集合の中心にいるユイヤンに向かってサイトー=サンがやぶからぼうに
「ねぇ、何か気付いたんじゃない?」
と、尋ねてみる
「ハイ・・・なんとなくですが、アングリは接近戦が苦手かと・・・」
サイトー=サンの問いかけに、ユイヤンは自分がアングリから感じた疑問点を口にした
その答えにサイトー=サンは黙って頷く
そして代わりに、“参謀”ムラターメが口を開く
「そうね、多分アングリは接近戦はあまり得意じゃない
ユイヤンを剥がした時の動作がぎこちなかったし、そして何より・・・」
「何より?」
ユイヤンの傍にいたエローカが答えを催促する
「あの触手・・・武器の構造上、懐に入られるとあまり威力を発揮しないみたいわね」
「!!」
ムラターメの言葉に、ユイヤンとエローカの二人が感じていた疑問点がスーッと消えていった
『女流怨…』の面々がアングリに四方から一斉に襲いかかった時、アングリは触手を駆使して懐に入られる前に見事に撃破した
だが、エローカに不意を突かれた時はそれが全くと言っていいほど機能しなかった
つまり、ムチのような形状の触手が武器としての威力を発揮するのは先端部分であって、根っこ部分ではそれが期待できない
と、なれば、最長10mはあろうかという触手の迎撃稼働範囲は先端部分の±5mぐらいではないか?と推測できた


「だったら勝ち目はありそうだな・・・」
6人の指揮役を務めるサイトー=サンが呟く
その言葉を待っていたかのようにムラターメが口を開いた
「そこで、一つ作戦があります」
「何?」
「アングリには、四方に散らばるのではなく、ひとかたまりになって突撃しましょう」
その提案に、マサエが待ったをかける
「それって、不味くない?だってひとかたまりで突撃なんかしたら『狙い撃ちして下さい』って言ってるようなもんだぜ?」
マサエの意見にシバチャンも同調する
「そうよ!わざわざ無駄死にするようなもんでしょ?」
その二人の意見をムラターメがバッサリと切り捨てた
「確かに狙い撃ちされやすいわね・・・
でも考えてよ。たった1人だけでもアングリの懐に潜り込めればいいのよ
ということは、ここにいる5人が捨て駒になって残りの1人を生かせばいい
5人が身体を張れば出来ない話じゃないハズ」
「!・・・なるほど・・・」
ムラターメの反論に、疑問を投じたマサエとシバチャンも納得する
その2人が了解したことで、サイトー=サンやエローカ、ユイヤンも黙って頷いた
「じゃあ、決まりね」
持論が成立し、満足そうな笑みを浮かべたムラターメにサイトー=サンが大事なことを告げた
「そこで、問題は誰が捨て役駒になるか?・・・だな」


「そっか・・・忘れてた」
サイトー=サンの言葉にシバチャンがポツリと呟いた
誰が捨て駒役を買って出るのか、誰が最後の1人になる、そこが問題なのだ
正直なところ、下手すれば生命を落としかねない危険な役回り・・・
そんな危険な役を自ら進んで買って出る者はいない、と誰もが思っていた
だが・・・
「ウチが、やります」
全員の視線が声の主に集中した
声の主は・・・ユイヤンだった
「その役、ウチがやります!さっきまで、皆さんの足引っ張ってきたし・・・」
その言葉を聞いたサイトー=サンが待ったをかける
「ちょっと待って!そんな後ろめたいから、って理由だけじゃやらない方がマシだよ!
そんな甘っちょろい考えじゃ・・・」
「大丈夫です!」
“大先輩”サイトー=サンの言葉をユイヤンが遮る
「そんなんじゃありません!ウチならもう大丈夫です!それに・・・ウチなら“コレ”がありますから!」
そう言ってユイヤンはあるものをサイトー=サンの目の前に突きつけた
「それは・・・」
目の当たりにしたサイトー=サンは、そこでようやくユイヤンの言葉が単に後ろめたさから出た発言ではなく、
本気で勝利を狙うがための発言であることに気付いた


「わかった。じゃあ、まずはユイヤンだな」
ユイヤンの名乗りがただの思いつきではなく、勝算のある決断と気付いたサイトー=サンはユイヤンを改めて斬り込み役に任命した
「あとは・・・」
残りの斬り込み役の名乗り出を待っていたサイトー=サンに、ムラターメが手をあげた
「アタシもやります・・・言い出しっぺですから」
続いてマサエも手をあげる
「アタシもどちらかっつーとトドメより斬り込み役向きだからなぁ〜」
2人の名乗り出にサイトー=サンも応えた
「じゃあアタシも斬り込み役に回るとするよ」
この時点で斬り込み役5人の内、4人が決定した
残るはあと1人・・・シバチャンかエローカか・・・

「あの・・・!」
いつになく神妙な顔つきでエローカが挙手した
「アタシに・・・リーダーを殺らせてもらえませんか?」
「エロちゃん・・・」
「アタシが皆さんよりキャリアが少ないとか実力が劣るのは承知の上です
でも、アタシ達が一番長くリーダーと一緒にいたから、倒せるならきっとアタシ達だと思うんです!」
先程のユイヤンの名乗り出とは打って変わって、エローカの名乗り出は勝算の根拠に乏しく、ただの根性論に近いものがある
そんな名乗り出に、シバチャンが首を縦に振るのか?


「それだけは・・・譲れないよ!」
シバチャンの導き出した答えは“NO”だった
「そう・・・ですよね」
そう言うと、エローカはガックリと肩を落とす
やはりシバチャンにも、エローカ同様、アングリと化したリカサークには深い繋がりがあるのだ
それは“親友”としての絆
片や『暁の乙女』の即戦力として、片やハロモニアに新兵卒として入隊した2人ではあったが、
ともに人見知りな性格だったため、入隊してしばらくは友人が出来ず終いであった
そんな2人がひょんなことから意気投合して、今では無二の親友にまでなったのである
だからシバチャンがアングリを討ち取る権利を主張するのも当然である
だが、エローカにもかつての上司への恩返ししたいという気持ちも多分にある
互いに譲れない想いがぶつかり合い、両者とも退くつもりはないようだ
しかし、その睨み合いも意外な形で終焉を迎えた

『アタシを無視するなんて、ずいぶんと舐めたマネをしてくれるわね!』
持ち直した6人同様、アングリも当然ながら体力を回復していたのだ
だが、6人と決定的な違いは、アングリは既に攻撃体勢に入っていたのだ
そして驚く6人を尻目にいきなり攻撃をぶちかましたのだ!


『今度こそ、死ぬがいい!喰らえっ!『クレナイの季節』!!』
先程と同様、限界まで捩った身体の反動を利用して、アングリが高速回転を始め、その身を巨大な独楽と化した
その様を見たサイトー=サンが
「いい?みんな落ち着いて!さっきと同じだから慌てないで!」
と、声をかけた
この一言により、アングリの急襲に慌てた6人も落ち着きを取り戻す
が、そんなサイトー=サンの行為を嘲笑うかのようにアングリは新たなる攻撃を仕掛けてきた!

『浅はかね!ムダな抵抗だってこと、思い知らせてあげるわ!』
アングリがそう宣告すると、辺りの視界が急に悪くなり始めた
「クソッ!こしゃくな!」
「ボスッ!砂煙で前が見えないっ!」
そう、アングリが取った行動・・・それは高速回転を利用して触手で地面を抉り、砂塵を舞い上がらせたのだ
『アハハハハ!行くわよ!』
視界が十分狭くなったのを見計らってアングリが動いた
「来るっ!」
急ぎ防御体勢に入った6人だったが、そんなこともお構い無しにアングリは攻めてくる
ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!!
「痛っ!」
「ぐっ!?」
触手が空を切り裂き、風の刃を撒き散らしていく
それが次々と6人に襲いかかったのだ


触手から発生した真空波に6人がひるんでいる隙に、アングリ本体がいよいよ突撃にかかる
『アハハハハ!バラバラになっちゃえ!』
今のアングリは言うなれば高速回転するミキサーの刃かスクリューの状態
もし、巻き込まれでもしたら生命が危ういことが容易に窺い知れた
そうなだけに、ここはなんとか直撃だけは避けねばならない
「みんな!散開!」
今は耐え凌ぐ時・・・そう感じた6人は互いの無事を祈りつつ、バラバラに散った

空を切り裂く唸りをあげ、アングリが不規則に動きながら辺り一面を駆け巡る
砂煙で視界が悪い中、6人はなんとかアングリとの接触を凌いでいく
6人にとって不幸中の幸いだったのは、アングリが高速回転することによって砂塵が舞い上がり視界が狭まったが、
逆に高速回転によって生まれる唸りや風で肉眼では捉え辛いアングリの大まかな位置を、耳で、肌で感じ取ることが出来たのだ
しかし、6人は焦っていた
視界の悪い中、いつアングリに突撃すればいいのか、そのタイミングが図れないでいたのだ
下手に攻め込めば、真空波や触手の餌食となりかねない・・・そんなリスクもある
そんな中、突然転機が訪れた


「ん・・・?」
アングリから逃げ回り、息を潜めていたムラターメはふと、何かの匂いを嗅ぎ取った
「これは・・・?」
その匂いの元をたどり、おもむろに頭上を見上げてみる
そこにはモウモウと立ち込める黒い雨雲があった
「これだ・・・!」
ムラターメは呟いた
「これならいける!」
未だ砂煙が辺りに立ち込める中、ムラターメは手にした薙刀をビュンビュンと振り回し辺りを飛び跳ねる
一見すると何の意味もない奇怪な行動であったが、これが後に思わぬ天恵をもたらすこととなる

一方、散り散りになった6人の行方を捜していたアングリであったが、
どこからともなく聞こえてくる風切り音を聞きつけ、音源に向かって真空波を乱射する
『そこかあぁぁぁーっ!』
シュバッ!! シュバッ!! シュバッ!!
当たれば致命傷にもなりかねない風の刃がムラターメに襲いかかる!
そのうちの一つがムラターメの足をかすめる
「痛っ!」
危険を承知での行動ではあったが、予期せぬ痛みにムラターメは顔を歪める
しかし、それでも一連の行動を止めることはなかった
『くたばれぇぇぇぇーっ!』
ムラターメを撃つべく真空波の第二波を放とうとしたアングリではあったが、急にその手を止めた
その訳は・・・


ポツ・・・ ポツ・・・
『ん?』
露になった肌に、冷たい雨粒が滴り落ちる
その感触に気付いたアングリはすぐさま頭上を見上げた
『・・・雨!?』
突然降り出した雨に、アングリは顔を歪めた
その訳は・・・

「おおっ!?」
雨脚が早くなるにつれ、今まで砂煙で見通しの悪かった視界が急に開けてきたのだ
アングリにとっては大きなアドバンテージだった視界の悪さがこの天恵によって台無しになってしまった
ただ、これは偶然によるものではない・・・一人の“勇者”によって引き起こされた事象なのだ
「フフ、うまくいったわ・・・あなたのおかげよ。ありがとう、『村雨』・・・」
砂煙の晴れた中、愛おしそうに愛刀・『村雨』を抱き抱え、礼を言うムラターメの姿があった
そう、ムラターメは己の危険を顧みず、ただ勝利のために“雨乞いの舞い”を舞ったのである
そして対面に苦い顔をしたアングリの姿を捉えると、ここぞとばかりに叫んだ
「みんな!今よ!」
「!!」
棒立ちになったアングリの虚を突いて、痛めた足を庇うことなくムラターメが駆け出す
それに続いて蔽遮物に身を潜めていた5人も飛び出し、ムラターメに並走する
「ありがとう、ムラちゃん!」
「お礼は後よ・・・それより、ここからがホントの勝負だから!」


『てめぇ!小賢しいんだよ!』
触手を振り乱してアングリが真空波を乱射する
ところが、ここにも雨の影響が出てしまった
「見える!」
「ホントだ!」
普段は肉眼で捉えるのは不可能な真空波ではあったが、降りしきる雨の中ではその姿を隠せなかった
見えるのであれば躱すか防ぐかすれば良い・・・
そうやって6人は容易くアングリへと急接近してゆく!
『このおぉぉぉ!』
真空波が通用しないとみるや、アングリは苦し紛れに触手を前方に集中発射をする
だが、その瞬間を6人は待っていたのだ!
「ここはウチが!」
ユイヤンが自ら進み出て矢面に立つ
しかし、それは決して無謀な試みではなかった
キィン!! キィン!! キィン!! キィン!!
『な・・・!?』
次々と聞こえてくる不快な金属音にアングリは絶句した
まさか触手が全て弾かれるとは思ってもいなかったからだ
よく目を凝らして見ると、集団の中心を走るユイヤンの手には、鈍く光る重厚な盾が掲げられていた
「どや?こんなに分厚い盾は貫かれへんやろ!」
してやったりのユイヤンはこの戦いで初めて笑みを浮かべた
それは、自分達の勝利を確信したから―


『ふ・・・ふざけやがって!』
怒りの感情に任せてアングリは再度触手を6人に向けて発射する
先程よりスピードが速い・・・だが、直線的で見切れない訳ではない
盾を貫かんとする強烈な衝撃に備え、ユイヤンは両腕でしっかりと盾を支え、その場に踏み留まる
しかし、今回はアングリの方が一枚上手だった
ギュン!!
「な・・・!?」
目前まで一直線に突き進んできていた触手が、突然盾を迂回するようにパックリと真っ二つに裂けたのだ
そしてその両端は牙を剥き出しにして獲物を咬み砕かんとする肉食動物の顎のようですらあった
『ハッ!ザマーミロ!』
してやったり、の表情を浮かべたアングリは、触手が6人を咬み砕く瞬間を今か今かと待ちわびる
だが―
ガキィィィィン!!
『えっ・・・!?』
アングリは耳に飛び込んできたイヤな金属音に耳を疑った
そして、目の前の出来事に目を疑った
・・・が、その両方ともが紛れもない現実だった
「ふぅ・・・危機一髪、ってトコね」
「思考回路がリカちゃんそっくりで助かったわ。まさかこんなミエミエの手を使ってくるなんてね」
そこには、襲いくる“牙”を自慢の得物でガッチリとブロックしている『女流怨…』の姿があった
そして4人は長柄の得物に触手をガッチリと絡みつけ、すぐさまアングリが反撃出来ないように動きを封じ込めたのだ


アングリの動きを封じた『女流怨…』の4人が口々に叫ぶ
「今よ!」
「頼んだぜ!」
「任せたよ、お前らに・・・」
「トドメだ!」
4人の檄を原動力にして、ユイヤンとエローカの2人が無防備となったアングリに突進していく!
「うおおおおーっ!」
『ヒ、ヒィィィィッ!!』
2人の突進から逃れんと、必死に抵抗を試みるアングリではあったが、
『女流怨…』の4人掛かりの“押さえ込み”から逃れることは出来なかった

そして、最期の時を迎える
「どっせい!」
ガキィィィィン!!
『カハッ!?』
ユイヤンの盾ごとぶつかるぶちかましに、アングリの身体が悲鳴をあげる
その隙をエローカは逃さなかった
ユイヤンを踏み台にして空高く跳躍し、一気に急降下する!
「はあぁぁぁぁーっ!」
狙うはただ一点、アングリの“装甲”の胸に怪しく光る紅い結晶体・・・
それこそが“無敵”と言われる『愛の装甲機神』の唯一の急所なのだ
その事実をエローカはアングリと揉み合った際に発見したのだ
「たあ!」
寸分違わすエローカの十字槍が結晶体を射抜く
すると、カチッ!!という音を合図にアングリの身体にまとわりついていた触手はシュルシュル…と音を立てて本体へと戻っていき、
“装甲”は結晶体の中へとスーッと消えていった・・・


カツーン・・・ カラカラカラ・・・
ドサッ・・・!!
エローカの乾坤一擲の一撃により、『愛の装甲機神』の核はアングリの胸元からこぼれ落ち、
そして度重なる攻撃を受けたアングリはダメージに耐え切れず、終に崩れ落ちた

「よっしゃあっ!」
信頼した2人が見事アングリを討ち果たしたのを見て、サイトー=サンが快哉の声を上げた
「やったぜ!」
「さすが!」
そして他の『女流怨…』のメンバーも功労者の2人の元へ駆け寄っていく
2人は持てる力の全てを出し尽くしたのか、すっかりへたり込んで放心状態になっていた
「おい!?しっかりしろ!」
呆けている2人を『女流怨…』の面々がユサユサと揺さ振って正気に戻そうとする
「あ・・・」
「ウチら・・・」
激しく揺さ振られたことでようやく2人は正気に返った
そして―
「ユイヤン・・・」
「エロやん・・・」
エローカとユイヤンは互いの顔を見合わせ、どちらともなく抱き合って成し遂げた仕事の達成感を分かち合った

だが、その喜びも束の間、突如アングリの身体に異変が起きた!
全身から黒い霧が発生して、それがやがて何かの姿を形取り、具現化していった!
そして遂には額に鋭利な角を生やし、筋骨隆々とした一角獣の半獣人の姿へと変化した
これが“憤怒”のアングリの真の姿なのか?


「これが・・・アングリ・・・」
初めて目の当たりにする“邪神”の正体に、6人はしばし呆然と眺めていた
その6人とは対照的に、アングリは怒り狂っていた
『おのれ・・・よくもやってくれたな!』
怒りは当然であろう。何しろ誰もが恐怖する存在である“邪神”が、分身とはいえたった6人の戦士にしてやられたのだから
『お前ら如き虫ケラが我に楯突くとは・・・その罪の重さ、その身でもって思い知るがいい!』
そう吐き捨てると、怒り狂う荒ぶる邪神はその忌々しい邪魔者を睨みつけ、いきなり襲いかかった!
「うおっ!?」
邪神の先制攻撃に6人は虚を突かれながらも、手に手に得物を握り直して迎撃に備える
・・・が、相手は人馬の半獣人、そのスピードは人間とはケタ違いなのだ
『ぬぅん!』
アングリの拳が頭上から大きく振り下ろされる!
(速いっ!)
ガキィィィン!!
「ぐっ!?」
アングリの拳に反応して、すんでのところで防御したサイトー=サンであったが、その拳の重さに吹っ飛んでしまう
「このヤロー!」
アングリの動きを察知し、素早く背後に回ったマサエが寝首を掻かんと大鎌をその長い首めがけて振り下ろした!
「もらったあああーっ!」
だが―
ガキィィィン!!
「な・・・!?んなバカな!?」
マサエの大鎌は、なんとアングリの鋭利な角によって阻まれたのだ!


『舐めるなーっ!』
マサエの渾身の一撃を、アングリはなんと角一本だけで受け止めてみせた
それも筋骨隆々、半人半馬の強靭な肉体だからこそ可能な芸当であろう
『うおりゃあ!』
ガッ!!
「うぎゃあっ!?」
果たしてマサエの背後からの一撃を受け止めたアングリは、振り向き様に腕を振り抜き、マサエを後方へ大きく弾き飛ばした
そしてマサエを追撃することなく一向の集団へと突進していく
「!・・・そうか!」
何かを察知したシバチャンはひとり突進してくるアングリに立ち向かわんと駆け出した
「シバチャン!?」
まだ相手の能力を見極めない内から迎え撃つ、そのあまりにも無謀な単独行動にムラターメが制止の声をかける
だが、シバチャンは耳を貸さない
「シバチャン!?」
暴走するシバチャンをなんとか踏み止まられせようとムラターメは必死に叫ぶ
それでもシバチャンは言うことを聞かなかった
彼女には、アングリの狙いがわかっていたのだ
「ムラちゃん!ここはアタシが食い止めるから、リカちゃんを連れて・・・早く逃げて!」
「!?」
シバチャンに言われ、ムラターメもようやくアングリの狙いに気付き、急ぎエローカとユイヤンにリカサークを抱き抱えるよう指示する
「2人とも!逃げるわよ!」


言われるがままリカサークを抱き抱えると、エローカとユイヤンは急ぎハロモニア城の方へと駆け出した
そこまでなんとかたどり着ければ、傷ついたリカサークにまともな手当てを施すことも出来るであろう
そう思い、無我夢中で駆けていく
だがしかし、エローカとユイヤン、並走するムラターメの目の前を黒い影がよぎった
『お前ら、このオレから逃げ切れるとでも思っているのか?』
「!?」
あっという間にアングリが3人に追いつき、行く手を阻んだのだ
・・・と、いうことは
「ま、待てコノヤロー!・・・ヒィヒィ・・・」
3人とアングリの後方からシバチャンの怒鳴り声が聞こえてきた
どうやら、目の前に立ち塞がったはいいが、アングリにあっさりと抜き去られてしまったようだ
まだ追いつきそうにないシバチャンを尻目にアングリは言葉を続ける
『さあ・・・“ソイツ”を寄越してもらおうか!』
そう言うなり、アングリは3人に殴りかかる
無論3人もそうやすやすとやられるつもりはない
しかし、今まで酷使を続けてきた身体はもう限界を迎えていたのだ
「せいやっ!」
「はっ!」
「うおりゃっ!」
それぞれ手にした得物でアングリを叩き潰そうとするが、疲れ知らずのアングリには軽々と躱され、
挙げ句、ハンマーのような拳を叩きつけられるのであった


「うう・・・」
「クソッ・・・」
3人も付いていながらアングリたったひとりにあしらわれ、地べたに這いつくばらされ、3人は呻く
それでも大切な仲間のため、あるものは得物を杖に立ち上がろうとし、またあるものは地べたを這いながら戦友の元へたどり着かんとする
そんな3人には委細かまわずアングリはただ“標的”のリカサークへツカツカと歩み寄っていく
今のアングリの目には、必死に“抵抗”する3人の姿はただ地べたを這いずり回る虫ケラにすぎないのか?
そうこうしているうちに、アングリはもうリカサークのすぐ傍まで到達していた
そしてゆっくりと、リカサークの首元へと手をやった
そのまま首をへし折るつもりか・・・そう直感した面々は絶叫する
「やめろおぉぉぉーっ!」
だが、その願いも虚しく、終にアングリの手はリカサークの首にかけられた
「いやあぁぁぁーっ!」
絶望の悲鳴が辺り一帯にこだまする
その後、沈黙が訪れる

耐え難く、重々しい、沈黙―
その沈黙を破ったのが、他ならぬアングリであった
憎々しいまでの高笑いをしながら、こう叫んだ
『ハーッハハハハッ!これさえあれば・・・これさえあればっ!!』


「えっ!?」
一同はアングリのセリフに耳を疑った
『これさえあれば!』・・・このセリフは一体、何を意味するのか?
その答えが導き出されるまでそう時間はかからなかった
『この、『愛の装甲機神』さえあれば!オレは無敵だーっ!』
「「!!」」
まさかであった
アングリが欲していたもの、それはリカサークの生命ではなく、リカサークが持っていた『愛の装甲機神』だった
『愛の装甲機神』はあまりの強さにもはや伝説ともなったハロモニアの至宝―
もしそれがマヤザックの手に渡れば・・・?
今、目の前にいるアングリがそれを装着すれば・・・?
想像するのが恐ろしくなってしまう
そして今、その“暴挙”をアングリが行おうとしているのだ
「やめろ・・・やめろぉぉぉーっ!」
ユイヤンが懸命に叫ぶ
当然、アングリがその悲痛な叫びに耳を貸す訳などなく、恨めしそうに見上げるユイヤンの目の前で『愛の装甲機神』を装着して見せるのだった
カチッ・・・
『愛の装甲機神』を装着したアングリは次に“起動”のキーワードを高らかに叫ぶ
『解放!『愛の装甲機神・アイアンメイデン』!!』