅か数秒後、絶叫が途切れた時には、リンリンは気絶していた
「リンリン!?」
壮絶な光景にコハが叫ぶ
しかし、リンリンはピクリとも動かない
一体、リンリンの身に何が・・・?


「お前・・・リンリンに何した!」
リンリンの壮絶な苦しみ様を見たジュンジュンが怒りを露にしてミリバに吠える
「何よ?それを聞いてどうしようってワケ?
あなたはもう動けないんだから聞いたところで仕方ないでしょ?」
ジュンジュンの神経を逆撫でするようにミリバが返す
案の定、ジュンジュンが噛みつく
「この野郎っ!ぶっ殺してやる!」
だが悲しいかな、ジュンジュンの身体は自由が利かず、立ち上がることすらままならなかった
「クソッ!動けっ!動けっ!」
苛立ちと悔しさの入り交じったジュンジュンの叫びが辺りに悲しく響く
その悔しがる様が嬉しかったのか、突然ミリバが口を開いた
「いいわ。教えてあげる。でもあなた・・・きっと後悔するわよ?」
勿体ぶった物言いでジュンジュンを見つめながらミリバが語り出す
「アタシがこの娘にしたのはなんてことないわ。ただ、『秘孔』を突いただけだから」
「!!」
ミリバの言葉を聞いた途端、ジュンジュンの顔色が変わった
「お前!リンリンになんてことしやがった!」
今まで以上に怒り狂うジュンジュン
傍観していたコハには、ジュンジュンの怒りの理由がわからなかった
その後の2人のやりとりを聞くまでは―


「あら?知ってるのね?『秘孔』のこと・・・」
ミリバはいやらしくも澄ました顔でジュンジュンに尋ねる
ミリバの心無い言葉にジュンジュンはまた吠えた
「ふざけるな!あんな汚い『邪拳』、誰が使うものかっ!武道家として恥を知れ!恥を!」
ジュンジュンとミリバのやりとりから察するに、『秘孔』とは『邪悪な拳法』になるらしい
コハが不思議そうな顔で聞き入っていると、コハに気付いたミリバが雄弁に語り始めた
「ふーん・・・あなた『秘孔』のことがずいぶんと気になるみたいね。いいわ、教えてあげる
人体には、『ツボ』と呼ばれる箇所があるわ
そこを刺激すると人体を活性化させたり逆に悪化させたり出来るのよ
そしてアタシの押した『秘孔』は・・・」
「・・・人体を破壊する『禁断のツボ』だ!」
雄弁且つ楽し気に語るミリバの語りにジュンジュンが割り込んだ
割り込まれてムッとしながらもミリバは
「あら?あなたまだ元気なのね?」
と余裕たっぷりに毒づいてみせる
と、その言葉にジュンジュンは身体をワナワナと震わせ絶叫した
「わかったぞ!お前が・・・お前が犯人だったんだな!」


「あら?よく気付いたわね」
ジュンジュンの絶叫を聞いたミリバは顔色を変える訳でもなく、さらっと言ってのけた
それが却ってジュンジュンの感情を逆撫でした
「お前・・・!殺してやるっ!」
物騒なことを口走るジュンジュン
コハには、何故ここまでジュンジュンが怒り狂うのかがさっぱりわからなかった
それほどの剣幕だったのだ
しかし、ミリバは全く動じない
それどころか、更に悪態をつくではないか?
「そんなに大事な『秘伝書』なら、もっと厳重な警備をしとくべきだったわね」
「うるさい!・・・うるさい!うるさい!うるさいっ!」
“傷口”に触れられたのが気に障ったのか、ジュンジュンの怒りは更に激しさを増す
ここでコハには、ジュンジュンの怒りの理由が少しずつ見えてきた
『秘伝書』・・・警備・・・とくれば・・・?
「あの『秘伝書』はどこへやった?アレはお前なんかに手におえる代物じゃない!」
「フン!何言ってんのよ?現にアタシがこうやって『秘伝書』の技を使いこなしてるでしょ?」
「アレはお前みたいな心の腐った盗人には使いこなせない!・・・絶対!」
2人のやりとりから推測するに、ミリバは『秘伝書』とやらを盗んだようなのだ


「あなたがいくら何て言おうと、アタシはこの『秘伝書』に書かれた“奥義”の数々をマスターしたのよ!」
そう言うと、ミリバ懐からなにやら巻物を取り出した
「お前!・・・それは!?」
巻物を目にした途端、ジュンジュンの目の色が変わった
事情をよく知らぬコハでも、今、ミリバが手にしてる物こそジュンジュンが捜し求めている『秘伝書』というのはすぐにわかった
「返せ!・・・返せ!」
立ち上がれないのに、それでもなお必死にもがくジュンジュン
だが、ミリバはヘラヘラと薄ら笑いを浮かべたまま
そして終にはジュンジュンに対して蛮行を働いたのだ!
「さて・・・もう飽きたからあなたにも黙ってもらおうかしら?」
そう言ってミリバはおもむろにしゃがみ込み、ジュンジュンの背中のある一点を強く突いた
その途端、ジュンジュンが“断末魔”の叫び声をあげた
「ぎゃああああーっ!」
凄まじい大音量が辺り一面に響き渡る!
まるでリンリンの時の悪夢の再現だ
ジュンジュンの絶叫に耐えきれず、コハは両の耳を両手で塞ぎ、両の目を閉じてしまった
それだけ壮絶な光景だったのだ


程無くして、ジュンジュンの絶叫がぱったりと止んだ
無論、それはジュンジュンの失神を意味する
絶叫が止んだことに気付いたコハは閉じていた目を開いて、ジュンジュンの姿を確認する
動かない・・・さっきまであんなに元気だったのに・・・憎まれ口を叩いてたのに・・・
そう思うと、コハの心中にミリバの蛮行を止められなかった自分への怒りと、2人を傷つけたミリバへの怒りが込み上げてきた
「あなた!よくもジュンジュンとリンリンをめちゃくちゃにしたわね!
・・・許さない!絶対に許さない!」
平素は明るく楽しく振る舞っているコハが、誰にも見せたことのない怒りを露にした
それだけミリバの、2人に対する仕打ちが耐えられなかったのであろう
だが、ミリバにとっては負の感情こそが何よりの悦び・・・
今、ミリバの頭の中ではいかにしてコハをもっと怒らせるか?・・・そのことが最大の関心事であった
そしてしばらくして、ミリバはある妙案を思いつく
「コハとか言ったわね?あなたに、もっと面白いもの、見せてあげるわ」
そう言うと、ミリバは何かの呪文を詠唱し始める
「うるさい!今すぐぶっ飛ばしてやる!」
当然コハはミリバの呪文の詠唱を待たずに急接近してミリバの頭を手にした杖を撃ち抜こうとした


「たあぁぁぁーっ!」
大上段から振り下ろしたコハの杖がミリバの頭蓋骨を砕かんと迫ってくる!
だが、ミリバはその場から一歩も動こうとしない・・・
ミリバがその場を動かなかった訳は・・・?
ガッ!!
コハの杖に、何かを叩いた感触があった
「!?」
しかし、クリーンヒットとは言い難い手応えであった
コハが杖の先端を凝らして見てみる
「!!」
その先端を見たコハはショックのあまり、絶句した
コハの杖が捉えたもの・・・それは今の今まで倒れていたハズのジュンジュンとリンリンの腕だった
ショックのあまり言葉を失くしたコハに、ミリバがしたり顔で語った
「この技も『秘伝書』に書かれてあった“禁断の秘技”の内のひとつ・・・『傀儡の術』!
気を失った2人はもうアタシの手駒、木偶人形になったの!
どう?人間を意のままに操れるってとてもステキでしょ?」
嬉々として話すミリバ・・・その様は強大な“力”を手に入れたことで、その“力”に魅入られた人間そのものであった
そんなミリバが、まるで要らなくなったオモチャを壊すかのようにジュンジュン・リンリンの2人に指示を出す
「2人とも・・・あの子を始末して頂戴!」


ミリバの声に呼応して、ジュンジュン・リンリンの2人が飛び出した
「ジュンジュン!?リンリン!?」
目を覚まして、といわんばかりのコハの悲鳴が虚しくこだまする
だが、無情にもコハの叫びを聞いても2人が突進を止めることはなかった
(どうしよう?このままじゃ2人を・・・)
2人の顔を見てしまうと、どうしてもコハは攻撃する決心が揺らいでしまう
そして終には2人はコハの眼前にまで迫ってきた
(どうしよう・・・どうしよう・・・)
躊躇うコハと躊躇わない2人・・・そして両者がいよいよ激突寸前、というところで突如、横槍が入った
「待ちなさい!」
両者の間に割って入ったのはミッツー、サァヤ、キッカの3人
3人の出てきたところを見ると、無数の泥だんごの残骸が転がっていた
3人はジュンジュン・リンリンに遅れは取ったものの、力ずくで泥だんご達の包囲網をくぐり抜けてきたのだ
「コハセンパイ!事情は聞いてました。2人のことはアタシに任せて下さいっ!」
「でもミッツー・・・2人はアイツに操られてるんだよ!?」
「大丈夫です。それよりセンパイはアイツを頼みます」


「でも・・・!」
コハはジュンジュンとリンリンの相手役を買って出たミッツーの身を案じる
ジュンジュンとリンリンの格闘術の凄さ・・・それを目の前でまざまざと見せつけられたからだ
「大丈夫ですセンパイ。アタシには“策”がありますから!」
心配するコハを前にミッツーはさらっと言ってのけた
その落ち着き払った態度にコハも落ち着きを取り戻し始める
それを見届けたミッツーは急にコハをサァヤとキッカのところへドンッ!と突き飛ばした
「わっ!?わっ!?」
不意を突かれたコハはよろけながらサァヤとキッカの懐へと飛び込み、2人もコハをしっかりとキャッチした
「ちょっと!ミッツー!」
後輩の悪ふざけとも取れる不意討ちにコハもムッときて後ろを振り返る
・・・が、そこにはミッツーの姿はなかった
「ちょっとミッツー?どこ行ったのよ!?」
周囲を見回し、ミッツーの姿を捜すコハ
そして次の瞬間、コハが目の当たりにしたのは、既にジュンジュンとリンリンに対して臨戦体勢のミッツーであった
「ジュンジュン!リンリン!アタシが相手したげる!さっさとかかってきなさい!」