アングリが起動のキーワードを叫んだ途端、『愛の装甲機神』の核がまばゆい光を放ち、辺りが昼間のように明るくなった
やがて、そのまばゆい光が収まると、そこには全身に禍々しいばかりの金属の蔦に覆われたアングリの姿があった
「あぁ・・・」
見事なまでに変身を遂げたアングリの姿に、ユイヤンをはじめ、皆うなだれた
そんな面々とは対照的に、アングリは変身を遂げた姿に満足していた
『フフフ・・・フハハハハ・・・ハーッハハハハ!
やったぞ!遂にやったぞ!手に入れた!究極の力を手に入れたぞ!』
新たなる力を手に入れたアングリはまるで勝利宣言をするかのように高笑いをする
そしてうなだれる面々を見て、鼻で笑った
『ん?どうしたお前達?さっきまでの元気はどうした?ん?悔しいのか?』
アングリがそう挑発するも、面々は悔しさと絶望のあまり、何も答えずに押し黙ったままであった
『フン・・・つまらんな!なら・・・もう死ぬがいい!』
その様子がつまらなかったのか、アングリはすっかり呆れ果て、そして終には新しく手に入れた力を試さんと動き出した
その手始めとしてすぐ傍にいたリカサークに狙いを定めた!
『まずは、お前からだ!』


リカサークに狙いをつけたアングリはゆっくりと歩を進め、すぐ傍まで近づいた
そしておもむろに両腕をあげ、何かを念じ始める
すると、身体中に絡みついていた金属の蔦が怪しく蠢き、やがてそれはアングリの両腕を巨大な棘付き鉄球へと変貌させた
もし、こんなものを思いっ切り振り下ろされたら一巻の終わり・・・そう予期させるには充分すぎる“凶器”であった
力及ばず、の面々はリカサークの最後の瞬間を直視出来ないのか、全員アングリから目を背けた
そんなことはお構い無しにアングリはいよいよその“鉄槌”を振り下ろさんとした
『それじゃあ・・・あばよ!』
そう言い終えると、頭上高くに掲げた“鉄槌”をリカサークに向けて一気に振り下ろす!
・・・ハズだった。だが―

シュルシュルシュルシュル・・・
ドシュッ!! ドシュッ!! ドシュッ!!
『・・・んな!?』
アングリの掲げた“鉄槌”が突如、謎の“空中分解”を起こし始め、“鉄槌”を象っていた金属の蔦は四方八方へと飛び散り、
その鋭く尖った先端が地中に深々と突き刺さってしまったのだ!
その状況を言葉で表現するなら、伸び切ったアングリの腕と身体を支柱にして、サーカスのテントが張られたような格好だ
そして、さらにこの状況からアングリの身体中に絡みついていた蔦も謎の“反乱”を起こしてしまう
アングリの身体に螺旋状にまとわりつき、やがてアングリの身体を一本の太い柱へと変化させてしまったのだ


『な・・・なんだコレは!?』
全く予期せぬ『愛の装甲機神』の反乱に、アングリが慌てふためく
狼狽えるアングリの絶叫を聞いて、先程まで目を伏せていた面々が再びアングリに視線を戻す
が、目の前の不可解な現象にただ目を白黒させるばかりだった
「何これ・・・?」
「どういう・・・ことなの?」
「・・・わかんない」
戸惑いを隠し切れない6人の耳に、聞き慣れた声が聞こえてきた
「みんな・・・今よ!」
少し弱々しい声だが、その声は皆を大いに勇気づけた
「・・・リカちゃん!」
そう、紛れもない、リカサークの声だった
リカサークが無事だった・・・元に戻った・・・
その喜びに皆が歓声をあげようとするが、それをリカサークが制した
「喜ぶのは後!今はコイツを粉砕するのが先決だから!」
そう言ってリカサークは身動きの取れないアングリを指差す
「おっと、いけねぇ!」
「そうだね、まずはコイツを始末しないとね!」
リカサークの言葉で少し冷静になった面々は先程とは一転、身動きの取れない無様なアングリの状態に舌舐めずりをする
その殺気に気付いたアングリが今、自分が置かれている現状に気付き、より一層慌てふためき出した
『おい!てめえ!オレに何しやがった!?ただじゃおかねえぞ?』
その見苦しい悲鳴とも言える絶叫に、リカサークは冷たく言い放つ
「あんたバカね・・・あんた如きに『愛の装甲機神』が操れるとでも思ったの?」


『なんだと!?』
リカサークにさらりと罵倒されたアングリは顔を真っ赤にして怒り狂う。が、リカサークは依然涼しい顔だ
それどころか、先程までアングリに罵倒され続けてきた皆の鬱憤を晴らすかのように、逆にアングリを罵倒し返す
「当たり前でしょ?『愛の装甲機神』はアタシ達ひとりひとりの特性に合わせて造られた“マスターピース(最高傑作)”なんだから!
それにあんた“男”でしょ!だったら“鉄の処女”なんて装着できるワケないじゃん?
ま、それをムリヤリ着用したあなたはさしずめ女装した変態さん、てトコかしら?」
リカサークに言われっ放しのアングリは今にも掴みかからん、というくらい怒りを露にしていた
そして一方で、リカサークの罵倒を聞いていたエローカとユイヤンは、毎日お説教されていた過去を思い出して苦笑いする
しかし、ここまでしゃべれるリカサークを見て、完全復活を感じたのも事実だ
やがてぐうの音も出ないアングリに飽きたのか、リカサークはアングリに逆処刑を言い渡した
「もう散々遊んだみたいだから思い残すことはないわね?もうお別れの時間だわ」
そして後ろをくるりと向き直ると、“親友”シバチャンにこう言った
「さ、お膳立ては済んだわ!後はさっきまでの鬱憤を思いっ切り晴らしちゃって!」


リカサークの突然の指名に、シバチャンはドギマギする
「え・・・?アタシ?」
面食らった格好のシバチャンに対して、リカサークは少し呆れるとともにシバチャンの尻を叩く
「そうよ!一番元気そうなシバチャンがやるべきじゃない?ここで決めとかないと、“英雄”にはなれないわよ!」
リカサークにここまでようやくシバチャンは決心をした
「わかった。アタシがやるわ!」
そう答えた後、シバチャンはすかさず『女流怨…』のメンバーの方を向いた
3人もシバチャンの考えを理解したようで、痛む身体にムチを打ってシバチャンの元へと集合する
そしてこの後、4人はにわかに信じ難いことをやってのけるのだ

「秘伝・『殺暴愚シバチャン』!」
シバチャンがとんちんかんな呪文を口にすると、手にした槍を天高く掲げる
するとシバチャンの周りを囲んでいた他の3人もそれに倣って手にした戦斧、大鎌、薙刀を天高く掲げた
すると、まばゆい閃光が走り、光の柱が天高く飛んでゆく
その僅か数秒後、そこに立っていたのは、全身を頑強な鎧に包み、巨大な刀を手に仁王立ちしているシバチャンの姿があった
「不味い飯屋と悪が栄えた試しなし!『殺暴愚シバチャン』・・・推参!」


「さ・・・さいぼうぐ?」
「シバチャンンン〜?」
『なんじゃそりゃあぁぁぁーっ!?』
突如変身したシバチャンに、敵味方なくツッコミが入った
当然である。一体、どこがどうなれば4人が1人になるのか?どう考えても数が合わないのである
すると、ツッコミを入れたエローカやユイヤン、アングリに対し、どこからともなく声が聞こえてきた
『説明しよう!『殺暴愚シバチャン』とは?』
『我ら『女流怨鬼念火』のメンバーが心を一つにして生まれる・・・』
『“究極の戦士”なのだ!』
「ひ、ひぃぃぃ〜っ!?」
「よ、鎧が・・・しゃべった!?」
驚くエローカとユイヤンをスルーしつつ、殺暴愚シバチャンは未だ動かないアングリに向かって、一歩、また一歩と歩を進めていく
『!?』
殺暴愚シバチャンがその歩みを進めるにつれ、アングリの身体から少しずつ汗が吹き出てきた
(まさか・・・このオレがコイツら如きに恐怖してるというのか!?)
徐々に訪れる“恐怖”から逃れるようなアングリはがんじがらめになったこの状況から、再度脱出を試みる
しかし、もがいてももがいても身動き一つままならない
いやむしろ、より強く締め付けられていくではないか?
最後の悪あがきとでもいうようなアングリの様に、冷たくリカサークが言った
「残念だけど、もがけばもがくほど深みに嵌まっていくわよ・・・どうかしら?『じゃじゃ馬ロデオ』のお味は?」


『クソォ!畜生!ほどけ!ほどきやがれ!このクソ野郎!クソがあぁぁぁっ!!』
完全に理性を失ったアングリの咆哮がやかましく辺りに響く
だが、今はそれもただ虚しく響くだけ・・・
叫んだところで現状が変わることは何一つないのだ
そして遂に、殺暴愚シバチャンがアングリのすぐ傍にまでたどり着いた
すると、極限状態にまで追い詰められたアングリはただひたすら殺暴愚シバチャンに情けなく哀願するのみであった
『なぁ・・・オレを殺す気か?おい?やめろよ・・・やめてくれよぉ・・・なぁ、助けてくれ!お願いだ!助けてくれよぉ!』
そんなアングリを殺暴愚シバチャンは憐れみの目で見つめるのみだった
シバチャンの背後からリカサークが声をかける
「シバチャン・・・そいつの弱点は、その額についた鋭い角よ!そいつをへし折ったらきっと消滅するわ!」
その無慈悲なまでの“密告”に、アングリが壊れてしまった
『てめえ!このクソがあぁぁぁ!恨んでやる!恨んでやるぅぅぅ!!』
その断末魔の声を遮るように、殺暴愚シバチャンが高々と大上段に振り上げた刀を恐ろしいまでのスピードで一気に振り抜いた!
『成敗!『刈首魔鬼霊(カリスマキレイ)』!!』


大上段から振り抜いた刀が寸分違わずアングリの角を真正面で捉え、その刀身が見事に角にめり込んでいく!
『やめろ!やめろ!やめろ!やめろやめろ!アッー!!』
刀身が少しずつ角を切り裂てゆき、それが根元まで到達すると、アングリは絶叫したまま、ピクリとも動かなくなった
そして全身の力が抜け、ぐったりすると、そのままアングリの身体が泡立ち始める
やがて身体中がドロドロとした液体へと変化し、そのままモウモウと煙を立てて蒸発していった

「やったああああっ!」
奇跡の大逆転勝利を収め、傍で見ていたエローカとユイヤンが大喜びする
「どうだ?見たか!」
「やったぜ!」
そこへアングリを倒して変身を解いた『女流怨…』の4人も加わって大はしゃぎする
最後に、その喜びの輪の中にリカサークが飛び込んでいった
「みんな、やるじゃない?」
全員が一丸になって勝ち取った勝利・・・幾度も、投げ出しそうになったり、くじけそうになったりした
だけど助け合う戦友がいて、己を信じ抜いた自分がいて、そして掴み取った勝利・・・
その勝利の味を、リカサークは、エローカは、ユイヤンは、『女流怨…』のみんなはしばしの間、噛みしめるのだった―