(絶対に・・・避ける!) 絶対に失敗の許されないこの窮地で、キラリちゃんの集中力は極限にまで昂っていた (見切ってやる!見切ってやる!・・・!?) 全神経を集中させていたキラリちゃんに、なにかが閃いた (そうだ!これなら・・・!) 突進するミリバに対してキラリちゃんは背後の巨大な釣り鐘にピッタリと貼りつく 『さぁ!楽にしてあげる!』 キラリちゃんの行動を“体力の限界”と見たミリバは勝利を確信して大きく拳を振り上げた! その瞬間を、その一瞬の隙をキラリちゃんは逃さなかった! 「えいっ!」 目を閉じて、構えた両手から強烈な閃光を解き放つ! 『きゃっ!』 間近で強烈な閃光を見てしまったミリバは一瞬、キラリちゃんの姿を見失ってしまう (今だっ!) ミリバがたじろいだのを感じたキラリちゃんは身を低くしてミリバの正面から逃れた ここで焦ったのはミリバ キラリちゃんをいち早く葬ろうと、闇雲に拳を振り下ろした! だが、そこに待っていたのは例の巨大な釣り鐘・・・それもミッツー特製かなりの強度の代物だ ゴオォォォォォーン!! ミリバが釣り鐘を撃ち抜き、釣り鐘の強度はミリバの拳を痛めつける! 『ぎゃあああああっ!』 変身後のミリバが初めて見せた、苦悶する姿だった 『な!?・・・どういうこと!?』 完全に討ち取った、と確信していたミリバに動揺が走る と、そこへキラリちゃん達が姿を現した 『あ、あんた達・・・一体どこに!?』 慌てふためくミリバにキラリちゃんはこう言った 「『どこに!?』って・・・別にアタシ達はどこにも行ってないよ さっきの目眩ましであなたの視力が一時的に急激に弱っただけ 完全に回復するまではまだまだ時間がかかると思うわ」 『くっ・・・!よくもっ!』 キラリちゃん達に拳を振り上げるミリバ しかし・・・ 『痛っ!』 先程釣り鐘を叩いた拳が急に痛みだしたのか、ミリバは悶絶する その好機をキラリちゃん達は見逃さなかった 「今だよっ!」 「おうっ!」 「ハイッ!」 3人が三方に散って一斉に魔法を仕掛けた! 「まずはアタシからいくです!不思議な魔法さ、はてはてな〜♪舞い散れ!『秘密の花園』!」 キッカが杖をかざすと、無数の花びらがミリバのめがけて飛んでゆき、それがミリバの身体に次々と付着し自由を奪っていく 『な、なにこれ!?』 「次はウチの番だよ!負けん気!やる気!元気に前向き!『絶対冷気』!」 サァヤのかざした杖からは冷気が一陣の吹雪となってミリバを凍てつかせる 『か、身体が・・・動かない!』 キッカの花びらがミリバの身体の自由を奪い、サァヤの凍てつく吹雪がミリバの体温と体力を奪っていく・・・ 『やだ!やだ!』 ミリバがいくら喚いても足掻いても身体中にまとわりついた花びらがカチコチに凍ってしまい、身動きがとれないのだ キッカとサァヤのお膳立てにいよいよキラリちゃんがトドメの構えに入る 「今まで好き勝手にやってくれたよね?全部まとめて、お返ししてあげる! サァヤ、キッカ!アタシの後に続いてね!」 そう言うと、キラリちゃんは頭上高く愛用の杖を掲げ、全魔力を杖に注ぎ込む 「えっ!?ウチらも!?」 「そうみたい・・・ですねぇ〜♪」 サァヤとキッカもキラリちゃんに言われるがままに頭上高く杖を掲げ、魔力を集中させた 3人の準備が整ったと見るや、キラリちゃんが動き出した! 「この全魔力のこもった一撃、お見舞いしてあげる! いくよ!『月下美人』!」『ぐふっ!?』 キラリちゃんのフルスイングした杖がミリバの無防備なドテッ腹に食い込む! 「えーと・・・なんかよくわからないけど、『雪花乱れ咲き』!」 『かはっ!?』 続いてサァヤの杖が、ミリバの胸部を痛撃する! 「ゴメンなさいっ!必殺!『花鳥風月』!」 最後のキッカの杖の一撃がミリバの脳天に直撃した! ゴツッ!! キッカの振り下ろした杖の一撃はミリバの頭蓋骨を直撃し、見事なまでの鈍い音を響かせた そしてその衝撃で、ミリバを拘束していた“氷の花びら”は次々と砕け散り、キラキラと宙を舞った 「うわぁ!スゴく綺麗!」 「ホントだ・・・」 その様を見ていたキラリちゃんとサァヤは美しい花の散り際に思わず見とれてしまう だが、あの一撃を喰らったミリバはたまったものではない 『うぐっ!?』 バタッ!! 呻き声を残し、ミリバは前のめりに倒れた そしてピクリとも動かない・・・ 「やった・・・」 目の前に転がっているミリバを見て、キッカが呟いた 「勝った・・・!」 サァヤも信じられない、といった顔つきで喜びを露にする 「サァヤ!キッカ!やったね!」 最後にキラリちゃんが2人に対して“勝利のVサイン”をする 「やったぜ!」 「やりましたわ!」 3人は誰からともなく集まり、ともに難敵・ミリバを倒した喜びを分かち合った 「サァヤ!キッカ!やれば出来るじゃん?」 「えっ・・・?あ、うん」 「ハイ・・・なんとか頑張りました」 キラリちゃんに言われ、サァヤもキッカも頷く すると、キラリちゃんからどこかで聞いたような言葉が・・・ 「ね!だから言ったでしょ?強く願えば『なりたい自分』になれるって!」 「「!!」」 ニコニコするキラリちゃんに言われて、サァヤとキッカはハッとした 強く願えば『なりたい自分』になれる― その言葉は、初めてキラリちゃん=コハにキッパリと言われた言葉だ 仕官する夢、『暁の乙女』になる夢をもってハロモニアに来たけど、自信をなくして弱気になってた2人に向けて言った一言・・・ その結果、2人は極限まで追い詰められた結果、3人がかりとはいえ、かつての『暁の乙女』・コン=ミリバに勝利することが出来たのだ― 「うぅ・・・うわあぁぁぁーっ!」 「わあぁぁぁーん!」 感極まって、キラリちゃんの胸に顔を埋めて号泣する2人 そんな2人をキラリちゃんは何も言わずにギュッと抱きしめるのだった だが・・・ 『ううう・・・』 突然、呻き声をあげるミリバ 見ると、玉のような汗が吹き出し、苦悶の表情を浮かべている 「な、なによ?・・・アレ」 倒したハズのミリバが動き出したことで、3人の笑顔が消えた そしてミリバはというと、今度は突然、奇声をあげた! 『うおぉぉぉーっ!』 ミリバの身体中から黒い霧が立ち上ぼり、それが何かの形となり、やがて具現化していく! そして終には、九つの尻尾を持った、キツネの半獣人の姿になった これが“強欲”のミリバの真の姿なのか? 半獣人と化したミリバがキラリちゃん達に 『クッ・・・!貴様等如きに遅れを取るとは・・・なんたる不覚! かくなる上は、貴様等を木偶人形にしてやるっ!』 と、吐き捨てた そして、言い終えるや否や3人に襲いかかった! 『油断したな!その甘さが命取りよ!』 3人が構えるよりも早く、ミリバの腕が3人を捉えようとした その刹那! バシュ!! ドスッ!! 風切り音がして、その直後、何かが突き刺さる音がした・・・ 『ゲフッ・・・!』 見ると、ミリバの肩に鉄製の矢が深々と突き刺さっていた まさかの援護射撃に、キラリちゃん達3人は唖然とする・・・ と、そこへ、何者かが大声で叫んだ 「おい!マヤザック!やっとシッポを出しやがったな!コンコンを操ってたその罪、その身体で償ってもらうよ!」 キラリちゃん達が声のする方を目で追うと、ちょうど建物の屋根になにやら投射器を設置している狙撃手らしき人影があった その言葉から、キラリちゃん達の敵ではなく、ミリバ=マヤザックに恨みを持つ者、と簡単に推測できた そしてその人影はミリバにトドメを刺さんと畳みかける! 「喰らえミリバ!この弩の威力、とくと味わえ!」 屋根の上の狙撃手は続けざまに弩から矢を発射する バシュ!! バシュ!! その風切り音が聞こえるや、次の瞬間にはミリバの背中にまた、二本の矢が突き刺さっていた 『ゴフッ!!』 よほど深手なのか、ミリバは口から吐血した だが、それでもミリバは倒れない・・・いや、それどころか、キラリちゃん達に一歩、また一歩とにじり寄っていく 「マジ・・・?」 唖然とするキラリちゃん達・・・ミリバのその執念の前に、動けずにいた このままでは、ミリバに捕まってしまう・・・ と、その時だ 「コハ!退いているアル!」 「コイツはアタシ達の獲物アル!」 キラリちゃん達の背中を、何者かがすり抜けていった そして、ほとんど無防備状態のミリバに渾身の一撃を叩き込む! 「我が八極拳に二の打要らず!一打必倒!『猛虎硬巴山』!」 「太極拳が真髄、その身で確かめるヨロシ!奥義・『纏絲勁』!」 2人の掌がミリバの身体に深々と突き刺さる! 『ゴホッ!!』 2人の渾身の一撃を受けたミリバは大きく後方へ弾け飛んだ! 「コハ、あれだけ注意散漫だと言ったのに!」 「そうアル!アタシ達がいなかったらどうなってたことやら・・・」 憎まれ口を叩く2人に、キラリちゃんは笑顔で答えた 「おかえり!ジュンジュン!リンリン!」 『チクショウ・・・このままでは終わらんぞ アイツらもろとも道連れにしてやる!』 「そんなことさせへんで!」 『!!』 ジュンジュンとリンリンに吹き飛ばされたミリバの背後に、いつの間にかミッツーが立っていた 『い・・・いつの間に!?』 「『いつの間に!?』って・・・さっきからずっといてたで アタシの気配に気付かない鈍感な人・・・哀れやね」 背後を取られ慌てるミリバにミッツーはさらりと言ってのけたのであった そして、手にした数珠をミリバに巻きつける 数珠はまるで大蛇のようにミリバの身体に絡みつき、身体の自由を奪ってしまった 『くっ!おいっ!放せっ!・・・放せ!』 もがくミリバ。しかし悲しいかな、もう逃れるだけの体力すら残ってはいなかった そんなミリバを前に、ミッツーは複雑な印を次々と結んでいく・・・ その準備の長さから、相当の大技、ということが窺い知れた そして、いよいよミッツーが印を結び終えた 「業魔調伏!悪霊退散!秘術・『阿修羅』!」 ミッツーがそう叫ぶと、直後、ミッツーの身体に異変が起きた! 肩の辺りが膨張し、隆起していき、やがてそこから新たに二対の腕が生えてきたではないか? 「あんたはアタシの大事な人達を傷つけた・・・だからアタシはあんたを絶対許さへん!」 そこにはいつもの人当たりが良さそうな顔をしたミッツーの顔ではなく、憤怒の形相の鬼がいた 『おい!待てっ!待ってくれっ!』 命乞いにも似たミリバの悲鳴も、ミッツーの心にはもはや届かない そんなミリバにミッツーがいよいよ断罪を下す時がきた 「成仏しなさい!『阿修羅バスター』!!」 ミッツーはミリバをむんずと掴むと、空高く放り投げ、そして自らも空高く跳躍してミリバの身体を空中でキャッチした キャッチしたミリバの身体を逆さまに担ぎ上げ、首、腕、大腿を次々と極めていく! 「これでお仕舞いよ!」 2人分の体重が合わさったことで、勢いよく地面に急降下する! そして― ドゴオォォォン!! 地響きをたててミッツーが地面に着地した 『ゴホッ!!』 首、腕、大腿を極められたまま着地の衝撃をモロに受けたミリバは、血反吐を吐いて、そのまま地面に崩れ落ちた 『く、口惜しや・・・』 そう一言だけ呟くと、ミリバは静かに絶命し、その身体はやがて黒い霧となって消えていった・・・ 「やったぁ!」 ミッツーが難敵・ミリバを撃破した瞬間、キラリちゃんが喜びの声をあげた そして、その快哉の叫び声をきっかけにみんなが“立役者”ミッツーの元へと駆け寄っていく 「ミッツー、よくやったアル!」 「やりましたね!」 みんなにもみくちゃにされる手荒い祝福を受けたミッツーであったが、それが今はとても心地よかった ・・・だが、その祝福がもっとエスカレートしていく 「ちょ!痛っ!痛いって!」 どうやら誰かが執拗にミッツーをバシバシ叩いているらしい・・・ 「ちょっと!コハセンパイッ!いい加減にしてくださいっ!」 ミッツーが叫ぶ だが、意に反して、キラリちゃんからは 「アタシじゃないよ」 と返ってくる 素早くミッツーが視線を走らせると、確かにキラリちゃんは祝福の輪から遠ざかっていた キラリちゃんだけではない サァヤもキッカも、ジュンジュンもリンリンもミッツーから遠ざかっているのだ・・・ では、誰がミッツーをバシバシ叩いているのか? 「コラーッ!なにすんねんっ!?」 「おおっ!?」 ミッツーが身体を起こすと、そこには全く見たこともない人物がいたのだ