ヤグーはマイミン達の目の前に差し出した手を一度胸元まで引っ込め、再度力強く前方に突き出す 突き出した手からまばゆい閃光とともに一条の光線が放たれた! 『喰らえっ!『セクシービーム』!』 ヤグーの突き出した手から迸る光の奔流が無防備なマイミン達を呑み込む!・・・ハズだった だが、光線を放った直後のヤグーの目の前には、本来そこにあるべきマイミン達の姿はなかった 『!?・・・どこだっ?』 消えたマイミン達の姿をヤグーは目で追う しかし、 「隙ありっ!」 『うぐっ!?』 消えたマイミン達の姿を見つける前にヤグーは背後からの一撃をもらってしまった 「全く・・・オレ達が長官の姿を見て油断するとでも思ったのかよ?」 「マヤザック、アンタが長官の身体を乗っ取ったことは周知の事実だから、心の準備さえしてればアンタに遅れを取ることはないわ!」 策士策に溺れる・・・と言ったところか ヤグーの不自然なタイミングでの登場は、マイミン達を罠に嵌めるどころか、ただ悪戯に警戒を強める結果になってしまった 『ケッ!可愛くない奴らだよ!何も知らずに死なせてやろうと思ってたのによ!』 「フンッ!アタシ達はアンタと違ってまだピチピチなんだから今すぐ死ぬのはゴメンよ!」 『チッ!ああ言えばこう言う・・・だからオイラはお前達のそういうところが大キライだったんだよ!』 いよいよヤグーに扮していたマヤザックがその本性を曝け出した 『オイラはいい子ちゃんじゃいられない!オイラはもうヤグーなんかじゃない! そう、オイラの名は“怠惰”のダッソー!』 ヤグー改めダッソーがマイミン達に大見得を切る そしてマイミン達にこう宣告した 『「兄より優れた弟などいない」・・・そして「師匠より優れた弟子などいない」! それを今から、お前達にたっぷり思い知らせてやるから!』 そう宣告するなり、突如ダッソーはマイミン達に突っ込んでいく! (速いっ!?) ダッソーの動きを凝視していたハズのマイミン達ではあったが、瞬く間より速くダッソーはマイミン達に急接近していた 『いくよっ!』 (ヤバいっ!) 不意を突かれ、間合いを詰められてしまったマイミン達はダッソーの仕掛けに備えてダメージを最小限にすべくガード態勢を取った だが、そんなマイミン達の行動を嘲笑うかのように、ダッソーは意外な行動に出た 『それっ!』 ボンッ!! ダッソーが懐から掌サイズの玉を地面に叩きつけると、大きな炸裂音とともに周囲にモウモウと黒煙が舞い上がった 「これは・・・?」 「クソッ!やられた・・・」 辺り一帯に広がった黒煙・・・これによってマイミン達はまんまとダッソーに視界を奪われてしまったのだ 『さっきはよくもやってくれたね!倍返しにしてやるよ!』 視界の利かない黒煙の中でダッソーが叫ぶ それに対してマイミンは 「うっせーっ!姑息なマネしやがって!煙が腫れたらてめぇの顔も倍に腫らしてやるよ!」 と、やり返した 『なんだと・・・!』 そのセリフがダッソーには不愉快だったらしく、苛立った口調で負けじと言い返した 『なら、後悔するんだね!秘技・『ファルセット』!』 「おい?くるぞ!」 ダッソーの声にマイミンが全員に警戒を呼びかける 「わかったわ!」 「了解でふっ!」 マイミンの声に呼応して全員が身構えてダッソーの攻撃に備えた だが、しばらく経ってもダッソーから何の攻撃もなかった 「ん?どういうことだ?」 ダッソーの意図がわからずマイミンは首を傾げる と、そこへマイミンの背後に何かが揺らぐ気配がした 「そこかっ!?」 ドスッ!! 「ぎゃっ!?」 振り向き様に放ったマイミンの蹴りが何かを捉えた 「ちょっとぉ!誰よ今蹴ったの!?」 (ヤベッ!) どうやらマイミンが蹴ったのは相方・エリカンだったようだ 長年連れ添っている相方を蹴ってしまってバツの悪いマイミンは知らん顔を決め込む だが、その行動が思わぬ事態を招いた 「キィーッ!犯人は素直に名乗り出なさい!さもないと・・・」 暗闇の中、不意に何者かに蹴られたエリカンは当然ながら腹を立てる そして名乗り出てこない犯人に対して実力行使を始めた 「いい度胸してるわね!なら覚悟しなさい!この薙刀の錆にしてくれるわ!」 エリカンは得物の薙刀を手に取り、先程蹴った犯人が居たとおぼしき場所を薙ぎ払った ビュォンッ! 薙刀が凄まじい風切り音をたてて空を切る (危ねっ!) 自分のすぐ傍を薙刀がかすめていき、マイミンは冷や汗をかく しかし、そんなのはまだ序の口だった 「ん?気配!」 マイミンの気配を犯人の気配と捉えたエリカンが連続でマイミンのいる場所へ薙刀を走らせる! ビュン!! ビュォン!! 「おい!?危ないだろっ!?」 先程は自分でエリカンを蹴っておきながら、マイミンはエリカンを怒鳴りつける 「あっ!マイミンだったの?ゴメンゴメン!」 暗闇の中とはいえ、マイミンにうっかり刃を向けたことをエリカンは素直に詫びた 「い、いいんだよ別に・・・」 真犯人であるにも関わらず被害者に謝られてマイミンは胸が痛かった だが、同様の同士討ちがまたも発生した ドスッ!! 「うぎゃっ!?」 「あっ!ノッチ?ゴメンね!」 「もおーっ!ユウカリン、何するんでふかっ!?」 ドスッ!! 「イテッ!」 「あっ!モモ様!?」 「コラーッ!何すんのよ!」 ヒュン!! ドスッ!! 「うぎゃあああーっ!痛い・・・痛いわよぉーっ!」 視界の利かない黒煙の中、ちょっとした弾みで同士討ちが相次いだ もしや、ダッソーの『ファルセット』とは・・・?マイミンがその答えを導き出そうとした、その時だ 『おいっ!みんな!アイツを捕まえたぞ!』 マイミンはゾッと背筋が凍る不気味さを感じた 何故なら、先程闇の中で聞こえた叫び声は他ならぬマイミンの声だったからだ (一体、どういうことだ!?) 自分以外の何者かが自分の声マネをした・・・言い知れぬ不安・・・そしてそれは現実となった 「ムグッ!」 突如、マイミンの口が塞がれた (な、何だっ!?) 慌てて塞がれた口元に手をやろうとするが、今度は身体が動かなくなってしまった そしてマイミンの背後からまた例の声が聞こえた 『おい!コッチだ!早く攻撃しろ!』 ようやくマイミンは気付いた・・・この声の主の狙いを・・・ 「いいわよー!エリカン流・薙刀術『挙げ半』!」 「OK!ももち流忍法・『蛍火』!」 「いきます!ともいき流苦無術・『乱れ桜』!」 「了解でふ!ともいき流体術・『紅葉狩り』!」 ドスドスドスドスドスドス・・・!! マイミンの身体に味方であるはずのエリカンやモモ達の一斉砲火が突き刺さる! (ンンッーーー!) 無防備な身体に一流の強者達の攻撃が降りかかってくるのだ・・・その苦痛は想像を絶することであろう (・・・!!) バタンッ!! 襲いかかる苦痛に耐えかね、不覚にもマイミンは気絶してしまう 「やった?」 『まだだっ!逃げられた!』 マイミンが気付いたダッソーの狙い・・・それは暗闇の中で声マネをすることで同士討ちを誘う、己の手を汚さぬ卑怯なやり口であった しかし、ここは戦場・・・戦いに綺麗も汚いもない。あるのは勝利か敗北か、生か死かのみ 常識では汚いとされるダッソーの戦い方は、戦場では逆に己の手を汚さない綺麗でスマートな戦い方なのだ まずマイミンを葬り去ったダッソーは次なる標的に狙いを定める (ムグッ!?) 『みんな!捕まえたわよ!』 今度は闇の中でモモの声がした (な、何これ!?) ダッソーの術中に嵌まったモモが必死にもがくが、一切の身動きが取れない! モモもようやくダッソーのカラクリに気付くが時、既に遅し・・・ ダッソーのカラクリに気付かぬエリカン達が次の攻撃態勢に入っていた 「さあ〜!今度こそは逃がさないわよ〜!」 先程は討ち洩らしたとあって、エリカンの薙刀を握る手に力が入る 「知ってます、アタシ知ってます!あなたがそこに居ることを・・・ 覚悟しなさいっ!エリカン流薙刀術・『挙げ半』!」 力を込めた渾身の一撃をエリカンは標的に向かって振り上げる!・・・が、薙刀は空を切った 「ウソ!?」 自信の一振りが空を切ったことでエリカンは動揺する しかし、すぐに気持ちを切り替え連続で薙刀を振るう 「このぉ!おとなしくなさいっ!」 ビュン!! ビュン!! ビュン!! 凄まじい風切り音をたて、エリカンの凶刃が標的に迫る! だが、 ガキィィィン!! 金属音をたてて、エリカンの薙刀の動きがピタリと止まった 「何?」 明らかに何者かの手によって薙刀が防がれたのだ そしてエリカンに向かって意外な言葉が飛んできた 「待って下さい!これは・・・罠です!」 甲高い声でエリカンに呼びかけたのはユウカリンだった 続いて、また声が飛んできた 「そうでふ!あの声はモモ様じゃないでふ!」 ノッチもユウカリンと同じようなことを口にする 「ちょっとあなた達?何言ってんのよ!?さっきのは明らかにモモの声じゃない?モモと違うって証拠はあんの!?」 チャンスを逃して苛立つエリカンが吐き捨てる 「証拠は・・・ありません」 そう呟くユウカリン 「ほら、みなさいよ!証拠がないなら邪魔しないでちょうだい!」 証拠がない、と聞き、苛立つエリカンはユウカリンに噛みつく しかし、ユウカリンも言葉を続ける 「でも!今まで10年も一緒に過ごしてきたワタシ達が、一番モモ様のことを知ってます!」 「そうでふ!それに腑に落ちない点があるでふ!」 ユウカリンに続いて、ノッチも口を開いた 「な、何よ?」 思いもよらぬノッチの割り込みと疑問提起に、エリカンも少したじろぐ 「なぜ、さっきからマイミンさんの声がしないんでふか?」 「あっ!」 確かにそうだ。なぜ今までリーダーシップを執っていたマイミンの声がいつの間に聞こえなくなっていたのか? 通常であればモモがダッソーを捕まえた時点で真っ先にみんなに号令をかけるハズ それが聞こえてこなくなったのは明らかにおかしい・・・ 一同の頭の中に疑念がもたげてくる すると、突然悲鳴が聞こえてきた 『ぎゃああああっ!』 その悲鳴はマイミン達の内の誰の悲鳴でもない、ダッソーの悲鳴だった 「よくもアタシの声マネをしてくれたわね!ちっとも似てないじゃない!」 そう、モモは身動きを封じられた中、背後に回っていたダッソーを忍術の火で炙ったのだ 「モモッ!」 「モモ様っ!」 ダッソーの悲鳴とモモの怒号で、エリカン達はモモのみならず、自分達も罠に嵌められていたことを確信した 『クソッ!せっかく何も知らずに始末してやろうと思ったのに・・・』 歯噛みするように吐き捨てるダッソー 「うるさいっ!よくも騙してくれたわね!たっぷりとお返ししてやるんだから!」 すっかり騙されていたことに憤るエリカン だが、憤ったところで視界の利かない暗闇の中でのゲリラ戦はエリカン達にとって圧倒的に不利・・・ どうしたものか・・・そう考えていた、その刹那 ポツ・・・ポツ・・・ 「ん?」 一同が空を見上げた 無論、闇の中に包まれているのだから空も真っ暗ではある いや、一同が空を見上げたのは空を見たかったからではなく、空から降ってきた水滴が気になったのだ ポツポツ・・・と一同を濡らしていた水滴の量が、少しずつ増えていく やがてそれは降り注ぐ雨へと変わっていった 「あら?なんか変ね・・・この煙の塊は」 「そうね。明らかに怪しいわ。きっとマヤザックの仕業ね」 聞き覚えのある声・・・その声にエリカンとモモは喜び立つ 「サキ!メーグル!」 「やっぱり、エリカン達だったのね・・・」 やや呆れた口調でメーグルがぼやく 「全く・・・あれだけ自由行動はしないで、って言ってたじゃない!?」 同じくサキも呆れ果てたという感じで吐き捨てた 「わかってるわよ!それより今、大ピンチなのよ!早く助けてちょうだい!」 2人の言葉が耳に痛いが、厄介なことになってるエリカンは必死に2人に助力を求める そんなエリカンにメーグルは 「もう、やってるわよ」 と、さらりと答えた 「サキ!」 「OK!悪しきものを全て浄め給え!『黄金色の雨』!」 サキのかけ声とともに、急に雨足が強くなった・・・と、同時に今まで真っ暗だった視界が少しずつくすんでいく やがてくすんでいた視界は次第に晴れていき、終には黒煙は綺麗さっぱり消えてしまった 「助かったーっ!」 暗闇から解放されたエリカンは恩人であるサキとメーグルの元に駆けていく 「ありがとー!ホントありがとー!」 嬉々として喜ぶエリカンに対してメーグルの視線は冷ややかだった 「ねぇ、エリカン?マイミンはどうしたの?」 「あ・・・」 メーグルに指摘されたエリカンは恐る恐る後ろを振り返る するとそこには先程エリカン達の集中砲火をモロに受けてノビているマイミンの姿が・・・ 「きゃああああーっ!マイミン!?マイミン!?」 ノビているマイミンを介抱しに駆けつけるエリカンをよそに、メーグルとサキは初顔合わせとなったヤグー改めダッソーを睨みつける 「あなたが・・・マヤザックね?」 『マヤザック?違うね。オイラは潜在意識の奥底に眠るもう一人のオイラ・・・“怠惰”のダッソーだ』 「ダッソー?そんなの関係ない。アンタをぶっ飛ばして世界の崩壊を止めるのみ!」 「ふーん・・・ずいぶんカッコいいこというじゃん? だけど、できるかな?」 そう言い終えると、急にダッソーが先手を取って動いた! (速いっ!?) ダッソーとメーグル達の距離は約5mは離れていたハズ・・・その距離をダッソーは一気に縮めたのだ 『はああああーっ!』 ダッソーはメーグルに向かって掌底を繰り出す (!?) 少し反応が遅れたものの、メーグルは自分の顔面及び胸部を狙ってくるであろうダッソーの掌底を防ぐべくしっかりとガード体勢を取る (よしっ!間に合った!) メーグルの見立てでは、ダッソーの掌底より速く、ガードを固めたつもりだった しかし、メーグルの腹部を鈍い痛みが襲った 「ケホッ!?」 ガクッ!! 不意に襲った腹部の痛みに耐えかね、メーグルは膝を折り、地に足をつく そしてさらに折り曲げた身体を強制的に真っ直ぐにするかのように、ダッソーはメーグルの顔面を蹴り上げた! ドサッ!! ダッソーに蹴り上げられ、メーグルの身体は宙に舞った後、地面に叩きつけられた 「メーグル!?」 ダッソーのまさかの早業に、つい、サキも驚嘆の声を上げた サキの叫び声を聞いたダッソーは即座にサキに狙いを定め、襲いかかる (メーグルのようにはいかないよ!) 先程のメーグルへの一連の動作を見ていたサキはしっかりとガードを固め、迎撃態勢を取る・・・が、 ビュン!! まるで風を切る音が聞こえてきそうなくらいの猛スピードでダッソーはサキに向かってくる! (えっ!?) ダッソーの接近するスピードが想像以上だったので、サキは迎撃のタイミングを崩されてしまう 『はああああーっ!』 ダッソーはメーグルの時と同様、サキに向かって掌底を繰り出す (ガード!) 迎撃のタイミングを外されたサキは攻撃を棄て、防御一本に神経を注ぐ だが、そんな努力を嘲笑うかの如く、ダッソーの掌底はサキの胸板を貫いた 「うっ!」 胸を打たれたショックで瞬間的に呼吸困難に陥ったサキはガードを下げてしまった そこへ再度鋭く踏み込んだダッソーの掌底突きがサキの顔面を捉える バシィィィ!! 「ムグッ!?」 ドサッ!! 強烈な一撃を顔面にもらったサキは背中を地面に打ちつけ、ひっくり返ってしまった 「サキ!?」 メーグルに続いてサキまでもがあっさりと一撃で倒され、一同の驚きの色は隠せなかった まだ訓練されていない新兵卒ならいざ知らず、メーグルとサキは弱冠とはいえ、秘密組織『EXーZYX』で幾つもの場数を踏んだ強者・・・ それがここまで子供扱いされるとは想像できなかったからだ メーグル、サキと倒したダッソーは辺りを見回し、獲物を狙う 次なる獲物は・・・ 「マイミン!しっかりしてっ!」 相方・マイミンの介抱で周囲が見えなくなっているエリカンだ ダッソーはエリカンの方へと振り向くと、彼女に照準を定めた 「エリカンッ!後ろ!後ろ!」 モモがありったけの大声をあげて叫ぶ 「何よっ!?こっちだって忙しい・・・?」 少しキレ気味に振り返ったエリカンではあったが、ダッソーの醸し出す異様な雰囲気に気付き、マイミンの手当てをやめ、即座に身構えた だが、またしてもそんなエリカンの行動を嘲笑うかのようにダッソーは一瞬でエリカンとの間合いを詰め、射程圏内に捉えた 「避けてっ!」 モモが必死に叫ぶ しかし、すでにダッソーの掌底は後ろへ引き絞られていた 後は弓につがえた矢を放つように掌を前に突き出すのみ・・・ そして、充分に力を蓄えた掌がエリカンに向けて放たれた! バシィィィ!! 『!?』 スピード、タイミング・・・ダッソーの掌底突きの威力は申し分なかったハズ だが、目の前のエリカンは掌底を受けたハズなのに平然と立っている 『お前・・・』 「生憎、ウチの相方には指一本触れさせねぇよ!」 「マイミンッ!」 そう、エリカンがダッソーの強烈な掌底を受けたのではなく、すんでのところでマイミンがガードしていたのだ ダッソーとマイミンの2人が改めて対峙する 「さぁ、お楽しみはこれからだ!」 『フン!いい気になるな!まずはお前から片付けてやる!』 「面白ぇ!やれるもんならやってみな!」 マイミンの言葉を合図に2人の攻防が始まった 『これで片付ける!神速歩行『端歩法(たんぽぽ)』!』 いきなりダッソーが仕掛けた 離れた間合いのマイミンに対し、例の急加速であっという間に懐へと飛び込む 端歩法・・・その名の通り、端から端まで瞬間的に移動する神業、これこそがダッソーの攻守に渡る要なのだ そして懐へと飛び込んだダッソーはそこからあの爆発的な威力を誇る掌底突きを繰り出した 『もらっときな!神速拳『凄瞬撲(せいしゅんぼく)』!』 「その手は食わねえよ!」 ダッソーの掌底突きをマイミンはギリギリまで引きつけてから身体を横に流して躱す 「甘いぜ!」 突っ込みすぎたダッソーは無防備な側面をマイミンに晒してしまう その隙をマイミンは逃さなかった 「隙あり!」 ダッソーのがら空きになった横っ面にマイミンは拳を叩き込む 『ぐっ!?』 横っ面に不意討ちを食らったダッソーはそのまま前方によろけてしまう 「おらっ!」 ダッソーの突っ込んだ上半身をマイミンは顔面を思い切り蹴り上げようとする 『うおっ!?』 マイミンの次なる攻撃を察知したダッソーは顔面を蹴り上げられる前に上体を反らし、回避する と、同時に身体を地面に預け、マイミンの軸足を払いにかかる 「おっと!」 足を刈られまいとマイミンは軽く後ろに飛び退く しかし、その飛び退いた先にダッソーが攻撃を仕掛けた 『絡みつけ!『トラップバイン』!』 ダッソーが伸ばした手の先から植物の蔓が現れ、マイミンの足めがけてスルスルッと伸びていく 「のわっ!?」 ダッソーの予想外の攻撃にマイミンも予知出来ずに蔓に足を取られてしまった ドタッ!! 「痛っ!」 『さっきのお返しだよ!』 無様に転倒したマイミンを見下ろし、ダッソーはニヤリと笑った 「チッ・・・相変わらず一筋縄じゃいかねぇな」 “転んでもタダでは起きない”を地で行くようないやらしいダッソーにマイミンも毒づく 『お前がバカ正直なだけだよ・・・おっと、ただのバカだっけ?』 海千山千のダッソーは口でもマイミンに負けていない 毒に対してイヤミで返す 「なんだとこの野郎ぉ!」 ダッソーのイヤミにカチン!ときたのか、マイミンは自ら仕掛けていった やがてダッソーとマイミン、2人の拳が交錯した 「このチビ!頭叩いてもっとチビにすんぞ!」 『あ゙?なんだとこの貧乳が!もっとペチャパイにしてやろうか!』 口での応酬もさることながら、拳での応酬も熾烈を極めた 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」 『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!』 2人の手数はほぼ互角・・・僅かなミスが命取りになる、そんな息詰まる攻防が繰り広げられている そんな中、2人の様子を傍観していたメーグルがこっそり他のメンバーを集めてなにやら言伝てた 「ねぇ、みんな?今のうちに伝えておくわ あの2人の小競り合いはもうそろそろ決着がつくわ その終わった瞬間を一気に叩くわよ! みんなはなんとかダッソーを撹乱してちょうだい。あとはアタシがなんとかケリを着けるわ」 そう話しているうちに2人の応酬が不意に途切れた 「よしっ!かかれっ!」 メーグルの号令を合図に残りの6人による一斉攻撃が始まった 「それっ!」 先陣を切ってエリカンが弓につがえた氷の矢をダッソーに向けて放った ビュン!! 『おっと!コンニャロ!少しは休ませろ!』 少し息の切れたところを見計らって放ったエリカンの氷の矢は、惜しくもダッソーに躱される と、そこへいつの間にかダッソーの側面に回ったユウカリンとノッチが暗器を放つ 「えいっ!」 「いきまふっ!」 ユウカリンの苦無とノッチの五光手裏剣の乱れ撃ちがダッソーに夕立のように降り注ぐ 『ちぃぃっ!『端歩法』!』 カカカカッ!! トストストス!! ダッソーの逃れた後には2人の暗器が針山のように地面に突き刺さっていた 『おいっ!危ねぇよ!』 どこまで本気かダッソーはユウカリンやノッチに対しても毒づく が、5人の攻めは途切れない 「追いかけろ!忍法・『蛍火』!」 モモの火の術がゆらゆらと宙を舞いながらダッソーに降りかかる 『ええいっ!鬱陶しい!』 ここでもダッソーは追尾する火の粉から逃れるべく『端歩法』を使ってその場から離れていく しかし、そこにまさかの落とし穴が待っていた 「引っかかりましたね!ともいき流忍法・『咲色帆布』!」 ダッソーは上半身への攻撃を気にするばかり、足元への警戒がかなり疎かになっていた そればかりか、エリカンから始まった波状攻撃の真の狙いはモリティの仕掛けた罠に誘導することだとはダッソーは気付いていなかった そして、ダッソーがモリティが前もって仕掛けておいた布地の上に足を踏み入れてしまった瞬間、 布地を思いっ切り引っ張られ、地面という名のキャンバスに強かに身体を打ちつける 『イテッ!』 「トドメッ!必殺『死身食(しみはむ)』!」 背中から落ちたダッソーにトドメとばかりにサキが飛びかかり、愛用の錫杖でダッソーの身体を穿とうとする 『くっ・・・!』 足元の布地に足を取られ、『端歩法』による脱出もままならない ダッソーの取れる選択肢はただひとつ、サキの錫杖を見切ってあわよくば回避、最悪でも防御してダメージを最小限に抑えること 『見切ってやる!』 錫杖の先をしっかりと見据えて見極めんとするダッソーであったが、思いがけない一手を食ってしまう 「拘束せよ!『絲躬鎖忌(しみさき)』!」 なんと、サキの錫杖がバラバラにほどけ、鎖分銅のようになってダッソーの身体にまとわりつく! 『く、くそー!』 サキの思いがけない一手に歯噛みするダッソー そのダッソーにとって不幸中の幸いだったのは、サキの攻撃が致命傷になるものではなかった点だ しかし、かといってサキに身体の自由を奪われ、圧倒的不利な状況には変わりない ただやられるのが早いか遅いかだけの違い・・・そんな状況と自覚しているからこそダッソーは苛立ったのだ と、そこへ事態が急展開する出来事が起きた 「マヤザック!覚悟!」 いつの間にかダッソーの背後にメーグルが回り込んでいたのだ 『しまった!』 ダッソーは己の危機感知能力のなさを嘆いた いくら攻め込まれていたとはいえ、最も警戒すべき相手の司令塔、メーグルをフリーにしてしまっていたのだ 背後を取ったメーグルは何をするかと思いきや、突然ダッソーに抱きついたではないか? 『な、何だ?』 唐突すぎて戸惑うダッソー だが、程なくして、メーグルの真の狙いをその身でもって体感することとなる 「アタシはあらゆる液体を自由自在に操る能力を持ってる・・・それは体内の血液も同じ では、もし、この体勢からアタシの身体中の血液を膨張させたらどうなると思う?」 『まさか・・・?』 「そう、そのまさか・・・よ」 メキメキメキ・・・ ダッソーの身体中の骨という骨が軋む 『ぐわぁっ!』 少しでも気を抜けばそのまま締め潰されそうなくらいの圧力が、ダッソーの腕に、背骨に、肋骨にかかってくる 肋骨を締め付けられ、肺が圧迫されて徐々に呼吸するのが困難になってくる・・・次第に意識が朦朧としてくる そんな時だ 「ダッソー!もう降参しなさい!さもないとこのまま締め上げるわよ!」 ダッソーの耳元でメーグルが叫ぶ 意識が朦朧としていたダッソーにとって、メーグルの叫び声は却って“気付け”になってしまった なんという運命の悪戯か・・・ (あ、危ない・・・意識が飛びそうだった・・・) しかし、それでもメーグルに万力のような力で全身を締め付けられている現状は圧倒的不利と言わざるを得ない いや、むしろ地獄のような苦しみが長引いてしまった不運、とも言える だが、自分が目を覚ましたことが幸か不幸かを考える前に、ダッソーはこの状況を打破すべく頭をフル回転させる (よく考えろ・・・何故メーグルはオイラに降参を迫る? 何故、こんな回りくどいやり方をするんだ? 何故、メーグル達はオイラが転んだ時点でトドメを刺さなかった?) ダッソーの頭に数々の疑問が浮かんでいき、やがてそれらがある“確証”へと変わっていく (そうか・・・!) メーグルが回りくどいやり方をしてまでダッソーに降伏を迫る理由、それは・・・? 『メ、メーグル・・・苦しいよ・・・』 弱々しくかすれた声でメーグルに苦痛を訴えるダッソー すると、ほんの僅かではあったが、メーグルの“圧力”が弛んだ (・・・ビンゴ!) ダッソーは苦悶の表情を浮かべつつもほくそ笑んだ 冷静沈着にみえるメーグルがたった一言で動揺している・・・ それを確信したダッソーはさらに揺さぶりをかけた 『た、助けて・・・メーグル・・・』 今にも消え入りそうな声でダッソーが哀願する すると、先程以上にメーグルの“圧力”に弛みがあった (かかった!) チャンスとみたダッソーは身体中に樹木の蔓を張り巡らせ、密着した身体と身体に隙間を作った 「あっ!」 メーグルが気付いた時には時すでに遅し・・・ダッソーはメーグルの万力のような締め付けから脱出したのだ と、同時にダッソーは振り向きざまにメーグルの顔に何かを装着した! 「ぐわあああーっ!?」 メーグルの顔面に、頭部に、耐え難い激痛が走る! 「ぐわあああーっ!!」 メーグルの悲鳴は尚も続く 「メーグルッ!?」 異変を察知したマイミン達が駆けつけようとしたが、それより早く、メーグルは地面に折り伏した 「てめぇ!メーグルに何をした!?」 激昂したマイミンの怒号が響き渡る その迫力は傍にいたエリカンやサキも思わずビクついてしまうほどだ しかしダッソーは激昂するマイミンを目の前にしても涼しい顔だ 『何って?知りたけりゃ自分で確かめりゃいいじゃん?』 「てめぇ・・・!」 平然と言ってのけるダッソーにマイミンの怒りは早くも最高潮に達そうとしていた 「マイミン!落ち着いて!」 「うるせぇ!」 なだめに入る相方・エリカンを振り払い、マイミンはダッソーに向かって遮二無二に突っ込んでいく 「ゴルァ!!」 ダッソーの『端歩法』とまではいかないものの、それでも常人離れしたスピードであっという間にダッソーに詰め寄り、拳を振り下ろす! ダッソーは反応出来ていなかった・・・マイミンの拳はダッソーの顔面を綺麗に撃ち抜くハズだった だが・・・ ガキィィィン!! マイミンの拳に伝わってきた感触は温かい肉のそれではなく、硬く冷たい金属の感触であった・・・ 「くっ・・・!」 想定外の感触と痛みに顔を歪めるマイミン・・・ そのマイミンとは対照的にダッソーは薄ら笑いで顔を歪めた 『悪いね・・・こんだけ大勢を相手するの大変だから、オイラも“助っ人”を使わせてもらうよ! メーグル・・・やっちまいな!』