〜四の塔【Gluttony】&五の塔【Wrath】〜 もはや廃墟と化してしまったハロモニアの街・・・ 薄曇りの灰色の空と瓦礫が相まって、その光景はまるでこの世の終わりの到来を告げているかのようであった 人々はこのまま手をこまねいて終焉の時を待つしかないのか・・・否! その“宿命”に抗う者逹がいた! 「ねぇ?ホントにコッチなの!?」 「うん!自信ある!コッチで間違いないで!」 「そう言うけどさ・・・いっつも『自信ある!』『自信ある』って言う割には当たった試しがないじゃん!?」 「そやけど・・・でも今回はホンマにメッチャ自信あるねん!」 瓦礫の街並みを駆けていく2人は『美勇団』のエローカとユイヤン 2人が先程まで言い争っていたのは、2人の“上司”であるリカサークの行方について、だった 昨日までは『魔導大会』の負傷が原因で安静していたのに、今日になって突如、マヤザックの下僕として現れたリカサーク・・・ 彼女の行方は街を取り囲む“封印の塔”に違いない しかし、街を取り囲む“封印の塔”の数は全部で6つ リカサークがどの塔に向かったのかはさっぱりわからないのだ 確率は1/6・・・だが、ユイヤンにはリカサークがどの塔に行ったのかがわかると言うのだ 「ねぇ?どうして此処だっていうの?」 ユイヤンの自信の根拠が解らず、エローカは首を傾げるばかり すると、ユイヤンは眼前の瓦礫の向こう側を指差す 「あっ!」 何かに気付き、感嘆の声をあげたエローカ。ユイヤンの指した先にあったもの、それは・・・ 「アタシの練習場・・・じゃない?」 「うん、そうや」 エローカの返事にユイヤンが頷く そう、2人にとっては見覚えのある、いつもの景色。2人のいる『輝く女神』が使用する屋外練習場なのだ 「なぁエロちゃん?よく昔から言うやろ?『犯人は必ず犯行現場に戻ってくる』ってな」 「・・・・・・ハァ」 あっけらかんとしたユイヤンの言葉にエローカは目眩がして頭を押さえた まさか相棒が、こんなにおバカだったなんて・・・信じたくない現実 「どう?ウチの推理は完璧やろ?」 エローカには、ユイヤンのまるで勝ち誇ったような顔がムカついて仕方がなかった 心の中で、『いつも来る場所やから今日も来る?そんな奴おらへんやろ!?往生しまっせ!』と思い切りシャウトしていた その言葉をユイヤンに浴びせかけようとしたその時、エローカは喉まで出かかった言葉を呑み込んだ 『アラ?こんなとこまで何しに来たの?』 聞こえてきた甲高い声に、2人の身体は反射的に強張ってしまう その声の主は・・・ 「た、た、た、た、隊長!?」 「ウ、ウ、ウ、ウ、ウソでしょ!?」 『ちょっと2人とも何よ!?人のことまるでバケモノみたいに言わないでよ!』 2人の上司、『美勇団』の隊長・リカサークであった まさか、こんなに早く出会すとは言い出しっぺのユイヤンも思っていなかったことであろう リカサークと遭遇した時の吃り具合がその証拠である 「ハァ〜、びっくりした・・・だって隊長って突然出てくるんですもん」 「ホンマびっくりさせんとってくださいよ〜!心臓に悪いですやん?」 知った顔につい、心安くなってしまう2人 だが、2人は一番肝心なことをすっかり忘れてしまっていた 『ホント、いつまで経っても2人ともおバカさんなんだから・・・』 微笑を浮かべて2人に近付いていくリカサーク そして2人との距離があと3mくらいになったその瞬間、リカサークが動いた! 『“バカは死ななきゃ治らない”ってね・・・だから死んでちょうだい!』 そう言うなりリカサークは腕を振り上げる! すると、土埃とともに棘だらけのムチが地面から姿を現し、2人に襲いかかる! ビュゥン!! バシィィィィ!! 「ぐぅ!?」 「痛ぅぅぅっ!?」 リカサークのムチが風を切り裂きながらエローカとユイヤンを激しく打ちつける! 『バカね・・・アタシがリカサークなワケないじゃない?』 ムチに打ち据えられ、うずくまる2人をリカサークが嘲笑する リカサークの言う通りである 今のリカサークはすでに邪神・マヤザックの下僕なのである 敵を目の前にして警戒を解いていたエローカとユイヤンの方がバカなのだ 「くそっ!」 「チキショー!」 悔しさで地面に拳を打ちつける2人 リカサークの嘲笑が余程悔しかったのか、すぐさま立ち上がると2人してリカサークを睨みつける そんな2人を 『アラやだ!そんな怖い顔しないでよ!』 と、軽くいなすリカサーク 「てめぇ!?」 それでもなお2人は激しくリカサークを睨み続ける するとそこへ、また別の声が聞こえてきた 『おっ?何してるんだYO?』 エローカとユイヤンが素早く後ろを振り返ると、そこには明るい笑顔を湛えた、知った顔があった 『YO!元気してたか?』 「ヨッシーノさん・・・」 またしても2人の目の前によく知る人物が現れたのだ 2人目の知った顔、ヨッシーノの登場に、先程まで怒り昂っていたエローカとユイヤンの感情が若干揺らいでしまった 無論、そんな隙を逃す程、リカサークとヨッシーノは甘くはなかった 『どこ見てんの?隙だらけじゃない?』 ビュン!! バシィィィィ!! 「うっ!?」 「ぎゃっ!?」 隙だらけの2人の背中にリカサークのムチが走る! 『おいおい、気を抜くんじゃねぇ!』 2人が怯んだところを今度はヨッシーノが強襲する! 『オラァ!』 強烈な飛び蹴りがエローカとユイヤンの身体を射抜く! ドスッ!! 「ゴホッ!」 「グエッ!」 蹴りの威力で後方に大きく弾き飛ばされ、2人はリカサークの足元まで転げていった 当然、リカサークも目の前の獲物を狩らない訳などなく、棘のムチで再びエローカとユイヤンを打ち据えた バシィィィィ!! バシィィィィ!! エローカとユイヤンが鎧を着用しているとはいえ、怒涛のラッシュを受けては心身ともに堪えるであろう しばらくすると、今までムチの嵐に悶絶していた2人が身動き一つしなくなった 『アラ?もう終わりなの?』 目の前に倒れている2人を、まるでゴミでも見ているかのようにリカサークは見下ろす 『・・・フン!』 あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべ、2人を踏みにじろうと近寄った、その時だ ヒュゥゥゥン!! ドスッ!! 『な・・・!』 歩みつつあるリカサークと、エローカ、ユイヤンとの間に突然、何かが天から降ってきたのだ! 『何よ・・・コレ?』 リカサークが地面に突き刺さっているものを目を凝らしてよくよく見てみると、それは見事な拵えをした槍であった もし、あと一歩気付くのが遅かったら、今頃リカサークは百舌鳥のはやにえの如く槍に貫かれ、串刺しになっていたことであろう 『チッ・・・!誰?誰なの!?』 今一歩足を踏み出そうとしていたリカサークは即座に足を引っ込め、同時に周囲に素早く目を走らせる すると、ちょうどリカサークの真横の位置するところに、数人の人影が見えた 『お・・・お前達は・・・!?』 見覚えのある人影・・・その面子に今度はリカサークが激しく動揺する 「もう・・・ホントにリカちゃんじゃなくなったのね・・・」 数人の人影の内の一人が声を震わせながら言った その振り絞るような、辛そうな声からリカサークと親しい仲だったことが窺い知れた 「ええ、残念だけど、そうみたいね」 辛そうにしている一人に、別の一人がポン!と肩を叩いて呟いた そしてまた別の一人が噛みしめるように言う 「じゃあ、アタシらの敵・・・ってことか?」 最後に人影の中のリーダーらしき者が締めくくった 「みんな、覚悟は出来てたんだろ?今、ウチらの目の前にいるのはもうリカサークでもヨッシーノでもない もはや只の悪党・・・いくよ!皆の衆!我ら『女流怨鬼念火』・・・これより修羅に入る!」 「「おう!」」 そう言うと、4人の人影『女流怨鬼念火』の面々はリカサークめがけて突進を開始した! 『女流怨…』のリーダー・サイトー=サンはリカサークめがけて移動しつつ、作戦の伝達を3人に向かって伝える 「みんな、いい?まずアタシとシバチャンとでリカちゃんをあの2人から引き剥がす! その間、マサヲとムラちゃんはヨッちゃんを相手しといて!」 「「了解!」」 「それと・・・アタシがリカちゃんを引きつけておくから、シバチャンは悪いけどその隙に2人を戦線から離脱させて!」 「うん、わかった・・・」 一方、迎え撃つ2人は『女流怨…』が突進してくるのを見て、急に態度を変えた 『なぁアングリ・・・めんどくさいからチャッチャとアイツらを始末しようぜ!』 『ええ、賛成よハングリ!』 そう言い終えるや否や、2人は『女流怨…』に向かって飛び出した 『オレの名は“暴食”のハングリ!オレにケンカを売ろうなんざ、10年早いんだよ!』 『同じくアタシの名は“憤怒”のアングリ!悪い子はたっぷりとお仕置きしてア・ゲ・ル♪』 「!・・・アイツらアタシ達とガチで殺り合おうってのかい!?」 ハングリとアングリ、2人の方針転換に少し驚きつつも、4人は武器を構え直して衝突に備えた 「「うおおおおーっ!」」 両者の中で、最初に動いたのはハングリだった 両手に魔力を集中させ、炎の球体を作り上げた 「ヤバい!みんな避けて!」 ハングリの大技に気付いたサイトー=サンが3人に警戒を呼びかける だが、ハングリの方が僅かに早く動いた 『喰らえ!『スピリット・オブ・エビル』!』 作り上げた炎の球体をハングリは思い切り蹴り上げる! ハングリのキックを受けた炎の球体は、そのキックの威力を増幅させ、前方へと大きく弾け跳んだ! 「マズイッ!全員、防御!」 「「ラジャ!」」 襲いかかるハングリの攻撃に対して、被害を最小限に抑えるべく防御を呼びかけるサイトー=サン しかし、ここで予想だにしない出来事が起きた! 「あ、あれ?」 手持ち無沙汰なことに気付くシバチャン 他の3人はそれぞれ戦斧・薙刀・大鎌を手にしているのに、自分だけ愛用の槍がない・・・ 「あっ!」 何か重要なことに初めて気付くシバチャン そう、リカサークめがけて槍を投げつけたのは、他ならぬシバチャンだったのだ! 「シバチャン!逃げて逃げて!」 「あ、あ、あ、アッー!!」 他の3人と違い、武器で防御体勢が取れなかったシバチャンはハングリの『スピリット・オブ・エビル』をモロに被弾してしまった・・・ 「「シバチャン!?」」 ハングリの攻撃を受け、炎上するシバチャンに目を奪われる3人 「きゃあああーっ!」 燃え盛る炎の中、悲鳴をあげるシバチャン その壮絶な光景に3人はしばし足を止めてしまう 『アラ?歴戦の強者が隙だらけじゃない?』 「「!!」」 やはりエローカ、ユイヤンの時同様、隙だらけの標的を逃す程ハングリとアングリは甘くはなかった 『そおれ!そおれ!』 アングリの振るうムチが情け容赦なく戦友を見つめる3人の身体を傷つけんとする! バシィィィ!! バシィィィ!! 乾いた炸裂音が辺りにこだまする 「ぎゃっ!?」 「イテッ!?」 突然襲いかかる激痛に悶絶し、悲鳴をあげる3人 それが却ってアングリのサディスティックな心を刺激したらしく、ムチを振るう手は緩むどころか激しさを増していく 『そおれ!そおれ!そおれ!そおれ!』 バシィィィ!! バシィィィ!! バシィィィ!! バシィィィ!! 「くっ・・・!」 「うう・・・」 エローカ、ユイヤンは倒れ、シバチャンは燃え盛り、3人はムチの嵐の前になすすべなし・・・ 屈強な精鋭といえど、手も足も出ずもはやこれまでか?と思われたその時、不意にアングリのムチが止まった ドゴォォォ!! ミシミシミシ・・・!! 『ゲフッ!?』 激しい衝突音と、まるでヒキガエルが踏み潰されたようなうめき声が辺りに響き渡った そして次の瞬間、 ドサッ!! 何かが倒れる音がした 『アングリ!?』 相方・アングリが倒れたのに気付いたハングリが慌てて傍に駆け寄ろうとする だが、またその次の瞬間、 ボゥ!! 『うわっ!熱っちい!』 駆けていたハングリの身体が、突然炎に包まれた! 駆け寄るのを止め、必死に消火活動をするハングリ 「ちょっと油断しすぎじゃない?」 『お前・・・!』 火を放った犯人とおぼしき者をハングリは睨みつける 「シ・・・シバチャン!?」 サイトー=サンが驚嘆の声をあげる 先程まで燃え盛る炎の中で悶絶していたハズのシバチャンが立っているのだ いや、それだけではなく、ハングリの油断を誘って一撃を加えたのだ 「ど、どうして!?」 驚く『女流怨…』の面々に、シバチャンが種明かしをする 「ヤダ、みんな忘れちゃったの?アタシの“火”の属性なら、あの程度の炎なんかじゃ黒コゲになんないよ!」 しかし、『女流怨…』の面々の反応は 「あ、そっか」 と、実にあっさりとしていた・・・ その、仲間の素っ気ない態度にシバチャンがカチン!ときた 「ちょっと!?『あ、そっか』じゃないわよ!アタシだって必死にやられてるフリしてたのに!」 言われた『女流怨…』の面々もやり返す 「なによ〜?そんな秘密があったんなら、さっさと言えばいいじゃない!?アタシ達、心配して損したでしょうが!?」 「そうだそうだ!」 すっかりハングリとアングリをそっちのけだ そして一方のハングリとアングリは、未だ地面に這いつくばっているアングリをハングリが介抱していた 『アングリ!しっかりしろ!』 すると、ようやく呼吸が整ったのか、アングリが口を開き、吐き捨てた 『ゲホッ!ゲホッ!・・・クソッ!アイツら騙しやがって・・・!』 『おい?アイツら・・・って誰なんだ!?』 アングリほどの強者が、敵からの不意討ちを喰らったことがハングリにとっては信じられなかった と、そこへ二つの影が見えた 「どうや?さんざ自分らがやってきた“不意討ち”のお味は?」 「リーダーのおかげで“死んだフリ”だけはすっかり上手くなったし」 『お前ら・・・』 ハングリが驚くのも無理はなかった 何故なら、ハングリの目の前に立っているのは倒れていたハズのエローカとユイヤンだったからだ 「あいにくアタシらは打たれ強さだけは天下一品でね♪」 「そうそう♪リーダーが“温室育ちのバラ”やったら、ウチらは踏まれても踏まれてもまた生えてくる“雑草”や!」 ハングリとアングリに対して作戦勝ちと言わんばかりに勝ち誇るエローカとユイヤン その2人の態度をハングリとアングリは苦々しく見つめる と、そこへ呼吸を整え終えた『女流怨…』の面々も合流する 「どうやら、勝負は振り出しに戻ったみたいね」 『女流怨…』の作戦参謀・ムラターメが戦局を冷静に分析すると、ヤジ将軍・マサエは 「いやいや♪頭数の分だけウチらの方が有利っしょ♪」 と、ハングリとアングリを前にして軽口を叩く すると先程まで沈黙を守っていたハングリとアングリが急に怒り狂う! 『おい・・・何が『頭数の分だけ有利』だぁ!? 身の程を知れよ、このタコ!』 『全く意気がってるんじゃないわよ! いいこと?アタシ達はエリート、あなた達は格下! それだけは天と地がひっくり返っても変わることのない“事実”! いいわ・・・“格の差”というのをその身体にきっちり叩き込んであげるわ!』 そう言い終えると、ハングリとアングリはその場から飛び退き、何かの準備に入った 『起動・・・開始!』 『スイッチ・・・オーバー!』 2人がなにやらポーズを取ると、突然、辺りの空気が一変したような感覚に陥る 「な・・・なんだ?これは?」 「おい!?何をした!?」 さすがは歴戦の猛者達、即座に異変をその肌で感じ取ったのだ だが、それでも面々は一番肝心な事・・・2人が一体何をしたのか?までは嗅ぎ取ることは出来なかった 結果、辺りに立ち込める異様な雰囲気とえもいわれぬ重圧に、やがて面々は焦りを感じ始めていた そしてエローカ、ユイヤン、『女流怨…』の面々が肌で異変を感じ取ったように、ハングリとアングリも面々の心理状況を感じ取っていた 『アラ?あなた達ビビってるじゃない?』 「「!?」」 急に出てきたアングリの“牽制球”に面々は少なからず動揺してしまう 『図星・・・みたいだな』 今度はハングリが静かに、そして重く呟く すると面々はやや気圧されたのか、沈黙してしまう それも致し方あるまい・・・元を質せばハングリとアングリの2人は元『暁の乙女』の隊長とエース 並々ならぬ修羅場を潜り抜けてきたこの2人の殺気と重圧は超一級品・・・ それを感じ取れないのはむしろ、戦士として半人前、と言わざるを得ない 睨み合う両者・・・そんな硬直した局面で面々は後に愕然たる“絶望”を味わうこととなる― 『いざ、発動!『愛の装甲機神・ゴッドハンド』!!』 『解放!『愛の装甲機神・アイアンメイデン』!!』 ハングリとアングリ、2人が同時に言葉を発すると、それまで見えなかった重圧の正体が具現化し始めた! まばゆい閃光に包まれ、2人の姿が徐々に変化を起こし、 その変化が止んだ時には2人の姿は今まで面々が見たこともないような格好になっていた 「な、なんじゃこりゃ!?」 気が動転したのか、サイトー=サンは意味不明の言葉を発していた ただ、サイトー=サン以外の面々も同じことを思っただろう ハングリは、両手両足に悪魔を思わせるような、ものごついグローブらしき装甲とブーツらしき装甲が新しく装着されていた そしてアングリは、身体の至るところにどす黒く、刺々しい植物の蔦のようなものが絡み、まとわりつかせているのだ 「あれが・・・『愛の装甲機神』・・・」 「「!?」」 『女流怨…』の知恵袋・ムラターメがうわ言のように呟くと、面々の表情が一気に強ばり、凍りついた 『暁の乙女』だけが装着為し得る奇跡の究極兵器・・・それを目の当たりにした衝撃と、その持ち主と対峙することの恐怖 それこそが面々が感じ取っていた目に見えぬ重圧の正体だったのだ 重圧と恐怖とで足を踏み出せずにいる面々に、ハングリとアングリは挑発するかのようにチョイチョイと手招きするではないか? 「クソッ!ナメやがって!」 「マサヲ!?」 2人の挑発に、『女流怨…』の鉄砲玉・マサエがボスの制止も聞かず、たまらず飛び出した 「うおおおおーっ!」 マサエの手にした得物は大鎌・・・見かけ通り細かな連撃には不向きだが、それを補って余りある一撃の重さがある つまり、大鎌は破壊力を重視し、機動力を犠牲にした武器と言えよう そのことはハングリ、アングリの2人も当然ながら気付いているハズだ で、あれば、マサエの突撃は避ければいいのに、何故か2人はその場を一歩も動こうともしない マサエに恐れをなしたか・・・いや、それだけはあるまい では、考えられるのはその場を動かずにマサエの攻撃を防御する方法があるのか、マサエを撃退する方法があるのか・・・ その両方だった 「死ねえっ!」 マサエの烈帛の気迫がこもった一撃がハングリとアングリめがけて振り下ろされた! だが、その大鎌が2人を傷つけることはなかった 「なにいっ!?」 見ると、マサエの大鎌はハングリのかざした手の上で停止しているのだ・・・それも、手を触れずに! 「な、何なんだよ!?」 マサエは目の前で起きている信じ難い“現実”を突きつけられ、絶叫する そんなマサエを嘲笑うかのように次の瞬間、ハングリは大鎌を受け止めた手を勢いよく上方へ突き上げた 「わわっ!?」 弾き飛ばした勢いもそのままに、マサエは大きく後方へと吹っ飛んでしまった 「マサヲ!?」 あっさりとやられてしまったマサエを見た面々が悲鳴をあげる 「うう・・・」 吹っ飛ばされた衝撃によって身体を地面に強かに打ちつけたマサエがうめき声をあげる 「こ、この野郎!」 すぐさま起き上がったマサエは再び2人に向かって突進する 『ムダだ・・・』 遮二無二になって立ち向かってくるマサエにハングリが冷やかに言い放つ 「うるせぇ!一発入れねーと気が済まねーんだよ!」 今、マサエを動かしているのは地面に打ちつけた身体よりも傷ついた“自尊心” 渾身の一撃を子供扱いされて、引き下がってはいられない・・・そんな気持ちだ 「うおおおおーっ!」 一撃目以上に気迫のこもった斬撃を振り下ろすマサエ しかし無情にも、その刃がハングリに触れることはなかった 『しつこいな!』 ハングリが飛びかかってきたマサエを追い払うかのように、前方に向けて掌を突き出す すると、またもマサエは見えない壁にぶつかったかのように身体ごと弾き飛ばされたのだ ドサッ・・・!! 「ぐわっ!?」 「マサヲ!?」 前回同様、いや、それ以上に派手に吹っ飛ばされたマサエを見た面々は次の瞬間、反射的にハングリとアングリに向かって突進していた 仲間がコケにされて黙っている訳にはいかない・・・その気持ちが面々を縛りつけていた重圧や恐怖に打ち克ったのだ 「今度はウチらが相手や!」 「覚悟しろ!」 自分自身を鼓舞するかのように、口々に雄叫びをあげながら一丸となって2人へ襲いかかる だが― 「ウラァッ!!」 ユイヤンが巨大鉄球をハングリめがけて投げつける 「もろたで!」 スピード、コントロールともに申し分ない一撃 しかし、そんな一撃もハングリはマサエの時と同様、易々と受け止めてしまったのだ 「ウソやんっ!?」 信じられない、と言わんばかりに悲鳴をあげるユイヤン 『それ、お返しだ!』 そう言うなり、ハングリは巨大鉄球を受け止めた手を前方へ押し戻す すると、まるで反発する磁石と磁石のように巨大鉄球は勢いよく弾け飛んだ ガキィィィィン!! 「ぐはっ!?」 幸いもう片方の手に装着していた盾のおかげでペチャンコになるのは免れたが、ユイヤンはガードの上からも強烈なダメージを受けてしまった 「ユイヤンッ!?」 後方へ弾け飛んだユイヤンに面々は一瞬、目を奪われてしまった 無論、その隙をハングリとアングリが逃す訳がない 『アラ?他所見なんかしてる余裕なんてあるの?』 「!?」 アングリの呟きに全員が我に返る その僅かな隙の生まれた瞬間にもアングリは攻撃を仕掛けてきた 『いけっ!』 アングリが前方に両手を突き出すと、それまでアングリの身体に絡みついていた刺々しい蔦がまるで蛇のごとく面々に襲いかかった! シュルルルルル・・・ ドスッ!! ドスッ!! ドスッ!! ドスッ!! 「うっ!?」 「ぎゃっ!?」 「ごふっ!?」 「うぼっ!?」 鋭利な蔦の先端が次々と4人の腹部を食い破るかのように強烈に穿った! 予期せぬまさかの攻撃に4人は鈍い痛みと呼吸困難に襲われ、身体を「く」の字に折り曲げたのだった 「ううう・・・」 なかなか起き上がれないでいる6人を見下ろし、ハングリとアングリは痛烈な罵声を浴びせた 『おいおい、これで終わりか・・・威勢がいいのは口だけだな』 『ホント、呆れるわ・・・こんな役立たずしかいないなんて・・・』 『ま、オレ達には敵いっこない、ってのがわかっただろ?』 『じゃあ、もう死んでもらおうかしら?』 攻撃は通用せず、激痛に悶絶し、罵倒される・・・戦士として、これ以上の屈辱はない 「ク・・・クソッ!」 「チキショー・・・!」 6人は今すぐにでもハングリとアングリをぶん殴ってやりたい気持ちで一杯だが、悲しいかな、身体が言うことを聞かない 『あん?悔しいか、オイ?』 マサエの頭を爪先で小突くハングリ 『明らかに練習不足ね・・・自業自得よ』 ユイヤンの目の前に唾を吐きかけるアングリ 見せつけられた「格の差」、それを乗り越えられない不甲斐ない「自分自身」・・・ そのあまりの悔しさに、2人は嗚咽しそうになっていた 『ケッ!弱すぎるんだよ!準備運動にもなりゃしねぇ!』 ハングリの心ない言葉が面々の心を更に激しく抉る その言葉の暴力に心までもが折れそうになる 『さて、お別れの時間だ』 『そうね・・・もうタイムアップだわ』 心身ともに弱り果てた6人にトドメを刺すべく準備に取りかかるハングリとアングリ 『ハアァァァ・・・』 『フウゥゥゥ・・・』 2人が息吹をするごとに大気と大地が震える それだけで2人が次に繰り出す技が如何に大技かが容易に窺い知れた 地べたに這いつくばりながらも必死にもがく6人 しかし無情にも、6人が回復する前に“処刑執行”の時間が訪れてしまった・・・ 『終わりだよ!』 『死ね!』 未だ地べたに這いつくばる6人にトドメを刺すべくハングリとアングリが魔力を湛えた両腕を振り上げる! 言うなれば、2人の両腕が振り下ろす行為はさながら断頭台・ギロチンである もし、このまま2人が一気に腕を振り下ろしたなら、6人の生命は刃にかかって一瞬にして露と消えることだろう だが、待てど暮らせど2人の両腕が下りてこない 6人を虐め足りず、まだじわりじわりといたぶるつもりなのか? 否、2人は動けないでいた・・・ある“存在”を目にした瞬間に― 「ずいぶんと、趣味が悪いのね」 淡々としていて、どことなくクールな物言い 6人にとっては聞き覚えのある、頼りになる仲間の声・・・ そして、ハングリとアングリにとっては、最も苦々しい存在、目の上のたんこぶ・・・ 「ゴ・・・ゴッちん・・・」 “地獄で仏”とはまさにこのことか、面々の前に姿を現したのは、元『暁の乙女』の中でも“最強”との呼び名の高いゴトーだった 「あなた達がここにいるのが、なんとなくわかったの・・・ あなた達が邪神の手先になった今、かつての仲間であるアタシの手でケリをつけるのがせめてもの手向け・・・」 そう静かに言い放つと、ゴトーは腰に帯びた剣をすらりと抜いた 「かかってきなさい!全身全霊でもって、撃ち破ってみせる!」